プリムラの花束を   作:雪苺

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立香、キレる。





藤丸立香は守りたい

あの日からほぼ毎日物資調達という名の私の戦闘訓練が行われた。さすがに毎回タマモキャットを連れて行けないのでどうしようかと思ったが、エミヤさんと頼光さんを含めた3人がそれぞれ交代で参加するという事で解決した。

 

エミヤさんは皮肉めいた口調が目立つが、物資調達初日の人数集めの時に参加してくれようとしていた姿を知っていたので、根は優しい人と分かっていたから特に気にならなかった。面倒見もいいのか、よく私に戦闘時のサポートのアドバイスをしてくれる。まさに頼れる優しいお兄さんのような人だ。

 

頼光さんは優しく微笑む姿が印象的な人だ。狂化のせいかマスターである立香くんを我が子と認識しているようだけど、基本的にはいい人なんだと思う。戦闘においてはこれ以上ないぐらい頼りになるとても強い人。だけど、その、ちょっと不思議な行動にたじろいでしまう事もある。

 

あれは初めて頼光さんが参加した日の事だった。

軽く挨拶をしてから握手をすると、いきなり頼光さんが私の手を自分の方へと引き寄せた。突然の事だったので私はそのまま頼光さんの体に寄りかかる体勢になってしまった。

 

「ふふっ、あなたはとても良い匂いがしますね」

 

「甘い匂いです」と私の首筋に鼻を近づけて頼光さんは言った。同性とはいえ美女の顔が間近にあるのは凄く心臓に悪い。ドキドキする。

 

「ああ、本当に甘い。匂いだけで酔ってしまいそう……

。────あの虫が好みそうな香りです」

「ひぇっ……」

 

さっきまで甘い声だったのに、急に殺意を含む低い声に変わったのに驚き、体が震える。怖くてとてもじゃないが顔を見る事が出来ない。数秒前と違う意味で心臓がドキドキしてる。

 

私の震える姿に見かねたネロさんが止めてくれる。

 

「おい頼光、いい加減殺気を収めよ。栞が怯えているではないか」

「……ああ、すみませんつい……。栞さんもすいません。でもいいですか栞さん、虫……いえ鬼の類いには気をつけてください。恐らく栞さんの匂いはあの虫が好む香りです。まあ、我が子の大切な友人である栞さんに近寄ろうものなら私が即刻首を切り落としますが。」

「はぁ……」

 

殺意が収まった事への安堵と突然のよく分からない忠告に生返事しか出来ない。私、どんな匂いしてるんだろう。

 

「大体そんなに臭うか?香水にしては、些か薄くもあるが……淑女が嗜む程度の甘い香りではないか」

「薄い?むしろ強めだと思いますが」

 

ネロさんも同じ事を思ったのか頼光さんに聞いていた。けどネロさんの言葉にも首を傾げる。だって私は香水使っていない、というか持っていない。2人の言う匂いがさっぱり分からない。

 

「それは香水ではなく、栞の魔力の匂いであろう」

 

今まで静観していた始皇帝さんが口を開く。私の匂いの正体を知っているように答えた。

 

「む、魔力か?魔力に匂いがあるなど、余は聞いた事がないぞ」

「何事にも例外はあろうよ。感じる匂いの強弱については朕も知らんがな。まあ、何かしらの条件でもあるのだろう」

 

「ちなみに朕も薄く感じる程度だ」とさして興味無さそうに言った。そして「今日は海に行くぞ!獲れたての魚介でバーベキューだ!」と始皇帝さんが言い出したので、結局この話はそのままうやむやに終わった。

 

この日カルデアに戻ってから何人かのサーヴァントに匂いについて聞いた。ダヴィンチちゃんとエミヤさんは「全く分からない」、ブーディカさんは「薄く感じる程度」との事だった。タマモキャットからは「いつも通り美味しそうな匂い、食堂に入って来たらすぐにわかる」と少し分かりにくい解答なのでなんとも言えない。結局香りを感じる条件は分からずじまいである。

 

この数日間本当に英霊達と一緒にいて楽しいと感じた。始皇帝さんがレイシフトに連れ出されなかったら、まだうじうじと部屋に引きこもっていたかも知れない。あの人には本当に感謝ししてもしきれない。

 

だからとは言わないけれど、私は初日にドクターが話していた事を忘れていたのだ。

 

気を付けなさいって毎回言われていたのにいつも大丈夫だからって安心しきっていたのだろう。慢心していい事なんて普通はないと分かっているのに。

 

「────何、してるの?」

 

そこには立香くんが信じられないものを見るような目でこちらを見ていた。今まで見た事がない感情が全て消えてしまったのではと思ってしまうぐらい、今の彼には表情がなかった。

背中に冷や汗が流れる。どうして彼がここにいるのだろうか。だってまだ修復は終わってないはずなのに……。

立香くんは表情が変わらないまま私に近寄る。その間誰も動けなかった。

 

「ねぇ、何してるのって聞いてるんだけど」

「あの、これは」

「なんで栞がレイシフトしてるんだよっ!!!」

 

立香くんの怒鳴り声に足がすくむ。彼は今、本気で怒っている。マシュも立香くんの怒りに驚いて動きが止まったままだ。周りのスタッフ達も立香くんがここまで怒るとは思わなかったからか、酷く動揺している様子だった。

立香くんは私の両肩に手を置く、恐る恐る顔を見れば泣きそうな顔をしていた。その顔を見て、ようやく気付いたのだ。立香くんは本気で私を心配しているのだと。

 

「栞は今サーヴァントと契約出来てないんだよ!?何かあったらどうするんだよ!」

「ご、ごめんなさい。でも、私……」

 

────少しでも立香くんの助けになりたくて。

 

口に出そうになった言葉を飲み込む。こんな事言えるわけがない。私の勝手な思いを立香くんに押し付けたくない。

黙り込む私の言葉の続きを聞く為か立香くんも黙った。肩に置く手はだんだん力がはいってきてるせいで痛く感じる。そっと私の背後から立香くんの手を覆うように被せる人物が来た。

 

「これこれ、そのぐらいにせぬか。少し冷静になって栞の姿を見よ。可哀想な程震えているぞ?」

「……あっ」

「栞に執着していたのは知っていたが、よもやここまでとはなぁ。元はと言えば朕が栞を連れ出したのだ。もうこれ以上責めてやるな」

 

始皇帝さんが話ながら立香くんの手を優しく離させた。

そして立香くんに諭すように語り続ける。

 

「其方はいささか過保護が過ぎる。栞もじきに特異点での戦いに赴かねばならないのだ。今のうちに慣れさせるのが栞の為でもあろう。事実今まで問題なくこなしているぞ」

「…………へぇ、今回が初めてじゃないんだぁ」

 

ただ一言余計だった。

なぜ何度も行っている事を自分から話してしまったのか。始皇帝さんも言ってから気付いたのか「しまった、失言した」と呟いていた。気付くの遅いです。

 

また怒らせてしまったかとハラハラしながら立香くんを見たが、当の本人はしばらく私を見てから大きなため息を吐いた。そして仕方ない子を見るような顔で話す。

 

「……ちょっと怒り過ぎたね。とりあえず俺の部屋で話そうか。……大丈夫、もうあんな風に怒ったりしないから」

 

「他のみんなも驚かせてごめんなさい!」と言う立香くんは、その時にはもういつものように元気よく笑っていた。

 

 

立香くんは私の手を握って立香くんのマイルームへと歩いた。お互い無言だったから少し気まずい。部屋に着いてからは優しげな顔で私の方を向き、椅子に座るように告げた。言われた通り椅子に座って待つと、立香くんはお茶の用意をしてから向かいの椅子に座った。

 

「まずは何から話そうかな……。うん、とりあえずあの時何を言いかけたのか聞きたいな」

「それは、……言いたく、ないです」

「どうして?」

「だって、私の勝手な思いを立香くんに押し付けるだけだから……」

 

膝に置いている手を強く握る。これ以上私と仲良くしてくれている立香くんを失望させたくないから。

 

「──それでもいいよ」

「え?」

「それでもいいから、話してごらん」

 

立香くんは優しく微笑んでいた。「友達に遠慮なんかいらないよ」と言う立香くんに私は躊躇いながら少しずつ話し出す。

 

「……わ、私、少しでもいいから立香くんの役に立ちたかったんです」

「うん」

「特異点の修復には参加出来ないから……。始皇帝さんから戦闘の訓練をしていったら私の召喚が失敗した原因が分かるって言われたんです。それで少しでも早く原因を解明して、召喚出来るようになったら、立香くん達と一緒にレイシフトが出来ると思って、それで……」

「……うん」

「もし原因が解明出来なくても、物資を集める事で立香くんが普段こなしている事の負担を減らしたかったんです……」

「……そっか」

 

1度口にすると、止まらなかった。立香くんは私の言葉を否定する事なく、ただ優しく、嬉しそうに頷いていた。

 

「……立香くん、嬉しそうですね」

「え、そりゃあ大好きな友達が俺の為に頑張ろうとする話を聞いて嫌な思いする奴なんかいないよ」

 

顔が熱くなるのを感じる。友達と言われるだけでも嬉しいのに、大好きとか……なんて言うか嬉しいやら恥ずかしいやらで胸がいっぱいだ。

 

「ホントはね、栞には戦わないでいて欲しかったんだ」

「それは……足手まといだから?」

「違う違う。俺が帰って来た時にめちゃくちゃ褒めて欲しいからっていう単純な理由だよ。だから召喚失敗した時少し安心したんだ。栞が戦いに行かなくて済むからって。……でも、そうだね。今の栞には戦うなって言う方が酷だよね」

「はい、私はみんなと戦いたいです」

「うん。俺も栞と一緒に戦いたい──近くで栞を守るよ。もちろん、マシュの事も!」

 

立香くんにこんなに心配されていたなんて全然気付かなかった。1つだけだけど彼の方が年下なのに。私って頼りないな……。

 

「そういえば召喚失敗の原因はわかったの?」

「あ、えっと、始皇帝さんは私の心が原因としか……」

「心ねぇ……」

 

立香くんは眉を寄せ、腕を組んで考え込む。しばらく考えてたみたいだけど、答えが出なかったのかため息を吐きながら体勢を崩した。

 

「うーん、ダメだ!俺には分かんないや。もしかしたら始皇帝は原因を全部分かってるのかもしれないけど、あの人の事だから栞自身に気付かせようとしてると思うし、教えてくれないよな」

「やっぱり、そうですよね」

 

始皇帝さんは原因の答えを知っている。でもヒントを教えてくれても答えは教えてくれない。まるで子どもの勉強を見る先生か親のようだ。

 

そういえば立香くんはロンドンの特異点はいいのだろうかと今さら気付いた。

 

「り、立香くん。ロンドンはもういいんですか?」

「え?あ、うん、修復終わったよ。そっか、栞は別の所にレイシフトしてたから知らないんだった……。まあ、詳しい事はまたダヴィンチちゃんかロマニにでも聞いてよ」

 

どうやら心配なかったようだ。今立香くんが話してもいいのでは?とは思ったけど、立香くんに「今色んな事でわりと混乱してるから、ヤバいとしか言えないよ?」と言われたので大人しく明日ダヴィンチちゃん辺りに聞く事に決めた。

 

そろそろいい時間なので自分の部屋に帰る事にした。立香くんは部屋まで送ろうか?と聞いてくれたがカルデア内でそう危険はないだろうからと断った。

部屋から出て、歩きだそうとする私を立香くんが呼び止めた。

 

「あのさ、明日もう1回召喚してみない?」

「明日ですか?」

「うん。なんとなくだけど今の栞なら召喚出来る気がするんだ」

「……そうでしょうか」

「まあ、マスターの勘だけどね」

 

立香くんは頬を掻きながら苦笑した。

はっきり言って自信はない。けど、立香くんがそういうのなら挑戦するのも悪くないのかもしれない。

 

「私、やってみます」

「わかった。じゃあ明日マシュと一緒に迎いに行くね!」

 

「おやすみー!」と言いながら大きく手を振る姿につい笑ってしまう。私も小さく手を振り替えしながら部屋へと戻った。

 

例えどんな結果でも久々に立香くんとマシュと一緒にいられるのは嬉しい。私は明日を楽しみに眠りについた。

 

 

 




文がおかしかったりしても直すのはとりあえず4章全部書き終えてからにします。
コメディが欲しい。
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