戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー①

 

 

―S.O.N.G.本部―

 

 

──S.O.N.G.。それは超常災害対策機動部タスクフォース(Squad of Nexus Guardians)の略称であり、認定特異災害『ノイズ』に対応するため日本政府が設けた組織。

 

 

その活動内容は先史文明期の人類により作り出された人間のみを大群で襲撃し、触れた者を自分もろとも炭素の塊に転換してしまう特性を持つ異形の存在『ノイズ』、そのノイズの自然発生が終息した今、S.O.N.G.と敵対する錬金術師の組織がノイズを改良して運用する『アルカ・ノイズ』の殲滅は勿論のこと、『聖遺物』と呼ばれる世界各地の伝説に登場する超古代の異端技術の結晶の回収・保護を主な目的としている。

 

 

そんな彼等の本部となるのは、ここ政府が保有する埠頭の敷地内にて現在整備作業が行われる巨大な潜水艦であり、その艦の発令所のブリッジにて今、S.O.N.G.に所属する『シンフォギア』の装者達がとある議題で集められていた。

 

 

「──ノイズとは違う、謎の怪物……ですか?」

 

 

議題の内容を聞かされ、開口一番に疑問げにそう口を開いたのは、襟足が広がった栗色の髪のボブカットの少女……聖遺物『ガングニール』の装者である"立花 響"だった。

 

 

そんな彼女の疑問に同調するように響と共に集められた他の装者の少女達もそれぞれ訝しげな反応を浮かべる中、彼女達の前に立つ赤のカッターシャツとピンクのネクタイが特徴的な大柄の男性……このS.O.N.G.の司令官である"風鳴 弦十郎"は両腕を組んだまま静かに頷いた。

 

 

「うむ……昨夜未明、深夜の警察署に駆け込んだ女性から気になる証言を得たらしい。何でもノイズとは異なる姿の、血のように赤い眼をした正体不明の謎の怪物に突然襲われた、と」

 

 

「正体不明の謎の怪物……」

 

 

「ち、血のようなって……また随分物騒な特徴デスね……」

 

 

弦十郎から聞かされる正体不明の怪物の話の内容に、黒髪のツインテールの物静かな少女……聖遺物『シュルシャガナ』の装者である"月読 調"は険しげに眉を潜め、彼女の隣に立つ髪留めをした金髪の少女……聖遺物『イガリマ』の装者である"暁 切歌"はその不気味な特徴に気味が悪そうに顔を引き攣る。

 

 

そんな中、発令所にて情報処理を担当するオペレーターの二人の男女……"藤尭 朔也"と"友里 あおい"が弦十郎の話に補足説明を加えていく。

 

 

「念の為、女性の証言を元に昨夜彼女が被害に遭ったという公園周辺の索敵レーダーのデータを時間を遡って洗い直してみたのですが……」

 

 

「ノイズ、アルカ・ノイズの反応は勿論の事、それらしき不審な反応は特に感知されてませんでしたね……」

 

 

「だったら襲われた本人の勘違いだったんじゃないか?それっぽい覆面を被ってた暴漢だったとか。いきなり襲われて混乱してたってのもあるだろうし、暗がりじゃ相手の顔なんて良く見えないだろ?」

 

 

オペレーター二人の話から、襟足の左右を長く伸ばした銀髪の少女……聖遺物『イチイバル』の装者である"雪音 クリス"はそもそも怪物など存在せず、襲われた被害者のただの勘違いだった可能性を指摘するが、その指摘に対し弦十郎の隣に立つ小柄な少女……S.O.N.G.の技術面を担当する"エルフナイン"が手元のパッドを操作しながら応える。

 

 

「その可能性もあるとは思うんですが、実はそれだけじゃなく、この件と何か関わりがあるんじゃないかと思われる噂がありまして……これなんですが……」

 

 

「……?何だこりゃ?」

 

 

「……『新たな都市伝説発見!人知れず怪物から人々を守る、影のヒーロー!』?」

 

 

エルフナインが見せる液晶画面を覗き込むと、其処にはとあるサイトのまとめで紹介される都市伝説のスレッドが映し出されていた。

 

 

淡々とした声音で調がタイトルを読み上げたそのまとめには、夜な夜な人を襲う怪物を謎のヒーローが駆け付けて颯爽と倒したという、まるで特撮ヒーローの中の話のような信じられない体験談が幾つも報告されており、その内容に怪訝な反応を浮かべる他の三人とは対照に、そのスレッドを目にした響が過敏に反応を示した。

 

 

「あ、それ知ってる!確か、『仮面ライダー』の話だよね?」

 

 

「……はあ?仮面ライダー?何だよそれ?」

 

 

「私も今朝学校で友達から聞いたんだよ。素顔を仮面で隠し、何処からともなく颯爽と現れて怪物を倒し、バイクに乗って颯のように去っていく謎のヒーロー!その姿から誰が呼んだか、仮面ライダー!……って」

 

 

「ほんとに何だそりゃ、アホらしい……もしかしなくてもその友達ってあのアニメ好きのお前の友達だろ?別に悪く言うつもりはねえけど、この手の眉唾物にまで手を出し始めたらいよいよ終わりだぞって伝えとけ」

 

 

「えー……私はそんなに悪くないと思うけどなぁ……」

 

 

身振り手振りで友達に教えてもらった仮面ライダーの噂を説明するも、そのあまりに荒唐無稽な内容に馬鹿馬鹿しげに溜め息を吐くクリスから呆れ気味に一蹴され若干気落ちする響だが、その話を聞いていたエルフナインは「いえ」と首を横に振った。

 

 

「響さんの話、あながちただの噂話と切って捨てられないと思います。実際のところ、ここ数週間の間で昨夜の女性と同様の事件が幾つも報告されており、被害者が皆、口を揃えて証言してるんです……『ノイズじゃない謎の怪物に襲われ、仮面を身に付けた何者かに助けられた』、と」

 

 

「……って言われてもなぁ……それでこんな無茶苦茶な話を信じろって言われてもよ……」

 

 

「そもそもの話、その報告されてる被害っていうのが実は被害者側の悪戯って可能性もないデスか?このネットの掲示板とかを見て、誰かが最初にやり始めたから自分もやってみよう!なーんて流行りに乗って、ホントにやってしまった困ったちゃんな人達かもしれないデスよ?」

 

 

未だクリスが仮面ライダーの話を受け入れられず困ったように頭を掻く中、切歌が実は報告される被害そのものが被害者側の自作自演ではないかと推察するも、弦十郎は首を振ってそれを否定する。

 

 

「その可能性も最初に考えられたが、事情聴取を行った警官達の話では、被害者の中には実際に腕や足に何かに引っ掻かれたような深い傷を負った者も何人かいたらしい。……何より、被害者達の様子は皆普通ではなく、聴取を受ける間も何かに怯えているようだった。その様子からして、彼等が嘘を言っているようには見えなかったと」

 

 

「マ、マジでデスか……」

 

 

「……ただの悪戯にしても、その為だけに自分の体に傷を入れるなんて、普通だったら有り得ないよね……」

 

 

言葉を失う切歌の隣で、調は顎に手を添えて冷静に分析する。

 

 

もしも仮に今までの話が本当だと仮定すれば、今街にはノイズとは別に人を襲う怪物が潜み、その怪物を倒す謎の勢力が存在するということになる。

 

 

敬遠しがちな噂や都市伝説の内容から有り得ないと否定しそうになるも、それが仮に本当だとすれば確かに由々しき事態かもしれない。何せ自分達の預かり知れぬ所で人々の身に危険が降り掛かっているのだから。

 

 

「今のところ死傷者の報告は出ていないが、だからと言ってこのまま放置する事は出来ない。今後その被害が出る可能性もある以上、現在S.O.N.G.の方でも事件の調査を進めてはいるのだが……」

 

 

「情報が少ないのもあって、今のところ調査の方もかなり難航しているみたいですね……何分頼りとなる手掛かりが被害者の証言とネットの情報だけなのもそうですが、証拠も殆どなく、今までの事件が信憑性の薄い都市伝説レベルの話で留まっていた辺り、もしかすると件の怪物側にも証拠を隠滅する工作員のような存在がいるのではないかと……」

 

 

「人を襲って、しかも証拠も消し回ってんのかよ……やってる事のタチの悪さは錬金術師の連中とどっこいどっこいだな……」

 

 

「でも、だったら余計にほっとけないです!理由もなしに人を襲ってるなら、尚更……!」

 

 

正体が不明でもあっても、事実人が襲われて被害も出ているのは確かだ。ならば何であれ捨て置くことなんて出来ないと、拳を握り締めて力強い眼差しを向ける響に対し、弦十郎も同意の意を込め頷き返す。

 

 

「現状、手掛かりが少ないのは事実だが、かと言って何も掴めていない訳でもない。昨夜の怪物の被害に遭った女性だが、一夜明け、事件当時の記憶を落ち着いて思い出せるようになった彼女の口から気になる証言を得られた」

 

 

「女性の話では、怪物に襲われ掛けた所を例の仮面ライダーに助けられ、彼が怪物を見てこう口にしたそうです……『ノイズを食べ過ぎて、狂ったか』、と」

 

 

「ノイズを……食べる……?」

 

 

耳を疑う内容に、装者四人は目を見開き困惑してしまう。

 

 

ノイズとはその特性として、触れたものを炭素や塵に分解する危険な能力を持ち、シンフォギアのような特殊な兵装を持たなければ触れる事すら出来ない存在。

 

 

なのにそのノイズを喰らえるとなれば、それはノイズと同等か……いや、仮にもし食らった分強くなるとすれば、それはノイズ以上の脅威となりうるかもしれない。

 

 

想像していたよりも遥かに危険な存在である可能性が仄めかされ、装者達の間に改めて緊張が走る中、それが伝わったのか弦十郎も真剣な口調で発令を掛ける。

 

 

「真偽の程は分からないが、この証言が事実であればこのまま放っておく事は出来ない。よってS.O.N.G.は今後の方針としてこの謎の怪事件の真相を追うと共に、件の怪物の捕縛、又は撃破を視野に調査する事とする。尚、件の怪物については被害者の証言を元に、仮称として『ノイズイーター』、仮面ライダーと噂される謎の存在を『マスクドライダー』と称する事となった」

 

 

「ノイズイーターと、マスクドライダー……」

 

 

「うーん……私としては仮面ライダーの方がしっくり来るんだけどなぁ……」

 

 

「あー、分かるデス。何故か分かりませんがそっちの方がなんと言うかこう……キュピーン!と身が引き締まる感じがするデスよ」

 

 

「お前ら、緊張感が長続きしなさ過ぎだろ……」

 

 

今さっきまでノイズ喰いという未知の能力の敵の存在を知って緊張の面持ちだった筈なのに、早くもいつもの調子に戻り仮面ライダーの呼称について盛り上がる響と切歌にクリスも呆れ、調も似たような反応で溜め息を吐いてしまっている。

 

 

そして弦十郎もそんな様子にやれやれと肩を竦めるも、すぐにまた表情を引き締め話を進めていく。

 

 

「一先ず今回は此処までだ。相手の正体が掴めていない以上後手に回ざるを得ないが、気を逸らせても仕方がない。今後情報が入り次第君達にも報せ、場合によっては緊急で出撃してもらう場合もある。その時は宜しく頼んだ」

 

 

「分かりましたッ!……あ、ところで師匠、今の話って翼さんとマリアさんには……」

 

 

「あ、お二人には先に僕の方から伝えてあります。ただ、お二人にもまだお仕事があるらしいので、急に帰国するのは中々難しいかと……」

 

 

「あー、そっか……二人とも今は海の向こうだしね……」

 

 

残念そうに呟く響の脳裏に浮かぶのは、装者達の中でも年長組の二人……聖遺物『天羽々斬』の装者であり、弦十郎の姪である"風鳴 翼"と、聖遺物『アガートラム』の装者である"マリア・カデンツァヴナ・イヴ"の顔。

 

 

どちらも世界に誇るトップアーティストとして活動しており、現在も海外での活動に勤しむ彼女達にこちらの都合に合わせて直ぐに帰ってきてもらうのは確かに難しいだろう。

 

 

しかし欲を言えば二人の顔を見たかったなぁと後ろ髪を引かれながらも、とりあえずその場を解散となった響は他の装者の三人と共に本部を後にするのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

──同時刻、とあるビルの屋上にて二人の青年の姿があった。

 

 

一人は赤いジャンパーを羽織り、屋上の手すりに寄りかかりながら目付きの悪い眼差しでビルの真下を行き交う人々を見下ろす金髪のツンツン頭の男。

 

 

もう一人は青い革ジャンを着込み、屋上の手すりに背中から持たれ掛かりながら気怠げに空を見上げる青髪の青年。

 

 

一見普通の大学生にしか見えない二人組だが、ビルの上から街を見下ろしていた金髪の男は突然「チッ」と舌打ちし、何やらイライラした様子で青髪の青年に目を向けた。

 

 

「おい、そっちは何か掴んだかよ?例の件の犯人をよ」

 

 

「……うん?いーや、こっちもぜーんぜんダメ。事後処理のついでで色々捜してみたけど、それらしいもんは特になーんもナシ」

 

 

「またかよ……クッソ、もう何週間もこの調子だぞ!一体何人目だよこれで!」

 

 

青髪の青年からの報告を聞いて余計に苛立ちが増したのか、金髪の男は思わず手すりを蹴り付けて毒づき、そんな男の姿を横目に青髪の青年は自身の爪を弄りながら飄々とした口調で宥める。

 

 

「ま、焦ったとこでどーにもなんないでしょ。僕達に今出来んのは、野放しにした連中が強くなって戻ってくんのを待つ事ぐらいなんだし」

 

 

「だからっ、その野放しにした連中がドンドンドンドンやられてってるから焦ってんだろうがよ!ここまで作るのにどんだけ時間が掛かったと思ってんだ!やっぱ俺が言った通り、地道に餌を食わせて力付けさせんのが一番だったんじゃねえのか?!」

 

 

何処か適当な調子の青髪の青年の口振りに思わず凄んで食って掛かる金髪の男。だが青髪の青年はそんな男のガン飛ばしも何処吹く風と無視し爪を弄り続け、そんな青年の調子に金髪の男も余計にストレスが増すばかりで「あーッ!!」と頭を掻きむしるが、其処へ……

 

 

「──それではただ肥えるだけで、駒は駒としての域から脱せられない。最初に言ったハズだろう?俺達が欲しいのは『同士』であり、駒の製造はその過程でしかないと」

 

 

──そんな二人の下に、屋上の入り口の方からもう一人の男が悠然とした足取りで姿を現した。

 

 

黒のスーツを着込み、黒い髪をオールバックにし、インテリ眼鏡を掛けた瞳からは人間らしい暖かみを一切感じられず、その男の全身からただならぬオーラが滲み出ている。

 

 

恐らく男二人のリーダー的な存在なのか、オールバックの男の姿を捉えた途端、金髪の男は「ゲッ……」とあからさまに嫌そうな顔をし、青髪の青年は一瞬意外そうに目を見開くもすぐに微笑を浮かべた。

 

 

「なーんだ、デュレンも来たんだ。てっきり今回も何もせずに後ろでふんぞり返ってるだけだと思ってたよ」

 

 

「お前たちだけで順調に事が運んでいればそうするつもりだったさ。だが、そんな悠長な事を言っていられる状況ではなさそうだからな……」

 

 

「……チッ、また十八番の小言かよ……」

 

 

二人の顔を冷たく一瞥するデュレンと呼ばれた男に対し金髪の男はめんどくさそうに舌を打ち、青髪の青年は相変わらずだなぁと脳天的に笑いつつも、手すりの上で頬杖を着きながら彼自身が気になっていた疑問をデュレンに投げ掛けた。

 

 

「けど、そっちから来てくれたなら話が早いよ。聞きたい事もあったし……今回の件、デュレンは何が起こってるのかある程度掴めてるのかな?」

 

 

「さあな。俺もまだ全貌の全てを掴めてる訳じゃない。だが、我々を完全に滅ぼせる存在は決してそう多くはない……その力を持たない『この物語』の主要人物である装者やその敵対勢力を候補から外すとするなら、答えは自ずと一つしかないだろう」

 

 

「……まさか……」

 

 

「おい……それってまさか、『アイツ』が実はまだ生きてたって言うんじゃないだろうな?!」

 

 

デュレンが言わんとしてることを汲み取ったのか、青髪の青年は今まで浮かべていた微笑を消し、金髪の男もあからさまに動揺を浮かべてデュレンへと詰め寄っていくが、デュレンは落ち着き払った雰囲気のままそんな男の横を素通りし淡々と語り続ける。

 

 

「今回の計画を始動する前に、必ず障害となるであろう奴を我々の手で罠に嵌め、この目で事の成り行きを見届け、確実に息の根を止め始末した……そう思い込んでいたが、どうやら我々の予想以上に、奴自身もしぶとかったという事かもしれないな」

 

 

「悠長なこと言ってる場合かよ……!どうすんだ?!奴が生きてたんじゃ、せっかく作った今までの駒も結局奴に消され回って計画の進めようがねえだろ?!」

 

 

それなのに何故そんなにも落ち着いていられるのかと、金髪の男は予想外の事態に焦りを露わにデュレンに食って掛かるが、それに対し青髪の青年は微笑を浮かべたまま軽く手を振って男を宥めた。

 

 

「まあまあ、落ち着きなよ。まだ可能性の話ってだけで、本当にそうと決まった訳でもないんだし。……けど、デュレンの方はそう思ってるってことは、これから何か事を起こそうと考えてわざわざ此処へ来たんでしょ?」

 

 

「無論だ。集めた駒を無為に消されるなどこちらにとって何一つ得などないからな。このまま手を拱くつもりもない……正体がなんであれ我々の障害となるなら、これを排除する……その為にも先ず、奴を炙り出さねばならない」

 

 

「炙り出すって……どうやってだよ……?」

 

 

何か考えがあると言うのか、金髪の男がデュレンに怪訝な眼差しを向けそう問うと、デュレンは無言のまま人差し指で空を指した。

 

 

「奴の目的が我々なら、奴が必ず食い付くであろう餌となる捨て駒を用意する。その為にも先に、捨て駒を釣る為の餌を用意しなければならないが、ここには丁度先の物語で既に使い終えたモノが幾つも転がっているからな。それを再利用させてもらうのさ……先ずは、ノイズからだ」

 

 

「ノイズって……あぁ、バビロニアのなんとかって奴から出てくる有象無象の方か……」

 

 

「けどアレ、確かこの物語の装者達が前の戦いで宝物庫を閉じたせいで使い物にならないんじゃなかったっけ?」

 

 

バビロニアの宝物庫。それは異世界に存在し、 無限とも言える広さを備えた武器格納庫にしてノイズのプラントでもある。

 

 

嘗て『フロンティア事変』と呼ばれる事件の終盤にて装者達の活躍により次元の入り口が閉ざされ、以降は特異災害としてそれまで人々の脅威の対象であったノイズの出現自体はなくなったものの、錬金術師と呼ばれる者達が新たに使役するアルカ・ノイズの出現により、この世界では未だに装者達とノイズの戦いが続いているというのが大まかな流れだ。

 

 

そんな経緯から、宝物庫を開ける事はほぼ不可能に近く、其処からどうやってノイズを引っ張ってくるつもりなのかと首を傾げる二人に対し、デュレンは眼鏡を抑えて何でもないように告げる。

 

 

「この物語のルールに沿った正規の方法では、確かに無理だろうな……だが、俺達は既にあらゆる物語から追放された身だ。わざわざそんなものを守る義理はない」

 

 

「……ああ……つまり、お得意の『改竄』ってことね」

 

 

「ったく、いいよなぁコイツは?世界のルールにまで干渉し放題でさ……俺もとっととその領域にまで上りたいぜ……」

 

 

不貞腐れるようにそう言いながら金髪の男は手すりに頬杖を付いてそっぽを向き、青髪の青年もそんな男の様子を横目にニヤニヤと爪弄り再び始める中、デュレンは手首を摩り鋭く細めた目付きで街を睨み付けていく。

 

 

「この物語も所詮、俺達からすればただの通過点に過ぎん……我々の目的を成就させる為にも、この物語には踏み台になってもらうとしよう……」

 

 

パキィッ!と、冷淡な言葉と共に無骨な指の節を鳴らすデュレン。

 

 

次の瞬間、まるで心臓の鼓動のような振動が世界に轟き、街の空に火花が走り、巨大な異次元の穴が開かれた。

 

 

そして其処から溢れ出ようとする殺戮の化身達の姿を一瞥する事も無く、デュレンは踵を返し、他の二人をその場に残し何処かへと歩き去っていったのだった。

 

 

 

 

 


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