IS・ALUTIAUSS〈インフィニット・ストラトス アルティウス〉   作:ZERO式

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第13話 月と涙と天使の羽と

「ねぇねぇあれ……」

 

「うわぁ、軍人だよ軍人。初めて見た」

 

「隣の人はなんかモデルみたい」

 

今……オレはラウラと一緒に空港に来ている。

普通の格好(制服)でならまだしもラウラは軍服。

対するオレはラフな格好という異色のコラボでかなり目立っていた。

なぜこうなったかというと、3日前のラウラの発言から始まった。

 

 

お泊まり会最終日(3日前)。

 

「私と一緒にドイツに来て欲しい!!」

 

「…………はい?」

 

いきなりそうラウラに言われた。

突然の事で当然ながらオレは目をぱちくりとしている。

 

「ど、ドイツに?」

 

「そ、そうだ」

 

ラウラは顔を赤くさせながら腕を組んで頷いた。

 

「じ、実はな……明明後日からドイツに行かなくてはならないのだ」

 

「明明後日から?ずいぶんと急だな」

 

「うむ。本来ならあと1週間後だったんだが、急にシフトが変更になったみたいなんだ」

 

なるほど。

軍にも色々とスケジュールがあるのね。

 

「帰国の理由はシュヴァルツェア・レーゲンの稼働状態の報告と我が部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ(黒ウサギ)』への土産を渡すためだ」

 

「報告は分かったが……土産なんて持ち込めるのか?軍隊ならそこは厳しいんじゃないのか?」

 

「副隊長から先日プライベート・チャンネルで連絡があってな。『帰国するなら日本のお土産を是非とも!隊員皆もそう言っています』と言われてな。まぁ持ち込みは武器以外なら平気だろう」

 

武器以外ならとか……。

でもオレの左腕には戦闘用のモーターブレードやクローがあるんだけど?

 

「けどオレの義手と義足は戦闘用武器があるぞ?オレは入れないんじゃないか?」

 

「それについては心配は無用だ。あらかじめ軍にはお前の事を伝えておく」

 

「それならいいが……」

 

 

──と、いう事があって今に至る。

最初は学園の制服でと思ったんだけど、さすがにそれはまずいと考え直し、ラウラに許可を得て私服にする事にした。

 

「ドイツ軍所属のラウラ・ボーデヴィッヒ様と櫻井桜萪様ですね?」

 

自分とラウラの名前を呼ばれたので後ろを振り向くと背の高い女性が立っていた。

 

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 

オレとラウラは女性に連れられて飛行機への通路を歩いていく。

すでに乗場で身体検査と荷物検査は済んでいる。

 

「ボーデヴィッヒ様と櫻井様の席はファーストクラス席となっております」

 

「ファーストクラス!?」

 

金持ちやスーパースターとかのVIPしか座れないようなあの幻の?!

まさか座れる日が来るとは思ってもみなかった。

 

「私は軍所属だから一般とは違う席になる。しかもお前は私の……お、夫だから同じ場所になるのは当たり前だ」

 

ぬおぉ……軍所属だからとはいえ、少なからず女性待遇の影響もあるんだろうな。

末恐ろしい世の中だ。

 

「では私はこれにて失礼いたします」

 

オレとラウラを案内した女性はペコリと頭を下げてツカツカと歩いていった。

 

「ぬおぉ……座り心地が全然違うぞ」

 

かなり一般とは違うかなり病みつきになる座り心地だ。

これマジ欲しいんだけど。

 

「ははっ。そろそろ離陸する頃だ、早くシートベルトを締めろ」

 

「ん、了解」

 

オレはラウラの言われた通りシートベルトを締める。

やべぇ、シートベルトまで特別な物を使っている気がしてならん。

 

(マジでファーストクラス最高だぁ)

 

そう思っていると飛行機は連絡通路から離れてをゆっくりと後方へと動き出し始めた。

 

「お、いよいよだな」

 

それからもゆっくりとしたスピードで滑走路に到着する。

30秒程たってから、両翼のメインエンジンが稼働を開始して滑走路を駆け抜けていく。

あの離陸する直後の独特の後ろに引っ張られる感覚があまり好きではないのは黙っておこう。

 

「うわぁ……あっという間に空の上だ」

 

「飛行機は初めてなのか?」

 

初めてではない。

束との逃亡旅には変装してよく飛行機に乗ったもんだ。

あとは家族旅行の時とか。

 

「初めてじゃないけどな。乗るとなんか楽しい気分になる」

 

「そうか。ま、まぁそういうところも好きだから良いがな」

 

うん、抱き締めたいぞこの野郎。

 

 

◇◆◇◆

 

 

そしてようやくドイツのベルリン空港に到着した。

飛行機から降りると、近くに黒に塗られた小型ジェット機があり、そこから1人のラウラと同じ真っ黒の軍服を纏い、左目に眼帯をしている女性が出てきた。

 

「お迎えにあがりました、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐」

 

「ご苦労、クラリッサ・ハルフォーフ大尉」

 

2人はビシッと敬礼をして言葉を交わす。

あぁ、この人が例の黒ウサギ部隊の副隊長さんか。

 

「で?そちらの方が……」

 

クラリッサさんはこちらをジロッと見る。

そんなに睨まんといて。

僕ちびっちゃう。

 

「さ、櫻井桜萪です」

 

「……ボーデヴィッヒ少佐。確か今日はあなたの旦那様が一緒でしたよね?」

 

「そ、そうだが……?」

 

「このお方、女性ではないのですか?」

 

ガビーーーンッ!!!

 

かなりの真面目顔で勘違いされてるー!!

 

「く、クラリッサ!こいつは女ではない!正真正銘の男だ!」

 

ラウラがあたふたとしながら弁解してくれた。

あれ?

目から汗が止まらないよ。

 

「えっ!?で、では……」

 

「改めて……櫻井桜萪です。正真正銘の男です。似合わないかもしれませんが、ラウラと交際させてもらってます」

 

うーん、ラウラはオレの写真とか見せてなかったのか?

 

「こ、これはとんだご無礼を!に、似合わないなんてそんな事っ!」

 

クラリッサさんは先程のキリッとした怖い感じはなくなって、ラウラ以上にあたふたとしている。

まぁ真面目顔の本気でオレを女と間違えたんだもんな……。

 

とりあえずクラリッサさんを落ち着かせて、オレ達はクラリッサさんの乗ってきたジェットに乗り、黒ウサギ部隊が所属する基地へと飛び立つ。

 

「先程は本当にすみませんでした」

 

「あ、いえ。怒ってはいないんで謝らなくても大丈夫ですよ。気にしないでください」

 

まぁ学園でもう慣れてしまったよ。

転校してしばらくは間違えられたし。

 

「ありがとうございます。あ、自己紹介が遅れましたが、私はドイツ軍所属『シュヴァルツェ・ハーゼ(黒ウサギ)部隊』副隊長のクラリッサ・ハルフォーフ大尉です。以後お見知り置きを」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「桜萪は私が本部にシュヴァルツェア・レーゲンの事等を報告している間、クラリッサと一緒にシュヴァルツェ・ハーゼの兵舎で待っててくれ。あと、少なくともあと1週間はこちらで滞在する事になるから、寝食は同じくシュヴァルツェ・ハーゼの兵舎の部屋を使ってくれ」

 

さすがIS特殊部隊隊長。

テキパキしてるなぁ。

 

「ん、分かったわクラリッサさん、これから1週間お世話になります」

 

「いえいえ。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。あ、これ私の名刺です」

 

クラリッサさんはニコッ笑いながらこちらに名刺を渡してくる。

それをオレは頭を下げながら受け取り、ポケットの中に入れた。

やべぇ、千冬姉とは違う大人な女性の笑い方に戸惑っちまう。

 

「クラリッサの言う通りだ。逆にこちらが迷惑をかけるやもしれん」

 

オレの隣に座っているラウラは苦笑いをしながらオレを見てそう言った。

 

「迷惑?なんで──」

 

「あ、基地に着きましたよ。着陸態勢に入るのでシートベルトを付けてください」

 

色々と話しているうちにどうやらドイツ軍基地に到着したようだ。

うん、かなりでかい。

東京ドーム何個分の敷地面積だよ……。

 

「よし、ではまた兵舎で落ち合うとしよう」

 

ラウラはジェット機から降りるとそのまま目の前にそびえ立つ大きな建物に入っていった。

 

「櫻井さん、私達も行きましょう」

 

「分かりました。あとオレの事は桜萪でいいですよ」

 

「はい、ではこちらです桜萪さん」

 

オレはクラリッサさんに案内されシュヴァルツェ・ハーゼの兵舎に着いた。

こちらの建物も先程ラウラが入っていった建物並にでかいな……。

 

「ではどうぞ中に」

 

「はい」

 

そのままクラリッサさんと一緒に建物の中に入っていった。

 

「………」

 

「!」

 

ふと背後から視線を感じて後ろを振り向くが、近くには誰もいなかった。

いたとしても遠くでさっきのジェット機を整備してる整備兵の人達くらいだし。

 

「どうしました?」

 

「い、いえ……。なんでもないです」

 

(背後から視線を感じたんだが……気のせいかな?)

 

「…………クスッ」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「桜萪さんの部屋はこちらになります」

 

案内された部屋はちょっと殺風景な部屋だった。

部屋全体は白で統一され、ベッド・机・本棚・クローゼットがあるだけだ。

 

「トイレとお風呂は部屋の奥にあります。また兵舎内にも設置されてありますので、そちらもご利用できます」

 

「ありがとうございます」

 

オレは持ってきた荷物をベッドに置いて座る。

IS学園の部屋が普通じゃないのか……やっぱ部屋ってこんなもんなのかねぇ。

 

「では色々と兵舎を説明するので私に着いて来てください」

 

「あ、はい。分かりました」

 

部屋から出ようとした時にクラリッサさんがニヤリと笑ったように見えた。

……なんでしょ?

 

 

「ここが食堂。1ヶ月に何回か隊員が全員の分を作る日があります。桜萪さんはここで我々と一緒に食事を取ります。そしてその奥は談話室。訓練を終えた隊員はここで会話をしたり、本を読んだりして楽しんでます。他にもマッサージ機やテレビ等も揃っているので、桜萪さんも良かったら活用してください」

 

──そして色々と案内されて最後に来たのは……。

 

「ここは地下訓練場です。訓練は大体が外で行いますが、ここでは建物内での戦闘や特殊任務の訓練で使用します」

 

「おぉ」

 

案内された訓練場はちょっと薄暗く体育館を思わせる構造になっている。

所々に鉄筋コンクリートの柱や壁があるのが確認できた。

 

ギイィィ……バタンッ。

 

「ん?」

 

後ろを振り向くと先程入ってきた扉がしまっていた。

……いきなりなんだ?

 

「なんだ……あれ?クラリッサさん?」

 

それと同時にさっきまで一緒にいたはずのクラリッサがいなくなっていた。

 

「オイオイ……何を始める気なん──」

 

ドンッ!

 

「いっ!?」

 

誰かがオレに向けて銃を撃ってきた。

撃った際の銃口からでる火花が見えたのでなんとか弾丸を避ける事ができた。

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

「わっ!?い、いきなりなんだよ!!」

 

後退しながらオレは鉄筋コンクリートの柱に隠れる。

相変わらず誰とも分からない奴に攻撃されているが……。

 

「くそっ!いきなりのもてなしひどくね!?」

 

そんな文句を言っても一向に銃撃が止むことはない。

一体オレが何をしたってんだよ!

 

(やるしかないのかよ……!)

 

拳を握り締め、オレは左腕にモーターブレードを展開する。

 

タタタタタタタッ。

 

誰かがこちらに近づいてくる。

ちらっと見ると手にはナイフとサブマシンガンらしき物を持っているようだ。

 

「!」

 

オレは隠れていた柱から出てきてそのままナイフを向けてくる人物に向かって走り出す。

相手からの銃撃をギリギリで回避しながら一気に接近していく。

そしてそのままナイフの刃とサブマシンガンを左手で折り、腕を掴み懐に潜り込んで背負い投げをした。

 

「かはっ……」

 

「次!」

 

本当はアルティウスを使いたいが柱と壁が邪魔で展開ができない。

というか展開したくても狭すぎる!

 

(展開できれば簡単なんだがなぁ……仕方ない!)

 

オレは右足の義足で高くジャンプする。

そして着地した通路にはアサルトライフルのような大型銃を持つ人物がいた。

こちらに気がついたのか、アサルトライフルを発砲してくるが、オレは義手と義足を上手く使い軽業師のように弾丸を避けていく。

 

「やぁっ!」

 

うまく弾丸を回避したオレはそのまま相手の懐に入り、アサルトライフルをモーターブレードで切り裂き、先程と同じく背負い投げをする。

 

「うぐっ……」

 

「そこまでっ!!」

 

誰かがそう言った途端、ババッと天井の照明が勢いよくついた。

 

「こ、今度はなんだ……!?」

 

眩しくて目を瞑っていたが、ゆっくりと開いてみるとオレを中心に数人の女性が銃を向けていた。

 

「え?じ、女性?」

 

「そうです。ここにいるのは全てシュヴァルツェ・ハーゼの隊員です」

 

すると奥からクラリッサさんがツカツカと歩いてきた。

どうやら先程の声の主はクラリッサさんだったみたいだ。

 

「な、なんですかこれは?!」

 

「訓練です」

 

いや、そんな爽やかなドヤ顔で言わないでよ……。

 

「く、訓練って……」

 

「あぁ心配はいりません。この銃に使っているのは全てペイント弾なので」

 

「えっ?」

 

よく周りを見てみると壁や柱にはいくつもの赤いペイントの跡がいくつもあった。

どうやら本当にペイント弾だったらしい。

 

「し、心臓に悪い……」

 

オレはその場に力なく座りこんだ。

マジで寿命が縮まっちゃうよ。

 

「あの隊長を惚れさせた人ですからね。それに隊長の夫ならばそれ相応の戦闘ができなければ務まりませんしね」

 

「は、はぁ……」

 

「でも軍人でもない一般人の方がここまでやるとは正直驚きました」

 

クラリッサさんと隊員の人達はオレをまじまじと見てくる。

 

「隊員2人を背負い投げ、ナイフはおろかマシンガンやライフルまで破壊されてしまうとは……」

 

クラリッサさんは苦笑いしながらオレが壊したナイフとマシンガンを持ち上げた。

 

「す、すいません……なにぶんオレも必死だったんで」

 

「いえ、大丈夫ですよ。それより時間も時間ですね、食堂に戻り夕食にしましょう。解散!」

 

クラリッサさんがそう言うと隊員の人達はあっという間にいなくなった。

……なんかうちのクラスの女子を連想させるな。

 

「さぁ参りましょう」

 

「は、はい」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「む、遅かったな桜萪。どこに行ってたんだ?」

 

食堂に入るとすでにラウラが席に座って待っていた。

準備のいいやつめ。

 

「ちょっとクラリッサさんに兵舎内を案内してもらってた」

 

ちなみにクラリッサさんには「先程の事は隊長には内緒で」と言われたので隠している。

なんでも無断でやったんだとか……そんなんでいいのか正規部隊!

 

「そうか。では食事にするとしよう」

 

ラウラの隣に座ると目の前のテーブルにはすごい数の料理が並んでいた。

 

「お、桜萪に我が祖国ドイツの事を知って欲しくてな。ドイツの料理を作らせたんだ」

 

ラウラは頬をほんのり桜色に染めて見つめながら言ってきた。

 

(ヤベッ……鼻血出そう)

 

ふと周りを見てみると、隊員全員が鼻血を垂らしていたり悶絶してたりと大変な事になっていた。

どうやらオレよりも興奮しているらしい。

 

(あのクラリッサさんまで悶絶しながら鼻にティッシュ詰めてるし……)

 

部隊と言ってもなんか女子高生の集まりに思えてきた……。

だって地下と食堂での隊員の態度と表情が変わりすぎなんだもの。

 

「桜萪、これはおいしいぞ」

 

そう言ってラウラがオレの皿によそったのはなんかトンカツみたいな料理だった。

 

「ラウラ、これ何て言う料理なの?」

 

「これはシュニッツェル。子牛のカツレツだ」

 

「へぇ、どれどれ?いただきまーす」

 

早速シュニッツェルを食べてみる。

肉料理には目がないのです。

 

「おぉ!ジューシーでおいしいぞ!」

 

「そ、それは良かった。次はこれだ」

 

「モグモグ、これは?」

 

「アウフラウフ。ドイツの一般家庭料理で肉と野菜を積み重ねて、ホワイトソースをかけてオーブンで焼いたものだ。言うなればグラタンのようなものだな」

 

それからオレは色々とラウラに教えてもらいながら料理を食べていった。

 

「シュバイネハクセ ローストした豚脚だ」

 

「こ、これもうまい!」

 

「ツヴィーベル・ズッペ。簡単に言えばオニオンスープだ」

 

「おー。いつものと違うな」

 

「これはアプフェルクーヘンと言ってな、リンゴのケーキだ。ちなみにバウムクーヘンはドイツのお菓子なんだぞ?」

 

「まじか!あとで食いたいわ」

 

そしてあっという間に楽しい食事の時間は過ぎていった。

余談だがラウラから『はい、あーん』をされて食べた時は隊員皆がめっちゃ騒ぎまくった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ふぅ。食った食った~」

 

今は与えられた部屋のベッドに大の字になって寝転がっている。

あの食事の後ラウラは風呂に行ってくると言って食堂から出ていった。

なんでも大浴場があるみたいだ。

まるでIS学園みたいだな。

 

コンコン。

 

「はい?今開けます」

 

なんだろ?ラウラかな?

そう思いながら部屋のドアを開けるとそこには左目に黒眼帯をした女性数名がいた。

 

「あなた方はシュヴァルツェ・ハーゼの……どうしたんですか?」

 

するとショートカットの女性が口を開いた。

 

「ちょっと質問したい事がありまして」

 

「質問?」

 

「はい」

 

そう言った途端後ろにいた人達の右目がキラーンと怪しく光ったように見えた。

 

「それ!突撃ー!」

 

「「「「おー!」」」」

 

「えっ!?ち、ちょっと待っ──わぁっ!?」

 

1人の合図で隊員の方々はドドドッ!と部屋の中に雪崩れ込んで来た。

い、一体なんだ!?

 

「ねぇねぇ!どうやってあの隊長を惚れさせたの?」

 

「は、はい?」

 

「そうそう!それにキスしたってのも本当なの!?」

 

「き、キス!?」

 

な、なんなんだこの人達は?!

これじゃまるでIS学園の女生徒と同じじゃないか!

そう、ノリがまったく一緒!

 

「ち、ちょっと待ってください!皆さん落ち着いて!」

 

ムニッ。

「やーん!この子すごいほっぺた柔らかい!」

 

「どれどれ?あっ、ホントだぁっ!」

 

「私も私もっ!」

 

「ひょ、ひょっと!み、みにしゃん!(ちょ、ちょっと!皆さん!)」

 

わ、訳が分からねぇぇぇぇっ!

え?なんなのこの人達?

いきなり部屋に入ってきたと思ったら質問&頬プニって。

 

どうにかして頬を触らせるのをやめさせて後ろに後ずさる。

だって目がギラギラしてまるで獲物を追い詰めたライオンみたいな顔してるんだもの。

 

「い、いきなりなんなんですかっ?!」

 

「あーん、もうちょっと触っていたかったのにー」

 

ブーブー!とブーイングするがここは華麗にスルーさせてもらおうか。

 

「騙らっしゃい。いきなり人の部屋に入ってきてなんなんですか?仮にも『男』ですよ『男』!」

 

重要だから2回言ったぞ?

 

「男って言われてもね~」

 

すると隊員の方々──えぇい!めんどくさい!

女の子達は顔を見合わせて揃って言った。

 

「「「「「女の子みたいだから気にしない」」」」」

 

最後にめっちゃ可愛いしと付け足して。

 

ドッギャァァァァァン!

 

櫻井桜萪、精神に15000の大ダメージ!

 

「お、女の子って言うなー!」

 

なんか初対面の人とはもうお約束みたいになってきたなこのやり取り。

 

「まぁまぁ、気にしない気にしない♪」

 

「気にするわ!一番人が気にしているコンプレックスを……!」

 

ワナワナと怒りが込み上げてくる。

多分額にお怒りマーク浮き出てるんじゃないか?

 

「まぁそんなに怒らずとも──」

 

「ほぉ……?何を怒らなくてよいのだ……?」

 

ギギギ……と女の子達は声のした方向に首を向けた。

そこには、牛乳瓶を握り締めて肩をプルプルと震わすラウラがドアの前にいた。

ピシッと牛乳瓶にはヒビが入りポタポタと白い雫が落ちている。

 

「た、隊長……」

 

「そ、その……ですね……?」

 

「……桜萪?」

 

「は、はい!」

 

ヤバい!

ラウラの背後に真っ黒の炎が見えるよ!

 

「……悪いが、ちょっと席を外してくれないか?」

 

「わ、分かった……」

 

オレは背中に脂汗を流しながらラウラの言った通りに部屋から出て外へ向かった。

 

「……貴様等ぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」」」」」

 

部屋から出て約5秒後に凄まじい程の断末魔の叫びが聞こえたのは幻聴ではないだろう。

……南無阿弥陀仏。

 

 

「ふぅ~、綺麗だな……」

 

今オレは兵舎の外に出て夜空を仰いでいる。

夜空は雲1つなく満天の星と満月が煌々と耀いていて、夜なのに辺りはかなり明るい。

 

「ちょっと座るか」

 

オレは兵舎の階段の2段目に座りまた夜空を仰ぎ輝く星に魅入っていた。

 

「隣……よろしいですか?」

 

「えっ?」

 

そう言って現れたのはなんとタンクトップにスウェット姿のクラリッサさんだった。

 

「よろしいですか?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

クラリッサさんは「ありがとうございます」と言いながらオレの右隣に座った。

 

「よろしかったらどうぞ」

 

クラリッサさんが手渡してきたのはココアだった。

ココア独特の甘い香りがしてとてもおいしそうだ。

 

「ありがとうございます。クラリッサさんのはなんですか?」

 

「これですか?これはビールですよ」

 

コクンと飲みながらクラリッサさんはニコッと笑った。

その笑みは相変わらず大人な雰囲気が出ていてどこか色っぽい。

 

「ビールですか。確かドイツってビールが有名でしたよね?」

 

「はい、それにミネラルウォーターよりもビールは安いんですよ」

 

「マジですか」

 

「はい。それに『ビール祭』というイベントではドイツ中のビール酒造会社が集まって、イベントに参加した国民に通常の値段よりかなり安くビールを振る舞うんですよ」

 

「す、凄い……」

 

さ 、さすがビール大国。

イベントの規模が日本とは違うわ。

 

「ありがとうございました」

 

すると急にクラリッサさんが頭を下げてきた。

 

「えっ?ちょ、ちょっと!頭を上げてください!そんな頭を下げられるような事は──」

 

「初めて見ました。隊長……いや、ラウラのあの嬉しそうな顔を見たのは」

 

「えっ?」

 

クラリッサさんはビールを一口飲み、ちょっと間を空けて言葉を続けた。

 

「ラウラは所謂……試験管ベイビーです。ただ戦う事だけに生み出された女の子なんです」

 

クラリッサさんはちょっと暗くなりながら話をした。

 

「戦闘術・暗殺術・工作術……ありとあらゆる技術を習得していき、ラウラはドイツ軍の最強の兵士となりました。しかし、ISの出現によりラウラは左目に補助センサー『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』の移植手術をしましたが、問題が発生……瞳は金色になり常に稼働状態となってしまいました」

 

「…………………」

 

「そしてISパイロットにラウラは選ばれましたが上手くいかず、『不良品』のレッテルを貼られました。でも……」

 

その瞬間クラリッサさんの顔がちょっと明るくなった気がした。

 

「そんなラウラを救ったのが織斑教官でした。織斑教官は徹底的にラウラにISの技術を教えました。そしてラウラは再び最強と呼ばれるようになりました。けど……」

 

その瞬間、クラリッサさんの顔はかなり暗くなった。

 

「織斑教官が日本へ帰国してすぐにこの『シュヴァルツェ・ハーゼ』が作られました。そして隊員全員はラウラと同じように左目にナノマシンを移植し、最強と言われるラウラに尊敬の念を籠めるように左目に眼帯をしました。しかし、隊長となったラウラはそんな隊員達に冷たく接し、罵倒し、遠ざけ、関係は最悪でした」

 

確かに転校して来たばかりのラウラの印象は近寄り難く、冷たい人間だからあまり接したくないと思った。

クラスに馴染む訳でもなく常に1人で行動し、誰も近づけなかった。

 

「そしてラウラはドイツ代表候補生となり、IS学園に転入しました。私はこれでも隊の中では最年長の23歳です。いくらラウラが隊員を遠ざけていても私はラウラの事が心配で心配でたまりませんでした。しかし私以外の隊員はラウラが日本に行って清々していました。それくらいこの部隊は最悪だったのです」

 

「………………」

 

「私は悲しかった。隊員にも……ラウラにも そして、何もできなかった自分自身にも……」

 

クラリッサさんの声は震えていた。

ちらっと顔を見てみると静かに泣いていた。

 

「でも……ラウラがIS学園に転入してしばらく経ってから、私のプライベート・チャンネルに連絡が来ました。何事かと思い急いで出てみると『好きな男を振り向かせるにはどうしたらいい?』と言われました……」

 

「えっ……?」

 

「私は一体何が起こったのか訳が分かりませんでした。織斑教官以外の人間には興味を示さず、ただ戦う事だけに生まれてきたラウラが……!『好きな男ができた』と言ってきたんです……!」

 

「それって……」

 

「あなたの事ですよ、桜萪さん」

 

クラリッサさんは涙を拭いながらオレの顔を見て微笑んだ。

 

「それから毎日ラウラは私に『食事に誘う時はどうしたらいいか』、『一緒に寝るのは問題ないか』等々……まるで別人のように話してきました。そればかりか私以外の隊員にも色々と質問をしていたようです。隊員も最初は何がなんだから分からなかったみたいですが、それでも見放さずに話を聞いていました」

 

「………………」

 

「そして、いつの間にかあんなに深かった蟠りは解けて、隊員全員がラウラの応援をしていました。そして……7月7日 ラウラから嬉しそうな声で『付き合う事になった!告白したのは桜萪だぞ』と言ってきました。もう私は嬉しくて隊員の皆に言って赤飯を炊かせた程舞い上がってしまいました」

 

そう言うとクラリッサさんはホントに嬉しそう笑い、残りの涙を人差し指で拭った。

 

「それからほとんどあなたの自慢でしたね。『かっこいい』とか『男前』とか『私は幸福者』とか……」

 

「ら、ラウラのやつ……そんな恥ずかしい事を……」

 

かっこいいとか男前なんて言われたのはかなり少ないから余計恥ずかしい。

第一声に言われるのは『可愛い』か『クール可愛い』だったし……。

てかクール可愛いってなんだ?

 

「ふふっ。桜萪さん、あなたのおかげでラウラは救われました。これからもラウラの事をよろしくお願いします」

 

「言われなくても、ですよ。オレはラウラから絶対離れませんよ」

 

ありがとうございますとクラリッサさんは言って空を見た。

 

「では私はそろそろ部屋に戻ります。話を最後まで聴いていただいてありがとうございました」

 

ペコリと頭を下げてクラリッサさんは立ち上がる。

 

「いえ、こちらこそ。貴重な話を聴けて良かったです」

 

「ふふっ。では戻りますね、おやすみなさい」

 

「おやすみなさい」

 

それだけ言ってクラリッサさんは一度も振り返らず兵舎の中に入って行った。

 

(……ラウラ、オレは何があってもお前から離れない。必ず守ってやる)

 

そう心に誓いながらオレは部屋に戻った。

 

◇◆◇◆

 

 

部屋に戻るとそこには混沌と化した世界が広がっていた。

 

「こらー!分かってるのか貴様等っ!」

 

「分かりました!分かりましたから落ち着いてぇぇ!」

 

……どういう事だ?

ラウラがオレのベッドで暴れているだと?

そして暴れながら女の子の1人を左腕で羽交い締めして右手で飲み物を飲んでいる。

 

「ね、ねぇ……?一体何があったの?」

 

オレは足元に倒れていた女の子を抱き上げて訊いてみる。

 

「そ、その……私達が持ってきたジュースの1つにお酒が混ざってたみたいでアハハ……。それを隊長が飲んでしまって……」

 

「今に至るってか?」

 

「……はい」

 

何そのラブコメであるマイナーな展開は……。

どうやったらジュースと酒を間違えるんだ?

 

「……ん?」

 

オレはラウラが右手に持っている酒のラベルをよく見てみる。

 

「……ドイツ語だから読めん」

 

ただそのラベルには可愛らしい黒ウサギのキャラクターが描かれている。

 

「……ラベル表記よりもキャラクターを選んだのか?」

 

ラウラって酒が弱いだけじゃなくて酒癖も悪いのか。

こりゃ将来は飲ませるのはダメ──って、何先の事を考えているんだオレは。

 

「んん?桜萪ぁぁ」

 

ラウラはオレに気がついたらしくフラフラと歩み寄って来る。

羽交い締めにされていた女の子は既にベッドの上で気絶している。

 

「桜萪ぁぁ……ヒックッ」

 

「だ、大丈夫かラウラ……?」

 

「心配な──ヒックッ」

 

「どこがだ。まぁとにかく皆さんは早く自室に戻っては?こいつはオレがどうにかしますから」

 

オレは部屋で疲れたように座っている(1人気絶)4人に戻るように促す。

 

「そ、そうさせてもらいます」

 

「では……おやすみなさい」

 

4人は気絶している1人を引きずりながら部屋から出ていった。

てか、せめて担いであげようや……。

 

「桜萪ぁぁ……ヒックッ。グビリ」

 

「こらラウラ、それは没収だ」

 

オレはヒョイッと右手に持っていた酒を取り上げる。

これ以上飲まれて暴れられてはシャレにならん。

 

「お、おい桜萪!それを返──ヒックッ」

 

「誰が返すか。代わりにこっちをやるから」

 

オレが差し出したのは全世界共通のジュース、コ〇・コーラだ。

ラウラはそれを受けとるとグビグビと飲み始める。

 

「お、おい!それ炭酸……」

 

「ゴクッゴッ──!?ゲホッゲホッゲホッ?!」

 

皆さん、炭酸ジュースの一気飲みはやめましょう。

 

「ほら言わんこっちゃない。んな炭酸の強いコーラを一気に飲むなよ……」

 

「う、うるしゃい!私は──」

 

するとラウラはそのままベッドに倒れこんだ。

コーラのペットボトルは倒れる寸前に受け取ったのでベッドとラウラに被害はなかった。

 

「スー……スー……スー……」

 

「……寝ちゃった?まったく、どんだけ酒弱いんだ?」

 

この1週間は気を付けてなければな……。

また同じ事があったら体がもたん。

 

「まぁとりあえず片付けるか」

 

オレは部屋に散らばった紙くずや空き缶、お菓子の袋をごみ袋に入れていく。

 

(ていうか……ラウラは説教してたんだよな?説教したくらいじゃこんなに部屋が汚くなる事はないし。もしかして仲直りしてどんちゃん騒ぎでもしたのか?)

 

否、それしか思えないぞこの散らかり様は。

 

だいたい10分くらいで部屋は片付いた。

あとはこの酔いつぶれて寝ているラウラなんだが……。

 

「なんか部屋に連れていくというのは些か抵抗があるな……しょうがない。今夜はここで寝かすとしますか」

 

そう呟きながらぐっすりねているラウラに布団をかける。

やべっ、寝顔テラカワユス。

 

「オレも寝るか……」

 

とりあえず部屋の照明を豆電球に切り替えてラウラの隣に寝そべった。

するとラウラの髪からふんわりとシャンプーの香りがして良い感じに鼻の奥を刺激する。

 

(めっちゃ良い匂いなんだけど──って!オレは変態かぁ!!)

 

只今ちょっと興奮してしまった自分に自己嫌悪中。

これでも15歳の健康な男子ですよ?

女性に興味がないとは言えないがいくらなんでも自分の彼女にぃぃぃっ!

 

(これは当たり前の反応なのか!?だ、だがしかし……!)

 

それからようやく寝付けたのは夜中の1時だった。

我ながらくだらない事で盛り上がってしまったトホホ……。

 

 

◇◆◇◆

 

 

次の日。

カーテンの奥の窓からは微かに太陽の光が差し込んでいる。

 

「ん……んぁ?……もう朝かよ」

 

起きたは良いが布団のぬくもりから離れるのが嫌なのでしばしボーッとします。

 

「……6時半か。だいたい5時間ちょいしか寝てないなコンチクショー」

 

ボーッとしながら苦悩するオレを尻目に我が麗しの銀髪紅眼の姫、ラウラはスヤスヤと可愛らしい顔で寝ている。

……ぴったりとオレに抱き着きながら。

 

「……どおりで身動きができない訳だよ。まぁ嬉しいから許すけど」

 

ていうかこんな可愛らしい顔でぐっすり寝てるところを起こすなんて、どんだけ野暮なんだよ。

 

(まぁ朝食まではあと30分近くあるしね。それまでは寝かせとこう)

 

そう思いながらオレは枕元に置いといた携帯の音楽プレーヤーを起動させて、お気に入りの歌をイヤホンで聴き始めた。

 

「ん……ふぁ~……」

 

音楽を聴き初めて5分くらいでゆっくりとラウラが眠たそうに目を擦りながらのそりと起き上がる。

それと同時にオレは音楽プレーヤーを切ってイヤホンを耳から外した。

 

「おはよう桜萪……」

 

「あぁ、おはようラウラ。頭は痛くないか?」

 

「……?ちょっとズキズキと痛む気がするんだが……あと胃の辺りがムカムカする……」

 

二日酔い、なのか? 

まぁ普段の生活なら飲まない酒を飲んだんだから気分も悪くなるわな。

 

「覚えてるか?ラウラは酒を昨日の夜に飲んじまったんだ。具合が悪いのはそれが原因だな」

 

一瞬何を言われたのか分からなかったのかラウラはポカーンとした顔でこちらを見てくる。

しかしようやく理解したのか次の瞬間にはどよーんとしてしまった。

 

「わ、私……未成年なのに飲酒をしてしまうなんて……軍人としても人間としても私は……ダメだ」

 

「ちょ、ちょいちょいちょい!そんなに落ち込むなって!間違えて酒を飲んだくらいで気を落とすなよ?誰だって失敗の1つや2つはあるさ」

 

でも酒を飲んだくらいでとこんなに軽く言うオレって……?

 

「こ、これじゃ桜萪に嫌われてしまう……」

 

ちょっと待てぇぇい!

オレがそんなちっぽけな事を気にするとでも思ってるのか。

てことで、後ろからラウラを抱き締めましたよ。

 

「えっ?!お、おい桜萪……」

 

「このバカタレ。オレがそんなちっぽけな事くらいでラウラが嫌いになるかよ。だからそんな心配はせんで良い」

 

そう言い終わった後にぎゅうっとちょっと強く抱き締める。

ラウラは抱き締めているオレの手を優しく握り頬をほんのり桜色に染めている。

 

「あ、ありがとう……桜萪」

 

そう言うとラウラは一旦オレから離れたと思いきや、次の瞬間にはおもいっきり抱き着いてきた。

 

「まったく。とんだ甘えん坊だな」

 

「桜萪がこうさせたのだぞ、責任取ってくれよ?」

 

「ハイハイ」

 

ラウラってやっぱりクーデレの部類に入るのか?

いつもはクールを貫いているのにオレと一緒にいる時はこうやってデレまくりだしな。

まぁかなり嬉しいから良いけどね!

 

 

──それからオレは私服に、ラウラは軍服に着替えてから朝食を済ませた。

そしてなんと!

クラリッサさんの計らいで今日はラウラと街へ行ける事になった。

この1週間は退屈な時間を過ごすと覚悟していただけにかなり嬉しい。

 

「さてラウラよ、私服は持ってないのかね?」

 

確か前にシャルロットと3人でショッピングに行った時に買ったと思ったんだが……。

 

「すまない。まさか休みを貰えるとは考えていなくてな。前に買った服は全て学園の寮のクローゼットの中に収納している」

 

ラウラの今の服装はバリッバリの軍服だ。

それも真っ黒くてかっこいいの。

 

「そういう事なら仕方ないさ。オレは私服でも構わないかな?」

 

一応兵舎の中や1人で街へ行くのにと用意していたから何着かある。

 

「無論だ、では10時になったら行くとしよう」

 

「分かった。んじゃ時間ちょい前にラウラの部屋に迎えに行くよ」

 

「了解だ」

 

そう言葉を交わしてちょっとの間オレとラウラは別れた。

今は9時23分だから10時までは時間は十分あるからシャワーでも浴びるとしよう。

 

「早く時間にならないかなー」

 

 

 

──9時57分。

 

「あっという間だったなオイ」

 

まぁいちいち気にしていたらきりがないからな。

考えるのはやめておくとしよう。

そして今はラウラの部屋のドアの前にいる。

時間的にも良い頃合いだから大丈夫だと思うが……。

 

コンコン。

 

「ラウラー、そろそろ時間だから行くよー」

 

2~3秒後にドアがガチャリと開きラウラが出てくる。

そして、その姿にオレは唖然とした。

 

「ら、ラウラ?その格好……」

 

「う、うむ。先程クラリッサが用意してくれてな。どうせならオシャレをと」

 

「おぉ」

 

ラウラが着ているのは黒のワンピースで可愛らしくフリフリがついているものだ。

いやー、ラウラってホントに黒が似合うよね!

 

さて、オレとラウラはクラリッサさんが運転する車で街まで送ってもらった。

それに迎えにも来てくれる事にもなって本当に助かります。

 

「それじゃあラウラ、色々と頼む」

 

生憎オレはドイツ語が読めないし話せない。

けどラウラとはこれからずっと一緒にいるのだから、ドイツ語は覚えなきゃだよな。

 

「任せろ。では行こう」

 

オレとラウラは仲良く手を繋いで街をブラブラ歩く。

それにしても……さっきから通り過ぎる通行人に見られるな。

なんか二度見されたり、写メ撮られたり。

まぁそんな事は気にしない。

 

「それにしてもさっきから通行人の視線が気になるな」

 

ラウラも思っていたのかちょっとため息混じりに呟く。

 

「まぁ別にいいんじゃね?他人にとやかく言われる筋合いは毛頭ないし」

 

何か変な事言ったらその瞬間オレは容赦なくそいつに天国を見せてやる。

 

「そういえば桜萪、私達がいるこの街の名前は分かるか?」

 

「確か……ローテンブルクだっけ?」

 

辺りを城壁に囲まれている観光都市で中世の町並みがそのまま残っている。

 

「本当に綺麗な街だよな。建物の屋根とかさ」

 

「無論だ。このローテンブルクはドイツが誇る観光名所でもあるからな」

 

そう言ってラウラは嬉しそうにふふんっと胸をはる。

 

「確かブレーメンの音楽隊とかも有名だよな」

 

「よく知っているな。あとはマイセンの陶磁器なんかも有名だ」

 

世界的にその名が知られているマイセン焼きは、ヨーロッパで最初に作られた本格的な陶磁器だ。

 

それから色々と街を歩いたオレ達はただいま昼食中。

ラウラはシュニッツェル、オレはハンバーグだ。

ちなみにハンバーグはドイツ発祥なんだZE☆

 

「めっちゃうまいなこのハンバーグ!さすが本場」

 

「桜萪、私のシュニッツェルもうまいぞ あ、あーん」

 

「あーん……んぐんぐ。うん、これもうまいな」

 

「そうだな、ふふっ」

 

バカップル?

ありがとうございます。

オレにとっては最高の誉め言葉だよ!

 

「この後どうする?」

 

「そうだな……。桜萪には色々と見せたいものがあるのだが、生憎場所が遠くてな」

 

「そういう事なら仕方ない。それにオレはラウラと一緒にいられるからどこでもいいしね」

 

「わ、私もだ……」

 

それにしても基地がこのローテンブルクからそれ程遠くなくて良かった。

もしベルリン寄りだったらここにこれなかったしな。

 

まぁ帰りはなんでもドイツ軍用飛行機で送ってくれるんだとか。

最初にクラリッサさんから聞いた時はマジでびっくりしたし……。

 

「ん?」

 

するとラウラが身を乗り出して何やらオレの後ろの方を睨んでいる。

 

「どうしたよラウラ?」

 

「ひったくりだ。まったく世話の焼ける」

 

そのひったくり犯はそのままオレとラウラがいるレストランのある方向へ走ってきているではないか。

 

「捕まえるか」

 

「何?」

 

「オレがあいつを捕まえる。運動がてらだ」

 

そう言い残しオレはレストランから出る。

犯人はどうやらナイフのような物を持っており、なりふり構わず振り回して通行人を脅しながら逃げている。

いやー、ドイツって比較的治安の良い国だと思うんだけどなぁ。

 

(仲間でもいんのか?まっ、関係ねぇケド)

 

気づくとオレと犯人との距離は15mまで縮まっていた。

こちらに気がついた犯人は何かを言いながら(ドイツ語だから分からん)ナイフを振り回して走ってくる。

 

「わりぃな。言葉分からんのだよ」

 

犯人の距離があと1mとなった瞬間、オレは左手でナイフの刃を掴んでへし折ると、間髪入れず右手で犯人の鳩尾(みぞおち)にパンチを決める。

 

「グォ──」

 

「ていっ☆」

 

鳩尾を押さえて苦しんでる犯人の腕を掴みそのままジャパンが誇る柔らの技『一本背負い』で犯人を投げ飛ばしフィニッシュ。

犯人は受け身をできずそのまま背中に衝撃を受けて気絶した。

 

「情けねぇな。それじゃこれは返してもらうよ」

 

言っても反応は無いがオレは犯人から盗んだバックを取り返し持ち主に返した。

その際になんか言ってたけど分からないからラウラに訳してもらっていた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「まぁちょっとハプニングが入ったけど楽しかったな」

 

「そうだな。あの時の桜萪の姿は……か、かっこよかったぞ」

 

oh……抱き締めてもよろしいでしょうか?

 

「ありがと。あ、そうだ。記念に写真を撮ろうよ」

 

「そ、そうだな。ではあの噴水を背にして撮ってもらおう」

 

ラウラは近くにいたおじいさんに頼んでカメラを預けた。

おじいさんはオレとラウラを見るとすごい優しい笑みでグッドサインを出した。

 

「それじゃあ撮ってもらおう」

 

オレとラウラは最初に手を繋いでピースして撮ってもらった。

 

「次は──」

 

「こうがいい」

 

するとラウラはオレの左腕に抱き着いてきた

……ドキドキハンパねぇ!!

 

「い、良いではないか。たまにこういうのも……」

 

顔を赤く染めながら上目遣いで言うラウラ。

めっちゃ顔が熱いよおいちゃんは。

 

「あ、当たり前だ。この甘えん坊め」

 

それからだいたい4枚程撮ってもらった。

そしてお礼を言おうと(言葉は通じないが)したらおじいさんはオレの肩にポンポンと手を置いてニコニコしながら言った。

 

「あんたらみたいな純粋なカップルは初めてみたよ。大事にしておやりよ」

 

……日本語ペラペラだとぉぉぉぉっ!?!?

 

「に、日本語分かるんですか!?」

 

「これでも4年前まで神奈川に住んでいたからねぇ」

 

「さ、左様ですか……」

 

こんなに流暢な日本語をペラペラと話すとは……。

ドイツ語の先生でもやっていたのかな?

 

「わ、私もまさか日本語が喋れるとは思っていなかった」

 

ラウラも意外な展開にドギマギしているみたいだ。

 

「ハッハッハッ。世の中は狭いものだね。それにしても本当に初々しいね」

 

「そ、そうですか?」

 

うーん、自分ではよく分からないな。

 

「あぁ、神奈川で見たカップルはもうひどいのなんの。男はチャラチャラのチャラ男で女はメイクしまくりのギャルが大体でねぇ」

 

チャラ男やギャルを知ってるって……意外とこのおじいさんミーハーなのか?

 

「あとはヤマンバギャルも見たね」

 

ヤマンバギャルとか……いつの時代の流行だよ!!

まだ存在してたのかよ!?

 

「いや~それにしても良いものを見せてもらった。これはそのお礼だよ。良かったら受け取ってくれ」

 

そう言っておじいさんはポケットから何かを取り出しラウラに手渡した。

 

「これは……」

 

おじいさんがラウラに渡したもの……。

それは2枚の羽のレリーフが彫られた金色のロケットだった。

 

「そのロケットは『エンジェル・ウイング』と言ってね。どんな厄災からも2人を守ってくれるんだ」

 

エンジェル・ウイング……直訳すると『天使の羽』……。

うん、そのまんまだな。

 

「それは僕が若い頃から持っていたものだけど、今の僕には持っていても意味はない。お守り替わりとして今まで持っていたけど、良かったら君達に受け取って欲しい」

 

そう言い残しおじいさんはカメラを渡して背を向けて歩き出した。

 

「君達の未来が太陽のように眩しく輝かん事を」

 

そう最後に言っておじいさんは人混みの中に消えていった。

 

「……太陽のように……か」

 

「良い人だったな」

 

「あぁ、そうだな」

 

それから10分くらいしてクラリッサさんが迎えに来てくれた。

オレとラウラは最後におじいさんが消えていった方向にお辞儀をして、ローテンブルクを後にした。

 

 

◇◆◇◆

 

 

最終日。

 

「お世話になりました」

 

「いえいえ、またいらしてください」

 

クラリッサさんはお土産にとソーセージとハム、バウムクーヘンをオレに渡してくれた。

いやー何から何まで申し訳ないッス。

 

「隊長もお元気で」

 

「うむ、引き続き隊を頼むぞクラリッサ」

 

「はっ」

 

互いに敬礼をする2人。

うん、めっちゃかっこいいです。

 

「櫻井さん櫻井さん」

 

「ん?」

 

すると隊員の1人が耳打ちしてきた。

 

「隊長から櫻井さんのメアドとISのP・Cの連絡先もらったんでいつでも連絡ください。何かあったら相談に乗りますから♪」

 

「へっ?は、はい」

 

ラウラめ……いつの間に教えていたんだ?

なかなか抜け目がないな。

 

「では隊長、そろそろお時間です」

 

「うむ。では桜萪、行こう」

 

「ん、分かった。それじゃあ皆さん、お元気でー」

 

「桜萪さんも隊長をお願いします。全員敬礼!」

 

ビッ!とクラリッサさんを含めた隊員全員が飛行機に乗り込むオレとラウラに敬礼をする。

 

「この1週間は楽しかったな」

 

「それは良かった。また……来ような。次はプライベートで」

 

「そうだな、約束だぞ」

 

飛行機はゆっくりと走りだしどんどん加速してふわりと宙に浮かんで飛び出した。

 

(クラリッサさん……おじいさん……あなた方との約束は必ず守ります)

 

こうしてオレの1週間のドイツ生活と夏休みは幕を閉じた。




本編とは異なるオリジナル展開をお送り致しました。
ちなみに、話に出てきたドイツの街は実在し、そこの童話や陶器もホントです。
いやー、中学の時の社会の教科書がここで役立つとは……
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