ダンジョンに智慧を求めるのは間違っているだろうか 作:冒涜アメンボ
「ふうむ、
バルザックから今いる場所について訊き出した檻頭は顎に手を当てるような仕草*2をして考え込む。
「私とて
──ビルゲンワース?ゲールマン?聖体?この変態は何を言っているんだ?
檻頭の男はバルザックの言葉に納得がいっていない様子だったが、その反応を見るコッコリスには檻頭が言っていることの方がちんぷんかんぷんだった。
ばちん!檻頭は手を打ち鳴らし、提案した。
「まあ、こんな薄暗いところで話ばかり聞いていても埒があかないね。どこかゆっくり出来るところに移動しないかね」
「移動といっても……」
コッコリスが異論を挟もうとしたところで物音がした。その物音は唸り声を伴って近付いてきた。
「来たか……」
バルザックが音の方向を睨む。奇怪な檻頭の相手をしていて忘れかけていたが、そう、ここはダンジョンの中なのだ。モンスターがうようよ徘徊している。
唸り声と共に現れたのは双頭の巨犬と巨大な餓鬼。巨犬は口腔から火の息を漏らし、赤く輝く目でこちらを見据える。餓鬼は貧相な手足と巨大な腹のアンバランスさが嫌悪感をかきたてる。彼我の距離は10
「犬とガリガリ……。なるほど、ここはまさしくダンジョンだね」
檻頭はどういうわけか、納得した素振りを見せる。
落ちつき払った檻頭の態度に腹を立てたかのように、巨犬が
そして、次の瞬間には巨犬が檻頭に飛びかかる。10Mはあった距離が一瞬で縮まる。下位冒険者では反応すらできずに死ぬ、それ程の速度の突撃だった。
「フン!」
それを檻頭は正面から殴って叩き落とした。双頭の巨犬の殴られた側の頭は一撃で陥没し、目玉は飛び出し、耳からは液状の何かが漏れ出ている。巨犬は地に伏しながらも残った側の頭で噛みつこうとするが、それよりも速く、檻頭の手刀が残った頭を叩き割る。血と脳漿をまき散らしながら巨犬は絶命した。
これにはコッコリスは目を見張った。他の二人も同様だった。中層のモンスターを蹴散らすなど第一級冒険者には朝飯前だ。しかし、それを素手でやるなど、聞いたことが無い。
檻頭の怪力を目撃し、動揺した餓鬼は壁を殴った。壁が割れ、中から棍棒を取り出した。これこそが、このダンジョンがモンスターに提供する
「グオオオオオオオオッ!!」
棍棒を振り上げた餓鬼が雄叫びを上げながら走りかかり──次の瞬間には絶命していた。
檻頭の袖口から飛び出した青白く輝く複数の触手に胴を貫かれ、餓鬼は声を発することもできずに死んだ。
檻頭が触手を引きぬくと、餓鬼の胴に空いた大穴から鮮血が吹き出し、次いで臓物が零れ落ちる。そして餓鬼は足下に零れた臓物を追うようにゆっくりと崩れ落ちた。
眼前の光景に、三人はいよいよ言葉を失った。素手で中層のモンスターを殴り殺し、更には形容し難い一撃をもって武装した餓鬼を屠ったのだ。
「ふむ。手に負えない化け物というわけではないようだね」
檻頭はパンパンと衣服の埃を払った。それは、触手ではなく人間の手だった。
「あ……、あんた……」
「うん?」
バルザックが声を振り絞り、訊く。
「あんた……何者なんだ?どこのファミリアの冒険者なんだ……?レベルは……?」
「おいおい。さっきの私の口ぶりでわかるだろうに。私はファルナなど授かってはいないし、冒険者などというものでもないよ」
「馬鹿な……」
完全にコッコリスの理解の範疇を超えた。この檻頭の男はなんなのだ。
「それより、早く移動しようじゃないかね。私はこんなところの土地勘など無いんだ。道案内してほしいんだが」
「ま、待ってくれ。俺たちにはもう体力が……少し休ませてくれたら、動けるようには、なるはずだ」
ヘルゼーエンの言葉を聞いた檻頭はこれ見よがしに溜め息をついて、言った。
「ならば仕方が無いね。では、休憩がてら、もう少し話を聞こうか。この世界と、君たちを取り巻く環境について」
「あ、ああ……。だが、その前に、あんたの名前だけ教えてくれ。なんて呼んだらいいんだ」
バルザックに言われて檻頭はハッとして表情を見せた。
「おお、私としたことがまだ名乗っていなかったね。これは失敬」
そう言うが否や、檻頭は両腕をがば、と広げて、芝居じみた、仰々しい名乗りを上げた。
「私はミコラーシュ。高次へのアセンションを……。夢を追う者だ」