玉藻のはお触り程度ですが、スカディはガッツリとバレンタイン礼装バレするので注意してください。
バレンタイン。それは自分の恋心や感謝の気持ちを相手に贈る素敵な日。
私は生まれて初めてバレンタインというイベントに参加する。別にバレンタインを知らなかったわけじゃないけれど、ただ渡す相手がいなかったのと当時のカルデアはそういったイベントをする事がなかったからだ。
けど、今回は違う……。何て言ったって初めての友達である立香くんとマシュがいるから!!!これはもう腕によりをかけて作るしかない!気合いは!十分です!
「おい栞、何故部屋の中心でガッツポーズなどしている?」
「あ、スカディ様。いえ、これからの事に向けて気合いを入れてました」
いけない、スカディ様がいる事をすっかり忘れていた。もちろん、スカディ様のチョコも用意するので本人には内緒だ。「こういうのはサプライズ性が大事なのですぞ」とシェイクスピアさんも言っていたから間違いない。
「そういえば、今年はチョコが用意出来ないそうだ」
「えっ、そ、そんな……」
「なんでもチョコに必要なカカオが調達出来なくなったとかなんとか……」
血の気が引く感じがした。チョコがないなんて、そんなの困る。それではみんなに作れない……!
「まあ、栞には関係あるまい。用意出来ないのは『サーヴァント用プレーンチョコ』だ。栞には普通の製菓チョコで十分であろう」
それを聞いてホッとした。それなら問題なく作れそうだ。でも、サーヴァントのみんなが作りたくても作れない状況なのはなんだか悲しいものがある。
「サーヴァントのみなさんは普通のチョコで作ってはいけないのですか?」
「去年は普通のチョコで作ったらしい」
「じゃあ……!」
「だが、サーヴァントの魔力にあてられ暴走し、チョコが逃げ回ったそうだぞ」
「────」
逃げる?チョコが?
去年の今頃は確か私はまだ眠っていたから……。
眠っている間になんて愉快なイベントが……。
「は、早くサーヴァントのみなさんのチョコが手に入ればいいですね」
私には目を逸らしながら言うのが精一杯だった。
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……酷い目にあった。私は参加していなかったので詳しい事情は知らないけれど、どうやらセミラミスさんという方の所でチョコを生産して、その生産量が膨大な数になり、カルデアがチョコの海に沈みかけたのだ。……うん、意味が分からない。
私も廊下を歩いていたらチョコの波に襲われて溺れそうになった。ちょうどサーフィンをしていたモードレッドさんが引き上げてくれたから良かったけれど、あのままチョコの海で溺死してたらと思うとゾッとする。
でも、まあ、サーヴァントのみなさんがチョコを手に入れて喜ぶ姿を見たらこれで良かったと、思い、たい……なぁ。
今は用意したチョコを渡しに行く為にカルデア内を歩いていた。
いちおう、それぞれ個別に用意したけれど、立香くんとマシュのお菓子だけこれといったものが決まらず、お菓子の詰め合わせみたいになってしまったのが少し心残りだ。これはもう来年へのリベンジだと私の心の中で決定した。
2人へのチョコは量が多くて少し重いので、あとから渡す事にして、まず玉藻達を探す事にした。
「ご・しゅ・じ・ん・さ・ま♡」
「うひゃぁ!キャ、キャスター!?」
玉藻がもにゅっと背後から私の胸を鷲掴みしながら抱きついてきた。し、心臓に悪い……。
「はい、貴方の可愛い良妻狐タマモちゃんです!」
きゃぴっと可愛らしくポーズまで決める玉藻にため息を吐く。カルデアに召喚されてからスキンシップが過激になってきたように思う。いくら注意しても止めないので半分諦めてきている。
「ところでご主人様、今日は何の日かご存知ですか?」
「……バレンタイン、ですよね。玉藻の分もありますよ、はい」
「キャー!ありがとうございます~♡」
狐耳を嬉しそうにピコピコさせながら受け取ってくれた。そういう所は本当に可愛いと思う。
「大事に食べますね!あとこちら、私からご主人様へのバレンタインチョコです。味はもちろん、見た目も拘りましたので、是非ご堪能くださいませ」
「ありがとう、玉藻。開けてもいい?」
「はい、ぜひぜひ!」
出来るだけ丁寧に包装を取り、蓋を開けると中から艶々と輝くチョコが9つ入っていた。どれもデザイン違いで1つ1つ丹精込めて作られた事がよく分かる。
「キレイ……」
「ありがとうございます。味の方は部屋に戻ってから堪能してくださいましね」
「はい!」
玉藻と別れ、立香くん達を探す。玉藻とも早くに会えたのだから、このまま順調に会える気がする。
────と、私は長年暮らしていながら、カルデアの広さとサーヴァントの数の多さを甘くみてしまっていたのだ。
「………………会えない」
渡したいサーヴァントには何とかほぼ全員渡す事が出来た。けど1番会いたい立香くんとマシュには会えず仕舞いなのだった。部屋にも訪ねたが生憎と留守だった。
「……どこかで入れ違ったのかな」
あっちもあっちでサーヴァントに渡し歩いているのだろうし、どこかで入れ違った可能性は十分高い。……もしかしたら今日は諦めた方がいいかもしれない。
とりあえず貰ったチョコやお返しの品を1度部屋に置きに行こう。数的には変わらない筈なのに何故か行きよりも沢山な気がするのだから不思議だ。大きさの問題かな?
少し現実逃避をしながら床を見ながらトボトボと歩く。楽しいイベントの筈なのに何だか溜め息を吐きたい気持ちだ。
「栞!」
「ひゃあっ!」
突然大きな声で呼ばれて、驚き顔を上げると私が今1番会いたいと思っていた2人がいた。
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「スカディ様、ただいま戻りました!」
「おかえり。その様子だと無事、会えたようだな」
「はい!」
ニコニコしながら貰ったケーキやチョコを冷蔵庫に仕舞う。そして冷凍庫からスカディ様へのバレンタインチョコを取り出す。喜んでくれるだろうか。
「はい、スカディ様。ハッピーバレンタインです」
「うむ、受け取ろう。……おお、これはチョコアイスだな。さすが栞、私の事をよくわかっている」
スカディ様は「では早速」と、スプーンでアイスを掬いパクリと嬉しそうに口にする。味わうように口をモグモグしていると目がキラキラと輝き出した。どうやら気に入ってもらえたようだ。
「……っ!栞、このアイス、いつもと食感が違って美味いぞ!」
「ありがとうございます。実はですね、それ手作りなんです!」
「て、手作りだと!アイスは作れるものなのか!?」
驚きながら私と手元のアイスを交互に見る。いつもは凛としていてカッコいいのに、ふとした時に可愛らしい反応を見せるのだから、堪らない。この反応が見たいが為に、彼女が喜ぶ事をついつい探してしまうのだ。
私は戸棚に入れてた物を取り出し、おもむろに机の上に置く。
「こちらアイスクリームメーカーです。前に興味本位で通販で買ったのを思い出して引っ張り出してきたんです」
アマゾネス・ドットコムは頼りになります!
「ふわぁあ……。栞、私はこれから毎日お前の手作りアイスを所望する!」
「え、さすがに毎日は……。せめて週1にしてください」
「むぅ……。いや、そうだな。こういうのはありがたみが大事だからな。週に1度のアイスの日……。うむ……うむ、なかなか悪くない」
うっとりしながら、もう週1のアイスに心踊らせるスカディ様に苦笑が漏れる。これは忘れたら大惨事になりそう……。
「──あっ、すっかり忘れるところだった。ほら、私からお前にだ」
スカディ様からの小包を受け取り、許可を取ってから開けると、アイスキャンディ──のようなものに見える。
「ただのアイスキャンディ……じゃないですよね?」
「ああ、それは氷に魔力で味をつけたものだ。私のいた場所でこれを我が子らへ配り歩いた事もある。お前は私の愛する我が子同然────というわけではないが、まあ、なんだ、似たような扱いはしているからな、うん」
「ふふ、ありがとうございます」
照れ臭そうに話すスカディ様に嬉しくて笑みが溢れる。それに対してスカディ様は「あまり笑うでない」と、少し拗ねたように、またアイスを口に運ぶ。
「せっかくなので私も週1でアイスキャンディをいただきますね」
「……そうだな。一緒に食べよう」
また1つ楽しみが増えた。そんな素敵な日になれた気がする。