ダンジョンに智慧を求めるのは間違っているだろうか 作:冒涜アメンボ
バルザック先導の下、コッコリスたちはダンジョンの18階層まで上がってきた。
18階はモンスターの生まれないセーフティ・ポイントとして知られている。
「ここは本当に地下なのかい?景色ががらりと変わったり、豊かな緑が生い茂っていたり……。いやはや、未知に溢れているね、ここは。心が躍るよ」
「あんた、あんな下層手前の中層にいたのに、本当にダンジョンのことを知らないんだな」
「それについてはさっきから言っているだろう。私についても君たちについても、詳しいことは落ちつけるところで情報交換したいものなんだが」
初めてオラリオに出てきた田舎者が広大な都市に驚くように、檻頭の変人は移動中もダンジョン内をきょろきょろ見回していた。
会話していると、バルザックが立ちどまった。
「よし、ここだな。俺も気を付けてはいたが、周りに他の冒険者の類はいないよな」
「ああ、見かけてないぜ」
「俺もだ」
コッコリスたちの会話をミコラーシュはぽかんと見ている。
バルザックは頷くと、彼の戦斧を構えた。ヘルゼーエンもメイスを構えて壁の岩肌を壊し始める。
「彼らは何をしているんだい。工事の仕事にでも来たのかね」
「違う。見てろ」
レベル2の二人が手早く壁を破壊すると、その奥に通路が現れた。「行くぞ」とバルザックが進み、他の三人も後に続いた。
「この通路、さっきまでとはまるで感じが違うじゃないか」
「勿論そうさ。本当に違うんだからな」
「なんと!さっき壊したばかりの岩がもう塞がり始めているよ!」
「おっさん、ちょっと静かにして」
そのまま歩くと目の前に巨大な扉が現れる。
「なんだね、それは?……目玉かね?目玉が扉の鍵とは、なんとも
「……もうすぐで休める空間に着く。そのヤーナムってのも含めて、細かく訊かせてもらおう」
「しかしよかったのか?見知らぬ人間をクノックスに連れてきて。ディックス*1の野郎にはおいそれと人に知られるなと言われてただろう」
ゴードン派に割り当てられた部屋でひと息つき、コッコリスはバルザックに尋ねた。
「仕方ないだろう。そもそも、この男がいなけりゃ俺たち全員くたばってたぜ」
隠してあった回復薬で傷を癒し、保存食で飢えをしのいだ。檻頭は何も口にせずに三人のやりとりを見ていたが、ようやく口を開いた。
「では、聞かせてくれるかね。この世界とこのダンジョンについて。そして、人間と共に暮らす神々について……」
コッコリスたちは自分たちの知るすべて、とは言わないがオラリオと自分たちについての基本的なことについて語った。ミコラーシュと名乗る男も疑問点があれば質問を挟んできたので、とりあえずは知識として必要最低限なことは得たのではないだろうか。
「しかし
「あ、あんた……ファルナについてそう解釈したのか」
「きみらのバイアスのかかった説明を聞けば誰だってそう思うよ」
ミコラーシュはやれやれと言った表情で首をすくめた。
「私のいた世界の
「そう、あんたのいた世界についてだ」
ヘルゼーエンが口を挟む。
「今度はあんたのいた世界について聞かせてくれ。……というか世界ってどういうことだ。あんたはダンジョンから産まれ落ちたがモンスターではないのか。ダンジョンが異世界に繋がっているとでもいうのか?そもそも異世界など実在するのか?子供向けの英雄譚や創作童話の類ではないのか?」
「いっぺんに言わないでくれたまえよ。私とて状況を整理したいのだ。……君たちに話を聞いておいて悪いが、先に地上に出ないかね。実際のオラリオの都市というものをこの目で見てみたいし、地上に上がるまでに君たちに聞いたこと、聞かれたことを含めて考えを整理したい」
コッコリスは「おい、そりゃ話が違う」と言いかけたが、バルザックが了承したので地上を目指すことになった。
「もうすぐ地上だ」
血で汚れたボロ切れを脱いで一般的なオラリオ市民の服装に着替え、クノックスを出た。そしてダイダロス通り*3の地下水路を歩く。
「オラリオは区画によってある程度の住み分けがある。底辺の住処や工業区、金持ちの宅地とかな」
ヘルゼーエンの説明をミコラーシュが「ほう」と興味深く聞いている。
「俺たちイツァムナー・ファミリアの本拠は、ギルドの登記上は出稼ぎ労働者の為の団地が多い区画にあるんだが、今は工業区の一画にある廃工場を使っている。今や追われる身なんでな」
「隠れ家というわけかね」
「まっ、そんなところだ」
言っている間に光が差し込んでいる通路が見えた。
「やっと空の下に出れるな。三日ぶりにシャバの空気が吸える」
「着替えたとはいえ油断するなよ。闇派閥の幹部級の首には賞金がかけられてるんだ。俺たちだって例外じゃないはずだ。悪目立ちするなよ」
帽子を深々とかぶりながらバルザックがコッコリスに注意する。
「判ってるさ。……というか悪目立ちというなら、ミコラーシュの旦那」
「なんだね」
「地上に出る前にその檻をはずせ」
「えっ」
「いや、そりゃそうだろ。っていうかなんだその檻は」
「今まで誰も何も言ってこないから、この世界でも標準的な装飾*4だと思っていたよ」
「そんなわけないだろう……」
緊張感の無い会話をしながら外に出る。
穏やかな太陽光が一向を照らす。
死を直面していたコッコリス達の状況とは反対に、空は極めて爽快に、青々としていた。
地上に出るだけでやたらと時間食ってしまった。