もし一輝が出会った人物がサムライ・リョーマではなく気高き碧い猛獣だったら   作:〇坊主

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 連投ではないが漸く《狩人》戦終了。
 一話でぱぱっと終わらせるつもりだったのに、どうしてこうなった… 
 
 


六刀

 桐原が仕掛けた精神攻撃。

 膝が折れるほどではなくとも、確実に一輝へと言葉の刃は届いていた。

 心無い言葉を受け、自分の努力を笑われていることに対して確かな怒りを抱いていることを一輝は自覚していた。

 

 怒りは冷静さを失わせる。

 歯噛みする思いが判断を遅らせ、避けれるはずの攻撃も僅かながら食らっていた。

  

 

「イッキーーーーーー!!!」

 

『『『 !? 』』』

「っ!?ステラ!?」

 

 

 そんな津波のような罵声が突如として裂かれる。

 悪い意味で一体化しかけていた空気が一蹴され、会場にいた皆が叫びの方向へと振り向いた。

 その驚きようは試合を行っていた二人も声の主へ意識を向けてしまうほどだ。

 

 

「イッキ!何をもたもたしてるのよ!アンタはアタシを倒した!それはほかの誰が笑おうが、紛れもない事実じゃない!!『例え恵まれていなくても、己に課した圧倒的な努力が、天才を上回ることを証明する』。それがイッキが決めた想いなんでしょう!?天才、才能、そんな人間の一部でしかない小さなものにしがみつかずに自分の可能性を信じ続けたイッキが、こんなところで負けるはずないじゃない!」

 

 

 出会ってから伝えたことのなかったステラの本心を、皆がいる会場で解き放つ。

 この場で言うのは恥ずかしい?知ったもんか!ここで言わずして、いつ伝えろというのか。

 

 ステラの叫びが一輝の心に響く。

 先ほどまで抱いていた怒りは何処へやら。一輝はこの瞬間、戦っていることを忘れてステラの言葉に耳を傾けていた。

 

 

「イッキがどれだけ辛くても、アタシはイッキの傍で支え続ける!!イッキが苦しいと叫ぶなら、アタシはイッキを励まし続ける!!イッキが諦めないというのなら!アタシは他の誰よりもイッキのことを信じ続ける!!!アタシが憧れた…アタシが好きになったのは、アタシの全てを尽くしたいと想ったのはっ!!いつでも前を向いて、自分自身に誇りを持つ黒鉄一輝という騎士なんだから!アタシの前ではずっと格好いいアンタのままでいなさいよ!!」

 

 

 一輝がどれだけ強く、前向きであっても。心が鋼で出来ているわけではない。

 罵声を浴びれば傷つくし、態度に出さないが理不尽を受ければ心は痛む。

 

 ならば自分が彼を支える柱になる。

 一輝と一緒に歩んでいくために、一輝が目指す場所に、自分も共に行きたいから――

 ステラはありったけの想いを込めて叫んだ。

 

 

「だからイッキッ!!―――勝って!!!」

 

 

 自分の想いが届くと信じて―――

 

 

 

 

「……絶対に勝つ(まかせろ)!!!」

 

 

 

 

 

―――そして、届いた。

 

 

 

 

 

「《一刀修羅》ァァア!!」

 

 

 身体の肉から、血中から、細胞から、一つ一つに有する魔力をかき集めて一瞬の中に燃やし尽くす。

 噴き上がる蒼い焔が一輝の身体から溢れ出る。

 黒鉄一輝が持つたった一つの伐刀絶技(ノウブルアーツ)

 

 その光はこれから一分で、桐原 静矢を倒すという一輝の覚悟が表れた証であった。

 

 

 

『おおっっとォ!黒鉄選手このまま敗北するしかないと思われていたが大きく仕掛けた!!――で、ですがどういうことでしょう!?黒鉄選手の魔力が明らかに上がっています!ステラ・ヴァーミリオン皇女との戦闘で見せたものとは別ものの様です!?い、一体これは…』

『…ついに切ったか。これはクロ坊が持つ伐刀絶技(ノウブルアーツ)、《一刀修羅》さ。通常で用いれるすべての魔力を体内の全組織から引っ張り出して、たった一分に凝縮して用いる一発限りの超大技。この技の後、クロ坊が持つ魔力は尽き果てるだろうね。――だが逆を言えば、クロ坊はその一分で決着をつけるつもりだよ』

 

 

 桐原一辺倒の流れが急変したことで、実況のトーンが跳ね上がる。

 ステラとの闘いではほんの一瞬だけ用いたが、本格的に使うのはこの試合が始めてだ。

 そのため情報が少ない《一刀修羅》を解説役の西京 寧音(さいきょう ねね)が補足したのだが、その内容に司会進行の月夜見は言葉に詰まった。

 

 たった一分。

 

 その一分で一輝が桐原を倒すのだと理解した瞬間に、月夜見は言葉を張り上げる。

 彼女も《狩人》による狩りの凄惨さに辟易していたのだ。

 明確な言葉にはしないが、内心で応援する熱を実況へと載せて、大衆へと言葉を投げた。

 

 

 

「…キミの魔力が上がることはボクだって承知さ。だけどなんだい?一分?たった一分だって?クク、ハハハハハハ!!おいおいおいおい。笑わせないでくれよ?ボクの《狩人の森(エリア・インビシブル)》が、魔力をたった一分間あげるだけのそんな技に負けるわけがないだろう?出来もしないのに格好いいところを見せたいんだろうけど、らしくもないことをするんじゃないぜ?落ちこぼれさん」

 

 

 そうだ、その通りだ。

 確かに《一刀修羅》では桐原の《狩人の森(エリア・インビシブル)》は破れない。そんなことはわかっている。

 一輝が行いたいことはもう一つのほうだ(・・・・・・・・)

 

 

「~~―――ッッッ!!はぁぁああああっっ!!」

 

 

 《一刀修羅》で生み出された魔力を、霊装能力である“身体能力の倍化”に全て回す。

 通常では2~3倍程度で収まるだろうが、伐刀絶技(ノウブルアーツ)により、その効果を数十倍にまで高める。これならば、使える!

 

 

「―――行くよ桐原君。これが、今の僕が放てる…最強の技だ!」

 

 

――――八門遁甲

 

 

第六(・・) 景門(・・)…解!!」

 

『…おいおい、マジかよ!?あいつ、すでにそこまで!?』

 

 

 八門遁甲とは魔力を使って強引に体内のリミッターを外すことで身体の潜在能力を引き出す奥義。

 《一刀修羅》で強固にした身体を、そこからさらに倍加する!

 

 さらなる一輝の変化に驚愕する一同を他所に、一輝はすぐに行動を開始する。

 大けがを負ったこの状態では、一秒すらも惜しいのだ。

 霊装《陰鉄》を口に咥え、森の外へと瞬時に飛び出る。

 そこは戦闘範囲ギリギリの位置であったが、今の一輝にはちょうどいい。後ろを見ている暇はない。

 

 中継をしているカメラからでは突然一輝の姿が消えたようにしか見えなかっただろう。それほどまでの速さ。

 動揺する生徒たちの中に、一輝が桐原を詰みにかかったことを理解できたのはどれほどか。

 

 

 拳を空へと放つ。

 貫かれた太ももから血が滝の如く出てくるが、そんなことは気にしない。

 

 

――放つ。

―――放つ。放つ。

――――放つ。放つ。放つ。

 

 

 大気を叩く正拳の嵐。そのあまりの速さに腕が見えない。

 次第に拳を振るうたびにドッ、ドッ、ドッ、と大砲を放っているかのような音が響く。

 その音に生徒達が気づいてすぐ、森の端から膨大な衝撃と共に焔の津波が現われた。

 

 

「朝孔雀!!!」

 

 

 放つ拳が空気との摩擦で炎を宿し、空気を叩く衝撃波と炎で相手を破壊するその光景は、まるで孔雀羽のよう。

 《狩人》が誇る狩猟場は瞬く間に飲み込まれ、十秒とかからずに焦土と化す。

 一輝が拳を振るうのをやめればそこは試合前と同じ更地があった。

 

 

「……………………は?」

 

 

 自分の狩場が瞬きの間もなく消滅した。

 その現実に桐原の脳が追いつかない。

 その姿はまさに呆気にとられたと表現するのが相応しかった。

 それは迷彩が一瞬ぶれたことに気づいてすぐに攻撃へと移った一輝に気づかなかったほどに。

 

 

「これで終わりだ―――桐原君」

 

 

 先ほどの攻撃で戦闘不能にならなかったのは奇跡といっていいだろう。だが、それが幸運とは限らない。 

 腹部に痛みを感じ、意識を戻せば己はすでに宙の上。

 そして背後から聞こえてきた声の主は、がっちりと桐原の体を両腕で固定した一輝の姿。

 

 

「――、ま、待ってくれよ黒鉄君!やめようよ!もうやめよう!!こ、こんな高さから落とすなんて正気か!?大変なことになるだろ!?普通じゃないってこんなの!?どうかしてるって!!?だからやめよう!そ、そうだ。ジャンケンで決めよう!それがいいよ!ボク達は友達じゃないか!?」

 

 

 すでに桐原は頭から地面めがけて落下している。

 その結果が生み出す答えに桐原は恐怖し、一輝に対して話し合おうと語り掛けるが聞き耳なんて持たない。

 

 試合開始前に死ぬ覚悟を問うてきたのは誰だったか。

 生身の刀を相手に向ける時点で、一輝は斬る覚悟と斬られる覚悟は済ませている。

 だからこそ、戦場で相手に容赦はしない。

 桐原の足掻きを完全に封じたままきりもみ回転を加え、脳天を地面へ叩き落とす!

 

 

「――表蓮華ェッッ!!!」

「ヒ、ヒィィイイイイイ!や、ヤメロォォオオオオ!!わかった!ぼくの負け、僕の負けでいい!!だからやめてくれぇぇえええ死ぬのはいやだぁぁぁああああ!!!」

 

 

 彗星が落ちた。

 

 そう表現したいほどの衝撃が大気を叩いて観客たちの髪を揺らす。

 一輝が叩き落とした場所は土埃が舞い、リング全体に亀裂が走る。

 

 会場そのものに攻撃してきたのではないかと思ってしまうほどの衝撃。土埃が静まり、観客の眼が釘付けになる。

 煙が晴れたそこには地面ギリギリで衝突を免れた桐原の姿と、両足で今の衝撃を受け切った一輝の姿がそこにはあった。

 桐原はすでに意識がなく、恐怖の表情のまま泡を吹いて倒れてはいるが、先ほど一輝が蹴り上げたところ以外に目立った外傷はない。

 

 

(――――僕もまだ、修行が足りないな……)

 

『桐原 静矢、戦闘不能!勝者、黒鉄 一輝!!』

 

 

 レフェリーの宣言を聞き入れながら、一輝の意識もそのまま沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、くーちゃんどうするんだい。これからクロ坊は」

「どうするもこうするもない。アイツはアイツが信じる道を進んでいくだけだ」

「そうじゃねーよ、わかってんだろ。アレはやばいってこと(・・・・・・・・・・)

 

 

 全身から血を噴き出して倒れこんだ一輝をIPS再生槽へとぶち込んだ後、先ほど解説をしていた西京 寧音は理事長である新宮寺 黒乃へと問いかける。

 黒乃も寧音が言いたいことを理解しているのか、咥えていたタバコを右手でもって煙をそのまま空へとあげた。

 

 

「はっきり言わんでもわかってるさ。奴に学園の卒業条件を叩きつけたのも今のが理由だ。そして黒鉄のやつが戦闘をする際は常に戦闘態勢(・・・・)でいるのもそれが理由。私は理事長という立場でいるのは《七星剣武祭》の優勝と、それによる学園の腑抜けた空気をとっぱらうためだ。で、ある以上は私から言及することは何もない」

「おいくーちゃん。うちとくーちゃんの仲だ。多少のことは許すけどな、それは教師として最低な判断だぞ」

「それはあくまでも教師としたらの話だ。人としてなら話は違う。“碧い猛獣”自らが託した技である以上、私個人の意見で使用禁止など烏滸がましい」

 

「…――死ぬぞ。クロ坊は」

「死なんさ」

 

 

 寧音の言葉を黒乃は真正面から切り伏せる。

 考えの間もなく、言い放った黒乃に寧音は驚いた様子を見せる。

 

 

「黒鉄一輝。確かに少し前までならその可能性もあっただろう。六門まで開いた時点でな。だけど今は違う。お前は知らんだろうが、もうアイツは一人ではない。自滅なんて馬鹿な真似はしないさ」

「……あの皇女サマ…か。っかー!!そこまで信頼してるなんて、流石くーちゃんのお気に入り。うちも妬いちゃうわー」

「べ、別にお気に入りというわけではない。それにお前は妬くなんて歳じゃないだろうが」

「っぐぉうッ!」

 

 

 茶化してくるライバルに対して投げた言葉は思いのほか突き刺さったようだ。

 あどけない少女のような相貌から、幼い印象を受ける彼女も黒乃の同年代。立派な大人なのだからと指摘すれば、頬を膨らませて睨んでくる。

 

 

「…くーちゃんそれ言っちゃうぅ?流石に戦争だよ?」

「ぬかせ。言いたいことがそれだけならさっさと次の解説役をやってこい。私とて暇じゃないんだ」

「ちぇーっ。まいっか。うちもクロ坊がどんな結果を生むのか気になるところだし、何よりも妹弟子がさっきの試合を観てからというもの血気だってるからねぇ。からかいにいってやるかー」

「仕事しろ」

 

 

 絡んでくる奴を適当にあしらうと仕方がないといった風に部屋を後にする。

 騒がしい存在が完全にいなくなったのを確認して黒乃は溜息をついた。

 

 

「――禁術(・・) 八門遁甲の陣…か。確かにこれ以上にないほど黒鉄に見合ったものだが…全く、先生(・・)も厄介なものを授けたものだ」

 

 

 今回の一件を気に、七星の頂にふさわしい力を持つ者達は全員気づいただろう。

 そして記憶したはずだ。黒鉄一輝という名の騎士の存在を。そしてその異常性を。

 これから《落第騎士》と称された青年は、ただの《落第騎士》には決して戻ることはないだろう。

 それだけ彼が用いた技術は大きな影響を与えるもの。

 

 なぜならそれは世界で秘匿される才能の限界を打ち破った者、通称 魔人(デスペラート)

 その領域へ素人が足を踏み入れる可能性があるほどの、危険なものであるからだ。

 これから世界は彼から目を離さないだろう。

 

 だがそんな苦境を越えて一輝が信ずる忍道を成すことを、タバコを灰皿でつぶしながら黒乃は思うのだった。

 

 

碧い猛獣のライバルはいる?

  • 登場してほしい
  • 設定だけ。登場はいらない
  • むしろ別のキャラ出して
  • 混ざりすぎるの嫌だから不要
  • ちくわ大明神

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