戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第二章/邂逅×存在を赦されない存在④

 

 

「ちょせぇええッ!!」

 

 

 バババババァッ!と、クリスの両手に握る大型ガトリングガンの銃口が火を噴き、バットイレイザーの身体に無数の銃弾が浴びせられていく。

 

 

 しかし、バットイレイザーは両腕の羽根で自身を覆ってクリスの放つ銃撃を受け止め、そのまま勢いよく羽根を広げて凄まじい突風を発生させると共に銃弾を跳ね返すだけでなく、クリスをも強風で吹っ飛ばしてしまった。

 

 

「グッ、うぁああッ?!」

 

 

「まだッ!」

 

 

「てぇやああああああッ!!」

 

 

 強風で吹き飛ばされるクリスと入れ替わるように、今度は調と切歌がそれぞれ左右に散開してバットイレイザーへと飛び掛り、左から調のツインテール部分の装甲に備わる円形の鋸が、右から切歌が大きく振りかぶった大鎌の刃が挟み撃ちをする形で襲い掛かるが、バットイレイザーはそれらをも左右に伸ばした腕で難なく受け止めてしまう。

 

 

「くうッ!」

 

 

「こんのぉおおッ!」

 

 

『姦しい……!雑魚が私の手を煩わせるなァあッ!!』

 

 

「うあぅッ?!」

 

 

「がはぁッ!」

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 左右から挟み込む二人の得物を力づくで払い除け、まるで踊るように身を翻したバットイレイザーの素早い蹴りが調と切歌の腹を蹴り飛ばして弾丸の如く吹っ飛ばす。

 

 

 其処へ背後から右の拳を振りかざす響が雄々しい雄叫びと共にバットイレイザーに殴り掛かるが、それもバットイレイザーに振り向き様に片手で受け止められてしまい、それでも残った左拳で続けて殴り掛かるもやはり受け止められ、響の顔が険しげに歪む。

 

 

『まだ分からないかっ……!貴女たち如きでは私の身体に傷一つ付けられない、足掻いた所で無駄な抵抗にしかならないとッ!!』

 

 

「ッ……だとしてもっ、目の前で傷付けられる誰かに背中を向けて逃げ出すなんて私には出来ないっ! 倒せる可能性が例え0でも、この手を伸ばして救える命があるのなら守り切るっ!その為の拳っ、その為のシンフォギアだぁああッ!!」

 

 

『囀るなッ!!筆を振るえば消える命如きがぁッ!!』

 

 

 未だ闘志を絶やさない瞳で力強く叫ぶ響の言葉を煩わしいと吐き捨て、バットイレイザーは容赦ない前蹴りで響の腹を蹴り飛ばしてしまう。

 

 

 「ぐぁうっ!」と苦悶の声を漏らして吹っ飛ばされる響を追走し、バットイレイザーがその鋭い爪で響の身体を引き裂こうと振りかざすが、それを阻むように真横から黄金に煌めく剣……クロスが伸ばしたスパークスラッシュの刃がいきなり割って入り、バットイレイザーの爪を受け止めた。

 

 

『ッ!クロスゥッ!』

 

 

『ぜぇえああッ!!』

 

 

 左手の剣でバットイレイザーの爪を受け止めたまま、右手に握るスパークスラッシュを振るってバットイレイザーに斬り掛かるクロス。

 

 

 だがバットイレイザーも咄嗟に身を引いて紙一重で斬撃をかわしながら後退し、それを逃すまいと追い掛けるクロスの双剣と目にも止まらぬ速さで両手の爪で打ち合っていくが、徐々にクロスの方が剣を振るう速さで上回っていき、爪を弾かれて仰け反るバットイレイザーの隙を突きクロスがすかさず双剣で相手の喉を狙うも、バットイレイザーは寸前の所でその身を再び無数のコウモリと化してクロスの一撃から逃れてしまう。

 

 

「ま、またコウモリになったデスよっ!」

 

 

『ッ……!』

 

 

 あの姿になられてはこちらも攻撃しようがない。

 

 

 コウモリの大群となって散らばるバットイレイザーの勢いに圧されて切歌や他の装者達も各々が腕で顔を庇い立ち尽くすしか出来ない中、クロスは何かを探すかのように忙しなくコウモリの大群を見回すと、大群の中に一箇所だけ多くのコウモリ達が密集する部分を見付け、その奥に他のコウモリ達に守られるように囲まれる一体のコウモリ……他の黒い体色の個体と違い、赤みがかった紫色のコウモリの姿を捉えた。

 

 

『……アレか……!赤い銃使い!あの辺一帯を飛ぶコウモリを高い火力で纏めて吹き飛ばせないか!』

 

 

「はあッ?!何だよ急に?!っつーか、あたし等の攻撃は奴に通じねぇって──!」

 

 

『ダメージは通らなくてもノックバックは通る!いいから急げ、頼む!』

 

 

「ッ……!ああっ、クソッ……!こうなりゃヤケだぁッ!!」

 

 

 クロスに言われるがまま、彼が指差す地点に目掛けて腰部アーマーから立て続けにミサイルを射出し、続けて両腕のガトリングガンでミサイルを撃ち抜き故意に爆発を起こすクリス。

 

 

 それにより凄まじい勢いで巻き起こった爆風がコウモリ達の大半を攫って吹っ飛ばし、周りに纏わり付いていた他のコウモリ達を剥がされた紫色のコウモリに目掛けてクロスが素早く疾走し、両手のスパークスラッシュを構えた。

 

 

『?!な、何ぃッ?!』

 

 

『デェエアッ!!』

 

 

 爆風に怯んでいた隙に迫るクロスを見て慌てて逃げ出そうとする紫色のコウモリに接近し、クロスは双剣による斬撃を次々と叩き込んで紫色のコウモリを吹っ飛ばした。

 

 

 そして紫色のコウモリが地面に叩き付けられるようにゴロゴロと転がると共に、その姿が無数のコウモリに化けていた筈のバットイレイザーへと変化し、周囲を飛び回っていた他のコウモリ達もまるで幻のように消滅していった。

 

 

「コ、コウモリが消えた?」

 

 

『グッ!な、何故私をっ……?!『本体』が別にいると気付いたっ?!』

 

 

『……俺がお前達の気配を追える事は、さっきお前自身も口にしていた筈だぞ。最初に今の能力を目にした時も、あのコウモリの大群からお前の気配を察知する事は出来なかった……其処から推察して、お前がまだ何か隠しているだろうと考え付くのは当然だ……』

 

 

 だから二度目は注意深く観察してお前の気配を探り、本体が別にいた事に辿り着いたのだと語り、クロスは右手の剣をバットイレイザーに突き付ける。

 

 

『こうしてタネを明かした今、あの能力ももう通じない……覚悟してもらうぞ……』

 

 

『ぐううううぅっ……!頭に乗るなぁッ!!』

 

 

 最早後はないと突き付けるクロスの宣告に激昴しながら、乱雑に振るった右腕から無数の光弾をばら撒くように放つバットイレイザー。

 

 

 それを見てクロスも咄嗟にその場から飛び退き光弾を回避し、その隙にバットイレイザーは体勢を立て直す為に上空に逃げようと両腕の羽根を羽ばたかせ宙に浮くが……

 

 

「逃がさないッ!!」

 

 

『……なあ?!』

 

 

 そうはさせまいと、響がすぐさまバットイレイザーに飛び掛かって両足にしがみついた。そして両腰のバーニアの噴出口を真上に向けて全力で火を噴き、バットイレイザーが飛び立てないように地上へと徐々に引きず落とそうとする。

 

 

『き、貴様ァッ!!放せぇええッ!!』

 

 

「調ッ!!」

 

 

「うん!」

 

 

 バットイレイザーが両足にしがみつく響を必死に振り落とそうとする中、その隙に切歌と調が互いにアイコンタクトを送り、バットイレイザーの頭上へと一息で跳び上がる。

 

 

 そして空中で調のアームドギアのヨーヨーを切歌のアームドギアの鎌の柄の先に接続し、巨大な刃が付いた車輪状に変化させ、勢いよく回転させながらバットイレイザーに目掛けて突撃していく。

 

 

―禁合β式Zあ破刃惨無uうNN―

 

 

『んなっ──グッ、ぬぅああああああッ!!』

 

 

「うわわっ!」

 

 

 切歌と調のユニゾン技である刃の付いた車輪がバットイレイザーに直撃し、バットイレイザーの身体を車輪の回転で切り刻みながら吹っ飛ばしていった。

 

 

 無論ダメージ自体はないだろうが、仕切り直しを阻まれたバットイレイザーはそのまま仰け反るように吹き飛び、響も慌てて両手を離して何とか体勢を整え地上に着地する中、其処へすかさずクロスが超速度で接近してすれ違い様にバットイレイザーの左腕をスパークスラッシュで切り捨てた。

 

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!わ、私のっ、私の腕がァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?』

 

 

 地面に思いっきり叩き付けられながらも、左腕を切り落とされた痛みの方が勝って片腕を抑え悶え苦しむバットイレイザー。

 

 

 そして地面に着地したクロスは踵を返して地べたで這いずり回るバットイレイザーに悠然と歩み寄り、スパークスラッシュの切っ先を首元に突き付けて淡々と告げる。

 

 

『片腕の羽根を失えば、もう飛ぶ事も叶わないだろう……これで本当に詰みだ……』

 

 

『ギィイイッ!!きっ、さまぁアアアアアアッ……!!』

 

 

『命まで取られたくなければ素直に答えろ……お前に指示を送った連中は何者で、何が目的だ……奴らは今何処で何をしている……?』

 

 

 返答次第ではこちらも容赦はしないと、剣の切っ先をより首元に突き付けながら脅しを掛けるクロス。

 

 

 その様子を響達も不安と心配が入り交じったような表情で見守る中、バットイレイザーは憎悪の眼差しでクロスの顔を睨み付けて叫ぶ。

 

 

『ゆる、さないっ……許さないっ……許さない許さない許さないッ!!貴様如きが私のっ、私が漸く手に入れた羽根をよくもォっ!!貴様なんかにィイイイイイイイイッッ!!』

 

 

『……お前の許しなんて必要ない。それより、俺の質問に──?』

 

 

 バットイレイザーの恨み節も無視して再度質問を投げ掛けようとするクロスだが、その時、足元に妙な揺れを感じて訝しげに下を見る。

 

 

 足の裏に感じる地震のような振動。其処には足元に転がる瓦礫が小刻みに震え、破片が幾つも宙に浮いては粉々に砕け散るという異常な光景があった。

 

 

『これは……?』

 

 

『あぐっ、ギッ……ギギィッ……ガギッ……!!ギィィアアアアアアアアアアアアアッッ……!!!!』

 

 

「──ッ!蓮夜さん危ないッ!逃げてッ!」

 

 

『!』

 

 

 その異常にクロスが僅かに目を見張る中、背後から悲鳴にも似た響の叫び声が聞こえて思わず顔を上げると、目の前で倒れるバットイレイザーの身体から突如エネルギーが溢れ、凄まじい勢いで衝撃波が放たれた。

 

 

 それに対してクロスも咄嗟に両腕を交差させどうにか衝撃波を受け止めて踏ん張るが、それ以上は踏み止まる事が出来ず吹っ飛ばされてしまい、何とか空中で体勢を立て直して着地しバットイレイザーを見据えると、衝撃波を放ったバットイレイザーの身体から無数の火花が撒き散り、不気味なオーラが立ち上っていた。

 

 

『っ、アレは……』

 

 

「あ、あれって確か、この前のノイズイーターの時と同じ……?!」

 

 

「姿が変わる奴か?!」

 

 

『ゥエエエアガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

 

 獣のような咆哮を上げてエネルギーの嵐を巻き起こすバットイレイザーのその姿から、三日前に彼等が戦ったノイズイーターの変貌を思い出してクロス達が嫌な予感を覚える中、バットイレイザーの身体がメキメキッ!と嫌な音を立てて膨張していき、目に見えて骨格が変わっていくのが分かる。

 

 

 身体全体が筋肉質な巨大な姿に変化し、クロスに斬られた筈の左腕が生えて生成された禍々しい姿……。

 

 

 赤い瞳が不気味に輝き、白い吐息を吐き出しながら異常な姿に変貌したバットイレイザーは徐に身を起こし、クロスだけを赤い眼で捉え真っ直ぐ見据えていく。

 

 

『ゴ、ロ……ジテヤルゥウウウウウウッ……!!!!キサマダケハァアアッ……ワタシノテデェエエエエエエッ……!!!!クロスゥウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウウウゥゥッッッッ!!!!!!』

 

 

「れ、蓮夜さんッ!!」

 

 

『ッ!』

 

 

 ズシンッ!!と重々しく地を踏み締め、憎悪の込められた雄叫びと共にクロスに目掛けバットイレイザーが勢いよく突っ込んでいく。

 

 

 猛スピードで迫るその様はまるで10トントラックを彷彿とさせ、まともに受ければこちらが危ないと悟ったクロスが咄嗟に左へと跳んでバットイレイザーの突進を回避すると、バットイレイザーはそのまま方向転換も出来ず建物に突っ込んで壁を破壊するだけでなく、その凄まじいパワーを物語るかのように建物そのものを崩壊させてしまった。

 

 

「な、何だよあの馬鹿力はっ?!」

 

 

「ビルが一撃でペシャンコになったデスよっ?!」

 

 

(ッ……また形状が変わった……どういう事だ?何故今までになかった変化がこうも立て続けにっ?)

 

 

『ウゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』

 

 

 建物を一撃で粉砕してみせたバットイレイザーの強靭な力を目の当たりにして響達の間でも動揺が広がり、クロスも先日のノイズイーターに続いて急激にパワーアップしたバットイレイザーの変化に困惑を露わにする中、建物が崩れて舞い上がる粉塵の中から勢いよくバットイレイザーが飛び出し、再びクロスに向かって突進を仕掛けてくる。

 

 

 思考に浸っていたクロスは我に返り慌てて身を翻しバットイレイザーの突進を回避すると、左腰のカードホルダーを開いて一枚のカードを取り出す。

 

 

(っ……奴は目に見えて理性を失っている……これ以上の問答は無意味にしかならないか……仕方がない……)

 

 

 一目で最早正気ではないと分かる様子で暴れ回り、発狂するバットイレイザーから情報を聞き出すのは不可能であると見切りを付けたクロスは腰のバックルから立ち上げたスロットにカードを装填し、掌でスロットを押し戻した。

 

 

『Code Blaster…clear!』

 

 

 ベルトから電子音声が響くと同時に、クロスの纏う装甲がパージされて宙に浮き、朱色から青く角張った分厚い装甲に変化してクロスに纏われ、複眼の色も黄色に変化すると共に右手に青白く輝く銃剣が出現して握られていく。

 

 

 再度変わったその姿は、装甲が青く角張った重装甲の鎧と黄色の複眼、右手には青白く輝く銃剣、ウェーブブラスターを手にした姿……高火力と防御力を兼ね備えたパワータイプの形態である『仮面ライダークロス・タイプブラスター』へとタイプチェンジし、バットイレイザーに向けてゆっくりと歩き出していく。

 

 

「また姿が変わった……?」

 

 

「アイツ、まだあんなの隠し持ってたのかよ……!」

 

 

『グウゥゥゥゥゥッ……!!ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』

 

 

 新たに未知の形態へと姿を変えたクロスを見て装者達は目を見張り、バットイレイザーは獣のような唸りから大地を揺るがす程の雄叫びを上げ、クロスに向かって構わず突進して拳を振りかざした。

 

 

 が、クロスは振り下ろされた拳を防御も回避もせずにその分厚い装甲だけで受け止め、ズザザザザザァッ!と僅かに後退る足で踏み止まる。

 

 

 そして右手に握るウェーブブラスターの銃口をバットイレイザーの脇腹に突き付けて引き金を引き、放たれた銃弾でバットイレイザーを二十メートル先の建物まで吹っ飛ばし壁に叩き付けていった。

 

 

「イレイザーを一発で吹き飛ばした……!」

 

 

『グァアアッ!!?ガッ……ァアアッ……!!?』

 

 

 あの巨体を銃の一撃だけで吹っ飛ばしたクロスの力を見て響達も驚きを浮かべ、バットイレイザーも脇腹に走る激痛に顔を歪めながらも何とか身を起こそうとする中、クロスはウェーブブラスターの銃身のパーツを三枚の羽根のように外側に展開して砲撃形態に変形させていき、バットイレイザーに照準を定めながら左腰のホルダーから取り出したカードをバックルに装填していく。

 

 

『Final code x…clear!』

 

 

『ウ、グゥウッ……グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』

 

 

 電子音声が鳴り響くと同時に、ウェーブブラスターの銃身周りの三枚のパーツがまるで風車のように回転し始め、銃口に青白い光の粒子が収束して徐々に巨大なエネルギー弾を形成していく。

 

 

 それを見てバットイレイザーも本能的に危険を察知したのか、クロスが銃口に収束する光弾のエネルギー量を肌で感じて一瞬怯み掛けるも、それを振り払うように咆哮を上げながらまるで暴走トラックの如く勢いで駆け出しクロスに両手の爪で襲い掛かる。

 

 

 そして、迫り来るバットイレイザーを前にクロスは動じる様子もなくウェーブブラスターの標準を定めたまま静かに引き金を引き、銃口から勢いよく放たれたエネルギー弾が大気を切り裂いてバットイレイザーの胸を撃ち貫き、巨大なXの記号を刻み込んだ。

 

 

『ッ!!!?ガッ……ァッ……!!!?』

 

 

『……それがお前のエンドマークだ』

 

 

『ウグァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアアァァァッッッ!!!!?』

 

 

 銃剣を持つ腕を徐に下ろしたクロスが静かにそう呟いた瞬間、バットイレイザーは悲痛な断末魔を上げて身体の内側から爆発を起こし、跡形も残さず完全に消滅していったのであった。

 

 

「や、やったデス!イレイザーを倒したデスよ!」

 

 

「良かった……今回も何とかなったね」

 

 

「……まあ、あたし等は殆ど裏方だったけどな……」

 

 

 爆散したバットイレイザーの撃破を見届け、飛び跳ねて喜ぶ切歌と安堵の溜め息を漏らす調の後ろで、クリスはそう言いながら険しげに眉を顰めクロスを見つめていく。

 

 

 そしてクロスはそんな視線にも気付かないまま通常形態の蒼い姿に戻ると、バットイレイザーが爆発した跡の炎を見下ろしながら仮面の下で目を細めた。

 

 

(漸く掴めると思った手掛かりも無くなり、また振り出しか……一体なんなんだ、あれは……ノイズを喰らった事と何か関係があるのか……?)

 

 

 自分の知らないイレイザーの謎の進化。いや、どちらかと言えば暴走と呼ぶに近いあの変貌の原因も分からず、新たに情報を得られなかった事も含めて増える謎にモヤモヤばかりが募るクロスの背後から、響が歩み寄って声を掛けた。

 

 

「蓮夜さん、あの……」

 

 

『…………』

 

 

 恐る恐る声を掛けられて僅かに振り返るも、クロスはそれ以上は何も答えず無言で口を開かない。やはり、自分達が忠告を聞かずバットイレイザーと戦った事で怒らせてしまったのだろうかと暗い表情で俯いてしまう響に対し、クロスはそんな響から視線を逸らし、

 

 

『……さっきはまた助けられたな……お前達がいなければ、俺も今頃危なかったと思う……』

 

 

「!蓮夜さん……」

 

 

『ただ、あんな無茶はこれっきりにして欲しい……今回はどうにかなったが、次もまた同じように上手くいく保証はない……もっと大勢の人達を救いたいと願うなら、自分の身も大事にしてくれ……』

 

 

「うっ……す、すみません……」

 

 

 感謝の言葉を口にされて一瞬顔色が明るくなるも、直後に釘を刺されてげんなりと肩を落としてしまう響。

 

 

 そしてクロスもそんな彼女の姿を横目に仮面の下で苦笑いを浮かべると、そのままその場を立ち去ろうと前を向いて歩き出していくが、その背中を見て響は僅かに逡巡する素振りを見せた後、クロスの背に向けて叫び出す。

 

 

「蓮夜さん!こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、やっぱり私、蓮夜さんと手を取り合うのを諦め切れないです……!」

 

 

『…………』

 

 

「今は一緒に戦えないかもしれないけど、でも……もしもその方法が見つかった時は、また一緒に戦ってくれますか……?」

 

 

 何処か不安を帯びたような声でそう問い掛ける響。クロスはそんな響の言葉に足を止めて一瞬何かを言い掛けるも、それを呑み込むように口を詰んで俯き、何も言わずに再び歩き出して何処かへと去っていってしまう。そんな中……

 

 

「──目障りだな……あの小娘……」

 

 

 遠ざかっていく背中を無言で見つめる響が物憂げな表情を浮かべる中、その様子を崩壊したビルの物影から事の成り行きを見届けていた一人の男……アスカはクロスと、そのクロスを見つめる響を交互に見て険しげに眉を顰め、誰にも気付かれぬように静かにその場から立ち去っていくのであった。

 

 

 

 

 


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