IS・ALUTIAUSS〈インフィニット・ストラトス アルティウス〉 作:ZERO式
──稀代の天才科学者、篠ノ之束による開戦宣言からはや半年が経過した。
ゴーレムシリーズをはじめ新型ISもどんどん実戦投入され、手を組んだ亡国機業のISも束によってチューンアップされている。
もともと兵器として開発・運用する事が禁止されていたため、完全兵器として束に開発されたゴーレムシリーズや、亡国機業のカスタムISの前には苦戦を強いられていた。
「──了解。もうそこは放棄して撤退しろ。命を無駄にするな」
連合軍総司令官──織斑千冬は静かに無線を切りドカッとイスに座って深いため息をついた。
目の下には濃いクマができており、十分に休息を取れていないようだった。
開戦当初、連合軍を指揮していたのはアメリカ軍だった。
しかし最初の軍事作戦『オペレーション・スターダスト』は失敗、莫大な損害と犠牲者を出したため、アメリカは信用を失った。
失脚したアメリカに代わり各国はISにはISを、天災には天才をという事で、初代ブリュンヒルデである織斑千冬を総司令官に任命しのだ。
「……半年か」
半年、この半年で世界はたった1人の“天災”によって滅びの道を辿っていた。
こちらに残されたISは全部で240機……100機以上が堕とされたのに対し、束側のISは主力の無人機と亡国機業のカスタムISの機体数は1000機近くも確認されている。
……もはや絶望的な状況だ。
──コンコン。
「入れ」
「失礼します」
「……ラウラか」
司令官室に入ってきたのはラウラだった。
腰まで伸ばしていた髪はバッサリ切られショートヘアになり、襟足部分の髪をヘアゴムで結っている。
そして何より変わったのは……やつの心だった。
「……ヨーロッパ東地区で戦闘していた第108部隊が壊滅した。どうやら新型の無人機が投入されたようでな、急襲された部隊はそのままやられたらしい」
「使えませんね」
ラウラは冷たい口調でそう吐き捨てた。
その瞳は凍えるような冷たさを持っており、蔑みと憎悪の感情も宿っているようだった。
「私ならそんなヘマはしません。あそこには30機近くの専用機と量産機が配備されていたはず。それにも関わらず負けるなど……同じISパイロットと思いたくないですね。不愉快です」
……自分の教え子の変わりように千冬はため息をつく事しかできなかった。
あの日──ラウラの恋人である桜萪は自分の身を呈して、核ミサイルからIS学園を守ってみせた。
だが、その代償はあまりにも大きく、ラウラの心を粉々に破壊してしまったのだ。
桜萪のお陰でIS学園は消滅を免れ、教師も生徒も全員無事だった。
だが、桜萪は熱波と衝撃波、機体の爆発により瀕死の重傷を負った。
右目は潰れ、全身複雑骨折、内臓はシェイクされ生きているのがおかしいとさえ思えるほどだ。
なんとか一命をとりとめたものの、桜萪は目覚める事なく今も病院の集中治療室で眠っている。
医者によると桜萪の体内から今まで検知した事のないエネルギー反応があるらしい。
そのエネルギーのせいで桜萪は目覚める事ができない他、エネルギーの正体も未だに不明だそうだ。
(アルティウスはあの爆発で完全に失われた。コアの反応も消えた。……だが桜萪の体内に宿っているエネルギーはなんだ?)
アルティウスが失われた今、エネルギー反応がコアだとは考えにくい。
第一、コアが人間の体内に宿るなど前例はおろか試した人間なんていない。
しかしそれ以外にあのエネルギーの説明がつかないのが事実である。
その事もあり千冬はここ最近まともに寝る事ができていないのだ。
「……話が反れましたね。我が黒ウサギ部隊から連絡がありその事を報告に来ました。私の新たな専用機『シュヴァルツェア・ヴォルフ』が完成しました。明日の早朝にはドイツから新型のステルス潜水艦で届けられるようです」
「……そうか」
「報告は以上です。失礼します」
ラウラは千冬に敬礼して司令官室から退室する。
1人になった千冬は冷めて口当たりが酸っぱくなったコーヒーを一口すすり、星1つない真っ暗な空を窓越しに仰いだ。
「……桜萪。いくらなんでも寝過ぎだ。とっとと起きんと許さんぞ」
ピィーッ……ピィーッ……ピィーッ……。
「………………」
薄暗い部屋に静かに響く電子音。
身体中に様々なコードを繋がれた桜萪は未だに目覚める事なく眠り続けていた。
「……桜萪」
かつてラウラが愛した男の顔には大きな痛々しい傷がついてしまった。
右目は装甲の破片によって潰れ、首筋にかけてまで縦一直線の深い傷が刻み込まれてしまった。
右目だけではない。
内臓も一部が人口臓器を移植され、身体中裂傷や火傷でボロボロだ。
「……桜萪。今日も良い天気だぞ?この部屋には窓がないから見せられないのが残念だ」
ラウラは桜萪が眠るベッドの隣にあるイスに座り彼の右手をそっと握った。
「今朝、私の新たな専用機が送られてきた。これでやっと私はお前の仇を討てる。待っていてくれ桜萪、お前をこんな目にあわせた連中を──1人残らず殺してくるから」
憎悪。
今の彼女を動かしているのはこの感情だった。
自分に仇なす者は誰であろうと殲滅する。
実際、ラウラはたった半年で連合軍IS部隊の中で国家代表と互角かそれ以上の強さを持つまでの異常な成長を遂げていた。
憎しみ・哀しみ・怨念・憎悪……ありとあらゆる負の感情によってラウラは恐ろしいまでの急成長をしたのだ。
同期であるシャルロットや箒達とは、もはやその力量は比べ物にならない程である。
事実、連合軍のエースはラウラと言っても過言ではない。
そう呼ばれる成果も出しており、部隊内での敵機撃墜数はトップクラスである。
そして相手が有人機の場合、ラウラは必ずパイロットを殺していた。
相手が降伏をして命乞いをしてもラウラは無慈悲に殺してきている。
そのせいで連合軍兵士からは『死神』、『隻眼の狼』と畏怖される始末だ。
「そうだ。もっともっと殺してやるんだ。そうすれば桜萪はいつか目覚めて誉めてくれるんだ。『よくやった』、『さすがだな』って。フフフ……アハハハハハッ!!!」
もう今の彼女には……かつての面影は1つも残ってはいなかった。
復讐鬼と化した今の彼女を止める者など誰1人としていないのだ。
……あの織斑千冬でさえも、だ。
◇◆◇◆
桜萪のお見舞いから帰ったラウラは司令部が入る建物の屋上から、星が瞬く夜空を仰いでいた。
右手には途中で自販機で買ってきた缶コーヒーが握られ、左手には新たな愛機の待機形態である赤いクリスタル状のペンダントが握られている。
「…………ふん」
ラウラはペンダントを一瞥しそれを首にかけてから缶コーヒーを一口飲んだ。
「隊長、こちらにいらっしゃいましたか」
「クラリッサか。どうした?」
副官であるクラリッサはタブレット型端末を操作しながらラウラの隣に立ち、端末に映るシュヴァルツェア・ヴォルフのデータを投影した。
「フォーマットとフィッティングは既に完了。機体稼働率も良好です。後は搭載している試作武装の実戦テストのデータが必要ですね」
「それは問題あるまい。明日、関東S地区の敵部隊を急襲する。私が考案した“ランブルデトネイター”、使わない手はないだろう」
クナイ型投擲徹甲榴弾──通称『ランブルデトネイター』はラウラが考案した、シュヴァルツェア・ヴォルフの固有装備である。
確実に目標を破壊し、抉り、殺すための武器で搭載数は拡張領域と機体収納部を合わせて、80本近くは収納されている。
「……隊長。桜萪さんはまだ……」
「あぁ。まだ意識は戻ってない。集中治療室で眠ったままだ」
そう言ったラウラの表情は暗く、赤い瞳には憎悪の炎が燃えていた。
右手に握られた缶コーヒーはグシャッと握り潰され、ポタポタとまだ残っていたコーヒーが手から零れ落ちる。
「私は許さないッ……!!篠ノ之束を、亡国機業を!!この手で奴等を絶対に滅ぼす!!」
「…………隊長」
目の前にいるラウラもう自分が知っているラウラではない、クラリッサは内心悲しんでいた。
隊員との接し方に関しては桜萪のお陰で改善されてはいる。
だが戦闘に関してはかつてないほど冷酷であり、殺す事さえ躊躇わない復讐鬼となってしまった。
「私は部屋に戻る。クラリッサ、お前はどうする?」
「私はもう少しここにいます。夜風に当たりたい気分なので」
「そうか。ではな」
ラウラは羽織っている漆黒のコートを翻して建物の中へと戻っていった。
クラリッサはラウラを見送り、見えなくなると先程のラウラと同じように、夜空を仰いだ。
「……もう戻れないのだろうか?隊長……ラウラ……」
◇◆◇◆
──翌日AM6:00。
連合軍の大型輸送機に乗ったIS部隊は目標である、関東S地区Aエリアに向かっていた。
その部隊メンバーの中にはラウラを始め、一夏や箒達IS学園メンバーもいる。
「……いよいよだねラウラ」
ラウラの隣にいたシャルロットはボソッとそう漏らした。
瞑想していたラウラはゆっくりと瞳を開けてスッと立ち上がり言う。
「シャルロット、奴等に慈悲は無用だ。確実に殲滅していくぞ」
「……うん」
シャルロットはラウラに見えないように少し暗い表情をした。
いくら敵でも相手には無人機だけでなく有人機がいる。
それを捕獲ではなくラウラは殲滅しようとしている。
確かに敵を許すことはできない。
けれど殺す以外にも道はあるのだ。
しかしラウラはそれを認めず、拒否し、確実に葬る事だけしか考えていない。
今のラウラは冷酷な戦闘マシン──親友であるシャルロットでさえそう思ってしまう程だった。
『間もなく作戦エリアに入ります。IS部隊は発進準備を!』
そのアナウンスにISパイロット達は輸送機のハッチに集結し、各々覚悟を決める。
そして、ゆっくりとハッチが開き始め、ラウラ達は一斉にハッチから飛び降りた。
「……全てを漆黒に覆い喰らえ──シュヴァルツェア・ヴォルフ!!」
胸元の赤いクリスタルが輝き、ラウラの体を漆黒の装甲が包んでいき、その姿を黒き鬼神へと変える。
両肩に搭載された大型プラズマレールガン。
刺々しく禍々しい機体装甲。
そしてサイドアーマーに設置されたランブルコンテナ。
その姿はさながら全ての命を狩りに来た死神のようであった。
【機体稼働率グリーン。全武装安全ロック解除】
「全機、兵器使用自由!奴等に正義の鉄槌を下してやれッ!!」
「……いくぞ、シュヴァルツェア・ヴォルフ。仇なす者は全てを喰らい尽くす!!」
ガシャンッ、とヴォルフの両肩に搭載された大型プラズマレールガン『シュネー・ヴァルツァー』がプラズマ弾を装填し、その砲口をこちらに向かってくる敵部隊に向ける。
「──発射」
2つの砲口から威力制限無しのプラズマ弾が発射され、目の前の敵を完膚なきまでに破壊していく。
桜萪の機体──アルティウス・ドライブリッツのデータを元に開発されたこのシュヴァルツェア・ヴォルフ。
言うなればこの機体はドイツ版アルティウスであり、その証拠に専用武装パッケージシステム『アルムシステム』を有してもいた。
【警告!敵IS計4機接近中!──ロックされました】
「ハッ。まずは貴様等が最初か。いいだろう、遊んでやる」
ラウラはペロッと唇をなめて両手にクナイ型投擲徹甲榴弾『ランブルデトネイター』を合計8本召喚し、展開する敵ISの2機に向けて投擲した。
「死ね」
パチンッ。
ラウラが指を鳴らした瞬間、敵ISパイロットの胸部と腕に迫っていたランブルデトネイターは、一瞬赤く光り大爆発を起こした。
AESC(Anti Energy Shield Coating)が施されたランブルデトネイターは、ISに搭載されているエネルギーシールドを無効化して大ダメージを与える。
対IS兵器であるこの兵器に牙を向かれたが最後──為すすべ無く喰われるだけである。
「そん、な……」
「腕が……私の腕がぁぁぁぁ!!」
ランブルデトネイターの爆発により1機は胸部装甲を完全に失い肉体まで抉り、1機は左腕の肘の付け根ごと喰われ大量の血をドバドバと流していた。
それを見てラウラは狂喜の笑みを浮かべ再びランブルデトネイターを2機に投擲する!
「ま、待って──」
「死ね」
パチンッ。
バゴォォォンッ!!
先程より多く放たれたランブルデトネイターの無慈悲な大爆発により、2機のISは完全に吹き飛び、パイロットもただの肉塊と成り果てて地へと堕ちていった。
ビシャッと返り血を浴びたラウラは顔に付いた血を拭い、ペロッとその血を舐めて笑った。
「まず2人……」
AESCが施されているのはランブルデトネイターだけではない。
シュヴァルツェア・ヴォルフに搭載された武装全てにAESCは施されており、この機体と相対したが最後、確実に喰われる。
もともとAESCはドイツが第二世代型世代の時に開発したものだ。
しかし、これは明らかに条約違反の武器であり使用するなんて言語道断。
開発プランは凍結され、開発は中止、試作された武器も封印されていた。
しかし篠ノ之束が反旗を翻し世界を滅ぼしかねない今、条約など無意味。
ドイツはAESCの封印を解き放ち、研究・開発を再開し第三世代型として完成したものをシュヴァルツェア・ヴォルフに搭載した。
もうISはスポーツではない……兵器なのだ。
「あれが……死神と呼ばれるドイツのISパイロット」
「なんだよあれ……」
味方である連合軍のパイロット達もラウラとヴォルフの戦闘能力に驚愕し、恐れた。
これが、同じ人間のする事か、と。
【無人機10機接近中】
「問題ない」
右手に光の粒子が集まり新たな武器が召喚される。
77式近接長刀・改『レバンティンⅡ』を構え、ラウラはスラスターを全開にして無人機──ゴーレムⅡに突っ込んでいく。
ゴーレムⅡは巨大なブレードを振りかぶるがラウラは、改良型AICを発動しゴーレムⅡの動きを止める。
そして胸部に深々と突き刺し、頭部に向かって一気に切り裂く!
刃が頭部を切り裂いた刹那、ラウラは刃をブレードフォームから多刃のシュランゲフォームにシフトチェンジさせ、自機に群がるゴーレムⅡをまるで紙のようにバラバラに切り刻んでいった。
【無人機全機撃破。シールドエネルギー残量90%。ダメージレベル問題無】
「無人機相手も飽きるな。やはり有人機に限る」
ドゴォォンッ!!
ラウラの背後にいた有人機。
だが攻撃も回避する間もなく自分の周りに“出現した”ランブルデトネイターにより、ISごと上半身まで吹き飛んだ。
まるで噴水のように勢いよく吹き出す血を浴びながらラウラは、レバンティンのシュランゲフォームで、未だ血を吹き続けている下半身を細かく切り刻んだ。
「フフフ……アハハハハハハ!!!」
◇◆◇◆
──戦闘開始から3時間、結果は連合軍の勝利という形で終局した。
敵IS軍は全ての無人機を破壊され、有人機も約8割近く失った。
捕虜として投降して捕まったり、ISを破壊されて捕獲されたパイロットもいる。
だが、それは数える程しかいない。
ほとんどの有人ISはシュヴァルツェア・ヴォルフを駆るラウラによって葬られた。
その数は50機を超える……。
「…………」
全身に血を浴びたラウラはポタポタと装甲と髪、顔から血を滴らせ、地面に転がる敵パイロットの死体をまるで害虫でも見るような目付きで見ていた。
そしてランブルデトネイターを1本その死体に突き刺し、指を鳴らして跡形もなく爆発させた。
「……弱い。弱すぎる」
燃え盛る地を歩きながらラウラは呟いた。
私は力を手に入れた……最強の力、絶対的な最強の力を手に入れた。
ラウラは内心そう思いながら高笑いをした。
「アハハハハハハッ!!もうすぐだ、もうすぐだぞ桜萪……!この力で残りの敵を葬ってみせる。そしたら桜萪は私の事を誉めてくれるんだ!笑ってくれるんだ!アハはハハははハハはッ!!すベテは優シく強い桜萪ノたメ、殺しテ殺シてコろシテやル!!」
「…………」
高笑いするラウラを鈴やセシリア達は遠くから見る事しかできなかった。
止める事などできない、今のラウラにはどんな言葉も通らないのだから。
「……見損なったわ」
踵を返して鈴はベースキャンプがある方向へと歩き出す。
セシリアはその鈴の腕を取り、待つように言った。
「何?」
「待ってください。ラウラさんを置いて行くわけには──」
「あれはラウラじゃないわ。復讐心に心を喰われた化物……人を笑いながら殺すような友人を持った覚えはないわ」
「それはそうですけれど……」
「けど、このままって訳にはいかないだろ?」
その一夏の言葉に鈴は怒り胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「じゃああんたにはラウラを元に戻せるっての!?救えるっていうの!?あの頃の、桜萪と一緒にいたラウラに!!ならやってみなさいよッ!!今すぐ!!」
「そ、それは……」
「できないくせにでしゃばるな!今のラウラを救える人間なんていないのよ!!」
鈴は涙を浮かべながら一夏の胸ぐらから手を離し、ぎゅうっと拳を握りしめた。
「……無理なのよ。私達でも無理。もう……ラウラは……私達の知ってるラウラじゃない」
その言葉に箒やセシリア、シャルロットは涙を浮かべ嗚咽を漏らした。
「……あの“バカ”しかラウラは救えないのよ。いつもラウラの隣にいたアイツしか……」
◇◆◇◆
「──ん?」
オレ──櫻井桜萪はへんてこな空間で目を覚ました。
雲1つない青空、鮮やかなコバルトブルーの海、白くどこまでも続く砂浜。
一見するとどこか南国のリゾート地を連想させるが、オレ以外に人は見当たらない。
しかも暑くないし砂浜に打ち寄せる波が足に触れても全く濡れていない。
「……ここどこだ?」
まずオレはなんでこんなところにいる?
こんなところに自分で来た記憶はないし連れてこられた記憶もない。
いや、待てよ?
確か前にも似たような事があったよな?
《気がついた?》
瞬きをしたその一瞬。
その一瞬で赤髪の少女が目の前に現れた。
白いワンピースに赤い髪、そうだ……思い出した。
以前に夢で会った女の子!
《……思い出した?会うのはあの時以来か》
少女はニコリと笑いかけこちらに近寄ってくる。
……よく見ると少女は海の上を歩いているし。
「えっと……ここどこ?」
《ここは夢、幻想。現実とは異なる空間。貴方の意識はこちらに直結している。覚えている?あの日の事を》
「あの日……。あの日……。ハッ!?」
そうだ、オレはあの日──束が核ミサイルを学園に撃ち込んだ日に……。
「オレは死んだのか?」
《否定》
そう言って少女はゆっくりと首を横に振る。
《貴方は死んでない。今も貴方は病院で寝ている》
あ、生きてるのね。
それを聞いてオレはホッと胸を撫で下ろす。
だって死んだって聞いたらここって天国という事になるじゃん!?
《……貴方は守った。自らを犠牲にして守りたいものを守った。けど……貴方はそれで満足?》
そう少女が言うとオレの周りにいくつもの画像が浮かび上がってきた。
「こ、これは……!」
《貴方が眠り続けて約半年。篠ノ之束率いるIS軍は世界各地に蹂躙しその猛威を奮っている。それに対し連合軍は苦戦を強いられて、このままじゃ世界は篠ノ之束に壊されてしまう》
少女は続ける。
《……私は篠ノ之束によって作られた。貴方の手足、力になるために。より速く、より高く貴方と飛ぶために。故に『ALUTIUS』──“より高く”飛び続ける貴方の翼。そして今、貴方は至った》
「君は……」
《私はアルティウス。真の名を『飛焔不知火』。さぁ我が主、櫻井桜萪。解き放て、我が第二の翼と力をッ!!》
少女の言葉と共に体が赤いオーラに包まれ力が体の奥底から湧いてくる!
そして、オレと少女は1つに溶け合い──。
《さぁ行こう我が主!叫べ、我が第二の名は──》
◇◆◇◆
「──なんだと……!?」
司令室に来た兵士の報告に千冬は座っていたイスから勢いよく立ち上がった。
当たり前だ、この半年間、集中治療室でずっと眠っていた桜萪が忽然と姿を消したのだから驚くのも無理はない。
「病室の監視カメラにも映っていない。しかも消えたとされる瞬間に病院内全ての監視カメラがフリーズを起こしている」
「しかし、フリーズしたのは10秒程です。その短時間で病院から出るなんて不可能ですよ」
「だが不可能な筈なのに桜萪は消えた。一体どういう事なんだ?」
今の桜萪には戦う力はない。
ましてや身体的に動く事すらままならない状態なのだ。
「失礼します!」
すると1人の兵士が新たに司令室に入ってきた。
様子から察するに緊急の報告らしい。
「報告します!ヨーロッパ東地区を占領していた敵IS軍が壊滅しました!」
「な、何ッ……!?」
ヨーロッパ東地区は最近新型が投入され陥落した敵地、そこが壊滅したなんて一体何が起きたのか。
千冬は様々な考えを巡らせながら兵士の報告を聞いた。
「そこに待機していた部隊はどこの部隊だ?まさか108部隊か?」
「いえ、108部隊は既に東地区から撤退しています。連合軍部隊は動いていないですし、ゲリラによる襲撃の可能性は低いです」
「ならばなぜ壊滅した!一体どこの部隊が勝手に動いている!」
「無人偵察機と衛星による映像があります。こちらをご覧ください」
そう言って映し出された映像に千冬は驚愕した。
たった1体……そう、たった1体の“深紅のIS”が群がる敵ISを圧倒的な力で撃墜していっているのだから。
機体は頭から爪先まで全身装甲だが無人機のような機械じみた動きではない、明らかに有人機だ。
だがそのパイロットの顔は、頭部を覆っているロボットの頭のようなハイパーセンサーによって、隠されていて見えない。
紅く光るツインアイ、頭部と頬の辺りから伸びるブレード状の飾り──さながらそれは人間サイズの小型ドラゴンであった。
そして右手には機体の全長以上の大きさのバスタードソードが握られ、迫り来る敵ISを異常ともいえる機動力と破壊力で一撃で撃墜している。
「このアンノウンはたった1機で敵IS軍を壊滅させ姿を消しました。しかも敵側の死者は0です……」
「………………」
これだけ圧倒的な力を持ちながら奴は誰も殺す事なくISだけを破壊し、無力化した。
大隊を投入してやっと犠牲者を出すか出さないかというのに、このアンノウンは……。
「し、司令!新たに中東エリアの敵IS部隊が壊滅しました!こちらも犠牲者0です!」
「アジア地区でもアンノウン確認!!」
続々と入る深紅のISの情報。
こんな機体、連合軍には所属していないし見たこともない。
ましてや束達を裏切った者とは考えにくい。
「……まさか……!?」
いや、それしか考えられない。
アイツが消えて間もなく各地の敵IS部隊が堕ち始めた。
そう、コイツは──。
「……起きるのが遅いんだ馬鹿者めが」
止まっていた2人の時が今──再び動き出す!!!