ダンジョンに智慧を求めるのは間違っているだろうか 作:冒涜アメンボ
「っしゃあああッ!」
【
眼前の猪頭の小巨人めいたモンスターも彼女を迎撃するべく牙を剥くが、アマゾネスは跳躍すると更に壁を蹴り急激な横移動でモンスターの視界から消える。敵を見失ったモンスターが周囲を見回そうとした瞬間、
「うお~~、相変わらずスゲー動きするな。完全に復帰したって感じだ」
リューの横でライラが感嘆の声を上げる。
ここはダンジョンの深層。
リューたちアストレア・ファミリアの主力パーティはガネーシャ・ファミリアのパーティと協力してダンジョンに潜っている。両ファミリアは元より都市の安寧と秩序の為に協力していたが、どちらも先日イツァムナー・ファミリアに痛手を負わされたこともあり、より細かな情報共有や戦術面での連携を図るようになった。*1
「まっ、ざっとこんなもんかな!」
彼女は言いながら双剣を素早く振る。血がびしゃりと払われる。
ガネーシャ・ファミリア副団長のイルタ・ファーナは深層のモンスターを瞬殺してのけるとニカッと笑う。
「こら、調子に乗るな!」
「アダッ!あ、姉者ぁ!少しくらい褒めてくれもいいじゃないか!」
姉貴分のシャクティにズビッとチョップを喰らったイルタは額を押さえながら訴える。
「何を言ってる。もうカニスに尻拭いしてもらうことはできないんだ。ダンジョンの中で油断をするようなことは厳禁よ」
「ああ……」
シャクティが
【
自分を撃破した【冒涜者】に、レベル5を三人相手取った上に【
ましてや、彼らは以前シャクティたちと戦闘して以降目立った活動をしていない。シャクティは「殺したが相手はまだ生きていて、どこかに身を隠している」と傍目には意味不明な証言をしたが、【冒涜者】と闘ったリューは彼女のその言葉がすんなりと腑に落ちた。連中は地下に潜り、次の行動に備えて準備をしている──そんな確信めいたものがある。
「でも実際イルタすごいわよ!前より動きがよくなってるじゃない」
アリーゼが手放しで褒めるとイルタはまたもやにへっと笑う。
「まあな。左腕と右腕はキッサさんに復元してもらったんだけどさ、冗談抜きで前よりも動きがよくなったぐらいさ」
言いながらイルタは左脚でバンバンと地面を踏みならし、右手に持ったカトラスを素早く振った。
イルタがキッサの名を出したとき、アストレア・ファミリアの面々はリューを見た。リューも潰された内臓や砕けた骨をキッサ・ラーギーに再生してもらったのだ。
オラリオの回復魔法や回復アイテムは奇跡としか形容できないほど強力な効果を発揮するものがあるが、失ったものを創ることはできない。千切れた手足をくっつけたり、裂傷を高速で回復させることはできても欠損した部位は二度と手に入れることはできないのが今までの常だった。ディアンケヒト・ファミリア*2の面々にさえ不可能なことだった。
それを今回、キッサは完全に破壊されたリューの内臓も光線で蒸発したイルタの手足も治してみせた。ならば、それは奇跡を超えた奇跡だ。
「医療技術というべきか魔技というべきか。しかしラーギー先生にしか無い
周囲に敵影がないか警戒しつつ輝夜が言う。
確かにこの医療技術があれば多くの傷痍冒険者が、いや労働災害を被った労働者までもが回復できるだろう。ところがキッサは「技術の公開は誤用と悪用を招く」とし、自らの秘匿としている。
「ラーギーさんは実績の無い治療法と言っていました。おいそれと施術して悪影響が出てもいけないと思っているのでしょう」
「そうだよ。それ、私も言われた。なんか血や肉体の機能をめちゃくちゃ活性化?させてるんだって。私やリオンはレベルが高くて頑丈だからやってみたけど、普通の人がやったら体が爆発するかもしれないって」
リューの言葉にイルタも便乗した。
「どんな医療技術よ……」
シャクティが呆れたようにかぶりを振ると前方で索敵をしていた輝夜が「来たッ」と声を張り上げた。
猪頭の小巨人が二頭と燃える肉体を持つ猿が二匹。パワー系とスピード系が揃ってエンカウントした形だ。
シャクティとアリーゼの指揮のもと隊列を整えようとした瞬間、イルタが飛び出す。
「こら、イルタ!」
シャクティが制止するもイルタは聞かない。
攻めかかるイルタに反応した猿の一撃をかいくぐったイルタはすれ違いざまにその腹を切り裂き屠る。そして呪文を詠唱しながらも次いで襲い来る猿をカウンターの一撃で首を刎ね、猿の首を刎ねた勢いのまま跳躍し猪頭の脳天に両手のカトラスを叩きこむ。深々と叩き斬ったためか、カトラスは猪頭から抜けず、イルタは得物を離して着地。カトラスの突き刺さった頭から噴き出した血がイルタを濡らす。
「ブモオオオオオオオオッ」
同胞を殺された残りの猪頭がその巨躯を持って丸腰のイルタを圧殺しようと突貫をかけるが、「ハイドラ!」イルタが並行詠唱していた魔法を発動、光弾を撃ちこむ。一発一発の火力は控えめだが一度に複数の光弾をバラまくそれを至近距離で叩きこまれた猪頭は大きな衝撃を受け、その場で体勢を崩しへたりこむ。
その時、イルタの行為をその場で見たものは自分の目を疑った。或いはイルタの頭を。
イルタは予備の得物を使うでも猪頭に刺さった得物を回収するでもなく、徒手空拳の右手を弓のように引きしぼり、全身のばねを使い猪頭の胴体に深々と突き刺した。
突き立てた右手は皮膚を突き破り、筋肉を裂き、胸骨を叩き割り、内臓に到達し、抉る。
ぼきり。ぐちゃり。
イルタが猪頭の内臓をほじくる。
何秒ほどそうしていたのか。目にしたもののあまりの衝撃にリューたちは固まっていたが、実際には一秒にも満たない一瞬のことだったのかもしれない。
時間の経過がどうであれ、次にリューたちが見たのは、イルタが猪頭の内臓を周囲の血肉ごと引き抜きつつ、胴体を弾き飛ばしているところだった。
猪頭の小巨人は身体中の血をすべてぶちまけたのではないかという勢いで血をまき散らし、絶命する。
返り血を全身余すことなく浴びたイルタは、魔石灯の輝きを浴び、赤黒く輝きながらその場に立っている。
モンスターの臓物を持ったまま両手を軽く広げて立つ彼女の姿におぞましさを感じてしまう。だが同時にも、リューは確かに彼女に言いようの無い美しさを見出してしまう。
「お、おいイルタ」
シャクティが困惑しながらも真っ先にイルタに声をかける。イルタは手にした臓物を投げ捨てシャクティに振り返る。
「すまない姉者、先走ってしまった」
「それはいいが……大丈夫か?」
頭が、とは言わない。
「ああ、大丈夫さ。本当に手足がよく動くし、今まであんなに鬱陶しかったモンスターも返り血もどんと来いって感じさ」
転がるモンスターの死体をイルタは蹴飛ばす。
「死線をくぐったからかな?身体をどう動かせばいいか、どうすれば獲物を狩れるかがなんとなく判るんだ。自分の中で何か新しい力が目覚めたみたいなさ。ステイタスに新しいスキルが載ってたってわけじゃないけど」
そう言って血塗れアマゾネスは今まで見せたことの無い艶のある笑みを見せる。
その艶のある笑みを見た瞬間、リューは身震いした。
今までに感じたことのない怖気。
戦いの中、返り血に塗れることなど今までいくらでもあった。
自らの頭を割られ、噴き出した自分の血で視界が染まったことも。
だが、今目の前にいるイルタは今までに見聞きした、或いは体感した血塗れとは何かが違う。
周りの皆も血塗れで微笑むイルタに若干引いているが、それだけだ。
自分の反応とは違う。
自分の中、脳から背筋を伝い冷たい何かが降りてきて体中に広がっていこうとしている。
冷たい?
いや熱い。
わからない。
わからない何かだ。
リューは自分の躰を抱くようにしてふらつく。
様子のおかしいそんなリューを傍にいたアリーゼが抱きかかえた。それを見た若い女性団員は小さく黄色い声を、男性団員は小さくガッツポーズ*3をとった。
「ちょっとリオン?いきなりどうしたの?」
「わ、わからない……でも、大丈夫だ」
「そのザマで大丈夫だなどと言われてもね。悪寒でもするの?」
アリーゼは自らの額をリューのそれにこつんと重ねた。今度こそ周囲から黄色い叫びと大げさなガッツポーズがあがった。
二人は2、3秒ほど額をくっつけていたが、額を離してからアリーゼが言った。
「リオン、熱が凄いわよ」
「おいおい大丈夫か?」
輝夜も駆け寄り三人で相談し、結論を出した。
「ごめんなさいシャクティ、私たちアストレア・ファミリアはここまで。地上に引き返すわ」
「なっ!?ま、待てアリーゼ!これくらい、少し休めば……うぐっ」
「大人しくしろポンコツエルフ」
アリーゼに異を唱えたリューを輝夜が羽交い締めにする。それを見たシャクティは苦笑しながら「構わんさ」と言った。
「どのみち私も引き返そうと思っていたところだ」
「ナニッ!?まだまだこれからじゃないか姉者!」
「お前が久々の深層で興奮しすぎているからだよ。そんなんでは一人で突撃してモンスターに囲まれるのがオチだ」
シャクティに諭されながらもイルタはぶーぶーと文句を垂れたが結局両ファミリア共に帰還することにした。
リューは仲間のアマゾネスに背負われながら、帰路でも先陣を切るイルタを眺めていた。
元々前線に立つ戦士だったが、その姿はアマゾネスの闘争とは様変わりしていた。
ひたすらに殺し、幾度も血を浴び続けるイルタを見て、リューは思う。
美しいと。
羨ましいと。
なんかもうミコラーシュとか無視してアストレア・ファミリアの百合百合したしあわせなSS書きたくなっちゃう…
誰かリューを主人公にして百合ラブコメSSかいて(懇願)