ダンジョンに智慧を求めるのは間違っているだろうか 作:冒涜アメンボ
ミコラーシュシャツ?罰ゲームかな?
「オラッ!
「魔剣も用意しなさい!なんなら古区画ごとぶっとばせるだけ持ってくわよ!」
アシュラ・ファミリアはこれからファミリア同士の抗争でもするのかというくらい物々しい雰囲気だった。アシュラ・ファミリア本拠地に戻って数分後、全員で武装し古工業区に殴りこむことが決まったからだ。決まった、というより団長のBBは最初からその腹積もりだったようだ。
「しかし、ガネーシャ・ファミリアが連中と戦闘したのは昨日の話なんですよね。まだ居ますかね」
「馬鹿やないやろし、もうどっか失せとるやろ」
「え、じゃあなんでこんな」
「ま、ちょっとしたアピールや」
「アピールって、何に対してですか」
「
BBは葵に明確な答を提示せずに団員たちに向き直った。
「おう、用意できたか」
「いつでもいけますぜ」
「よっしゃ、
物騒な遠足がはじまるよ!
「もう、暫くは地上に出られそうにないよ」
「何で!?」
ミコラーシュの突然の言葉にバルザックは気色ばんだ。
「さっきガネーシャ・ファミリアの団長とやりあってね」
「なに!?」
「レベル5を一人殺したはいいが、こちらもコッコリスを殺されてしまったよ」
「なん……だと……?」
「突然のことだったから私も彼を助けることができなかった。すまない」
「……!」
しおらしく頭を下げるミコラーシュを前に、バルザックもヘルゼーエンも言葉を続けることができなかった。
「おいおいミスタ・ミコラーシュ、情報が多すぎて二人とも固まってしまったぞ」
小汚いフードを深くかぶった男──ジェイが笑いを堪えて言った。
「ヘルゼーエン、一体なにがどうなってるんだ?」
「俺にもわからん……アジトでイツァムナー様と今後の方針を練っていたらこいつがいきなり鏡から飛び出してきた。そしていきなり『逃げるぞ!』なんて言いやがる。訳を聞いても『後で説明する』としか言わないし、仕方なくこうやって
「……なら、うちの神サマは?」
「いきなりバベルに向かっちまった。俺が止めるのも聞かないで」
「あのあたりはガネーシャ・ファミリアの団員がうろうろしていたから捕まったかもしれないねえ。とはいえ、彼らも仲間の治療のために撤退したかもしれないが」
「……」
バルザックは目をかたく瞑り、目頭を揉んでいる。色々大変そうだ。正義の味方の襲撃を待たずに心労で死んでしまうかもれない。
「ひとつ訊いていいか?ミスタ・ミコラーシュ?」
「どうぞ、ジェイくん」
「貴公が殺したレベル5というのは誰だ?」
「狼人の男さ。名前は知らんよ。コッコリスが『あいつらみんなレベル5だ』と言っていただけさ」
「……【
「どうにもならなくてね、尻尾を巻いて逃げてきたよ」
ミコラーシュは肩をすくめた。
バルザックはしばらく固まっていたが、やがて立ち上がり「少し相談してくる」とヘルゼーエンを連れて
「おやおや、仲間はずれかね。私はともかく、君はイツァムナー・ファミリアのメンバーだろう?」
「ギルドの登記上はな。彼らにしたら私などただの風来坊さ。信用に値しないだろう」
ジェイは言って、懐から巨大な青白いものを取り出した。肉を食べ終わったあとのフライドチキンのような形*1をしている。これも狩人の仕掛け武器なのだろうか?しかし、見ているだけで頭の奥がちくちくしてくるのはどういうことか。
ジェイがフライドチキンの骨を振ると、関節らしきものが転回して伸びた。気持ち悪い。
ミコラーシュが汚いものを見る目でフライドチキンを振り回す不審人物を見ていると、ジェイが切り出した。
「で、実際のところはどうだった?レベル5は」
ファミリアの二人がいなくなった途端、墓暴きの狩人は気取った言い方をやめ、ぞんざいな口調になった。
「殺すだけなら不意を衝けば問題ない。君の
「ほう」
「ただ、正面切ってやりあうのは無理だね。実を言うとだね、この
「道理で。貴様の纏う空気、私の記憶にある貴様を遥かに上回る気持ち悪さだと思っていた……しかし、殺されたのならば何故生きている?」
「
「……」
「この世界で数日暮らしてわかった。レベルの低い者も高い者も同じだ。真実……世界の隠された裏側に触れる力が無いし、見ることも叶わない。故に遅れをとっても殺され切ることはないだろうと踏んだのだが、事実そうだったよ」
ミコラーシュの言葉を聞き、ジェイはにやりと笑った。
「そうだ。彼らは『啓蒙』を得ていない。彼らがというより、彼らに力を与えているはずのこの世界の神たちが持ち合わせていない。天界に置いてきたのか、元から無いのかは知らないが」
「……実際には
「特になにも。彼も訊いてはこなかった。未知こそが娯楽という馳走のスパイスになると言っていたくらいだ」
「やれやれ。彼の本当の
バルザックもヘルゼーエンも、そして死んだコッコリスも、彼らなりの思想を持ち合わせている。それについて深い質問をしたことはないが、彼らは自分の思想に対してはいたって真面目なようだった。そこにどこの馬の骨ともわからない輩を放り込んで楽しむとは……
「ま、どうでもいいがね」
興味もない。
最初こそ「神が力を与える」という話には興味を持ったが、ただの身体強化の粋を出ないのならば、かつて、とある同胞が手に入れた『獣の抱擁』と大差が無い。
そして、高次元の思考を求めもせずに、地べたに這いつくばり泥臭い思想に拘泥する愚かな
会話も終わり、再びジェイがフライドチキンを振り回すだけの時間が訪れる。
そこへ、相談が終わったのかバルザックとヘルゼーエンが戻ってきた。
「う゛わ゛!なにしてるんだお前!?」
「暇潰しだ」
「あ、そう……」
伸びるフライドチキンの骨に驚くヘルゼーエンを尻目に、ミコラーシュはバルザックに訊く。
「今後の活動方針は決まったかね?」
「ああ。俺たちの主神がバベルに向かったなら、他の神たちと話をするのが目的のはずだ。
つまりは何もわからないから何も決められないし、他人を頼るしかないというわけだ。あれだけ自分たち以外の
しかし、他の
「俺たちはまだ終われないんだ……悲願を為すまでは……!」
今度こそ笑いだしそうになった。ジェイなどは「その意気だ」などと煽っているが目が嗤っている。
報われることのない判り切った結末に目を背けて、意固地になって突き進もうとするのは愚かとしか言いようがない。それとも、自分たちには新たな可能性があると本気で思いこんでいるのだろうか?
だがしかし、不意にかつてヤーナムで起きたことと彼らの共通点を一つ見出した。
獣の病を──獣の愚かさを克服しようとし、脳の内に見出した獣を活用しようとした挙句自らも病に罹患し、獣になり果てたかつての同胞。そして目的の為にダンジョンに潜り自らを鍛え上げ、
とはいえ、仮に自分も彼と袂を別たずに行動を共にしていたら、結末が判り切っていると彼を止めただろうか。目の前のバルザックたち同様に、自分の望む可能性以外の結末から目を逸らしていただろうか。
「ふふ……」
「どうした」
「いや、なんでもない。くだらない感傷さ」
追憶が、戻るはずもないのだけれど。