「ふあぁ・・・んんぅ」
窓辺の席って、最っ高♡
暖かな日の光に包まれ眠る私ーーシエル・コルテスは入学ということで場が静まらない教室でただ一人机に突っ伏して寝ていた。
最初はこれから共にする学友たちに挨拶をと思ったのだが、この快適な状態を崩してまで行うほど重要性は感じられない。
というわけで、
「ふぅむ・・・もう一眠りっと」
眠ろう。うん。
意思を固めた私が夢魔に意識を持っていかれそうになった瞬間、
「そろそろ、起きたほうがいいのでは?」
背後から抑揚のない声が聞こえてきた。
私に言ってるのかな。
一応ゆっくりと上半身を起こし、後ろの席へと視線を移す。そこには一人の女の子がこちらをじっと見つめていた。一瞬で目につく綺麗な銀髪、まだ幼さの残る人形のような整った顔立ち。
うわぁ、綺麗な子だな。私が男だったら一瞬で一目惚れしてたかも。
私が振り返って数刻、自分の顔をまじまじと見られていた少女は少し困惑したような表情を見せ、
「私の顔になにかついていますか?」
「うんん、ただ可愛い子だなーって見惚れてただけだよ」
「んっ・・・そ、そうですか」
私の返答に一瞬少女は顔を強張らせるが、またすぐに無表情のような顔つきに戻った。
「しっかし、面白くなりそうだな」
辺りを見回していたら、ついふと言葉をもらした。
「面白く、ですか?」
私の発言に、少女は怪訝そうな表情を浮かべる。
「だってさ、見るからに不良そうな子やどこかの令嬢っぽさがある子、君のようにちょっとばかり年が違う子までいる。それだけで、普通とは思えない気がしてね」
「確かに、普通ではないという点では同意しますね」
少女が納得したように軽く頷く。さらに私をじっと見つめ、
「普通ではないと言えば、貴方もそう感じるのですが」
「私が? どうしてかな?」
私の疑問に少女はなにか考え込むような動作をはさんだが、
「いえ、やはり気にしないでください」
焦らされたほうが気になるけど、まあいいや。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私はシエル。シエル・コルテス」
「アルティナ・オライオンです」
私の紹介の後、少女もまた続くように自己紹介を済ます。
アルティナ、か。じゃあ、
「アーたんだね」
「どうしてそうなるのですか」
自身につけられたあだ名に、明らかに不満げな表情を見せるアルティナ。
「え、だって可愛いじゃん」
「可愛いかどうかは別として、アーたんというのは少しばかりーー」
キーーーン
アルティナが言い終わるよりはやく、アナウンスはじめの音が教室に鳴り響く。そしてその音が鳴り止むと、可愛らしい声音をした女性が連絡事項を述べてきた。
校舎を出てすぐにある校庭に集まるようにと。
「どうやら時間のようですね」
アナウンスを聞き終わったアルティナが席を立ち、私もつられて立ち上がる。周りの生徒たちも各々に席を立つと、話し声まじりに校庭へと向かう。私も皆の最後尾で歩くアルティナの隣に並び、彼女と些細な会話をしながら列に続く。
創設されたばかりの学園ということもあり、校庭もまたかなり整備されたかのような場となっている。地はすべてコンクリートで埋められており、校庭の端には巨大な格納庫が設けられている。
その中央付近で二列に並んだ生徒たちの後方端に並んだ私は、改めて学友となる生徒たちを確認する。後列の反対側では、先ほどの教室に遅れて入ってきた金髪の女の子が、不安を隠しきれていないのかそわそわとした様子で周囲を見回している。その隣では、腕組みをした水色の髪の少年がじっとしている。そのさらに隣の黒髪の少女もまたじっと校舎や他の建物を見つめている。
「いつまで待たされるんだろ。こんな右も左もわからない雛たちを残して、先生たちはなにをしてるんだろ?」
「といっても、着いてから少ししか経っていませんが」
私の呟きに、ななめ前に立つアルティナが答える。
まあ、そうなんだけど。寝起きの私にとって、(弱)炎天下の中で立ち続けるのはつらいところがある。
うぅ、もうそろそろ体力低下を自覚する頃合いかな。
そう内心で複雑な思いを巡らせていると、本校舎に続く坂道にふと幾人かの人影が見えた。
周りの生徒たちも彼らに気づきだし、何人かはその人影の正体に驚きを隠せないでいる。
「ウソだろ・・・?」
「なんでこんな所に・・・」
「それを言うなら《黄金の羅刹》がどうして・・・」
まあ、あの面子ならそうなるかな。特に、名だたる軍神と英雄様ときたらね。
教官陣と思わしき数人が生徒たちの目前で立ち止まると、彼らの少し前を歩いていた金髪の男性がこちらに振り向き、
「静粛に! 許可なく囀るな!」
と、厳しい声音で告げてくる。
まさに軍の人間って感じ。苦手一直線だなー。
たった一声で静寂と化した生徒たちを確認し、手を後ろで組んだ男性が続ける。
「これよりトールズ士官学院、《第II分校》の入学式を執り行う! 略式のため式辞・答辞は省略、クラス分けを発表する!」
クラス分けか。学園人生を左右する重要ごとだよね。
軍人一色の男性の声に耳を傾けつつ他の教官に目を向けると、端に立っていた黒髪の青年がやたらとこちらに視線を向けてきていた。
いや、私じゃないな。彼の目の方向を的確に捉えれば・・・アーたんか。
まさか、私と同じく一目惚れって線。強大なライバル登場って感じかな。
一人勝手に対抗意識を燃やす私とは裏腹に、ライバル(?)の彼がアルティナに向ける眼差しはどこか異様な感じだった。
その後、着々と式は流れ、赤毛の青年が担当する《VIII組・戦術科》、小柄な少女が担当する《IX組・主計科》の二クラスが発表され、それぞれに属する生徒たちの名も告げられた。
私とアーたん、そして二人の少年少女を除いて。
それぞれの担当教官のもとに幾人かの生徒たちが集い、呼ばれなかった私たちが若干唖然としているとまたも金髪の男性が式の流れを継続させる。
「これより本分校を預かる分校長からのお言葉がある。では分校長、お願いします」
彼の言葉に呼応するように返答した女性が、一歩前へと歩み出る。
どこか凄みのある雰囲気を放つ女性に皆の視線が集まる。
彼女の象徴の一つである大剣をなくしてこの威武堂々とした佇まい、まさに牙を隠した獅子。さすが、内戦では常勝無敗を成しあの侵攻を完遂させた鬼将軍なだけはあるね。
目の前に立つ女性の武勲を思い出していると、生徒の全員を見回した彼女が、
「《第II》の分校長となったオーレリア・ルグィンである」
と、自身の立場と名を告げる。
「あまり時間がないゆえ、私からは一つ確と言えることを教えよう」
オーレリアの言葉に金髪の男性が怪訝な表情を浮かべるよりはやく、彼女が言い放った言葉に生徒のみならず教官陣も驚きの表情を見せた。
この第II分校が"捨て石"であると。
シエル「ねえねえアーたん、"双六"って知ってる?」
アルティナ「スゴロクですか、残念ながら聞きなれない言葉ですね。それがどうしたのですか?」
シエル「いやね、このあいだ東方のほうに出向いた気性の荒いサングラスの"お友達"にお土産を頼んで買ってきてくれたんだ」
アルティナ「気性の荒い、サングラス?」
シエル「このどでかい紙とサイコロ、あとこのちっちゃな駒がセットの玩具らしいんだけど、どうやって遊ぶものなのかな?」
アルティナ「ここに説明書が同封してあります・・・・・・"駒はあなたの化身です。このサイコロをふって出た数だけ本紙のマスを進めます。サイコロは一人一回順番にふり、マス目に書かれたお題をクリアするまで進めません"。なかなかに興味深い玩具ですね」
シエル「それに、駒が四つあるってことはみんなで遊べそうだね」
アルティナ「ええ、そのようです。一人で一駒を用いた一般の対戦形式と、二人一駒となる協力形式の二つがありますね」
シエル「まだ私たちしかいないけど、そのうちみんな集まったら大賑わいで遊べそうだね」
アルティナ「ミリアムさんなら我先にと聞きつけて駆けつけてきそうではありますが」
シエル「あはは、まああの人なら確かにあり得そうかな」
アルティナ「しかし、みなさんで遊ぶというからには私たちだけでもルールを把握しておく必要がありますね」
シエル「うん、そうだね。やるからには勝たせてもらうよ」
アルティナ「こちらも負けるつもりはありませんので、お手柔らかにお願いします」
続きはvol.2の後書きにて