IS・ALUTIAUSS〈インフィニット・ストラトス アルティウス〉   作:ZERO式

18 / 19
第18話 もう1人の自分

「──全く、半年間も寝ていたと思いきや突然姿を消し、挙げ句の果てにラビットのIS部隊を単機で潰すとは……お前は一体何様のつもりだ」

 

「……すみませんでした」

 

空中投影されたディストライザーのスペックや戦闘ログを見ながら千冬姉はこちらをギロリと睨む。

まぁ勝手に抜け出した挙げ句に1人で敵IS部隊を撃破していたのだから怒られても仕方ないっちゃ仕方ない。

オレの事を警戒してか又は司令官である千冬姉の警護だからか、入り口側には2人の兵士が銃を構えて立っている。

 

どうやら連合軍とラビットからオレはスカーレットナイトと呼ばれかなり警戒されていたらしい。

おかげで基地に入る時には基地に所属するIS部隊がわんさか出てきたかと思いきや、取り囲まれて危うく拘束されるとこだった。

 

「だがくどくど言っていても先には進まん。正直、連合軍側にとってお前が味方になる事はとても大きい。300機にも満たない量産型と専用機で何千というラビットのIS部隊と戦うには、1機でも強力なISが必要だ」

 

千冬姉は続ける。

 

「現在、戦況としてはお前が現れた事によって連合軍側がわずかに優勢だ。だがいつこれがひっくり返されるか分からんのも事実だ。大量の新型の有人機と無人機を開発できるだけの力を束はまだ持っている……だが残念ながら未だに奴と亡国機業がいると思われる拠点の発見には至ってはいない」

 

空中投影のモニターがディストライザーのスペックから今までに奪還・撃破した拠点や街の他に、先刻斃したゲシュペンストや夜雀のスペックデータが映し出される。

 

「ゲシュペンストに関してはお前の機体である不知火をラビット側が無人機にしたような機体だ。その性能はゴーレムシリーズを軽く上回っている。各地でもソードアームズやブラスターアームズを装備したゲシュペンスト部隊が確認されている他、不知火には無かったゲシュペンストオリジナルのアームズを装備した機体も出てきているようだ」

 

そう千冬姉が話すとモニターには各アームズを装備し連合軍側と戦闘を繰り広げるゲシュペンストが映し出される。そしてもう1つ、夜雀以外に新型の機体が映し出された。

 

「奴等には精鋭部隊が存在していてな。その部隊が使っている新型のISだ。名を『アストレア』、交戦し帰還した部隊からの報告によると、機体は第四世代型である可能性が高い。展開装甲が装備されているそうだ」

 

その機体アストレアのデータは少ないようで、映し出されているのは交戦中の映像や静止画ばかりだ。だが見るとその機体はオールラウンダーな機体らしく、大型近接ブレードやライフル系の武器で戦闘している。機体各所にバーニアが取り付けられ、機動性にも優れているようだ。

 

「こいつらは神出鬼没でな。相対した部隊の大体は被害甚大な上に民間人を拉致・誘拐しているようだ。しかもそのほとんどが女性だという」

 

「女性を……?一体何の理由で?」

 

「分からん。軍備増強のためかもしれん。今後の戦いにおいてその女性達がISパイロットとして投入される恐れもある。……その場合は現場のお前達に任せる」

 

……現場に任せる。場合によっては殺さなきゃいけない、そう千冬姉はオレに言いたいのだろう。だがなるべくなら──いや、利用されているなら救いたい。

そうオレが考えている事を察したのか千冬さんは口を開く。

 

「何かを得るには何かを犠牲にしなければならない。戦争とはそういうものだ。……桜萪、お前の気持ちは分かる。だが助からない場合どうする?」

 

「それは……」

 

「桜萪、辛いかもしれんが人間なんてそんなものだ。今こうして私達が話している間にも死んでる人間がいる、お前が戦っている時にも知らないうちに味方も敵も死んでいるんだ。全てを守り救うなんてのは偽善者が語るエゴだ。……だったら、お前は自分の守りたいものだけを守れ。私からは以上だ、下がっていいぞ」

 

「は、失礼します……」

 

 

◇◆◇◆

 

 

千冬姉との話が終わりオレは司令官室から出る。

すると扉の横の壁でラウラが腕組みをしてもたれかかっていた。

どうやらオレが出てくるまで待っていてくれたらしい。

 

「あれ、待っててくれたのか。すまん」

 

「問題はない、桜萪が謝る事ではないからな。教官──司令官はなんと?」

 

「とりあえず最初は怒られたけど無事に連合軍に入隊が決定した。あと配属部隊はラウラんとこだ」

 

「そうか……良かった、桜萪と一緒だ」

 

そう言って安堵したラウラはオレの手をそっと握り並んで歩き出した。

オレが現れて今日で2日が経過したが、ラウラの持っていた破壊願望や殺意、残虐性は嘘のように安定しているという。

 

だがその分、オレへの依存度がかなり高いらしく、常に傍にいるか近くにいないと精神が不安定になり、パニックを起こす恐れがあると軍医に言われた。

 

一度ラウラに何も言わずに部屋から出た事があった。

10分ほどで帰ってくるとラウラは涙を流し、ベッドの上でガタガタと頭を抱えて震えていた。

これがその不安定な状態でまだマシな方らしい。

 

(……この分だと部屋まで同室になりそうだな。今はシャルロットが同室だけど……)

 

けど今は戦争中、オレは志願兵だけどラウラは立派な軍人だ。

恐らく今のラウラでは前のように戦えなくなるどころか完全に足を引っ張る要因になってしまう。

それを考えると常にラウラの傍にいて依存度を減らすようにリハビリもしなくてはいけないかもしれない。

……その原因を作ったのがこのオレだ、責任は取らなくてはいけない。

 

そんな事を考えながらオレとラウラはシュヴァルツェア・ヴォルフが修理されている整備室へと赴いた。

中に入ると何人もの整備兵がヴォルフのハンガーに集まり、空中投影のパネルに何かを打ち込んでいる。

 

「あ、ボーデヴィッヒ中佐。ヴォルフの修理は完了しました!」

 

1人の若い整備兵がタブレット端末を片手にこちらに走ってくる。

そういえばラウラはいつの間にか中佐へと昇進していたらしい、この年で中佐とは驚かされる。

 

「ランブルデトネイターの搭載完了しました。あとはレヴァンティンⅡの修理も間もなく完了です。あ、櫻井中尉(・ ・)にもお伝えしたい事があります」

 

「え?中尉?オレが?」

 

「はい。司令官がそう仰っていましたので」

 

志願兵なのにいきなり中尉って……おかしくないか?

頭の上に疑問符を浮かべているオレに不知火が話し出す。

 

《我が主の力は他のISパイロットとは比べ物にはなりません。まず私を第二形態にしている事もありますし、ラビットの拠点や部隊を単機で潰しています。データを見る限り今のところ単機で拠点を制圧しているのは主のみです。それも含めて主の階級を定めたのでは?》

 

「なるほどね、ブリュンヒルデの言うことなら今の世の中誰も逆らえないしな。それで、オレに伝えたい事ってなに?」

 

「はい。中尉の現在の適正値を調べるように司令官から言われまして。その……中尉は第二形態に至ってるばかりかIS自体と融合していると聞いたもので……ではこちらへどうぞ」

 

整備兵に先導されオレとラウラは整備室から出て専用のモニタールームへと来る。

そこでラウラをイスに座らせオレはリング状の機械が設置された部屋へ移動し、ISスーツを着用してからそのリングの中に入った。

 

「では始めます」

 

「おうよ」

 

静かな駆動音と共にリングが稼働をはじめる。

だが肝心のリングが体を通過する事はなく、ずっと足下で止まっているだけだ。

 

「?」

 

ふとモニタールームの2人を見るがこちらと同じように疑問の表情を浮かべ困惑していた。

これはおかしいと思いオレはISスーツから着ていた黒い服に戻りモニタールームに入る。

 

「どうした?」

 

「計測が……できないんです」

 

「は?機械の故障じゃないの?」

 

「いえ、機械の方に問題は一切見受けられません。これは──」

 

「そもそもISとの適合具合を測るための適正値検査だ。……融合(・ ・)してしまっているならそれはつまり桜萪自体がISそのもの。ISをIS適正値検査にかけても意味はないだろう」

 

腕を組みながらラウラは話す。

カチャカチャとキーボードを叩いてラウラある数値を液晶画面に映し出す。

 

「これは桜萪の学園に通っていた時の適正値だ。値はA+、それが現在は計測自体ができないとなれば普通はIS適正が無くなったという事だ。だが桜萪は何の問題もなく不知火を使用している。だとすればIS適正が消滅したという仮説は自ずと消える」

 

「つまり、オレ自体が不知火そのものだから適正も何もないって訳か」

 

「そういう事だ」

 

「と、とにかく!この結果は司令官に報告します。ありがとうございました」

 

整備兵と別れてオレとラウラはPXに来ていた。

イスに座り2人でココアを飲んで一息つく。

……あの整備兵、まるでオレから逃げるように走っていったな。

額に冷や汗浮かべて引きつった笑いを浮かべて去り際に呟いていた……“人間じゃない”と。

 

「……人間じゃない、か」

 

「桜萪?」

 

そう小さく呟いたオレにラウラは不安げな表情を浮かべながらこちらの手をそっと握る。

 

「いや、普通の人間から見たらオレってどう映ってるのかなって。“ISと融合した人間”ってさ。端から見れば化け物なのかなって」

 

《我が主……》

 

「この体になった事に対して後悔した事も嘆いた事もない。あの時……不知火がオレの命を救うためにしてくれた事だしな。それにラビットと戦うためには必要だし、まぁ反応としては仕方な──」

 

「やっと見つけた!!」

 

「へ?」

 

突然PXに響くくらいの大声に思わず間の抜けた声を上げてしまう。

何事かと思い声のした方へ視線を移すと、見慣れたツインテールの女子が鬼の形相で──って!?

 

「り、鈴!?」

 

「こんのっ……バッカたれがぁぁぁッ!!」

 

驚愕するこちらをよそに鈴はISの右腕部と双天牙月を展開し、こちらに向かって振り下ろしてきた。

 

「ちょっ!えっ!?待て待て待て待て!!」

 

咄嗟に左手にエネルギーシールドを展開し鈴の双天牙月を受け止める。

足元の床が受け止めた衝撃により亀裂が入り、部屋全体も文字通り震えていた。

 

「……ッ!あ、危ねぇ!いきなり何だよ!?」

 

「うっさい!散々迷惑かけて心配させて!挙げ句に突然消えたかと思えばひょっこり現れて!!何様のつもりよアンタ!?救世主にでもなった気か!!」

 

怒り心頭の鈴は双天牙月を床に突き刺しこちらに容赦なく怒鳴り付ける。

そして気付けばいつの間にか正座して鈴の怒鳴りを受けていました。

 

「ま、まぁ鈴さん。鈴さんの気持ちもごもっともですけど、今はその辺にしておきましょう?」

 

鈴の背後から見慣れたカールした髪の女の子が姿を現した。服装がIS学園のヒラヒラが付いた制服とは違い、青を基調とした軍服を着ているが間違いない、セシリアだ。

 

「セシリアか?」

 

「はい、お久しぶりですね桜萪さん。こうしてまた出会えて嬉しく思いますわ」

 

にこっと笑顔を浮かべながらセシリアは怒り心頭の鈴を宥める。

よく見れば鈴もグレーを基調とした軍服を着ている。

 

「桜萪さんが戻ってきたという知らせを聞いたので鈴さんと一緒に参りましたの。桜萪さん、お元気そうで何よりですわ」

 

「こちらこそ皆には迷惑をかけたな、すまない。ところで一夏や箒達は?」

 

「別の任務中でここにはいないわ。簪と楯無さんも同じく」

 

「そうか、まぁ任務中なら仕方ないな。近々会えるだろ」

 

そう言いながらオレは近くにあったイスに座り小さくため息をつく。

あいつらもいたら色々と話したい事があったんだけど残念だな。

 

「あとこれ」

 

鈴はこちらに黒光りする鉄の塊を差し出してくる。

……銃の実物を持つのは初めてだな、相手が持ってるのは何度も見てるけども。

その銃を鈴から受け取り、一緒にプラスチック性の専用ホルスターも受け取った。

 

「それ持っておきなさい。護身用と対人戦では必要よ」

 

「軍に身を置く身なら当たり前か。……正直こいつがいればオレは構わないんだけど……」

 

ぼそっと呟きながらオレは右腕をIS装甲化させる。

焔帝ではなく不知火の方だ。

同時に右肩の上に不知火のメンタルモデルが映し出される。

 

《私を使えない事態が起きた場合に必要になる時もあるでしょう。持っていても邪魔にはならないはずです》

 

「へえ……。これがアルティウスのAIモデル?ISにこんな進化の道もあるとはねぇ」

 

《新たな名前は飛焔不知火といいます。不知火とお呼びください》

 

ペコリと不知火は鈴とセシリアに頭を下げて挨拶する。

……ホントにISらしからぬ奴だよコイツ。

 

「よろしくっ。あ、そうだ。紹介したい仲間がいるんだった、おーい、こっち来てー」

 

PXの出入口に向かって鈴は手招きして誰かを呼ぶ。

すると奥から1人の女の子が現れた、よく見ると首には何か機械のチョーカーのような物が巻かれている。

そしてその女の子は──オレにそっくりだった。

 

「なっ……!?」

 

「桜萪がもう1人!?」

 

驚愕するオレとラウラをよそに目の前にいる女の子は口を開いて自己紹介を始めた。

 

「……ステラ・ミルカ。見た通り私はあなた──櫻井桜萪のクローンです、性別は変わってますけど」

 

しれっと無表情で女の子──ステラはこちらに手を差し出す……どうやら握手を求めているようだ。

 

「あんたが思ってる通りステラは篠ノ之束が造ったあんた自身のクローンよ。ラビットの尖兵として私達の敵だったのだけれど、篠ノ之束に疑問を抱いてこっちに寝返ったそうよ」

 

「ただ元ラビットのISパイロットなので、織斑司令の命令で首には遠隔操作で爆発する爆弾搭載の拘束具を装着してもらっていますわ」

 

「いやー、どうやら簡単には信じてもらえないみたいで。あ、大丈夫ですよ?この拘束具が付いている限り、作戦以外でのIS展開は自分で勝手にできないようになってるんで。あとは監視用ナノマシンも体に注入されてるんで、自分で自分の命を危険に晒すような事はしないんで」

 

あははー、とこれまた無表情に話し出すステラにたじたじなオレとラウラ。

それよりもまず束は何故オレのクローンを造ったのだろう?

 

様々な思考を巡らせていると突然耳をつんざくような警報音が基地内に鳴り響く。

 

《コンディションレッド発令!コンディションレッド発令!旧IS学園地区にラビットのIS部隊が出現!現在105警備部隊が交戦中、応援の要請あり、専用機持ち部隊は至急発進せよ!繰り返す──》

 

「桜萪ッ!」

 

「あぁ、行くしかないだろ。鈴、セシリア、ステラいいな?」

 

3人はコクンと頷きPXにある出撃カタパルトと直結するシュートトンネルへと向かい、勢いをつけてその中に入り込む。

3人に続いてオレとラウラもその中へと入り、トンネル内をすごい速さで滑っていく。

カタパルトに到着すると同時に全員がそれぞれのISを展開・装着する。

 

そしてステラの専用機──『ナイトレイド』は鋭角的なフォルムで肩と膝には大型のブレードベーンが搭載されており、その漆黒の装甲色や赤い頭部センサー色と相まって凶悪な機体に見える。

 

《第四世代型近接特化機体『ナイトレイド』。どうやら篠ノ之束製の機体のようです》

 

「あ、機体は連合軍の方でくまなく調べ尽くされてるのでご心配なく。この首と同じく裏切るような事をしたらボンッ!といくようにされてますから」

 

「そうか……。あまり嬉しくない情報だけどな」

 

「いえ、この対応は適切です。完全に信じられていないのは仕方の無いこと、ならば私は皆さんに信じて頂けるように全力でラビットを潰すだけです」

 

決意の籠った眼差しでステラはオレ達の目をまっすぐ見つめる。

 

「……かつての仲間を殺す事になってもか?」

 

「愚問ですねオリジナル(・ ・ ・ ・ ・ )。それはラビットを抜ける時に既に覚悟できています。私の目標はラビットの殲滅と篠ノ之束の命、ここへ来る前にも仲間をを何人か手にかけてます」

 

そう言いながらステラは一振りの近接長刀『ヴァルキリー』を右手に召喚しカタパルトへ向かう。

 

「ステラ・ミルカ。ナイトレイド出ます」

 

電磁カタパルトによってステラは勢いよく加速しながら出撃する。

それに続くように鈴やセシリア達もISを展開し、電磁カタパルトから出撃していく。

 

「不知火」

 

《はい。武装形態!》

 

不知火の言葉と共に体が深紅の粒子に包まれ、IS装甲が形成され装着されていく。

最後に頭部ハイパーセンサーが装着され、バイザー奥のツインアイセンサーが光る。

 

《焔帝ディストライザー展開完了。オールグリーン》

 

「上等。それじゃラウラ……行くか」

 

整備兵から修理が完了したシュヴァルツェア・ヴォルフを受け取り、ラウラは展開・装着する。

その手には近接武器レヴァンティンⅡが握られている。

 

「あぁ、行こう桜萪!」

 

「おう!櫻井桜萪、ディストライザー出るぞッ!!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、シュヴァルツェア・ヴォルフ出るッ!!」

 

 

オレ、ラウラの順で電磁カタパルトから勢いよく出撃する。

外に出た瞬間背部ウイングスラスターと脚部スラスターの出力を上げ旧IS学園へと向かう。

 

一体束はIS学園に何の目的があって襲撃してきたんだ?

まぁいいさ、世界を滅ぼそうとしている奴等は例え束でもぶっ飛ばすだけだ!

 

 

◇◆◇◆

 

 

時刻は14時を過ぎた頃、だがその空は日を差す事はなく鉛色の雲によって遮られ薄暗い。その中でかつて生徒達の授業や訓練で賑わいを見せていた人口島──旧IS学園上空では連合軍とラビットとの激戦が繰り広げられていた。

 

「アルファ3撃墜!イーグル5とイーグル2被害甚大、戦闘継続不能!」

 

「くそっ!持ちこたえろ!ここを落とされる訳にはいかない!」

 

アメリカの射撃型第三世代機『ホーネット』を駆る女性は、2門のガトリングガンを両手で構え、迫り来るラビットの新型IS──ゲシュペンストに向けて銃弾の嵐を叩き込む。

 

だがゲシュペンストはその攻撃をものともせずに背部バインダーに携えていた両刃剣『テンペスト』を抜き放ち、瞬時加速をしてホーネットへと一気に迫る。

 

「しまっ──」

 

ゲシュペンストがテンペストを振り上げた刹那、突然ゲシュペンストの腕が握られていたテンペストごと通過した深紅のビームによって蒸発する。

すぐさまゲシュペンストはビームが発射された方へと向きを変えるが、次の瞬間には胴体を真っ二つに切り裂かれ爆散した。

 

「な、なんだ!?」

 

『ルシファー4からアルファ1へ。後はオレ達に任せて傷付いた仲間達を援護しつつ後退しろ」

 

「わ、分かった!」

 

そう言って隊長は展開していた部隊に命令し後退を始める。

それを見届けオレ──櫻井桜萪は敵ISであるゲシュペンスト部隊へと向き直る。

 

「さて、と。無人機とはいえパクり機体なんかにオリジナルが負けてらんないよな!」

 

『Charge!!』

 

電子音と共に左腕の展開装甲がスライドし、エメラルド色の粒子が溢れエネルギーが倍加されバチバチと紫電が走り、拳の前にエネルギーが集束されていく。

 

5体のゲシュペンストが己の武器を構えこちらに向かってくる。

 

『天閃発動』

 

「くらいやがれ!『ディバイディングスマッシャー』!!」

 

拳を前へと勢いよく突き出した刹那、集束されたエネルギーがビームとして前方へと放たれた。

向かってきていた5体のうち、3体に直撃し爆散する。

残りの2体もダメージは食らってはいるが、まだ戦闘続行が可能なようで構わず向かってくる。

 

「チッ!」

 

「任せろ!」

 

「葬ります」

 

そう言ってラウラとステラは互いの近接武器であるレヴァンティンⅡ、ヴァルキリーで残り2体のゲシュペンストを切り裂き撃破する。

 

「さすが第二形態に至っているだけあって大した威力ですねオリジナル。私のナイトレイドでも一気にまとめて3体は難しいです」

 

「誉めてくれるのは嬉しいけどそのオリジナルってねやめてくれない?」

 

「ならルシファー4で」

 

「あいあい、そっちの方がマシだ」

 

そんなやりとりをしながらもゲシュペンストからの攻撃を回避し、仕掛け、撃破する。

あぁは言っているがステラもかなりの実力の持ち主だ。

 

「一斬必殺。葬ります」

 

ブラスター装備のゲシュペンストからの砲撃を確実に回避しながらステラは多角的な動きで敵を翻弄する。

そして懐に入りこみ、逆袈裟でゲシュペンストを一刀両断した。

 

「こちらも負けてられないな!」

 

対するラウラもレヴァンティンⅡをシュランゲフォームへとシフトし、ゲシュペンストの装甲や武装をズタズタに切り裂いていく。

反撃しようとゲシュペンストはエネルギーライフルを構えるが、それよりも先に胸部装甲に2本の刃が突き刺さる──ランブルデトネイター。

 

パチンとラウラが指を鳴らせば、ランブルデトネイターは大爆発をお越し、ゲシュペンストのボディを完全に破壊した。

 

「ルシファー1、目標撃破」

 

「こちらステラ。同じく目標撃破しました」

 

通信モニターから2人が映し出され状況が報告される。

2人とも損害は軽微で戦闘続行に問題はなさそうだ。

 

セシリアや鈴達も善戦しており、問題なくゲシュペンストを撃破している。

ラビットとの戦いを潜り抜けてきたのは伊達ではないという事が伺える。

 

ちなみに、ルシファーというのはラウラが隊長を務める小隊の事だ。

ラウラのシュヴァルツェア・ヴォルフ、クラリッサさんのシュヴァルツェア・ツヴァイクの他にあと2機いるらしい。

 

だがクラリッサさんのツヴァイクは前回の戦闘で大破してしまい、もう1機も撃墜されてしまったらしい。

よってその補充としてオレはこのルシファー小隊に配属になったらしい。

ラウラによるとステラも同じようにルシファー小隊に配属になるみたいだ。

 

「──こちらルシファー1。展開していたゲシュペンスト部隊は完全に撃破した。だが増援が来ないとも限らない、引き続き周辺の警戒にあたる」

 

「ルシファー4からルシファー1、了解。こっちの方は──」

 

《我が主!!》

 

「ッ!!」

 

不知火の声に咄嗟にオレは右手の大剣ヴォルテクスをシールドモードにして前面に展開する。

展開した瞬間、黄色のビームが直撃しわずかだがヴォルテクスの装甲を焦がした。

 

《未確認機5体捕捉。距離200m!》

 

「新手か!」

 

ビームが発射された彼方、そこには不知火が示す通り5体のISが確認できた。

しかも無人機ではなく有人機、そしてその機体には見覚えがあった。

 

《データ照合──完了。ラビット第四世代型アストレア》

 

「……どうやら本命のお出ましのようだな」

 

ヴォルテクスをシールドモードから本来のバスタードソードモードへ変形させ、じっと静かに空中に展開する5機を見据える。

ラウラやステラ達も武器を構えオレの左右に展開する。

 

先に動いたのはあちら側だった。

3機が両手に大型近接ブレードを展開し瞬時加速で急接近してくる。

後衛の2機は肩から長大なビームキャノンを展開し砲撃をしてきた。

 

アストレアの1機の初撃をヴォルテクスで受け止め鍔迫り合いに持ち込む。

改めて機体を見るが装甲は流線形をしており、スカートアーマーが鋭角的な形状をしている。

カラーリングも白と金に統一され、その姿は神々しい女神にも思えた。

 

「櫻井桜萪、あなたの存在は危険過ぎる。マスターの悲願達成のためあなたを抹殺します」

 

栗色の髪をしたアストレアのパイロットは淡々と話す。

 

「精鋭部隊自ら殺しに来てくれるとはね。けど、簡単に殺されてたまるかよ」

 

テールブレードで攻撃を仕掛けるが、ブレードが当たる寸前に敵は距離を置き攻撃を回避する。

チラっとラウラやステラ達へ視線を移すが、苦戦はしているが負けているようには見えない。

 

「連合軍エースのラウラ・ボーデヴィッヒ。死神と呼ばれる貴女とは是非戦ってみたかった。今度は私が貴女の魂を狩ってごらんにみせましょう」

 

「ハッ!そう簡単に狩られてなるものか」

 

「クローン風情が束様を裏切りおって。生んで頂いた恩を忘れたか」

 

「誰も生んでくれとは頼んでいません。何でもかんでも親に言いなりなクソな道よりも自分で選んだ道を進む方が有意義です。あなたも来ますか?」

 

「ほざけ!」

 

ステラはナイトレイドの右脛部展開装甲を展開し、緋色のビーム刃を発生させる。

敵アストレアに蹴りによる斬撃で攻撃を仕掛けるが、敵パイロットも相当な実力らしく持っていた大型近接ブレードを逆手に持ち直し、ステラの斬撃を防いだ。

 

「無駄だ。貴様と私では実力は私が上!クローン風情に負ける訳がない!」

 

「よく回る舌をお持ちのようですね。不愉快です」

 

ステラは脛部展開装甲を収納すると右手に持っていたヴァルキリーの切っ先を相手に向け、切っ先に左手を添え左足を前に出した構えを取った。

 

「なんだその構えは?」

 

「──辺獄烈火(ベルフェゴール)発動」

 

そうステラが静かに呟くとナイトレイドが漆黒色の光に包まれる。

そしてヴァルキリーの刀身は光ではなく“漆黒の炎”が燃えていた。

 

「な、なん──」

 

「遅い」

 

敵が反応するよりも早くステラは瞬時加速しスピードの乗った状態で、ヴァルキリーを持っていた右腕を敵へと突き出す。

敵は咄嗟に左腕にエネルギーシールドを展開するも、そのシールドは文字通り“漆黒の炎”によって燃え散らされ、防御していた左腕もステラが放つ高速の突きで破壊された。

 

「そ、それは……零落白夜!?」

 

「正確には違います。零落白夜は己のシールドエネルギーを糧にして相手のエネルギーを消滅させる能力。しかし、辺獄烈火(ベルフェゴール)は対IS用単一仕様能力。その能力は自分に敵対する機体を燃え散らす(・ ・ ・ ・ ・)。そう、エネルギーシールドもろともね」

 

無表情でステラは淡々と己の機体の能力を説明する。

そしてよく見れば敵のアストレアがメラメラと黒い炎に包まれ、燃えていた。

 

「な、なんなんだこの炎はぁぁぁぁ!?」

 

「言ったでしょう?エネルギーもろとも機体を燃え散らすと……正確にはISのコアを、ですけどね。ISの原動力にコアが使われている以上、機体はコアと共にその業火によって燃え散らされます。それに人間が乗っているなら……分かりますよね?」

 

ステラは冷笑を浮かべ敵のアストレアパイロットに問い掛ける。

その意味を理解した敵パイロットは目を見開き、叫びながら機体を燃やし続ける漆黒の炎を消そうともがき苦しむ。

 

だが、その炎は消えるどころか勢いを増しどんどん機体とパイロットを燃やし続ける。

 

「き、消えない!消えない消えない消えない!お願い!この炎を消してぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「目には目を歯には歯を、そして、悪には断罪の炎を」

 

泣き叫ぶパイロットをステラはその頭上から文字通り一刀両断する。

血飛沫がナイトレイドとステラを真っ赤に染め上げ、パイロットごと真っ二つに両断されたアストレアは轟音と共に爆散した。

 

機体の破片と人間だった肉片がヒラヒラと木の葉のように落下していく様子を、ステラはつまらなさそうに静かに見ていた。

 

「ステラ、お前……」

 

「言ったはずです、ラビットを殲滅し篠ノ之束を殺すのが私の悲願。生かすも殺すも私の自由、第三者にとやかく文句を言われる筋合いはありません」

 

冷酷な戦闘マシーン、そうオレはステラに対して内心蔑んだ。

しかも自分と同じ顔をしているのだから余計気分は悪いものである。

 

「ふん、慢心した挙げ句撃破されるとは……」

 

アストレアを駆るもう1人がこちらに大型近接ブレードを片手にこちらに後方から仕掛けてくる。

オレはスラスターをフルブーストして倒立反転し、逆に敵の後ろを取った。

 

そして左腕を前に突きだし手のひらにエネルギーを集束させ、ディバイディングスマッシャーを放つ。

天閃を発動させた状態ではないため威力は弱いが、それでもレーザー系よりも破壊力は十分だ。

 

だが敵はくるっとすぐさま機体を横に反転させ、大型近接ブレードでディバイディングスマッシャーを防ぎきる。

 

「見くびらないでもらおう。私は死んだあいつとは違うぞ?」

 

あいつ、とは今しがたステラに一刀両断されたアストレアのパイロットの事だろう。

間髪入れずに敵は左手にビームマシンガンを召喚しこちらに向かって攻撃してくる。

 

背部スラスターと脚部スラスターを駆使して攻撃を距離を取り回避、又はヴォルテクスで防御して機体への直撃を避ける。

縦に、横に、様々な方向へ回避していき、敵もこちらの動きを読んで先手を打とうと背部ビームキャノンを展開してチャージを開始した。

 

そして、発射しようとした瞬間──。

 

(──ここだ!)

 

逃げていたのをやめ、オレは一気に瞬時加速で敵へと急接近する。

“線”として動いていたものがいきなり“点”となり自分に迫ってくるのだ。

敵は既に大出力のビームを発射している、急接近してくるこちらに防御する事も回避する事も──不可能だ。

 

「な、うそ──」

 

「はあぁぁぁぁぁっ!!」

 

ヴォルテクスの刃がバカッと2つに割れ中央から長大なビーム刃が発生し、ビームバスタードソードへと変形する。

敵の懐に入り込み、袈裟斬りで機体と近接ブレードを破壊、同時に零距離でディバイディングスマッシャーを放ち胸部とスラスターの一部を破壊した。

 

「くそっ!貴様──」

 

「撤退だ、ブリッツ3」

 

激昂し反撃しようとした敵に1人のアストレアパイロットが近付いてそう告げる。

だがそれが気にくわなかったのかブリッツ3と呼ばれた彼女は振り向き様に攻撃しようと、無事だったサイドスカート部をクローのように展開し、撤退を告げたパイロットに攻撃を仕掛けた。

 

「黙れブリッツ1!臆病者は──」

 

「うるさい」

 

ブリッツ3の攻撃よりも先にブリッツ1は動いた。

そして鋭利なISの爪をブリッツ3に突き立て、あろうことかそのまま生身の身体を貫いたのだ……。

 

「う、ごぁ、ぁぇ……?」

 

「感情に任せて味方にまで牙を向ける奴はいらん。死ね」

 

腕を引き抜きブリッツ1は口と貫かれた穴から大量の血を流すブリッツ3の胸元に、血でまみれたその右手を翳す。

するとブリッツ3に装着されていたアストレアが光の粒子となって消え、金色のクリスタル状の待機形態へと姿を変える。

 

ISを取られ、PICによる浮遊が無くなったブリッツ3は成すすべもなく、黒く荒れる海へと落ちていった。

 

「お前……味方を」

 

オレの怒りを表すかのように、ディストライザーのバイザー内のツインアイセンサーが赤く光る。

だが敵は興味なさそうにこちりに背を向けた。

 

「こちらの作戦は失敗した。まさかお前と“CB01”がいるとはな……計算外だった、マスターには悪いがここは撤退させてもらう」

 

「そう簡単に逃がすとでも?」

 

「そう死に急ぐな。お前とはいずれ再び相対する事になるだろう。もっとも……それまで“体が無事”であれば」

 

ニヤリと邪悪に笑みを浮かべブリッツ1は生き残っていた残り2機のアストレアを呼び戻し、機体各部の展開装甲と光学迷彩を展開し、この戦域からあっという間に離脱した。

 

(“体が無事だったら”?一体どういう意味なんだ?)

 

やけにじわじわと来る疲労感と息苦しさにオレはバイザーのみを解除し、外気の空気を肺一杯に吸い込む。

様々なものが燃えた異臭が鼻を刺激し不快感を覚える。

 

敵が言っていたCB01とは恐らくステラの事だろう。

だが最後に言っていた言葉の意味が分からない……。

 

その疑問の答えを出そうと必死に考える一方で、オレは敵が消えた彼方をただじっと見つめている事しかできなかった……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。