【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
今回の話にはガルパンスピンオフ作品「フェイズエリカ」の内容を含みます。
そういうネタバレはどうかと思う。な方はそもそも読まないか、読んでうえで頭を空っぽにして新鮮な気持ちで「フェイズエリカ」をお楽しみください(無理難題)
※※※ 注意終わり ※※※
―――戦車道高校生大会2回戦。 黒森峰女学園 対 継続高校
その試合はある意味、一方的と言えた。
遮蔽物の多い森の中に潜む継続の車輛。率いる隊長は【名無し】、皆からは「ミカ」と呼ばれている謎に満ちた少女である。
「―――全く。参ったね、これは……」
フラッグであるBT-42の中でカンテレを抱えチューリップハットを目深にかぶって肩をすくめるミカ。
森林の茂みを踏み潰し、細い木々を薙ぎ倒す黒森峰の巨体。
―――超重戦車、マウス―――。
その装甲は底板を除けば最も薄いところで60ミリ。通常狙える位置にある装甲は160ミリ、最も厚い部分で240ミリと来ている。
「どうするのー?ミカぁ」
同乗しているアキの言葉に困ったような表情で苦笑したミカは、答える代わりにカンテレを軽く爪弾いた。
「―――風が凪いでしまっている……勝算はまるで無いね。ここは敗北を受け入れよう」
「えー?まだ試合途中じゃなーい」
不満そうにぶーぶーと声を漏らすアキと同様に、エンジンを切って物陰に潜んだまま運転できないでいるミッコも不服そうな表情を見せる。ミカはそんな二人の様子を何処吹く風で、運営に通信を入れる。
“継続高校、投降を確認!!黒森峰女学園の勝利!!”
白旗の上がったBT-42の搭乗口から身を乗り出したミカは、マウスのずっと後ろでこちらをじっと見つめている視線の主に目を向ける。
―――ティーガーⅠの上から上半身を覗かせる姿で、西住まほがミカをじっと見つめていた。
「―――せめてT-28を修理できる資金があればね……いや、たらればを言うのは残心が成っていないか……」
ミカが見つめる先、ミカの方をもはや興味外とばかりに視線を外し、隊をまとめて去っていくまほの姿。
「成程、風が凪ぐわけだ。―――こんなにも乾いている」
誰に聞かせるわけでもなく独り呟いて、ミカは空を見上げて日差しに目を細めるのだった。
『 ~ 逸見エリカの激情 前編 ~ 』
継続高校との第二回戦。対戦相手の投降により勝利した黒森峰。
『手ごたえの無い相手でしたね』
勝利者インタビューで語っているのは副隊長の逸見エリカ。鋭い瞳でまるで睨みつけるようにしてカメラを―――その向こう側にいるであろう人物を射抜いている。
『―――少なくとも、試合を途中で諦めたりする半端者は、黒森峰にはいません』
エリカの言葉に棘を感じる。剥き出しの刃を向けてきている。そんなイメージを受ける。エリカの言葉を受けてみぽりんの瞳が曇っているのを見て、そっと背中をぽんぽんとあやすように叩く。
かつて信頼し合っていたパートナーから向けられる辛辣な言葉。辛いよなぁみぽりん。その気持ちは俺にもよくわかるし―――刺さる。
―――でも大丈夫、今度こそ間違えない。もう俺はブレたりしないから。
決意を胸にみぽりんを支える。―――けれどこの時の俺は、何処までも間違えていることに気付いていなかった。
****** JK → JC
中等部3年生になって―――私は副隊長に任命された。
隊長のいない黒森峰で、副隊長になった。
あの人に認めてもらいたい。あの女に勝ちたい。
私の隣で、隊長に任命されたあの女が居た。
胸がざわつく―――疼きが止まらない。
******
私が黒森峰の一年生として入学したとき、あこがれた隊長の横にはすでに“彼女”が居た。遠距離から途切れない
中等部で扱えるような戦車ではないはずなのに、大人でも二人がかりで装填するような砲弾を一人で軽々と持ち運び、空いたもう一人分の装填手のスペースにも余分に砲弾を持ち込み、50発近い砲弾をよどみなく3秒ほどの間隔で装填する化け物。
―――黒森峰の『虎の翼』、天翔エミ。
あまり語ることが得意ではないらしい、色々と言葉が足りないところがある隊長の言葉をきちんと皆に伝えることができる稀有な才能を持っている彼女は、常に隊長に頼りにされている。
それが私には、とても羨ましい―――。
******
―――誰一人として、彼女が私たちを相手に本気で怒ったところを見たことがない。
彼女はいつも笑顔でいるか、或いは困ったような顔をしていた。戦場で苛烈に攻め込む隊長を後方から火力で補佐する彼女は、冷徹な隊長と対照的に温かい印象を周囲に与えていた。
―――孤独に高みに浮かぶ月と、高みから人を癒す太陽。
黒森峰には二つが同時に存在していた。お互いを相殺することなく存在するそれが、黒森峰をより強くしていると思えるほど。周囲を気にすることなくただそこに在る
その
その
―――なんで私が?と思わなくはなかった。けれど任じられたことが純粋に嬉しかった。
頼られている。ただそれだけのことが、とても嬉しかった。
*******
―――始まりは2年前。
黒森峰に、あの人を追いかけるようにして入学した。練習初日。あの人から短いながら激励の言葉を貰った。
その直後、「副隊長を交代する」と宣言された。正直、私だけでなく周囲の皆が困惑しきりの中、壇上に上がった少女は「西住みほ」と名乗った。
「納得ができません!」
「何故天翔さんが副隊長を下ろされるのですか!?」
一部の上級生が抗議の声を上げるも『決まったことだ』と返されけんもほろろに跳ね返される。それならばと今度は天翔先輩の方へと向かった上級生と一年生は、
「―――よぅし!みんなの意見はよくわかった。
―――とりあえず飲むか!!」
―――何でよ?
どういう脈絡があるのかさっぱりわからない。けれど気が付いたときにはみんなあれよあれよと引きずり込まれ、皆でテーブルを囲んでノンアルコールビールとジュースで乾杯していた。
そうして、皆で飲み交わして落ち着いたところで、天翔先輩は皆に詳しい説明を語って聞かせていく。彼女の人心掌握術は乾杯と共にあるのだろう。
上級生の皆さんも一年生の皆さんも「天翔副隊長が決めたことなら」と引き下がった。けれど私は引き下がれない。引き下がりたくない。
「―――すみません天翔先輩」
だから踏み出した。他の皆よりも一歩、踏み出した。
「―――あの子と勝負をさせてください」
******
――月――日
みぽりんのことに周囲が納得する中、エリカ一人が納得できなかったらしい。
流石エリカだぜ。反骨精神は折り紙付き、自分で納得しないと気が済まないのか決意は堅そうだったので「いいよぉ」とOKを出す。
本来の【フェイズエリカ】よりずいぶんと見切りが早いがそんなのは誤差だろう。ならば対価としてエリカが言い出すのは「私が戦車道を辞めます」だ。
だがそんな対価は通せんよなぁ?みぽりんに条件伝える以上みぽりんは絶対に勝たないマシーンになるし、そしたらフェイズエリカの展開的にクッソ拗れるに決まっている。俺が軽いノリでオッケーした理由はここに在るからだ。
ついでにエリカが勢いで言ったことについても含めて説明するとめっちゃ謝罪された件。内心で心臓バックバクだったりする。
*****
「あの子と勝負させてください」
「いーよぉー」
皆と別れた後、一人エミの後を追いかけてきたエリカの言葉に、二つ返事で鷹揚に頷く様な態度でエミはそう答えた。 最初は断られたり理由を聞かれると思っただけにエリカは拍子抜けしてしまった。
「あの……言っておいてなんですけど、そんな簡単でいいんですか?」
「いいよ。そんだけ覚悟して来てるんだろ?」
エミの言葉にエリカは表情を引き締める。こちらの覚悟も思惑も全てを見透かしている様な目。ニコニコと微笑んでいるエミがまるで得体の知れない存在に見えてきていた。
「ええ、私の戦車道と彼女の戦車道のどちらが正しいか。それをはっきりさせる為なら私のこれまでを全部賭けても後悔は有りません」
勢いで
「じゃあ、何を賭ける?」
「もしも私が敗けた時は―――私が、戦車道を辞めます」
エリカの決意の言葉を受けて、エミはそれでもニコニコと微笑んでいた。
「そうか。じゃあ―――みほが敗けたら私が黒森峰を去ろう」
「――――えっ!?」
一瞬、言われた意味が分からなかった。西住みほと試合をして勝つことで自分の正しさを証明したいというのに、彼女に勝ったらエミが黒森峰を辞めると言っている。これでは割に合っていないなどという話ではなかった。
「何故ですか!?天翔先輩は関係ないじゃないですか!」
「そうだね、関係ないね。
―――でも敗けたら辞めます何て条件付けたらみほは気にするからね。敗けたら私が辞める位の条件付けないと、勝とうとしないから」
「―――何ですか、それは」
腸が煮えくり返るとはこのことだろうか?
エリカの内でふつふつと怒りが湧き上がってきていた。目の前のエミではなく、エミにそこまでさせているみほに対してだ。
「何で、そこまでできるんですか?」
エリカは納得がいかなかった。みほにそこまで賭けることができるエミが、まるで依怙贔屓をしているように感じていた。
エリカの様子を見て、エミは事も無げに言ってのける。
「何でって―――エリカが辞めたら私が困るからだよ」
「―――はぁ??」
エリカにはまるで意味が分からなかった。みほのことを言っていたのに自分のことについて語られている。わけが分からない。どうにか理解しようとするもエリカの茹だった頭では堂々巡りにしかなっていなかった。
「―――すみません。できればもっとわかりやすく説明をお願いします」
「―――あぁ……うん。私も言葉が足りなかったわ。まほのことを言えないなぁこれは」
そう言って可笑しそうに笑うエミは、ひとしきり笑った後でゆっくりと説明を始める。
「―――まず大前提として、みほは優しすぎるんだ。だから“誰の意見も無駄にしたくないし、救える命に手を伸ばすことを躊躇わない”。だから、あの子はエリカが『敗けたら辞める』と言い出したなら、絶対に勝たない」
「そんなの―――ッ!!」
『そんなのは一緒に戦っている皆に対する裏切りじゃないか』、そう言いかけたエリカの前に指を一本立てて異論を封じて、エミは続ける。
「エリカの言いたいことは分かる。けどさ―――
ニコニコと微笑んでいたエミが不意に真剣な表情を見せた。心臓を掴まれているような感覚に、エリカは思わず身を竦ませて退こうとする自分に気付いて慌てて立ち止まった。
「その場の勢いで口にしたことでも、反故にはできないぜ?エリカが戦車道を辞めるとして、辞めさせるきっかけになったみほに、エリカと仲が良かった子たちはどういう感情を抱くかな?それを許可したまほや私にどういった感情を抱くかな?自分が勝った場合の自分の立場を考えるのに、負けた時に勝者がどうなるかを考えてないのなら、そいつは片手落ちってレベルじゃないぞ?」
エミの言葉がエリカの中で何度も木霊する。
確かに茹だった頭で考えなしに口にしてしまったことが、そこまでの問題に派生するなどとは考えてもいなかった。今更ながら自分がしでかしたことにその背を冷や汗が伝っていた。
「―――考えが足りませんでした。申し訳ありません」
「いいよいいよ、わかってくれたらそれで。そんで、代案としてなんだが―――」
頭を下げるエリカに終始にこやかに『勝敗条件』を語るエミと裏腹に、エリカの表情はみるみるうちに非常に嫌そうな顔に変わっていった。
******
――月――日
かくして、みぽりんとエリカのマッチングが出来上がった。
お互い戦力差を造らないためにⅡ号戦車と35tのどちらかをフラッグ、どちらかを僚機として使用しての2対2のフラッグ戦である。
フィールドは黒森峰名物【
先手は高台を制したみぽりん。しかしエリカも負けじと挟撃を仕掛けようと連携を行った。が、Ⅱ号戦車のエンジン音と履帯の振動に気付いたみぽりんにより悠々と避けられフィールドは移動。峡谷を背景に突撃するエリカに
―――そんで敗者の罰ゲームという名のご褒美の時間。
俺の出した条件は「エリカが敗けたらみほと友達になってもらおう」というもの。とはいえ、無理強いをするわけではない。後日、俺が個人的に情報を集めていたシャレオツなカッフェーェ(巻き舌)にみぽりんとエリカを連れて行き、「それじゃ、後は若いお二人で」と席を外して少し離れた場所で二人をこっそりほっこり見守るのだ。きっかけさえ与えてあげればきっとみぽりんもエリカも仲良くなるだろう。それが運命であるがゆえに!
あとカフェでの云々が終わった後で今回の俺美味しい思いしすぎだと思ったので利き手ではない方の小指ペキを敢行。骨折ではなく脱臼で収まってしまった。なんというか、やっちまった感が半端ないので今度はきちんとやろうと思う(使命感)。
―――なお、俺が隠れて座っている席の対面に何故かまぽりんが座していて、スゴイ=フキゲンな表情をしていらっしゃった件。
―――なんで?(素)
――年――月――日
みほを副隊長に推挙する。当然ながら反発があった。
けれど心配などしていない。何故ならこれはエミと共に『決まったこと』だからだ。エミならば反発の声を聞いたうえで適切に対処するという信頼がある。
果たしてエミはきちんと対処できたようだった。反発の声は薄れ、みほも胸をなでおろしたように見える。しかし、みほの内向的な性格を何とかしなければ、今後みほが西住の人間として見られている時などに困ることになる。
西住流は王者の態度を崩さず、悠然と毅然としていなければならない。
それが母の望んでいる姿なのだから。
――年――月――日
みほのフォローに下級生の世話、同級生との親睦会。上級生との(以下略)。忙しいのは分かる。私の代わりに周囲の雑事を全て引き受ける勢いで庶務に走り回っているエミを見ていると感謝が絶えない。
ただ不満である。贅沢な悩みなのかもしれないが、最近エミと揃って行動することがなくなっている。エミが常にみほを気にかけて行動しているからだ。
有難い、とても有難いのだがそれまで切磋琢磨していたパートナーが傍にいないと不意に不安になる。
追記:エミから教えてもらったアドレスを使い、千代美に相談すると「馬鹿だなあ西住は」という返信が飛んできた。私は何か愚かな行為をしているというのだろうか……?
――年――月――日
先日エミに抗議を行った生徒、逸見エリカとみほの練習試合が行われることになったとエミから聞かされる。そうなった理由と共に。
「彼女はすごく優秀だよ。みほや私のフォローができるくらいに、いずれなる」
そう語るエミの瞳は輝いていた。エミが言うならばそうなのだろう。実際訓練の結果を見る限り、跳びぬけて優秀な生徒だと思われた。
ただ何というか……他人を持ち上げて語るエミを見ているとあまり良い気分ではない。
追記:千代美に相談してみたが、またも「西住は馬鹿だなぁ」という返信が戻ってきた。もしや千代美の語彙は私が思っているよりも少ないのだろうか?
――年――月――日
試合の結果、エミが二人を連れて喫茶店で懇親会を行うらしい。疎外感を感じてしまったので追跡に興じる。
遠巻きに二人の様子を眺めるエミの目が怪しいこともさることながら、すぐ対面に私が座っているのに気づくことなくみほたちの方を見ている。それがなんだか気に入らなかったので気付くまでジッと見つめ続けてみた。
途中から気付いていたのだろうが見て見ぬふりを続けて居たのでより目に力を入れて視線で訴える。やがて根負けしたのか平謝りしながらこちらに向き直ってくれた。仕様の無いパートナーだと思う。
追記:千代美に顛末を報告すると「馬鹿だなぁ西住は」と三度返ってきた。やはり千代美は語彙が少ないのかもしれない。