IS・ALUTIAUSS〈インフィニット・ストラトス アルティウス〉   作:ZERO式

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第11話 ドレスとメイドとクレープと

「……何してんの?」

 

今の状況説明。

朝7時頃、シャルロットとラウラの部屋に入ると、真っ裸のラウラがシャルロットをベッドに押し倒してその首筋にナイフを当てていた。

うん、何このカオス。

 

「えーと、あのね?ラウラがうなされていたから声をかけようとしたらね」

 

「なるほどね。まぁラウラよ、ひとまず退こうか?」

 

「そ、そうだな。すまなかったなシャルロット」

 

「ん、別にいいよ。気にしてないから」

 

「そうか、助かる」

 

そう言ってラウラはシャルロットから退いた。

オレは近くにあったイスに座って携帯をいじりながら言う。

 

「んで、ラウラよ。お前まだ裸で寝てんのか?」

 

そう、相変わらずラウラは真っ裸で寝ているようなのだ。

さすがに15歳男子にはまずい光景だが、なんかもう慣れてしまった。

慣れって怖いねぇ、年頃のはずなんだけどな……。

 

「寝る時に着る服がない」

 

「いや、そうかもしれないけど……ったく、風邪引くぞ」

 

シャルロットも苦笑いしながらラウラにバスタオルをかける。

本当にラウラのルームメートがシャルロットで良かったと心から思う。

 

「ふむ、すまないな。ところで桜萪はどうしたんだ?」

 

「2人を朝飯に誘いに来たんだよ」

 

「そうか、それはありがたい。だが、最初にシャワーを浴びてもいいか?」

 

「あぁ、別に構わないぞ」

 

「助かる。シャルロットはどうする? 」

 

「うん、僕も浴びようかな。冷や汗かいちゃったし」

 

「一緒にか?」

 

「ち、違うよっ、もう!ラウラの後!」

 

「冗談だ」

 

ラウラはそう言うと、シャワールームに入っていった。

おぉ、最近のラウラは冗談も言えるまでに成長したのか。

 

「はぁ……シャルロットも大変だな」

 

「大丈夫だよ。楽しいし」

 

そう言うシャルロットは本当に楽しそうな顔をしていた。

 

「なら良かった。オレはひとまず部屋に戻るからシャワーが終わったら来てくれ」

 

「分かったよ」

 

オレはそのまま部屋を後にしようとしたが、ふとある事を思い付いた。

 

「なぁシャルロット。今日は暇か?」

 

「ん?うん、特に予定はないよ。なんで?」

 

「ちょっと耳貸せ」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「買い物だと?」

 

「うん、そうだよ」

 

「おう」

 

寮の食堂、そこで早めの朝食を取りながらオレ達3人は話していた。

ちなみにメニューはオレがしょうが焼き定食、シャルロットとラウラはマカロニサラダとトースト、ヨーグルトなのだが……。

 

「朝からステーキとは……随分豪勢だな」

 

「何を言う。朝に一番食べる方が体の稼働効率は良いのだぞ?科学的にも証明されている。そもそも、後は寝るだけの状態……すなわち夕食だが、そこで一番食べるという方がおかしいのだぞ。消化されないエネルギーは全て脂肪へと変わる。ま、太りたいのなら止めはしないがな」

 

「……ラウラ、それ誰から聞いたの?」

 

「一夏からだ」

 

「「はぁ……」」

 

んなドヤ顔で言うなよ。

結構、感化されやすい性格なのかラウラは?

 

「む、なんだそれは?」

 

「なんだって……マカロニ?」

 

「それは分かっている。どうしてフォークに通したのかを聞きたいのだ。刺すではなく、なぜ通したのかを」

 

ラウラがこんなにも真剣な眼差しで聞く理由。

それは、シャルロットが何気なくフォークの先端にマカロニを通して食べたからだ。

ラウラもそんな事くらいで真剣にならなくても。

 

「なぜって言われても……なんとなく?」

 

「ふむ、なんとなく……」

 

「ラウラもやってみたら?結構楽 しいよ?」

 

そう言ってから、シャルロットはハッとしてオレを見てきた。

どうしようもないのでオレは苦笑いをしてシャルロットを見る。

 

「シャルロット」

 

ビクッ!

 

いきなりラウラに名前を呼ばれてシャルロットはびっくりする。

 

「これは、確かに面白いな。ふむ……せっかくだ。全部の先端に通してみよう」

 

そう言ってすぐ、ラウラは他のマカロニもいじり始める。

どうも本当に面白がってるらしく、その反応にシャルロットはホッとしていた。

 

「む、く、これは思ったよりも難しいな……この」

 

なかなか最後のマカロニが通らず、悪戦苦闘するラウラ。

 

(な~んか和むなぁ)

 

「できた」

 

「「おー」」

 

マカロニを先端に通したフォークを軽く持ち上げるラウラと、それに拍手するオレとシャルロット。

なんかラウラが誇らしげな顔をしてるよ。

どや顔とでも言うべきだろうか?

 

「それで、買い物には何時に行くんだ?」

 

「だいたい10時には出ようと思ってる」

 

「1時間くらい街を見て、どこか良さそうなお店でランチにしよ♪」

 

「そうか、分かった」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「……な、なぁ、ラウラ。その軍服はなんだ?」

 

「うむ、これは正式には公用の服だが、生憎私には私服がない」

 

今は学園を出るため、それぞれ部屋へと戻って準備をしていた。

オレは黒のTシャツとダメージタイプのジーンズという、至って簡単な服装だ。

自分の用意が終わって2人の部屋に入ったら、真っ黒い軍服を着たラウラと私服のシャルロットがいた。

 

「「………………」」

 

さすがにオレとシャルロットは頭を抱えた。

そういえば、ラウラはいつも普通の女の子の格好をしていなかった。

 

「ラウラ、制服でいいよ……その服って勝手に着たら本国の人に怒られるでしょ?」

 

「そう言われればそうだな。分かった、制服に着替えよう」

 

「んじゃオレは部屋の外で待ってるぞ」

 

それから女子とは思えない早さでラウラが着替えを終えて、部屋を出たのは15分後だった。

 

「まずはバスで駅前に移動だな」

 

「そうだね」

 

「うむ」

 

バス停に着くとちょうど良いタイミングでバスが走ってきて、オレ達はそのまま乗り込んだ。

夏休み、それも10時過ぎという事もあって、車内は結構空いていた。

ちなみに、シャルロットは夏らしい白を基調としたワンピース。

それに淡い水色を加えて、涼しさと軽快さを醸し出していた。

都市部の バスにしては珍しく、車内は冷房ではなく窓からの風で涼を得ていた。

 

(そういえば最近街には行ってなかったな。だいたいは駅前のレゾナンスで済ませていたし……まぁラウラやシャルロットもそんなに行ったこと無さそうだし、楽しみますか~)

 

オレ、ラウラ、シャルロットは全員で座れるようにと一番後ろの席に座っていた。

ちなみにオレは両サイドを挟まれている形なのでちょっと緊張している。

 

「ね、ね、あそこ見て。あの3人」

 

「うわ、すっごいキレー」

 

「真ん中の子も可愛いし。モデルかな?」

 

「そうなのかな。銀髪の子が着てるのって……制服?見たことない形だけど」

 

「バカッ。あれ、IS学園の制服よ。カスタム自由の」

 

「えっ!?IS学園って、確かに倍率が1万超えてるんでしょ!?」

 

「そうよ。入れるのは国家を代表するクラスのエリートだけよ」

 

「うわ~。それであのキレイさって、なんかズルイなぁ……」

 

「まぁ、神様は不公平なのよ。いつも」

 

オレ達3人に注目している女子高生グループが声のボリュームを抑える事もなく騒いでいる。

当然、バスの中は狭いのでお構い無しに会話が聞こえてくる。

 

(まぁ……オレが男だって知られて騒がれるよりはマシだが……いや、女子と勘違いされてるのもなんか腹が立つ。うーむ……)

 

そう色々考えているうちに駅前に着いた。

 

「ラウラ~、シャルロット~、着いたぞ~」

 

「うん」

 

「分かった」

 

オレ達は他の乗客数名と一緒にバスを降りる。

すると、早速トラブル発生。

 

「ねぇ~ねぇ~彼女~。オレ達と一緒にお茶しない?」

 

いきなりチャラ男4人にナンパされた。

てか、気持ち悪……。

今の世の中、女に話し掛けるなんてよほどのアホだ。

 

「いいえ、結構です」

 

シャルロットがすかさず1人を睨みながら冷たく断る。

 

「そうつれない事言わないでさ~」

 

「楽しいよ~?」

 

そう言いながらチャラ男の1人──あぁもう、チャラ男Aがオレの肩に手を置いてきた。

 

「……香水臭い。その手を離せ、汚らわしい」

 

「……あぁん?調子に乗ってんなよお前……?」

 

「こっちが下手に出てりゃいい気になりやがってよ……。女だからってでけぇ顔してんな!」

 

そのままチャラ男AとBがオレに殴り掛かってくる。

ていうか女に手を出す時点でこいつらバカだ。

 

「はぁ……朝からやめてくれ」

 

オレは向かってきたBに足をかけて転ばせると、そのままの流れでAの懐に潜り込み一本背負いで投げ飛ばす。

 

「ぐえっ!」

 

「あと、言っておくけどオレ男だから」

 

それを聞いた瞬間、チャラ男達は顔を真っ青にしてこちらを見てきた。

 

「さて、オレを女と間違えたのとナンパしてきた報いを受けてもらおうか」

 

「「「「ひ、ひぃぃぃぃっ!」」」」

 

チャラ男達は脱兎の如くその場を凄い速さで逃げ出した。

……なんだ、張り合いのない奴等だ。

 

「よし、んじゃデパートに行くか」

 

「う、うん」

 

「そ、そうだな」

 

なぜか2人はちょっと顔を赤くしていた。

なんで?

 

「さ、さ~て♪」

 

気を取り直したシャルロットは、バックから何やら雑誌を取り出して、それを案内図と交互に見ては何かを確認していた。

 

「うん、うん。この順番で回れば無駄がないかな」

 

「どれどれ?あぁ、いいんじゃね?」

 

「ふむ」

 

「でしょ?最初は服から見ていって、途中でランチ。その後、生活雑貨とか小物を見に行こうって思うだけど、2人もそれでいいかな?」

 

「オレは構わねぇよ」

 

「よく分からん。任せる」

 

「分かった。ところでラウラは私服はスカートとズボン、どっちがいいの?」

 

「ん、どっちでも──」

 

「どっちでもいいとか、言わないでね」

 

「むぅ」

 

「とりあえず7階フロアへと向かうよ。その下、6階と5階もレディースだから、順に見てこ」

 

「うん?なぜ上から見るんだ?下から見たらいいではないか」

 

「上から下りた方が効率がいいの。ほら、お店の系統から見ても、そうでしょ?」

 

そう言われてラウラはシャルロットが開いた本を見るが……。

 

「まったく分からん」

 

「~~~~っ!あのね、下の階はもう秋物になってるの。上の方の階もだいぶ入れ替えてると思うけど、今はセールで夏物が残ってるから、先にそっちを──」

 

「待て、秋の服はいらないぞ」

 

「は?いらないって……なんでだ?」

 

「今は夏だからだ」

 

何でもないように言うラウラだったが、オレとシャルロットは唖然としてしまった。

 

「秋の服は、秋になってから買えばいい」

 

「いや、あの……だな?女の子っていうのは普通、季節を先取りして用意するもんなんだ」

 

「桜萪の言う通りだよ」

 

「そうなのか……ふむ、確かに、戦争になってから装備や兵を調達しても間に合わん つまりそういう事か?」

 

「えっと……うん、それであってるよ」

 

「うん、間違ってない」

 

「備えあれば憂い無しというやつだな」

 

単純に女の子としての感性の問題なのだが、ラウラは理屈でそう理解した。

それを一概に間違ってるというのも変なので、オレとシャルロットはそれで良しとする事にした。

 

「とにかく、順番に見ていこうよ。分からない事があったら何でも聞いてね」

 

「そうだな。シャルロットと桜萪が一緒なら心強い」

 

オレ達3人はエレベーターに乗って一気に7階まで進む。

館内は、夏休みという事もあり10代の女子男子で溢れていた。

 

「はぐれるとまずいな」

 

「そうだね。手、繋いでいこっか」

 

「う、うむ」

 

するとシャルロットはぼそぼそとラウラに耳打ちをした。

 

「そ、それは……本当にするのか?」

 

「大丈夫だって♪」

 

「う、うむ」

 

そう言うと、ラウラ顔を赤くしながらはこちらを見てくる。

 

「どうした?」

 

「そ、その……だな……一緒に手を……繋いで欲しい」

 

「お、おう。別にいいぞ」

 

そう言ってオレはラウラの手を握る。

 

「はぅっ!」

 

すると、ラウラはそう軽く驚いた声をあげてやっぱり顔を赤くしながらちょっとうつむいていた。

 

「じゃ、まずはここからね」

 

シャルロットもラウラと手を繋ぎながら最初の店を見る。

 

「『サード・サーフィス』……変わった名前だな」

 

「結構、人気があるお店みたいだよ。ほら、女の子もいっぱいだし」

 

確かに店内には女子高生・女子中学生が多くいた。

セール中という事もあって、店内は騒々しい。

 

「………………」

 

ばさり、客に手渡すはずの紙袋が店長の手からすり抜けて落ちる。

 

「金髪に銀髪……それに青髪?」

 

店長の異変に気づいた店員もその視線を追う。

そしてそのまま、魅力されたように呟いた。

 

「お人形さんみたい……」

 

「何かの撮影……?」

 

「……ユリ、お客さんお願い……」

 

店長はこちらに視線を向けたまま、ふらふらと歩み寄ってくる。

ち、ちょっと怖い……。

 

「ちょっと、え、あ、私は?ていうか、服……落ちたままだし……」

 

文句を言おうとした女性客もまた、こちらを見てきて何かに魅了されたように言葉を失っていた。

 

どうだ?」

 

「 いや、面倒く──」

 

「「面倒くさい、はナシで」」

 

「……………」

 

またしても台詞を先回りされて、ラウラはそのまま黙ってしまった。

そうこうしている間に店長とシャルロットはシャツに合うインナーとボトムスを選んでいった。

 

「ストレッチデニムのハーフパンツに、インナーは……」

 

「Vネックのコットンシャツなんてどうでしょうか?」

 

「あ、いいですね、それ。色は同系色か、はたまた対照色か……う~ん」

 

あれやこれやと店長とシャルロットは楽しそうにラウラの服を選んでいく。

 

「む~……わりぃ、ラウラ、シャルロット ちょっとトイレに行ってくるわ」

 

「分かった」

 

「早く戻って来てね~」

 

「あいあい」

 

ひとまず店を出てトイレに向かうが、それまで道のりがちょっと辛かった。

 

「わぁ、すっごい可愛い」

 

「きっとクール系よ!クール系!」

 

「胸は……ちょっと小さいみたいね。けどスタイルいいなー」

 

(オレは男だ!胸が無くて当たり前だろうが!)

 

それからようやく無事にトイレに到着したが、中に入ろうとして出てきたサラリーマンの人から注意された時にはショックだった。

さて、それから7分後……。

オレはあまりの光景に目を疑った。

 

「ら、ラウラ……?」

 

「桜萪……」

 

ラウラが着ているのは肩が露出した黒のワンピース。

部分部分にフリルのあしらいがあって可愛らしさを演出していた。

ややミニよりの裾がラウラの超俗的な雰囲気と合っていて、まるで妖精さながらの格好だった。

 

「み、ミュールまで用意したのかよ」

 

「せっかくだもん♪」

 

初めて履くヒールの靴にラウラが姿勢を崩す。

全員が「あっ!」と思った次の瞬間には、オレはその体を支えていた。

 

「す、すまないな」

 

「いえいえ」

 

体勢を立て直したラウラの手を取り、ノリでお辞儀をしてみる。

うん、なんか恥ずかしくなってきたわ。

 

「しゃ、写真撮っていいかしら!?」

 

「わ、私も!」

 

「握手して!」

 

「私も私も!」

 

「ちょ、ちょっと皆さん!お、落ち着いて!」

 

わぁっと一気に囲まれるオレ達。

店内だけでなく、騒ぎに集まってきた店外の人まで輪に入ってきて、あたりはしばし騒然となった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ふぅ、疲れたよまったく」

 

「まさか最初のお店であんなに時間を使うとは思わなかったね」

 

「まったくだ」

 

ちょうど時間は12時を過ぎたところで、オレ達はオープンテラスのカフェでランチをとっていた。

オレはミートソースとコーヒー、ラウラは日替わりパスタ、シャルロットはラザニアを食べている。

 

「しかしまぁ、いい買い物はできたな」

 

「せっかくだからそのまま着てればよかったのに」

 

「い、いや、その、なんだ。汚れては困る」

 

「ふぅん?あ、もしかして、桜萪と2人っきりの時に着たいとか?」

 

「「なっ!?」」

 

「ち、違う!だ、だだ、断じて違うぞ!」

 

「え?違うのか……」

 

「あ、いや……。そ、そ、そういう訳では……」

 

顔を赤らめて取り乱すラウラに、シャルロットは的を射た事を確信しながらもあえて知らないフリをする。

 

「そっか。変な事言ってゴメンね」

 

「ま、ま、まったくだ」

 

「ラウラ」

 

「な、なんだ?」

 

「「フォークとスプーンが逆」」

 

「っ~~~~~~!!」

 

シャルロットの指摘によって気がついたラウラは、それこそ耳まで真っ赤になって口に運んでいたスプーンを離した。

動揺しすぎだって……。

 

「はぁ……午後はどうするんだ?」

 

「生活雑貨を見て回ろうよ。僕は腕時計見に行きたいなぁ。日本製のって、ちょっと憧れだったし」

 

「腕時計が欲しいのか?」

 

「うん、せっかくだからね。ラウラはそういうのってないの?日本製の欲しいもの」

 

少し考えてから、ラウラはきっぱりと言う。

 

「日本刀だな」

 

「「……女の子的なものは?」」

 

「ないな」

 

はい即答です。

分かってたけど、さすがにオレとシャルロットはがくっと肩を落とした。

すると、シャルロットが隣のテーブルの女性に気がつく。

 

「……どうすればいいのよ、まったく……」

 

年は20歳後半で、かっちりとしたスーツを着ている。

 

(何か悩んでますな~)

 

オレはチラッと横目で女性を見ながらブラックコーヒーを飲む。

 

「はぁ……」

 

深々と漏らすため息には、深淵の色が見て取れる。

 

「ねぇ、2人共」

 

「お節介は程々にな」

 

「オレからはなんとも言えん」

 

今度は逆にラウラがシャルロットの言葉を先回りした。

 

「僕の事、ちゃんと分かってくれてるんだね」

 

まさかのラウラの反応にびっくりするシャルロットだったが、すぐに嬉しそうな顔をして話した。

 

「た、たまたまだ……で、どうしたいんだ?」

 

「うーん、とりあえず話だけでも聞いてみようかな?」

 

そう言って、シャルロットは席を立って女性な声をかけた。

 

「あの、どうかされましたか?」

 

「え?…………!?」

 

オレ達を見るなり、ガタンッ!とイスを倒す勢いで女性は立ち上がり、そしてそのままシャルロットの手を握った。

 

「あ、あなたたち!」

 

「は、はい?」

 

「なんスか?」

 

「バイトしない!?」

 

「「「え?」」」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「──という訳でね、いきなり2人辞めちゃったのよ。辞めたっていうか駆け落ちなんだけどね。はは……」

 

「はぁ」

 

「ふむ」

 

「なるほど」

 

「でもね、今日は超重要な日なのよ!本社から視察の人が来るし、だからお願い!あなたたち3人に今日だけアルバイトをしてほしいの!」

 

女性のお店はこれまた特異な喫茶店だった。

いや……喫茶店って言っていいのかな?

女性は使用人の格好、男性は執事の格好で接客をするという……はい、所謂メイド&執事喫茶である。

 

「それはいいんですが……」

 

着替えが終わったシャルロットはおずおずと店長に訊く。

 

「なぜ僕は執事の格好なんでしょうか……?」

 

「だって、ほら!似合うもの!そこいらの男なんかより、ずっと綺麗で格好いいもの!」

 

「そうですか……」

 

シャルロットはあまり嬉しくなさそうにため息を漏らす。

 

「本当は桜萪君にはメイド服を着て欲しかったけどね」

 

「それだけは勘弁してください……顔立ちや髪はどうあれ、女装は……」

 

「分かってるわよ♪それに、執事の格好でもかなり格好いいしね」

 

そう言う店長ははぁっとため息をしながらこちらを見てくる。

ラウラやシャルロットもオレを見て顔を赤くしている。

 

「ど、どうした?」

 

「い、いや~……桜萪凄い格好いいな~って」

 

「う、うむ。さすが私の嫁だ」

 

「そ、そうか。それはありがとう」

 

ちなみにラウラは当然ながらメイド服だ。

細身ながら強靭さを秘めた体躯に、飾りっ気の多いメイド服。

それらを統一するようにしゅっと伸びた銀髪。

そして、ミステリアスな雰囲気を出す眼帯。

 

「店長~、早くお店手伝って~」

 

フロアリーダーがヘルプを求めて声をかける。

すぐに店長は最後は身だしなみをして、バックヤードの出口へと向かった。

 

「あ、あのっ、もう1つ」

 

「ん?」

 

「このお店、なんていう名前ッスか?」

 

店長は笑みを浮かべてスカートをつまんであげ、大人びた容姿に似合わない可愛らしいお辞儀をした。

 

「お客様、@(アット)クルーズへようこそ」

 

──さて、バイト開始ですわ。

 

「デュノア君、4番テーブルに紅茶とコーヒーお願い」

 

「分かりました」

 

「櫻井君、2番テーブルにコーヒー2つお願い」

 

「はーい」

 

カウンターから飲み物を受け取って、@マークの刻まれたトレーへと乗せる。

なんかよくは分からないが、スタッフや女性客からの視線が突き刺さる。

うん、なんで?

 

「お待たせいたしました。コーヒーでございます」

 

「は、はい」

 

オレはコーヒーを女性客に差し出す前に、お店の『とあるサービス』の要不用を尋ねる。

 

「お砂糖とミルクはお入れになりますか?よろしければ、こちらで入れさせていただきます」

 

「お、お願いします。え、えぇと、砂糖とミルク、たっぷりで」

 

「わ、私もそれで」

 

「かしこまりました。それでは、失礼いたします」

 

オレはスプーンをそっと握り、砂糖とミルクを加えたカップの中を静かにかき混ぜる。

 

「どうぞ」

 

「あ、ありがとう」

 

女性客は手元に差し出されたカップを受け取り、どぎまぎとした様子でコーヒーを飲む。

次に同じようにコーヒーを混ぜた女性客も、なんかギクシャクとした動きでわずかに一口だけ飲んだ。

 

「それでは、また何かありましたら何なりとお呼び出しください、お嬢様」

 

そう言ってオレは綺麗にお辞儀をする。

女性客はぽかんとしたまま頷いた。

 

(ふぅ、接客業ってのは疲れるな。2人は大丈夫か?)

 

仕事をしながらオレは辺りを見渡す。

シャルロットは先程のオレのように、女性客にコーヒーと紅茶を差し出していた。

それを受けとる女性客もやはりどこか緊張しているようだった。

 

そして、ラウラは男性客3人のテーブルで注文を取っていた。

 

「ねぇ、君可愛いね。名前教えてよ」

 

「………………」

 

「あのさ、お店何時に終わるの?一緒に遊びに……」

 

(……うん、とりあえずあの客ぶっとばしたい。人の彼女に手ぇ出しやがって……!)

 

しかし、そんな中ラウラはダンッ!とテーブルにコップを乱暴に置く。

面食らっている男達を前に、ラウラはぞっとする程冷たい声で告げた。

 

「水だ、飲め」

 

「こ、個性的だね。もっと君の事よく知りたくなっ──」

 

セリフの途中で、しかもオーダーを取ることなくラウラはテーブルを離れる。

そしてカウンターに着くなり何かを告げて、少しして出されたドリンクを持ってきた。

 

「飲め」

 

さっきよりは多少優しめにカップを置くラウラ。

しかし、それでも弾んだカップからは中のコーヒーが遠慮無くこぼれた。

 

「え、えっと、コーヒーは頼んでないんだけど……」

 

「何だ。客でないのなら出ていけ」

 

「そ、そうじゃなくてね、他のメニューも見たい訳でさ……」

 

今の女性優遇社会では男性の地位はかなり落ちた。

なので、男としては女性から好印象を持たれたいので色々と頑張る訳だ。

朝のナンパだってその1つ。

だが、初対面の女子に声をかけられるというのは、勇者か馬鹿のどちらかだ。

そして、この男達は確実に後者である事は間違いない。

 

「た、例えば、コーヒーにしてもモカとかキリマンジャロとか──」

 

言葉を遮るように、ラウラはまったく笑っていない目のまま、その顔に嘲笑を浮かべる。

 

「はっ 貴様ら凡夫に違いが分かるとでも?」

 

「いや、その……すみません……」

 

結局、ラウラの絶対零度の眼差しと許しのない嘲笑に折れて、男達は小さくなりながらコーヒーをすする。

 

「飲んだら出ていけ、邪魔だ」

 

「はい……」

 

(ラウラ……グッジョブ!)

 

オレは親指をグッとあげラウラを見る。

 

(任せろ)

 

ラウラもそれに気がついてグッと左手をサムズアップ!

 

「あ、あのっ、追加注文いいですか!?できればさっきの金髪の執事さんで!」

 

「ケーキお願いします!青髪の執事さんで!」

 

「こっちにも美少年執事さんを1つ!」

 

「美少女メイドさんを是非!」

 

そんな騒動は一気に店内全体に広まっていき、爆発的にやかましくなる。

どう反応していいか困るオレ達3人だったが、店長が間に入って上手く3人を滞りなく向かうように声をかけての調整をしていった。

そんな混雑が2時間くらい続いて、さすがに精神的な疲れが見え始めた頃、それは起こった。

 

「全員、動くなぁ!」

 

ドアを破らんばかりの勢いで雪崩れ込んできた男3人が怒号を発する。

一瞬、何が起こったのか理解できなかった店内の全員だったが、次の瞬間に発せられた銃声で悲鳴が上がる。

 

「きゃあぁぁぁぁっ!?」

 

「騒ぐんじゃねぇ!静かにしろ!」

 

男達の格好はジャンパーにジーパン、そして顔には覆面、手には銃。

背中のバックからは何枚か紙幣が飛び出していた。

 

(大方、銀行強盗をしてここに逃げ込んだって感じか……ちっ!さっさと捕まれば良いものを)

 

すでに店外はパトカーによる道路封鎖とライオネットシールドを構えた対銃撃装備の警官達が包囲していたが、その対応があまりにも古くさかった。

 

「ど 、どうしましょう兄貴!このままじゃ、オレ達全員……」

 

「うろたえるんじゃねぇっ!焦る事はないさ こっちには人質がいる!強引な真似はできねぇよ」

 

リーダー格とおぼしき3人の中でもひときわ体格のいい男が言うと、今まで逃げ腰だった他の2人も自信を取り戻した。

 

「へ、へへ、そうですよね。オレ達には高い金払って手に入れたコイツがあるし」

 

ジャキッ!とショットガンのポンプアクションを行うと次の瞬間、威嚇射撃を天井に向けて行った

 

「きゃあぁぁぁっ!!」

 

「大人しくしてな!オレ達の言うことを聞けば殺しはしねぇ」

 

(1人はショットガン、1人はサブマシンガン、そしてリーダー格がハンドガンか……他にも何かを予備で持っている可能性があるけど、今はとりあえず……)

 

オレとシャルロットは死角の物陰から目立たないようにしゃがんで、状況を分析していった。

 

(もう一度確認──って!?)

 

その瞬間、オレとシャルロットはぎょっとしてしまった。

 

「………………」

 

なんと強盗以外に1人でラウラが立っていたのだ。

しかも銀髪に黒眼帯、目が覚めるような美少女とくれば誰の目であろうと止まってしまう。

 

(な、何をやっているんだラウラは!?)

 

「なんだ、お前。大人しくしてろっていうのが聞こえなかったのか?」

 

案の定、すぐにリーダーがやってくる。

その手に握ったままのハンドガンを、ラウラは一瞬だけ見て視線を反らす。

 

「おい、聞こえないのか!?それとも日本語が通じないのか!?」

 

リーダーはラウラにハンドガンを向けて怒るが、仲間の1人がなだめるとなんとリーダーはラウラにメニューを持ってくるように言った。

ラウラはうなずくでもなく男達を一瞥すると、カウンターの中にすたすたと歩いていく。

そして、持ってきたのは氷が山積みになっている水だった。

 

「……なんだ、これは?」

 

「水だ」

 

「いや、あ の、メニューを欲しいんスけど──」

 

「黙れ、飲め……飲めるものならな」

 

ラウラは突然、トレーをひっくり返すと、宙にまった氷を回転するような動作で掴み、弾いた。

 

「いってぇぇっ!?な、なっ、何しやがっ──」

 

氷の指弾。

それをトリガーから離れていた人差し指に、突然の出来事に反応できずにいた瞼に、眉間に、喉に、一瞬で当てる。

 

(あ~あ~……まったく。仕方ねぇ……やるか!)

 

袖をまくり上げ、オレは義手を戦闘モードに移行させる。

刹那、義手に光の粒子が集まり、モーターブレードがセットされた。

 

(早めに片付けますか……!)

 

「あ、兄貴っ!?こ、こいつっ……」

 

ラウラは店内にありとあるものを盾にして、その細身からは予想もつかない程のスピードで駆けていく。

 

「うろたえるな!ガキ1人、すぐに片付けて──」

 

「1人じゃないんだよねぇ、残念ながら」

 

「おう、実は3人だ」

 

マガジンを切り替えたリーダーをシャルロットが、ショットガンを構えていた男に向かっていった。

 

「なっ!?このっ……」

 

「目障りだ!」

 

リーダー達はこちらに銃口を向けて撃とうとする。

 

「あ、執事服で良かったかな。うん、おもいっきり足上げても平気だし」

 

「余裕だねぇ、シャルロット」

 

そんな事をお互いに口にしながら、シャルロットはリーダーの拳銃ごと蹴り上げる。

バキッと何やら骨が折れる音がした。

おー、痛そー。

 

「兄貴!」

 

「よそ見する暇あんの?」

 

「!!」

 

オレはモーターブレードでショットガンをまっ二つに切断し、そのまま右足で男の肩に踵落としを叩き込む。

当然ながら右足も左腕同様鋼鉄製の義足なので、破壊力は大きい。

バキッゴキッという嫌な音がして、ショットガンの男はあまりの激痛に悲鳴を上げる。

 

「寝ろ」

 

やかましかったので、そのまま首に手刀を食らわせて気絶させた。

 

「目標 1、制圧完了」

 

「目標2、制圧完了……ラウラ、そっちはどうだ?」

 

「問題ない 目標3、制圧完了」

 

手下2名の意識及び行動能力の喪失(つまり気絶だ)を確認して、オレ達は頷く。

 

「ふ、ふざけるなぁっ!お、オレがっ、こんなガキどもにっ──」

 

リーダーはさっきシャルロットに蹴られて指が折れたのとは逆の左手に、予想通り予備のハンドガンを握って立ち上がった。

その引き金が引かれる刹那、ラウラはそれこそ弾丸のように一直線に飛び出す。

身をひねって初弾をかわすと、オレはちょうど足下にあった@クルーズのトレーを勢いよく踏みつける。

フチを踏まれたトレーはそのまま乗っていた『ハンドガン』をぽーんと空中に投げる。

そして、ジャストタイミングでラウラはハンドガンをキャッチし、銃口をリーダーの眉間に突きつけた。

 

「遅い。死ね」

 

「えっ?ラウラ、待っ──」

 

ガツン!と銃弾ではなくグリップが額に叩き込まれ、男は糸の切れた操り人形のように倒れて伏せた。

 

「全制圧、完了」

 

「……はぁ。一瞬びっくりしたじゃないか……」

 

「あぁ言えば、素人ならトリガーにためらいが生まれるからね。より安全な制圧方法だよ」

 

「いや、まぁ、そうなんだけど……」

 

シャルロットの言いたい事は分かる。

『ラウラなら本当に撃ちかねない』。

しばらくの間、しーんと静まりかえる店内だったが、のびている強盗犯とオレ達を交互に見て叫ぶ。

 

「お、オレ達助かったんだ!」

 

「やった!ありがとう!メイドさんに執事さん、ありがとう!」

 

その様子を見て、状況に何か変化があったのかと警官隊が詰めかけてくる。

 

「ふむ、日本の警察は優秀だな」

 

「ラウラ、桜萪、まずいってば!僕とラウラは代表候補生で専用機持ちなんだから、公になるのは避けないと!」

 

「それもそうだな。このあたりで失敬するとしよう」

 

「代表候補生は大変だねぇ」

 

案の定、警官隊の後ろには立ち入り禁止のロープとテープを乗り越えたマスコミが大勢見えた。

しかし、事態は再び一変する。

 

「捕まって刑務所暮らしになるなら、いっそ全部吹き飛ばしてやらぁっ!」

 

完全に意識を失っていたと思っていたリーダーは 、決まりが浅かったのかそう叫んで立ち上がると、革ジャンを左右に広げる。

そこにあったのは、軽く店とここ一帯を吹き飛ばせそうな、プラスチック爆弾の腹巻きだった。

その起爆スイッチは、もちろんリーダーの手の中。

当然ながら、店内は先程以上のパニックに陥った。

──しかし。

 

「「あきらめが悪いな」」

 

ふわっと、ラウラがなびかせるように右足を上げ、その奥にちらりと見えた白い布地に男の視線と意識が奪われた。

その一瞬の隙を逃さず、ラウラは足を振り下ろす。

 

その踵はテーブルを勢いよく傾け、そこにあった拳銃が宙を舞い、それをシャルロットがラウラの背中を転がるようにして受け取り……。

 

ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!

 

「「チェック・メイト」」

 

高速5連射×2の弾丸は、的確に起爆スイッチと爆薬の信管、そして導線『だけ』を撃ち抜いていた。

 

「まだやるか?」

 

オレはリーダーの前に立ち首筋ギリギリのところまで高速で回転するモーターブレードの刃先を向ける。

 

「次はその腕を吹き飛ばす」

 

ジャキッ!とハンドガンとサブマシンガンを突きつけられ、さっきまでの威厳も高圧もなく、男は震える声で謝った。

 

「す、すみっ、すみませんでしたっ!も、もうしまっ、しませんっ い、命ばかりはお助けを……」

 

そんな敗北宣言を最後まで聞く事なくオレ達は颯爽とその場から立ち去った。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「……遅いな」

 

銀行強盗襲撃事件から約2時間後、オレ達は残っていた買い物を済ませて、デパートから出た。

デパートから出ると外はもうオレンジ色に日が傾いており、どこからかひぐらしの鳴き声も聞こえてくる。

 

さて、現状としては今オレ達はデパートの近くにあった城址公園に来ている。

シャルロットが行ってみようと言ったので来たのはいいものの、オレは1人石垣に設置された柵に寄り掛かって街の風景と夕焼けを見ていた。

 

「……何してるんだろ?」

 

シャルロットとラウラがコソコソ話をしだして、いきなりここで待ってるようにと釘を刺されたのだ。

当の2人はそのままどこかへ行っちまうし……。

オレは来る途中で買った缶コーヒーを一口飲んで黄昏ていた。

 

「お待たせー!」

 

その声に反応して振り返ると、シャルロットとラウラが何かを持ちながらこちらに歩いてきているのが確認できた。

 

「うん。それは……クレープか?」

 

「うん、そうだよ。あ、桜萪の分はラウラが持ってる」

 

「ほら、クランベリーでいいな?」

 

そう言ってラウラはオレにクランベリーソースのクレープを渡してくる。

ちなみにラウラがブドウ、シャルロットがイチゴだ。

 

「おう、ありがと。それじゃーあそこで食べよう」

 

オレはちょうど近くにあったベンチを指差し、そこに座る。

2人もオレにつられるように両脇に座った。

そして3人同時にクレープをはむっとかじった。

 

「んむ、んっ。これ、おいしいね!」

 

「そうだな。クレープの実物を食べるのは初めてだが、うまいと思うぞ」

 

「あークレープなんて何年ぶりだろ?めっちゃうまいわぁ」

 

最後に食ったのは12歳の時だったかな?

あの時は確かチョコレートだった気がする。

 

「おいしー。せっかくだから、また来ようよ。次は皆も誘ってさ」

 

「そうか。では私は桜萪と2人で来よう」

 

「え?まぁ構わないけど」

 

「羨ましいね、妬けちゃうなぁ」

 

なんだろう、シャルロットの笑顔がすげー怖い!

 

「シャルロット」

 

「ん?なに、ラウ──」

 

ぺろっ。

……ん?

今何が起きた?

ラウラがシャルロットの唇を舐めた!?

 

「なっ、なぁっ、ななななっ!?」

 

「お、お前なぁ……」

 

「ソースがついていた」

 

「だ、だだっ、だだだだからって、え、えぇぇ!?」

 

「両手が塞がっている」

 

そう言ってラウラは右手のクレープと左手の紙袋を持ち上げてみせる。

あー、そういえばオレのクレープ持ってるとき、腕にかけてたな確か。

 

「そ、そそそ、それなら言って──」

 

「すぐに垂れ落ちそうだった」

 

ラウラは首をかしげまた自分のクレープを頬張る。

うむ、ラウラってこう、なんか……自由気ままな猫みたいだよな。

 

「おっと」

 

ペロリ、と今度は自分の手の甲に垂れたソースを舐める。

それはさながら毛繕いをしている猫そっくりだ。

その姿にオレは内心悶絶しており、失礼だがシャルロットがいなければ抱きつきそうだ。

さて、そのシャルロットは──。

 

「っ~~~~~~~!!」

 

……オレ以上に悶絶しておりました。

まぁ、こんな可愛い女の子がこういう行動をしたり、傍にいれば誰だって心臓の1つや2つ跳ね上がる。

 

(ラウラって自分の事に関しては無頓着なんだよな。尚更タチが悪い。まぁ自覚ありでやられても困るが」

 

「そう怒るな。ほら、私のクレープを一口やる。桜萪も食べろ」

 

「い、いただきます」

 

「いただきやーす」

 

おぉ、こっちのブドウもなかなか……。

っとここで、ラウラはしれっとある事を言い出す。

 

「あぁ、シャルロット。そういえばあのクレープ屋だがな、ミックスベリーはそもそもないぞ」

 

「え?」

 

「メニューになかっただろう。それに、厨房にもそれらしい色のソースは見当たらなかった」

 

うん?

この子達は何を話しているんだ?

1人疑問符を頭に浮かべているオレにシャルロットが説明する。

 

「実はね、ここの公園のクレープ屋さんでミックスベリーを食べると幸せになれるっておまじないがあるの」

 

「所謂験担ぎというやつだ」

 

「ま、まぁそれは置いといて。それを頼もうとしたんだけど、お店の人に売り切れちゃったって言われて……」

 

「けどそんなモノは無かった、という訳だな?」

 

「あぁ、そうだ」

 

そんな逸話のあるクレープ屋があったとは。

いや、けどそのおまじないの本当の意味ってなんだ?

 

「だが、ミックスベリーは食べられただろう?」

 

「「?」」

 

「このクレープは何味だ?」

 

「何って、ブドウ……だよね?」

 

ほんの少し、ほんの少しだけにやりとラウラが笑ったのを見て、オレとシャルロットはピーンと閃いた。

 

「あぁっ!ストロベリーとブルーベリー!?」

 

「オレに関してはプラスαでクランベリーという訳か」

 

「ご名答」

 

楽しげにラウラはまた一口クレープを頬張る。

 

「──って、ラウラ。ブルーベリーはブドウじゃないぞ」

 

「ブドウみたいなものだろう?それに、あそこでブルーベリーと言えば、シャルロットがすぐに気付いてつまらんしな」

 

ならオレのクランベリーでもバレるのでは?と思ったのだが、ここは何も言わずにクレープを楽しむ事にした。

 

「そっかぁ……。『いつも売り切れのミックスベリー』って、そういうおまじないだったんだ」

 

組み合わせ次第っていう事だろうかこのクレープは……?

 

「ほれラウラ」

 

オレはラウラに自分の食べていたクランベリーのクレープを口元に持っていく。

 

「ミックスベリー。まだ食べてないだろ?」

 

「……!うむ、い、いただきます」

 

ラウラは頬を紅潮させながらオレのクレープを頬張り、幸せそうに笑みを浮かべていた。

 

「シャルロットも。3人で幸せにってのもアリだろ?」

 

「い、いいの?」

 

「おうよ」

 

「な、なら、いただこうかな。あーん」

 

シャルロットもラウラと同様にクランベリーのクレープを頬張り、幸せそうに笑みを浮かべていた。

今頃シャルロットの脳内劇場では配役が一夏に変わって上映されているだろう。

 

「それにしても、夏ももう終わりだな」

 

「そうだねぇ」

 

「次は秋か」

 

この夏休みはラウラと色んなとこに出掛けたいな。

遊園地に行ったり、プールに行ったり……うーむ、考えればきりがないくらい候補が出てくるな。

ラウラと出会ったこの時間をオレは決して生涯忘れることはないだろう。

初恋と出会い、最愛の人と結ばれたこの15歳という時間を──。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「んー。今日は充実してたなー」

 

オレは私服からスウェットに着替えてベッドに寝転んだ。

既に夕食は終えており、いつも通りラウラと食べてきたところだ。

結局、ラウラのパジャマはシャルロットが決めたいという事で、オレは2人が買い終わるまでメンズ物のファッション店で暇潰ししていた。

そしてあの公園でクレープを楽しみ、帰ってきて夕食という流れである。

 

「ラウラもシャルロットも楽しんでたみたいだし、たまには出かけるのもありだな」

 

オレは何気なく左手を上げてボーッと見つめた。

 

(まさかモーターブレードを展開する事態が来るなんて思ってなかったな……)

 

最後に使ったのは確か束を誘拐しようとした輩に対してだったな。

 

「まぁ……あの状況では使わない訳ないよな……?」

 

ちょっと疑問に思いながらも、1人納得しようとしていると──。

 

コンコン。

 

「ん?は~い。どなた~?」

 

ベッドから起き上がり、部屋のドアを開けると一夏がいた。

 

「おっす」

 

「おぉ一夏。どした?」

 

「いや、これからシャルロットとラウラの部屋に行くから、桜萪もどうかなって思ってさ」

 

「おぉ、それはわざわざサンキューな。んじゃお言葉に甘えて」

 

オレは部屋に鍵をかけると、一夏の右隣で並んで歩いた。

ラウラとシャルロットの部屋の前に到着すると何やら室内から賑やかな声が聞こえてきた。

 

「なんだ?」

 

「なんか面白い事でもあったんじゃね?」

 

「ふむ。まぁ入るか」

 

そう言って一夏は部屋のドアをノックする。

すると中から「はーい、どうぞ~」とシャルロットから入室の許可が下りたので、早速中に入ると──。

 

「おっす。お、なんか変わった服着てるな。黒猫と白猫だ」

 

そう、部屋にはなんと猫の着ぐるみパジャマを着たラウラとシャルロットがいた。

ちなみに、ラウラが黒猫でシャルロットが白猫だ。

 

「あ、え、う……」

 

シャルロットは先程の声と態度ががらりと変わり、顔を真っ赤にしてしどろもどろになっていた。

一方、ラウラはそんな事はお構い無しにしれっとシャルロットを見ていた。

ラウラ、その格好だといつもの威厳さが取れてより可愛くなっているぞ!

 

「「ぷっ」」

 

思わずオレと一夏はそんな2人の様子に笑ってしまった。

 

「なんか、2人揃って面白いっていうか、可愛いな」

 

「まったくだ。可愛いぞラウラ」

 

じゃれ合っていた2人をオレと一夏は楽しげな顔で言う。

 

「「か、可愛い……」」

 

ラウラとシャルロット、2人の声がぴったりと重なった。

それぞれ頬を赤らめ、言葉を反芻しながらちょこんとベッドに座る。

 

「そうそう、ちょっと今日出掛けたから、お土産持ってきたんだよ」

 

そう言って一夏が見せたのは@マークが大きく書かれた包みだった。

 

「「「!?」」」

 

オレ達3人は、働いていた時の格好を思い出してダラダラと嫌な汗を流しはじめる。

 

(お、おい、見られたのか!?あのオレの恥ずかしい姿を!?)

 

(も、も、もしかして、一夏見てた!?また僕が女の子っぽくないところを!?)

 

(ま、ま、まさか、見られたのか!?あのような、フリフリヒラヒラの姿を!)

 

一夏の言葉はもう上の空で、どうやらオレ以外の2人も今日のアルバイトの事を思い出しているみたいた。

 

「でな、@クルーズって店に行ったら、なんか警察とかマスコミとかいっぱいあて入れなかったんだよ。どうすっかなーって思ってたら、なんかバイタリティーのありそうな女店長が事件に巻き込まれた客にクッキーを配ってたんだよ。んで、オレもそのうちの1人って思ったらしくてクッキーくれたんだけと、違うからいらないって言おうとしたらいなくなってた。なんか本社とか視察とか言いながら走って行ったんだよ。変な話だろ?」

 

「う、うん、そう、だね」

 

「かなり変だな。アハハ……」

 

「じ、事件、とは?」

 

もしかしたら別の@クルーズかもしれないという最後の希望を込めて送ったラウラの思いは実らなかった。

 

「銀行強盗だってよ。物騒だよなー、最近」

 

「「「………………」」」

 

「で、なんか取材に答えてる人の話が聞こえたんだけどさ。なんでも、ものすごい美少女メイドと美少年執事2人が事件を解決したらしいぜ。映画とかドラマの世界だよなー」

 

「だ、だよねぇ」

 

「そ、そうだな」

 

「うんうん」

 

「しかし、そんなに凄いのなら見てみたかったな」

 

その言葉にオレ達は反応する。

心なしか、ラウラとシャルロットのパジャマのネコミミがピンと立った気がする。

 

(うー、でもせっかくなら僕もメイド服が良かったよ……)

 

(しかし、今さら私たちだと言うのも気が引ける……)

 

(まず、言いたくないし……)

 

それぞれにそんな事を思いながら、結局言い出すタイミングを逃してしまう。

 

「じゃあ、とりあえずお茶でも入れるか?クッキー食べようぜ」

 

「そうだな。あそこのクッキー美味いしな」

 

そんな事を言いながら、オレと一夏は部屋の簡易キッチンへと向かう。

 

「あ、いいよ!僕が用意するから、一夏と桜萪は座っててよ」

 

「ん?いや、さすがにその手じゃ無理じゃね?」

 

オレはシャルロットの手を指指しながら話す。

視線と言葉にシャルロットもラウラも肉球ハンドだった事に気がつく。

 

「これ、ココアクッキーだな。それならちょうど子猫が2匹いることだし、ホットミルクにするか?」

 

「おっ。いいねぇ桜萪」

 

「え、あ、うん」

 

「ま、任せる」

 

『子猫』と呼ばれた2人は小さく頷いた。

どうやらまんざらでもないらしい。

 

「あ、あのさ、一夏。この服、可愛い?」

 

「わ、私も気になる。ど、どうだ桜萪?」

 

2人はもじもじしながら上目遣いでこちらを見てくる。

ぐはぁっ。

可愛いではないかラウラ!!

 

「おう 可愛いと思うぞ。黒猫と白猫ってチョイスがまたいいな」

 

「よく似合ってるぞラウラ。ラウラには黒猫が一段と似合う」

 

「そ、そっかぁ。えへへ、似合ってる、かぁ うふふ」

 

「お、桜萪がそう言うなら……わ、悪くはないな。時々は着る事にしよう」

 

「時々と言わずに毎日着ろよ~」

 

「わっ!何をする桜萪っ!いきなり頭を撫でるのはやめろっ!」

 

「「アハハハハッ」」

 

夏の夜、飲み物はホットミルクでオレ達は秘密のお茶会を過ごした。

黒猫が1匹、白猫が1匹、王子様が2人の不思議な不思議なお茶会だった。




さて、IS戦から平和なストーリーで一休み。
ここからは少しの間、平和なお話が続きます。
なんせ最初から戦闘ばっかなんで、桜萪達にも休息が必要なのです、ご了承下さい。

それにしてもアニメでのラウラとシャルロットの猫パジャマには嬉しすぎて言葉を失い、1人部屋で悶絶しておりました。
特にラウラのにゃーん……っていうのにはもう……たまらん!!
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