ダンジョンに智慧を求めるのは間違っているだろうか 作:冒涜アメンボ
満月が煌々と街並みを照らす。
オラリオ居住区の片隅にある、とある廃教会。
打ち棄てられ、誰もいないはずの建造物には少なくない人が集っていた。
壁や屋根はひび割れところどころ崩れているが、何かが焚かれているのか、馥郁たる香りが廃屋を満たしている。
祭壇には騎士像や女神像が祀られているが、それらは一様に小さい。像として小さいものではなく、モチーフからして小柄なのだ。
祭壇の前に立つ
「……ですから、我々の女神であるフィアナ様*1こそが、この宇宙の唯一にして真なる神なのです。今の神時代に天界から地上に降り立った神々など、取るに足らない矮小な存在であり、仕えるに値しないのです」
「嗚呼……フィアナ様……」
「ありがたや~~ありがたや~~」
司祭らしき
「我々の真摯な祈りこそが天界の遥か彼方……外宇宙におわすフィアナ様に届き、預言者を介して我々に届けられた言葉……
「フィアナ様……」
「フィアナー!俺だー!結婚してくれー!」
「こら、やめないか」
「構いません。フィアナ様の愛は無限で、みなに平等です。さあ、皆さまも唯一にして聖なる女神・フィアナ様に祈りを……」
一同は独特な祈りの姿勢をとった。左腕をまっすぐ天に向けて伸ばし、右腕を地に対し平行になるようにまっすぐ伸ばす。
「ええ、そうです……右腕で邪悪なる偽神に支配された大地の悪い気を抑えつけ、左腕で遥か外宇宙におわすフィアナ様に向けて祈り捧げるのです」
彼らは暫くの間、珍妙な姿勢で祈りを捧げていたが、やがて腕を下ろす。
「それでは、今日の集会はここまでにしましょう。ああ、お布施はこちらに……」
と、司祭らしき
「ビアー・ファミリアだ!全員動くな!」
武装した集団が廃教会に突入してきた。総勢15人程で突入してきた集団はみな黒い
「手を頭の後ろで組んで跪け!抵抗するな!」
逃げ出そうとした青年を集団で囲んで棒で叩く。青年は瞬く間に半殺しにされた。
武装集団の動きは統率され、連携もよく取れている。
「貴様が頭目か!手を頭の後ろで組んで跪け!」
「わ、わたしは」
「抵抗するな!」
「グワッ!アバッ……」
へっぴり腰で釈明しようとした司祭の
「確保!」
「制圧完了!」
「全員捕縛しろ!」
「人もブツも全部運び出せ!チンタラしてるとガネーシャ・ファミリアがやってくるぞ!」
「見ろ。あれがギルド公認の武装強盗団、ビアー・ファミリアだ」
「いやはや、随分と手際がいいね」
「あいつら、チンケな暴行犯や侵入盗には見向きもしないが、組織だって動いてる連中には容赦ねえ。組織暴力は自分たちの専売特許だと思ってやがる。なにより、犯罪組織はアジトに金品を溜めこんでることも多いからな。結局のところそれを押収するのが目的なのさ」
廃教会から離れた処にある高楼から、遠眼鏡片手にルドラ・ファミリアのジュラがミコラーシュに説明した。
「で、きみら
「ああ。アストレア・ファミリアやガネーシャ・ファミリアも大概鬱陶しいが、俺らの天敵はあいつらさ。金や物の動きをから悪だくみを察知しやがる。金に鼻が利くのかもな。とにかく、準備を整えていざドンパチだと意気込んでる瞬間にカチ込んできて全部持っていきやがる。おつむの弱い連中が悪だくみしてもあいつらを出しぬけねえ」
逆に言えば、犯罪集団でも金目のものも持っていないのが判っていれば捨て置くということだ。貧乏くさい思想家の寄り合い所帯であるイツァムナー・ファミリアとか。
ミコラーシュは手に持ったオペラグラスを覗きこむ。縄で縛られた信者たちを馬車に詰め込む者。廃教会に何かが隠されていないか捜索する者。手際こそよく、場馴れしているのもわかるが……
「一人一人が特別実力者というわけではな無さそうだね。よくてレベル2といったところか」
「ああ。実際に現場に出向くのはレベル2以下の仕事だ。第一級や第二級も数人いるが、デカイ事件でもなけりゃでばってこねえ」
ジュラは言ってから、「バケモン連中が目立つせいで感覚おかしくなってるけど、レベル2でも十分強いんだぜ、ほんとは」と付けたした。
「なんだと……もう居住区の廃教会が潰されたのか」
「驚くこっちゃねーだろう。そもそもお前らはそのつもりで教祖サマや運営資金をヨソにうつしてたんだろ」
「しかし、主要メンバーや物資は既に別のとこに移したとはいえ、『第三の瞳』がこうも早く叩かれるとはね。驚いたよ」
「おいおい、随分ノンキなリアクションだな。実際のとこどうするつもりなんだよ」
魔石工場が立ち並ぶ工業区。その中には労働者向けの簡易居住区も数棟建っている。その一室で残存する
「そもそもの話をするとね、私は『第三の瞳』でちょっとした実験をしているんだよ。きみらの悪行の片棒を担ぎたいわけじゃないんだ」
「おいおいそりゃねーぜミコラーシュさんよォ~!無辜の民からあくどい手練手管で金から人足まで掠めといて何言ってんだよ」
「ヴァレッタ、静かにしろ。死に損ないなら死に損ないらしく大人しくしていろ」
「なんだとバルザックこの野郎!レベル3*2の分際で舐めたクチ利いてんじゃねーぞッ!」
表向きには『27階層の悪夢』*3で死亡したことになっている女、ヴァレッタ・グレーデ*4が怒声を上げ立ち上がる、が。
「静かに」
「ヒッ!?」
突如として自分に絡みつく巨大なナメクジに小さな悲鳴を上げる。
「おいおいヴァレッタちゃ~ん、ナメクジが苦手か~~?可愛らしいとこもあるじゃねーの!ギャハハ!」
ジュラが囃したてる。
「君も静かにしてくれ。話が進められないだろう」
「わ、悪い」
ヴァレッタとジュラも腰を下ろし、ミコラーシュの話を聞く意思を見せた。そしてようやくミコラーシュは切り出した。
「私はオラリオに、もう一つ世界を創ろうと思っている。人々の無意識領域で構成された精神世界だ」
「「「???」」」
バルザック、ヴァレッタ、ジュラの三人とも首を傾げた。
「その為には悪夢が必要だ。都市の人々の脳内に悪夢を創る、極力多くのね。その悪夢を私の秘儀を用いて連結し、一つの大きな悪夢……夢の世界とでも言った方がわかりやすいかな?それを創る」
「「「??????」」」
「かつて私はヤーナムで
「「「?????????」」」
「今は手始めに信者を増やしたい。小さくとも精神世界の実験場を創りたい。『第三の瞳』初期メンバーはバルザックたちが率いた社会に不満を持つ人々を集めたが、信者をもっと増やし、且つ彼らを起点にオラリオに広く悪夢を根付かせるには君たち
「……なあ、ミコラーシュさんよ」
ヴァレッタが口を挟んだ。
「いろいろ理解不能だし、細かく訊いたところで多分わかんねーと思うけどよ。いっこだけ訊かせてくれ」
「訊いて、どうぞ」
「もう一つ世界をつくるつったが、それは何のためだ?それにも目的があるだろ?」
ミコラーシュはニタリと笑い、言った。
「聖人を創るのさ」
ヴァレッタは顔をしかめて俯いた。訊いた自分が莫迦だったと言わんばかりだ。
「まあ、最後まで聞きたまえ。たとえば、君らは
「なんだよ、悪事ばかりしてる俺らが下劣な糞野郎だっていうのか?」
「そう、そこだ」
ミコラーシュの質問に答えたジュラを指差すミコラーシュ。「指をさすな」と注意するジュラを無視して続ける。
「その善悪も人々が生活する社会を成立させるために築かれた価値観に基づく。そして我らの自我もその社会規範や価値観の中で右往左往し、押しつぶされたり、時には君らのように抵抗する。だが人間の精神は本来広大且つ深淵。まさに大いなる深海の如しであり社会構造などに左右されるべきではない」
「ああ、またわけわからんこと言いだしたぞ」
ヴァレッタがお手上げ~の動作をしながら茶化したが、異世界狂人はそれを無視し、言葉に熱を込めて続ける。拳まで振上げちゃったりして。
「しかしこの深海を自由に泳ぎ切り、行き来できるようになればどうだ?精神の強化・改造ができるようになれば、人の身のまま思考そのものを高次元に
「何を言ってるのか私にはさっぱりわからん。お前らはわかるか?」
「俺こういうの知ってるぜ。学区出身の知識層気取った世間知らずなボンボン集めてよ、進化どうのこうのっていう詐欺まがいの啓発講習やって金稼いでだことあるぜ」
ジュラとヴァレッタの反応に今度はミコラーシュがお手上げ~~になった。
「駄目だ……思考の次元云々の前におつむが弱すぎる……」
「……俺は協力する」
バルザックが腕を組みながら言った。
「オラリオのみならず、この
「おお、素晴らしい!
「「お、おお~~……」」
ミコラーシュがバルザックを賞賛*5すると、ジュラとヴァレッタも続いた。レベル3に到達する程に
且つ
↑
ミコラーシュがヒップドロップしてるようにか見えない