戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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立花響編(前編)
第三章/改竄×断ち切られた繋がり


 

―リディアン音楽院―

 

 

 私立リディアン音楽院高等科。響たち装者が普段通う学校であり、その名の通り音楽教育を中心としたカリキュラムで、私立芸術系ながら学費は安いらしい。

 

 

 元々はシンフォギア装者の選出、並びに音楽と生体から得られる様々な実験データの計測も秘密裏に行なっていた施設だったが、後にそれらの機能は停止されて今は普通の学園として運営されており、ノイズを始めとする数々の熾烈な戦いに身を投じる響達にとって、この学園に通う事は平穏な日常を噛み締められる大切な場所の一つでもある。

 

 

 

 

──その筈だった……。

 

 

 

 

「……待ってっ、ねぇ待ってよっ!クリスちゃんってばっ!!」

 

 

「だあああーっ!!いい加減しつけーぞお前っ?!つか気安く名前呼ぶなって言ってんだろっ!!」

 

 

 早歩きでそんな怒号を上げながら学園の廊下を歩くのは、何やら迷惑そうに険しい顔を浮かべるクリスだ。ズンズンと何かを振り切ろうと歩くスピードを速めてチラッと振り返る先には、そんなクリスを何処か必死な形相で追い掛け回す響の姿があり、響はどうにかクリスに追い付いて彼女の手を後ろから掴んだ。

 

 

「なっ……!こんのっ、離せってっ!」

 

 

「良いから私の話聞いてっ!皆の様子が可笑しいんだよっ!未来も、調ちゃんも切歌ちゃんもっ……!友達も皆、私の事を覚えてないのっ!コレって絶対に可笑しい──!」

 

 

「可笑しいのはおめーだろっ?!ってかそもそも、お前一体誰なんだよっ?!」

 

 

「……っ?!」

 

 

 混乱した様子で泣き縋るかのようにクリスの手を掴むも、知らない赤の他人に向けるかのような目付きで睨みながらハッキリとそう告げたクリスの言葉に響は絶句し、徐に彼女から手を離しながら後退りしてしまう。

 

 

「も、もしかして……クリスちゃんも、私のこと……?」

 

 

「ああっ……?だから何の話だよさっきからっ?遠慮無しに人の腕取りやがってっ……大体何なんだよお前?お前にあたしの名前なんか名乗った覚えねーぞ?」

 

 

「……っ……!」

 

 

 いってぇなーと、思いのほか響が掴む手の力が強過ぎたのか手首を摩りながら不審げな眼差しを向けるクリスからの質問に対し、響は動揺を露わにした瞳を震わせて後退りすると、そのまま背を向けて逃げるようにその場から走り出した。

 

 

「あ、おいコラっ?!待てよオイっ!逃げんなっ!」

 

 

(ッ……どうして……一体何が、どうなって……?!)

 

 

 後ろから呼び止めるクリスの怒鳴り声に応じる余裕もなく、治まらない動揺を抱えたまま響はすれ違う生徒達にぶつかりそうになるのも目もくれず踊り場の階段を駆け下りていき、自分のクラスがある階に降りて漸く足を止め、トボトボと意気消沈した足取りで自分のクラスに戻り扉を開けていく。

 

 

「それでねー?……あ」

 

 

「…………」

 

 

 響が扉を開けてクラスの中に足を踏み入れた瞬間、今し方まで賑わっていた筈のクラスの賑やかな雰囲気が急に静かになり、冷ややかな空気が流れる。クラスメイトの全員が全員、響を一瞥した後に気まずげに目を逸らしたり、あからさまに関わり合いたくないが為に席を立ってクラスから退出したりなど、明らかに響という存在を疎んじて避けているのが手に取れて分かった。

 

 

(この感じ、空気……あの時と……同じだ……)

 

 

 その光景に、空気に、響は嫌というほど身に覚えがあった。

 

 

 それは数年前、彼女と同じシンフォギア装者である風鳴翼と当時のガングニールの装者だった"天羽 奏"の二人が組むツインボーカルユニット、『ツヴァイウィング』のライブ会場に観客として居合わせた時、会場に突如現れたノイズと、それを迎え討つ装者との戦闘に巻き込まれ、生死をさ迷う大怪我を負った事がきっかけだった。

 

 

 あの時はどうにか一命を取り留めたものの、事件でただ一人が生き残ったことで死者の遺族から生じた妬みが社会現象となり、居宅の物的被害に及ぶほどの迫害や、響本人は学校内でのいじめを受ける事になった。

 

 

 結果、そのせいで家族はバラバラになり、自身も辛い思いをずっとしてきた。

 

 

 それでも、奏が遺してくれた「生きることを諦めない」という言葉を糧にそんな苦難を乗り越え、リディアンに入学して多くの仲間を作り、家族の絆も取り戻してあの過去を乗り越えた筈だったのだ。なのに……

 

 

「……未来、あのさ」

 

 

「……あ」

 

 

 ふらふらと、何処か覚束無い足取りで席に着く未来の下に歩み寄る響だが、いつも陽だまりのような笑顔を浮かべて自分を受け入れてくれる彼女の姿は其処にはなく、未来は他の生徒達と同様に気まずげに視線を泳がせて響と目を合わそうとせず、教室の外から慌てて手招きする別の友達を視界の端に捉えて席から立ち上がる。

 

 

「ご、ごめんね立花さんっ。私、用事があるから……それじゃ……!」

 

 

「み、未来っ……!」

 

 

 そう言って未来は逃げるように響の横を通り過ぎ、教室の外で待つ友達と一緒に何処かへ行ってしまう。その背中を止めようと一瞬手を伸ばし掛けるが、先程のクリスのように未来にまで明確に拒否される事を恐れて中空で手を止めてしまい、やがて腕を下ろした響は力無く俯き、自分の席に座り込んで腕の中に顔を埋めてしまう。

 

 

(……どう、して……未来も、クリスちゃん達も、皆もっ……何で急にこんな事にっ……)

 

 

 つい昨日まで一緒に笑い合っていた筈の親友、仲間や友達が前触れもなく自分の事を避け出したり、自分の名前や顔を忘れるなど有り得るハズがない。

 

 

 きっと何か理由がある筈だと、この事態に至った原因が何なのかを必死に思考して洗い出そうとするが……

 

 

(……あれ……なんで……思い、出せない……?ううん、そんな筈ない……!こうなった原因を私は知ってる、聞いてるハズ!……でも、誰に……?)

 

 

 そうだ、自分は確かに知っている筈なのだ。

 

 

 未来達があんな風に変わってしまったと思われる原因を、その元凶を、ある人から教えられて。

 

 

……だのに、どんなに思い出そうとしてもまるで『靄』が掛かったかのようにそれらの記憶を何故か思い出す事が出来ない。

 

 

 知っている筈なのに思い出せない、そのもどかしさにも似た気持ち悪さに辛そうに頭を抱え、響は唇を噛み締めてしまう。

 

 

(駄目だ……何も思い出せないっ……どうしてっ?一体、私に何が起きてるのっ……?!)

 

 

 未来やクリス達は自分の事を覚えておらず、自分の記憶も霧が掛かっているかのように肝心な事を思い出せないなど、明らかに普通じゃない状況に響も沈痛の表情を浮かべてしまうが、その時ふと、何かを思い付いたように勢いよく席から立ち上がった。

 

 

(そうだ……本部に行けば、師匠やエルフナインちゃん達が何か知ってるかも……!)

 

 

 きっと弦十郎達ならこの異変に気付いて何か掴めているかもしれない。そう信じて思い立った響は鞄を手に取ると、S.O.N.G.の本部に向かう為に教室から勢いよく飛び出していったのだった。

 

 

「──へぇ……まだ元の記憶が残ってたんだぁ、あの子」

 

 

──その様子を学園の外から見つめる怪しい影……校門から出てきた響を見て面白そうに笑い、踵を返してそのまま何処かへと転移するように姿を消した青髪の青年の存在に気付かずに。

 

 

 

 

 


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