IS・ALUTIAUSS〈インフィニット・ストラトス アルティウス〉   作:ZERO式

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第5話 冷たき赤い瞳

シャルルが転校してきて3日後。その日は訪れた。

いつも通りの朝のHR。だが、今日だけは少しばかり違っていた。

 

「え、えーと……。今日もまたお友達がこのクラスに転校してきました」

 

山田先生はちょいと引きつった笑顔で皆に言う。その山田先生の隣には、例の転校生が静かに目を瞑って立っていた。

背は平均より少しばかり低いが、明らかに一般人とは違う威圧感と、氷のような冷たいオーラを放っていた。

 

「挨拶をしろ」

 

掲示板がかかっている壁に腕組みしながら寄りかかっていた織斑先生が促す。それに従うように転校生は目を開いた。

 

「はい、教官」

 

(……教官?ってことは千冬姉がドイツ軍にいた頃の教え子か……?)

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

シーンと静まりかえる教室。そりゃそうだ、自分の名前以外話そうとしないんだもの。

 

「い、以上ですか?」

 

「以上だ」

 

引きつった笑顔から一転、今度は涙目になりました。そんな事お構いなしに転校生ラウラ・ボーデヴィッヒは下らないものでも見るような目付きでクラスを見渡す。

だが“ある人物”を見た瞬間、氷のような冷たい目付きは怒りの籠ったものへと変貌した。

 

「貴様が……!」

 

「へ……?」

 

怒りの矛先は一夏だった。ラウラはそのまま一夏の席の前に向かい──。

 

パァンッ!

 

「は……?」

 

平手打ち、そう平手打ちだ。綺麗に一夏の頬にラウラの右平手打ちがヒットしたのだ。

 

「私は認めない……。貴様があの人の弟など、認めるものか!」

 

突然の事で状況が掴めない一夏だったが、ようやく自分がラウラに平手打ちされた事を認識し、怒りを露にした。

 

「いきなり何しやがる!」

 

激おこな一夏は勢いよく席から立ち上がり、ラウラを睨み付けた。

 

「ふん……」

 

だが、そんな事お構いなしにラウラは一夏を冷たく見下し、自分に着いてしまった──って、オレの隣だと!?

 

「……なんだ貴様?」

 

「え?いや──」

 

「ジロジロこっちを見るな。目障りだ」

 

「なっ……!?」

 

こりゃひでぇ。ちょっと目が合っただけでこの言いぐさかよ?あぁ、なんかこの先の学生生活が不安になってきた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「はぁ……。なぁシャルルよ」

 

「ん?なに桜萪?」

 

朝のHRからあっという間に時間は経過し、今はシャルルと一緒に昼飯を食べている。一夏はいつものじゃじゃ馬メンバーに「今日の昼飯は私と食べるの!」という争奪戦に巻き込まれている。

というわけでオレとシャルルの2人で仲良くランチタイムってな訳だ。

 

「ラウラの事なんだけどさぁ……」

 

「うん。一夏に対してなんか恨んでるよね」

 

「それな~。一夏とは初対面のはずだろ?一体何に対して恨みを持ってるんだか」

 

ラウラは「私は認めない……。貴様があの人の弟など、認めるものか!」と言っていた。“あの人”とは間違いなく千冬姉だ。

心当たりがあるとすれば、千冬姉がドイツ軍にいた時、だな。

 

「そういえば今日の午後はISを使っての訓練だよ」

 

「あぁ、そうだったね。多分というか間違いなくラウラの奴も専用機で出てくるだろう。どんな機体か見られるチャンスだけど……。なんか嫌な予感がする」

 

なんか知らんけどオレのカンって変なとこで当たるんだよな。午後の訓練、何も起きないことを願っとこう。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「では各自、それぞれ5人ずつのグループに分かれて訓練を開始しろ」

 

と、言う事で。時間は経過して現在実習中。専用機持ちをリーダーにして訓練するという事なので、オレは数人の女子生徒から是非とも組んでくれ!とお誘いを受けている。

 

「ねぇねぇ櫻井くん、一緒にしよ?」

 

「私も一緒にやりたい!」

 

「私も……混ぜて欲しい……」

 

「お~ちゃん、私も~♪」

 

目をキラキラとさせながら迫ってくる女子の皆さん。

おぉ、オレのモテ期は15歳であったか!

 

「よし、このメンバーでやるか」

 

と、いう事でオレを含む5人で実習訓練開始。ひとまずアルティウスを展開してスタンバイする。

 

「えーと一夏は……。シャルルと模擬戦か」

 

どうやらメンバーとして組んだ女子から頼まれて模擬戦を始めたらしい。千冬姉も山田先生も許可しているらしく、特に注意する様子はない。

 

「どーれ、こっちも始めますか」

 

そう言ってオレは防御特化型アームズ『ディフェンス』を展開する。ディフェンスアームズは背部に4枚、腕部・脚部に2枚ずつ実体シールドが装備された完全防御型のアームズだ。

シールド表面にシールドバリアーを展開させる事でより防御力を上げる事ができる。武装はロングバレルハンドガン2丁と腕部シールド裏に搭載されたグレネードランチャーの実弾装備である。

 

「よし、問題はないな」

 

「わぁ、装甲の色も変わるんだやぬぇ」

 

言い忘れていたが、装備するアームズによってアルティウスは機体の装甲色が変化する。

装備するアームズによってカラーリングが変わり、ミラージュなら灰色、スピードなら黄色、ディフェンスなら緑……となる。

 

アームズによって色が変わるのは各アームズで使用されるシールドエネルギー量が違うかららしい。

だが、極端にシールドエネルギーを消費する燃費の悪いアームズは、今のところ持ってないので今のところ安心だ。

 

「んじゃ最初は──あー、ちょいすまん。ちょっとたんま」

 

「へぇっ?」

 

ある光景を目の当たりにしたオレは女子達を置いて一夏とシャルルの元へと向かった。

そう、一夏とあのラウラが睨みあって対峙していたからだ。

……どうやら、昨夜の嫌な予感が当たってしまったらしい。

 

「──織斑一夏。貴様も専用機を持っていたとはな。ならばちょうど良い、私と戦え」

 

ラウラは今すぐにでも一夏をぶっ飛ばしたいらしく、専用機『シュヴァルツェア・レーゲン』の全武装のセーフティーを解除している。

 

「嫌だ。戦う意味がねぇよ」

 

「貴様に無くとも私にはある」

 

「もうすぐタッグマッチトーナメントがあるだろ?その時でいいだろ」

 

そうあしらって一夏はラウラに背を向ける。

だがそんな事で納得するラウラではなかった。

 

「ならば……力ずくでも戦わせるにしてやる!」

 

そう言ってラウラはシュヴァルツェア・レーゲンのリボルバー・カノンを展開し、その砲口を一夏に向けて発射した。

 

「なっ──」

 

一夏に無慈悲に飛んでいく砲弾!

一瞬反応するのに遅れた一夏は思わず目を瞑る──が。

 

ガギィィィン!

 

「……ぎ、ギリギリセーフ!」

 

なんとかギリギリのところで一夏の前へ出たオレは、背部のシールドバインダーを1枚を前面に展開し、放たれた砲弾を上空へと弾き飛ばす。

弾き飛ばされた砲弾はアリーナ上空のシールドバリアーに触れ爆散した。

 

「いきなり撃ってくるなんて、ドイツの人は沸点が低いんだね」

 

そう言いながらシャルルはショットガンとアサルトライフルを構え、ラウラに銃口を向けてロックオンする。

 

「フランスの第二世代ごときがこの私に張り合おうというのか?」

 

ラウラはフンッと嘲笑い、シャルルを見下した。

 

「なかなか形にならないドイツ製よりはマシに動けると思うけど?」

 

シャルルも今まで見たことのない冷たい眼差しでラウラを睨み付ける。

おぉ、今まで優しいシャルルしか見てこなかったから、なんか怖いぞ。

 

「フン、おもしろい……。ちょうど良い、この際、はっきりと力の差をつけてやる」

 

挑発に乗ったラウラは冷笑を浮かべてリボルバー・カノンを再度展開する。

 

『そこの生徒、何をやっている!』

 

「あ、ナイスタイミング」

 

ホントにナイスタイミングでアリーナを管理していた先生がこちらに気づいてくれた。

おかげで余計なバトルをせずにすんだ。

 

あれ?

というか千冬姉達は?

……あぁ、頭を抱えていらっしゃる。

 

「ふん……」

 

興が冷めたらしく、ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを解除すると、こちらを睨み付けてそのままアリーナから出ていってしまった。

 

「はぁ、こりゃ相当の恨みだな……」

 

それはそうと、あいつ軽く授業放棄じゃね?

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

その後はなんとか無事に訓練も終わり、更衣室で着替えをしようと3人で戻った。

だがここでトラブル発生。

自室に戻って着替えると言ったシャルルに一夏がここで一緒に着替えようと迫ったところ、悲鳴をあげてそのまま逃げてしまった。

 

というかシャルルは今まで一度も授業終わりの着替えをオレ達としない。

いつも自室へ戻って着替えるのだ。

もしかして……潔癖症?

男とは一緒に着替えできない!的な。

 

「それじゃ桜萪、先に行ってるぞ」

 

「おう。お疲れ」

 

オレより先に制服に着替えた一夏がこちらに手を振りながら更衣室から出ていく。

だがオレはそのまま更衣室のベンチに座り、しばらくラウラについて考えていた。

 

(なんでラウラは一夏に対してあんなに憎んでるんだ?お互いに初対面な訳だから、恨みの根源は別にあるはず。……うーん、やっぱり千冬姉関係か──ん?)

 

後ろに手をついた時に何かに触れた。

振り返って確認してみるとそれは一夏の生徒手帳だった。

どうやら着替えた時に落としたかそのまま置いていったらしい。

 

「仕方ない。届けてやるか」

 

ちゃちゃっとISスーツから制服に着替えたオレは荷物をまとめ、一夏の生徒手帳をポケットに入れて更衣室を後にした。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「着いた着いた。おーい、一夏?」

 

コンコンとドアをノックして一夏を呼ぶが返事は帰ってこない。

部屋からは扉越しにシャワーの音が聞こえているから一夏かシャルルのどちらかがいる事は確かだ。

 

「おかしいなぁ……」

 

そう疑問に思いながらもさりげなくドアノブを回してみると──。

 

──ガチャ。

 

「あり?開いてる」

 

ちょっと疑問に思いながらもオレはそのまま部屋の中へと入った。

すると洗面所(シャワー室兼用)の方から一夏とシャルルの声が聞こえてきた。

 

(なんだ?2人で仲良くシャワーでも浴びてるのか?)

 

そう思いながらオレは洗面所の方へと足を運ぶ。

 

「んだぁ一夏?シャルルと仲良くシャワーでも浴び──」

 

からかってやろうと顔を覗かせた。

だが肝心の一夏は固まっている。

何かと思い一夏の視線の先を見てみると、予想すらしていなかった光景が広がっていた。

 

「お、おおおおお桜萪?」

 

「し……シャル……ル……?」

 

はい、シャルルです、シャルルがいました。

けどどこかおかしい。

そう、だって男にはないくびれがあるし、何より……胸部にふっくらとしたお山が2つ……。

 

「……なんちゅーこっちゃ」

 

とりあえず今はここから出よう。

うん、そうしよう、早急にそうしよう。

オレは固まっている一夏の襟首を掴んで洗面所から出てベッドへと向かい、そのまま隣り合わせで座った。

 

「……なぁ一夏。なんで洗面所にいたんだ?」

 

「あー……シャワー室にあるボディーソープが切れてたんだ。それでシャルルに替えを渡そうとして……」

 

「あの場面という訳か」

 

「はい」

 

ガチャリ。

 

ジャージに着替えたシャルルがシャワー室から出てきた。

正体がバレたからか胸のコルセットは着けておらず、胸は女性特有のふくらみがある。

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

互いに背中合わせでベッドに座る3人。

気まずくて話を切り出せない。

だがこのままじゃラチがあかない。

 

「……はぁ、お茶でも飲もうぜ?」

 

「う、うん……。もらおうかな」

 

「よし、一夏手伝ってくれ」

 

「お、おう」

 

オレと一夏は簡易キッチンへと向かい、3人分のお茶を淹れる。

煎茶とほうじ茶があったので、気分的に後者をチョイスさせてもらった。

 

「ほい」

 

「あ、ありがと──」

 

一夏がシャルルに湯飲みを渡そうとしたその時、またもやトラブル発生。

 

「わ、わわっ!」

 

一夏とシャルルの指が触れて慌てたシャルルが湯飲みを落としかけてしまい、それを受け取った一夏の手にお茶が零れてしまったのだ。

 

「あ、あちっ!あちちちっ!」

 

駆け足で一夏は洗面所に向かい、お茶がかぶった手を流水で冷やす。

 

「ご、ごめんね一夏!あぁ、赤くなってるぅ」

 

隣からシャルルが心配そうに一夏に近寄るがここでもまたトラブル発生。

 

(なっ!む、むむ……!)

 

なんと、一夏の腕にシャルルの胸が当たってしまっているのだ。

オイオイ、なんちゅーラッキースケベなんだこれは?

 

「し、シャルル……その……胸が……」

 

「へ?……あ……!」

 

一夏に言われてようやく気付いたシャルルはすぐに一夏から離れ、胸を隠し一言。

 

「う~……。一夏と桜萪のエッチ」

 

「オレも!?」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「で?なんで男装なんかしてIS学園に来たんだ?」

 

「……男装しなくてはいけない理由があるみたいだな」

 

「うん……。父の経営がうまくいかなくなってね」

 

ん?

そういえばシャルルの父親ってあのデュノア社の社長だよな?

経営とシャルルの男装の繋がりが見えないな……。

 

「デュノア社はIS開発シェア第3位だろ?」

 

「そうそう。そう簡単に経営が難しくなるか?」

 

シャルルはコクンとお茶を飲んで喉を潤してから話始めた。

 

「そうなんだけど、所詮、リヴァイヴは第二世代型なんだ。周りは第三世代型開発に着手しているのに、うちだけはなかなか形にならなくてね……。このままじゃ開発権を剥奪されてしまうんだ」

 

なるほど、今のでデュノア社の経営がピンチってのは分かった。

けど、どうしても繋がらない。

 

「それがシャルルの男装と転校にどう関係があるんだ?」

 

「簡単だよ。会社の広告塔……あとは日本で発生した2つの特異ケース──つまり、一夏と桜萪に接近して機体のデータを盗むために男装して潜入するように“あの人”に言われたんだ。」

 

自分の会社経営のために実の娘を利用するなんて……。

頭おかしいんじゃねぇのか?

 

「実の娘を利用するなんてあんまりじゃないか」

 

一夏もオレと同じことを思っていたのかシャルルの父親に対して悪態をつく。

しかし、シャルルが発した言葉にオレ達はあまりの衝撃で言葉を失った。

 

「……愛人の子だよ僕は」

 

「……えっ?」

 

「……はっ?」

 

「僕は父の─デュノア社長の愛人の子だったんだ。僕はずっとお母さんと2人で暮らしていたんだけど、お母さんが病気で亡くなって、父が引き取る事になったんだ」

 

「「………………」」

 

シャルルは俯きながらもその言葉を続けた。

辛くて本当は言いたくない、けど2人には最後まで聞いてほしい、そうオレには思えた。

 

「それで引き取られてから色々と検査していくうちに、僕にIS適正がある事をしった父は僕をISパイロットにしたんだ。そんな父とも2回くらいしか会ったことはない。話したとしても1時間あるかないかかな……」

 

静まりかえる部屋。

しかしシャルルは俯いていた顔を上げて無理した笑顔を浮かべる。

 

「ふぅ……。話したらスッキリしたよ。それと、今まで騙してきてごめん……」

 

そう言ってシャルルは頭を下げてこちらに謝罪してくる。

 

「別に気にしてねぇよ」

 

「あぁ、シャルルは悪くない。それより、シャルルはこれからどうするんだ?」

 

「どうするって……。女だってバレた以上、本国に呼び戻されるだろうね……良くて牢屋行きかな」

 

ハハッとシャルルは笑っていたが、その瞳には悲しみに満ちており、うっすら涙が見えた。

 

「……諦めんな」

 

「え?」

 

「諦めんなシャルル。デュノア社長にとってシャルルは自分の子供であるかもしれない。けど、だからって何でもしていいなんて馬鹿げてる」

 

「そうかもしれないけど……けど、これは僕の問題であって、桜萪達には関係ないよ」

 

あぁ、そんな何もかも諦めましたオーラ出してんなチクショー。

まだ諦めるには早いぞシャルル!

 

「あぁ、確かに他人のお家事情だ。首を突っ込んでどうこうできる立場じゃない。けどな!大切な友達が苦しんでいるところを見過ごせる訳ねぇだろ!」

 

「……え?」

 

今のオレの言葉にシャルルは戸惑いと驚きの表情を浮かべる。

 

「オレはバカだからさ、頭を使ってなんて難しい。しかも個人でなんて100%無理だ。けど、利用できるものをうまく活用すれば意外となんとかなるもんだ」

 

「……なるほどな。考えたな桜萪」

 

「え?ど、どうしたの2人共?」

 

まだ状況が掴めていないシャルルは少々戸惑っていた。

オレは制服のポケットから生徒手帳を取り出し、あるページを開いてそれを読み上げた。

「“IS学園特記事項。本学園における生徒は、その在学中においてあらゆる国家、団体、組織に帰属しない」

 

「あっ……」

 

「お、理解した?つまり、この学園にいれば少なくとも3年間は何の問題もないというわけ」

 

「その後の事はこれから考えていけばいいさ」

 

もしフランス政府やデュノア社がシャルルの引き渡しを要求したとしても、世界で決めたこの事項に阻まれて手出しはできない。

強行手段として急襲し拉致しようとしても、この学園には専用機持ちの強者はもちろん、初代ブリュンヒルデの千冬姉がいる。

失敗したら己の首を絞める事態となるばかりか、経済的にも国家間の関係的にも文字通り崩壊するだろう。

 

「よく覚えられたね。特記事項って55もあるのに」

 

「暇だった時に暇潰しに読んだ事が役にたったな」

 

しかも覚えていたという事に驚きだ。

 

「ま、3年も時間があれば、なんとかなる方法も見つけられるな。オレ達に任せろ」

 

そう言って一夏はニコッとシャルルに笑顔を浮かべる。

 

「そうだね。ふふっ」

 

やっとシャルルが笑った。

その表情には先程のような痛々さは見えず、屈託のない15歳女子そのものだった。

 

(むぅ、なんかドキッとしたぞ)

 

改めて見ると、シャルルは可愛い。

男子として接していた時にも似たような感情があったが、あれとは違うドキドキ感が今オレの胸に渦巻いている。

 

「ま、まぁ、とにかく決めるのはシャルルなんだから、考えてみてくれ」

 

「うん。そうするよ」

 

ん?

何でそんなに戸惑ってるんだ一夏?

まぁ確かにシャルルって可愛いけど──。

 

「……!」

 

シャルルと目が合った。

それはまだいい。

しかし、襟元から僅かにシャルルの胸の谷間が見えているのだ。

余計ドキドキしちまう!

 

「どうしたの桜萪?それに一夏まで」

 

なるほど、一夏のさっきからの態度はこれだった訳ね。

戸惑うはずだわこりゃ。

 

「い、いや……非常に言いにくいんだが……む、胸元見えてる……」

 

指摘されて、シャルルは一気に頬を赤く染める。

……あるぇ?

ついさっきも似たような事があった気がするぞ?

 

「そ、その……気になるの?」

 

「あ、当たり前だろ」

 

「も、もう……桜萪と一夏のエッチ」

 

ぐはぁ。

それは誤解だシャルル!

 

「もしかして……見たいの?」

 

「は、はい?」

 

「…………」

 

シャルルの真意を測りかねる言葉にどぎまぎしてしまう。

というか見たいの?って何?

そんな素晴らしい日本語があったとは──って、オレの馬鹿野郎。

 

コンコン。

 

「「「!?」」」

 

「一夏さん、いらっしゃいます?夕食をまだ取られていないようですけど、身体の具合でも悪いんですか?」

 

いきなりのノックと呼び声にオレ達3人は揃って身をすくませる。

ドアの向こうにいるのはセシリアだ、間違いない。

 

「一夏さん?入りますわよ?」

 

ま、まずい……まずいまずい!

今のシャルルの姿を見たらどんなに鈍い奴でも簡単に女だと分かってしまう!

特に胸の部分なんて誤魔化そうにもごまかせないし。

 

「ど、どうしよう!」

 

「ひとまずこっちだ!」

 

一夏は慌てるシャルルをベッドに寝かせて布団をかける。

するとジャストタイミングでセシリアが部屋に入ってきた。

そして同時に怪訝な表情を浮かべて一言。

 

「……何をしていますの?」

 

「い、いや!なんかシャルルが風邪っぽいって言っていたからさ。布団をかけていたんだよ!」

 

「桜萪さんは?」

 

「お、オレ?えーと……あ、そうだそうだ。オレは一夏の忘れ物を届けに来たんだ。ホレ」

 

そう言いながらオレは一夏の生徒手帳をポケットから出して本人に渡した。

 

「あ、サンキュー」

 

「そうですか。それで、話を戻しますが一夏さん?良かったら夕食を一緒に頂きませんこと?」

 

セシリアはもじもじとしながら一夏を見る。

それに対して一夏は困ったようにこちらに視線を向けてきた。

 

「行ってこいよ。オレはシャルルの看病してっからよ」

 

「お、おう。なら行ってくるわ」

 

「ゴホッゴホッ。ごゆっくり」

 

わざとらし感が拭えない咳をしながら、2人を見送る布団の中からシャルル。

 

「はい。では一夏さん、参りましょう♪」

 

パァッと笑顔を浮かべながらセシリアは一夏の手を半ば強制的に引いて、食堂へと向かっていった。

 

「……はぁ。まったく、ヒヤシヤしたわ。あー、喉乾いた」

 

ひとまず喉を潤そうとちょっとぬるくなってしまったお茶を一口。

うむ、これはこれで飲みやすいけど、急須で入れたお茶は熱いのに限るな。

 

「ホントだね。これ以上バレたらどうしようかと思ったよ」

 

シャルルも苦笑いしながらベッドから起き上がり、同様にぬるくなってしまったお茶を飲む。

光の当たり具合からか、シャルルのIS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』の待機形態であるペンダントがキラッと輝く。

 

「……そういえばさ」

 

シャルルはオレの隣に座り直し話しかけていた。

あ、やばい……なんか女の子って分かってから近くにいると緊張する。

 

「桜萪って義手と義足だよね?」

 

「んだよ。それがどうかしたか?」

 

「いやね、ここまで精度の高い義手義足は見たことなくて。どこのメーカーのかなって思って」

 

あー、そういえばこれはまだ学園の人には言ってなかったな。

知ってるとすれば一夏と千冬姉、箒だけだろうしな。

 

「これは篠ノ之束製だよ」

 

「えっ?えぇぇぇっ!?」

 

予想通りの反応、ありがとうございます。

 

「まぁ驚くのも無理ないわな。オレは小さい頃、テロに巻き込まれて両親と左腕右足の一部を失ったんだ。そんな死にそうになっていたオレを千冬姉と束さんに助けてもらったんだ」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

「あぁ。その後は緊急手術でなんとか一命を取り止めた。んで束さんがオレのために新しい腕と足を作ってくれたんだ」

 

そう言いながらオレは義手をコンコンと軽く叩く。

 

「特殊合金で作られている割には軽いから身体へと負担も少ない。強度も普通のやつに比べてかなり高いし」

 

「そうなんだぁ。凄いね」

 

シャルルはまじまじと義手と義足を見つめる。

 

「あとはな、こんな仕掛けもあるのだ」

 

そう言ってオレは義手を前に突き出し拳を強く握る。

刹那、義手の上部に光が集まり出し、やがてそれはチェーンソーのようなブレードになった。

 

「わっ!これ、IS?」

 

「──の粒子変換を応用したやつだ。さながらモーターブレード、チェーンソードと言ったところかね。まぁこれでISが使えない状況でも戦闘ができるんだ」

 

義足にもはモーターブレードが脛部に内蔵されているし、緊急時には跳躍機能がアップするようにもなっている。

ちなみに、モーターブレードに関しては束さんの突然の思いつきで取り付けられた。

なんでも「最近見たアニメで出てきたから実際に作ってくみた☆」だそうだ。

 

「な、なんか改めて凄いね……」

 

「まったくだ。まぁ役にはたったけどな」

 

ちなみに、義手や義足は何回か交換している。

成長期でオレの身体はでかくなっていくけど、義手義足はそうはいかない。

どうしても数センチ短くなってしまうので、その場合には、束さんが新しく作ってくれる。

そして取り替えた義手義足は作り直され、また替える時に使用される。

 

「今までに使ったのは……痴漢にあった時だな」

 

「ち、痴漢!?」

 

「おう。オレって自分で言うのも嫌だけど、女の子っぽいじゃん?だから小学校や中学校ではよく間違えられていたんだ」

 

電車やバスに乗る度にケツを触られた時はマジで殺意がわいたな~、アハハハ。

 

「ち、痴漢された時はどう対処するの?」

 

「ん?その時は義手で触っている手をかなり強く握ったり、モーターブレードを展開して相手の首元やに突きつける。そして一言『この人痴漢でーす』」

 

ちなみに、バスや電車から降りて逃げようとした輩はもちろん逃がさず捕まえた。

その際に左手で強く握って動けなくさせるのがコツだ。

まぁその時に脱臼、又は骨折しても苦情は受け付けないZE☆

 

「まぁ大体の奴は『オレはやっていない!』とか『騙されたんだ!』とか『こいつが一番悪い!』とかほざくんだけど。でもやったのにはかわりないから、結局は警察へ連れていかれるっていうね」

 

「ある意味気の毒だね」

 

シャルルはそう言って苦笑し、お茶を一口飲んだ。

 

「まぁ自業自得さ」

 

そんなこんなでシャルルと話していると、一夏が夕飯2人分を持って帰ってきた。

いやはや、ありがたや。

 

「おかえり一夏」

 

「どうしたんだ?フラフラだし息が上がってるぞ?」

 

食堂で何があったんだか。

あー、セシリアと何か巻き込まれたか?

 

「き、訊くな。それより飯持ってきてやったぞ」

 

一夏が持ってきてくれたのは鯖の塩焼き定食だった。

うん、脂がのってておいしそうだ。

 

「あざっす一夏」

 

「ありがとう一夏──げっ」

 

美味しそうな定食を見たシャルルはちょっと顔が引きつっていた。

はて?

 

「どうした?」

 

「い、いやなんでもないよ?うん!」

 

パチンッと真剣な表情で割り箸を割るシャルル。

なんでかな~っと思いながら食べていると、その理由が判明した。

 

ポロッ。

 

「あっ」

 

ポロッ。

 

「うっ、よっ……」

 

どうやらシャルルは箸が苦手らしい。

さっきから魚の身を落としてばかりで箸の持ち方もなっていない。

 

「わりぃ。箸苦手だったか?」

 

「練習はしてるんだけどね」

 

「まぁ箸って難しいよな」

 

「それは悪かったな。フォークとスプーン貰ってくるよ」

 

そう言ってドアへ向かおうとした一夏をシャルルは呼び止める。

 

「えっ?わ、悪いよ!」

 

モキュモキュ……ごっくん。

 

「……うーん、まずシャルルは人に甘える事をしなきゃダメだな」

 

食べていたご飯をしっかり飲み込んでからオレはシャルルにはっきり言う。

 

「桜萪の言う通りだ。まずはオレや桜萪に甘える事から始めればいいよ」

 

あまり遠慮しすぎると自分が損するだけだしな。

あ~♪鯖うまうま♪

 

「そ、それじゃ……。一夏が食べさせて?」

 

シャルルがキラキラと上目遣いで一夏を見つめる。

 

「え?」

 

「あ、甘えていいって言ったから。嫌ならいいよ?」

 

「してやれよ一夏。悪いがオレは自分の事でいっぱいいっぱいだ」

 

そう言いながら右手に箸、左手にご飯茶碗を掲げる。

今はこっちが優先だ。

 

「お、おう。男に二言はない!」

 

胸をドンッと叩く一夏。

うん、頼りがいがありそうに見えるぞ。

 

「それじゃ箸貸してみ?」

 

「う、うん。はい」

 

シャルルから箸を受けとると一夏は鯖の塩焼きを丁寧にほぐしていく。

小骨も喉に詰まらせないようにとしっかりしている。

 

「そ、それじゃいくぞ?あ、あーん」

 

一夏は食べやすいように小さくほぐした身を箸で摘まみ、シャルルの口へと運ぶ。

 

「あーん。……あむ」

 

シャルルは一口一口をゆっくりと味わって食べる。

オレはって?

もちろんガツガツ食べてますが何か?

 

「どうだ?」

 

「うん おいしい♪」

 

「そうか。それは良かった」

 

「次はご飯がいいな」

 

「お?はい、あーん」

 

「あーん。……んぐんぐ」

 

幸せそうに食べるシャルル。

うん、見ていて微笑ましいね。

そしてオレとシャルルはお残し1つせず美味しく夕飯を完食した。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

オレとシャルルは食べ終わって合掌する。

しっかり合掌して言う、これ大切。

 

「洗い物は僕がやるよ」

 

「お?悪いな」

 

いえいえと言いながらシャルルはオレの分の食器も洗ってくれた。

うん、将来はいいお嫁さんになる事間違いなし。

 

「洗い終わったらオレが明日の朝に返しておくよ」

 

さすがに洗ってもらった挙げ句に片付けてもらうのは気が引ける。

「ありがと」

 

「おう」

 

洗い終わった食器を布巾で拭いてトレーに乗せる。

 

「それじゃ~な」

 

「おやすみ桜萪」

 

「おやすみシャルル」

 

「また明日な」

 

「おう。おやすみ~」

 

最後に手を軽く振って部屋を出て自室へ向かう。

 

そして、食器を置いてオレはある場所へと向かったのだった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

──第一アリーナ。

 

月明かりに照らされる夜、1人の少女がアリーナの一角に立っていた。

 

「織斑教官……。あなたの存在が……その強さが私の目標であり、存在理由……」

 

少女──ラウラ・ボーデヴィッヒは左目の眼帯をゆっくりと外す。

外された眼帯の下には黄金に輝く瞳が怪しく光っている。

 

「織斑一夏……。教官に汚点を残させた張本人。排除する。どのような手段を使ってでも──」

 

「排除とは穏やかではないね」

 

「!?誰だ!」

 

ラウラはバッと後ろを振り向く。

すると、奥から1人の男がゆっくりと歩いて来た。

普段ならアリーナの壁の影に隠れているため顔は見えないが、“今の”彼女には見えていた。

 

「……貴様」

 

ラウラは冷たく近づいてくる男を睨む。

 

「穏便に済ませたいんだけどな。悪いけど一夏を排除させはしないよ、オレがやらせないから」

 

「ならば……その前に貴様を排除するまでだ」

 

ラウラは腰に隠してあったコンバットナイフを男──桜萪に投げつける。

 

「…………」

 

だが桜萪は左手でナイフを受け止めると、そのままナイフの刃を折ってしまった。

 

「……?」

 

「交渉する気はナシ、か」

 

「…………ハッ!」

 

ラウラはもう1本のコンバットナイフを抜くと、走りながらナイフを桜萪の右腕目掛けて刺そうとする。

 

「許せよ?」

 

だが桜萪は左手でナイフを捌くと、そのままラウラの腕を掴み懐に潜り込んで投げ飛ばした。

一本背負いである。

 

「がはっ!」

 

勢いのよく投げ飛ばされたラウラは受け身をすることができずに、そのまま地面に叩きつけられてしまった。

 

「……自分の存在意義も見つけられない奴にオレが負けるかってんだ」

 

桜萪はラウラに背を向けるとそのまま闇に消えていった。

 

「……櫻井桜萪……!この雪辱は絶対に晴らせてもらう……!背中に気を付けるんだな!」

 

ラウラはフラフラと起き上がると、桜萪が消えていった方向をずっと憎々しく睨んでいた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

翌日。

今日もよく晴れている。

気のせいか段々と気温が上がってきているかも?

 

「そ、それは本当ですの!?」

 

「う、嘘だと招致しないしないわよ!?」

 

月曜の朝っぱらだというのに、1年1組の女子達は何やら騒がしかった。

 

「おはよう桜萪」

 

「ち~す一夏、シャルル」

 

後ろから一夏とシャルル(男装)がてくてくと一緒に歩いてくる。

 

「なんだこの騒ぎは?」

 

「さぁて……?まぁ早く中に入ろう」

 

「そだね」

 

オレたち3人が教室に入ってもクラスの女子は誰1人として気がついていない。

 

「本当だよ!この噂は学園中で持ちきりだよ?今度の学年別トーナメントで優勝できたら織斑君や櫻井君やデュノア君と交際──」

 

「「「オレ(僕)が何?」」」

 

「「「きゃあぁぁ!?」」」

 

一夏が声をかけたら案の定、女子たちは取り乱して悲鳴をあげた。

何故?

 

「で?何の話だったんだ?一夏やオレの名前が出ていたと思ったが」

 

ひょっこり一夏の後ろから頭を覗かせて訊いてみる。

 

「え?そ、そうだっけ?」

 

「さ、さぁ……。どうでしたかしら~オホホホ」

 

鈴とセシリアは何故か狼狽しながら話を逸らしている。

気になるジャマイカ。

 

「じゃ、じゃあ私は自分のクラスに戻るから!」

 

鈴退散。

 

「そ、そうですわね!わたくしも自分の席に戻りませんと。」

 

セシリア退散。

 

2人に続いて何人か集まっていた他の女子達も自分のクラスや席に戻っていった。

 

「……一体」

 

「なんなんだ?」

 

「さぁ……?」

 

いや~女子とは分からないものだな。

 

──さて、時間はあっという間に過ぎ去り休み時間。

はい、眠いです。

 

「は~……」

 

「どうした一夏?」

 

オレは一夏の席にて雑談中。

シャルルも何人かのクラスの女子雑談していた。

 

「いや~、学園内で使えるトイレが3ヵ所しかないのは不便だなぁって」

 

IS学園は本当は女子校と同じだから、男子トイレが必要ない。

まぁどっかの国や企業のお偉いさん方が来たときのために使うトイレを、オレと一夏が使っている訳だ。

 

「まぁ仕方ないさ」

 

「むぅ……。考えてたらトイレに行きたくなってきた」

 

「ははっ。早く行ってきなよ?次の授業は鬼教師だぞ?」

 

ハイ、千冬姉です。

 

「げっ。……急いでしてくる」

 

一夏は足早にトイレへと向かった。

 

 

「さて……。オレは自分の席に行くか」

 

オレが席につくと、隣の席ののほほんさんがちょいちょいとつついてきた。

 

「ん?何かね?」

 

「お~ちゃ~ん~。今日のお昼は久しぶりに食べよ~」

 

最近はシャルルや一夏、じゃじゃ馬娘たちと一緒に食べていたから、のほほんさん含む女子達とは食べていない。

 

「いいよ~」

 

「やった~。それじゃお昼は食堂ね~」

 

そう言ってのほほんさんは机に突っ伏して寝始めた。

ホントによく寝るなのほほんさんは。

 

さて、またまたそんなこんなで時間はあっという間に過ぎていった。

──オイ、早すぎじゃね?

 

 

◇◆◇◆

 

 

「さ~て……。学年別では何を使うかなぁ?」

 

今は放課後。

当然ながらクラスにいるのは本当に少ない。

そのまま寮に帰る者もいれば部活に行く者、アリーナで自主練する者等々。

 

オレは自分の席でジュースを飲みながら、今度の学年別トーナメントで使う装備を考え中。

 

(基本的に専用機持ち以外は打鉄かリヴァイブのみ……。打鉄には近接ブレードのみの防御型だが、リヴァイブは格闘・射撃・防御と多種多様の運用が可能だから、いくら量産型といえど、油断は禁物だ)

 

うまくスピードや他のアームズを使ってやるしかないな。

それこそ状況に合わせてね。

 

(それか全部スピードアームズで一気に勝負をつけるか……。う~ん)

 

腕を組んで考えていると、何やら廊下を女子が騒がしく走っていた。

 

「な、なんだ?」

 

オレは席を立ってひょこっと扉から頭を出す。

 

「アリーナに向かっているな。なんでしょ?」

 

席から立ち上がり、オレも女子達の後に続いてアリーナへと向かう。

アリーナに入った瞬間、オレは思わず耳をふさいだ。

 

ドオォォォン!

 

突然の爆音。

よく見るとアリーナ内が砂煙と黒煙で立ち込めているではないか。

 

「な、なんだ?」

 

観客席の前で一夏とシャルルが焦った顔でアリーナ内を見ていた。

 

「一夏!シャルル!」

 

「桜萪!」

 

「こりゃどうなってんだ……?」

 

オレはシャルルの隣に行き、2人の目線の先を見る。

 

「セシリアと鈴……。ラウラ・ボーデヴィッヒも……」

 

セシリアと鈴がラウラと戦っていた。

恐らくラウラが2人を煽って模擬戦に持ち込んだのだろう。

だが明らかに2人が劣勢でISアーマーは所々亀裂が入っている部分もあれば、完全に装甲が失っている箇所もあった。

 

「あれじゃ2人の生命維持に影響が出るぞ!」

 

そんな中1人、ラウラだけは無傷とはいわないものの、損失は軽微だった。

そして、2人の首と胴にワイヤーブレードを巻き付けて一方的に殴り、蹴り、楽しんでいた。

 

「おおぉぉぉ!」

 

一夏は白式を展開すると、零落白夜を発動させて雪片弐型でアリーナのエネルギーシールドを斬ってラウラに向かって行った。

 

「ラウラ……お前という奴は」

 

ボソッ小さく呟いてアルティウスを展開してアリーナへと静かに降りる。

一夏はというと、ラウラに向かって行ったはいいが、そのままラウラの目の前で止まっていた。

 

(あれは……。慣性停止能力か……)

 

ラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』の肩のレールカノンが接続部から回転し、一夏へと砲口を向ける。

 

「一夏!離れて!」

 

シャルルが一夏にそう叫ぶと同時にアサルトライフル2丁でラウラを攻撃する。シャルルも専用機であるリヴァイヴ・カスタムⅡを展開している。

 

「ちっ……!雑魚が……」

 

ラウラがシャルルの攻撃を回避すると同時に一夏を拘束していた慣性停止能力(AIC)が解除され、一夏はすぐさま鈴とセシリアを抱き抱えてラウラから離れた。

2人ともISは強制解除されていた。

 

「良かった……。さて……悪く思うなよ」

 

一度大きく息を吐き出し、覚悟を決める。

刹那、アルティウスの周りに紫色の粒子が輝き出し、機体を包み込んでいった。

 

「ふん……貴様には世代差というものを見せつけてやろう」

 

ラウラはシャルルのISの左腕アーマーにワイヤーブレードを巻き付けてジリジリと引き寄せている。

対するシャルルもラウラに向かってマシンガンを撃つが、AICによって弾丸を止められていた。

 

「おい」

 

「なん──」

 

ラウラはおもいっきり横へと吹き飛んだ。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「な、なんだ!?」

 

一夏は今の出来事に驚いていた。

桜萪がラウラの横に降りたって話しかけたと思ったら突然、ラウラが凄い勢いで吹き飛んだ。

 

「な、なっ……!?」

 

当然ながらラウラは何が起きたのか全く分からずにいた。

 

「な、なに?」

 

シャルルは近接ブレード『ブレッド・スライサー』でワイヤーブレードを切断して、ラウラと桜萪を交互に見る。

 

「あ、あいつ……。何をしたんだ?」

 

桜萪は腕を組んでラウラを静かに、冷たく見ている。

いや……よく見たら、アルティウスの装甲色が普段の白から紫色に変わっている。

 

「……先に仕掛けたのはそっちだからな」

 

すると、またラウラが吹き飛んだかと思うと、それに合わせて桜萪が浮遊しながらラウラの吹き飛んだ方向へとゆっくり進んでいく。

 

「ぐはっ……!」

 

ラウラは攻撃しようにも、間髪入れずに見えないモノに攻撃されているため反撃出来なかった。

 

「理解できないって顔してるな」

 

相変わらず桜萪は腕を組んでいるだけだ。

 

「いいだろう……見せてやる」

 

すると、桜萪の背部から何やら巨大で長い腕のような物がゆっくりと現れた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「な、なんだこれは……!?」

 

ラウラはオレを見て驚いていた。

ラウラだけでなく、一夏やシャルル、セシリアに鈴も驚きを隠せずにいた。

 

「……『デュエルアームズ』」

 

カラーリングが紫と白のそれは全長5mはある巨大な2本の腕を持ち、片手だけで人を掴める程の大きさだ。

武装は右前腕部に接続された4つのビームクロー、左前腕部に一体化している小型シールド、そして全ての指先が鋭く尖っているハンドクロー。

自分の手持ち武装は2本の日本刀型ブレードのみだ。

 

「……ふ……な……」

 

「?」

 

「ふざけるなぁ!」

 

激昂したラウラはシャルルに破壊された以外のワイヤーブレード5本全部を射出してきた。

 

「往生際の悪い……!」

 

オレはアームズの腕『ツールアーム』に搭載されているビームクローや小型シールドで、ワイヤーブレードを防いでいく。

 

「舐めるなぁ!」

 

ラウラは瞬時加速をしようと体を低くかがめる。

 

「来るか……!」

 

ラウラがまさに飛び出そうとした瞬間、オレ達の間に影が割り入ってきた。

 

ガギン!

 

金属同士が激しくぶつかり合う音が響いて、ラウラは加速を中断する。

 

「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

「「千冬姉!?」」

 

なんと、普段と同じスーツ姿なのに、IS用近接ブレードを軽々と扱いラウラの動きを止めたのだ。

てか、ISの補佐なしに振り回すってどんだけ常人離れしてんだこの人は。

 

「模擬戦をやるのはかまわん……。が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては、教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

「教官がそう仰るなら」

 

ラウラは素直に頷いて、ISの装着状態を解除する。

 

「織斑、櫻井、デュノア、お前達もそれでいいな?」

 

「あ、あぁ」

 

「教師には『はい』と答えんか馬鹿者」

 

「は、はい!」

 

「僕もそれで構いません」

 

「オレもです」

 

一夏に続きオレとシャルルも返事をする。

もちろん敬語でだ。

 

「では学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

オレ達を含めたアリーナ内全ての生徒に向けて手をパンッ!と強く叩いて言った。

はぁ……疲れたよ私は。

 

 

◇◆◇◆

 

 

その後、アリーナから出たオレ達は怪我を負った鈴とセシリアを保健室に運んだ。

 

「別に助けてくれなくて良かったのに」

 

「あのまま続けていれば勝っていましたわ」

 

オイオイ……。

オレには負け犬の遠吠えにしか聞こえないぞ。

 

「お前らなぁ……。はぁ。でもまぁ、怪我がたいしたことなくて安心したぜ」

 

一夏はほっと胸を撫で下ろす。

 

「こんなの怪我のうちに入らな──いたたたっ!」

 

「そもそもこうやって横になっている自体が無意味──つううっ!」

 

……こいつら馬鹿か?

 

「な、何よ馬鹿って!馬鹿!」

 

「一夏さんと桜萪さんこそ大馬鹿ですわ!」

 

うわぁ、とんだとばっちりだし。

てかオレは口に出した訳じゃないのになんでバレた?

そして一夏よ……お前も同じ事を考えていたとはな。

 

「好きな人に格好悪いところを見られたから、恥ずかしいんだよ」

 

シャルルが飲み物を買って戻ってきたみたいだ。

オレには聞こえたが、一夏にはどうやら聞こえていなかったみたいだ。

だが、そんな事はお構い無しに鈴とセシリアはしっかりとシャルルの言動を聞いていたので顔を真っ赤にして怒り始めた。

 

「なななな何を言っているのか、全っ然分かんないわね!こ、ここここれだから欧州人って困るのよねぇ!」

 

「べ、べべべ別にわたくしは!そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわね!」

 

……図星かいな。

2人とも分かりやすいなぁ。

ただ、一夏だけが頭の上にクエスチョンマークを乗っけていたけど……。

 

「はい、烏龍茶と紅茶。とりあえず飲んで落ち着いて、ね?」

 

「ふ、ふん!」

 

「不本意ですがいただきましょう!」

 

鈴とセシリアは渡された飲み物をごくごくと飲み干す。

オイオイ、冷たい飲み物の一気飲みは体に悪いぞ。

一夏が言ってた。

 

ドドドドドドドッ……!

 

「な、なんだ?何の音だ?」

 

何かが大量に近づいてくる音……だ!?

 

ドカーン!

 

保健室のドアが吹き飛んだ……いや、比喩ではなくマジで。

生まれて初めてドアが吹き飛ぶ光景を目の当たりにしたぞ。

 

「織斑君!」

 

「デュノア君!」

 

「櫻井君!」

 

大量の女子が狭い保健室に雪崩れ込んできた。

そして、あっという間にオレ達3人を取り囲んだ。

うわぁ……これから何が始まるの?

 

「な、な、なんだなんだ!?」

 

「ど、どうしたのみんな……。ちょ、ちょっと落ち着いて」

 

「「「これ!」」」

 

状況が飲み込めないオレ達に女子生徒一同が出してきたのは、学内の緊急告知文が書かれた申込書だった。

 

「あ~、なになに……?」

 

オレは声に出して読んでいく。

 

「“今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、2人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは”……」

 

「そこまででいいから!とにかく!」

 

一斉に手がホラー映画のワンシーンのように伸びてくる。

うわ、こわっ!

 

「私と組もう、織斑君!」

 

「私と組んでデュノア君!」

 

「お願い、櫻井君!」

 

なんでいきなり学年別トーナメントの仕様変更があったのかは不明だが、今ここにいるのは全員が1年生以外の女子もいると分かった。

だって、皆リボンの色が違うからね

学園でたった3人しかいない男子だから先手必勝、我先にと勇み迫ってきているのだろう。

しかし……。

 

「えっと……」

 

シャルルは実は女子なのだから、同じ女子と組むのは非常にまずい。

下手したら正体がバレてしまう。

そう一夏も悟ったのだろう、お互いにシャルルを見ると、数秒だけ困り果てた顔でこっちを見たのだ。

オレ達と視線が合うと、助けを求めているのが分かってしまうと思ったのか 、すぐに視線を逸らしてしまった。

オレは一夏とアイコンタクトをとって、一夏もオレが言いたい事が分かると小さく頷き、わぁわぁと騒ぐ女子全員に聞こえるように大きな声で言った。

 

「すまん!オレはシャルルと組むから諦めてくれ!」

 

「オレは織斑先生から1人でと言われたからごめんな」

 

はい、オレのは真っ赤な嘘です。

 

シーン……。

 

いきなりの沈黙にオレと一夏は気持ちが少し後ずさる。

さすがにオレのはやっぱりまずかったかな?

 

「まぁ……。そういうことなら……」

 

「他の女子と組まれるよりはいいし……」

 

「男同士っていうのも絵になるし……げふんげふん」

 

「織斑先生直々に言われたなら仕方ないよね……?」

 

とりあえず納得してくれたみたいだ。

女子生徒一同は各々が仕方ないかと口にしながら、ぞろぞろと保健室を去っていき改めてペア探しが始まったようだ。

 

「「ふぅ……」」

 

「あ、あの、一夏──」

 

「一夏っ!」

 

「一夏さんっ!」

 

安堵のため息をついたオレ達にシャルルが声をかけようとしたが、それを上回る大声で鈴とセシリアがベッドから飛び出してきた。

 

「あ、あたしと組みなさいよ!幼なじみでしょうが!」

 

「いえ!クラスメイトとして是非わたくしと!」

 

こらこら怪我人ども、安静にしてろよ。

 

「ダメですよ」

 

「のわっ!?」

 

いきなり声をかけられてびっくりしたのはオレだけではなかったらしい。

鈴もセシリアもシャルルも、いきなり登場した山田先生に目をぱちくりしていた。

 

「お二方のISの状態を確認しましたが、ダメージレベルがCを越えています。当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥を生じさせますよ。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」

 

普段の頼りない(言ってはいけないが)先生とは違い、とても真面目だった。

 

「う、ぐっ……!わ、分かりました……」

 

「不本意ですが……。非常に、非常に!不本意ですが!トーナメント参加は辞退します……」

 

あるぇ?案外あっさりと引き下がったな。

……あぁ!そういう事か。

 

「ん?なんでだ?」

 

一夏はなぜ2人があっさり引き下がったのかが分かっていないらしい。

 

「一夏、IS基礎理論の蓄積経験についての注意事項第3だよ」

 

シャルルが右手の人差し指を立てながら言う。

 

「え、え~と……」

 

「「……“ISは戦闘経験を含む全ての経験を蓄積することで、より進化した状態へと自らを移行される。その蓄積経験には損傷時の稼働も含まれ、ISのダメージがレベルCを超えた状態で起動させると、その不完全な状態での特殊エネルギーバイパスを構築してしまうため、それらは逆に平常時での稼働に悪影響を及ぼす事がある”」」

 

「おぉ、それだ!さすがはシャルルと桜萪!」

 

一夏は今の説明と自分なりの解釈で納得したみたいだ。

うむ、結構結構。

 

「しっかし……。何でラウラとバトルすることになったんだよ?」

 

「え、いや、それは……」

 

「ま、まぁ、何と言いますか……。女のプライドを侮辱されたから、ですわね」

 

なるほどね~。

まぁ何かしらの挑発行為があった上でのバトルだったのは間違いないな。

だがよ2人とも……お前ら一国の代表候補生なんだから、ちょっとくらいの挑発に乗るのはまずいんじゃないのかね?

 

「あぁ、もしかして一夏のことを──」

 

「あああっ!デュノアは一言多いわねぇ!」

 

「そ、そうです!まったくです!オホホホホ!」

 

何か閃いたらしいシャルルを、2人が凄い勢いで取り押さえた。

2人から口を覆われて、シャルルは苦しそうにもがく。

 

「こらこら、やめろって。シャルルが困ってるじゃないか。それにさっきから怪我人のくせに体を動かしすぎだぞ、ホレ」

 

一夏は鈴とセシリアの肩を指でつつく。

 

「「ぴぐっ!」」

 

どうやらかなりの痛みが雷の如く、体中を走ったみたいだ。

2人ともおかしな甲高い声を上げて、その場で凍りついた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「あ……すまん。そんなに痛いとは思わなかった……。悪い」

 

一夏は恨みがましく睨む2人にやりすぎたと思ってすぐに謝った。

 

「い、い、いちかぁ……。あんたねぇ……」

 

「あ、あと、で……。おぼえてらっしゃい……」

 

うへぇ……。

多分、体が元気なら2人は容赦なく一夏に鉄拳を振る舞っていたな。

 




はい、長らくお待たせしましてすいませんでした

とりあえず、ぼちぼち再開していきたいと思います。
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