生ポ♂アニキ in IS   作:ざんじばる

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紅白に乱入した武田●治を見て思いついたネタがこちら。
お正月休みの合間にポチポチ書いてみました。
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新たな筋肉と出会い

■日本国憲法 第三章 第二十五条

 

 すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 

■生活保護法 第一条

 

 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

 

■生活保護法 第十一条

 

 保護の種類は、次のとおりとする。

 一 生活扶助。二 教育扶助。三 住宅扶助。四 医療扶助。五 介護扶助。六 出産扶助。七 生業扶助。八 葬祭扶助。九 恋愛扶助。

 

 

 

 

 

 

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 パンッと机を叩く音に続き、怒声が教室中へ響き渡った。声の主は金髪ロールに青い瞳の美しい少女。イギリスからやって来た少女、名前はセシリア・オルコットとか言ったか。

 

(ああ……えらいところにきてしまった)

 

 その騒ぎを横目にしながら僕、木村ユースケは過去の自分の軽はずみな行動を心底後悔していた。ここは公立IS学園。ISという現代ではオーバーテクノロジー気味な超兵器(建前上は兵器ではないらしいが)の操縦者を育成する学校だ。このIS、戦闘機や戦車、戦闘ヘリなどの既存の兵器に対して圧倒的な優越性を持っているのに対して、なぜか女性にしか動かせないという弱点があった。そのため国防の主役は女性となって久しい。結果女性の権利や権力が極めて増大したのだ。端的に言えば女性は強くなった。男性を一方的に見下す女性もいる。彼女もそういう手合いなのかもしれない。

 

 さて先程ISは女性にしか操縦できないと言った。ではなぜその操縦者養成の学園に僕がいるのかについて話そう。難しい話じゃない。ISは女性にしか動かせない。これはすでに過去の話なのだ。とはいえまだ男性でISを動かせるのものは二人しか見つかっていないのだけど。その二人目がなんの因果か僕というわけだ。とあるクローズド・イベント『第二回ニクニクカーニバル』に出向いた際、間違えて入ったIS学園の適性試験会場でなぜか僕が触れたISコアが起動してしまったのだ。結果、貴重なモルモ、いやサンプルとして即このIS学園に放り込まれることになったのだった。

 

 僕にはこれまで通っていた高校があったのだがそんなことは国家権力の前ではなんの抵抗にもならなかった。固い絆で結ばれた友人たちや親しくなりつつあった女の子たちもいたというのにあっさりと切り離されて、再び新一年生としてやり直すことになったのだった。なんてこったい。

 

 ちなみにオルコットさんと今現在やりあっているのが、記念すべきIS適合男子第一号、織斑一夏くんだ。彼は嫌みのないイケメン男子で僕にも忌憚なく接してくれたいいヤツだ。そしてクラスで貴重な男子。ともなれば女子からクラス代表として祭り上げられるのも無理からぬことだろう。そしてそれに真っ向からNo.を突きつけたのがイギリスからの留学生オルコットさんというわけだ。

 

 オルコットさんの苦言は男批判からいつの間にか日本批判へと変わり、そこに織斑くんが食いつき、さらに激化した。そして――

 

「大体男なんてのは総じて情けない存在なのですわ! そこの眼鏡もやしチビボーイみたいに!」

 

(うわ、こっちに飛び火した!? うう……そこまで言わなくても。以前の僕ならともかく今ならそれなりに――)

 

 心のなかでオルコットさんの言に反論を浮かべていると、現実に代弁してくれる声が背後から現れた。

 

「そいつは聞き捨てならねぇな、お嬢ちゃん。一年前ならまだしも今のコイツは既にイかしたタフガイへの道を歩み出してるんだぜ?」

「そんな小男のどこがタフガイ――ッ!?」

 

 即座に言い返しながら口を挟んできた人物へと視線を向けるオルコットさん。そしてたちまち驚愕に凍りついた。織斑くんや周囲もだ。無理もない。

 

 みんなの視線の先、そこにはいたのはマッチョだ。ゴリゴリに仕上がっているマッチョが、サラッと現れやがったのだ。身長は190cmほど。肩幅は日本人とは思えぬ恵まれたものを持っているおかげで、実際の身長よりも大きく巨大な印象を受ける。オルコットさんの受けた圧迫感は相当なものだろう。しかもそれがパンパンに膨れた筋肉で覆われているとなれば尚更である。

 

「な、なんなんですの! 貴方は!!」

 

 だから何とかフリーズから立ち直り、そう誰何できたオルコットさんはたいしたものだと思う。それに対しそのマッチョは”ダブルバイセップス”という、ボディビルやマッチョを想像したときに、一番に頭に浮かぶであろう、あの両腕を掲げて力こぶを見せるポーズをしながら、パンツ一丁のその肌色多き姿で答えた。

 

「俺のことはアニキと、そう呼んでくれ」

「貴方、その方の兄ですの?」

「違うぜ。”アニキ”だ」

「訳がわかりません。だから兄弟なのでしょう!?」

「お嬢ちゃんの勝手な枠に俺たちを当てはめようとするんじゃないぜ。おれはこいつのアニキだぜ? 兄弟なんて狭い関係じゃねぇ。おれとユースケはもはや一心同体、言ってみれば運命共同体の一蓮托生、共にあれとガイアが囁いているほどの関係なんだ」

 

 マッチョが白い歯を光らせながら述べた台詞に周囲の女子たちから黄色い悲鳴があがる。『一心同体』や『運命共同体』といったところに反応したようだ。「ガチよガチ。ガチムチよ」とか「腹んなかパンパンにされてるのかしら」とか「真夜中のパンツレスリング」とか聞こえてくるがどういう意味なのか真剣に考えたくはない。とにかくまたもや思考停止状態に陥ったオルコットさんにフォローを入れる。

 

「えっとこの人のことはアニキって呼んでるんだけど……まあ僕の保護者みたいなものかな」

 

 正確にはアニキは、僕が生活保護の申請により支給を受けたパートナーだ。まあ僕が何を言ってるのか分からないと思うので更に詳細に説明する。生活保護にはもともと法が定める八つの扶助があった。けれど何年か前、三人の天才たちがふとあることに気付いた。八つの扶助では憲法違反ではないかと。そして追加された九つ目の扶助。それが恋愛扶助だった。文化的で最低限度の生活を送るためには”愛”や”恋”が必要だと言うわけだ。当時不登校に陥っていた僕に教師が申請するよう勧めたのがこれだ。僕にピッタリなかわいい子が扶助されれば、僕の引きこもりも直るだろうというわけだ。

 

 そしてやって来たのがアニキだ。……うん。ここまで説明しても、「お前はいったい何を言ってるんだ」状態の人が大多数を占めるだろう。それで問題ない。当時は僕も訳がわからず、役所のやつらをぶっ殺してやりたいと思ったくらいだから。いや、実際に電話して担当を怒鳴り付けてやったが。先回りして言っておくと僕はゲイじゃない。恋愛相手には普通に女の子希望だ。

 

 ともかく、高校二年の春、段ボールで梱包され、佐川男子(ムキムキ)に運ばれてアニキは我が家へやってきた。全裸で。当初は大パニックに陥ったがあれも今思い出せばいい思い出だ。アニキとなし崩し的に共同生活を始めて早一年。どうしようもないクズでヘタレだった僕もそれなりにましな人間になれたと自分でも思う。これも全てアニキのおかげだ。今の僕にはアニキはもはやなくてはならない相手だった。

 

 僕のフォローでようやく理解の範疇に収まったのだろう。異常データを叩き込まれてハングアップしていたオルコットさんは二度目の再起動を果たすと、再び僕に噛みついてきた。

 

「IS学園に保護者を連れてくるなんて……どこまで過保護に育てられてるんですの!? これだから男は!」

 

 なぜアニキがIS学園に居られるのか。それは僕にも謎だった。IS学園に入学し直すよう政府の役人に指示を受けたとき、随行を直訴したアニキに対して彼らは明確にNoと返していた。それがアニキに押されて物陰に消えてしばらく。戻ってきたときにはOKに変わっていた。いったいあの時何があったのか……。アニキは真摯に筋肉を尽くして会話しただけだと言っていたけれど……。僕には深く聞く勇気はなかった。

 

 まあでも、織斑くんには保護者の姉が教師としてではあるけれど傍にいるわけなので、レアな存在である男子にはケア要員として特例を認めているだけなのかも知れない。心の衛生を保つためにもそう思いたい。切実に。

 

 その後なぜか話は僕とオルコットさんが、実際にISを使った決闘でけりをつけるということでまとまった。

 

(え、なんでだよ!?……クラス代表云々には僕関係ないじゃん!?)

 

 気付いたときには遅かった。さっさと授業に入りたかった織斑千冬先生(織斑くんの姉だ)により、勝負は一週間後の月曜、放課後にきまってしまった。

 

(ア、アニキ! 僕ISなんて一度も操縦したことないんだけど! それでイギリスの代表候補生と戦えって!?)

 

 必死の思いを込めてアニキを見つめる。以心伝心、アニキはその思いを受け止めてくれたのかゆっくりとポージングを”リラックス”へと向けると、ニカッと最高の笑みを浮かべてくれた。ダメだ! 不安しかない!!

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

(ユースケには悪いことしたな。元はといえばおれとオルコットの喧嘩だったのに、とばっちりでアイツのところに厄介事が全部いっちまった)

 

 そんな意図は全くなかったのだが結果として、ユースケに押し付けた格好になってしまった。学園にたった二人の男子なのだ。ユースケとは仲良くやっていきたいと思っている。そのため一言詫びをいれておこうとユースケを探し回っていた。通りすがった生徒に適当に聞いたところ、ユースケはISのトレーニング用の一室を借り受けて、早速打倒オルコットに向けたトレーニングを開始したとのことだった。

 

(不本意な形での戦いだろうに、やる以上は全力で向かうのか。たいしたやつだぜ)

 

 感心しながら教えてもらった場所に向かう。するとそれらしき部屋の扉が見えた。その部屋の前には特徴的な超ロングポニーテールの女子の姿が。

 

「よう、箒。こんなところで何してんだ?」

「なッ!? い、一夏!? なんでこんなところにッ!?」

 

 声をかけると篠ノ之箒、久方ぶりに再会した幼なじみはビクッと肩を跳ねさせ、慌てて振り返った

 。なぜかは知らないがたいそう焦ってらっしゃる。顔も赤い。

 

「いや。おれはユースケの様子を見に来ただけなんだけど……お前こそそんなに扉に張り付いて何してしてんだ?」

「私かッ!? いや、私も偶然通りすがっただけ……」

「そうなのか? それにしては随分……まあいいや」

 

 女子がこういう反応を示しているときは深く追求しない方がいいだろう。触らぬ神にたたりなしだ。ひとまず目的を済ますべくおれも扉へと歩み寄る。するとますます箒の様子が怪しくなるが。

 

「おい。木村に用ならまた改めた方が……」

「いや。いいよ。一言謝りたいだけだし、邪魔になりそうならすぐ退散するからさ」

「そうではなくッ……」

 

 要領を得ない箒の忠告?を無視してドアノブに手をかけたところで、それは聞こえてきた。

 

 

 ――いい汗かいてるっ、流れてるっ!!

 ――ふんっ!ふんっ!

 ――形振り構うなっ、ここはおれとお前だけの世界だ! 何も躊躇うな、思う存分に乱れちまいな! そして、最後まで一緒にイくんだ!!

 ――アニキ! ああアニキッ!! 

 ――イくぞ、ユースケ!! セイヤッ!! 

 ――にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃあぁぁあああああああああああああっ!!

 ――もっとだ、ユースケ! お前のもっとホットなところを見せてくれ!!

 ――どう!? アニキどうかな!? これぇえぇええ!!

 ――ユースケ……すげぇじゃねぇか……だが、こんなもんか? お前の限界はこんなのもんなのか!?

 ――アニキッ! まだだ! ぼくはまだまだイけるよッ! まだこんなもんじゃない!!

 

 

 そこまで聞いたところで慌ててドアノブから手を離す。隣の箒の顔を見る。箒もすごい勢いで顔を横に振っていた。彼女にも何が起きているのか分からないらしい。けれど室内ではなにかとてつもないことが行われている。それだけはわかった。

 

 おれは再びドアノブに手をかけた。箒が信じられないものを見る顔でこちらを見つめている。「まさか? 行くのか!?」そう言いたげな表情だ。確かにヤバイ。この部屋のなかには絶望しかつまっていないのかもしれない。けれどパンドラの箱さえ開けてしまうのが人類だ。怖いもの見たさ。言ってしまえばそれだけのものにおれは突き動かされていた。

 

 そっと……そっと、扉を押し開いた。その先には――

 

 

 まず目には言ったのはケツだった。大小二つの引き締まったケツ。それらが何度も差し出されたり引っ込んだりしながら上下している。しょっぱな、なんの説明もなしに見せられると、なかなかに来るものがある光景だった。やがて全景を理解する。ケツのしたには当然足がついている。肩幅程度に足が開かれ、膝が一定のペースで屈伸する。それはケツの動きと完全にシンクロしていた。ケツが上下するから膝が屈伸するのか、膝が屈伸するからケツが上下するのか。その因果の順番は誰にもわからない。ただただ時を刻むがごとく一心不乱に上下し続ける。これは――

 

「なぜにスクワット……?」

 

 そう。それはまさにヒンズースクワットそのものだった。つま先より前に膝を出さない、尻を突き出しながらも背中を丸めない。それが体を痛めない正しいスクワットのやり方とのことだったが、それは今はどうでもいい。少なくとも怪しい宴が繰り広げられていたわけではなかった。大きいケツはあのアニキという謎の人物。小さいケツはユースケのもの。二人はなぜかパンツ一丁で無心にスクワットを繰り返す。その背中を滝のように汗が流れ、尻を伝って床へと滴り落ちていた。意外だったのはリョースケもかなり鍛えられた体をしていることだ。小柄ながらもその服を脱ぎ去った姿には頼り無さのようなものは感じられなかった。

 

「おっと、どうしたお二人さん。そんなところに突っ立って。なんならいっしょにいい汗流していくかい?」

 

 背後の二人に気付いたアニキがスクワットを止め、こちらを振り返った。なぜかナチュラルにスクワットへ誘ってくる。それは流してどういうことか確認する。

 

「えっと……アニキさん……? 打倒オルコットを目指して特訓を始めたんじゃ……?」

「さん付けなんて水臭え。ただアニキ、とだけ呼んでくれ」

 

 その要望に従うことに抵抗はあったがここで悶着していても仕方がない。要求を受け入れて、呼び方を訂正する。

 

「それじゃアニキ……オルコットに勝つための訓練をするんですよね?」

「ああ。だからスクワットだ」

 

(うん、おかしいね。かなり、おかしいね。その流れ、おかしいよね?)

 

 疑問に感じたことを問いただす前にアニキがドッシリとした声で言った。

 

「筋トレは、「全てを解決する!」」

 

(……うん。確信して言うけど、しないよ絶対)

 

 けれど、そんなおれの思いをよそに先の台詞、後半は未だスクワット中のユースケも声を重ねていた。ユースケも納得して筋トレをしているらしい。本人が納得しているのならそれでもいいかと一瞬なげやりな気持ちになりかけたが、今回の件、元はといえばおれにも責任があるのだ。軌道修正する努力はすべきだろう。

 

「いや。筋トレはいいですけど、もっと効率のいいやり方をしないと、決闘は来週ですよ」

「強さに近道はねぇ。ゆっくりと着実に、一歩一歩だ。慈しみ、育てて初めて美しくタフな筋肉は生まれる。急いだところで意味がないどころか、怪我やバランスが崩れるなど、悪い影響ばかりがで出ちまうだろう。だが、筋トレは確実だ。やったらやった分だけ必ず筋肉は応えてくれる。筋肉は――」

「――裏切らない」

 

 アニキの言葉にまたしてもユースケが呼応する。二人は確かな絆で結ばれているらしい。だからこそやっかいだった。

 

(くそっ。いいこと言ってる風なのが腹立つ。しかも途中、強さから筋肉に目的がすり換わってるし……!)

 

 けれど来週までにオルコットに勝てるようにならなければいけない。しかも勝負はボディビルコンテストでもなければどつき合いですらない。ISを使った決闘なのだ。筋トレがなんの役に立つというのか。

 

「それはもっともだと思いますが……今回はISを使った決闘ですよ。ISがないと勝負の舞台にすら立てませんよ」

「なるほど。そいつは正論だ。確かにISを用意しておく必要があるな」

 

(よかった……ようやくわかってくれた……!)

 

 なんとかギリギリ一線は保った。あとはユースケ自身になんとかしてもらうしかないだろう。一息ついたところで。

 

(……へ?)

 

 おれは驚きに目を見開いた。隣の箒も同様だ。アニキが、まるで手品のようにどこぞからスマホを取り出したのだ。パンツ一丁の男が、である。

 

「ア、アニキ……今、どこから……?」

「あん? ったくよぉ二人はまだまだ若ぇな。いいか、漢には秘密のポケットがいっぱいあるのさ」

 

 そう言うと、どこぞにもしもしと連絡を取りだした。ISを調達しているらしい。

 

(何だよ、漢の秘密のポケットって。アンタ、パンツ一丁なのにどこにポケットが……ってか、物理的にスマホなんて隠しておく場所ないだろ!? そして何でISの調達できるつてがあるんだよ!? 国家で厳密に管理されているはずだろ!?)

 

 嫌な予感しかしない、というか怖くて問いただすことはできなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そして時間は流れ、決闘当日。

 

「逃げずに来たことは誉めて差し上げますわ」

 

 オルコットがフフンと鼻を鳴らす。鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』を纏い、既に臨戦態勢だ。空中に浮かび、ユースケを見下ろしている。

 

「それで、貴方のISはどこですの? あまりレディを待たせるべきではなくてよ」

 

 そう。それに対してユースケはまだISを纏っていなかった。IS用のパイロットスーツだけを身に付けて立っていた。アニキがISを手配していたはずだけど……?

 

「そう焦るなよ。ちょうど今ついたところだ」

 

 オルコットの言葉に、アニキが変わって答える。今日も変わらぬ仕上がったマッチョな肉体をさらし、紅白のストライプが施されたパンツのみを身に付けている。そんなアニキの言葉に合わせるように試合会場に一台のトレーラーが入ってきた。すぐに扉を解放し、ISが一機下ろされる。武者鎧のようなフォルム。両肩に装備された楯が特徴的だ。そのISは――

 

「――打鉄(うちがね)!? まさか私とこのブルー・ティアーズの相手を量産型ISでしようと仰るの!?」

 

 セシリアの驚愕のとおり、そのISは日本純国産の第二世代型IS。なんの変哲もない量産型ISだった。専用機にして第三世代型の『ブルー・ティアーズ』を相手するにはあまりにも役不足に思える。

 

「そう。そういうことですの。負けの言い訳にするつもりですのね。ISの性能差を」

 

 セシリアがそうとるのも致し方ないように思う。けれどアニキは真っ向からそれを笑い飛ばして見せた。

 

「はっ。どこぞのヒョロヒョロのデザイナーからもらっただけの玩具をありがたがるお嬢ちゃんには分からんだろうさ。男の価値はそんなもんじゃ決まらねぇ。それともなんだ、その玩具でお前さん自身は強くなれたつもりかい?」

 

 衣装が立派でも中身が伴わなければ意味がない。アニキは露骨にそう挑発した。

 

「そこまで言うならばいいでしょう! 無様を晒すお手伝いをして差し上げますわ。待って差し上げますからさっさとISを装着なさいな」

 

 激昂したセシリアはそう言うと、ユースケに背を向けた。ユースケがISに帯同してきた技術者に手伝われてわちゃわちゃと身に纏っていく。その様を見ておれはひとつ疑問に思った。

 

「あのー。アニキ、ユースケ随分ISに不馴れなように見えるんですが……始めてじゃないですよね?」

「始めてだぜ。今日が正真正銘のな」

「えッ!? でも前にISの手配をしてましたよね。すぐ手に入るように打鉄にしたんですよね?」

 

 打鉄という選択。おれは間違いだとは思っていなかった。確かにIS自体の性能差はあるだろうけど、それより入手しやすく練習に時間を当てられる機体を選んだのだろう。そう思っていたのだ。だというのに。

 

「ギリギリまで筋トレに時間を当てたかったからな。敢えて今日までISを持ってくるのは待ってもらった。その甲斐あって見ろよ……ユースケのあの体。現時点での最高の仕上がりだぜ」

 

 おれは開いた口が塞がらなかった。確かに打鉄の装甲の隙間から除くユースケの体はパイロットスーツの下からもはっきりと分かるほど筋肉を主張している。けれどそれが何だというのか。ISを調達することが決まってからは、でしゃばるのもよくないだろうと自粛してきたが、そのことを猛烈に後悔していた。

 

 

 そして試合が始まった。それは一方的なものだった。明らかに不馴れな動きの打鉄を上空からのブルー・ティアーズの射撃が追いたてる。打鉄はなすすべなく無様に逃げ回る。30分近くこんなことが続いた。そして。打鉄のシールドエネルギーの残りはわずか。実体ダメージは中破。固定武装もとうに失っていた。それでもなんとか生き残れているのは打鉄の頑丈さ、生存性の高さもあるが、なによりセシリアがいたぶる遊びに終始していたからだ。しかしそれも終わりの時がきた。

 

「そろそろ飽きましたわね。もう止めといきましょう。感謝なさい。ブルー・ティアーズ最高の一撃で葬って差し上げます」

 

 そのISの名の由来ともなった4つの独立したフィン状の自動機動兵器『ブルー・ティアーズ』を展開し、一斉射撃体制にはいるセシリア。自らも銃を打鉄へと向ける。そんな絶望的な状況に、アニキが耳につけたインカムへとユースケから悲痛な通信が飛ぶ。何らかの打開策を求めて。それに対してこれまで黙していたアニキはどっしりとした声で応えた。

 

「ユースケ、いいか。ISは単なる兵器じゃねぇ。お前の体の延長だ。どういうことか分かるか? そうだ。そいつは、そいつも――」

 

『ブルー・ティアーズ』の五つの銃口が輝きを放つ。その時。

 

「お前の筋肉だ!!」

 

 両腕を上にあげ、両拳を外に向ける。かの伝説のボディ・ビルダを象徴するポージング”オリバー・ポーズ”を決めるとともにそう叫んだ。しかし虚しくレーザーは打鉄へ着弾。爆炎が打鉄を包んだ。これは勝負あった。クラスにもう一人しかいない男子の無念の敗北におれは唇を噛んだ。やがて爆炎に続いた粉塵が晴れ、その中から――

 

 

 

 無傷の打鉄が現れた。

 

 

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