栞は月の事はあまり覚えていません。夢の内容を正確に覚えてる事は少ないと思うので。その人物に会ったら思い出せる程度です。
■地味にマシュの一人称間違ってました。
目覚めと記録
目を開けると知らない男の子が驚きと喜びが混じったような顔で覗き込んでいた。
「…………だれ?」
思わず声に出す。私の声は随分と掠れていた事に密かに驚く。
男の子は私の声を聞くとハッとした様な顔になり、慌て出す。
「ド、ドクター!ドクター!!栞さんが起きた!!」
男の子は興奮したまま部屋を飛び出し、大声でドクターを呼びに行った。
今まで何だか長い夢を見ていたような気がする。具体的には月の海みたいな……。
長い事眠っていたせいか、全然関係ない事を思考していた。
暫くして、男の子とドクターが慌てて部屋に入って来た。
「ああ、栞ちゃん!よかった、目が覚めたんだね!」
ドクターは涙目になりながら喜んでくれた。
そこからは怒涛の勢いで、ドクターを含めた何人かの医療スタッフの人達が私の細かなバイタルの確認等を行った。
今は一段落して、検査結果が出るまで休憩を貰える事になった。
「いやー、でも本当によかった。このまま起きないじゃないかってハラハラしてたよ」
ドクターのほわほわとした雰囲気に、私も何だかほわほわとした気持ちになる。ドクターのこういう所は本当に素敵だと思う。
2人で和やかにお茶をしていたら「ドクター!今、入ってもいいですか!」と、元気な声が聞こえてきた。
聞き覚えのあるそれは、恐らくあの男の子の声だろう。
ドクターも軽く「どうぞー」と返すと、ドアが開き入ってくる。男の子1人だけかと思ったら、もう1人いたようだ。そちらは何度か話した事がある、キリエライトさんだった。
2人仲良く私とドクターの前に並んで、背筋をピンと伸ばしている。何だか緊張しているようだ。
「あ、あの!今時間があるなら自己紹介したくて!」
「わ、わたしも、お互い知っている身ですが、改めて挨拶をしたいと思いまして!」
確かに自己紹介は大切だ。私はすぐに了承して、自己紹介を始めた。
男の子の名前は藤丸立香と言うらしい。
「藤丸くん、キリエライトさん。これからよろしくお願いします」
「あの、栞さん。俺、出来たら名前で呼んで欲しいな」
「ダメ?」と首を傾げる姿は、なんとなく可愛らしく見えた。断る理由もないので、提案に頷く。藤丸……、立香くんはとても嬉しそうに笑った。名前1つでここまで喜ぶなんて、純粋な子だなあ。
「栞さん!さっそく呼んで!」
「立香くん、でいいですかね?私もさん付けじゃなくていいですよ」
私のその言葉に、ますます嬉しそうに笑うのだから不思議だ。
私と立香くんの様子を見ていたキリエライトさんも「わたしも!わたしも是非名前で呼んでください!」と挙手して、頬を赤らめながら言った。それはもちろん構わないのだが、彼女はこんなにも感情豊かな少女だっただろうか?
「あの、マシュ。失礼な事を聞きますけど、そんなに明るい子でしたっけ?」
私の記憶の中の彼女はどことなく、人形染みた感じがしたのだけど……。
マシュは首を傾げながら「わたしは変わりないと思いますが」と言った。それに同調する様に、立香くんも「マシュとは、会った時からこんな感じですよ?」と言っているので、もしかしたら私の記憶違いなのかもしれない。
「でも、よかったですね。人類最後のマスターである先輩以外に、マスター候補である栞さんが目覚めた事は戦力的にもとても良い事ですし」
「人類最後……?」
マシュの言葉に疑問を覚える。立香くんが人類最後のマスターとはどういう事だろうか。他のマスター候補の人達は、Aチームの人達は、──ゼムルプスくんはどうなってしまっているのか。
どういう事かとドクターの方を向くと、「しまった」とでも言うように慌てていた。
「あー……、マシュ?実はその話まだしてなくて、ね……」
「え?──え!」
マシュはそこで自分が何を言ってしまったか気づき、可哀想なくらい顔を青ざめ両手で口を覆う。きっと私も同じぐらい青ざめていると思う。
立香くんがマシュと私を交互に見て「とりあえずマシュを落ち着かせてくる」とマシュを連れて部屋を出た。
「……あの、栞ちゃん?マシュも悪気があった訳じゃ」
「はい、分かっています。ドクター、今のカルデアの状況、教えてください」
ドクターは躊躇う様子を見せたが、少しして状況を説明してくれた。レフ教授の裏切り、何者かによる人理焼却、マスター候補達の凍結保存、マリーの死……。挙げれば切りがないくらい、色々な事が起こっていた。
ドクターは「ちょっと待ってて」と、部屋を出ていく。
少しすると、タブレットを持って戻ってきた。
「栞ちゃん、よかったら今までの記録見るかい?」
「……いいんですか?」
「もちろん」と頷きながら、渡してくれたので受け取る。ドクターは「見終わった頃にまた来るね」と、部屋から立ち去った。
私は手に持ったタブレットの電源を入れ、映像記録のファイルを開く。
オルレアンの聖処女とフランスを駆け抜ける姿。
薔薇の皇帝とローマを駆け抜ける姿。
太陽を沈めた海賊と海を駆け抜ける姿。
どれもが1つの物語なのではないかと、思ってしまうぐらい彼らの旅は壮大だった。
とても現実とは思えない旅を、彼らは実際に歩んだのだ。
……私はこれからこんな凄い旅に行かなければいけないのか。
あの事故が起こる前に心配していた事が現実になるなんて。何も覚悟できていないのに。
1人で後ろ向きな思考をしていると、扉からノックの音がした。ドクターが来たのだろうか。
「……どうぞ」
「あ、記録全部見終えた?終わったら召喚部屋に連れてきてって言われたんだ」
部屋に入って来たのはドクターではなく、立香くんだった。とてもあんな戦いから勝ち抜いて来たとは思えないほど普通に見える。
「……凄い」
つい思った事が口に出る。立香くんにもしっかり聞こえてたみたいで「えっ」と驚いた顔で見つめてくる。
「あ、その……あんなに戦って、頑張って凄いなーって……。す、すみません」
自分でも何を言ってるか分からないような言い訳をしていると、急に立香くんに手を握られる。驚いて顔を見るとキラキラとした喜びを全面に出したような顔をしていた。
「俺の事、褒めてくれてるんだよね?……嬉しい。俺、凄く嬉しいよ!」
私が褒める事で、何故こんなにも喜んでくれるのかは分からないけど、彼が嬉しいならそれでいいのかもしれない。
そろそろ召喚部屋に行きませんかと伝えれば、部屋に来た目的を思い出したのか「そうだった……」と、少し照れながら召喚部屋に連れていってくれた。
召喚部屋に向かう最中、立香くんと話して少し忘れかけてたが、自分に戦えるか分からない不安が大きくなっていた。
本当は戦いたくないけど、そんな我が儘が言えるほどここに余裕はない。
立香くんだって頑張っているのだから、自分も頑張らないと……。
でももし、もし誰も召喚に応じてくれなかったら……。
そんな事ばかり考えてるうちに部屋に着いてしまった。
部屋に入るとドクターやダヴィンチちゃん、マシュが待っていた。
「あ、来たね。君が目覚めて本当によかったよ。本当はもっと話したいところなんだけど、今は召喚が先だからね。はい、これ呼符。君の為に用意したんだ。ぜひ、使ってくれたまえ」
久しぶりに会うダヴィンチちゃんから呼符を受け取る。そのまま本に挟んでも問題無さそうな見た目だ。
「よし。じゃあ、その呼符をそこの装置に置いて。……うん、それじゃあ作動させるよ!」
装置が作動してサークルが青く輝き出す。輝きはどんどん増していき、慣れない光の強さに思わず目を瞑り顔を背ける。
光が収まった頃、目を開けると立香くん達が唖然とした顔をしていた。慌ててサークルの方に目を向けると私は愕然とした。
そこには──誰も何もいなかったのだ。
5章の途中までなんとなく話は出来ているけど、いつの間にか話の内容がコロコロ変わりそうで怖い。百合が書きたいのに書けない。ぐぬぬ……。