ダンジョンに智慧を求めるのは間違っているだろうか   作:冒涜アメンボ

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みんなでたのしくおしゃべりばかりしている回です


<●>11

 満月が煌々と街並みを照らす。

 オラリオ居住区の片隅にある、とある廃教会。

 打ち棄てられ、誰もいないはずの建造物には少なくない人が集っていた。

 壁や屋根はひび割れところどころ崩れているが、何かが焚かれているのか、馥郁たる香りが廃屋を満たしている。

 祭壇には騎士像や女神像が祀られているが、それらは一様に小さい。像として小さいものではなく、モチーフからして小柄なのだ。

 祭壇の前に立つ小人族(パルゥム)の男は手を掲げ言った。

「……ですから、我々の女神であるフィアナ様*1こそが、この宇宙の唯一にして真なる神なのです。今の神時代に天界から地上に降り立った神々など、取るに足らない矮小な存在であり、仕えるに値しないのです」

「嗚呼……フィアナ様……」

「ありがたや~~ありがたや~~」

 司祭らしき小人族(パルゥム)の男の話を聞く信徒たちは小人族(パルゥム)が多いが、他種族の者も数人いる。

「我々の真摯な祈りこそが天界の遥か彼方……外宇宙におわすフィアナ様に届き、預言者を介して我々に届けられた言葉……真の託宣(ミュステリウム)こそが、我々を進化させ、新たな次元に到達する力を与えたもうのです。神の恩恵(ファルナ)などという紛い物の力に縋る邪教徒に対抗する手段になるのです」

「フィアナ様……」

「フィアナー!俺だー!結婚してくれー!」

「こら、やめないか」

「構いません。フィアナ様の愛は無限で、みなに平等です。さあ、皆さまも唯一にして聖なる女神・フィアナ様に祈りを……」

 一同は独特な祈りの姿勢をとった。左腕をまっすぐ天に向けて伸ばし、右腕を地に対し平行になるようにまっすぐ伸ばす。

「ええ、そうです……右腕で邪悪なる偽神に支配された大地の悪い気を抑えつけ、左腕で遥か外宇宙におわすフィアナ様に向けて祈り捧げるのです」

 彼らは暫くの間、珍妙な姿勢で祈りを捧げていたが、やがて腕を下ろす。

「それでは、今日の集会はここまでにしましょう。ああ、お布施はこちらに……」

 と、司祭らしき小人族(パルゥム)が信徒らしき小人族(パルゥム)の少女を案内した、その瞬間。廃教会の扉が吹き飛ばされた。

「ビアー・ファミリアだ!全員動くな!」

 武装した集団が廃教会に突入してきた。総勢15人程で突入してきた集団はみな黒い戦闘衣(バトルコロス)に身を包み、顔も目出し帽や覆面で隠している。数人が二又の戟を持っているが、それ以外の武装は共通しているようで、金属製の細長い棍棒(メイス)を持ち、腰には大振りな山刀(マチェテ)を佩いている。

「手を頭の後ろで組んで跪け!抵抗するな!」

 逃げ出そうとした青年を集団で囲んで棒で叩く。青年は瞬く間に半殺しにされた。

 武装集団の動きは統率され、連携もよく取れている。

「貴様が頭目か!手を頭の後ろで組んで跪け!」

「わ、わたしは」

「抵抗するな!」

「グワッ!アバッ……」

 へっぴり腰で釈明しようとした司祭の小人族(パルゥム)も手際よく四肢と肋骨を割られた。

「確保!」

「制圧完了!」 

「全員捕縛しろ!」

「人もブツも全部運び出せ!チンタラしてるとガネーシャ・ファミリアがやってくるぞ!」

 

 

 

「見ろ。あれがギルド公認の武装強盗団、ビアー・ファミリアだ」

「いやはや、随分と手際がいいね」

「あいつら、チンケな暴行犯や侵入盗には見向きもしないが、組織だって動いてる連中には容赦ねえ。組織暴力は自分たちの専売特許だと思ってやがる。なにより、犯罪組織はアジトに金品を溜めこんでることも多いからな。結局のところそれを押収するのが目的なのさ」

 廃教会から離れた処にある高楼から、遠眼鏡片手にルドラ・ファミリアのジュラがミコラーシュに説明した。

「で、きみら闇派閥(イヴィルス)も彼らにはこっぴどくやれている。そういうわけかい」

「ああ。アストレア・ファミリアやガネーシャ・ファミリアも大概鬱陶しいが、俺らの天敵はあいつらさ。金や物の動きをから悪だくみを察知しやがる。金に鼻が利くのかもな。とにかく、準備を整えていざドンパチだと意気込んでる瞬間にカチ込んできて全部持っていきやがる。おつむの弱い連中が悪だくみしてもあいつらを出しぬけねえ」

 逆に言えば、犯罪集団でも金目のものも持っていないのが判っていれば捨て置くということだ。貧乏くさい思想家の寄り合い所帯であるイツァムナー・ファミリアとか。

 ミコラーシュは手に持ったオペラグラスを覗きこむ。縄で縛られた信者たちを馬車に詰め込む者。廃教会に何かが隠されていないか捜索する者。手際こそよく、場馴れしているのもわかるが……

「一人一人が特別実力者というわけではな無さそうだね。よくてレベル2といったところか」

「ああ。実際に現場に出向くのはレベル2以下の仕事だ。第一級や第二級も数人いるが、デカイ事件でもなけりゃでばってこねえ」

 ジュラは言ってから、「バケモン連中が目立つせいで感覚おかしくなってるけど、レベル2でも十分強いんだぜ、ほんとは」と付けたした。

 

 

 

「なんだと……もう居住区の廃教会が潰されたのか」

「驚くこっちゃねーだろう。そもそもお前らはそのつもりで教祖サマや運営資金をヨソにうつしてたんだろ」

「しかし、主要メンバーや物資は既に別のとこに移したとはいえ、『第三の瞳』がこうも早く叩かれるとはね。驚いたよ」

「おいおい、随分ノンキなリアクションだな。実際のとこどうするつもりなんだよ」

 魔石工場が立ち並ぶ工業区。その中には労働者向けの簡易居住区も数棟建っている。その一室で残存する闇派閥(イヴィルス)の主要団体の幹部が頭を付き合わせていた。

「そもそもの話をするとね、私は『第三の瞳』でちょっとした実験をしているんだよ。きみらの悪行の片棒を担ぎたいわけじゃないんだ」

「おいおいそりゃねーぜミコラーシュさんよォ~!無辜の民からあくどい手練手管で金から人足まで掠めといて何言ってんだよ」

「ヴァレッタ、静かにしろ。死に損ないなら死に損ないらしく大人しくしていろ」

「なんだとバルザックこの野郎!レベル3*2の分際で舐めたクチ利いてんじゃねーぞッ!」

 表向きには『27階層の悪夢』*3で死亡したことになっている女、ヴァレッタ・グレーデ*4が怒声を上げ立ち上がる、が。

「静かに」

「ヒッ!?」

 突如として自分に絡みつく巨大なナメクジに小さな悲鳴を上げる。

「おいおいヴァレッタちゃ~ん、ナメクジが苦手か~~?可愛らしいとこもあるじゃねーの!ギャハハ!」

 ジュラが囃したてる。

「君も静かにしてくれ。話が進められないだろう」

「わ、悪い」

 ヴァレッタとジュラも腰を下ろし、ミコラーシュの話を聞く意思を見せた。そしてようやくミコラーシュは切り出した。

「私はオラリオに、もう一つ世界を創ろうと思っている。人々の無意識領域で構成された精神世界だ」

「「「???」」」

 バルザック、ヴァレッタ、ジュラの三人とも首を傾げた。

「その為には悪夢が必要だ。都市の人々の脳内に悪夢を創る、極力多くのね。その悪夢を私の秘儀を用いて連結し、一つの大きな悪夢……夢の世界とでも言った方がわかりやすいかな?それを創る」

「「「??????」」」

「かつて私はヤーナムで上位者(グレート・ワン)の力を借り、似たようなことを成した。もっともその時は自ら上位者(グレート・ワン)に伍することしか考えていなかったが。幸か不幸か、この世界には上位者(グレート・ワン)はいないが数多の神がおり、神々から力を賜った人もいる。その力の発露の経路さえ解明すれば、上位者(グレート・ワン)の助力無くとも私だけで悪夢の世界を築き上げ、ひとつの大海とした人々の潜在意識を掌握し自在に操れるようになる」

「「「?????????」」」

「今は手始めに信者を増やしたい。小さくとも精神世界の実験場を創りたい。『第三の瞳』初期メンバーはバルザックたちが率いた社会に不満を持つ人々を集めたが、信者をもっと増やし、且つ彼らを起点にオラリオに広く悪夢を根付かせるには君たち闇派閥(イヴィルス)の協力が不可欠だ」

「……なあ、ミコラーシュさんよ」

 ヴァレッタが口を挟んだ。

「いろいろ理解不能だし、細かく訊いたところで多分わかんねーと思うけどよ。いっこだけ訊かせてくれ」

「訊いて、どうぞ」

「もう一つ世界をつくるつったが、それは何のためだ?それにも目的があるだろ?」

 ミコラーシュはニタリと笑い、言った。

「聖人を創るのさ」

 ヴァレッタは顔をしかめて俯いた。訊いた自分が莫迦だったと言わんばかりだ。

「まあ、最後まで聞きたまえ。たとえば、君らは神の恩恵(ファルナ)を授かり、レベルアップまでして物理的には超人的な身体能力を得ただろう。だがしかし、肝心の精神はどうだ?」

「なんだよ、悪事ばかりしてる俺らが下劣な糞野郎だっていうのか?」

「そう、そこだ」

 ミコラーシュの質問に答えたジュラを指差すミコラーシュ。「指をさすな」と注意するジュラを無視して続ける。

「その善悪も人々が生活する社会を成立させるために築かれた価値観に基づく。そして我らの自我もその社会規範や価値観の中で右往左往し、押しつぶされたり、時には君らのように抵抗する。だが人間の精神は本来広大且つ深淵。まさに大いなる深海の如しであり社会構造などに左右されるべきではない」

「ああ、またわけわからんこと言いだしたぞ」

 ヴァレッタがお手上げ~の動作をしながら茶化したが、異世界狂人はそれを無視し、言葉に熱を込めて続ける。拳まで振上げちゃったりして。

「しかしこの深海を自由に泳ぎ切り、行き来できるようになればどうだ?精神の強化・改造ができるようになれば、人の身のまま思考そのものを高次元に昇華(アセンション)できる!それこそ神の如くに!人類の幼年期は終わりを告げ、神の玩具(オモチャ)などではない、人間の人間による人間の為の()時代を手にすることができるのだよ!」

「何を言ってるのか私にはさっぱりわからん。お前らはわかるか?」

「俺こういうの知ってるぜ。学区出身の知識層気取った世間知らずなボンボン集めてよ、進化どうのこうのっていう詐欺まがいの啓発講習やって金稼いでだことあるぜ」

 ジュラとヴァレッタの反応に今度はミコラーシュがお手上げ~~になった。

「駄目だ……思考の次元云々の前におつむが弱すぎる……」

「……俺は協力する」

 バルザックが腕を組みながら言った。

「オラリオのみならず、この(しん)時代は神なんぞにすがっている者が多すぎる。神こそが呪いであり人の自由意思を抑えつける軛だ。元々俺はそれを破壊するのが目的だったんだ」

「おお、素晴らしい!(しん)時代にあっても神への叛逆を貫くとは!ジュラもヴァレッタも彼を見習いたまえ!」

「「お、おお~~……」」

 ミコラーシュがバルザックを賞賛*5すると、ジュラとヴァレッタも続いた。レベル3に到達する程に神の恩恵(ファルナ)を活用している人間が吐いていい言葉ではないが、そこは誰も指摘しないであげた。

*1
小人族たちが信仰していた女神。しかし、千年前に地上に降りてきた本物の神々の中に小人族の女神に該当するものはなく、その信仰は偽りとして廃れてしまった

*2
ちょっと前に2から上がった

*3
怪物進呈でわちゃわちゃしているところにボスモンスターも引っ張ってくるという合わせ技で沢山の人が死んだ事件

*4
外伝7巻のイラストではなかなかの美人っぽいし格好もえっちだ

*5
微妙なテンションの拍手




且つ

ミコラーシュがヒップドロップしてるようにか見えない
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