ダンジョンに智慧を求めるのは間違っているだろうか   作:冒涜アメンボ

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設定考えたりブラボやり直したりSEKIROやってたら半年以上経ってしまいました。すいません。


<●>3

「なんだこれは」

 これが、青空のもとに出て、ミコラーシュが最初に発した言葉だった。

「なんだってなんだよ」

 突然の問いにコッコリスが問い返す。ミコラーシュは被った鉄の檻を外し、空を仰ぎ、叫んだ。

「空が!!青い!!」

「えっ」

「空が!!青い!!ハハハハハハハ!!ぬけるようにあおいそら!!アッハハハハハ!!」

 謎の小躍りをしながら嗤い叫ぶ狂人。コッコリスたちは言葉を失い、互いの顔を見合わせた。狂人は空を見て嗤い続ける。だがその顔は到底喜んでいるようには見えない。目玉が飛び出すのではないかというほど目を剥き、その目は血走っている。

「おい」と見かねたバルザックが声をかける。「落ち着けよ、頼むから」

「そうだね」

 そのひと言と共に狂人は落ちついた。テンションの落差が激しい。精神に異状があるのではないかと三人は訝しんだ。いや、疑うまでもなくどう見ても異状な存在だが。

「さっきも言ったが、目立たないようにしてくれよ。俺たちはお尋ね者で。秘密のアジトに向かうんだ」

 バルザックの懇願に対し、ミコラーシュはニタリと微笑み頷いた。

 

 

 

 一向は黙々と歩いた。時には人目に付かぬようにこそこそと。時には道行く出稼ぎ労働者にまぎれて堂々と。一行の懸念であった異世界狂人も大人しいものだった。被っていた巨大な檻は頭陀袋に入れて担いでいる。こうまで大人しいと逆に不安になってしまう。不安に耐えかねたのか、コッコリスが口を開いた。

「なああんた、オラリオを歩くのも初めてなんだろう?大丈夫なのか?」

「随分と大味な質問だね。なにをもって大丈夫とするかは判らないが、一歩進むごとに未知と遭遇する。好奇心と興味のおもむくままに手当たり次第に解剖、標本したいくらいだよ。だが、衝動のままに行動して物事を台無しにするのは愚か者のすることだ。それにヤサに帰れば君たちがこの世界のことを教えてくれるという。私もまずは基礎知識が欲しいからね。見るものすべてに興味を持つならばこそ、尋ねるべきことを整理して順序立てて置きたい」

 意外と落ちついているらしい。物騒な単語が出てきた気がするがそこには触れないことにした。

「こっちだ」

 バルザックの先導に続き、脇道に入り、薄暗い道を行く。

「おやおや、さっきまでとは雰囲気が違うね。建物も古く、人も見当たらない」

「ああ。細かい説明はあとでするが、このオラリオは他所にはない工業技術と製品の輸出で成り立っている。その工業技術が発達するたびに新たな製品を作るための工場も要る。そうして工業区画は増築、改築、再開発を繰り返していてな。オラリオの城壁内のスペースは限られているから、再開発する場所はギルドっていう集団が主導して選定する」

「ふむ、その選定にも何かしらの条件や事情があり、こうして古いまま放置されているところがあるというわけかね」

「ま、そんなところだ」

 異世界狂人の疑問にヘルゼーエンが応える。

 尾行されていないか周囲を確認する。人気は無い。

 あるのは野良猫の死骸。死肉を啄ばむカラス。そこにたかる鼠。

 そもそも、捨てられた古工業区に居付いているのは家賃も払えない食い詰め冒険者、労働災害で身体の一部を欠損しまともに働けなくなった労働者といった手合いだ。時折新顔が増えるが、ここに流れ落ちてくるような連中に忍耐や堪え性など無く、表層区画に出ては野盗/乞食まがいのことをして駆除されている。

 淀んだ空気と陽の光も満足に届かない薄暗い道。岐路を曲がり、階段を上り下りして進む。幾層にも改築を重ねた挙句に捨てられた区画の煩雑さはダイダロス通りの比ではない。まともな市民は寄りつくことも無い。

「薄暗いねェ……。まるでヤーナムみたいだ」

「……そのヤーナムってのはなんなんだ?あんたのいた世界なのか」

「そうだね。生前の私が過ごし、肉体を捨ててからも真理の探究にあけくれた呪われた聖地さ」

「生前?肉体を捨てる?聖地なのに呪われている…?」

「ああ。肉体は檻だ。魂という人間の本質を大地に繋ぎとめる楔ともいえる。宇宙……空に到達するためには不要だ。更に言うなら人の血肉こそ獣欲とは不可分の存在。獣の愚かさを我々にもたらす。上位存在に進化する上での妨げでしかない。そして呪われた聖地というのは……簡単に言うと、神々の神秘を暴き持ち帰ったからこそ聖地となり、故に呪われたということかな」

 ミコラーシュとヘルゼーエンの会話。神が子に神秘の力を目覚めさせるこのオラリオですら聞かない話。バルザックもコッコリスも聞き入り、息をのむ。さっぱり意味がわからない。

「フフ。私としたことが、身の上語りなど性分ではないな。異世界で未知に触れ、少なからず昂揚しているようだ。ところで、君たちのアジトにはまだ着かないのかね」

「もう着く。そこの階段を下った先にある廃工場だ」

「やっとだ……生きて帰ってこれた」

 工場の上に工場。工場の下に工場。

 オラリオの魔石工業黎明期に建てられた区画。ギルドの規制も法も無く、企業*1主体で無秩序に増改築を繰り返された一帯は取り壊しすら危険ゆえされずに放置されている。

「これはこれは、なるほど。一際古い区画だね。建築技術も先程まで見てきたものにくらべ未熟なのに、建屋が密集し、そこを無理やり増築し高楼にしている。……地面も掘って地下にも工場を作っていたのか?このような危ないとこに寄りつく人など無し、君らのようなお尋ね者のねぐらになるわけだ」

「そういうことだ。闇派閥でも金や組織力がある連中はもっとマシな隠れ家を用意してるんだがな」

 バルザックはミコラーシュに応えつつ、壁や扉に耳を当てる。

「よし。入るぞ」

 扉を開け、廃工場に入る。建屋の一角にある階段を更に下り、地下にいく。

「随分埃っぽいねえ」

「綺麗にしてたら人がいるのがバレるからな。人のよりつかない区画とはいえ糞真面目な正義気取り連中がこの辺を捜査してる時もある」

 ランタン片手に階段を下りきり、灯りの無い廊下を進む。

「この階の部屋が俺たちのねどこというわけさ」

「やれやれ、やっとかね。……しかし、人ならざる気配がするのはなんだね」

「まさか…!?」

 バルザックとヘルゼーエンが奥に駆けだす。「ま、まて!」コッコリスも追う。ミコラーシュもそれに続く。

 扉を開け放つ。

 そこには頭に蛇を撒いた老人と薄汚い緑色のローブを被った男がいた。

「おお、よく帰ってきてくれたな、我が子らよ」

「ほう、生き延びたか。正義ファミリアの連中も本腰を入れて闇派閥狩りに参加していたらしいが」

 バルザックとヘルゼーエンは緊張の糸が切れたのか、その場にへたりこんだ。

「あんたらこそ……オラリオに帰ってきたのか」

「ああ、つい先程な。追手を二人ばかり殺したのでまた賞金首が上がったかもしれんが」

 コッコリスとミコラーシュも部屋に入る。

「彼らは?」

「あ、ああ。老人がイツァムナー、俺たちの神だ。もう一人がジェイ、腕ききの冒険者だ。違う闇派閥系ファミリアにいたんだがそこが解散してな。ウチに流れてきた」

 ミコラーシュはコッコリスの説明を聞きながら「ふうん」とだけ言った。

 神と神の託宣に興味津々だったはずの異世界狂人は神に目も向けず、冒険者としては軽装にすぎるローブを着た男に視線を向けていた。

 

*1
国家を解体する戦争をおっぱじめるようなだいそれた存在ではない




もうすぐメタルウルフリマスターが出ますね。楽しみです。
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