ダンジョンに智慧を求めるのは間違っているだろうか 作:冒涜アメンボ
アストレア・ファミリアとの戦闘の翌々日。
晴れた日。
ミコラーシュはギルドの運営する図書館の隅で数冊の本を読んでいた──『
というのも、【疾風】を撃退した翌日にイツァムナー・ファミリアに彼自身の話を聞かせている時に──ジェイは白々しくも「ヤーナムって怖いところですね!すごいです!」と言わんばかりの反応をしていた──この世界は英語を使っていないことがわかったのだ。彼自身、オラリオの人たちと普通に会話できていたのでそこは疑いもしていなかった。発音や口頭文法がブロークンなのは、オラリオが世界中から多種多様な人間が集まるからであり、英語力の習得に差異があるからなのだとばかりに思っていた。
幸いにも──不思議にもと言うべきか、英語と
「ギリシャ文字のようなもの、ラテン文字のようなもので構成された英語らしき言語。それらを標準としているくせに単位はヤード・ポンド法ではなくメートル法らしきものを用いている。イギリスが世界の中心でありながら実際はフランスの考え方で動いているようなものだ。ちぐはぐだね」
「俺にはお前が何を言ってるか全然わからん」
テーブルの向かい側、ミコラーシュの正面に座るコッコリスがぼやいた。
コッコリスは付けヒゲとウィッグと眼鏡で変装している。一方、ミコラーシュは黒々としたロングヘアーのウィッグを被るに留めている。アストレア・ファミリアに顔を見られた以上、ミコラーシュも外に出るならば変装をすべきだ、というのがバルザックの意見。それに対しジェイは「コイツの顔の醜さと目の腐り具合は強烈に過ぎ、生中な変装でどうにかできるものではない」と返した。結局顔も隠れるロンゲを使うことで落ちついたのだった。
教本を黙々と読み進めるミコラーシュを見ながらコッコリスが訊く。
「あんた、この世界に馴染もうとしてるが、帰ろうとは思わんのか?」
「むろんヤーナムにもやり残したことは多々ある。しかし今は神秘と未知で満ちたこの世界を満喫したいと思っているよ」
「…あんたがヤーナムでやりたかったこと、やり残したことってなんだ」
「
ミコラーシュはそれだけ言うと、気になる点があったのか別の教本を開いて読み比べ始めた。会話はそこで終わった。
「……」
コッコリスはミコラーシュの読み終わった本を開き、パラパラを軽く読む。
「そもそも、オラリオは世界の中心なんかじゃなかったし、
「ほう?」
呟きに異世界狂人が食いつく。
「字が問題なく読めるようなったら歴史書や文化史を読んだり、あとはギルドの資料館にも足を運んでみるといい。結局この都市の賑わいも神の道楽でしかないし、オラリオで開かれる祭りだって元々この地域にあった文化でもない」
「それは……以前言っていたきみらの思想や主義に繋がる話かね」
「ま、そんなところだ。こんなとこでする話でもないがな。それをキリのいいとこまで読み進めたら外に出ようぜ。腹が減った」
二人は裏通りで営業しているこじんまりとした食堂に入った。
厨房に立つのは獣人の男女二人。夫婦で経営しているのだろうか。
「ああいうの、食べ物に獣の毛が混入したりしないのかね」
「そういうことを言うなよ。獣人を畜生扱いなんてしたら、気性の荒い獣人だったらぶち殺されるぞ」
大皿で魚料理とパスタが出てくる。かつての、聖地として栄えた頃のヤーナムで見られたようなまともな料理だ。
「これだよ、これ。これが旨いんだ」
コッコリスはフォークとスポーンで盛り分け始めた。
「馴れた手つきだね」
「ま、常連だからな。俺みたいな底辺は安価でうまいもん食うのくらいしか楽しみが無いのさ」
「君ら、収入源は?」
「冒険者らしくダンジョンに潜ったり、あとは
それを聞く限りでは典型的な木端組織の三下だ。だが──
と、そこに入店者。三人組の男──人間、虎人、エルフの組み合わせ。三人ともが武具を身につけており、冒険者なのがわかる。賞金首の
三人組は席につくと武器を床に置いたり、椅子やテーブルに立てかけ、それから注文をした。背もたれに体重をかけながら伸びをする者、疲れた様子でぐったりする者。各自がめいめいに脱力?をしている。
ミコラーシュたちが静かに料理を食べていると、エルフが喋り出した。
「聞いたか?アストレア・ファミリアのこと」
「ああ。【疾風】がやられたんだろ」
「イツァムナー・ファミリアだったか。
「ちょっと前にギルド主導で大手ファミリアが
つい先日の、ジェイが大立ち回りを演じた件だ。ミコラーシュとコッコリスが聞き耳と立てるすぐ隣で三人は話を続ける。
「それで、私も主神に相談したんだが」
「何をだよ」
「我々もアストレア・ファミリアに助力するべきではないかと」
「ばっ……」
「ナニ考えてんだお前」
「そうするべきではないのか!?ロキ・ファミリアもフレイヤ・ファミリアもギルドに課されたノルマ以上は動かず、幅広く活動しているガネーシャ・ファミリアは対
「死ぬぞ!?あの【疾風】を返り討ちにするようなやつを相手にできるわけねえだろ!?」
「お前だけじゃねー、俺らだってくたばっちまう!地元に残した女房やガキだって俺の仕送りを待ってんだぞ!」
「ならばどうするというのだ!貴公に愛する家族がいるように、
三人がヒートアップする。
ジェイと【疾風】の闘いは、ただレベル4同士の戦いというだけでなく、この街の秩序や平和という点で大きな影響があったようだ。
「会計」
コッコリスが店員を呼んだ。「出るぞ」
帰路、すれ違う冒険者や市民たちの会話に耳を済ます。雑多な会話の中、先日の戦闘絡みの話も聞こえてくる。
──【疾風】が敗北した。
──
──アストレア・ファミリアは
──
人気の無い区画まで来たところでミコラーシュは切り出した。
「いろいろ、話が膨らんでいるね。これも君らの仕事かい?」
「イツァムナー様が他の
吐き捨てるように言うコッコリス。
「君は、というかイツァムナー・ファミリアの面々は他の
「自らのルーツも知らず哲学を持たない破壊者どもなど、好ましく思う要素が無い」
思想や哲学があろうとなかろうと殺される側からすればどちらもいい迷惑なのには違いないが、そこは指摘せずにおいた。
そのまま捨てられた古区画に続く路地を進もうとして、ミコラーシュは歩みを止めた。
「どうした」
「おや、アジトのある区画に多数の冒険者がうろついているぞ」
「なに!?いや、何故それが判る?」
「私の
「目?なにを言って……」
「そこはいいだろう、別に」遮り、続ける。「だが、装備や意識の配り方から察するに、先日のアストレア・ファミリアの面々のような手練ればかりというわけでもないようだ。どうする?」
考え込むコッコリス。
「ジェイとバルザックは
と、そこへかけられる声。
「お前ら、そこで何をしている」
声の方を向く。
首にかかる程度の短めの藍色の髪。麗人と呼ぶのに抵抗の無い容貌とスタイル。軽装だが、槍とも錫杖ともつかぬ武器を持ち、油断なくこちらを見据えている。
「シャクティ・ヴァルマ……!」
コッコリスが後ずさる。聞き覚えのある名だ。そう、たしかこの街で名の知られたファミリア、そして冒険者について教わっている時に──
「団長!」
「姉者!そいつらは!?」
囲まれる。不用意に近付くこともなく、しかし確実に包囲する動きにはこのテの経験が豊富なことが判る。
「お前ら、
ガネーシャ・ファミリア団長、レベル5の女冒険者は武器の穂先を二人向け、構えた。
なんだか投稿するたびに一話あたりの文字数増えちゃってますね。
長々とスクロールをするのを面倒に感じるタチなのですが、もっと区切って小出しにするのも違うし、かと言って削れるほど情報を詰めているわけでもないですい、考えものです。