戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
『──どォーしたァアッ?!さっきまでの威勢の良さは何処行ったんだよ、ええッ?!』
『グッ……!!がはァああああああッ!!?』
場所は戻り、旧モール街ではイグニスイレイザーの猛攻の前にクロスが苦戦を強いられ、一方的に痛め付けられていた。
凄まじいパワーで振るわれる巨腕の一撃一撃の余波だけで建物の壁が次々と粉砕されていき、肩を掠めただけでも装甲の一部が大きく削り取られてしまう。
真っ向から立ち向かうにはあまりにも力の差があり過ぎるイグニスイレイザーを前にひたすら防戦に徹するしかなく、隙を見て戦線を離脱しようとしてもタイプスラッシュを上回る機動力で回り込まれ、逆にその隙を突かれて殴り飛ばされてしまう。
逃走すら叶わず、防戦一方でこれ以上の致命傷を避けるように立ち回る事しか出来ないクロスも仮面の下で苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも何とかこの状況を打開しようと考え、とにかく距離を取ろうと朱い閃光と化して廃墟の街中を素早く駆け回り続けるが、それを予想していたかのようにクロスが逃げた先の頭上で待ち構えていたイグニスイレイザーが拳を握り締めた右腕をハンマーの如く振り下ろし、クロスの後頭部を思い切り殴り付けて地上に叩き落としてしまった。
『がぁあうっ!!ぐぁっ、ぁ……頭がっ……!』
『ボーッとしてる場合かよォおおおおおおッ!!』
『ッ?!』
凄まじい力で後頭部を殴り付けられ、意識が揺らぎ眩暈を覚えるクロスの頭上からイグニスイレイザーが怒号と共に紅蓮の炎を纏った右足を突き出して急降下で迫る。
それに気付いたクロスも眩む意識を頭を振って振り払いながら慌ててその場から飛び退きイグニスイレイザーの蹴りを辛うじて回避するも、滑り込むように地面に着地したイグニスイレイザーが左手に形成した紅い光球をクロスの腹部に押し当てた瞬間、光球が爆発を起こしてクロスを吹っ飛ばし、後方のビルの壁に勢いよく叩き付けてしまったのだった。
『ぐあぅううっ!!グッ……クッ、ソッ……!!』
『ハッ、無様なもんだなぁオイ。昔はあんだけ俺達の事を苦しめてくれたってのに、今やソレも見る影もなしか……』
叩き付けられた壁から剥がれるように倒れ、地面に両手を付くクロスの情けない姿を見て拍子抜けしたように溜め息を漏らすイグニスイレイザー。
そして左手を振るって残り火を払いつつ、イグニスイレイザーはクロスを見据えながら巨腕の拳を握り締めていく。
『けど、だからってこっちも容赦はしねぇぞ。テメェの力の恐ろしさは俺たち自身嫌ってほど身をもって知ってるからな……テメェとの因縁も、此処で俺が幕を引いてやるよォッ!!』
『ッ……!』
ゴゥウウッ!!と、イグニスイレイザーの全身から凄まじい殺気と共に勢いよく業火が噴き出し、未だ高まり続けるエネルギーのあまり轟音を轟かせて地面が陥没していく。
そのとてつもない熱気は離れていても装甲から白い蒸気が立ち上る程であり、加えて恐らく、あれだけの強大な力を放出していながら未だ全力でない事は確かだろう。
『(今の俺の力じゃ、逆立ちしても奴には勝てないという事かっ……それに急がないと、アイツがっ……)』
絶体絶命の窮地に追いやられるこの状況下で脳裏に思い起こすのは、あの公園のベンチで話した響の哀しげな横顔。
それを思い出すだけで圧倒的な力を前に半ば萎縮し掛けていた闘志が蘇り、クロスは拳を握り締めてふらつきながらも身を起こしていく。
『へぇ?まだやる気かよ、そんなボロボロの状態で』
『ッ……諦めるつもりは毛頭ない……言った筈だぞ、アイツの繋がりを返してもらうと……!』
今は奴に勝てなくても構わない。
だがせめて、奴らに奪われた響の物語を取り戻すまで死ぬ訳にはいかないと、クロスは傷付いた身体を奮い立たせて左腰のホルダーから取り出したカードをバックルから露出させたスロットに装填し、掌でスロットを押し戻した。
『Code Blaster…clear!』
鳴り響く電子音声と共に、クロスは再度タイプブラスターに姿を変えて右手に出現したウェーブブラスターを力強く握り締めるが、イグニスイレイザーはタイプチェンジしたクロスを見て馬鹿馬鹿しげに鼻を鳴らし首を振っていく。
『何をするかと思えば、またそれか?んなもん俺には通じねぇってまだ分かんねぇのかよ?』
『……どうかな……とも限らないぞ……?』
『あ?』
『Final Code x…clear!』
不敵に微笑みながらクロスは新たにカードを取り出しバックルに装填する。そして電子音声が鳴り響いた直後、クロスはバックルからスロットを露出させてカードを差し込み直し、再びスロットを掌の底でバックルに押し込んでいく。
『Final Code x…clear!』
(!二段重ね……?)
そう、クロスは必殺技発動の為のカードであるファイナルコードを二度使用し、それに伴いクロスの全身から緑色の閃光が雷の如く放出され無数のスパークを激しく撒き散らしていく。
その光景は先程イグニスイレイザーが目にしたソレの比ではなく、クロスから放たれるスパークが周囲を駆け走ってビルの壁や地面を大きく抉り取っていく様が凄まじい威力を物語っている。しかし……
『グッ、アァッ……!!ぐぅううっ!!』
それはクロス自身にも制御出来ない程の強大な力なのか、バチィッバチィイイイッ!と、クロスから放たれる無数のスパークは周囲だけでなく、クロス自身にさえ牙を剥き彼の身体を傷付けていた。
スパークが曲解してクロスの身体を外側から傷付けるだけでなく、身体の内側から溢れ出た雷が装甲を徐々に欠いてズタズタに引き裂いていく。
それでも尚、クロスは痛みに歯を食い縛りながらウェーブブラスターを重々しく構えていき、銃口に荒れ狂う無数のスパークを充填してイグニスイレイザーに何とか狙いを定め、額から汗を伝わせながら挑発するように笑う。
『来るなら来いっ……但し、今度はさっきのように行くと思わない事だ……!』
『……ハッ、面白ぇじゃねえか。そのザマで何処までやれるか、俺が試してやるよォッ!』
炎が螺旋を描き、イグニスイレイザーの右腕に凄まじいエネルギーが収束されていく。
それに対しクロスもスパークの充填で揺れる銃口を修正しながらイグニスイレイザーに狙いを固定しつつ引き金に指を掛け、そして……
『──Heat cannot be separated from fire, or beauty from The Eternal.(熱さと火は切り離すことできない。美しさと神も)……灰塵に還れ、その存在ごとなァァああああああああああああっっ!!!』
『ハァアアアアッッ!!!』
僅かな詠唱を口にすると共に、イグニスイレイザーが勢いよく突き出した右腕から発生した爆発から巨大な火炎放射が放たれ、それを迎え撃つ様に撃ち出したクロスの緑色の砲撃が二人の中心で耳を劈くような激突音と共にぶつかり合っていったのである。
凄まじい衝撃と共に衝突した砲撃と火炎放射が互いを押し退けようとするように、一進一退を繰り返す。
一見互角に見える拮抗。
しかしそれも一瞬の事であり、イグニスイレイザーが放出する火炎放射は徐々にクロスの砲撃を押し返し始めていき、クロスの顔が険しく歪んでいく。
『そらどうしたァああッ!!さっきのようには行かないんじゃなかったのかァああッ?!』
『ゥッ……クッ……ぐうううっ……!!』
苦痛に顔を歪めるクロスとは対照に、イグニスイレイザーはまだまだ余裕だと言わんばかりに火炎放射の威力を更に強め、地面を焼き尽くしながらクロスの砲撃を押し返す勢いが増していく。
その度にクロスの足が地面を滑るように徐々に後退りしていき、それでも何とか足を踏み留まらせて耐えるも火炎放射の勢いは止められず、炎は遂にクロスの目前にまで迫り……
『残念だったなぁ……コイツで仕舞いだァァああああああああああああああああッッッ!!!!』
『……ッ!!うぐっ……くっ……ウァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!?』
最後のダメ押しと言わんばかりに炎に力が込められた瞬間、爆発的に威力を増した火炎放射がクロスの砲撃を一瞬で打ち消し、同時にクロスを飲み込んでしまった。
そして、クロスを飲み込んだ火炎放射はそのまま後方のビルを幾つも焼き尽くしていき、最後に着弾した遥か彼方の山の大部分を消し飛ばした瞬間、巨大な爆発と衝撃波を巻き起こしていったのだった。
『……フンッ、あっけねぇーもんだな……あんだけ俺達を追い詰めた奴の最期がコレかよ……』
大爆発から発生した空を覆うキノコ雲を見据え、イグニスイレイザーから人間態の姿に戻りながら何処かつまらなさそうに目を細めるアスカ。
そして、アスカは火炎放射が破壊した焼け跡を辿って徐に足を進めていくと、道中でビルの瓦礫に混じって転がる見覚えのある破片……見るも無残な姿に変わり果てた血痕がこびり付くクロスの仮面の残骸を発見し、邪魔なビルの瓦礫を足で払いながら、クロスの仮面の残骸を掴んで持ち上げていく。
「しぶとく生き残ってるんじゃねえかと思ったが、この有り様じゃ先ず助かりはしねぇか……」
バリィッ!と、クロスの仮面の残骸を掴む手に力を込めて完全に残骸を破壊してしまい、粉末状になった破片を手の平からこぼしながらアスカは未だ空に浮かぶキノコ雲を見つめていく。
「恨みたけりゃあの世で存分に恨め。俺達はテメェの屍を超えて、俺達の物語をこの手に取り戻す……その行く末を指をくわえて見てるんだな」
これで自分達を邪魔する障害なくなった。クロスの死亡を確認し、後は裏方に引っ込んで手駒のイレイザーに事の成り行きを任せておけば大丈夫だろうと踵を返し、アスカは静かにその場を後にしていくのだった。
──その影には……
「───ッ……悪いが……まだ、そのつもりはないっ……」
──アスカの死角となる物陰の壁に付いた手を滑らせて赤い血の跡を塗り、ふらつきながらも身を起こす一人の青年……額から大量に血を流し、服も焼き焦げてボロボロの有り様に変わり果てた蓮夜の健在の姿があった。
荒い呼吸を繰り返しアスカの背中が遠ざかるのを物陰から覗いて確かめると、安堵の溜め息を吐いたと同時に全身に駆け走る激痛に苦痛で顔を歪め、袖の隙間から血が伝う左腕を抑えながら壁に背中を付いたままズルズルとその場に座り込んでしまう。
(上手くいくかどうかギリギリだったが、ッ……何とか成功してくれたかっ……ゥッ……)
息をする度に軋むような痛みに苛まれながら、空を仰いで溜め息を漏らす蓮夜の脳裏を過ぎるのは、先程の土壇場で成功した自身の賭け。
──あのイグニスイレイザーとの真っ向勝負。奴との圧倒的な力の差からして、どう足掻いても自分に勝ち目がないのは分かり切っていた。
故に賭けたのは、イグニスイレイザーとの撃ち合いに"敗北したその後"。
イグニスイレイザーとの撃ち合いに敗北してあの火炎放射に飲み込まれる寸前、相手に悟られぬように予めベルトにセットしていたカードを装填して素早くタイプスラッシュとなり、身体からパージしたブラスターの装甲を盾にして火炎放射を僅かに受け止めた隙に、タイプスラッシュの機動力であの場から離脱するという寸法だった。
……それでも唯一誤算だったのは、イグニスイレイザーの火炎放射の威力がタイプブラスターの装甲の強度を上回り、タイプスラッシュの機動力を持ってしても回避が間に合い切れなかったこと。
後僅かでも遅れていれば今頃どうなっていたか……。火炎放射を掠めただけで重度の火傷を負った自身の右足を見下ろしながら最悪の事態を想像して寒気を覚えつつ、蓮夜は激痛を堪えて起き上がり、前を見据えていく。
(ッ……これ以上、お前達に奪わせはしないっ……アイツや、他の誰かの大切なモノを……これ以上はっ……!)
自身が背中を付いて座り込んでいた壁にこびり付く夥しい量の血に見向きもせず、蓮夜は響を襲うイレイザーの気配を探り、彼女を助けに向かう為に火傷を負った右足を引きずりながら街へと急いで戻っていくのであった。