IS・ALUTIAUSS〈インフィニット・ストラトス アルティウス〉   作:ZERO式

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第6話 隠された力と願う力

結局オレは、あの時ついた嘘が現実になってしまった。

まぁアームズを駆使すれば問題ないが、面倒な事になってしまったのは反省すべきだろう。

そんなこんなで6月も最終週に入り、IS学園は月曜日から学年別トーナメント一色に変わった。

今、オレたち3人は更衣室にて自分達と戦う相手の組み合わせを待っている。

 

「しっかし……。すごいなぁ」

 

更衣室のモニターで観客席の様子を見ていると、そこには各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会していた。

 

「3年にはスカウト、2年には一年間の成果の確認に人が来ているからね」

 

「オレ達1年には今のところ関係はないが、それでもトーナメント上位入賞者には早速チェックが入るだろうな」

 

シャルル、オレの順番で話す。

 

「ふーん、ご苦労な事だ」

 

「あんまり興味ないみたいだな一夏」

 

オレに考えている事が分かった一夏はバレた?と言って頭をかいた。

 

「一夏はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね」

 

どうやらシャルルにも分かってたみたいでくすっと笑っていた。

 

「まぁな」

 

結局、鈴とセシリアはトーナメント参加の許可が下りず、今回は辞退せざるを得ない状況になっていた。

普通の生徒ならまだしも、2人は国家代表候補生でありその中でも専用機持ちだ。

それがトーナメントで結果を出すどころか参加すらできないのは、2人の立場を悪くするだろう。

 

「自分の力を試せもしないってのは、正直辛いだろうな」

 

一夏は先日の騒動を思い出したのか、自分の左手を握りしめていた。

そんな一夏の左手をシャルルがさりげなく重ねた手でほぐした。

 

「感情的にならないでね。彼女はおそらく1年の中では現時点で、桜萪と同じくらい強いと思うから」

 

「お、オレと?」

 

「当たり前じゃない。あの時、桜萪はボーデヴィッヒさんをアームズでボッコボコにしたんだよ?」

 

あの時は自分でも分からないくらい頭に血が昇っていたからな~。

それはさておき、ペアが決まった一夏とシャルルはオレも含めて、かなり親しくなってきた。

まぁ2人は同室でもあるから尚更だ。

なのでオレ達は所謂、阿吽の呼吸ということわざが当てはまるくらいだ。

 

「おっ?対戦相手が決まったみたいだぞ」

 

そう一夏が言うとモニターがトーナメント表へと切り替わった。

その組み合わせを見たオレ達は表示されている文字を食い入るように見た。

 

「「「……え?」」」

 

出てきた文字を見て、オレ達はぽかんとした声をあげた。

なんと一回戦の一夏とシャルルの対戦相手がラウラ、そして箒のペアだったのだ。

 

──そして、試合は始まった。

 

(さて、一夏とシャルルの練習の成果を見させてもらうか)

 

オレはこっそり観客席から抜け出し、ミラージュアームズを使って一夏達の試合をアリーナの天井の鉄骨に腰掛けながら眺めている。

観客席で女子に囲まれて見るよりも、こうやって1人で試合を見た方が気疲れしなくて楽だからだ。

あとは前みたいな襲撃が起きた時にもすぐに対処できる。

 

(この戦いではラウラのAICに対しての対策が勝敗を決める……。結局、昨日鈴やセシリアを交えて考えたが、AICを破る方法は思い付かなかったみたいだしな)

 

オレは千冬姉に呼び出しされて途中から抜けたからな。

 

(まぁ……。一夏の力は計り知れないからな。……戦いの途中でAICの弱点が分かるだろう)

 

実を言うと、オレもAICの事についてはよくは分からない。

ただ、鈴の甲龍の衝撃砲と同じ空間圧作用兵器の類いだと思う。

まぁ厳密には違うと思うが……。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「おぉぉぉ!」

 

「ふん」

 

試合開始と同時に一夏は瞬時加速を行い、先制攻撃をしようとしたが、ラウラは慌てる事なく右手を突き出しAICを展開して一夏の動きを封じる。

 

「開幕直後の先制攻撃か。分かりやすいな」

 

「……そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」

 

「ならば私が次にどうするかも分かるだろう」

 

そう言うと、シュヴァルツェア・レーゲンのリボルバーカノンがガキン!と回転する。

 

【敵ISの大型レール砲の安全装置解除を確認、初弾装填──警告! ロックオンを確認──警告!】

 

白式のハイパーセンサーが警告を発する。

 

「させないよ!」

 

するとシャルルが一夏の頭の上を飛び越えて現れるや否や、同時に61口径アサルトカノン『ガルム』による爆破弾の射撃をラウラに浴びせる。

 

「ちっ……!」

 

肩のカノンを射撃によってずらされ、一夏へ向けて放った砲弾は空を切る。

さらにたたみかけてくるシャルルの攻撃に、ラウラは急後退をして間合いを取った。

 

「逃がさない!」

 

シャルルは即座に銃身を正面に突き出した突撃体勢へと移り、左手にアサルトライフルを呼び出す。

光の粒子が寄り集まり、1秒とかからずに銃を形成した。

 

(シャルルの技能『高速切替(ラピッド・スイッチ)』。……事前呼び出しを必要としないから、戦闘と平行して行えるリアルタイムの武装呼び出しが可能。シャルルの器用さと瞬時の判断力があってこそその力を発揮する)

 

するとそこへ……。

 

「私を忘れてもらっては困る」

 

ラウラへの追撃を遮るように打鉄を纏った箒が、防御型ISである打鉄の実体シールドを展開し、銃弾を弾きながらシャルルへと斬りかかる。

 

「オレも忘れるなよ!」

 

ラウラのAICから解放された一夏は、すぐさまシャルルの背中へと瞬時加速。

ぶつかる瞬間にくるりとシャルルが宙返りをしてお互いの場所を入れ替えた。

実に見事なコンビネーションだ。

 

ギャリンッ!

 

互いの近接ブレードがぶつかり合って、火花を散らす。

一夏は箒と刀を何回となく打ち合いながら、スラスターの推量を上げる。

加速度を増した斬撃は徐々に箒を後方へと押していく。

 

「くっ!このっ……!」

 

箒が大きく刀を頭上に振りかぶる。

 

「シャルル!」

 

「うん!」

 

ギィィンッ!

 

左手を添えて、真横にした雪片弐型で一夏は箒の一撃を受け止め、その刹那、一夏の背中にずっと控えていたシャルルが両脇から手を伸ばす。

その手に握られているのは面制圧力に特化した62口径ショットガン『レイン・オブ・サタディ』2丁。

この至近距離ならまず外しはしないだろう

──ところが……。

 

「邪魔だ」

 

ワイヤーブレードの1つが箒の脚に巻き付いたかと思うと、そのままラウラは箒をアリーナ脇まで遠心力で投げ飛ばす。

 

(……はじめから箒の事は戦力として考えいないみたいだな……。今のも、助けたのではなくてただ邪魔だからどかしただけだろうな)

 

オレは腕を組みながら一夏達の試合を静かに見つめる。

 

(さぁ一夏……。お前ならどうする?)

 

 

◇◆◇◆

 

 

その後、シャルルの一斉射撃で箒は打鉄のシールドエネルギーが0になり、行動不能となった。

「これで決める!」

 

一夏は零落白夜を発動させ、ラウラへと直進する。

一夏の白式もラウラの攻撃で装甲の1/3を持って行かれ、シールドエネルギーも半分近く失われている状態だった。

 

「触れれば一撃でシールドエネルギーを消し去ると聞いているが。……それなら当たらなければいいだけだ」

 

ラウラはAICによる拘束攻撃が連続で一夏に襲い掛かる。

それを一夏は、急停止・転身・急加速でなんとか回避していく。

 

「ちょろちょろと目障りな!」

 

さらにラウラはワイヤーブレードも射出して一夏を苦しめるが、それをなんとか一夏は対応していく。

 

「一夏!前方2時の方向に突破!」

 

「了解だ!」

 

シャルルは射撃武器でラウラを牽制しながら、一夏への防御も抜かりがない。

もし、敵だったらかなり厄介な相手になるだろう。

 

「ちっ。小癪な!」

 

ワイヤーブレードを一夏は潜り抜け、ラウラを射程圏内へ収める。

 

「無駄だ。貴様の攻撃は読めている」

 

「普通に斬りかかれば、な。……それならよぉ!」

 

一夏はそれまで足下へと向けていた切っ先を起こし、体の前方へと持ってくる。

 

「なっ!?」

 

(斬撃が読まれるなら、突撃で攻める……。突きならAICでも捕まえるには圧倒的に難しいからな。……いいぞ一夏!)

 

「無駄な事を!」

 

だがラウラは一夏の腕ではなく、全身の動きをAICで封じた。

 

「腕にこだわる必要はない……。要はお前の動きを止めれば──」

 

「忘れているのか?オレ達は、2人組なんだぜ?」

 

「!?」

 

慌ててラウラが視線を動かすが、もう遅い。

零距離まで接近したシャルルが、素早くショットガン『レイン・オブ・サタディ』の6連射を叩き込む。

次の瞬間、ラウラの大口径リボルバーカノンは轟音と共に爆散した。

 

(やっぱりな。ようやく気づいたぜ。ラウラのAICには致命的な弱点がある……。それは『停止させる対象物に意識を集中させていないと効果を維持出来ない』こと……。現に、一夏への拘束は解除されてるしな)

 

「一夏!」

 

「おう!」

 

再度、一夏は雪片弐型を構え直し零落白夜を発動した

だが……一番恐れていた事態が起きてしまった。

 

キュゥゥゥン…………。

 

(なっ!?)

 

途中にくらったダメージが大きかったのか、零落白夜のエネルギー刃は音と共にある小さくなり、そのまま消えてしまった。

 

「残念だったな!」

 

「!!」

 

一夏が雪片からラウラへと視線を戻すと、両手にプラズマ手刀が展開され、懐に飛び込んできていた。

 

「限界までシールドエネルギーを消耗してはもう戦えまい!あと一撃でも入れば私の勝利だ!」

 

ラウラの言う通りだった。

おそらく、後一撃でも一夏は攻撃が当たれば、シールドエネルギーが0になり負けるだろう。

一夏は必死で左右同時に襲いかかってくるプラズマ手刀を弾き続ける。

 

「やらせない!」

 

「邪魔だぁ!」

 

ラウラは一夏への攻撃の手を休めないまま、援護に入ろうとしたシャルルをワイヤーブレードで防ぐ。

 

「わあっ!」

 

「次は貴様の番だ!墜ちろっ!!」

 

ラウラはそのまま一夏へと斬撃を振るった

 

「ぐあっ……!」

 

「は……はははっ!私の勝利だ!」

 

高らかに勝利宣言をするラウラに、超高速の影が突撃をする。

 

「まだ終わってないよ」

 

それは、一瞬で超高速状態へと移ったシャルルだった。

 

「なっ……!瞬時加速だと!?データにはそんな事……!」

 

「今初めて使ったからね」

 

「な、なに……?まさか、この戦いで覚えたというのか!?」

 

つくづくシャルルの器用さには驚かされる。

オレだってまさかシャルルが瞬時加速を使えるとは思っていなかったしな。

 

「だが!私の停止結界の前では無力だ!」

 

ラウラがそう叫んでAIC発動体勢へと変わる。

その瞬間、動きが止まったのはラウラ自身だった。

 

ズドンッ!

 

「!?」

 

いきなりあらぬ方向からの射撃を受けて、ラウラが撃ってきた方向を振り返る。

そこには、シャルルが捨てた残弾有りのアサルトライフルを構える一夏がいた。

 

(あれは……。確か一夏がシャルルと射撃訓練の時に使用したライフルだ ……!なるほど、これは二段構えの作戦か!)

 

「こ、この……。死に損ないがぁ!」

 

「シャルル!」

 

「うん!この距離なら外しはしない!」

 

そうシャルルが言うと、リヴァイヴカスタムⅡの左腕の盾の装甲が弾け飛び、中からリボルバーと巨大な杭(くい)が融合した装備が露出する。

69口径パイルバンガー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』通称……。

 

「『盾殺し(シールド・ピアーズ)』……!」

 

初めてラウラの表情に焦りが見えた。

 

「ふふっ」

 

一瞬、シャルルの顔が笑みを浮かべる。

それはさながら、死を宣言する天使の様相であった。

 

ズガァンッ!!

 

「ぐはぁ……!」

 

ラウラの腹部に、シールド・ピアーズの一撃が叩き込まれる。

ISのシールドエネルギーが集中して絶対防御で防ぐが、エネルギーをごっそりと奪われる。

しかも相殺しきれなかった衝撃が深く体を貫き、ラウラの表情は苦悶に歪んだ。

しかし、これで終わりではない……シールド・ピアーズはリボルバー機構により高速で次弾炸薬を装填する。

つまり、連射が可能なのだ。

 

ズガァンッ!ズガァンッ!ズガァンッ!

 

続けざまに3発を撃ち込まれて、ラウラの体が大きく傾く。

そして、強制解除の兆候を見せ始めたと思った時──異変が起きた。

 

「ああああああっ!!!」

 

突然、ラウラが身を裂かんばかりの絶叫を発したのだ。

同時にシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が放たれ、シャルルはそのまま吹き飛ばされた。

 

(な、何が起きてるんだ!ミラージュアウト!)

 

オレはミラージュアームズを解除をしてステルスモードを解く。

 

「ぐっ!一体何が──えっ!?」

 

「なっ!?」

 

「!?」

 

オレも一夏もシャルルも目を疑った。

視線の先では、ラウラが……シュヴァルツェア・レーゲンが変形をしていた。

いや、変形ではない。

 

「あああぁぁぁぁ──」

 

全てがぐにゃぐにゃに溶けたそれは、ラウラを飲み込み変化、形成させていく。

そして、そこに立っていたのは、黒い全身装甲のISに似た『何か』。

その形状は先月の襲撃者とは似ても似つかいどころか、ボディラインはラウラのそれをそのまま表面化した少女のそれであり、最小限のアーマーが腕と脚につけられている。

そして、その手に握られている武器には見覚えがあった。

 

「「雪片……!」」

それは、かつて千冬姉が振るった刀だった。

 

「こいつ……!」

 

一夏が雪片弐型を握りしめ、中段に構えた刹那……。

 

「──!」

 

先に黒いISが一夏の懐に飛び込み、居合いに見立てた刀を中腰に引いて構え、必中の間合いから放たれる必殺の一閃。

それは、紛れもなく千冬姉その人の太刀筋そのものだった。

 

「ぐはっ!」

 

構えていた雪片弐型が弾かれ、黒いISはそのまま上段の構えへと移る。

 

「まずい!一夏ぁ!」

 

オレの叫びも虚しく、その鋭い縦一直線の斬撃が一夏を襲う。

しかし、一夏も千冬姉の戦法を知っていたからかろうじて回避することができたが、白式はその緊急回避が最後の力だったのか光となって消えた。

 

「………がどうした……」

 

一夏は拳を握りしめる。

 

「それがどうしたぁぁっ!」

 

「なっ!?馬鹿野郎!」

 

一夏が黒いISに触れる瞬間にオレは一夏の腕を引っ張り、引き離す。

 

「馬鹿者!何をしている!死ぬ気か!?」

 

同時に駆け付けた箒が一夏をどなる。

 

「離せ!あいつ、ふざけやがって!ぶっ飛ばしてやる!」

 

「落ち着け一夏!!」

 

「どけよ、桜萪!邪魔をするならお前もただじゃ──」

 

「っ!てめぇいい加減にしろ!」

 

オレが拳を振り上げた瞬間……。

 

バシーン!

 

オレより先に、箒が一夏の頬をおもいっきりひっぱたいてそのまま一夏は横向きに転げた。

 

「なんだというのだ!分かるように説明しろ!」

 

「あいつ……あれは、千冬姉のデータだ。それは千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを……くそっ!」

 

「まったくお前は……。いつも千冬姉千冬姉だな」

 

「それだけじゃねぇよ……。あんな、訳が分からねぇ力に振り回されているラウラも気に入らねぇ。ISとラウラ、どっちも一発ぶっ叩いてやらねぇと気がすまねぇ」

 

一夏の気持ちは十分分かる……。

力は、強さは、攻撃力ではない。

そんなものは強いとは言えない……ただの暴力なだけだ。

 

「とにかく、オレはあいつをぶん殴る。その為にはまず正気に戻してからだ」

 

「理由は分かったが、今のお前に何が出来る?白式のエネルギーも残っていない状況でどう戦う気だ」

 

「くっ……!」

 

箒の意見はもっともだ。

あの黒いISもおそらくはあんまりエネルギーは残っていないだろうが、それでも一撃叩き込まなければ意味がない。

オレのアルティウスはシールドエネルギーが満タンだから、あのISを撃破するのは他愛ないだろう……。

だが、それでは意味がない。

 

『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!』

 

「聞いての通り、お前がやらなくても状況は収拾されるだろう。だから──」

 

「だから、無理に危ない場所へ飛び込む必要はない……か?」

 

「そうだ」

 

確かに箒は正しい。

だが、一夏は納得はしないだろう。

 

「違うぜ箒、全然違う……。オレが『やらなきゃいけない』んじゃないんだよ これは『オレがやりたいからやる』んだ」

 

「えぇい、馬鹿者が!ならどうするというのだ!エネルギーはどのみち──」

 

「無いなら他から持ってくればいい、でしょ?一夏」

 

そう言いながらシャルルがふわりとオレ達の元にやってくる。

 

「普通のISなら無理だけど、僕のリヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」

 

オレもそれは考えたが、万が一の事がないように一夏のサポートをするためにあえて言わなかった。

 

「本当か!?なら早速やってくれ!」

 

「けど!」

 

びしっとシャルルが一夏に指を指して言う。

 

「けど、約束して。絶対に負けないって」

 

「もちろんだ ここまで啖呵を切って飛び出すんだ 負けたら男じゃなねぇよ」

 

「えへへ~。じゃあ負けたら明日から一夏は女子の制服で通ってね」

 

「うっ……!いいぜ?絶対に負けないからな!」

 

うむ……。

どうやら一夏も頭が冷えたみたいだな。

 

「じゃあ始めるよ……。リヴァイヴのコア・バイパスを解放。エネルギー流出を許可」

 

リヴァイヴから伸びたケーブルは白式の待機状態のガントレットに繋がれ、ブゥン……と、光りエネルギーが流れているのが分かった。

 

「一夏、オレはお前のサポートをする。いいな?」

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

オレはデュエル・アームズをステルスモード状態で展開する。

サポートはばっちりだ。

 

「よし、リヴァイヴのエネルギーは全部白式に移したよ」

 

その言葉通り、シャルルの体からリヴァイヴは光の粒子となって消えた。

それに合わせて、白式は一極限定モードで再構成を始めた。

 

「やっぱり、武器と右腕だけで限界だね」

 

「いや、充分さ」

 

どうやら白式は、零落白夜を使用する事を理解したのか、雪片弐型とそれを振るうための右腕装甲だけを具現化させた。

防御なし、当たれば確実に即死は免れない。

それを防ぐためにオレがサポートをするのだ。

 

「さぁ、一夏……」

 

「おう」

 

一夏とオレはゆっくりと黒いISの前に進んだ。

 

「じゃあ、行くぜ偽物野郎!」

 

雪片弐型が一夏の意思に呼応して刀身が展開する。

 

「零落白夜……発動」

 

ヴン……と小さく反応して全てのエネルギーを消し去る力を持った刃が出現する。

そして、その刃は細く鋭いものへと変化していき、雪片本来の実体刃は全て消えて柄から上には零落白夜のエネルギー刃……それも、あろうことか日本刀の形に集約した姿が残った。

 

「……………」

 

黒いISが一夏へと刀を降り下ろす。

だが……。

 

「一夏を殺らせはしない」

 

デュエルアームズの巨大腕『ツールアーム』で黒いISの腕と雪片を掴み動きを止める。

そして、そのまま一夏は黒いISを一刀両断した。

 

「ぎ、ぎ……。ガガ……」

 

バチバチと紫電を走らせながら、黒いISが真っ二つに割れると、そこからラウラが現れた。

その顔はどこか寂しそうな表情をしており、そのまま一夏の腕の中へと吸い込まれていった。

そして、そのまま気を失ってしまった。

 

「まぁ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」

 

バチバチバチッ!

 

操縦者を失って停止するかと思った黒いISはあろうことか、ぐにゃぐにゃと地面から何本もの触手を出すと、一夏とラウラに向かって伸ばしてきた。

 

「くっ!」

 

一夏はせめてラウラだけでも守ろうと、背中を向けてラウラをぎゅっと抱き締めた。

 

ギャリィィィンッ!

 

一夏が後ろを振り返ると、そこには8つの実体ブレードのようなシールドが一夏とラウラを触手から守っていた。

 

「よくやった一夏、あとはオレに任せろ」

 

「桜萪!」

 

オレは新たなアームズ……『シールドソードビット・アームズ』を展開して一夏とラウラを守った。

シールドソードビット・アームズはその名の通り、ビット兵器にシールドとソードの機能を融合させた武器で全部で8基搭載している。

武装はそれとショットガン2丁、カラーリングはオレンジだ。

 

「まさかの暴走か。……だが」

 

新たに迫る触手をオレはシールドモードからソードモードにして斬り裂いていく。

 

「主を失ったなら大人しくしてろ。終わりだ」

 

ショットガンによる射撃とシールドソードビットの斬撃によって、黒いISの成れの果てはその活動を止めた。

 

「ふぅ……」

 

オレはアルティウスを待機状態に戻し、気を失って眠っているラウラを見ながら呟いた。

 

「ラウラ……お前はお前の好きなように、やりたいように生きろ。……1人で難しいのならオレが一緒にいてやる」

 

独り言みたいに小さく言ったのでそれがラウラ本人に聞こえたかは分からない……。

けど、伝われば良いな……。

 

 

◇◆◇◆

 

 

その後、詳しく調べてみるとシュヴァルツェアのあの変形はあるシステムによる事が判明した。

VTシステム──正式名称はヴァルキリー・トレース・システム。

過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステム。

しかし、それはIS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用全てが禁止されている。

それが巧妙にラウラのISに隠されていた。

おそらく、操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして……操縦者の願望が揃うと発動するようになっていたみたいだ。

ラウラは望んだんだ……千冬姉になる事を……。

だが、ラウラはラウラだ。

それ以上でもそれ以下でもない。

ましてや、千冬姉でもない

自分は自分なのだから……。

 

 

◇◆◇◆

 

 

さて、時間はあっという間に過ぎ去りただいま食堂でございます。

 

『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、全ての一回戦は行います。場所と日時は──』

 

「ふむ……。シャルルの予想通りになったな」

 

「そうだねぇ。あ、一夏、七味取って」

 

「はいよ~」

 

「ありがと」

 

「ズルズルズル……」

 

はぁ……疲れたよ全く。

あの後、オレ達は教師陣から事情聴取されていてようやくついさっき終わった。

やっと解放された時には食堂終了ギリギリの時間だった。

まぁ食堂のおばちゃんの計らいで終了時間をちょっと延長させてもらった。

 

「ふー、ごちそうさま」

 

「相変わらず、この学園の料理は美味いよなぁ。……あん?」

 

なぜだか知らないが、さっきまでオレ達の食事が終わるのを今か今かと心待ちにしていた女子一同がひどく落胆している。

どうした?気分でも悪いんだろか?

 

「……優勝……。チャンス……。消え……」

 

「交際……。無効……!」

 

「……うわぁぁぁぁあんっ!」

 

バタバターっと数十名が泣きながら食堂を出ていった。

はて……?

 

「どうしたんだろうね?」

 

「さぁ……?」

 

「意味が分からんよ」

 

3人にはちんぷんかんぷんだ。

いや~、女子というのは摩訶不思議な生き物だな。

 

「……………」

 

女子が去った後に、ただ1人呆然と立ち尽くしている姿を見つけた。

 

「ありゃ……。箒じゃん」

 

なんか口から魂抜けてませんか……?

 

「そういえば箒。先月の約束だが……」

 

ん?約束だと?

一夏よ、いつの間に……。

まぁオレには関係──。

 

「付き合ってもいいぞ」

 

「……………なに?」

 

「ブフォォ!」

 

思わず口に含んでいた水を吐き出してしまった。

これは汚い場面を見せてしまってすまん。

な、ななな何を軽く言っているんだこいつはー!

 

「だから、付き合ってもいいって──おわっ!」

 

魂が抜けていたのが戻ったらしく、箒は一夏の首をお構い無しに締め上げる。

 

「ほ、ほ、本当、か?本当に、本当に、本当なのだな!?」

 

「お、おう」

 

……ん?

待てよ……あの唐変木of唐変木'sの一夏だぞ。

 

「な、なぜだ?り、理由を聞こうではないか……」

 

「そりゃ幼なじみの頼みだからな。付き合うさ」

 

「そ、そうか!」

 

「買い物くらい」

 

「………………」

 

……予想が的中してしまったんだが……。

 

「……だろうと……」

 

「お、おう?」

 

うわぁ……箒からどす黒いオーラと炎がわなわなと……。

 

「そんな事だろうと思ったわ!」

 

どげしっ!!

 

「ぐはぁっ!」

 

腰のひねりを加えた正拳が一夏の鳩尾(みぞおち)にめり込む。

うわぁ……痛そ~。

 

「ふん!」

 

ドゴォッ!

 

さらにまた鳩尾に爪先が入った。

 

「ぐ、ぐ、ぐっ……」

 

「一夏って、わざとやってるんじゃないかって思う時があるよね」

 

「右に同じく」

 

オレとシャルルは腹を押さえて悶え苦しんでいる一夏を見ながら呟く。

 

「な、なに?どういう意味だ、それは……」

 

「さぁね」

 

シャルルは視線をぷいっと逸らした。

 

「自分で考えろ」

 

オレは一夏の肩にポンッと手を置く。

ナイスフォローだオレ。

 

「あ、織斑君にデュノア君に櫻井君。ここにいましたか」

 

山田先生がてくてくと手を振りながら歩いてくる。

 

「山田先生こそ。ずっと手記で疲れなかったですか?」

 

やっと回復した一夏がよろよろと立ちながら質問する。

 

「いえいえ、私は昔からああいった地味な活動が得意なんです。心配には及びませんよ?なにせ先生ですから」

 

えへん、と胸を張る山田先生。

一夏は何故か顔を赤くして顔を背けた。

ん?

 

「一夏のスケベ」

 

ぼそっとした呟きだったが、オレにも一夏にもはっきりと聞こえた。

 

「な、なに?ちょっと待てよシャルル!それは誤解だ!」

 

「ふん……。どうだか」

 

おそらく、一夏は山田先生の胸が揺れたのが視線のやり場に困ってしまって顔を背けたのだろう。

 

「3人に朗報ですよ!」

 

「へ?」

 

「なんとですね!ついに!ついに今日から男子の大浴場の使用が解禁です!」

 

これを聞いた一夏はまさかの超回復で飛び起きた。

 

「おお!そうなんですか!?てっきりもう来月になるものとばかり」

 

目をキラキラさせて喜んでいた。

ガキかお前は。

 

「それがですね~、今日は大浴場のボイラー点検があったので、もともと生徒達が使えない日なんです。でも点検自体はもう終わったので、それなら男子の3人に使ってもらおうって計らいなんですよー」

 

ほぉ~。

それはとてもありがたい事だ。

トーナメントの疲れを湯船で落とせるのは良い事だ。

 

「ありがとうございます、山田先生!」

 

一夏は感動しすぎたのか、山田先生の手を握りしめてしまった。

どんだけ嬉しいんだ?

 

「あ、あのっ。そんなに近づかれると先生ちょっと困りますというか、その……」

 

「はいっ?」

 

「い、いえっ!なんでもありません!なんでもありませんよ?」

 

「「……コホンコホンッ!」」

 

オレとシャルルはわざとらしく咳払いをして話に区切りをつける。

イリュージョン?

 

「と、ともかくですね。3人は早速お風呂にどうぞ。今日の疲れも肩まで浸かって100数えたら疲労もスッキリ!ですよ!」

 

100って……小学生じゃあるまいし。

 

「はい!じゃぁ早速、風呂に──あ」

 

「……はっ!」

 

オレと一夏は大事な事に気づいてしまった。

それはシャルルも同じだろう。

 

「どうしたんですか?ほらほら、3人ともはやく着替えを取りに行ってください。大浴場の鍵は私が持っていますから、脱衣場の前でまってますね?」

 

そう言って山田先生はすたすたと行ってしまった。

 

「……シャルルよ」

 

「う、うん 困った……ね。どうしよう……と、とりあえず着替えを取りに部屋に戻ろうか」

 

「おう。……そうだな」

 

「んじゃ……。また脱衣場でな」

 

「「わ、分かった」」

 

はてさて……どうしましょ?

 

 

◇◆◇◆

 

 

「──あ、来ましたね それじゃ~どうぞ!」

 

ちょっとテンション高めの先生に見送られる。

そしてそのまま沈黙タイムの到来である。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

き、気まずい。

オレも今回ばかりは風呂に入りたい。

が、しかし、さすがにシャルルと一緒なのは無理だ。

 

「え~と……シャルル?」

 

「はっ、はい!?」

 

何故に敬語なのだ?

 

「シャルルも今日は疲れただろ?オレと桜萪は脱衣場で時間潰してから、頃合いを見て部屋に戻るから風呂に入ってこいよ」

 

「うむうむ。その通り」

 

「え?2人はどうするの?」

 

「まぁ……。一緒に入るのはいかんだろ?だから、オレ達は部屋のシャワーで我慢するさ」

 

今日がダメでもまた入られる機会が来るしな。

 

「い、いいよ。それなら僕が脱衣場で待ってる。その……。お風呂ってそんなに好きじゃないし」

 

オイオイ……。

年頃の女の子が風呂が好きじゃないって無理があるだろう。

 

「一夏や桜萪は好きなんだよね?」

 

「うーん。普通かなぁ」

 

「そりゃ好きだ!」

 

後者はもちろん一夏だ。

……あるぇ?なんでシャルルは真っ赤になってんの?

 

「「どうした?」」

 

「ど、どうも!?と、とにかくっ、一夏と桜萪はお風呂に入って!僕の事は気にしないでいいから、ね?」

 

ここまで言ってくれるのに断るのはどうかと思う。

 

「……いいのか?」

 

「う、うん」

 

「じゃあ入る!シャルル、サンキュー!この恩はいつか返す!」

 

「すまんねシャルル」

 

あとでフルーツ牛乳かカフェオレでも奢ってやろう。

 

「じゃあ、入ってくる」

 

ひとまず、シャルルの視界に入らない場所で一気に服を脱いだ。

男は楽だなぁ。

 

「う、うんっ ごゆっくり」

 

「うおぉ!」

 

めっちゃ広いじゃん!

えーと……湯船大が1つにジェットとバブルのついた湯船中が2つ、加えて檜風呂が1つ

さらにはサウナ、全方位シャワー、打たせ滝までついている。

相変わらずこの学園には驚かされる。

 

「まぁ一夏よ、ひとまず落ち着こう」

 

「そうだな。まずは体を流してからだ」

 

そうだ。

とりあえず落ち着いてこの大浴場を楽しもうではないか。

 

「わはははは!」

 

……何を思ったのかは知らんが、とにかくくだらない事だろう。

 

「うるせぇぞ一夏ぁ」

 

ひとまずオレ達は体をお湯で流して、早速ボディーソープで体を洗う。

湯船に入る前に体を洗うのは常識だからな。

オレは体の泡を洗い流すと、そのまま湯船大に入る。

 

「ふううぅぅぅぅ~……」

 

「うおおぉぉぉぉ……」

 

これは……素晴らしい。

 

「へ~……。桜萪の今の状態なら普通に女子に見える」

 

「……三途の川という名の流れる大浴場に行ってみるか一夏?」

 

「い、いや……すまん!てか、あんまり気にしない方がいいんじゃないのか?」

 

「他人事みたいに言うなよ……。そんな簡単に克服できたら苦労はしない」

 

あ~……眠くなってきたな……。

久しぶりの風呂だからかな……。

 

カラカラカラ……。

 

「んぁ……?」

 

「ほぇ……?」

 

一夏も眠いのか。

気持ちは分かるぜ。

しかし……気のせいかな?今脱衣場の扉が開く音が聞こえたような……。

 

(……幻聴かぁ……)

 

ぴたぴたぴた

 

濡れたタイルの上を歩く音も聞こえる~……。

ぼへ~……。

 

「お、お邪魔します……」

 

「「!?」」

 

眠かった頭がお互いに目が覚めたオレ達は後ろを振り向く。

そこには、薄手のスポーツタオルを当てているシャルルがいた。

それがエロいのなんの……じゃなくてっ!!

 

「な、なっ、なぁっ!?」

 

「☆〇%@§†□#!?」

 

もはやオレのは言葉にもなってないZE☆

 

「……あ、あんまり見ないで。一夏と桜萪のえっち……」

 

「「!!す、すまん!」」

 

な、何だ!?何が起きているんだ!?

ひとまず謝ろう!そして直ぐ様オレ達は回れ右。

いつでも大浴場から抜け出せる状態だZE☆

 

「ど、どうした?どうしてここに?」

 

「いや、確かにオレ達も入浴を勧めたが……。それはオレ達が入らない場合であってだな……なぜにどうして」

 

「「やってきたよシャルルさん?」」

 

見事なハモりっぷり。

ゴスペラーズも驚きだ。

いや、知らないけど。

 

「ぼ、僕が一緒だと、嫌かな……?」

 

「「いや決してそういう訳ではないが!」」

 

嫌ではない、強いていうなら非常に困るのだ。

オレ達も健全な男子15歳な訳だ。

人並みに異性に興味があるし、性的な興奮が無いと言えば嘘になる。

 

「やっぱり、その、お風呂に入ってみようかなって……。め、迷惑なら上がるよ?」

 

「い、いやいや、上がるならオレ達が上がるよ!なぁ桜萪?」

 

「そ、そうだよ!もう堪能したし──」

 

「待って!」

 

急に大声で呼び止められたオレ達は、驚きもあって言葉と動作を止めた。

 

「そ、その……話があるんだ。大事な事だから、2人にも聞いてほしい……」

 

「わ、分かった」

 

「き、聞くよ……」

 

大事な話なのなら、聞かない訳にはいかない。

オレ達は一度浮かした腰を再度湯船に沈めた 。

 

しかし、いくら大事な話とはいえ、真っ直ぐにシャルルを見る訳にもいかない。

背中をお互いに向けてシャルルの言葉を聞いた。

 

「その……。前に言っていた事なんだけどさ」

 

「前にって言うと……。もしかして、学園に残るって話か?」

 

「そ、そう、それ……。僕ね、ここにいようと思う。僕はまだここだって思える居場所を見つけられてないし……。それに……」

 

「「それに?」」

 

「……………」

 

沈黙だと?

どうしたんだ?

 

ちゃぷ……。

 

「?シャルル?」

 

一夏は反射的に音がした後ろへと顔を向ける。

 

「こ、こっち見ちゃダメ!あっち向いてて!」

 

「わ、悪い!」

 

どうしたんだ?

一夏の顔が妙に赤いぞ?

しかし、それはすぐに分かった。

 

ぴとっ……とオレの背中に小さな手のひらが触れてきた。

間違いない、シャルルだ。

 

「しゃ、シャルル……!」

 

だがシャルルはそのままオレと一夏を抱き締めた。

 

「一夏と桜萪が、ここにいろって言ってくれたから。そんな2人がいるから、僕はここにいたいと思えるんだよ?」

 

「そ、そうか……」

 

それがシャルルの助けになったというなら嬉しい。

 

「それに、ね。もう1つ決めたんだ」

 

「もう1つ……?」

 

「そう、僕の在り方。2人が教えてく れたんだよ?」

 

「そ、そうだっけか?」

 

「ぬぅ……」

 

「そうだよ。ふふっ、一夏と桜萪って自分関する事はどこまでも鈍感だね。憎たらしいくらい」

 

な、なぬ?

オレが鈍感だと?

そんな事はないと思っていたが……。

 

「そ、それは……。すまん」

 

「悪い……」

 

「いいよ、許してあげる。ただし、僕の事はこれからシャルロットって呼んでくれる?」

 

「それが本当の……?」

 

「そう、僕の名前……。お母さんがくれた本当の名前」

 

「分かった……。シャルロット」

 

「……しゃ、シャルロット……?」

 

「うん……。うん」

 

嬉しそうにシャルル……いや、シャルロットが返事をした。

 

「と、と、ところでだな……。そろそろこの体勢でいるのは、正直色々とまずい事態が起こりうるんだが……」

 

さっきまでは意識していなかったが、改めて密着している事に気がつくと、背中の左側に触れている膨らみがどうしとも気になって仕方がない。

 

「あ、ああっ、うん!そうだねっ!ぼ、僕……先に体と髪を洗っちゃうね!」

 

そう言ってシャルロットは、ばしゃばしゃと慌てて水音を立てながら湯船から上がる。

 

「こ、こっち覗いちゃダメだよ?」

 

「の、覗かねぇよ……」

 

「以下同文」

 

「……覗いてもいいのに……」

 

何か最後にシャルロットがぼそっと呟いたような気がしたが、水音でよく聞こえなかった。

それから30分ほど満喫してからオレ達は風呂場を出た。

もちろん、着替えは別々。

シャルロットが先に上がって着替えて、オレ達を待っていた。

男の着替えてなんてすぐに終わる。

……ほい、完了。

 

「じゃあ、戻るか」

 

「うん」

 

そう言ってオレ達は途中まで一緒に行った。

 

「それじゃ明日」

 

「おう、お休み」

 

「お休み桜萪」

 

「また明日な~2人とも~」

 

部屋に向かっている途中でオレはふと歩みを止めた。

 

「……なんか外に行きたい気分」

 

オレはタオル等の荷物を部屋に置くと、そのまま寮の外へと向かった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「……良い月夜だな」

 

途中で買ったスポーツ飲料のキャップを開けながら近くにあったベンチに腰かける。

ゴクゴクとボトルを傾けて飲んでいると、後ろから人の気配がした。

 

振り返るとそこには長髪の女子がこちらに歩いてきていた。

 

「……ラウラ?」

 

「……む」

 

そう、ラウラだ。

あの銀髪に左目眼帯といえばこの学園中探しても彼女しかいない。

ラウラは無言でオレの隣に座り、右手に持っていたホットココアを一口飲む。

 

「あー……身体は大丈夫なのか?というか寝てなくていいの?」

 

「……身体はもう問題ない。先程まで寝てはいたのだがな、ふと目が覚めてしまって」

 

……気まずい。

だってオレ、この隣の女の子を二度もぶっ飛ばしたんだぞ?

もしかして報復しに来たのか……!?

 

「ちょうど月が綺麗だから外に出て見ようと思いここに来たのだが……。まさかお前もいるとはな」

 

「ごめんなさい許してくださいお命だけはご勘弁を」

 

バッ!とベンチから降りて土下座をするオレ。

あぁ、今のオレは謝罪の誰かさん並に素晴らしい土下座をしているに違いない。

 

「……質問していいか?なんでお前は私を助けてくれたんだ?」

 

「へ?」

 

思いもよらない言葉にオレは間の抜けた声を出して顔を上げてしまう。

 

「お前は私の事が嫌いなのだろう?なのになぜあの時私を助けた?あと……お前は私に言ったな。『お前はお前の好きなように、やりたいように生きろ』と」

 

「……ラウラ、お前は千冬姉になりたかったんだろ?違うか?」

 

オレの問いにラウラは無言で頷く。

それを確認してオレは言葉を続けた。

 

「千冬姉はラウラにとってかけがえなくて憧れの存在なんだな。……でもラウラは千冬姉にはなれないよ。千冬姉は千冬であってラウラはラウラだ。それ以上でも以下でもない。それを伝えたかったんだよ」

 

「……ふっ、お前は厳しいな。あの人と同じだ」

 

そう言いながらラウラは笑った。

月明かりに照らされたその笑みは一際輝いており、あまりの可憐さに心を奪われそうになった。

 

「ま、強くなりたいって気持ちはオレもラウラと同じさ。オレ、弱いし」

 

苦笑いしながら言っていると、ラウラはぽかんとした表情でこちらを見てきた。

……あれ?

 

「あれほどの力を持っていてなお、強くない、弱いとお前は言うのか?」

 

「おう。けど、もしオレが強いっていうならそれは、強くなりたいから、強いのかな?それに、誰かを守ってみたいしな~。マンガや小説の主人公みたいにさ、かっこよく。誰かのためにこの力で戦ってみたい」

 

「……なら」

 

そう言葉を切ってラウラはこちらをじっと見つめてきた。

 

「お前は私を守ってくれるか?」

 

その問いにオレは満面の笑みを浮かべながら言った。

 

「おうよ!お前はオレが守ってやるよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「!!」

 

オレの言葉にラウラは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

……あれ?

もしかして地雷踏んだ?

 

「ら、ラウラさん……?」

 

「……邪魔したな。私はこれにて失礼させてもらう」

 

こちらが呼び止めるよりも早くラウラはダッシュで寮の中へと戻っていってしまった。

 

ポツンと1人残されたオレ。

 

「……明日謝ろう。全力で」

 

月はこちらの気も知らないで煌々と明るく輝いていた。

 

「そういえば、オレ助けた理由言ってねぇな……」

 

 

◇◆◇◆

 

 

翌日。

本日も快晴なり。

朝のホームルームにはシャルロットの姿がなかった。

一夏に聞いてみると、『先に行ってて』と言われて食堂で別れたらしい。

他にもラウラの姿もなかった。

これはまぁ~……オレが原因なんですかねぇ?

そうだったらマジで全力で謝りたい。

 

「み、皆さん……。おはようございます……」

 

ふらふらと教室に山田先生が入ってくる。

おやおや、昨日の高いテンションは何処へやら……。

 

「今日は、ですね……。皆さんに転校生を紹介します 転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、えぇと……」

 

……何?転校生だと?

この時期にまたか?

今月はシャルロットとラウラが来ているのに……。

 

「じゃあ、入ってきてください」

 

「失礼します」

 

……あり?この声は……。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

ぺこり、とスカート姿のシャルロットが礼をする。

オレや一夏を始め、クラス全員がぽかんとしたまま、これはどうもご丁寧にとばかりに頭を下げ返す。

 

「えぇと……。デュノア君はデュノアさん……でした。はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立て直す作業が始まります……」

 

なるほどなるほど。

山田先生の憂いはそこにあったのか。

……て、ちょっと待てよオイ。

 

「え?デュノア君って女……?」

 

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だった訳ね。」

 

「って、織斑君と櫻井君!同じ男子だから知らないって事は……」

 

「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

 

ザワザワザワザワッ!

カ〇ジかこの野郎……じゃなくて!

まずい!非常にまずい!

 

バアァァァンッ!

 

教室のドアが爆散したかと思うと、IS『甲龍』を装備した鈴が入ってきた。

 

「一夏ぁっ!!!」

 

鈴は一夏を見つけると、両肩の衝撃砲をフルパワーで放つ。

 

(一夏よ……。お前の事は一生忘れないZE☆)

 

びしっ!と敬礼をするオレ。

うん、決まった。

 

(……恐らくオレもお前の後を行くだろう)

 

ドゴォォォォン!!

 

「…………あり?」

 

目を開けると一夏は生きていた。

しかも……鈴と一夏の間に割って入ったのは……なんとラウラだった。

 

「な、なに……?」

 

その体には黒いIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏っていた。

おそらく、衝撃砲を得意のAICで相殺したのだろう。

だが、あの大型リボルバーカノンが搭載されていない。

 

「助かったぜ、サンキュ……。っていうかお前のISもう直ったのか?すげぇな」

 

「……コアはかろうじて無事だったからな。予備パーツで組み直した」

 

そう言ってラウラは、ISを解除すると真っ直ぐオレの前に来て立ち止まった。

 

「……な、なに──んむっ!?」

 

いきなり、そう、いきなりだった。

いきなり、ラウラに胸ぐらを掴まれたオレは、そのまま引き寄せられあろう事か……唇を奪われた。

 

「!?!?!?!?」

 

誰か今起きている状況を事細かにオレに説明して欲しい。

鈴や一夏もそうだが、その場の全員があんぐりと口を開いている。

もちろんオレも。

 

「お、お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

 

「……は?……はぁ!?」

 

な、何を爆弾発言してんだこの娘は……!!

 

「日本では気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしだと聞いた。ゆえに、お前を私の嫁にする」

 

……オイコラ。

誰だラウラにそんな変な事を言った奴は。

責任者よカモン!

 

「アンタねえぇぇぇぇっ!!」

 

ジャコッ!と次はオレに向けて衝撃砲を構える鈴。

 

「ま、待てぇぇ!誤解だぁ!」

 

ここは何階だっけ?

5階?なんちゃって。

 

「うるさあぁぁい!」

 

な、何でオレなんだよ!?

と、とにかく!まずはこの教室から脱出する必要がある。

ならば!教室後ろの出口から──。

 

ビシュンッ!

 

鼻先をレーザーがかすめた。

恐る恐るそちらに顔を向けると……。

 

「あぁら桜萪さん?どこにお出かけですか?わたくし、実はどうしてもお話しなくてはならない事がありまして。えぇ突然ですが急を要しますの~オホホホホ……」

 

ひぃ!血管マーク……5つはあるセシリアがゆっくりと立ち上がってきた。

その手にはBTライフル『スターライトmkⅢ』、背中には今まさにビットが形成され、遅れてISアーマーが全身を包み込む。

 

し、死ぬ!

えぇい!ならば窓からの脱出を──。

 

ダンッ!

 

「……はい……?」

 

目の前にいきなり日本刀が突き立てられていた。

ここって戦国時代ですか?

関ヶ原の戦い?あわよくば、大阪夏の陣?

 

「……桜萪。貴様どういうつもりか説明してもらおうか」

 

「ま、待て待て待て!説明を求めているのはオレ──おひょおぅっ!?」

 

箒は構わずに刀で襲ってくる。

寸でのところでオレは左腕の義手で防ぐが、構わずにまた斬撃が来る。

 

やめろおぉぉ!死ぬだろぉぉがぁぁあ!

これは本当にまずい!

確実に死ぬだろ!

えぇい!強行突破だぁ!

 

ぼすっ。

 

「へ?」

 

誰かとぶつかった。

オレはギギギと音をたてるように顔を上げた。

 

「……………」

 

シャルロットでした。

 

「にこっ」

 

「……にこっ」

 

あぁ……やっと出口が。

天使がオレを助けてくれる。

 

「桜萪って他の女の子の前でキスしちゃうんだね。僕、びっくりしちゃった」

 

「あのー……。シャルロットさん?オレはされたんであって、したわけではないのですよ……。そして、何故ISを起動させているのかね?」

 

「なんでだろうね」

 

シャルロットはISアーマーを纏うが、その手に武器を呼び出す必要はない。

なぜなら最強の武器は、アーマーと一緒に展開されてるから。

そう……左腕の盾に内蔵されている69口径パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』。

通称『盾殺し(シールド・ピアーズ)』。

 

「は、はは、あははは……」

 

もう笑うしかないよ……。

だって、笑い声しか出て来ないもの。

そして一夏……何故お経を唱えている……んだ……?

 

ドカァァァァァァンッ!!

 

その日のホームルームは轟音と爆音、そして絶え間ない衝撃でクラスが文字通り揺れた。

そして同時に男子生徒が1名が死亡……がくっ。

 




はい、きましたよ、メインヒロインが!
ちなみに、作者は最初シャル好きだったのですが、今はラウラ一筋でございます。

引き続きお楽しみくださいませ。
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