いつもよりガバガバ設定です。
微睡みの中、意識がだんだんはっきりしてくる。
ああ、もう起きないと……。またマリーに怒られてしまう。
寝惚けながら、目を擦りながら上半身を起こす。すぐ近くに人の気配がして、そちらに振り向く。
誰かが起こしに来てくれたのかな。
「おはようございます、ご主人様。お目覚めになられたのですね」
「…………え?」
驚きで目を見張った。
目の前には狐耳に桃色の髪、露出の高い青い着物を着た美女がいたのだ。
あちらは、親しげに話しかけてきたが知らない人のはずだ。こんな特徴的な人、一度でも会えば忘れることなど出来ないだろうし……。
それに、彼女が今しがた発言した「ご主人様」が気になる。ここには、私と彼女しかいないからご主人様とは私の事だろう。
けど、そう呼ばれる理由がわからない。ここは、思いきって本人に聞くのが一番だろう。
私は、可愛らしく小首を傾げる彼女に顔を向ける。
「あの、貴女はどちら様でしょうか?」
「なんと!?先程契約したばかりなのに、もうお忘れですか!?私、ショックです……」
ヨヨヨ…と、着物の袖で口元を隠し座り込んだ。
何か知らないけど傷つけてしまった。
それにしても、上品な見た目と違い、愉快な人だ。
というか契約?本当に私と彼女は一体どういう関係なのだろうか。
……だめだ。全然何も思い出せない。
そもそもここは何処なのだろう。カルデアじゃない。学校の教室のようだ……。
とりあえず、いささかわざとらしい反応だが、傷つけたのには変わりない。謝らなければ。
「ごめんなさい。本当に何も思い出せないんです。ここは何処で、私と貴女はどういう関係なのか教えてもらえませんか?」
彼女は泣き真似を止めて、私をまじまじと見つめる。
「むむ、その様子だと本当に何もおぼえてないようですね。……かなりギリギリでこちら側に来たので記憶が飛んでしまったのかもしれません」
「こちら側?」
「えー、こほん。……改めて説明させていただきますね。まずここは月の聖杯戦争の会場、霊子虚構世界通称『
聖杯戦争、サーヴァント……。つまり私は彼女のマスターになっているみたいだ。
月の聖杯戦争ということは、ここは月なのかな。月の中に学校だなんて……不思議。
あの後の説明で、月の聖杯戦争は私の知る聖杯戦争とは大きくかけ離れている事がわかった。
そして、敗北は死に直結しているという事も……。
「ご主人様の様子を見るに夢を見ている状態に近いかと……。本来は肉体、精神、魂の三要素を霊子化するのですが、ご主人様は精神と魂の半分がこちら側に来ている状態。なので、地上のご主人様の肉体と残りの魂が目覚めれば、ここにいるご主人様の精神は引っ張られていくので、聖杯戦争の最中に目が覚めて帰る事も可能だと思います」
えっと、つまりは現実の私が起きればわざわざ優勝しなくても、無条件で帰れるって事でいいのかな……?
「それなら、敗退して目を覚ますという方法は……」
「恐らく無理かと。敗退すればもれなく他の方々と同じ様に電脳死すると思いますので、あまりその方法はオススメできませんねぇ……」
残念ながら、わざと敗退して帰る事は出来ないみたい。
それなら、もう勝ち進みながら自然と目を覚ますのを待つしかない。
生きて戻らないと……。マリーやゼムルプスくん、みんなの安否が気になる。
「……わかりました。では、私が目を覚ますその時までよろしくお願いします、キャスター」
「はい、もちろん。不肖キャスター、誠心誠意マスターをお守りいたします」
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あれから何とか3回戦まで勝ち進む事が出来た。
……まさかサーヴァント相手の戦いよりも、アリーナのエネミーに苦戦するとは思わなかったけど。
それについてキャスターは、「紙装甲、紙装甲なのですぅ……!」と悔しそうに言っていた。
正直ここまで来れたのは奇跡なのだと思う。キャスターの耐久力の弱さとかではなく、私のサポート力の無さの事でだ。私はウィザードではないから当然ではあるけども、コードキャストなんて1つも覚えていない。
その事を1回戦の時に気づき、なんとか勝利した後キャスターから必死な顔で手を引かれ、購買部まで一直線だった。その時購買部の人は酷く驚いていた。それはそうだろう、目の前で死ぬ人を間近で見た私は顔面蒼白で今にも死にそうな顔をしていたから。
この件は礼装を買い終えて、マイルームに着いた時にキャスターが謝ってくれた。
「申し訳ございません、ご主人様。本来ならばマイルームで、すぐに休むべき所を無理矢理連れ出したりして……」
「そんなに頭を下げないでください、キャスター!あれは私を想っての行動なのでしょう?……むしろ私がもっと早く気づくべきだったんです。確かにあの時は辛かったけど、キャスターに何もサポート出来なくてただ見てるしかなかった時も辛かった……。もし、それで、キャスターを失う事になったらと思うと私、私……」
私は顔を俯き、手を思いっきり握り締める。本当に自分が情けない。キャスターから始めに聖杯戦争の敗者はどうなるか聞いていたのに、戦うのに必要な術を忘れていたなんて。自分が死ぬだけなら自業自得で諦めるけど、こんなにも尽くしてくれるキャスターを裏切る様な事だけはしたくなかったのに。
だんだん力強く握り締める手をそっと包みほどかれていく。顔を上げると、キャスターがすぐ近くまで来ていた。
「ありがとうございます。ご主人様が私をそこまで想ってくださってると分かっただけ、とても嬉しいです。思えば私はご主人様の事を何も知りません。どうか、私にご主人様の事を教えていただけませんか?」
「……はい!」
今回初めてキャスターとちゃんと向き合えたのだと思う。
微笑むキャスターはとても綺麗だった。
閑話休題。
今は4回戦に向けてのアリーナ攻略も一段落して、食堂に来ている。始めの頃に比べると大分人が減って寂しく思う。それでも今日はいつもより人が集まっているのか沢山の席が埋まっていた。先程から赤いドレスの少女を連れて、麻婆豆腐を乗せたトレーを持った男の子が少し困った様に席を探していた。
あ、目が合った。
…………。
「あの、よければそこ座りますか?」
「いいのか?」
「はい、困った時はお互い様ですし」
「ありがとう」と言いながら、私の前に座った。
……この麻婆豆腐よく見たら、死ぬほど辛いと一部のマスターの中で話題に上がっていたやつだ。私も興味があったけど「旦那様の正常な舌を守るのも良妻の務め!」と、キャスターに必死に止められて食べた事がなかった。……うん、何故か旦那様にグレードアップしていた。たまにキャスターがわからない。
「?どうかした?」
「はっ!す、すみません。人の食事をまじまじと見てしまって……」
「いや、気にしてないけど……。君は俺と親しくしてくれるんだな」
「へ?」
思わず変な声が出てしまった。けど、彼が言いたい事はなんとなく分かる。1回戦の前までは、敗北したら本当に死ぬと考えてた人間があまりいなかった。だから話しかけたら大体の人が気楽に会話してくれた。1回戦後は死を意識する人が一気に増えて、軽い雑談ですら嫌がる人も増えた。
実は1回戦後こうやって私と会話してくれる人は彼が初めてだったりする。
変な声を出した事を誤魔化す為、一度「こほん」、と咳払いしてから彼の疑問に答える。
「そう、ですね。私は他の皆さんと違って優勝が目的ではないからでしょうか」
「優勝が目的じゃない?」
「はい。ちょっと特殊な事情がありまして…。優勝は本当に目指してる人がなったらいいと思います。」
「本当に目指してる人……」
流石に事情までは話せないけど、正直な気持ちを話す。
彼はちゃんと私の話を聞いて、考えてくれている。きっと真面目で優しい人なんだろうな……。
「……私は貴方が優勝すると思っています」
「……俺が?」
「はい。……なんとなくですけど」
本当に勘というか、私の願いだ。そうだったらいいな、ぐらいの。でも本当に優勝するならこの人だとも思う。
理由が特にないのに、こんな気休めの言葉なんて相手に失礼だと今更ながら気づき、謝る。
「こんな事、急にすみません」
「いや、ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」
「──そなた、先程から黙って聞いていたが……」
「は、はい?」
彼は許してくれたけど、それまで黙っていた少女が重々しく口を開く。怒らせてしまったのかと、体が強張る。
「奏者を褒めるとは──よくわかっておるではないか!うむ、優勝を目指す気がないと聞いた時は耳を疑ったが、別とは言え目的があるなら納得した。存分に励むがよい!」
「はぁ……」
何故か激励された。自分のマスターを褒められたからなのか、あほ毛が嬉しそうにピコピコしているように見えるのは気のせいだろうか。
彼は少女の方を苦笑して見た後、私の方に向き直った。
「その目的、自分に出来ることがあったら言ってくれ。手伝うよ」
私に手伝いを申し出てくれるのを見て、やっぱり彼は優しい人だと改めて思う。
「ありがとうございます。でも今は祈って待つ事しか出来ないので、お気持ちだけ貰いますね」
「そっか。あ、名前を聞いてもいいか?また会えたら話したいし……。俺は岸波白野」
「雪白栞です。また会えたらぜひお話しましょう」
こうして彼──岸波白野くんとの何気ない交流が始まった。
キャス狐にご主人様と言われたいだけの人生だった……。
長くなりそうなので分割しました。おそらく後半は短い。
EXTELLAプレイしたはずなのに精神と魂と体のそれぞれの重要性が微妙にわかってない感。
あとEXTRAのシナリオがもう曖昧でCCCとごっちゃになっている様な気がしなくもないです。
それにしても1回戦だけとはいえ、キャス狐で縛りプレイとかドMとしか思えない所業ですね。