【 三次創作 装填騎兵エミカス ダージリン・ファイルズ 】 作:米ビーバー
「―――ハッ、ハッ、ハッ、ハッ―――!!」
『エミ?!聞こえないのかエミ!!?何処へ行くんだ!!!』
耳に付けたインカムから響く声は届かない。
俺は独り、雨の中森を突っ切り疾走していた。
―――あの事故が起こる桟道へと。
―――やめてくれ
「―――ハッ、ハッ、ハッ、ハ――――ッッッ!!!」
―――ふざけんな
「―――ァ―――ハ……――――ハ――――――ッッ!!!」
ぬかるみに足を取られないように水たまりを避けて、木の根を踏み場にして跳ぶようにして駆ける。
一刻も早く、あの場所へ、間に合えと――――
『―――黒森峰、フラッグ車走行不能!!プラウダ高校の、勝利――――!!』
―――そうして絶望的な報告が届いたのは、俺が桟道へたどり着いたところだった。
―――俺は間に合わなかった。救うことができなかった。
―――失敗した。
―――失敗した。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したおれは失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したおれは失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗したおれは失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した――――
ガツンと殴りつけられるような感覚と、吹き飛ばされる身体。
拳を振りぬいた姿で、エリカが立っていた。
「―――――――――――――!!!!!」
叫んでいる。けれどその声が聞こえない。聞こえないんだ。
「―――――――――ッッッッ!!!!」
びっしりと汗が浮かんでいる。呼吸も荒い。なのに身体の芯から冷え込んでいる。凍り付くようだ。ギシリと音を立てて肩の筋肉が軋みを上げて、いっそちぎれてしまうほどに強く肩を抱きしめて、震える身体を押さえつける。
またあの日の悪夢を見た。
アンツィオでアンチョビに再会できて、一緒に騒いで、浮かれていた俺に、俺の中の俺が言っているのだ。
―――【忘れたふりをするな】と
―――あの日、俺は失敗した。
―――どうしようもない失敗を、犯してしまった―――――――。
『 ~ 圧縮言語の可能性は無限大だ……ただし個人差がある ~ 』
―――戦車道高校生大会 準決勝
「―――来たわね、エミーシャ!!」
ノンナに肩車された姿でやってきたカチューシャを前に、みぽりんが若干顔色を悪くしている。あの時のことを思い出しているようだ。かくいう俺も顔色が悪い。気分は最悪だ。夢見が悪かったのもあるだろう。
「カチューシャを笑い死にさせるためにこんな戦車をかき集めたってわけね!それとも、負けてカチューシャのモノになる準備ができたのかしら?」
カチューシャの煽るような物言いに、桃ちゃんがイラッとしているのが目に見てわかる。だが会長が手で制しているのと、俺の様子、みぽりんの様子が気になるからか暴走を自制してくれているようだった。
「―――何よ、反応が薄いわね。昔みたいにドーンと構えて飄々としてなさいよ」
「―――カチューシャ、そろそろ時間です」
カチューシャを制してノンナが踵を返す。「じゃーねー、ピロシキ~」と言葉を残して、カチューシャは悠然と去っていった。
―――俺は何も言い返すことも、軽い調子で返事することもできず、ただだんまりを決め込んだまま突っ立っていただけだった。
「―――天翔!!お前何か言い返せなかったのか!?いつもの勢いはどうした!?」
「かーしま」
怒り心頭な様子の桃ちゃんがこちらに矛先を変えてきたのを会長が止めた。直立不動で言葉を慎む桃ちゃんを尻目に、俺の前にやって来る会長。
「―――去年の優勝校、なんだってね?」
「―――ええ。私の―――忘れることもできない“因縁”です」
俺の言葉に、スカートの端を掴んで俯いていたみぽりんが、ぎゅっと一層強く握りしめる様にして、苦しみに耐えるように目を瞑った。
******* しばし、時は巻き戻る。
―――西住流宗家。
和の装いの畳間に座しているのは、西住流師範、西住しほと、その娘、西住まほ。
テーブルの上に新聞が広げられている。
「―――貴女は知っていたの?まほ」
「―――はい」
短いやり取り。まほがギュッと膝の上で結んだ腕に力が籠る。
「―――西住の名を背負っているというのに勝手なことばかり……」
「――――――ッ」
ぎりりと、食いしばられた歯が口の中で軋みを上げる。
撃てば必中、守りは堅く、進む姿に乱れ無し。鋼の心、それが西住流。
それはまほが幼いころからずっと教えられてきたことだ。
孤高たれ、強くあれ、人を率いる先端であれ。
―――それでもまほは知っている。
年月にして4年半、これまでの人生にしてみれば四分の一。その間を埋めて決して譲らない存在を。自分が自分であり、そして彼女が彼女であれば決して負けることなどありえないと、“西住流でなくても負けることなどありえない”と自身の心に強く訴える存在を。
「―――次の試合、私も直々に向かいます」
しほの瞳が冷徹な輝きを宿す。まほにとってはそれは死刑宣告に等しい輝きで、そして、まほが案じる“彼女”と、妹のみほにとっても同等の重みを持つ。
「―――あの子に勘当を言い渡すために」
言葉とは、その人の人となり、印象により意味合いが制限されるものの筆頭と言っても良い。
だからそう。まほはしほの“西住流次期家元”としての立場を軸に、その言葉の真意を理解していた。それが正しいのか間違いであるのか。それを解明できるものは、今ここには居なかった。
******* JK → 2 years ago
――月――日
高等部に進学し、いよいよ本格的にXデーに近づいてきた。
みぽりんエリカとはしばしの別れではあるのだが、俺が居なくなっても中等部の雰囲気は変わらないだろう。和気藹々とした団結力の集団であって欲しいと願っている。
で、入学して最初の戦車道の時間なのですが―――まぽりんはね、中等部の時点で「高等部に進級した直後から隊長が内定していた」のですよ。
で、まぽりんの圧縮言語に慣れていない高等部からの編入組とか、上でバリバリやってた方々がね?ええ、圧縮言語を理解できなかったわけだ。
こ じ れ ま し た 。 (残当)
俺もね?中等部の三年生になったあたりでまぽりんの圧縮言語とかどうにかしなきゃなーと危機感を持ち始めたのだ。このまま進むとマジで「ああ」「うむ」「いいや」「よし」くらいしか言わなくなりそうだなと。
でもね?まぽりんに注意したんですけど、まぽりんが言うんですよ。
「―――エミがいる*1」って
―――頑張るしかないやん?
******
「黒森峰女学園高等部隊長の西住まほです。早速ですが皆の練度を知りたい*2」
「高等部戦車道にようこそ」からスタートした二年生三年生の歓迎ムードの中、一年生代表として前に出た西住まほの初手火の玉ストレートに、周囲の状況は氷点下クラスまでヒエッヒエに落ち込んでいた。
なお当の本人は無表情のままで、状況を理解など欠片もしていない。
「―――おい西住の。それが挨拶か?」
「―――そうだが、何か問題でも?」
周囲で押さえようとしている上級生を押しのけるようにして前に出た上級生の一人の言葉に平然とそう答えるまほ。前に出た上級生の額にピクリと怒りを示すように血管が浮かぶ。
「―――西住流の連中ってのはどいつもこいつも人を舐め腐った様な態度しかないようだな……中等部ではかなりイわしてたようだが、高等部のレベルは中等部とは一味も二味も違うってことを教えてもらいたいらしい」
「―――ああ、そうだな。是非ご教授願いたい*3」
拳を振りかぶるような動作の上級生を2~3人の生徒が集まって止めている。対するまほの方は嫌味でも何でもなく素で言っているのだからまるで状況を理解していない。
流石に遠巻きに眺めていた一年生たちも状況のまずさを理解したか慌て始めて―――
―――救世主へと、視線で訴え始めた。
そんな視線を受けた件の【救世主】、天翔エミは状況を見守っている態度からのっそりと動き出し―――ひとまず、まほを引っ張って後ろに引き下げた。
「―――とりあえず先輩方。色々と言いたいことはごもっともなんで、
―――試合しましょうか」
エミの言葉に、上級生たちは怪訝そうな顔をしていたが、エミの言葉を聞くうちにみるみるうちにその表情が険しいものに変わっていった。
―――曰く。
・こちらは2輛。ヤークトとティーガーⅠだけ。乗員は全員揃っているので心配はない。
・其方は何人でもOK。むしろ全員で来ても良い。
・こちらがどちらも大破して動けなくなるまで試合続行。
・好きなタイミングで「指定のスタート地点」から戦車を増援で発進させても良い。
・もしこの条件でこっちが勝った場合、そちらにひとつ「お願い」を聞いてもらう。
上級生を舐め切っているとしか思えない条件を付きつけて来る子供のような背格好の少女に怒り心頭の上級生たちはこれを了承。「ボコボコにしてやるよ」と息巻いていた。
なお、結果として西住まほは上級生を相手にその【威】を見せつけ
「「「「「「「
試合終了後の「お願い」で上級生全員を巻き込んだ大宴会を催し、天翔エミは上級生の多くを味方に付けることに成功した。
*****
――月――日
上級生相手にやらかしてくれたまぽりんに、下級生たちが今にも死にそうな目で
こっちを向いて訴えてくるのですよ。
まぽりんとしては上級生がどの程度の力を持っているのか「胸を借りたい」。
そして同時に「自分がどの程度高等部のルールで戦えるのか知りたい」といったところだろうか?解釈としてはそれほど間違っていないと思うので、とりあえずその線で提案してみた。
「アンタら全員と、うちら二人で勝負しようぜ」的なニュアンスを込めてできる限り丁寧に。丁重に言葉を選んだ。まぁ怒らせて全員でかかってくるように仕向けたのだが。
―――手を掴んでいたままのまぽりんの方を見上げると「よくやってくれた」とばかりに口角の上がった独特のご満悦表情をしていた。僅かに達成感を感じる。
それはそれとして、多分やってこないだろうけど全員で万里の長城(横一列に並んだ横列陣で速度を揃えて突っ込んでくる陣形)とかされたら倒しきれなかった分で包囲されて詰むので、地形を考えてスタート地点を決定。高台の上から狙い撃ちできる場所を用意して、まぽりんは単騎駆け、俺はヤークトで稜線射撃を使ってハメ殺した()
卑怯?馬鹿を言ってはいけない。“ヤークトの装填速度で考えたらまぽりんも俺も各個撃破されてる”条件でのバトルなのだから、卑怯などという言葉は意味を持たないだろう(理論武装)
そんでボス猿理論で“「上級生をフルボッコにしてボスの座に収まる」を達成したまぽりんの祝勝会”と称して下級生を、“上級生の皆さんに「お願い」を使って親睦会しましょうぜ”という名目で上級生を集めて
―――めちゃくちゃ乾杯した。
多少のわだかまりは飲めば忘れるし、生意気な態度も実力さえ示せば険を無くす。
まぽりんが『威』を示して引き締め、俺が『宴』でもって緩める。無敵のコンボと言えよう。
だからノンアルとヴルストでグビってガブッてヒャッハーするのは必要なことなのだ(理論武装)
―――だがこの時すでに、俺の、まぽりんの足元には黒く深く淀んだ闇の部分と言うべきものが、口を開けて獲物がかかるのを待っていたのである。
「―――貴女は知っていたの?まほ」
意訳:みほが戦車道を続けて居るって知っていたの?だったら教えて欲しかったわ
「―――西住の名を背負っているというのに勝手なことばかり……」
意訳:みほが何かをするたび、西住という名前があの子の邪魔をするようになりかねないし、西住にとっても悪い結果につながる。双方デメリットしかないわね
「―――次の試合、私も直々に向かいます」
意訳:みほの、みほだけの戦車道を邪魔されないように、私が出向けば周囲も黙らざるを得ないでしょう
「―――あの子に勘当を言い渡すために」
意訳:みほの戦車道にとって西住の名前は邪魔に過ぎるわ。いっそすっぱり切ってしまった方があの子のためになる
カス「だいたいこんな意味だと思う(推測」
マホ「嘘だと言ってくれ(震え」
※ 真実とは限りません。エミカスの圧縮言語翻訳術による翻訳です ※