IS・ALUTIAUSS〈インフィニット・ストラトス アルティウス〉   作:ZERO式

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第17話 漆黒と深紅─後編─

──深紅のISが出現してから5日が経った。

連合軍はこの機体をコードネーム『スカーレットナイト』と呼称する事にした。

スカーレットナイトは今も単独で動いており、敵IS軍──ラビットのIS部隊をたった単機で潰している。

 

敵か味方か……スカーレットナイトは、連合軍にとってもラビットにとっても脅威であった。

 

私──織斑千冬は潰されたラビットの拠点の映像を見ながら、兵士からの報告に耳を傾けていた。

 

「またしてもスカーレットナイトです。しかもラビット側の死者はゼロ。単機でこれだけの力……異常ですよこれは」

 

連合軍は総力をあげてスカーレットナイトを追跡しているが、その足取りは依然行方知れず。

ステルスシステムを起動させているらしく、全く動きを掴めていない。

 

「……報告ご苦労。下がれ」

 

「ハッ!」

 

兵士を下がらせて私は新たにアルティウスと桜萪のデータを開いた。

 

「……スカーレットナイトは桜萪で間違いない。そして機体は……アルティウス」

 

だがアルティウスの固有武装アームズには装甲色が深紅になるものはない。

アームズ装備無しのノーマル形態は白、部分的に赤は入っているものの全体的なカラーリングは白だ。

だとすれば考えられる答えは1つ……。

 

「……桜萪の奴、至ったのか」

 

だとすればこの驚異的な戦闘能力の高さの説明がつく。

 

「……桜萪、今のお前ならできるだろう。ラウラを……自分の愛した女を救ってみせろ」

 

 

◇◆◇◆

 

 

戦闘により崩落したビル郡、炎上して変形した車両、そして黒く炭化した人間の成れの果て……。

僕──シャルロット・デュノアは親友であるラウラと共に、ある場所に来ていた。

 

この地区はラビットの襲撃で陥落した場所……だけど、つい2日前にアンノウン──スカーレットナイトによってラビットから解放された場所でもある。

スカーレットナイトの正体については未だ不明となっているけど、あの織斑先生が気付かないはずがない。

 

(急に消えた桜萪……そして急に現れたスカーレットナイト。どう考えたって桜萪じゃないか)

 

ではなぜ桜萪はこちらと合流しないで単独でラビットを潰している?

分からない……けど、桜萪が僕達の敵になる訳がない。

 

「…………」

 

ラウラは1人少し離れたところで現状の調査をしていた。

ラウラは既に桜萪が消えた事を知っている。

その時僕も一緒だったけどラウラの動揺は激しく、パニックになりかけた程だ。

今は大分落ち着いている様子だけど、実際の心情は分からない。

 

そして今回のスカーレットナイトの出現……もしかしたらラウラもその正体が桜萪という事を悟ってるかもしれない。

 

「ラウラ、何か見つけた?」

 

「いや、特に何も。ラビットのパイロットは全員拘束されたようだから、残党の反応もない」

 

そう言ってラウラは展開していた空中投影モニターを切って、持ってきていた飲み物を飲み始めた。

僕もそれにつられて水筒に入れていた水を一口口に含んだ。

 

「ねぇ、ラウラ。スカーレットナイトの正体って──」

 

「桜萪かもしれない、か?」

 

「……うん」

 

ラウラは水筒の蓋を閉めて近くに転がっていた瓦礫に腰かけて話し出す。

 

「かもしれない。だが、奴の正体が桜萪だと結びつけるのは安直だな」

 

「けど、ラウラだってそう思ってるんでしょ?」

 

「否定はしない。だが、こうも考えられる。スカーレットナイトは別人で桜萪が消えたと同時に現れたのは偶然。もしかしたら桜萪は奴等に拉致されたかもしれない、とな」

 

ラウラは続ける。

 

「拉致されたのであれば助ける。どんな手を使っても、どんなに犠牲を払ってでもだ。桜萪は私の全て……向かって来る者は誰であろうと何人だろうと、この手で屠るまでだ……!」

 

ラウラのラビットへの憎悪は計り知れない。

愛する桜萪に瀕死の重傷を与えただけでなく、拉致したともあれば……。

今のラウラは人を殺す事を躊躇わない。

以前にもラウラは言っていた。

 

『今は戦争中だ、殺らなければこちらが殺られる。情けは捨てろ。非情になれシャルロット、でなければ……死ぬぞ』

 

……確かにラウラの言う通りかもしれない。

今は戦争中、あの平和だった日常に戻る事はもうできない。

今のラウラの姿を桜萪が見たら何て思うのだろう……。

 

そんな事を思っているとラウラは座っていた瓦礫から立ち上がり、先へ先へと歩き出した。

 

「行くぞシャルロット。ここの生存者はゼロ、ラビットの残党もいない。長居は無用だ」

 

「あ、うん」

 

ラウラに呼ばれ僕は駆け足で彼女の後を追う。

 

この戦争、篠ノ之束率いるラビットに連合軍は──世界は勝てるのだろうか?

戦況は未だにラビット優勢、もしかしたら僕もどこかの戦場で死んでしまうかもしれない。

 

──いや、まだ死ぬ訳にはいかない。

僕は必ず生き残る!

そして、あの平和だった時が流れていたあの日常を取り戻す。

そして、彼に僕の想いを伝えるんだ……。

 

僕──シャルロット・デュノアは胸で煌めくペンダントを握りしめて、そう強く決心したのであった。

 

 

──同刻、午前12時34分。

山奥にひっそりと佇む古い教会があった。

人は既にここに住んではいないが、無人になってからまだ2年ほどしか経っていないので保存状態は良い。

 

そしてオレ──櫻井桜萪はそこに身を潜めていた。

 

《我が主。体調は大丈夫ですか?》

 

相棒であるアルティウス──不知火が心配する。

 

「大丈夫。まだ歩くのに杖が必要だけど」

 

オレの体は半年前の戦闘で大ダメージを食らってしまった。

身体中の骨折は完治したけどまだ歩行はフラフラ、医療用のロフストランド杖(病院から拝借)を使ってる。

不知火を纏えば補助・サポートしてくれるから関係ないんだけど、非戦闘時には必須です……。

 

《機体と“義眼”との接続も良好。コアとの同調具合も問題ないですね》

 

「あぁ、おかげでよく見えるよ。体もよく動けるし。あと数日もすれば杖も使わなくて済むな」

 

オレの右目はあの日に失った。

手術でなんとか義眼を手に入れ(目が覚めてから知った)、不知火とリンクする事でISネットワークと接続が可能になった。

おかげで右目の色が変わって今では金色になり、両目で色が違う虹彩異色になっちまった。

 

他にも……オレの体には不知火のコアが溶け合い、文字通り一心同体の状態になっているのだ。

 

なんでも不知火の言うにはオレを助けるためにはそうするしか方法がなかった、だそうだ。

ぶっちゃけ言えば今のオレはISと融合したトンデモ人間つー訳。

うーん、ISには未知の部分があるという事は知ってたけど、まさかこういう事になるとは思わなんだ……。

 

《恐らく私が初めてでしょうね。人間と融合したISなんて》

 

「でしょうね。あと人格を持ったISも」

 

《これもISの進化の1つと言えます》

 

そんな会話をしながらオレは焚き火にかけていたやかんを手に取り、そばに置いといたマグカップとカップ麺にお湯を注ぐ。

実はこの山を下りていくとどこかの食品会社の工場があり、そこから食料を調達している。

ちょいと戦闘により半壊しているけど、幸いにも工場内にあった食料は無事なものが多かったので、工場の人には悪いけど頂いております。

 

「………………」

 

オレは無言で右腕を前に突き出す。

すると複数の空中投影モニターが展開し、様々なデータと映像が映し出された。

1つは機体稼働率の数値、1つは戦況、そして、連合軍とラビットの戦闘の中継。

 

「……戦況は珍しく連合軍が優勢か」

 

《ラビット側の構成もゴーレムシリーズだけです。新型と有人機は確認できません》

 

「ラビット側──束からしたらそこまで重要なポイントじゃなかったのか?ゴーレムだけしか配備してなかった事を考えると……」

 

《ゴーレムシリーズにはバリアー発生妨害機能が搭載されています。無人量産型とはいえ並のパイロットからしたら厄介な相手ですね》

 

すると新たに人形サイズの女の子が投影された。

袖なしの服、ミニスカートと前がオープンになったオーバースカートのような形状の戦闘服を身に纏っている。

何を隠そうこの赤髪の少女が相棒である不知火のAIモデルだ。

 

《主が目覚めて今日で6日。ラビットが蹂躙していた都市のいくつかも奪還、そろそろあちらから攻めてくるかもしれませんね》

 

「束達からしたらオレと不知火は抹殺対象だからな。来たら来たでぶっ飛ばすだけだよ」

 

そう言いながら出来上がったカップ麺をずぞぞとすすり、マグカップに淹れていたインスタントコーヒーを飲む。

今はちょうどお昼、こっちだって食っていかなきゃ戦ってもいられん。

 

《服も調達する必要がありますか?》

 

「単独行動中の変装用には欲しいかもな。ま、今はこれでいいけど」

 

今はISスーツの上から黒の革ジャンと黒ジーパンという真っ黒服装だ。

これも食料と一緒に手に入れたもので何気に気に入っている。

今は戦争中、どうかご了承くださいませ。

 

単独行動についても今のオレがとても不安定な状態である故の行動だ。

オレはまだこいつの力に振り回されている状態、こいつのポテンシャルを活かせていない。

そんな状態で連合軍に加わっても味方を危険に晒す可能性がある。

 

「お前のモード、中々過激なんだよな」

 

《問題ありません。最初の時に比べたらかなり改善されています我が主》

 

そう不知火は言うが自分ではまだまだだと思うんだよな。

 

《……我が主。やはり彼女が気になりますか?》

 

「当たり前だよ」

 

半年前のあの日以来、オレは意識不明だったためにラウラとは一回も会話していない。

しかも目が覚めてからも全くだ。

 

目が覚めてからもラビットを潰すのに必死だったから、今のラウラがどうなっているかは知らない……。

 

「……ラウラにはちゃんと謝らないとだな。心配かけてごめん、って」

 

《そうですね。しかし……その前にやる事があります》

 

キッと不知火は崩れて空が見える天井を睨む。

刹那、2体のゴーレムⅢが高速で接近し、巨大なブレードで斬りかかってきた。

──だが。

 

「そうだな不知火。まずはこいつらをスクラップにしてからだな」

 

巨大なブレード、それをオレは“素手”で受け止めていた。

だがただの素手ではない、受け止めている手にはエネルギーシールドのピンポイントバリアが展開されている。

 

今のオレは言わば体がISそのもの……装甲を展開せずとも生身の体でエネルギーシールドを展開するなんて造作もない。

 

「オレを斃す気なら全戦力を投入して来いッ!!不知火ッ!!」

 

《はい、我が主!!武装形態、セットアップ!!》

 

その瞬間、オレの体は深紅の粒子に包まれPICによる浮遊が始まる。

 

「さぁて……お仕事といきますかっ!!」

 

 

◇◆◇◆

 

 

──スカーレットナイト出現から今日で1週間が経過した。

相変わらず単独でラビットを潰して行っては煙のように消えるという繰り返しだ。

 

「……どうするんですか篠ノ之博士?既に占拠していた都市が奪還されてますよ?」

 

亡国機業の幹部であるスコールはモニター越しに束へと訊ねる。

対する束はいくつもの空中投影キーボードを展開して何かを打ち込んでいる。

 

「……さすがだね。この束さんに牙を向けるなんて。中々思い通りにいかないもんだね、不愉快だよ……不愉快極まりないね」

 

歯軋りしながら束はそう言ってキーボードのエンターキーを弾く。

 

「けど、私を止める事はできないよ。私は天才科学者の篠ノ之束……いくらちーちゃんでも、いっくんでも、箒ちゃんでもこの私に歯向かうなら容赦しない。ふふっ、箒ちゃんも姉不幸な愚妹だよね。あんなにこの私が目をかけて専用機まで準備してあげたのに」

 

そう笑いながら言う束だがその目は笑っていない、それどころか蔑んでいる。

 

「お姉ちゃんに反抗する子にはお仕置きが必要だね。箒ちゃんのお友達みんな殺しちゃおっか☆その後沢山痛め付けてから私の実験体として利用するのもいいね」

 

まだ桜萪が意識不明だった時、束は箒を拉致しようと無人機部隊を送った。

箒は自分の大切な愛する妹、自分の味方をするに違いないという考えからの行動だった。

──だが、その思いはことごとく裏切られた。

 

送った無人機は全て箒やラウラ達IS学園専用機持ちに破壊されたばかりか、肝心の箒には姉妹の縁を切られた。

 

『あなたは──お前なんか私の姉ではない!去れ!このマッドサイエンティスト!大量殺人者がっ!!』

 

完全な拒絶。

この一言で束の箒への愛は憎しみへと変わってしまった。

もともと妹のために他国のISをジャックして暴走させるくらいの歪んだ愛。

それが憎しみに変わったとすれば……想像もしたくない。

 

「あははははははははは☆そうだそうだ、箒ちゃんの大切なもの全部壊してあげる。粉々にね!」

 

「…………」

 

狂喜の笑いを上げる束をスコールは冷めた目付きで見ていた。

 

(ふん。そろそろ潮時かもしれないわね。ウサギちゃんには悪いけど、利用するだけ利用させてもらうわ。切り捨てるのはその後でいいわ)

 

スコールにとっては束は軍備を増強するための駒でしかない。

束しか知らないコアの製造法もいずれ強制的に聞き出す事も決まっている。

 

亡国機業内でも束には秘密で独自にコアを解析し開発できないか研究中だ。

 

「それでどうするんです?次はどこを潰しますか?」

 

「……今邪魔な虫が数匹いるんだよね。まずはあの“出来損ないアドヴァンスド”を消しちゃおうかな☆連合軍のエースらしいからね……さっさと消しちゃおう」

 

束はキーボードを弾いて新たなモニターを出す。

 

「……プレゼントフォーユーだよ、“おーくん”?血ミドロのバラバラになったいとおしい恋人をね♪」

 

 

──同日。

私──ラウラ・ボーデヴィッヒは親友であるシャルロットと共に夕食を取っていた。

今日は本部からの命令で他部隊へ派遣され、そのまま待機となった。

 

スカーレットナイトが現れてから出撃回数がかなり減り、ここ数日は基地内待機が多い。

 

「上層部は何をしているんだ。他にも多数ラビットの拠点はある。なぜ殲滅作戦の許可が下りないんだ」

 

「ラビット側はこちらと違ってコアと新型を容易に開発できる技術があるし、規模も違う。殲滅作戦はリスクが高いよ」

 

シャルロットの言う事も分かる。

だがやはり私は奴等を殲滅しなければならないんだ。

今の私は過去の弱かった時とは違う。

障害となるものを全てを屠る力を私は手に入れた。

そして私はその力で亡国機業を、篠ノ之束を殺す。

 

「戦闘データを多く取れば取るほど私とヴォルフは強くなれる。アルムシリーズも開発できるしな」

 

アルムシリーズは桜萪の機体アルティウスの専用武装だったアームズシリーズを、ヴォルフ用に開発したパッケージだ。

大体がアルティウスのアームズをベースに作られているが、スペックはオリジナルよりは多少劣る。

 

だがそれも最初だけ、戦闘を重ねればその分だけ改良され最高の状態になる。

 

「次の戦闘では試作近接戦アルムを使う。シャルロット、サポート頼むぞ」

 

「うん、任せて。ただ気を付けてね?試作だとテストと実戦じゃまるで違うから」

 

「理解しているさ。抜かりはない」

 

そう言って私は皿に盛られていた肉を頬張り紅茶を飲む。

 

「……ごちそうさま。先に戻っているぞ」

 

「あ、うん」

 

まだ食べているシャルロットを置いて私は先に食器を片付け食堂から出る。

だが部屋にそのまま戻る気にはなれず、夜風に当たるために兵舎から出て私は何をするでもなくただ歩き始めた。

 

5月とはいえ風はまだ少し冷たく羽織るものが必要なくらいだ。

 

「5月か……。そうか、もう半年だものな」

 

篠ノ之束が開戦宣言をして私と桜萪が引き裂かれたのが去年の11月、それから半年も経過してもう5月だ。早かったようで長い……そしてそれは今も続いている。

 

星が煌めく夜空を仰ぎながら私は途中で買ったココアを飲んでその場に座った。

 

「……桜萪。私は、私は……」

 

なぜだろう、涙が止めどなく溢れてくる。

あの日以来泣いた事なんて一度も無かったのに。

もう絶対に泣かないと誓ったはずなのに……!

弱い自分は捨てたはずだったのに!

 

「……ったく。何泣いてんだよお前」

 

その声に私は涙も拭わずに振り返る。

 

「……オータム」

 

「おう」

 

そう短く返事をしてオータムは私の隣にドカッと座った。

知っての通りオータムは亡国機業の一員で立派な犯罪者だ。

桜萪との戦いに敗れて連合軍に拘束されていたオータムだったが、突然連合軍のパイロットとして戦いたいと言い出した。

 

元テロリストの言う事なんて信じられるか!という反対意見も多かったが、監視付きという条件で連合軍の一員として戦えるようになっている。

今は戦争中で1人でも戦力が欲しい、背に腹は変えられないという事らしい。

 

「らしくねぇな。いつもみたいな冷静冷酷な姿はどこへやら」

 

「……ほっとけ」

 

「ハッ。どれだけ見繕っても所詮ガキはガキだな」

 

オータムはケラケラとこちらを笑い、それに対して私は激しい怒りを覚えた。

だが次の言葉でその怒りは消えてしまう。

 

「お前にゃ荷が重すぎる。今のお前の姿を見たらアイツは──桜萪はどう思うだろうな?」

 

「……ッ」

 

「確かに憎いだろうよ。亡国機業が、篠ノ之束が。お前と桜萪を引き裂いた全ての悪が憎いだろうよ。けど、その手を血で汚すにはまだ早かったし、しちゃならなかった……」

 

オータムは先程とは違い真剣な表情で話し、そのまま続けた。

 

「ま、テロリストだった私が言えた事じゃねぇのは分かってるさ。けどな、お前は私とは違って未来があるんだ。その未来を血で汚す必要なんてないんだぜ?」

 

「……もう手遅れなんだ。私の手は既に血で汚れている。ならもう進むしかないんだ……たとえその先が地獄でも。私は……」

 

そう、もう後には戻れないんだ。

許されるなんて、救われるなんて思っちゃいない。

いずれ罰を受ける日が来る……覚悟はできている。

 

「──なら今ここで死ね」

 

「「ッ!!」」

 

突然この場に響く第三者の声。

私とオータムはすぐに立ち上がり周囲を警戒した。

 

「連合軍エース、ラウラ・ボーデヴィッヒ。裏切り者オータム。貴女達はここで死ぬのです」

 

そして暗闇から4人の女性と無人機が現れた。

女性達は紺色のISスーツを身に纏い、サングラスのようなバイザーをかけているため表情は分からない。

 

無人機に関してはゴーレムⅠでもゴーレムⅢでもない。

最近投入された新型機で今までのゴーレムシリーズとはコンセプトが全く異なっている。

──アームズを装備しているのだ。

 

連合軍はこの機体をコードネーム『ゲシュペンスト』と名付けた。

あくまでも連合軍側での呼び方なのでラビット側は不明だが……。

 

(……!おかしい、基地に連絡できないぞ)

 

「無駄だ。この基地のシステムは私達がジャックしてる。もちろんコア・ネットワークもな……」

 

……電子戦に特化した機体を投入してきた?

それとも束がウィルスを飛ばしているのか?

 

「悪いな。そうみすみすと殺られる訳にはいかないんでね」

 

「私もだ。あいつを──スコールをぶっ飛ばすまで死ぬ訳にはいかねぇんだよ!」

 

私達はそれぞれのISの待機形態を掲げて叫んだ。

 

「シュヴァルツェア・ヴォルフ!!」

 

「フッケバイン!!」

 

瞬間、2人の体が漆黒の光で包み込まれ、その光と同じような漆黒の装甲が装着される。

 

──第三世代型IS『フッケバイン』。

アメリカが開発した試作機体の1機で高速高機動を活かした戦闘を得意としている。

フッケバインを装着したオータムは両腰に装備された鎌のようなロングソード『フォルケイドソード』を抜き放ち構えた。

 

「来なッ!凶鳥(フッケバイン)の名は伊達じゃねぇぞ!」

 

そのオータムに背を預けながら私もレヴァンティンⅡを構え、左手にランブルデトネイターを展開する。

 

「ボーデヴィッヒ。こっちの無人機共は私に任せな。こいつ等は私の獲物だ」

 

「心得た。ならばこっちの有人機は私が潰させてもらう」

 

「……舐められたものだな。私達を斃せるとでも思ってるのか?」

 

こちらを鼻で笑いながらラビットのパイロット達はそろぞれに自身のISを装着する。

 

【第三世代型IS『夜雀』。搭載武装不明】

 

夜雀と呼ばれる機体は隠密に優れた機体なのか全体的にスマートなフォルムをしていた。

背部スラスターもウイングタイプではなくブレードベーンタイプである。

 

「──行くぞ」

 

その言葉と共に双方が激しくぶつかり合う。

私はランブルデトネイターを放ちながらレヴァンティンⅡで斬りかかるが、夜雀の機動力は高く中々当たらない。

一端距離を置いてレヴァンティンⅡを連結刃──シュランゲフォームにシフトチェンジさせ、改めて攻撃を仕掛ける。

 

「これが連合軍のエースか?笑止!」

 

連結刃を回避しながら夜雀は手裏剣のような武器をこちらに投擲してくる。

 

「この程度の攻撃を止められないとでも──」

 

新型AICを発動しようとした刹那、放たれた手裏剣はいきなり意思を持ったようにAICを回避し、不規則な動きをしながらこちらの装甲を抉った。

そして再びブーメランのように戻ってきて怯んでいた私を容赦なく攻撃してきた。

 

「ただの手裏剣とでも思ったか?」

 

「くっ……!」

 

手裏剣を両手でキャッチしながら夜雀のパイロットはニヤッと笑みを浮かべる。

すると他3体の夜雀がこちらを囲むように高速で動きながら、右手の銃口から数発のグレネード弾のようなものを放つ。

 

それを回避しようと上昇しようと刹那、グレネード弾が破裂しその中から捕縛用のネットが現れ、油断した私は無様にもそのネットで捕らえられてしまった。

 

「チィッ!!」

 

何とかネットを断ち切ろうするがあまりにも頑丈なため不可能、武装を展開しようとするがこちらもダメ。

──完全に封じられた。

 

「呆気ないな。これが我々が苦戦した連合軍のエースか?つまらん……」

 

「ま、所詮ガキって事よ。それに今コイツが消えれば私達を困らせるゴミがいなくなる」

 

「ならさっさと消しちゃおっ♪私、早く殺したくて仕方ないんだー」

 

すると夜雀の1人が何かを拾って近づいてきた。

──レヴァンティンⅡ、先程の手裏剣攻撃で落としてしまったやつだ。

 

「あはっ♪惨めだねー。ほんじゃまぁ──死ねよ」

 

ニコニコとした笑みから一変、邪悪な笑みを浮かべて夜雀はレヴァンティンⅡの連結刃で私を切り裂いた。

 

レヴァンティンⅡにもランブルデトネイター同様AESCが搭載されている。

もちろんエネルギーシールドを持つ私にも無慈悲に平等に──その牙は襲いかかってくるのだ。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

連結刃の攻撃によりヴォルフの装甲はズタズタに引き裂かれた。

しかも武装全てもだ。

その攻撃により私自身の体にもダメージを受け、体の至るところから血を流していた。

 

「どうよ自分の武器で引き裂かれる気分は!たまんないねぇ、イっちゃいそうだよ!アハハハハハハ!」

 

狂喜の笑い声を上げながら夜雀はレヴァンティンⅡを連結刃から通常モードに戻し、剣の切っ先を私の首筋に当てる。

首筋からはポタポタと血が滴り落ち、地面を赤く染めた。

 

折り畳まれたレールカノンを展開しようとするが、先程の斬撃で展開機構がイカれたみたいで片方どころか両方とも展開できない。

 

しかもランブルデトネイターも同様にだ……万事休すとはこの事か……。

 

「さて、どうやって殺されたい?首飛ばす?四肢を順番に切り落とす?それとも──」

 

「ペッ」

 

嬉しそうに話すパイロットに向けて私は唾を吐きかけた。

 

「舐めるなよビッチが」

 

「……オーケー。ならその顔をズタズタに引き裂いて皮ひん剥いて内臓引き出してやんよぉっ!!」

 

こちらの挑発にぶちギレたパイロットは握りしめたレヴァンティンⅡと、小太刀を抜いて襲い掛かってくる。

 

(ここまでか……ッ!!)

 

覚悟を決めて私は目を固く瞑った。

──だが、いつまでたっても攻撃される気配がない。

 

(……な、なんだ?)

 

固く瞑った目をゆっくりと開く。

そこにはこちらにレヴァンティンⅡを振りかざした状態で硬直している、夜雀とその剣を“素手”で受け止めている1人の男がいた。

 

「な、な、なぁっ……!?」

 

「……レヴァンティンの発展型か。オレのレヴァンティンよりフォルムが禍々しい気が……」

 

「あ、あんた──」

 

「とりあえず、返せ」

 

そう言って男は空いた左手から巨大な剣を展開して、夜雀の右手を切り裂いてレヴァンティンⅡを取り返した。

 

左手に握られた剣は今まで見たことのないものであった。

剣の柄の部分が拳銃の形になっており、一見するとそれはリボルバー拳銃とバスターソードが合体したような珍妙なものだ。

 

「くっ!死ね!!」

 

右手を切り裂かれた夜雀は男に向けて展開したマシンガンで発砲するが、放たれた弾丸は男に届く事なく“エネルギーシールド”によって弾かれていた。

 

「ば、馬鹿な……!」

 

「はい、おやすみ」

 

夜雀に向けて剣の切っ先を向ける。

すると切っ先にエネルギーが集束されていき、次の瞬間、切っ先から極太のエネルギーが夜雀に向けて放たれた!

 

真正面からエネルギー砲を受けた夜雀は防ぐ事などできずに、機体を破壊されて舞い散る木の葉のように地面に堕ちた。

 

「な、何故だ!この基地のシステムは我等が掌握していたはず!」

 

「ん?それはあれの事?」

 

男が見つめる視線の先、そこには無惨にも鉄屑と化した無人機の成れの果てが転がっていた。

 

「電子戦特化の無人機か。けど──」

 

男は長い髪をかき上げてその顔を見せた。

 

「この桜萪さんの敵じゃないね」

 

「お、桜萪……!!」

 

そう、私の目の前にいるのは紛れもなく桜萪だった。

髪型や服装は違うけど、間違いない……私が愛した桜萪だ!

 

「待たせて悪かったなラウラ。さてと……こっからは、オレが相手だッ!!!」

 

 

◇◆◇◆

 

 

こちらに武器を構えてジリジリと迫る敵IS。

オレ──櫻井桜萪は取り返したレヴァンティンⅡをラウラに返しながら彼女と言葉を交わす。

 

「ほら。自分の武器取られちゃダメだろ?」

 

「あ、あぁ……すまない。だが、桜萪、お前は──」

 

「いつまでごちゃごちゃ話している!!」

 

すると1機の敵──夜雀が展開した小太刀でオレに斬りかかってくる。

 

ガシッ!

 

その小太刀をオレはいとも簡単に右手で受け止めた。

 

「──ソード・ブレイク」

 

バキイィィィンッ!!

 

右手に力を入れてそう呟くと、相手の小太刀はまるで水溜まりに張った氷が割れるかのようにバラバラに砕けてしまった。

 

「素手でISの武器を破壊した!?」

 

「あ、ありえない!貴様、どんな手品を使った!」

 

あら、余計警戒させてしまった。

ま、1人残らず潰す事には変わりないからいいけど。

 

「手品ねぇ。まぁ出し惜しみするのも野暮だよね。なら……見せてやるよ」

 

そう言ってオレは左手を突きだし、開いた手のひらをギュッと握り締めて唱えた。

 

「汝、我の翼となりて悪神百鬼を討たせたまえ。燃やし尽くせ──焔帝『ディストライザー』!!!」

 

そう唱えた瞬間、体から炎のような深紅の光の粒子が溢れだす。

そしてその粒子と同じ深紅の装甲がオレの体に装着されていき、最後にオレの頭をも包みこむ。

 

光が収まった時には全身装甲のIS──アルティウス第二形態『焔帝ディストライザー』を身に纏ったオレがいた……。

 

《敵、投降する様子無し。むしろ逃げ出そうとしてますね》

 

不知火がハイパーセンサー越しからそう伝える。

 

「なぁに問題ねぇよ。逃がす訳ないからな!」

 

そう叫ぶと頭部ハイパーセンサーのラインセンサーが光り、さらにその奥の紅いツインアイが輝く。

 

「いくぞ!」

 

『Charge!!』

 

電子音と共に左腕の装甲がスライドし“展開装甲”が現れる。

同時に展開装甲からエメラルド色の粒子が溢れ出し、エネルギーが倍加されていく。

 

「そんなこけ脅しが通じるか!」

 

1体の夜雀がブーストしながら武器を展開して突っ込んでくる。

 

「……チャージ完了!『天閃』発動!!」

 

拳にエネルギーが集束されバチバチと紫電が走る。

オレは向かってくる夜雀の腹部目掛けてエネルギーが集束されたパンチを放った。

放たれた拳は深く夜雀の腹部に突き刺さり、その一発で装甲・武装の全てを破壊する!

 

ディストライザーの新たな能力その1、エネルギー倍加能力『天閃』。

天閃は紅椿の絢爛舞踏とは違い、攻撃力・防御力・機動力を底上げする機能だ。

使うには毎回チャージしなければならないけど……。

 

『Reset』

 

電子音と共にチャージされたエネルギーが通常モードにリセットされる。

リセットされると展開していた装甲が元の位置にスライドし、展開装甲が収納された。

 

「……作戦失敗だ。撤退するぞ!」

 

「了解!」

 

撃墜された仲間を見捨てて無事だった2機が離脱しようとブーストする。

 

 

「逃がす、かぁっ!!」

 

背部大型ウイングとスラスターを展開、フルブーストで接近する。

同時に新たな武器、多目的可変武装『ヴォルテクス』を呼び出し、バスタードソードモードで2機のスラスターを破壊した。

 

「嘘──」

 

「馬鹿な──」

 

「安心しろ。殺しはしない」

 

ヴォルテクスをバスタードソードモードからランチャーモードにシフトする。

刀身が2つに別れ折り畳まれ、中央から砲身が展開される。

 

砲身に高エネルギーが集束され深紅のビームが2機に向けて発射した。

発射されたビームは2機に直撃し完全に機体を破壊、パイロット2人はダメージと衝撃により気を失った。

 

「もう終わりか。今まで戦ってきた中でも一番弱い気がする」

 

《機体コンセプトが隠密型という事もあるのでしょう。後は純粋に我が主の方が強いからかと》

 

ディストライザーの装着を解除してオレはいつもの姿に戻る。

左肩には空中投影の不知火がちょこんと座っています。

 

「……そっちも終わったようだな」

 

そう言葉を洩らすと暗闇からスクラップになった無人機を肩に担いだオータムが姿を現した。

ノーダメージと言える状態ではなく、全身にそれなりのダメージを負っており、所々欠けている部分もある。

 

「まぁな。無人機ごときに元亡国機業の私が殺られる訳ねぇだろ」

 

乱暴に無人機を下ろしてオータムは身に纏ったISを解除し、こちらに歩み寄ってきた。

 

「……まさかてめぇがスカーレットナイトとはな」

 

「本当の名前は焔帝ディストライザーだ。オレも驚いたよ。まさかお前が連合軍に所属してるなんてな」

 

「ハッ。私はスコールをぶっ飛ばすために身を置いているだけだ。勘違いすんじゃねぇよ」

 

そう言っている割にはオータムは笑っており、こちらに手を差し出してきた。

 

「敵の敵は味方。そうだろ?」

 

「……あぁ。上出来だ」

 

ガシッと互いに握手するオレとオータム。

その後にオレは倒れているラウラを抱えて歩き出した。

 

「まずはラウラの手当てだ。オータム、基地に連絡してくれ。ジャミングはもうないから」

 

「はいはい」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「──そうか。オレが惰眠していたせいでラウラは……」

 

「桜萪は悪くないよ。瀕死の重傷だったんだんだから。今こうやって会話している事自体奇跡というか異常というか……」

 

オレは基地の屋上でシャルロットと2人きりで話をしていた。

ラウラはこの場にはいない、医務室で怪我の手当てを受けて自室で眠っているのだ。

 

ラウラのIS、シュヴァルツェア・ヴォルフもダメージが酷く、メカニック達が寝る間も犠牲にして急ピッチで修理を行っている状況だ。

 

そして今、シャルロットからオレが眠っている間にラウラに何が起きていたのかを聞いていた。

変わってしまった事、エースになった事、新たな専用機を手に入れた事……。

 

「……ラウラが変わってしまったというならオレのやる事は決まってる。以前のラウラに戻れるようにこれからずっとそばにいる、もうラウラを1人にはさせない。哀しませも──」

 

「本当に約束できる?」

 

するとシャルロットが真剣な表情でこちらを見据え、言葉を続ける。

 

「絶対にラウラから離れないって約束できる?言いたくはないけど、桜萪は2度もラウラの前からいなくなった。最初は核ミサイルの時、そして目が覚めた時……。ラウラにとって桜萪は自分の全て、かけがえのない存在。だからもし……またラウラを深く哀しませるような真似をしたら……」

 

そう言ってシャルロットはリヴァイヴの右腕とマシンガンを展開し、その銃口をオレの眉間に向けた。

 

「僕は絶対に桜萪を許さない……ッ!!その時は躊躇わずこのトリガーを引いて桜萪を……!!」

 

冗談でも脅しでもない、シャルロットは本気だ。

 

「あぁ、約束を破ったらそのマシンガンでオレを撃て。そして殺せ。それくらいの覚悟はできてる」

 

不知火、お前は何かを救うには何かを犠牲にしなければならないと前に言ったな?

確かにオレは身を犠牲にしてラウラ達を救う事ができた。

 

けど、その代償としてラウラの心を深く傷つけ、哀しませてしまった。

お前の言った事を今更全て否定はできない、一応はラウラ達を救う事ができたからな。

 

だがこれからは……犠牲を出さずに全てを救ってみせる。

もう自分を犠牲にしてなんて事はしない。

ましてや他人を犠牲にして救う事もだ。

 

お前はそんなの偽善者だと言った……けどな、動かないで口だけの偽善者より、それを実現させるために必死になって動く偽善者の方がマシだとは思わないか?

 

《……それが貴方の至った答え、ですか。ならば私が反対する謂れはありません。それでこそ我が主です》

 

不知火は微笑みながらそう言ってくれた。

 

「………………」

 

シャルロットは無言で右腕とマシンガンを解除し、俯きながらオレに……抱き着いてきた。

 

「えっ?ちょっ……」

 

「……おかえりっ、桜萪……!」

 

「……あぁ。ただいま」

 

 

◇◆◇◆

 

シャルロットと屋上で別れた後、オレはある場所に足を運んでいた。

両手には途中で買ったホットココアが2つ握られている。

 

目的の場所に到着し、オレは中に入った。

 

「……やっぱり起きてたか」

 

「……寝られなくてな」

 

そこには部屋の窓を開けて腰掛けるラウラの姿があった。

全身包帯だらけ、見るのもちょいと痛々しい。

 

「そっか。ほら、ホットココア。飲むだろ?」

 

「あぁ、すまない。ありがとう」

 

オレからココアを受け取り、ラウラはゆっくりそれを一口飲む。

つられてオレも一口ココアを飲んでラウラの隣に座った。

 

「……髪、切ったんだな。ちょいと驚いたよ」

 

「すまない……。せっかく桜萪が誉めてくれたんだが……」

 

「けど、今の髪型も似合ってる。綺麗だよ、ラウラ」

 

「…………ふん」

 

ラウラは再びココアを飲み、夜空に浮かぶ満月を見上げた。

 

「……シャルロットから聞いたのだろう?私の事を……」

 

「……あぁ。全部教えてもらった」

 

「そうか。……ならお前の目には以前の私ではなく、血に汚れた今の私が映ってる訳だ」

 

ラウラは自嘲するように吐き捨て左目の眼帯をほどく。

 

「……ラウラをこんな目に合わせたのはオレの責任だ。許してくれとは言わない……けど、これだけは言わせてくれ。オレは今もラウラを愛してる。これからもずっと、この想いが揺らぐ事は決してない。だからもう、ラウラを哀しませるような真似はしない。ずっとずっと、一緒だ」

 

「……こんな私でもか?復讐のために沢山の命を手にかけたこの私でもか?」

 

「あぁ、当たり前だ。目の前で泣いてる恋人をこれ以上泣かせる訳にはいかない。もう、哀しい涙を流す事はないんだ……」

 

ラウラの両目から止めどなく溢れる涙。

その涙はポタポタと頬を伝って流れ落ち、自身の手と袖を濡らした。

 

「桜萪ッ……桜萪ぁッ……!!」

 

「ただいま、ラウラ」

 

ラウラは涙を流しながらこちらに抱き着いてき、大きな泣き声を上げて泣き始めた。

 

「うあぁぁぁぁああああっ!桜萪ッ!桜萪ぁっ!!」

 

オレは泣き叫ぶラウラの体を優しく、強く抱き締めた。

もうラウラを1人にしない、絶対にこの手で守ってみせると誓いながら……。

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