もし一輝が出会った人物がサムライ・リョーマではなく気高き碧い猛獣だったら   作:〇坊主

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十一刀‐《雷切》VS《剣士殺し》2

 

 

 男が頭を下げてきたのは事が済んでから1週間が経過した頃だった。

 あの時の気候は大雨。

 傘を差さずにその男は、雨に濡れることなど意に介さず只々(ただただ)同じことを繰り返し告げた。

 

―――弟子にしてくれ、と。

 

 初めは当然断った。

 彼が自分と一騎打ちするために行った行動を考えれば当然の判断だった。

 

 当時綾辻一刀流を教えていた門下生全員に無差別に襲い掛かり、真正面から才能だけで叩き潰す。

 それだけでなく愛娘すらも歯牙に掛けようとしてまで自分との戦いを欲していた。

 ある者の介入があったおかげで無事に済んでいるが、それがなければ自分は病室で一生を過ごしていただろう。

 

 彼には天性の才能がある。

 それは一目見てすぐにわかった。

 ただ力を振るうだけの非行少年であれば俺でも容易に対処できる。

 しかし彼に秘められた才は、20にも満たない年齢ながらも刀に費やしてきた自分の人生を越えようとしていた。

 その才能を潰すのは惜しいと考えてある条件をクリアした場合にのみに限り、綾辻一刀流の教えを与えることを許可したことは英断であったと我ながら思う。

 

 この男は、紛れもない天才だと。

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

『今、私たちは!信じられない状況を目の当たりにしています!ですがこれは夢でもありません!紛れもない現実です!!

 破軍学園最強の《雷切》がッ!

 全試合無傷で勝利を収めてきた東堂刀華選手がッッ!!

 ついに負傷したぁッ!!』

 

「う…うそだろ…?」

「あの…東堂会長が…」

 

 《雷切》の勝利を当然だと思っていた生徒達はその事実に呆然と見つめることしかできなかった。

 これまでの戦いで己の間合いに入った者は例外なく切り伏せていた経歴は伊達ではない。

 応援する者達の中にも、彼女を打ち倒さんと努力を重ねて挑み、敗れていった者達もいる。だからこそ信じられない。信じたくない。

 自分たちと彼女の間に存在し、理解してしまうほどの圧倒的な実力差。

 それが彼らの中で少しずつ積み重なり、一つの諦めを生んでいた。

 

 彼女は自分たちとは違い、特別な存在なのだと。

 どれだけ努力を重ねても、彼女には届かないのだと。

 

 昨年七星剣王となった選手でさえ、彼女の間合いに入らないように徹底して戦っていた。

 優勝者でさえ、彼女の雷切を防ぐことが難しいのだというなによりの証明。

 故に斬り合い(クロスレンジ)を絶対領域とする彼女の間合いは最強なのだと信じていたのだ。

 

 だというのに、真正面から叩き潰されている。

 それがなによりも信じられない。

 

 

『東堂選手相手に先手を取る。これがどれだけ難しいのかは二・三年生(私達)が誰よりも知っている!ですが倉敷選手はそれを見事に成し遂げました!まだ試合は終わっていませんが、これだけは言わせていただきたい!今年の選抜戦は、大波乱だァ!!!』

 

 

(流石だね蔵人)

 

 未だにざわめく観客席で、綾辻絢瀬は静かに座す。

 蔵人が一歩先に進んだことに喜ぶ一輝達とは別に、絢瀬は彼が為したことを反芻していた。

 

(全く同じ動作、そして同じ思考。それを対処しようと刀を振るった会長の動きを見て即座に動きを増やした(・・・・)。唐竹割りと横凪ぎのほぼ同時攻撃…流石の生徒会長でも避け切れなかったか…)

 

 言うのは簡単だが、実行するのは常人には不可能だ。

 しかし倉敷蔵人は伝達信号の速度が0.05秒を割る神速反射(マージナルカウンター)を生まれ持った力を持つ。

 蔵人だからこそできる右手一本で放たれる(・・・・・・・・・)同時斬撃。

 それも不意打ちで放たれたものを初見で受け切れる者など、それこそ数えきれるかどうかだ。隣にいる青年はその数少ない例外なのだが。

 

 父だけでなく蔵人とも鍛えてきたこの2年間で彼女の経験値も大きなものになっていた。

 刀華が迎撃のためにただ刀を振るっただけではないのはわかる。剣士として成長した蔵人もそれを理解したがために霊装《大蛇丸》で受けずに躱したのだ。

 

(綾辻一刀流の神髄は受けの技術。如何なる攻撃でも発生する綻びを見極め、生き残ることに特化した流派だ。攻めながら回避される経験はそうそう出来るものじゃない)

 

 絢瀬も同じ流派の人間。

 彼が為した行動の難しさは理解している。

 

「ははっ…やっぱり蔵人はすごいや…!」

 

 そして友人(一輝)も蔵人の技量を即座に理解し、興奮を抑えきれないのか呟いた。

 

「左上にかけて放たれた斬り上げを確認した蔵人は振り下ろしを瞬時に止めて足さばきを変えた…!多分左足首を軸に逆時計回りに回転をかけながら身体を傾けて横凪ぎに攻撃を切り替えたのかっ!」

「クラウド先輩も凄いけどそれを瞬時に理解するイッキのほうがアタシは凄いと思うのだけど!?」

「流石の観察眼だね黒鉄君、まさしくその通りだよ。《綾辻一刀流二ノ型 御神楽(みかぐら)》。前進しながら足さばきで攪乱し対処するカウンター。それに合わせた同時斬撃を蔵人は実行したんだ」

 

 元々神速反射(マージナルカウンター)であらゆる攻撃に対処することが出来る蔵人だ。

 そこに受けの技術に特化した刀術を学べばどうなるか?

 答えは簡単。無駄な動きがなくなり、今まで以上に行動が冴えわたる。無駄を省けば他に費やせる行動が増える。

 蔵人はそれに同時斬撃という防御不能技を追加したのだ。

 それがもたらした成果は今、目の前で示していた。

 

 

(やられた…っ!!)

 

 斬り裂かれた腹部を押さえながら刀華は自分が仕出かした失態を悟る。

 全く同じ攻撃、全く同じ思考。それに対して深く考えずに刀を振るったことが失敗だった。

 蔵人の発言の意図を汲み取れなかったミスだ。

 

“オレは動きを見てから二・三手変えられる”

 

 まさにその通りの意味だったとは考えが至らなかった。

 そこまで考えての発言であったのかは判断できないが、刀華はそれにうまく乗せられたのだ。

 

(最初の攻撃も初速が早くても単調。これまでの試合もそうだったから、そのような戦い方だと考えてましたが…偽りでしたか…)

 

 彼にとって斬る際の感情なんてものはあってないようなもの。

 すべての運動の根底を司る速度の頂点、それが反射速度。

 他人よりも3倍優れたその能力があれば、その暴力だけで大半を蹂躙できるのだ。

 

「気ィ抜いてんじゃねぇよ《雷切》!さっき教えてやっただろうが。俺は二・三手見てから変えられるってよォ…!」

「えぇ。見事にしてやられましたよ蔵人くん。真正面から傷をつけられたことなんて、師匠達以外では始めてです」

「ッ!」

 

 右手からパチパチと火花が散る。

 訝し気に見る蔵人を他所に、刀華はためらいもなく己の傷口に火花を押し付けた。

 

「~~~ッッ!!」

 

 肉が焦げる臭いが生まれる。

 彼女が右手を離した後の脇腹には先ほど斬られた部分には焦げた部位だけが残った。

 

『な、なんと東堂選手!斬られた場所を斬られた部位に電撃を当てたことで焼いて塞ぎました!』

『最初の一手で傷をつけたその実力、素直に称賛に値するものだね。だけどこれからはそうはいかないだろうね』

『そうなのですか西京先生?』

『当然。アイツにゃそんな生易しい修行は課されちゃいないよ。今の一撃で脳内で生まれてた慢心は消えただろうね。ここからが本番だよ』

 

「…ッ…。これは戒めです。倉敷蔵人という剣士に対して、私は心のどこかで下に見ていたことに対する戒め。…ここからが本番です」

「そうこなくっちゃぁなぁ!!」

 

 刀華の発言にニヤリと笑みを浮かべつつ、身体能力をフルに生かして斬りかかる。

 全力で振るわれる刃を雷速で返しながら戦いは苛烈になっていく。

 

 ここまでとは考えていなかった。

 彼が誇るこの神速反射(マージナルカウンター)は決して映像からではわからない凶悪さを持っている。

 いくら刀華の抜刀術が早かろうと、それを放つよりも先に彼は行動を移してくる。

 《閃理眼(リバースサイト)》がなければ彼の行動を読み切れずにさらに傷を増やしていただろう。

 今でも瞬間的に四連撃が飛んできている。

 居合による斬り上げから身を回転させて斬り落とし、そのまま身体を弾丸のように前方へとねじ込ませる。

 先ほどまで2連撃で済ませていたところに放たれた完全な不意打ち。

 それを自分の身を投げ込ませることで、蔵人が放つ間合いを奪って威力を殺す。

 しかし威力が落ちたといえども鋭い刃が刀華の身体を傷つけていた。

 

「ッッ~~!」

 

 実況の声すらも届かないほどの集中力。

 それでも互角に斬り結んでくる相手に、少しずつながらも、刀華は確実に消耗させられていた。

 

(チッ…)

 

 対する蔵人も内心で舌打ちをする。

 連撃数を増やしたことで確実にダメージを負わせている。

 彼女の腕や腿に掠めて肉を削ぎ取っているのがその証拠だ。

 だが、決定打になっていない。

 それが蔵人を内側から蝕んでいた。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「トウドウ先輩すごいわね…クラウド先輩の攻撃をあそこまで受け切るなんて…」

「うん。2年前とは全然レベルが違う。才能だけじゃあそこまでいかない。しっかりと基礎を身体に覚えさせているから東堂先輩の反撃にも無駄なく対応できてるんだ」

「綾辻一刀流の体捌きを父さんと同レベルで習得した蔵人は、学生の領域は超えてる。昨年の七星剣武祭でベスト3の実力である東堂さんであっても今の蔵人は手に余るはずだ。だけど…」

 

 客席から見ている三人はこの試合を観て蔵人が押している認識で一致していた。

 ステラは蔵人の反射から放たれる斬撃をあそこまで斬り合いで対応できる刀華の実力に目を見張り、一輝はここまで高め鍛え上げた結果に感心する。

 そんな二人とはすこし違う感想を抱いた絢瀬に二人は意識を向けた。

 

「正直な話、斬り合いにおいて一輝君みたいな人外以外では蔵人は世界でも有数の実力者だと思ってる」

「さりげなく僕が人外扱いされたんだけど」

「イッキ。それは現実だから受け入れないと」

「えっ」

「だからこそボクも、そして蔵人自身も予想が外れたよ。《雷切》東堂刀華…、彼女も昨年と比べて明らかにレベルが上がっている。このままだと…」

 

 その発言の意味を一輝が気づく前に、試合は動く。

 

 

 

  ◆

 

 

 

「ォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!

 

 試合を常に優位に進めていた蔵人が突然吠えた。

 攻撃の手を止めて霊装《大蛇丸》を眼前へと移動させ、左手で《大蛇丸》の剣先を握りしめる。

 完全に受けに回っていた刀華も今を好機と斬りかかることはなく、蔵人が行う謎の行動に対して動くことが出来なかった。

 

「全くよォ…正直ここまで長引かせられると思っちゃぁいなかった。綾辻一刀流二ノ型《御神楽(みかぐら)》、三ノ型《東遊(あずまあそび)》。こいつらを理想的なタイミングで放って、それを悉く受け流されちゃぁ堪ったもんじゃねぇ」

 

 蔵人は深くその場で息を吐く。

 先ほどと違って全く攻めに来る気配がない。

 《閃理眼(リバースサイト)》で電気信号を読み取れる刀華も、この瞬間の彼は攻撃しないと理解した。

 それ故に呼吸を整えて反撃のタイミングを計るべく、回復に努める。

 

 だれが見てもそれは傍から見ればただの愚行。

 自らの手を傷つけるその行為に、観客だけでなく、実況解説の西京寧音や試合を観ていた一輝ですらもその意図が分からなかった。

 何よりもこのまま攻撃を続けていれば勝つのは《剣士食い》だろうと、ほとんどの観客が思っていたからだ。

 

「…使う(・・)んだね、蔵人」

 

 ただ一人。

 常に傍で、彼を見ていた彼女(絢瀬)以外は。

 

「本当は、黒鉄をぶっ倒すために鍛えてきた力だ。ヤツと相対したその場で使うつもりだった。まさにとっておきってやつだ」

 

 自分を応援する客席。そこに座る存在を一瞥する。

 自分をここまで変える原因になった存在であり、越えるべき因縁のライバル。

 黒鉄一輝という男を。

 

「だがここまで攻められても本気の力を見せねぇテメェ相手だ。ここで勝てなきゃヤツに勝つ以前の問題になる。だからこそ…出し惜しみはもうしねぇ」

「なっ…!!」

『 !?? 』

 

 その場にいた関係者全員が驚愕する。

 

 バキッ

 

 そんな音を発てながら、蔵人が握る礼装が折れたのだ。

 

 否、それは違う。

 折れたのではない。

 伐刀者(ブレイザー)の魂とも言える固有霊装(デバイス)そのものを、蔵人は自らへし折ったのだ!!

 

「何をしているのですか貴方は!」

 

 刀華はその光景に声を荒げた。

 

 固有霊装(デバイス)とは魂の形。

 自分自身の潜在的なものが数多ある武器の形状となって具現化する世界で同一なものは存在しない、唯一無二の武器である。

 使用者の心が折れない限り、決して壊れるものではない。

 その人間の価値観や美意識、人格や生き方。それらが集まってできた結晶なのだ。

 

 逆に言えば固有霊装(デバイス)が壊れる時とは、使用者自身の心が折れたときとも言っていい。

 

「~ッッ!!貴方は…!この戦いを放棄するつもりですかッ!!?」

 

 先ほどまで圧倒的な暴力で斬りかかってきた相手が、突然敗北を認めるような行動を取ったことに、刀華は激高した。

 確かに自分が押されていたのは事実。

 だがそれでも霊装を壊すほどの愚行を犯されるなど誰が想像できようか。

 試合では常に冷静に相手を分析し、切り伏せる。

 そんな彼女が戦いの中でここまで感情を表すのは初めてだろう。

 

「なぁに言ってやがる」

 

 そんな刀華を見て、心外だと蔵人は言葉を零す。

 

 ここで諦める?冗談じゃない。

 互いに引けない立場で、引けない状況で、余すことなく全力をぶつけた上で黒鉄一輝という男相手に勝利をつかみ取りたい。

 その一心で彼はここまで己を高めてきた。

 血尿が出ようと、内臓が潰れようと、決してこれだけは譲らない。

 

黒鉄一輝(アイツ)を喰らうのはテメェじゃねぇ、この俺だ。だからこそ、この場でテメェを喰らいつくす!」

「ッ!!」

 

 へし折った霊装から光が溢れる。

 握りしめたことで手に刃が埋まり、血が出ようとも意にも留めない。

 

『な、なんということでしょう!?自らへし折った礼装《大蛇丸》が、倉敷選手の手の中で光を放っています!!』

『…ッ!おいおい…まさか…』

 

 試合会場全てを包みこむほどの光量に、目を瞑ってしまう者もいるほどだ。

 

「クラウド先輩…一体なにを…?」

「蔵人から目を離さないであげて。黒鉄君」

「綾辻さん?」

 

「これから起こる全てが、蔵人の想いそのものだよ」

 

 

 礼装から光が溢れ、そして一気に集約される。

 集う場所は剣士の両手。

 天を突かんばかりの輝きが、新たな力へと昇華する!

 

 会場を包んでいた光が収まった時、この場にいた全観客が彼が起こした事の重大さを理解した。

 

『な、なななななんということでしょうッ!先ほど自分自身で破壊した固有霊装(デバイス)が確かに存在します!それも二本(・・)!!幻覚ではありません!皆さんの目がおかしくなったわけではありませんッ!!確かに倉敷選手の両手に、霊装が握られていますッッ!!』

 

 逸脱した状況からいち早く意識を取り戻した解説の月夜見(つきよみ)の声を聞きながら、刀華も理解しきれていない。

 

 かつてはノコギリ刃がついた鉈のような形状をしていた礼装。

 それが今握られているものは両方とも両側に刃がついたものに変わっている。

 

――霊装そのものが変わっているのだ。

 

 常識ではありえない。

 先も述べた通り、自分自身の魂の形が霊装として現れる。

 変化しようがなく、させようがない。

 

 だが眼前の男はそれを成した。

 今わかるのはそれだけだ。

 黒鉄一輝という剣士を打ち倒すべく、今までの自分自身を死に追いやるほどの強い意志と想像を絶する鍛錬を積んだのだ。

 そしてその人生そのものが、これから己を打ち倒さんと襲い掛かってくるのだと。

 

「準備はいいか?」

 

 かけられた声で刀華の意識が戦場へ戻る。

 蔵人が浮かべる獰猛な笑みは変わらずだが、新たな力を刀華(獲物)に向けていた。

 刀華はその意図を察し、小さく笑った。

 

 両者共に互いの予想を大きく上回る実力を備えていた剣士。

 これからのことなど考えない。

 自分の全力をぶつけるために、刀を鞘に納めて構える。

 出し惜しみなど愚の骨頂。

 二つ名を冠するにあたった破軍学園における最強の技。

 

 

「…《雷切》東堂刀華」

「!…綾辻二刀(・・)流 倉敷蔵人」

 

 

「「押して参る」」 

 

 

 互いの想いが交差する――。

 

 

 

碧い猛獣のライバルはいる?

  • 登場してほしい
  • 設定だけ。登場はいらない
  • むしろ別のキャラ出して
  • 混ざりすぎるの嫌だから不要
  • ちくわ大明神
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