エイミーの優しい魔法   作:春川レイ

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騒がしい日々

 

 

 

「なんとおっしゃいましたかな……?」

セブルス・スネイプは目の前に立つ二人の人物を見て、聞き直した。一人は同僚でハッフルパフの寮監、スプラウト教授。もう一人はハッフルパフの1年生、ハンナ・アボットだった。二人とも顔色がよくない。ハンナ・アボットはスネイプに訴えを繰り返した。

「スネイプ先生。胃薬を調合してください。私とスプラウト先生に」

 

 

 

 

 

 

ハンナのホグワーツでの初めての日々は楽しかった。授業は面白いし、上級生は優しい。魔法を自分の手で扱えるなんてワクワクする。しかし――――

「私は何年もこの学校で様々な生徒を指導してきました。ほとんどの生徒は最初はなかなか魔法をうまく使えません。たくさんの努力をして、多くの知識を吸収し、理論を理解し、そしてはじめて魔法は成功するのです。ええ、そうですとも。マッチ棒を針に変えられなくても結構です。ほとんどの生徒は最初の課題にそれを行います。中には1回目で成功する生徒ももちろんいます。しかし、それはかなりの才能をもったほんの一部の生徒です。大体はマッチ棒をそのまま何も変えられず授業は終わってしまいます。」

マクゴナガルは大きなため息をついた。

「…………それなのに、ミス・ポピンズ。あなたはなぜ、針をすっ飛ばしてマッチ棒をハリネズミに変えてしまうのです?」

エイミーは可愛らしいハリネズミを手のひらにちょこんと乗せたまま、首をかしげた。

エイミーの不思議さはたちまちハッフルパフの生徒達に広まった。エイミーが自分の杖を振るうと必ずおかしな事が起きるのだ。何も呪文を唱えないのに、少し振っただけでマッチ棒がハリネズミに変身した。『呪文学』の授業では、なぜか教室中の机や椅子、フリットウィック先生や生徒達が浮かび上がった。『薬草学』の授業では植物に杖で触れただけなのに、植物があり得ない急成長を成し遂げた。その他数えきれないほどおかしな出来事が勃発し、その中心には必ずエイミーがいるのだ。

杖に触れなくても、エイミーは必ず不思議な行動を起こした。大広間に手紙を届けに来るフクロウに話しかけた時はギョッとした。

「まあ、素敵な瞳と羽根のフクロウさん。お名前はなんと言うの?コーンフレークはいかが?」

驚いた事にフクロウはエイミーの前に停まると、まるでエイミーに答えるかのようにホウホウと何事か鳴いていた。

「素敵なお名前ね!手紙を届けたあとなのね。今から休み?まあ、デートをするの?」

まるでエイミーとフクロウは話が通じ合っているように朝食の間話し込んでいた。ハッフルパフの生徒達は遠巻きに眺めていた。

また、ある時はハンナが寮に帰ってくると、部屋の中から大きな笑い声が聞こえた。エイミーの声だ。部屋を開けても、エイミーの姿は見えず、声が上から聞こえたため、ハンナは天井を見上げて驚いた。エイミーが本を手に持ち、笑いながらふわふわ浮いていたのだ。

「エイミー!?どうしたの!?」

「あら、ハンナ。お帰りなさい。ジャスティンから借りた本がとってもおかしくて、思わず浮いてしまいました。ああ、笑いが止まらないわ!」

なぜ笑うと空中に浮かぶのか、なぜ杖も箒もなしで空中に浮かべるのか。たくさんの疑問が浮かんだが、考えるのがもはや馬鹿馬鹿しくなりつつあった。その後、数分で笑いの波は治まり、エイミーはゆっくりとベッドに降りてきた。

 

 

 

 

 

「……胃が痛い」

ハンナはスネイプからもらった胃薬を口に放り込んだ。授業で何かがある度、ハンナがエイミーのフォローをしている。最近ではいろんな生徒や教師達にまでエイミーのお世話係のような目で見られている気がする。また、エイミーが何かを起こすと寮監のスプラウト先生もその対応に追われていた。二人は最近、エイミーの事でどうすればいいか話し合うようになり、やがてスプラウトの部屋でお茶を飲むようになり、教師と生徒というよりはお茶友達のような関係になっていた。

「ハンナ、大丈夫?」

「……うん」

同じハッフルパフの1年生、スーザン・ボーンズがハリネズミを撫でながら、ハンナの方を心配そうに見てきた。ちなみにこのハリネズミはエイミーによって変身させられた元マッチ棒である。ジョン・スミスと適当すぎる名前を付けられたハリネズミはハッフルパフ生徒の共通のペットとなっていた。

「あまり思い悩まないほうがいいわ。エイミーだったらなんだかんだで自分でどうにかするじゃない」

「……でも心配なの」

そう。別にハンナが何かをせずとも、エイミーは結局自分でやったことはどうにかして最後には始末をつけるのだ。不思議な事を起こす常習犯ではあるが、別に人に怪我をさせたり、迷惑はかけてはいない。起こした騒動で寮から多少減点されたが、今のところ罰則を受けたり、大きな減点はないのだ。

明日はハンナが何よりも心配な飛行訓練である。エイミーが箒に乗ると何が起きるか分からない。ハンナは明日の授業を思い、顔をますます青くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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