IS・ALUTIAUSS〈インフィニット・ストラトス アルティウス〉   作:ZERO式

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第10話 天翔翆牙

「………………」

 

「………………」

 

太陽が海の彼方に沈み始めた頃。

オレと箒は一夏が眠る一室でお互いに黙って座っていた。

一夏は全身大怪我で意識不明……ISの全エネルギーを使って回復させるために、ずっと寝ていなければいけない。

 

「……箒、あんまり自分を責めるな」

 

「…………」

 

箒は一夏の前で、オレはちょっと離れたところで壁に寄り掛かって座っている。

余程ショックだったのだろう、オレの言葉に対して箒は頷くどころか反応すらしない。

 

ピピッ……ピピッ……ピピッ……。

 

一夏に繋がれた医療機器の電子音が部屋に静かに響いている。

その音にオレはふつふつと怒りが込み上げてきた。

寝ている一夏に対してではない、銀の福音にだ!

 

(……作戦は失敗……別名あるまで待機。けど、ダチをやられて黙っていられるか!)

 

オレはゆっくり立つと襖の方へと無言で歩いていき、部屋を出た。

部屋を出る時、ちらっと箒に視線を送るが、やはりそのまま項垂れているままだった。

 

「……くっ……!」

 

あの福音の攻撃でオレもそれなりの怪我を負った。

右腕・左頬・頭……一夏程じゃないが全身に包帯やらシップが巻かれている。

だが幸い骨折したり大火傷をしたりはしていないので動く事はできる。

やっぱり痛むけどね……。

 

オレは旅館から抜け出して浜辺に立ち、水平線の彼方を見据える。

恐らくこの先に奴が──福音が今も海上にいるんだ、間違いない。

 

「オレだけでも……福音を……破壊してみせる!」

 

そう決意し、オレはアルティウスを起動させようとペンダントを握りひめる。

その直後背後から誰かの気配を感じる。

 

「桜萪」

 

誰かに呼ばれて後ろを振り向くと、そこには一夏と箒以外の専用機持ち全員がいた。

 

「気持ちは分かるけど、1人では何もできないよ?」

 

シャルロットが歩みよってオレの肩にそっと手を置く。

 

「シャルロット……」

 

「3人でダメだったんだ。1人では到底かなう相手ではない。お前くらいの者なら、相手との力量の差を理解できたはずだ」

 

ラウラが目を瞑りながら静かに言う。

残念だがラウラの言う通りだ。

あいつは第四世代型に匹敵するくらいの化け物じみた機動性と攻撃力を有している。

 

「だったら話は早いですわ」

 

「福音にリベンジするのよ。次は全員でね」

 

「なっ……!?」

 

今は全員が待機命令を出されている。

そんな中全員で命令無視して福音にリベンジするのは後々重大問題になりかねない。

だからこそオレのみでならと思いたったんだが……。

 

「け、けど……そしたらお前らまで──」

 

「僕達だって悔しいんだよ桜萪」

 

シャルロットがさっきの心配そうな顔から真剣な表情へと変わった。

 

「シャルロットの言う通りだ。仲間をやられてみすみす黙っていられるか」

 

キッと睨みながらラウラはオレの隣に来る。

 

「デュノアさんやボーデヴィッヒさんの言う通りですわ」

 

「あんたの考えている事とあたし達の考えている事は一緒よ」

 

「皆……すまない。けど、箒はどうするんだ?」

 

箒は一夏の寝ている部屋でまだ1人でいるだろう。

相当ショックだったのか、作戦が失敗した3時間以上前からうなだれている。

 

「それなら大丈夫よ」

 

鈴が腰に手を当てながらそう言った。

何か手があるのだろうか?

 

「ちょっと荒いけど、まぁいけるわ」

 

「そうか、なら頼む」

 

「それじゃ僕はパッケージのインストール準備をするよ」

 

「わたくしもですわ」

 

「私は福音の現在位置を探そう」

 

「ならオレもだな。──反撃の準備をしよう」

 

修復完了まであと少し、オレは彼方にいるであろう福音に向けて拳を突き出した。

 

 

◇◆◇◆

 

 

──所変わって旅館の一室。

そう、一夏の寝ている部屋だ。

 

「あ~……出ていった時と変わらずだな」

 

オレ達はふすまを少しだけ開けて、一夏と箒の様子を見る。

箒の髪にしていたリボンは先の攻撃によって焼けてしまい、その垂れ下がった髪は今の気持ちまでも表しているようだった。

 

「は~ 仕方ないわね。最初はあんたに行ってもらおうと思ったんだけど」

 

「オレかよ」

 

「けどいいわ。あたしが直接渇を入れてあげるから」

 

「……ほどほどにしとけよ?」

 

任せないと言って鈴は部屋に何の躊躇もなく入り箒に喝を入れ始め──。

 

「っざけんじゃないわよ!」

 

……てるのかコレ?

なんと鈴が箒の胸ぐらを掴んでキレているのだ。

あぁ、ホドホドにって言ったのにあいつは……。

 

「やるべき事があるでしょうが!今!戦わなくて、どうすんのよ!」

 

「わ、私……は、もうISは……使わない……」

 

「ッ……!!」

 

鈴はおもいっきり箒の頬を叩く。

支えを失った箒はそのまま力なく床に倒れてしまった。

 

「甘ったれてんじゃないわよ……専用機持ちっつーのはね、そんな我が儘が許されるような立場じゃないのよ。それともアンタは……」

 

鈴の瞳がしっかりと箒の瞳を直視する。

 

「戦うべきに戦えない、臆病者か……」

 

その言葉で箒の目の色が変わった。

 

「ど……どうしろと言うんだ!もう敵の居場所も分からないんだぞ!戦えるなら、私だって戦う!」

 

……やっと立ったかい。

遅いんだよまったく。

 

「やっとやる気になったわね……あ~あ、めんどくさかった」

 

「ご苦労様」

 

オレはそう言いながら部屋のふすまを開ける。

 

「あとで@クルーズのパフェ奢んなさいよ」

 

「げっ……マジ?」

 

あそこのパフェ、ギガうまなんだけど、値段もギガ高なんだよな。

 

「ど、どういう事なんだ?」

 

箒がオレと鈴を見ながら戸惑う。

 

「まぁちょっとな。心配すんなよ、場所なら今ラウラが──」

 

言葉の途中で後ろからラウラが左腕を部分展開して入ってくる。

 

「出たぞ。ここから30㎞離れた沖合上空に目標を確認した。ステルスモードに入っていたが、どうも光学迷彩は持っていないようだ。衛星による目視で発見したぞ」

 

「さっすがドイツ軍特殊部隊……衛生を介して発見するとはね」

 

「これくらいは容易い事だ。それよりお前達はどうなんだ。準備はできているのか?」

 

「当然。甲龍の攻撃特化パッケージはインストール済よ」

 

「オレもだ。破損したアルティウスとアームズの修復も完了したしな。シャルロットとセシリアの方こそどうなんだ?」

 

「あぁ、それなら──」

 

ラウラがふすまへと視線をやると、それはすぐに開かれた。

 

「たった今完了しましたわ」

 

「準備オッケーだよ。いつでもいける」

 

専用機持ちが全員揃うと、それぞれが箒へと視線を向けた。

 

「で、お前はどうする?」

 

「私……私は……」

 

ぎゅうっと拳を握りしめる箒。

それはさっきまでの後悔とは違う。

決意の表れだった。

そして、その瞳の色も……。

 

「戦う……戦って、勝つ!今度こそ負けはしない!!」

 

「決まりだな!」

 

ふふんと腕を組んでオレはニヤリと笑う。

 

「それじゃあ作戦会議だ。今度こそ福音を撃破するぞ」

 

「ああ!」

 

 

◇◆◇◆

 

──作戦開始1時間前。

オレとラウラは他の専用機持ちから一端離れ、旅館の中のある一室にいた。

 

「あと1時間か」

 

「作戦の開始は私達の初撃が重要だ。外すことは許されない。しっかり狙え」

 

「分かってる。心配ないさラウラ」

 

そう言ってラウラの頭を撫でると、今までいつもの厳しい表情が一転して、その顔には不安の色を覗かせていた。

 

「……ラウラ?」

 

「し、心配なんだ」

 

そう小さく呟き少し間を開けてからラウラは言葉を続けた。

 

「一夏のあの姿を見た時、桜萪と重なって見えたんだ。もし桜萪も同じ目にあったらどうしようと……」

 

ゆっくりと話ながらラウラは制服の端をぎゅうっと強く握りしめる。

相当力を入れているのだろう。

その握り締めた拳は白血の気を失って白くなっている。

 

そんなラウラをオレは再び優しく撫でた。

 

「お、桜萪?」

 

「心配すんなラウラ。オレは絶対に負けはしない。約束する」

 

「…………うん」

 

するとラウラは一度オレを抱き締めてすぐに離れたかと思うと、次は頬にキスをしてきた。

 

「ちょ……!ラウラ……?」

 

「願掛けだ!私にここまでさせといて負けたら許さんからな!そ、そろそろ皆のところに戻るぞ、作戦開始時間だ……!早くしろ……」

 

顔を赤くしながらラウラは部屋を出ていった。

部屋に1人残されたオレは、窓の外に広がる海を静かに見つめ、フッと笑みを浮かべた。

 

「……ったく。ここまでされたら、男が廃るってもんだよな。あぁ、オレはぜってぇ負けねぇ……ラウラのためにも」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「──ラウラ……準備はいいか?」

 

「無論だ。さぁ、やるぞ桜萪!」

 

「あぁ、ド派手な祝砲をくれてやる!」

 

オレとラウラはお互いに砲戦特化のパッケージとアームズを装備していた。

ラウラのパッケージ『パンツァー・カノニーア』は、80口径レールカノン『ブリッツ』を2門左右それぞれの肩に装備している。

さらに遠距離からの砲撃・狙撃に対する備えとして、4枚の物理シールドが左右と正面を守っていた。

 

対するオレのアームズ『ブラスター』は、85口径長射程高エネルギー砲『メテオ』を2門左右それぞれの肩に装備しており、脚部には8連装ミサイルランチャー、手持ち武器では大型ロングライフル『ブレイク』、それに前方・左右・後方を守るために6枚の物理シールドを装備している。

カラーリングは深緑色だ。

 

「目標ロック……!」

 

オレとラウラは砲弾とエネルギー弾をそれぞれ装填する。

 

「「発射!」」

 

それぞれの砲口から砲弾とエネルギー弾が放たれ、まるで胎児のように膝を抱くように体を丸めた福音の頭部と脚部に直撃し、大爆発を起こした。

 

「初弾命中!」

 

「続けて砲撃を行う!」

 

オレとラウラは福音が反撃に移るよりも早く次弾を発射した。

 

「敵機接近まで……4000……3000……くっ! 相変わらず速い!」

 

あっという間に距離が1000mを切り、福音がオレとラウラに迫る。

その間もずっと砲撃を行うが、福音は翼から放たれるあのエネルギー弾によって半数以上を撃ち落としながら接近していた。

 

「ちぃっ!」

 

「ラウラ!」

 

砲戦仕様はその反動相殺のために機動との両立が難しい……。

それに対し、機動力に特化した福音は300m地点からさらに急加速を行い、ラウラへと右手を伸ばす。

 

(避けられない……けど!)

 

オレとラウラはニヤリと口元に笑みを浮かべた。

 

「「セシリア!!」」

 

伸ばした腕が突然上空から垂直に降りてきた機体によって弾かれた。

青一色の機体……ブルー・ティアーズによるステルスモードからの強襲だった。

6機のビットは通常と異なり、その全てがスカート状に腰部に接続されている。

しかも、砲口は全てが塞がれており、スラスターとして用いられている。

さらに手にしている大型BTレーザーライフル『スターダスト・シューター』はその全長が2m以上もあり、ビットを機動力に回している分の火力を補っていた。

強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備しているセシリアは、時速500㎞を越える速度下での反応を補うため、バイザー状の超高感度ハイパーセンサー『ブリリアント・クリアランス』を頭部に装着している。

そこから送られてくる情報を元に最高速からいきなり反転、福音を捉えてレーザーを撃つ。

 

『敵機Cを確認。排除行動へと移る』

 

「遅いよ」

 

セシリアの射撃を避ける福音を、真後ろから別の機体が襲う。

それは先刻の突撃時にセシリアの背中に乗っていた、ステルスモードのシャルロットだった。

そのままシャルロットはショットガン2丁による近接射撃を背中に浴びさせ、福音は姿勢を崩すがそれも一瞬の事で、すぐさま4機目の敵機に対して『銀の鐘(シルバー・ベル)』による反撃を開始した。

 

「おっと 悪いけど、この『ガーデン・カーテン』は、そのくらいじゃ落ちないよ」

 

リヴァイヴ専用防御パッケージは、実体シールドとエネルギーシールドの両方によって福音の攻撃を防ぐ。

そのシルエットはノーマルのリヴァイヴに近く、2枚の実体シールドと、同じく2枚のエネルギーシールドがまるでカーテンのように前面を遮っていた。

防御の間もシャルロットは得意の『高速切替(ラピッド・スイッチ)』によってアサルトカノンを呼び出し、タイミングを計って反撃を開始する。

加えて、高速機動射撃を行うセシリアと、距離を置いての砲撃を再開するオレとラウラ。

4方からの射撃に、福音はじわじわと消耗を始める。

 

『……優先順位を変更。現空域からの離脱を最優先とする』

 

全方向にエネルギー弾を放った福音は、次の瞬間に全スラスターを開いて強行突破を計る。

 

「させるかぁっ!!」

 

突如海面が膨れ上がり、爆ぜた。

飛び出してきたのは真紅の機体『紅椿』と、その背中に乗った『甲龍』だった。

 

「離脱する前に叩き落とす!」

 

福音へと突撃する紅椿の背中から飛び降りた鈴は、機能増幅パッケージ『崩山』を戦闘状態に移行させる。

両肩の衝撃砲が開くのに合わせて、増設された2つの砲口がその姿を現し、計4門の衝撃砲が一斉に火を噴いた。

 

『!!』

 

肉薄していた紅椿が瞬時に離脱し、その後ろから衝撃砲による弾丸が一斉に降り注ぐ。

しかしそれはいつもの不可視の弾丸ではなく、赤い炎を纏っている。

しかも、福音に勝るとも劣らない弾雨。

増幅された衝撃砲……言うなれば熱殻拡散衝撃砲と呼ぶべきものだった。

 

「やったのか!?」

 

「……まだよ!」

 

拡散衝撃砲の直撃を受けてなお、福音はその機能を停止させてはいなかった。

 

『銀の鐘(シルバー・ベル)最大稼働開始』

 

両腕を左右いっぱいに広げ、さらに翼も自身から見て外側へと向ける。

刹那、眩いほどの光の弾丸が爆ぜ、エネルギー弾の一斉射撃が始まった。

 

「くっ!!」

 

「箒!僕の後ろに!」

 

前回の失敗を踏まえて、紅椿は機能を限定して戦闘をしている。

展開装甲を多用した事から起きたエネルギー切れを防ぐため、現在は防御時にも自発作動をしないように設定し直したのだ。

もちろん、そう設定し直したのは防御をシャルロットに任せられるからこそである。

集団戦闘の利点を最大限に生かした役割分担だ。

 

「それにしても……これはちょっと、きついね」

 

いくら防御パッケージと言えども、福音の異常な連射を立て続けに受ける事はやはり危うかった。

そうこうしている間にも、実体シールドの1枚が完全に破壊された。

 

「桜萪!ラウラ!セシリア!お願い!」

 

「あぁ!」

 

「言われずとも!」

 

「お任せになって!」

 

後退するシャルロットと入れ替わりに、オレとラウラとセシリアがそれぞれ前と左右から射撃を始める。

セシリアは高機動を生かした移動射撃を、ラウラとオレは砲戦仕様による一斉砲撃を行う。

すかさずオレはアルティウスのミサイルランチャーを発射させてエネルギー弾を撃たせないように、福音のウイングスラスターを狙う。

 

「足が止まればこっちのもんよ!」

 

そして直下からの鈴の突撃。

双天牙月による斬撃のあと、至近距離からの拡散衝撃砲を浴びせる。

狙いは、オレと同じく頭部に接続されたウイングマルチスラスター『銀の鐘(シルバー・ベル)』。

 

「もらったあぁぁっ!!」

 

エネルギー弾を全身に浴びるが、鈴の斬撃は止まらない。

同じく拡散衝撃砲の弾雨を降らせ、互いに深いダメージを受けながら、ついにその斬撃が福音の片翼を奪った。

 

「はっ、はっ……!どうよ──うぐっ!?」

 

片側の翼になりながらも、福音は一度崩した姿勢をすぐに立て直し、鈴の左腕へと回し蹴りを叩き込む。

脚部スラスターで加速されたその蹴りは、一撃で甲龍の腕部アーマーを破壊し、海へと落とした。

 

「鈴!おのれっ!!」

 

「箒!やれー!!」

 

「任せろぉぉ!」

 

箒は両の手に刀を持ち、福音へと斬りかかる。

その急加速に一瞬反応を失った福音の、その右肩へと刃が食い込む。

だが、福音は信じられないことに左右両方の刃を手のひらで握りしめる。

 

「なにっ!?」

 

刀身から放出されるエネルギーによって装甲が焼き切れるが、お構い無しに福音は両腕を最大にまで広げる。

刀に引っ張られて、箒が両手を広げた無防備な状態を晒す。

そこに、残ったもう1つの翼が砲口を開放していた。

 

「まずい……!箒!武器を捨てて緊急回避をするんだ!」

 

しかし、箒は武器を手放さない。

 

「箒ぃぃっ!!」

 

エネルギー弾がチャージされて、光が溢れる。

そして、それは一斉に放たれた。

 

だが、エネルギー弾が触れる寸前にぐるんと紅椿は一回転をする。

その瞬間、爪先の展開装甲が開きエネルギー刃を発生させる。

 

「はあぁぁぁあっ!!」

 

踵落としのような格好で、エネルギー刃による斬撃が決まり、両方の翼を失った福音は崩れるように海面へと墜ちていった。

 

「はっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

「無事か!?」

 

「全く……ヒヤヒヤもんだったぞ」

 

珍しくラウラが慌てながら箒に近づく。

その後ろをオレがついていって同じく箒の隣に並ぶ。

 

「私は……大丈夫だ。それより、福音は……」

 

「メインウェポンを失ったんだ……もう反撃はできない──」

 

「だろう」と言おうとしたその瞬間、海面から強烈な光の巨大な珠が発生した。

 

「なんだ!?」

 

光輝く球体の中では、青い雷を纏った『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が自らを抱くかのようにうずくまっている。

 

「これは……!?一体、何が起きているんだ……!」

 

「!?まずいぞ!これは……『第二形態移行(セカンド・シフト)』だ!!」

 

そうオレが叫んだ瞬間、まるでその声に反応したかのように福音が顔を向ける。

無機質なバイザーに覆われた顔からは何の表情も読み取れないが、そこには確かな敵意を感じて、各IS操縦者へと警鐘を鳴らした。

 

『キアアアアアアア……!!』

 

まるで獣の咆哮のような声を発し、福音はラウラへと飛びかかる。

 

「なにっ!?ラウラ!!」

 

あまりに速いその動きに反応できず、ラウラは足を掴まれる。

そして、切断された頭部から、ゆっくり、ゆっくりと、エネルギーの翼が生えた。

 

「ラウラを離せぇっ!」

 

シャルロットはすぐさま武装を切り替えて近接ブレードによる突撃をする。

 

「よせシャルロット!」

 

そして、ラウラはそのままその眩い程の輝きと美しさを仰せ持ったエネルギーの翼に抱かれる。

刹那、あの恐ろしいエネルギー弾をまともに零距離で食らい、全身をズタズタのボロボロにされてラウラは海へと墜ちた。

 

「ラウラ!よくもっ……!」

 

近接ブレードを捨てて、シャルロットはショットガンを呼び出し、福音の顔面へと銃口を当てて引き金を引いた。

 

ドンッ!!

 

しかし、その爆音はシャルロットのショットガンではなかった。

福音の胸部、腹部、背部から、装甲がまるで卵の殻のようにひび割れ、小型のエネルギー翼が生えてくる。

それによるエネルギー弾の迎撃がショットガンもろともシャルロットの体も吹き飛ばした。

 

「な、何ですの!?この性能……いくら軍用とはいえ、あまりに異常──」

 

再び高機動による射撃を行おうとしていたセシリアの目の前に福音が迫る。

『瞬時加速』……それも、両手両足の計4ヶ所同時着火による爆発加速だ。

 

「なっ!?」

 

長大な銃は接近されるととてつもなく弱い。

距離を置いて銃口を上げようとするも、その砲身を真横に蹴られてしまう。

ビットを使えないセシリアは、そのまま福音のエネルギー弾の一斉射撃によって海へと沈んだ。

 

「私の仲間を……よくもっ!」

 

「ちっ!ぶっ殺す!!」

 

オレはドライブリッツに切り替えると、バスターソード型近接ブレード『イフリート』を展開し、急加速を繰り返しながら福音に斬撃を放ち続ける。

箒も展開装甲を局所的に用いたアクロバットで福音の攻撃を回避、それと同時に不安定な格好からの斬撃をブーストによって加速させる。

 

「「うおぉぉぉおっ!!」」

 

徐々に出力を上げていくアルティウスと紅椿に、わずかに福音が押され始める。

 

(いける!覚悟しろよ福音!)

 

しかし、ここでなんと紅椿がエネルギー切れを起こしてしまった。

 

「箒っ!!──ぐあっ!?」

 

一瞬気を緩めたのを福音はそれを見逃さず、オレに向けてエネルギー弾を放ってくる。

緊急回避しようとするも、そのまま爆発の勢いで吹き飛ばされた。

 

「箒ぃぃぃっ!!」

 

福音はそのまま箒の首を捕まえ、ゆっくりとその翼が箒を包み込んでいった。

 

ズガァァァァン!!

 

『!?』

 

突然、福音は箒を掴んでいた手を離す。

 

「なっ!?今のは……!?」

 

ようやく体勢を整えると、福音は強力な荷電粒子砲による狙撃を受けて、そのまま箒を離して吹き飛んでいた。

 

「……ったく。おせぇんだよ馬鹿」

 

オレはゆっくりとその荷電粒子砲を撃った『彼』を見た。

 

「オレの仲間は、誰1人としてやらせねぇ!」

 

涙目の箒とオレの目の前にいたのはなんと白式第二形態・雪羅を纏った一夏だった。

 

「一夏っ、一夏なのだな!?体は、傷はっ……!」

 

慌てて声を詰まらせる箒の元へと一夏は飛んで、答えた。

 

「おう、待たせたな」

 

「よかっ……良かった……!本当に……!」

 

「箒、泣いてるのか?」

 

「な、泣いてなどいないっ!」

 

ぐしぐしと目元を拭う箒に、一夏は優しく頭を撫でてやる。

 

「2人共、心配かけたな。もう大丈夫だ」

 

「し、心配してなどっ──」

 

「お前はあの千冬姉の弟だ。心配する必要なんてねーわ」

 

「なんだよそれ」

 

オレはともかく、やっぱり強がりばかりが出てくる様子は箒らしい。

一夏は頭を撫でながら、ポニーテールではないその髪型が気になったようだ。

 

「ちょうど良かったかもな。これ、やるよ」

 

「え……?」

 

一夏はおもむろに箒に何かを渡す。

 

「り、リボン……?」

 

「誕生日、おめでとうな」

 

「あっ……」

 

そう、今日は7月7日……箒の16歳の誕生日だ。

一夏の奴、こんな状況の中渡すとは。

なかなか憎めないな奴だ。

 

「それ、せっかくだし使えよ」

 

「あ、あぁ……」

 

「じゃあ、行ってくる……まだ、終わってないからな」

 

「その通りだ一夏」

 

言うなり、一夏とオレはこちらに向かってきていた福音へと急加速、正面からぶつかった。

 

「「再戦と行くか!」」

 

一夏は雪片弐型を右手だけで構え、オレはイフリートを両手で構えて同時に斬りかかる。

 

それをひらりとのけ反ってかわした福音を、一夏は白式第二形態の新たな左手の新兵器『雪羅』で追った。

第二形態に移行した事で現れたその装備は、状況に応じていくつかのタイプへと切り替えられるらしい。

現に、今はその指先からエネルギー刃のクローが出現していた。

 

「逃がさねぇ!」

 

1m以上に伸びたクローが福音の装甲を斬る。

シールドエネルギーに阻まれはしたが、その一撃は確実に福音を捉えていた。

 

「おらぁぁぁぁっ!!」

 

オレはイフリートを実体剣モードからビームソードモードに変形させて斬りかかる

 

『敵機の情報を更新。攻撃レベルAで対処する』

 

エネルギー翼を大きく広げ、さらに胴体から生えた翼を伸ばす。

そして次の回避の後、福音の掃射反撃が始まった。

 

「そう何度も食らうかよ!桜萪、オレの後ろに!」

 

「分かった!」

 

オレは一夏に言われた通りに、背後へと回り込む。

すると一夏は左手を構えて前へと飛んだ。

 

「雪羅、シールドモードへ切り替え。相殺防御!はあぁぁっ!!」

 

キンッ!と甲高い音を鳴らして、雪羅が変形する。

それから光の膜が広がって、福音の弾雨を消していった。

 

(これは……零落白夜のシールドか!)

 

零落白夜はエネルギー全てを無効化させる最強の武器。

当然エネルギー消耗は激しいが、完全に福音の攻撃を無効化できる以上、圧倒的にこちらが有利になった。

 

「うおぉぉっ!」

 

強化され、大型4機のウイングスラスターが備わった白式・雪羅は二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)を可能にしていた。

複雑な動きをする福音も、最高速での回避が可能な訳ではないから、一夏は十分追い付いていた。

 

『状況変化。最大攻撃力を使用する』

 

福音の機械音声がそう告げると、それまでしならせていた翼を自身へと巻き付け始める。

 

(……まずいぞ……これは──)

 

翼が回転しながら一斉に開き、全方位に対して嵐のようなエネルギーの弾雨を降らせる。

 

それはつまり、ダメージから回復しきれていないラウラ達にも攻撃が及ぶのだ。

 

(くそっ!いけるか……!?)

 

すぐにオレと一夏は仲間の盾に向かおうとするが、それを怒鳴り声に蹴飛ばされる。

 

「何やってんのよ!あたしたちは腐っても代表候補生よ?余計な心配しないで、さっさと片付けちゃいなさいよ!!」

 

「鈴の言う通りだ!桜萪、一夏、行ってこい!」

 

「鈴、ラウラ……分かった!任せろ!!」

 

ここまで言われたらやるしかねぇよな?

そう、オレは……ラウラを……!!

”惚れた女"を守ってみせる!!

 

 

「はあぁぁぁぁっ!!」

 

「おらあぁぁぁっ!!」

 

オレと一夏は何回も福音に攻撃をしてそのエネルギー翼を絶っていく。

しかし、両方の翼を斬るのは至難の業で、またしても次の攻撃を回避されてしまう。

そうしているうちに失った翼は再度構築されて、こちらへと強化無比な連続攻撃をしてくる。

 

「くっ!」

 

「ちぃっ!」

 

(エネルギー残量31%……予想稼働時間、4分。早くケリをつけねぇと、こっちがもたない……!)

 

リミッター無しの軍用ISがどれほどのエネルギーを持っているのかはさっぱりだ。

対して自分達の機体には稼働限界が近づいている。

それはだんだんと焦りになっていき、無駄な考えを起こさせてしまう。

 

「一夏、桜萪!」

 

「箒!!お前、ダメージ──」

 

「大丈夫だ!それよりも、これを受けとれ!」

 

箒の……紅椿の手がオレのアルティウスと一夏の白式へと触れる。

その瞬間、全身に電流のような衝撃と炎のような熱が走り、一度視界が大きく揺れた。

 

「な、なんだ……?」

 

「エネルギーが全回復だと!?」

 

刹那、まるでエメラルドのような鮮やかな緑色の粒子がアルティウスを包み込む!

 

「こ、これは……!?」

 

ハイパーセンサーからの情報で、機体のシールドエネルギーが『700』から『∞』へと表示が変わる。

……『天翔翠牙(てんしょうすいが)』、発動。

シールドエネルギー無限……!?

項目に書かれているのはワンオフ・アビリティーの文字だった!

 

「よくは分からないが……行くぜ!一夏、箒!」

 

「おう!」

 

「言われずとも!」

 

オレはグリフォンを右手で持ちながらツインプラズマレールガン『プラズマノヴァ』を最大出力で放つ。

かなり強力なビームを撃っているのにシールドエネルギーは全く減らない。

 

「天翔翠牙か……これはなかなか恐ろしいな。……一夏っ!」

 

「うおぉぉぉっ!」

 

一夏は雪片弐型の零落白夜のエネルギー刃を最大出力まで高めながら、その巨大な光の刃を両腕で支えて振るった。

福音は一夏の横薙ぎの縦軸一回転して回避、再び視界に捉えると同時に光の翼を向けてくる。

 

(……かかった!)

 

「「箒!!」」

 

オレと一夏に向けられた翼を、紅椿の刀『雨月』と『空裂』が並び一断の斬撃で断ち切る。

 

「逃がすかぁぁぁっ!」

 

さらにオレは脚部と右腕の展開装甲を解放し、急加速の勢いを乗せた回し蹴りとパンチが福音の本体に入った。

予想外の攻撃だったのか大きく姿勢を崩した福音を、一夏は下から上へと返す刃で残りのエネルギー翼もかき消していく。

そして、最後の一突きを繰り出そうとする一夏に、福音は体から生えた翼全てで一斉射撃を行ってきた。

 

(負けない!約束したんだ……ラウラと!)

 

全身にエネルギー弾を浴びながらも、オレはプラズマノヴァを最大出力で放ち、向かってくるエネルギー弾を撃ち落とすしていく。

一夏もトドメとばかりに福音の胴体へと零落白夜の刃を突き立てた。

そこへさらに一夏は全ブースターを最大出力まであげる。

 

押されながらも、一夏の首へと手を伸ばす福音だったが、その指先が一夏の喉笛に食い込んだところでシールドエネルギーが0になり、やっとその動きを停止した。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

安心しているとアーマーを失い、スーツだけの状態になった操縦者が海へと墜ちていってしまった。

 

「まずっ!?」

 

「……ったく。ツメが甘いのよ、ツメが」

 

ようやくダメージから回復したらしい鈴が、海面接触ギリギリで操縦者をキャッチした。

同じく、シャルロット、ラウラ、セシリアも無傷とはいかないが無事のようだ。

 

「終わったな」

 

「あぁ……やっと、な」

 

「……あ……」

 

非常に……ヒジョ~~に!

大事な事を忘れていたぁぁぁぁ!!

 

「どうした桜萪?」

 

「……千冬姉に無許可で出撃しちまってたんだった」

 

「「「「「「……あ……」」」」」」

 

全員が顔を真っ青にした。

せっかく強敵をたおしたのに勝利の余韻にも浸れない程とは……。

 

「さぁ……皆、仲良く逝こうではないか」

 

「うん、桜萪。その表現は間違っていない」

 

「この景色が最後か……」

 

「しっかり胸に焼き付けよう……」

 

「「「「「「「……はぁ……」」」」」」」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「──作戦完了……と言いたいところだが、お前達は独断行動により重大な違反を犯した。帰ったらすぐに反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、そのつもりでいろ」

 

「「「「「「「……はい」」」」」」」

 

はぁ……悲しいZE……。

腕組みで待っていた鬼こと千冬姉にオレ達はきつく言われて、勝利の感触さえおぼろげな状態。

今は大広間で全員正座。

この状態でもう30分以上は過ぎただろう……。

セシリアの顔が真っ赤から真っ青になり始めているのが危険信号だ。

あぁ……オレもなんだか足が痺れてきた。

 

「あ、あの、織斑先生?もうそろそれその辺で……け、怪我人もいますし、ね?」

 

「ふん……」

 

怒り心頭の千冬姉に対して、山田先生はおろおろわたわたしながら救急箱を持ってきたり、水分補給のドリンクを持ってきたりと忙しい。

 

「じゃ、じゃあ、一度休憩してから診断しましょうか。ちゃんと服を脱いで全身見せてくださいね……あっ!も、もちろん男女別ですよ!分かってますか、織斑君、櫻井君!?」

 

((……分かってますよ))

 

というかさぁ、『脱いで』のあたりでオレ達2人以外の女子がそれとなく自分の体を隠したのが、軽くちょっと傷ついた。

オレってそんな変態な部類の人間に入ってるの?

 

「それじゃ、皆さんまずは水分補給をしてください。夏はきちんと意識して補給しないと大変な事になりますからね」

 

はーいと返事をして、オレ達はスポーツドリンクを受けとる。

おぉ、あなたが神か。

 

「………………」

 

「「な、なんですか?織斑先生」」

 

じーっとこちらを睨んでいたので、思わず聞いてしまった。

一夏……お前も思っていたのか。

 

「……しかしまぁ、よくやった。全員、よく無事に帰ってきたな」

 

「え?あ……」

 

「は、はぁ……」

 

なんだか照れ臭そうにしていたように見えたが、すぐに背を向けてしまった。

 

なんだかんだでオレ達の身を案じてくれている千冬姉に、オレは心の中で感謝する。

直接は千冬姉が嫌がるだろうしね。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

……ん?

なんで女子の皆さんオレ達を見て……いや、睨んでらっしゃるの?

 

「あの、織斑君、櫻井君?皆の診察をしますから、えぇと……」

 

「「「「「とっとと出てけー!!」」」」」

 

「「はい、ただいまー!」」

 

5人の声にオレと一夏は慌てて廊下に脱出!

ピシャリと閉じた襖に、オレ達は背中を預けて深く息を吐いた。

 

「「ふぅ……」」

 

「一夏、おつかれさん」

 

「おう、桜萪もな」

 

2人で笑いながら拳と拳を合わせる。

 

「なぁ一夏」

 

「ん?」

 

「オレは……いや、オレ達は仲間を守れたよな?」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

その時、ふとラウラの顔が浮かんだ。

瞬間、頬が熱くなり、心臓の鼓動もドキドキと早く打ち始めた。

そういえば、戦闘中にラウラの顔が浮かんだ。

そしてそのまま力が体の奥底から湧いてきたのを覚えている。

 

(ラウラ……)

 

あ、そうか……オレって、ラウラのことが……。

 

 

◇◆◇◆

 

 

さて、時間は過ぎ去り、所変わって大宴会場。

 

「ね、ね、結局なんだったの?教えてよ~」

 

「……ダメ、機密だから」

 

お膳を挟んでパクパクと夕食を食べるシャルロットに、1年女子が数名群がってあれやこれやと訊いている。

ちなみに、席順はオレの隣が箒、正面がシャルロット、箒の隣が一夏だ。

 

「ちぇ~シャルロットってばお堅いなぁ」

 

「はぁ……あのなー、聞いたら制約がつくんだぞ?それでもいいなら教えるよ?」

 

「あー……それは困るかなぁ」

 

「櫻井君も厳しい」

 

「はいはい。分かったならこの話はこれでおしまい。もう何も答えないよ」

 

「ぶーぶー」

 

やれやれ……。

皆さん元気のよろしいこって……。

シャルロットも大変だねぇ。

 

「な、何かな?」

 

ふと、オレの視線に気づいたシャルロットが尋ねる。

うーん、オレはただシャルロットを見ていただけなんだが……。

もしここで何でもないと言うとなぜか不機嫌になるしなぁ……うーむ。

 

「シャルロット、浴衣の胸元がゆるんでるよ」

 

ぼそりと隣の女子が何かを吹き込んでいる。

なんでしょう、かなり嫌~な予感がしてなりませんです、ハイ。

 

「っ……!!」

 

案の定、シャルロットは顔を真っ赤にして慌てて浴衣の合わせ目を手で塞ぐ。

……はて?何でございますか、シャルロットさん……。

その抗議100%の瞳は!

 

「お、桜萪のえっち……」

 

「ちょっと待てぇぇいっ!!」

 

いきなりの冤罪だ。

ていうかなんで!?

オレ何もしてないよシャルロットさん!?

 

「……うっそー。浴衣はゆるんでませ~ん♪」

 

「!!」

 

また何やら隣の女子がぼそりと言っている。

それを聞いたシャルロットは、耳まで真っ赤にしつ立ち上がった。

さっきから一体なんなんだし……。

 

「……………」

 

「やー、お刺身が美味しいなぁ。あはは~」

 

シャルロットの抗議の眼差しはオレから隣の女子へと移動。

しかし、当の本人は気にしないでパクパクと料理を食べている。

 

「それにしてもシャルロットってば、えっちぃなぁ」

 

「ち、違うよ!?ぼ、僕は、ただ、そのっ……!」

 

今度はわたわたとしだしたシャルロットが、女子の言葉に翻弄されている。

う~む……状況が全く分からないYO。

 

「お、お、桜萪……?あの、ごめんね……?」

 

「ん?まぁ気にすんな」

 

よく分からないが素直に返事する。

うむ、上出来だ。

それからすとんと着席したシャルロットは、にこりと笑顔を見せた後さりげなく隣の女子の横腹をつねっていた。

……ぬおぉ、何か怒ってない?

 

「………………」

 

パクパクモグモグ。

 

さっきからせわしなく箸を動かし続けているのは、オレと一夏に挟まれて食べているポニーテール復活の箒だ。

どうも一夏に話しかけられないようにずっと食べている気がするんだが……はて?

 

「あ……箒?」

 

パクパクモグ……ぴたり。

 

一夏も気になっていたみたいで、箒に話しかける。

 

「えーと、体は無事か?怪我とかしてないか?」

 

……こくり。

 

一呼吸置いてから頷いて、また食事を再開する。

……うーむ。

 

「なぁ箒よ」

 

一度身をすくませてから、箸を置いてゆっくりと一夏を見る。

その動きは妙にぎこちなく、一夏やオレでなくても箒がおかしい事に気づくだろう。

 

「な、な、なんだ……?」

 

「いやな、どうも様子がおかしいからどうしたのかなーと」

 

「お、おかしい……ですか?」

 

「ゲホッ、ゲホッ!!」

 

「ちょ、ちょっと桜萪!大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫……問題ない、シャルロット」

 

いかん、お茶が気管に入った。

な、なんだその似合わない敬語は……!?

 

(明らかに変だろ!?何があったんだ箒よ!)

 

「えーと……やっぱり何でもない」

 

「え……あ、う……ん」

 

ありゃりゃ。

一夏の言葉に箒はしょんぼりと肩を落として、さっきよりも半分以下の速度で食事を再開した。

……乙。

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

はぁ……2人のせいで気まずいジャマイカ。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ふぅ……綺麗だな」

 

食事の後、オレは軽い休憩をしてから千冬姉に許可を貰って、旅館から出て砂浜で満天の星空を眺めていた。

それに、今日は満月なので真夜中であっても結構明るかった。

 

「なーんか……あっという間だな」

 

初日の自由時間、2日目の箒の紅椿と福音暴走……。

大きなイベントがあり過ぎて疲れてしまう。

 

「せ、セシリア!?なんでこんなところにいんのよ!」

 

「鈴さんこそ!か、勝手に旅館を抜け出して、怒られても知りませんわよ」

 

(あん?……鈴にセシリア、ラウラにシャルロットもいるし……どうしたんだ?)

 

「お前ら何してんの?」

 

「「「ドキィッ!!」」」

 

ラウラ以外の女子がびっくりしていた。

こらこら、そう睨むな。

 

「桜萪、ここにいたのか」

 

「おう、星空が綺麗だったもんでな」

 

「そうか。私は後ろから桜萪に抱きつこうとしていたのだ。どうだ、嬉しいだろう」

 

なぜそう堂々と恥ずかしい事が言えるんだお前は。

 

「ははっ……んで?ラウラ以外のお前らは何してんだ?」

 

「あ、あたしは一夏と卓球をしようと誘おうとしたらいなくて……探してたのよ」

 

「わたくしもまた一夏さんにマッサージをしてもらいたくて……」

 

「ぼ、僕は一緒に旅館のゲームをしようかなぁって」

 

なるほど、言葉は違えど目的は一夏か。

 

「そういえば、箒もいないわね」

 

「言われてみればそうですわね」

 

……あ、そういえばあの2人……。

 

「……一夏はそっちで泳いでたぞ。箒も水着姿だったからなぁ。一緒に泳いでる──ん?」

 

「一緒に……ですって?」

 

「お、おう」

 

「どこで泳いでるの?」

 

「あっちの岩場で一夏が泳いでるのを見た」

 

「そうですか。うふふふ……」

 

そう言うと、セシリア達はゆっくりと岩場の方へ向かった。

……あれ?

オレ地雷踏んだ?

 

「……けど、面白そ~」

 

「なんだ?お前も行くのか?」

 

「結構見物だしな~♪」

 

オレはシャルロット達に続いて一夏と箒がいる岩場へと向かう。

そして、オレやラウラ達が見たのは一夏と箒が見つめあっている姿だった。

 

ブチッ!

 

「……ありゃ……?」

 

ラウラ以外の3人はゆっくりとISを展開していく。

……ひぃ!鬼がいるよ!!

 

「あ、あの~……セシリアさん?」

 

「黙ってなさい」

 

「鈴?」

 

「うるさい」

 

「シャルロ──」

 

「話しかけないでくれるかな?」

 

「……はい」

 

まずい……ごめん一夏、死んだよお前?

とりあえず、ノリでオレもISを展開して3人についていく。

もちろんラウラもだ。

反省?

してませんけど!!

 

──一夏は目を閉じて、やや唇を上向きに突き出している箒の肩に触れる。

それから改めて身を預けている箒に目を閉じてゆっくりと顔を近づけて……。

 

ごつっ。

 

改めて顔を近づけて……。

 

ごつっ。

 

一夏がゆっくりと目を開けると、そこにはフィン状の浮遊物体がすぐ目の前になっており、その先端が四角いスリットになっていた。

 

キュィィィ……。

 

「ぬあぁぁっ!?」

 

ビシュンッ!!

 

間一髪、BTレーザーがのけ反った一夏の髪を焼き切った。

 

「り、鈴……セシリア……シャルロット……ラウラ……桜萪……」

 

「よし、殺そう」

 

「一夏、何をしているのかな……?」

 

「ふふっ、うふふふっ」

 

「一夏、乙」

 

「……南無」

 

順番に鈴、シャルロット、セシリア、オレ、ラウラ。

 

「ほ、箒っ!逃げるぞ!」

 

「えっ、あっ、きゃあっ!?」

 

一夏はそのまま箒を抱き抱えると、一気に走りオレ達から逃げ出す。

ちなみに、レーザーや弾丸を撃って追うのはラウラとオレ以外の3人のみ。

 

「一夏よ……君の死は無駄にはしない」

 

オレはゆっくりと合掌して黙祷を捧げる。

ラウラもオレの隣で同じようにをした。

 

「あぁ、そうだラウラ。お前に言いたい事があったんだ」

 

「なんだ?」

 

「オレ、お前のこと好きだわ」

 

「……?…………!?!?」

 

予想外の展開だったらしく、ラウラは耳まで真っ赤にしてあたふたと慌てている。

あ、こんなラウラも新鮮だな。

 

「なっ!?お、お前っ!」

 

「オレはラウラが好きだ。ラウラがいいならオレと付き合ってくれ。やっと気付けたんだ、オレの気持ちを」

 

今思えばラウラとの出会いは運命の人だったのかもしれない。

最初こそ互いに印象が最悪だったものの、オレ達はこうして心を通わす事ができた。

そしてお互いに恋愛という感情をもつまでに至った。

銀の福音との激戦の中で気付けたこの想い、オレはラウラが好きだ。

 

さて、一瞬何を言われたのか分からなかったラウラはぽかーんと口を開いていたが、ようやく意味を理解するとさらにゆでダコのようにかなり真っ赤になった。

 

「わ、私は……え、えーと……」

 

いつも堂々と恥ずかしい事を言うくせに、こういう状況には弱いんだなラウラは。

新発見とはまさにこの事。

しばらくパニックになるラウラだったが、頬を赤く染めなからこちらを見て言った。

 

「……待たせ過ぎだ馬鹿者。う、浮気なんぞしたら肉塊にしてやるからな!」

 

「大丈夫だ。オレにはラウラしかいないから」

 

「……馬鹿者」

 

こうして、オレとラウラは晴れてようやく恋人同士という関係になる事ができた。

……明日がある意味楽しみで怖いな。

 

 

◇◆◇◆

 

 

──翌朝。

朝食を終えて、生徒全員はすぐにIS及び専用装備の撤収作業に当たった。

10時を過ぎたところで作業は無事に終了、全員がクラス別のバスに乗り込んだ。

どうやら昼食は、帰り道のサービスエリアで取るらしい。

 

「ふ~」

 

「桜萪、お茶飲むか?」

 

「お、サンキュー」

 

さて、昨晩晴れてカップル同士になったオレとラウラは、初日の朝と同じく座席は一緒だった。

昨日の夜のうちに1年全員に知られて、今でも周りの女子からひそひそ声が聞こえる。

女子の情報網というのは恐ろしいものだな!

 

「あ~……」

 

対して、一夏はボロボロの状態で座席に座っていた。

昨日の一夏は、1時間近く追い回されたあげくに、旅館を抜けたのがバレて大目玉。

睡眠時間は3時間ちょいだけだったらしくかなりしんどいようだ。

 

「すまん……誰か、飲み物を持っていないか……?」

 

「持ってない」とオレ。

 

「これは桜萪のだ」とラウラ。

 

「知りませんわ」とセシリア。

 

「あるけどあげない」とシャルロット。

 

鈴は隣のクラスだからいない。

 

うん、皆あげないみたいだ。

一夏は最後の望みと言わんばかりに箒を見る。

 

「なっ、何を見ている!」

 

真っ赤になったと思いきや、いきなり一夏の眉間にチョップをした。

うん、痛そうだ。

 

「ふ、ふんっ……!」

 

どうやら箒もあげないらしい。

どこまでも哀れな一夏だった。

 

すると、そんな賑やかな(?)車内に見知らぬ女性が入ってきた。

 

「ねぇ、織斑一夏君と櫻井桜萪君っているかしら?」

 

「あ、はい。オレですけど?」

 

「ん?はーい」

 

前の座席にいたことが幸いした。

オレと一夏は呼ばれると、素直に返事をした。

その女性は、多分20歳くらいで明らかにオレ達よりも年上で、鮮やかな金髪をしている。

格好はというと、格好いいブルーのサマースーツを着ているが、千冬姉のようにビジネススーツではなくつおしゃれメインのカジュアルスーツだ。

 

「君達がそうなんだ。へぇ」

 

女性はそう言うと、オレと一夏を交互に興味深そうに眺める。

それは、純粋に好奇心で観察している感じだ。

 

「あの~……どちら様で?」

 

「私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の操縦者よ」

 

「「えっ?」」

 

2人して予想外の言葉に困惑していると、一夏はナターシャさんに頬にキスされた。

 

「これはお礼よ、白いナイトさん」

 

一夏にそう言うと、ナターシャさんはこちらにもキスしようとする。

 

「す、すいません。握手だけでお願いします」

 

「あら?ずいぶん恥ずかしがり屋さんなのね。フフッ、いいわよ」

 

ナターシャさんは怒ったり、気分を害したりする事なくキスの代わりに握手をしてくれた。

てかキスなんてされたらオレは肉塊になります、お隣の方によってね!

 

「じゃあ、またね。バーイ」

 

「は、はぁ……」

 

ひらひらと手を振ってバスから降りるナターシャさんを、オレは普通に、一夏はぼーっとしたまま手を振り返して見送る。

 

「……え~と」

 

そんな一夏はある視線もとい、死線を感じてぎぎぎと後ろを振り向いた。

 

「一夏ってモテるねぇ」

 

「本当に、行く先々で幸せいっぱいのようですわね」

 

「はっはっはっ」

 

すたすたと一夏に向かって歩いてくる3人

うん、正直怖いわ。

 

「「「はい、どうぞ!」」」

 

一斉に一夏に投げつけられるペットボトル×3。

一夏、乙。

 

「なんだ、準備してんじゃん」

 

「そういうお前は自分の心配をしたらどうだ?」

 

「だって何もしてないし。だからそのコンバットナイフ下ろして!?」

 

「断る」

 

 

こうして夏合宿は賑やかに、ハラハラしながら終わった。




さあ、やっとくっつきました!
ようやく、ラウラの想いを受け止め恋人同士となった桜萪。
今後の展開に注目です。
さて、桜萪にも天翔翆牙というチートなワンオフが発動しました。
白式が消滅、紅椿が倍加、ときたのでアルティウスは無限!というノリでこのワンオフは生まれました。
まぁ脳内設定では簡単に発動しないという事で、試合では使えません。

さて、次回もお楽しみに~。
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