【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】   作:米ビーバー

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「ハァ……ハァ……ゼッ……ゼッ……」

 カランカランと地面に模擬弾が転がる。

三突の砲の高さに合わせた台の上に、砲弾を据えて拳で押し込む。


 これを10回1セット。それを繰り返す。回数にして実に6度。
三突の積載砲弾数54発分。その間装填を途切れさせないように。
それでも徐々に装填速度は落ちていく。最後は肩が上がらず、砲弾を持ち上げる動きものろますぎてどうしようもない程で―――

「―――ハ―――ハァ……ぁー……ぁぁー……」

 汗だくになりながら、精も根も尽き果てた状態で縁側に腰を下ろして仰向けに転がった。まだ理想には程遠い。

 あの装填を見てから、その姿が頭から離れない。


―――人知を超えていると言っていいあの速度、あの練度。


ちっぽけなその背中が、とても大きく、そして遠くに見えた。


―――あの場所まで追いつきたい。


―――あの境地まで至りたい。


―――私は“皇帝(カエサル)”だ。その名を戴き名乗っている以上、その責任を果たすべきだ。

 たとえ一時の恥を晒したとしても、己の名に恥じないように―――


「―――私を弟子にしてください」
「―――いや、無理」


―――断られた。



*******



「私のやり方は全く参考にならないから」
「そこを何とか!後生に!後生ですから!!」

 そう言ってきっぱりと断られた私だったが、そこで引き下がるようならカエサルなどと名乗ってはいない。米つきバッタもかくやと言ったペコペコ加減で全力で頭を下げてみせると向こうも明らかにたじろいだ様子を見せ始める。

「―――いや、でもなぁ……私の場合地力ありきなんだよ。パワーで無理くりに砲弾を持ち上げて、そのまま砲弾を持ち上げた勢いを殺さないようにして押し込んでいくだけなんで―――多分無理。っていうか不可能?」

 たどたどしくそう言って説明をしてくれるも、それで納得が行く私ではない。
だってそうだろう?目の前の少女はまるで子供と同じような華奢で可愛らしい姿をしているのに、私よりも力があるというのだから。
 そんな『納得が行きませぬ』という私の様子を見て、目の前の彼女は憮然とした態度で胸を張った。

「―――カエサルは、時速30㎞で走れる?」
「……は??―――あ、い、いいえ」

 時速30㎞となると100m走で12秒前後を出すタイムなのだが……瞬間でなら鍛えれば何とかなる……か……?

「垂直跳びで2m跳べる?」
「無理です」

一般的な高校生女子の平均値は40cm~50cmだ。

「ベンチプレスで150kg行ける?ダンベル何個持てる?」
「―――いや、あの……どこまで本当なんだ?」

思わず敬語を忘れていた。ちなみに150kgとなると専門の筋肉を作ったアスリートでも90kg程度の体重がないとおかしいとされる。筋肉密度の関係で最低でも85kg程度は科学的に考えて、なければ成立しない。

「ちなみに私は体重すくなめ、体脂肪率で言うと水に浮かばないレベルだ」
「何もかもがおかしい!!」

 思わずツッコミも入れるだろう。誰だってそうするはずだ。
そんな私の失礼な態度にも関せずうんうんそうだろうそうだろうと頷きを返してくる。

「だろう?私は自分がどうしてこんなパワーが出せるのか自分でもよくわかってない。ただ、子供のころからトレーニングは欠かしてないんで、凄いな人体って思ってるけど、それだけだ。そんでそのパワーを使って装填手としてやっていってる。教えることなんか何にもないんだよ。強いて言うなら―――効果的な身体の動きくらいか」

そう言って彼女は足元に転がった『Ⅲ号突撃砲用の砲弾』を片手で掴み

「―――ふっ」

 そのまま握力だけで支えて膂力のみで持ち上げ、流れるような動きで下から逆手を添えて肩まで引き上げて、目の前に在る『Ⅲ突の装填手の高さに合わせた台』にするりと叩き込んでいた。

「―――こんな感じで、足元にせよ、腰の高さの砲弾置きにせよ同じことでね?体重移動と力の移動でアレコレって感じ?詳しく説明するより身体で覚えたクチなんで、ね?参考にならないだろ?」
「―――はい」

 パッと見ただけで理解できるならば私は既に彼女の技術を体得しているだろう。理想としていたモノを本当の意味で手にするためにはまるで体力も筋力も足りないと言われ、流石に心が折れそうだった。

「正直なとこ、装填手で一番参考にできるとしたら―――桃ちゃんか、或いは秋山さんじゃないかな?でも、カエサルはカエサルのスタイルを貫くべきだと思う。今のままでも伸びしろはあるんだから、変に別の人のスタイルに合わせたら、成長できなくなると思うよ?」
「―――金言、有難くいただきました」

 柄にもなく焦っていたのだと、その時に気付いた。
きっと、あの子からのラインが原因なのだろう。



【 まほルート OVA 「 これが本当の安斎千代美(アンツィオ戦)―――です! 前編 」 】

 ――月――日

 

なんかカエサルに「弟子にしてください」とか言われました。

……なんで?(困惑)

とりあえず俺の装填とかどう考えてどう参考にしようと全く役に立たんだろうというのが俺の結論なんでお断りします(AA略)した。

「そこを何とか」と言われたんで―――とりあえず俺とカエサルのスペック差を理解させたうえで、一回装填を見せて現実をわからせてみた。

 

 

 ――月――日

 

 みぽりんとカバさんズのやり取りとか聞きたかったので一緒にシェアハウスにお邪魔しつつP40のデータを調査。

「 そ れ だ !! 」  に参加しました。

超たのしかったです!!!

 

――追記

 

 家に帰って調子乗ってたことを反省して小指の爪を軽くベリッておいた。

アンツィオが相手とは言え気を引き締めなきゃいかん時に俺余裕すぎるからね!是非もないね!

 

 

 

 ――月――日

 

 声を掛けようとしたがスルーされて落ち込んでいるねこにゃー嬢を発見。

がんばれねこにゃー殿。でもお前さんの出番まだなんだ、すまんな()

 

 本来の出番より前に登場を許してしまうと今後の方針に歪みが出る可能性がある。俺の存在とまぽりんのあの進化がすでに歪みを生じていると言える以上、これ以上歪んで本筋がズレきってしまうとみほエリに致命的な影響が出かねないのだ。涙を呑んでスルーしよう!

 

 申し訳ないねこにゃー殿!俺あとできちんと自責の念を込めてピロシキするから!!

 

 

 

 

 ********

 

 

 

 

『Panzer Vor!!』『Avanti!!!』

 

 

二者二様の掛け声で、戦場を駆ける二つの車輛団。

 

かたやイタリア戦車団、アンツィオ高校。

もう片方はごった煮連合軍、大洗女子学園。

 

 

 

 試合のスタートは、静かに始まった――――。

 

 

 

 

「―――アヒルさん、ウサギさんは両翼の偵察に出て下さい。他の車輛はあんこうと一緒に正面を進みます」

 

 みほの号令に合わせて全車輛が動く。みほの緊張した面持ちとは変わって、38tの中のエミは楽天的だった。

 

 エミにとってアンツィオ戦は“勝確”の勝負である。原作を知っているからこその態度でもあるが―――しかし、天翔エミは忘れていた。

 

 

 

 

―――アンツィオの「マカロニ作戦が失敗に終わった後、どのように進化したのか」を―――

 

 

 

 

『こちらアヒルさんチーム!十字路北側にセモヴェンテ2輛、カルロヴェローチェ3輛、すでに配置完了しています!!』

『こちらウサギさんチーム。街道南側に敵発見!カルロヴェローチェ4輛、セモヴェンテ2輛が陣取ってます!』

 

 斥候として先行した2輛からの報告を聞いたみほは、敵車輛の数が多いことに違和感を覚えた。

 

「これ、やっぱりエミりん先輩が言ってたやつじゃない?『さすまた作戦』とかそういうやつ!」

「墨俣作戦、ですね」

 

 武部沙織の言葉に即座に訂正を入れた秋山優花里がみほを見る。砲手の出番はまだ先なので五十鈴華も思案顔で何やら悩んでいるようだった。

 

「―――確かめるしかないかな。 アヒルさん、ウサギさん。機銃と砲撃で牽制をお願いします。ただし、交戦になるようなら逃げてください」

『『了解!!』』

 

 

 その後、アヒルさん、ウサギさんから「配置されている車輛はすべて書き割りの偽物だった」という報告が届き、みほは脳内でのマッピングを張り直して中央を前進する方針を固める。

 

そうして前進を始めた直後だった。

 

 

『こちらアヒルさん!街道北側からF24地点へ向かう途中の雑木林の中にセモヴェンテ1輛、カルロヴェローチェ3輛発見!!防御陣地を敷いてます!』

「えっ―――?!」

 

アヒルさんチームからの焦ったような声の報告と

 

『こちらウサギさん!A20地点で敵影発見!ですがまた書き割りでした!すみません!勝手に攻撃してしまって!!』

 

ウサギさんから沢梓の申し訳なさそうな声が響く。

 

『ああ、また書き割りなのか。よっし!サービスエース!!』

「!?待って!アヒルさん!!」

 

みほの制止の声より早く砲撃音が響き―――

 

 

『うわっっわわわわっっ!!?』『きゃぁぁぁ――――!?』

 

 

通信機から悲鳴が轟いた。

 

 

「アヒルさん!応答してくださいアヒルさん!!」

 

 

状況が読めないみほはⅣ号を茂み(ブッシュ)に停車させてスロートマイクに向かって呼びかけ続ける。

 ほどなくして『こちらアヒルさん!』と応答が返り、みほはほっと胸をなでおろした。

 

『すみません西住隊長。書き割りの豆戦車とセモヴェンテの向こう側に本物のセモヴェンテが―――直撃は避けましたけど戦車は見失いました』

 

アヒルさんからの報告を受けて、みほは相手の作戦を推理し、そして戦慄した―――!!もしもこの想定が本当であるならば―――

 

「ウサギさん!アヒルさん!もし敵戦車の姿を見かけたら壊したりしようとせずに迂回してください!見つからないように!!」

『アヒルさん了解!!』

『え!?は、はい!ウサギさん了か―――きゃぁぁーーーーーー!?』

 

応答を返しているウサギさんチームのほうから悲鳴が上がり、続けて響くバチバチという装甲を叩く音で通信がままならない。

 

「ウサギさん!応答してくださいウサギさん!!」

『西住殿!!これは―――!?』

 

優花里の言葉にみほは顔をこわばらせたまま答える。

 

「―――無数の書き割り(ダミー)の中に本物が紛れてる。どれが本物かを調べようとして、本物が混じっていたら被弾する可能性が高くて、迂回し続けても多分―――どこかで対応しないといけないけど、敵の本体も分隊も、無数のダミーに隠れて探せない―――!!」

 

 侮っていたわけではない。けれど、心のどこかで油断があったとみほは猛省する。アンツィオにいたあの少女がいかに強かったとしても、以前にエミがその作戦を軽々と見抜いていた。ならば今度も―――という気持ちが慢心を生んだと、みほは薄く気づき始めていた。

 みほ自身に自覚はないが、みほはかなりの割合でエミに依存している。同じように、あんこうチームにも傾倒してはいるが、それは対等のお友達としての立場での傾倒であり、『己の立場も、過去も知っている信用ができる年上の人』というポジションに座っているエミに対して、心を預けている自分に気づいていない。

 ―――もっとも、気づいていないからこそエミは心労や胃痛程度のダメージで済んでいるというファインプレイなのではあるが。

 

 

「―――ウサギさんは退却してください!!7時方向へ回頭、街道沿いに山道を下って、本体の後方に回り込む形で敵戦車を引っ張ってください。もしも敵戦車が撤収を開始したら深追いはしないで!本体と合流する途中にもしも敵影を発見したらその場所を迂回して本体近くまで戻ってきてください」

『りょ、了解!!』

 

「アヒルさんはとにかく見つからないように街道北側を回って、発見した敵影の地点を教えてください。もし敵に発見されたらすぐに撤退してください」

『わかりました!!』

 

 通信を切って、ふぅと溜息を一つ。脳内のマップはすでにグシャグシャで、敵配置が正確に把握できない以上作戦の立てようがない。

 けれど逆にいうとそれもまた、敵の思惑通りという可能性がぬぐえない。

 

「でたらめに配置された大量の立て看板。その中に紛れた本物の車輛。

 これでは迂闊に動くこともままなりません……」

「どうしたらいいの!?もういっそ全部壊して回る!?」

「―――いえ、全部の書き割りを壊して回るにはそれなりに時間がかかります。それに、砲弾も……」

「書き割りがいくつあるかわからないが、砲弾は有限だ。むやみにバカスカ撃ってたら……あっという間に弾切れになって撃破扱いを受けるだろうな」

 

 あんこうチームが口々に意見を上げていく。みほはそのすべてを取り上げながら打開策を探すのだった―――。

 

 

 

******

 

 

 

『ねーさん!「マカロニ作戦Ⅱ(ツヴァイド)」大成功ッスよ!奴らビビって逃げていきました!』

「そうか。深追いはするなよ。あとダミーを破壊された場所は報告しろ。その場からすぐに撤退して別のダミーの裏に潜むんだぞ?」

 

 

 ペパロニからの通信を切り、宙を見上げる千代美。

その目はどこか遠くの、昔日を思い起こしているようだった。

 

 

「―――お前たちのおかげだぞ。天翔、西住―――」

 

 

ぽつりとつぶやいて、ギュッと手に持った鞭を握りしめる。

 

 

 

 

―――あの日、すべてをかけて挑んだ作戦は、無残に打ち破られた。

 

 

 

幾重にも仕込んだホームグラウンド上のトラップも、

 

 

三年間をかけて仕込んだダミーの書き割りも、

 

 

それらを使った考え得る限り最高の戦術も、すべて打ち破られた。

 

 

 

絶望の果てに、完敗の果てに、心が折れている自分を―――

 

 

 

 

“胸を張りなさい”

 

 

 

 

―――引きずりあげた(ひと)がいた。

 

その心に感謝を贈りたい。感謝の言葉よりももっと彼女が喜ぶであろう―――一撃で!

 

 

 

―――だから努力できた。

 

 

―――だから諦めずに居られた。

 

 

 

 わざわざ越境入学をしてまでスカウトを受け、学園艦にあるアンツィオ高校に渡り、牛の尾を蹴り鶏口に納まったのだ。

 

 

 

 すべてこの日のために。この日を越えた先のために。

 

 

 

「墨俣作戦をベースにしたマカロニ作戦をさらに改良した『マカロニ作戦Ⅱ』。天翔、これは私なりのあの日の答えで、お前への挑戦だ!!」

 

 

ニンマリと笑みを深める千代美の顔がスイッチを切り変えるようにアンツィオを導く偉大なる指導者、ドゥーチェ・アンチョビへと変わる。

 

 

 

「―――さぁ、大洗の諸君。我が友(アミーカ)天翔。

 このドゥーチェ・アンチョビの張り巡らせた「マカロニ作戦Ⅱ」、果たして打ち破ることができるかな?」

 

 

 

 




「何故だ!?アホンツィオと呼ばれるくらい単純で楽観的な連中がそろったアンツィオだぞ!?それがこんな頭脳プレーを繰り広げるだと!?」
「かーしま、うるさいからちょっと落ち着け」


ギャンギャンとわめき続ける桃ちゃんと、それをどうでもよさげな顔で干し芋を齧りつつ見ている会長。そんでオロオロしている柚子ちゃんと、俺。


正直なところ全くの想定外である。マカロニ作戦がより強大なⅡになって襲ってくるとか予想外にもほどがあった。っていうかマカロニ作戦Ⅱってカバさんがアンツィオの作戦をヒントに考え出した作戦だよな?おかしない?アンツィオが使ってくるのおかしくない??


え?これ俺のせい??もしかして俺のせいなの??過去の因果が助走つけてバタフライエフェクトで殴りつけてきた感じのやつ??俺責任とってピロシキすべきじゃない??


と、俺の脳内は今グルグルと超絶混乱中であり、まっとうにものを考えられる状況ではなかったのである―――。

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