IS・ALUTIAUSS〈インフィニット・ストラトス アルティウス〉 作:ZERO式
青い空、白い雲、照りつける太陽……うん、まさに夏!
今オレ達は臨海学校初日という事でまだ移動中のバスの中だ。
当然、車内は女子達がおしゃべりしたり、お菓子を食べたりととても賑やかだ。
まぁ何より、初日の今日は1日自由時間だから皆さん海で遊ぶのが楽しみなご様子。
密かにオレもちょっと楽しみにしている。
「…………」
他の女子とは裏腹に、隣の席のラウラはずーっと大人しく座っている。
たまにキョロキョロと落ち着かない時があるが、それでもすぐに俯いて座っている。
気分でも悪いのか?
「大丈夫かラウラ?車酔いでもしたのか?」
「だ、大丈夫だ。問題ない……」
顔を赤らめこちらを見ようとせずにラウラは答える。
ふーむ、無理のしすぎはダメだぞ?
気持ち悪い時はちゃんと言わなきゃ大変な事になる。
「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」
千冬姉の言葉で全員があっという間にきちんと自分の席に座る。
うん、あんたならいい軍隊を作れるよ。
──それからほどなくして、バスは目的地である旅館に到着した。
4台のバスからIS学園1年がわらわらと降りてきてきちんと整列した。
「それでは、ここが今日から3日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
「「「よろしくお願いしまーす」」」
千冬姉の言葉の後、全員で挨拶をする。
この旅館には毎年お世話になっているみたいで、着物姿の女将さんが丁寧にお辞儀をした。
「はい、こちらこそ。今年の1年生も元気があってよろしいですね」
うむ、年は30代前半くらいかな?
しっかりとした千冬姉とは違う大人の雰囲気を漂わせている。
「あら、こちらが噂の……」
ふと、オレと一夏と目があった女将が千冬姉に尋ねる。
「えぇ、まぁ。今年は2人男子がいるせいで浴場分けが難しくなってしまい、申し訳ありません」
「いえいえ、そんな。それに、いい男の子達じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」
「感じがするだけですよ。挨拶をせんか、馬鹿者ども」
ぐいっと頭を押さえられた。
いや、千冬姉よ……今しようと身構えていたんだがね?
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」
「櫻井桜萪です。3日間お世話になります」
「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」
そう言って女将さんはまた丁寧なお辞儀をする。
おぉ、上品な人だなぁ。
「不出来の弟でご迷惑をおかけします」
「あらあら。織斑先生ったら、弟さんにはずいぶん厳しいんですね」
「いつも手を焼かされていますので」
や~いや~い一夏~。
どんま~い。
「お前もだ馬鹿者」
「あべしっ!」
出席簿ではなく拳骨アタック!
頭が割れるZE……。
「ふふっ。それじゃあ皆さん、お部屋にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所が分からなければいつでも従業員に訊いてくださいまし」
女子一同は、はーいと返事をするとすぐさま旅館の中へと入る。
うむ、とりあえずは荷物を置いてからだな。
「そういえば、オレ達の部屋って……」
その一夏の呟きに周りにいた女子数名が聞き耳を立てているのが分かった。
……何をする気だね君達は?
「織斑、櫻井、お前らの部屋はこっちだ。ついてこい」
おっと……千冬姉のお呼びだ。
待たせたらまた拳骨をくらってしまう。
スタスタとオレと一夏は千冬姉の後ろをついていく。
「お、織斑先生。オレ達の部屋はどこに──」
「黙ってついてこい」
ぐはぁ、質問はダメかい。
ちなみに、旅館の中はかなり広くて綺麗だ。
それこそ何百年って歴史がありそうな感じだし。
「織斑はここだ」
「え?ここって……」
ドアにはおもいっきり『教員室』という紙が張られている。
「織斑は私と一緒だ。櫻井はその3つ行ったところの部屋だ」
「は、はぁ……」
「これだけ部屋が近いんだ。女子達も近づけないし騒げないだろう?」
ニヤリと笑う千冬姉が悪魔に見えたよ。
まぁ、必ず就寝時間を無視した女子が押し掛けるからなぁ。
対策としては良いのかな?
「んじゃ海に行くときにな一夏」
「おう、またな」
ひとまず一夏と千冬姉と別れてオレは部屋に入る。
「ほぉ……これは」
1人分としては広すぎなんじゃないかと思うくらいの間取り。
それに、外側の壁が一面窓になっているのでそこから見える風景が素晴らしい。
「贅沢だなぁ」
それにトイレ、バスはセパレートでしかも洗面所まで専用の個室だ。
部屋に1人で感動していると、一夏から早速メールが来た。
『大浴場も使えるが、オレ達は時間交代だとさ。一部の時間のみ使用可だそうで、深夜、早朝に入りたければ部屋のを使えだとさ』
ほぉ……なるほどなるほど。
『サンキュー。風呂に行くときは連絡くれよ~』
送信……完了。
「ど~れ……海に行きますか~」
オレは必要な荷物を揃えて小さめのリュックサックに入れると、部屋を出て別館へと向かう。
さぁ海よ!待っていろ!
◇◆◇◆
「おーい、桜萪」
「よぉ、一夏も海かい?」
「おう。なら一緒に行こうぜ」
「そだな」
オレは途中会った一夏と一緒に別館の更衣室へ向かう。
別館では男子であるオレ達は更衣室でも一番奥を使用するように言われている。
((うーん、それにしても……))
お互いに考えている事は同じのようだ。
だって2人して顔を赤くしながら俯いているんだもの。
なぜかって?
だって……。
「わっ、ミカってば胸おっき~ね。また大きくなったんじゃない?」
「キャアッ!?も、揉まないでよバカ~」
「ティナってば水着大胆だねぃ。アヒョアヒョ」
「あんた笑い方変だよ……?」
これだもの……。
男子の更衣室は一番奥だから当然、女子の更衣室前を横切る訳だ。
だからこんな話題が普通に飛び交っている。
昼間から下ネタ出してんな馬鹿者共!
「は、はやく着替えようではないか一夏よ……」
「そ、そうだな……」
男の着替えなんてあっという間だ。
更衣室に入って2分もあれば完了する。
さぁ海よ……行きまーす!!。
◇◆◇◆
「あ、織斑君と櫻井君だ!」
「う、うそ!?わ、私の水着変じゃないよねっ!?」
「わ、わ~体どっちもかっこいー。鍛えてるね~」
「すご~い櫻井君の左腕と右足!機械の義手と義足だぁ~!」
「織斑く~ん、櫻井く~ん、後でビーチバレーやろうよ~」
「おー、時間があればいいぜ」
「オレもー」
更衣室から浜辺に出てすぐに、ちょうど隣の更衣室から出てきた女子数人と出会う。
各人、可愛い水着を身につけているのでちょっと視線のやり場に困ってしまうなぁ。
「「あちちちっ」」
当然ながら砂浜はかなりの熱さだ。
下手したら目玉焼きができるのではないかというくらい……。
ふむ、フライパンの上で焼かれる肉や卵の気持ちが分かるかも。
「いや~……。平和ですなぁ……」
先日のVT事件、その前の襲撃者事件と最近は良い事は無かったからな。
それに……元気よく泳いだり、ビーチバレーをしている女子達は太陽よりも眩しいZE☆
「どれ、桜萪。体操して泳ぎに行こうぜ」
「そだな」
2人して準備体操をしていると……。
「い、ち、か~~~~~~っ!」
「おう?──って!のわっ!」
するするっといきなり一夏に飛び乗ってきたのは鈴だった。
身軽なヤツ……こいつは猫か?
「あんたら真面目ねぇ、一生懸命体操なんかしちゃって。ほらほら、終わったんなら泳ぎに行くわよ一夏っ」
「こらこら、お前もちゃんと準備体操しろって。溺れても知らねぇぞ」
「右に同じく」
「あたしが溺れた事なんかないわよ。前世は人魚ね、多分」
そう言いながら、鈴は一夏の体をしゅるりと駆け上がって肩車の体勢になる。
絶対こいつの前世は猫か猿だ、間違いない。
「おー高い高い。遠くまでよく見えていいわ ちょっとした監視塔になれるわね、一夏」
「お~そりゃどうも。今は就職難だし、それもいいかもしれん─って、バカ!」
「監視員じゃなくて監視塔かいな……」
オレは2人を見ながら思わず突っ込んでしまった。
お前ら、夫婦漫才でもやったら?
「いいじゃん。人の役に立つじゃん」
「誰が乗るんだよ……」
「んー……あたし?」
そう言うと思ったよ猫娘。
う~ん……。
「なっ!な、な、何をしていますの!?」
「おや?」
後ろを振り向くと、手には簡単なビーチパラソルとシート、それにサンオイルを持ったセシリアがいた。
ちなみに、水着は鮮やかなブルーのビキニで腰に巻かれたパレオがちょっと優雅でかっこいい。
ついでだが、鈴の水着はスポーティーなタンキニタイプでオレンジと白のストライプでへそがでているやつだ。
「ついでって何よ、ついでって!」
あるぇ?
声にも出してないのに、心を読まれたZE☆
「え~と、何って……肩車。あるいは移動監視塔ごっこ」
「「ごっこかよ」」
「そりゃそうでしょ?あたし、ライフセーバーの資格とか持ってないし」
「う~ん、そう言われるとそうか」
「納得だな」
「わ、わたくしを無視しないでいただけます!?」
おおう、すまんセシリア。
悪気は……ないと思うから安心してくれたまえ。
「とにかく!鈴さんはそこから降りてください!」
「ヤダ」
即答かよ……。
まぁ鈴らしいな。
「な、何を子供みたいな事を言って……!」
ざくっ!とセシリアがパラソルを砂浜に刺す。
ぬぉ、なんか怒りがこもってないか?
「何々?なんか揉め事?」
「って、あー!織斑君が肩車してる!」
「ええっ!いいな~いいな~!」
「私は櫻井君にしてもらう!」
「ならば、私は織斑君よ!」
待てぇぇい!
さすがにこの人数の女子を肩車するのは体力的にも精神的にもまずいぞ。
てか、第一にする気はそもそもないよ!
「り、鈴よ……降りろ。誤解が広まる」
「ん。まぁ、仕方ないわね」
よっ、と一夏から飛び降りるとひらりと手のひらで着地して、そのまま前方返りで起立する鈴。
うん、確定だ。
こいつの前世は猫科の動物に違いない。
「鈴さん……?今のはいささかルール違反ではなくて?」
おぉ、セシリアよ。
気持ちは分かるがひとまず落ち着け。
ちなみに、オレと一夏はやってきた女子に「そういうサービスはしていません」、「交代制でも早い者勝ちでも指定でもありません」と説明するので忙しい。
鈴のせいだぞ、この野郎。
「そんな事言って、どうせセシリアだって一夏に何かサービスでもしてもらうんでしょ?じゃあいいじゃない」
「そ、それは……」
「あれ、何もしてもらわないんだ~。じゃ、あたしが……」
「し、してもらいますっ!一夏さん、早速サンオイルを塗ってください!」
「「「えっ!?」」」
あぁ、セシリアの馬鹿野郎。
今、女子達に誤解だと説明している途中だったのに~……。
「私、サンオイル取ってくる!」
「私はシートを!」
「私はパラソルを!」
「じゃあ私はサンオイル落としてくる!」
待てぇぇい!
すでに完了してるのに落としてくるな──あぁ、時すでに遅し。
海にざぶざぶ入っていってしまった。
カムバッ~ク。
だが、鈴の件で集まった女子はこれまたセシリアの件で一旦解散となった。
ふ~やれやれ。
「コホン。そ、それではお願いしますわね」
そう言ってしゅるりとパレオを脱ぐセシリア。
なんだか……色っぽいな。
「え、えーと……背中だけだよな?」
「い、一夏さんがされたいのでしたら、前も結構ですわよ?」
「ぬわにぃ一夏ぁ!貴様、まさか……!」
「ば、バカ!勘違いするな桜萪!せ、セシリア……その、背中だけで頼む」
「でしたら……」
いきなりセシリアは首の後ろで結んでいたブラの紐を解くと、水着の上から胸を押さえてシートに寝そべる。
「さ、さぁ……どうぞ?」
「お、おう」
「んじゃオレは見学」
ちょっと気になるし。
それに暇だしな。
てか……目のやり場に困る。
制服では分からないが、なかなかセシリアの奴、セクシーだ。
「じゃ、じゃあ塗るぞ」
そう言って一夏はサンオイルを手に出すと、そのままセシリアの背中に塗り始める。
「ひゃっ!?い、一夏さん、サンオイルは少し手で温めてから塗ってくださいな」
「そ、そうか、悪い。なにせこういう事をするのは初めてなんで……すまん」
「そ、そう 初めてなんですの。それでは、し、仕方ないですわね」
「「な~に、嬉しそうにしてんだよ(のよ)」」
見事に鈴とハモった。
考えている事は同じだったのか。
そんなオレ達にはお構い無しに、セシリアは目をつむって甘い吐息を出しながら気持ちよさそうにしている。
「ん……いい感じですわ 一夏さん、もっと下の方も」
「せ、背中だけでいいんだよな?」
「い、いえ、せっかくですし、手の届かないところは全部お願いします。脚と、その、お尻も」
「「うえっ!?」」
思わずオレも声を出してしまった。
一夏にとっては、サンオイルを塗るだけでも落ち着いてられないのにお尻まで触る状況はまずいだろう。
「はいはい、あたしがやったげる。ぺたぺたっと」
「きゃあっ!?り、鈴さん、何を邪魔して……つ、冷たっ!」
鈴がセシリアのサンオイルをその手にたっぷり出すと、まるでおもしろがっているかのように塗っていく。
ひとまず、救われたな一夏。
「ああもうっ!いい加減に──」
怒って体を起こすセシリア
しかし、ここで問題が1つ。
今のセシリアは……胸のビキニをしていない状態。
当然ながら、体から離れていた水着はそのまま下に落ちた。
「あ」
「きゃあぁぁっ!?」
間一髪、大事なところは見えなかったものの、セシリアは耳まで真っ赤になってうずくまる。
いや……見えたらおそらく、オレと一夏はセシリアのビットで穴だらけにされていただろう。
「あー……ごめん」
「い、今更謝ったって……鈴さん!絶対に許しませんわよ!」
「うん、じゃあ逃げる。またね」
そう言って鈴は一夏の腕を引っ張って逃亡開始。
いや~逃げ足速いなぁ。
「って、おい!オレまで巻き込むな!あぁ、まったく……セシリアすまん!その、見えてはないから、な?安心してくれ」
「な、なっ……!」
さらに赤くなったセシリアは、振り上げた拳をどうにもできずにそのままの格好で固まってしまっていた。
「まったく……人騒がせな奴だねぇ」
そんなオレは固まったセシリアの隣で途中で買ったスポーツドリンクを飲む。
「ほれ……。お前も固まってないで水着をつけないか」
「っ~~~~~~~!?」
ようやくセシリアは現実に戻り、顔を相変わらず赤くしながら下に落ちたブラをオレから見えないようにつけた。
「まぁこれでも飲んどけよ。熱中症にならないようにな」
そう言ってオレはセシリアにもう1本のスポーツドリンクを渡す。
ホントは一夏にあげようとしたやつだけど、あいつ鈴と行っちまったからな。
「あ、ありがとうございます……」
まったく……賑やかだねぇ相変わらずよぉ。
◇◆◇◆
「ふぅ~……。ちょっと休むか」
先生方に見えないところでオレはシールドソードビットを呼び出し、その上に乗って寝転んだ。
もちろん、機能はPIC以外は切ってあるから安全だ。
まぁ、バレなきゃいいだろうなのだ!
「あー!櫻井君いいなー!」
「空中で寝るなんて贅沢だ~」
「私達も!」
あ、しまった……女子の皆さんに見つかってしまった。
オレはため息をつきながら、残りのシールドソードビット7基を呼び出すと、はしゃぐ女子達の膝辺りまで持っていった。
「仲良く交換しながら使えよ~。怪我なんかしても責任持てないし」
自己責任でお願いします。
もし、オレのせいなんてされたら千冬姉にミンチにされる。
それだけはごめん被りたいわ。
「わぁ~。こりゃ良いわ~」
「眠くなる~」
オイオイ、寝たい気持ちは分かるが寝るなよ?
仲良く交換しながらなんだからな。
(え~と……ビットは乗ったら上に浮き上がる設定にしとこう)
オレは頭のブレードアンテナ型のハイパーセンサーを部分展開させると、ビットの設定をいじる。
簡単な作業だから10秒もあれば終わる……ほい完了。
「あ、桜萪。ここにいたんだ」
ふと、後ろを振り向くとそこにいたのはシャルロットと……。
「ぬぉ!?な、なんだそのバスタオルおばけは……」
なんだか珍獣発見。
バスタオル数枚で全身を頭の上から膝下まで覆い隠している。
だ、誰だこいつは……。
「ほら、出てきなってば。大丈夫だから」
「だ、だ、大丈夫かどうかは私が決める……」
「ん?今の声は……ラウラ?」
いつもの無駄に自信に満ちたラウラにしては、随分と弱々しい声だ。
シャルロットはシャルロットで何やら説得している。
はて……?
「ほーら、せっかく水着に着替えたんだから、桜萪に見てもらわないと」
「ま、待て!わ、私にも心の準備というものがあってだな……」
「もー。そんな事言ってさっきから全然出てこないじゃない。一応僕も手伝ったんだから、見る権利はあると思うよ?」
そういえば……シャルロットとラウラは同室になったらしいな。
先月はお互いにライバルで歪みあってたけど、今では普通に仲が良いみたいだ。
うむうむ、とても良い事だ。
「うーん……ラウラが出てこないなら、僕も桜萪と一夏と一緒に遊びに行こうかなぁ」
見ると、海から上がった一夏と鈴がいたが、鈴の方はセシリアとクラスの女子に旅館へと引っ張られていった。
う~ん……何があったんだあいつ?
「な、なに?」
「うん、そうしよ。桜萪、行こっ」
そう言うと、シャルロットはオレの手を取り、そのまましゅるっと腕を絡ませて一夏の元へと行こうとする。
「ま、待てっ。わ、私も行こう」
「その格好のまんまで?」
「ええい、脱げばいいのだろう、脱げば!」
ばばばっとバスタオル全てをかなぐり捨て、水着姿のラウラが現れる。
しかも……その水着が……。
「わ、笑いたければ笑うがいい……」
黒の水着で、しかもレースをふんだんにあしらったものだ。
一見するとそれはちょっと大人な下着に見え──変態かオレは!
あとは、いつも飾り気がなく伸ばしたままの髪は左右で一対のツインテールになっている。
……はっきり言います。
な、なんだこの可愛さはぁぁぁぁ!!
もじもじと落ち着かなそうにしているのも相まって余計に可愛いと思ってしまう!
「おかしなところなんてないよね、桜萪」
「お、おう。ちょっと驚いたけど、似合ってて良いと思うよラウラ」
「なっ……!?」
あれ……?
オレの感想が予想外だったのか、ラウラは顔を真っ赤にしながら驚きに一瞬たじろいだ。
「しゃ、社交辞令ならいらん……」
「お世辞じゃないって。マジで可愛いと思うぞ」
「うん。僕も可愛いって褒めてるのに全然信じてくれなくてさ。あ、ちなみに髪は僕がセットしたの。せっかくだからおしゃれしなきゃってね?」
「なるほど~。あ、シャルロットの水着も似合ってるぞ」
「ふぇっ?そ、そうかな……良かった」
シャルロットのはセパレートとワンピースの中間のような水着で、上下に分かれているそれを背中でクロスして繋げるという構造だ。
色は夏を意識したのか鮮やかなイエローだ。
しかも……正面のデザインはバランスよく膨らんだ胸の谷間を強調──ってオレのバカ!
「お?ラウラ、水着似合ってるじゃん」
「だよな一夏。普通に可愛いと思うんだけどよ?」
一夏もラウラの水着に気がついたのか早速高評価だ。
「か、可愛いっ……!?」
「おう」
オレの言葉に余計反応したラウラは、ゆでダコのように顔を真っ赤にしながら両手の指をもてあそぶ。
「おっりむらくーん、さっくらいくーん!」
「さっきの約束だよ!ビーチバレーしよ!」
「いいねいいね~。私もやる~」
「わ~、おりむーとお~ちゃんと対戦~。バキュンバキューン」
ぐあ、やられた……って、何をさせるんだのほほんさん。
その対戦ではないぞ。
「それっ。織斑君にパス」
ぺしんと叩いたサーブで一夏にボールを投げてくる。
それを一夏は受け取り周りを見た。
「じゃ、こっちはシャルとラウラと桜萪でちょうど4対4だな。うし、始めようぜ」
一夏の返事を聞いてから手早くネットを広げる女子3名、のほほんは砂の上にコートの線を引いていた。
うん、遅いZE☆
「んじゃ~お遊びルールね~。タッチは3回までで、スパイクの連発はダメ、キリのいい10点先取で1セットね」
「おう。んじゃ~そっちのサーブで」
「ど~んと打ってこい!」
ぽーんとビーチボールを放って渡す。
受け取った……え~と、櫛灘さんの目がキュピーンと光った。
むむむ、油断めさるな。
「ふっふっふっ。7月のサマーデビルと言われたこの私の実力を……見よ!」
そう言って打ってきたのはなんとジャンプサーブ!
ぬぉ……言うだけあるな!
綺麗なフォームだし、なかなかのスピードだ。
「任せて!」
そう言ってボールをカットしたのはシャルロットだった。
うむ、トスはこの私に任せたまえ。
「一夏っ!」
オレはレフトにオープントスを上げる。
「サンキュ、桜萪!はっ!」
一夏はパシンと力を加減して打ち、まずは1点を先取する。
「よっしゃ」
「ナイスだ桜萪、シャル」
「へへ~」
「サポートは任せろ」
そう言いながらオレはエンドラインまで行って構える。
「オレも……ほいさっ!」
軽めのジャンプフローターサーブを打って相手からのスパイクをレシーブする構えをする。
「えいっ!」
(来た!)
──と思って構えたがボールはこちらの予想を反し、まさかのラウラへと一直線!!
「ら、ラウラ!」
「私は……か、可愛いなど──へぶっ!?」
ボーっとしていたラウラはそのまま顔面にスパイクボールが直撃して、ぐら~っとゆっくり倒れた。
「ちょ……ラウラ?」
「だ、大丈夫か!?」
「か、かわ、可愛いと……可愛いと言われると……わ、私は……」
「だ、大丈夫かラウラ?」
オレと偶然目があって、何故か顔を赤くし涙目になるラウラ。
そして……。
「ふぁ……わあぁぁぁぁぁっ!!」
そのまま脱兎の如く目に涙を浮かべて海へと逃げてしまった。
「はっ?ちょ、ちょっとラウラ!どうしたんだ~!?」
「い、今はそっとしておこう、ね?」
「う、うん。まぁ大丈夫だとは思うが」
普段はクールで強気なラウラが、あんなに狼狽して顔を真っ赤にするなんて……。
いやぁ~、不思議ですなぁ。
◇◆◇◆
「──あ、そろそろお昼の時間か?」
ラウラが逃走してからも、オレ達はビーチバレーを約30分くらいやっていて、すっかり腹ペコだ。
「そうだね。それじゃ食べに行かない?」
「お、そうだな。一夏や皆はどうする?」
「オレも行くよ。ちょうど腹減ったしな」
「「「「同じく!」」」」
うむ、異論はないみたいだ。
素晴らしい。
「そういえば、一夏と桜萪って結局どこの部屋だったの?」
「あー、それ私も聞きたいな!」
「私も私も!」
「遊びに行くし!」
「私も~。冷たい床情報は共有しよ~」
はて……何を言っているんだこの娘は?
まぁ、それは置いといて。
「えーと、織斑先生の部屋だぞ」
「オレはその3つ奥の部屋だ」
それまでワクワクとした顔をしていた女子一同が凍りついた。
まさかのカミングアウトに思考が止まったみたい。
南無……。
「だからまぁ、遊びに来るのは危険だな」
「オレのところも微妙だ」
「そ、そうね……。で、でも織斑君と櫻井君には食事時間に会えるしね!」
「だね!わざわざ鬼の寝床に入らなくても──」
「誰が鬼だ、誰が」
こ、この口調……威圧感……まさか……。
一同、ギギギギ……と軋んだ動作で首を動かす。
「お、お、織斑先生……」
「おう」
……ん?
あの千冬姉が水着を着ているだと!?
それも、スポーティーでありながらメッシュ状にクロスした部分がセクシーさを演出している黒水着。
ラウラとは違う印象で大人な感じを見事に演出している。
「おぉ……」
それに、普段のスーツ姿からは想像しにくいが、形がしっかりと浮かんでいる胸はひいき目に見なくても大きい。
それと同時にモデルのような格好良さも兼ね備えているからかなりヤバいりら
「……一夏、桜萪、鼻の下伸びてる」
「なっ……!?しゃ、シャル?何を言ってるんだよ ははは……」
「そ、そうだぞシャルロット……あ、あはは……」
「見とれてたくせに」
「「うぐっ」」
そ、それはその……否定できません。
「そら、お前達は食堂に行って昼食でもとってこい」
「先生は?」
「私はわずかばかりの自由時間を満喫させてもらうとしよう。それに、どっかの弟が選んでくれた水着だしな」
はっは~ん。
それは一夏チョイスでしたか千冬姉よ。
なかなか一夏もいいセンス持ってんな~。
「じゃあ、オレ達は昼飯に行ってきます」
「集合時間には遅れるなよ」
「はい」
それだけ言ってオレ達はその場を後にする。
途中、放置していたシールドソードビットを千冬姉にバレないように量子化させて一夏達を追った。
「あ、ラウラ」
シャルロットがそう口にしたので後ろを振り向くと、泳いできたのか全身濡れているラウラがいた。
その銀髪からしたたり落ちる雫が太陽の光に照らされて、どこか色っぽさを感じさせる。
「お、落ち着いたかラウラ?」
「う、うむ……問題ない」
そう口では言っているが、やっぱり顔はほんのり赤かった。
結局、ラウラは昼食の時もこんな感じだった。
◇◆◇◆
時間はあっという間に過ぎ、現在は19時30分。
大広間3つを繋げた大宴会場で、オレ達は夕食を取っていた。
ちなみに、昼食を食べた後もオレとシャルロットと一夏とラウラはまた海に泳ぎに行った。
「うん、うまい!昼も夜も刺身が出るなんて豪勢だなぁ」
「そうだね。ホント、IS学園って羽振りがいいよ」
「それ言えてる。しっかし美味しいなぁ」
席は一夏の右隣がシャルロット、んでシャルロットの正面がオレだ。
補足するが今は生徒全員が浴衣姿だ。
よくは分からないが、この旅館の決まりらしい。
また、ずらりと並んだ1学年の生徒は座敷なので当然正座だ。
だが、多国籍や多民族、多宗教というのを考慮して正座ができない生徒は隣の部屋にあるテーブル席で食べている。
ラウラもそこだ。
「いや~……刺身と小鍋、それに山菜の和え物が2種類。それに赤だし味噌汁とお新香……いいな」
それも、刺身はカワハギでしかもキモつき。
高校生の飯のレベルじゃねぇぞこれは。
どこぞのお偉いさんが食べるものだと言われても納得するぞ。
「あー、うまい。しかもこのわさび、本わさじゃないか。すげぇな、おい」
「本わさなんて久しぶりだぞ」
「本わさ?」
「あぁ、シャルロットは知らないのか?」
「本物のわさびをおろしたやつを本わさって言うんだよ」
「えっ?じゃあ、学園の刺身定食でついているのって……」
「あれは練りわさ。原料はワサビダイコンとかセイヨウワサビとかいうやつだったと思う」
「着色したり、合成したりして見た目と色を似せてあるんだ」
「ふぅん。じゃあこれが本当のわさびなんだ?」
「そう でも練りわさでも最近のはおいしいのが多いぞ。店によっては本わさと練りわさを混ぜて出すとこもあるしな」
「そうなんだ~。はむ」
……待てぇぇい。
し、シャルロットさん?今わさびの山食べなかったですか?
「っ~~~~~~~~!!」
案の定、鼻を押さえて涙目になるシャルロット。
な、何をしているんだよ……。
「「だ、大丈夫か?」」
「ら、らいひょうぶ……ふ、風味があっておいひい……よ?」
どこまで優等生なんだ。
ある意味関心するぞこのお方には。
「ほ、ほら。お茶飲めよ」
「あ、ありがと。んぐんぐ」
シャルロットは一夏からお茶をもらうと、一気に飲み干した。
わさびの山を食べるとは……チャレンジャーだなシャルロットよ。
「っ……う……」
……さっきからセシリアがずっと一夏の左隣でうめいている。
どうやら正座が苦手の様だ。
一向に食事が進んでない。
「大丈夫か?セシリア。顔色悪いぞ」
「だ……ぃ……じょ……ぶ、です……わ……」
どこがじゃ。
思いっきりプルプルしてるジャマイカ。
「い、ぃただき……ますわ……」
そう言って箸を手にして、味噌汁を飲もうとするが苦労している。
「お、おいしい……ですわ、ね……」
……うん、おいしいねセシリア。
けどそんな辛そうな表情で言われても……。
「セシリア、正座が無理ならテーブル席にしたらどうだ?」
一夏もセシリアを心配して促す。
オレもそれがいいと思う。
「へ、平気ですわ……この席を獲得するのにかかった労力に比べれば、このくらい……」
……あぁ、なるほど。
どうやらオレと一夏の知らないところで席争いがあったみたいだな。
セシリアよ、乙っ。
「一夏、女の子には色々あるんだよ」
「そうなのか」
「そうなの」
おぉ、シャルロットよ。
やっとわさびから復活したか。
(あ……そういえば、箒はどこに?)
昼間もいつものじゃじゃ馬メンバーの中にいなかったし……あ、いた。
ちょうど向かいの奥に座っている。
うむうむ、さすが剣術道場の娘だ。
しっかりと背筋が伸びた正座で食事をしている。
(ふむ……あんまり見ていたら気づくからな 食事に戻るとしよう)
「あ、織斑君。やっほ~」
どうやら一夏も箒の事が気になって見ていたらしい。
一夏の視線に気づいた箒の隣の席の女子が手を振り……箒は一夏を睨んだ。
うん、食事は楽しく食べようではないか。
「う……、くぅ……」
そしてセシリアよ。
君は限界ではないのかね?
さっきから2回も刺身を取り損なっているぞ。
「「セシリア」」
「移動は、しませんわ」
あぁ、交渉の余地は無さそうだ。
「しかし、食事が進まないだろ 食べさせてやろうか?前にシャルに──」
「い、一夏っ!」
「す、すまん」
あぁ、そうだった。
あの夜、シャルロットは一夏に食べさせてもらったんだった。
しかも、その時は箸がうまく使えなかったから恥ずかしいに決まっている。
バカ一夏。
「い、一夏さん、今のは本当ですの!?」
あーあー、知らねぇぞオレは。
「えーと、あの時シャルは体調が──」
「シャルロットさんの事はいいんです!そ、その!食事を、食べさせてくれるというのは……!」
(((そ、そっちですか?)))
どうやら思った事は同じらしい。
しかし、セシリアは目をキラキラさせて一夏を見てくる。
「う、うん?別にいいぞ。足のしびれがとれるのを待っていたら料理が冷めるだろ。それに刺身はカワハギだぞ?鮮度が落ちたらもったいない」
「そ、そうですわね!えぇ、えぇ!せっかくの料理が傷んでは、シェフに申し訳ありませんものね!」
うん、言っている事は素晴らしいぞセシリア。
だが、そんな事よりもはやく食べさせてっていう方が強く感じるのは気のせいか?
「で、では。お願いしますわ」
そう言って一夏に箸を預けるセシリア。
それを受け取った一夏は、早速刺身を1切れつまむ。
「セシリア、わさびは平気だったか?」
「わ、わさびは少量で……」
どうやら苦手みたいだ。
この辛みと香りがいいのになぁ。
「じゃあ」
「は、はい。あーん……んむんむ……お、おいしいですわ」
満足そうにしていたセシリアだったが、それがまずかった。
「あああーっ!セシリアずるいよ!」
「織斑君に食べさせてもらってる!卑怯者!」
「ずるい!インチキ!イカサマ!何様!」
殿様!……じゃなくて。
他の女子にばっちり目撃された。
そりゃ当たり前だよな。
「ず、ずるくはありませんわ。席が隣の特権です」
「それがずるいって言ってんの!」
「織斑君、私も!」
「櫻井君、お願い!」
そう言いながら、自分にも食べさせて欲しいと押し寄せる。
ちょっと待てぇぇい!
オレを巻き込むなオレを!
「早く早く!」
「あーん!」
沢山の口、口、口……。
えぇい、お前らは雛鳥かー!
「お前達は静かに食事する事ができんのか」
その声に場の全員が凍りつく。
うむ……間違いない。
「お、織斑先生……」
「どうにも、体力が有り余っているようだな……よかろう。それでは今から砂浜をランニングしてこい。距離は……そうだな、50㎞もあれば十分だろう」
「いえいえいえ!とんでもないです!大人しく食べます!」
そう言って女子一同は各自の席に戻っていく。
それを確認してから、千冬姉は一夏とオレを見た。
「織斑、櫻井、あまり騒動を起こすな。鎮めるのが面倒だ」
「「わ、分かりました」」
ちょっと待てぇぇい!
オレは巻き込まれたんだぞ。
よって悪くないぞ千冬姉。
「というわけでセシリア、悪いけど自分で──」
「………………」
わぉ、すごい膨れっ面してるよ。
そう……ぷく~~~~って効果音があうな、うん。
「あのだな、ええと……」
「えぇ、えぇ、分かっていますわ。一夏さんはお姉さんが大切ですものね」
ありゃ~、すっかりご立腹のご様子だ。
「お、そうだ」
何やら閃いたらしく、一夏はセシリアに耳打ちする。
うん、何を言っているのか聞こえないなチクショウ。
「はい!分かりました!じゅ、準備がありますので少々時間をいただきますが、必ず」
じゅ、準備とな?
はて……一夏は何を言ったんだ?
「あぁ、何を食べても美味ですわ!」
おぉ、なんかセシリア復活した。
足のしびれがとれたんだろうか?
(ふむ……まぁいいか。それはそうとまだいけそうだなぁ)
その後もオレは周りの女子から「食べきれないから良かったら食べて」という事で刺身や鍋を貰った。
ごちそうさま~。
◇◆◇◆
「ふ~、気持ち良かった~」
はい、大浴場に行ってきましたよ。
いや~贅沢だな。
普通の高校じゃこうはいかないな。
「さて……暇だしマンガでも読んでるかな」
オレはボストンバックからマンガ数冊を取り出すと、もう敷いてあった布団の上で横になりながら読み始める。
「いや~、開放的でいいや~」
女子軍団が来ないおかげで、ゆっくりと自分の時間を過ごす事ができる。
すると──。
コンコン。
「ん?ど~ぞ~」
ゆっくりと襖を開けて現れたのは……。
「あんた何を読んでんの?エロ本?」
鈴とシャルロットだった
……って、待てぇぇい!
「ドアホー!んなもん読むかボケ!てか、そもそも持ってないわ!」
「ふーん、まぁ興味ないけどね」
なら聞くなよ……。
「で、何の用だ?」
「お、織斑先生が呼んでこいって。僕達も含めて」
「千冬姉が?ふーん……なんだろ?」
ちょっと疑問に思いながらオレは鈴とシャルロットと一緒に、千冬姉と一夏の部屋に向かった。
すると、部屋に到着した瞬間に異様な光景を目の当たりにした。
「……何やってんだお前ら?」
はい、箒とラウラが襖に張り付いていたのですよ。
なして?
「「シッ!!」」
箒とラウラが同時に人差し指を口元におきながら言う。
はて……?
『ん……ふぁ……あっ……』
『大丈夫かセシリア?痛くないか?』
『はぁぁ……。大丈夫ですわ……気持ちいい……』
『まぁ、昔から千冬姉にしてたしな……』
………………はい?
「な、なんだ……?」
いつの間にか、オレも鈴もシャルロットも襖に張り付いて中の会話を聞いていた。
『おー、マセガキめ』
ん!?千冬姉もいるのか!!
『しかし、歳不相応の下着だな。そのうえ黒か』
『え……きゃあぁぁぁっ!?』
な、中では何がおきているんだ!?
てか、聞いてる皆顔真っ赤だし。
え?もちろんオレもだけど何か?
『せ、せっ、先生!?離してください!』
『やれやれ。教師の前で淫行を期待するなよ、15歳』
「「「「「い、い、いっ、いんこっ……!?」」」」
な、なんなんだ一体!?
パニックやー!!
『冗談だ。おい聞き耳を立ててる5人、そろそろ入ってこい』
ぎくっぎくっぎくっぎくっぎくっ。
「「「「「………………」」」」」
オレ達はお互いの顔を見ると、ゆっくりと襖を開けて中に入っていく。
「一夏、マッサージはもういいだろう。ほれ、全員座れ」
ちょいちょいと千冬姉に手招きされたので、オレ達はどぎまぎしながらも千冬姉の前に座る。
「ふー。さすがに2人連続は汗かくな」
「手を抜かないからだ。少しは要領よくやればいい」
「いや、そりゃせっかく時間を割いてくれている相手に失礼だよ」
「ふ……愚直だな」
「千冬姉、たまには褒めてくれてもいいじゃん」
「どうだか」
……やっと状況が飲み込めた。
つまり、今しがた盗み聞きしていたセシリア達の会話はマッサージをしていただけなのだと。
「はぁ……心臓に悪い」
「は、はは……はぁ」
「ま、まぁ、あたしは分かってたけどね」
脱力する箒とオレ、妙に強がりを見せる鈴。
「「………………」」
そして、色々と『具体的な』想像をしていたらしいシャルロットとラウラは、真っ赤になって俯いていた。
想像力豊かだな~お前ら。
「まぁ、お前はもう一度風呂にでも行ってこい。部屋を汗臭くされては困る」
「ん、そうするよ」
千冬姉の言葉に頷いた一夏は、タオルと着替えを持って部屋を出ていった。
「………………」
一気に部屋を支配する沈黙。
き、気まずいッス。
「どうした?いつものバカ騒ぎはどうした」
「い、いえ、その……」
「お、織斑先生とこうして話すのは、えぇと……」
「はじめてですし……」
「騒げないっしょ?」
「まったく、しょうがないな。私が飲み物を奢ってやろう。篠ノ之、何が飲みたい?」
いきなり名前を呼ばれた箒はびくっと肩をすくませる。
言葉がなかなか出てこないでいると、千冬姉は旅館備え付けの冷蔵庫を開け、中から清涼飲料水を6人分取り出していく。
「ほれ。ミルクティーとラムネとオレンジとスポーツドリンクにコーヒー、紅茶だ。それぞれ他のがいいやつは各人で交換しろ」
だが、順番にオレ・箒・シャルロット・鈴・ラウラ・セシリアと受け取った全員が渡されたもので満足だったので交換はしなかった。
「「「「「「い、いただきます」」」」」」
全員が同じ言葉を口にして、そして次に飲み物を口にする。
すると、千冬姉はニヤリと笑った。
「飲んだな?」
「え?飲んだよ」
「そ、そりゃ飲みましたけど……」
「な、何か入っていましたの!?」
「失礼な事を言うなバカ。な~に、ちょっとした口封じだ」
そう言って千冬姉が新たに冷蔵庫から取り出したのは……なんとビールだった。
プシュッ!と景気のいい音を立てて飛沫と泡が飛び出す。
それを千冬姉は唇で受け取ってゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んだ。
「……マジすか?」
全員が唖然としている中、千冬姉は立て膝をついて上機嫌なご様子だ。
「ふむ。本当なら一夏に一品作らせるところなんだが……それは我慢するか」
オレはともかく、他の5人は信じられないだろう。
だって、いつも規則と規律に正しく全面厳戒態勢の『織斑先生』と目の前の人物とが一致してないもんな。
特にラウラ……お前の気持ちは分かるよ。
「おかしな顔をするな。私だって人間だ、酒くらいは飲むさ。それとも、私は潤滑油でも飲む物体に見えるか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「ないですけど……」
「でも、その、今は……」
「仕事中なんじゃないのか、千冬姉?」
相変わらずラウラはポカンとしている。
「堅いことを言うな。それに、もう口止め料は払ったぞ」
そう言ってニヤリとした千冬姉は、オレ達の手元を流し見る。
……なるほど、うまい事やったなあんた。
「さて、前座はこのくらいでいいだろう。そろそろ肝心な話をするか」
そう言って千冬姉は2本目のビールを飲み始める。
「お前ら、あいつのどこがいいんだ?ラウラは別として」
そう言われたラウラはちょっとドキッとしたようだ。
あいつ、というのは一夏しかいないだろう
オレの場合だったらこいつ、又は桜萪だろうしな。
「わ、私は別に……以前より腕が落ちているのが腹だたしいだけですので」
そう言いながらラムネを飲む箒。
嘘つきがいる。
「あたしは、腐れ縁なだけだし……」
スポーツドリンクのフチをなぞりながら、モゴモゴ言う鈴。
また嘘つきがいる。
「わ、わたくしはクラス代表としてしっかりしてほしいだけです」
何があったのかツンツンした態度で答えるセシリア。
またまた嘘つきがいる。
「ふむ、そうか。ではそう一夏に伝えておこう」
しれっと爆弾発言をした千冬姉に、3人はぎょっとする。
「「「言わなくていいです!」」」
その様子をはっはっはっと笑い声で一蹴して、千冬姉はまたビールを飲む。
もう酔ってるのか千冬姉は。
「僕……あの、私は……優しいところ、です……」
ぽつりとそう言ったのはシャルロットだ。
「ほう。しかしなぁ、あいつは誰にでも優しいぞ」
「そ、そうですね……そこがちょっと、悔しいかなぁ」
あははと照れ笑いをしながら、熱くなった頬をぱたぱたと扇ぐシャルロット。
それを前述3人はじーっと押し黙ってシャルロットを見つめる。
……てかさっきから気にしていたんだけどさ。
「時に千冬姉よ。オレここにいていいの?ガールズトーク普通に聞いちゃってるんだけど……」
「別に私は気にしない。他のやつらがどう思っているかは知らんがな」
うぐ……確かに。
「わ、私は……別に聞かれても恥ずかしい事は言っていない」
「一夏に言わなければ大丈夫だし」
「桜萪さんはどことなく女性のような感じと女性心が分かるような気がするので、特に気にはしませんわ」
「僕もあんまり気にしないかな?」
「そ、そうか──って、女性のような感じとな……?」
それはそれでショックだぞセシリア。
まぁ女性心は一夏よりは分かると自分で自負しているとこはあるが……。
「そう落ち込むな桜萪。さて、次はラウラだな。お前は桜萪のどこがいいんだ?」
うっ……いざ自分となるとなんか緊張するな。
「わ、私は……強さと逞しさ、でしょうか……」
「いや、弱いし逞しくないだろ」
ぐはぁ、千冬姉よ。
それは本人の目の前でズバッと言うのは鬼だぞ。
けれど、ラウラは珍しく千冬姉に食ってかかった。
「そ、そんな事ないです。あの時……私と一夏を守ってくれたので……。あとは、優しいですし……」
そう言ってラウラは赤面しながら、オレをチラッと見つめる。
「あ、ありがと……」
「う、うむ……」
そんなオレ達をシャルロット以外の3人がジト目で見てくる。
あ、あれ、オレなんかまずいことしたか?
「まぁ、桜萪の事は分かった。あとは、あいつは役に立つぞ。家事も料理もなかなかだし、マッサージもうまい。もちろん桜萪もだぞラウラ」
「は、はい」
一応、料理は好きだったから一夏や千冬姉のを見て覚えた。
それに、束と世界を放浪中の時もオレが食事担当だから作っているうちに、得意になったしね。
家事は性格的に綺麗好きだしな~。
「という訳で、付き合える女は得だな。どうだ、欲しいか?」
ラウラ以外の4人が身を乗り出して尋ねる
「「「「く、くれるんですか!?」」」」
「やるかバカ」
「「「「えぇ~……」」」」
千冬姉も手厳しいな。
「女ならな、奪うくらいの気持ちで行かなくてどうする 自分を磨けよガキども」
そう言って千冬姉は、実に楽しそうな表情で3本目のビールを飲んだ。
(強さと逞しさ……か……)
そう心の中で呟きながらミルクティーを静かに飲むのオレなのであった。
さて、ここまで平和なパートが続いておりましたが、次からはいよいよ戦闘シーンのある話へといきます。
あのお方もようやく……。