戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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メモリア01/ヒーローの食生活×不穏の芽

 

 

───フロッグイレイザーを倒し、響達に及ばした改竄を解決してから一日が経過した。昨夜は響が散々食い下がり強引にでも入院させようとしたものの、恩人であるバイト先の店長に迷惑を掛けられない一心から文字通り息も絶え絶えにソレを突っぱね、蓮夜は仮入院を終えた翌日の朝に本部を後にした。のだが……

 

 

 

 

「───どうしてこんな事になってしまったんだろうか……」

 

 

 

 

……時刻は夕方の四時過ぎ。本来ならまだクレープ屋でバイト中である筈の時間帯の今、S.O.N.G.本部内にある病室のベッドの上にはズーンッとヘッドボードに背を預けながら気落ちする蓮夜の姿があり、その左足には昨夜にはなかった筈の包帯が何重にも巻かれていた。

 

 

何故彼が未だ此処にいるのか?事の発端は数時間前の今朝にまで遡る。

 

 

最初は予定通り仮入院を終え、最後に身体検査をした後に医師から再度入院を検討してもらえないか尋ねられたものの気持ちは変わらないと断り、本部を後にしてそのままバイトに向かおうとした筈だった。

 

 

だが本部である潜水艦を後にして埠頭を歩いていた道中、S.O.N.G.の作業員達が潜水艦に運んでいた補給物資のコンテナを運送中に倒してしまうというアクシデントが発生。

 

 

コンテナが逃げ遅れた作業員を下敷きにし掛けるも、偶然にもその場に居合わせた蓮夜が飛び出して作業員を救い、アクシデントは起こったものの怪我人は何とか一人も出さずに済んだ。

 

 

……いや違う。訂正しよう。正確には一人怪我人が出た。作業員を救った筈の黒月蓮夜である。

 

 

たださえ幾つか身体の骨が折れ掛かっている重症の身体なのに、作業員を救う為に無理に激しく身体を動かしたせいでそれがトドメとなり、折れ掛かっていた左足の骨が完全にポッキリと逝ってしまったのだ。

 

 

結果、蓮夜はその場から動けなくなる程の重体悪化。為す術もなく情けない格好でストレッチャーに運ばれ病室に逆戻りとなった。

 

 

その後、バイト先の方には事態を聞き付けた弦十郎達がクロスやイレイザーの事を伏せて怪我の事を説明してくれたらしく、話を聞いた店長から「ちゃんと安静にしときなさい!うちの店は怪我人に無理をさしてまで働かせるようなブラックな会社じゃないんだから!」と至極真っ当なお説教を頂く事となり、蓮夜も流石に店長からの言葉には逆らえず「……了解……」と渋々ながらも聞き入れ、足が動けるようになるまで静養生活を強いられる事となったのである。

 

 

「ほらー、だから言ったじゃないですかー。しっかり治療に専念した方がいいってー」

 

 

「……いや、確かに忠告を聞き入れなかった俺が全面的に悪いんだろうが……それはそれとして、何故お前達が此処にいる……?」

 

 

「あっははっ……」

 

 

言わんこっちゃない、と呆れたようにそう呟くのは、学院を終えて蓮夜の見舞いにきた響だ。その隣には訝しげに響に目を向ける蓮夜の反応に対し、苦笑いを浮かべる未来の姿もあった。

 

 

「何でって、師匠から連絡を貰ったからお見舞いも兼ねて様子見に来たんですよ?蓮夜さんの事だからもしかすると、先生達の目を盗んで病室を抜け出したりとかするかもって心配だったし……」

 

 

「……ストレッチャーで運ばれてた時はそのつもりだったが、今はその気はないから心配する必要はない……店長にも散々釘を刺されたしな……」

 

 

「むー……私が言っても聞いてくれなかったのに店長さんの言う事はちゃんと聞くんですね……あ!じゃあこれから蓮夜さんの事で困った時には、店長さんに相談して叱ってもらって──」

 

 

「それは本気で困るから止めてくれ」

 

 

それ程までに嫌なのか、首を横に振る蓮夜の顔はいつもの無表情のままだが、額から汗を滲ませて何処か焦っているように見える。そんな蓮夜の慌てぶりに響と未来が可笑しそうに笑うと、其処で未来が何かを思い出したように椅子の下に置いてある鞄を掴んで膝の上に乗せ、中から包みに入ったクッキーを取り出した。

 

 

「そうだ。蓮夜さんコレ、良かったらどうぞ」

 

 

「……?それは……?」

 

 

「今日の調理実習で未来と一緒に作ったんですよ。未来が昨日の件で、蓮夜さんに何かお礼がしたいって言うんで」

 

 

「お礼って……俺は大した事は何もしていないぞ?お前を救ったのは響であって、俺は何も……」

 

 

実際の所、フロッグイレイザーに襲われていた彼女の窮地を救ったのは響であり、自分はあくまで響と共闘して事態解決を手伝ったに過ぎない。

 

 

故に響はともかく自分は感謝されるような立場の人間ではないと語る蓮夜だが、二人は首を横に振ってそれを否定した。

 

 

「何言ってるんですか!蓮夜さんがいてくれたから、私はもう一度立ち上がってイレイザーと戦う事が出来たんですよ?」

 

 

「私も、昨日の事は全然覚えてなくて響から聞いた限りの事しか分かりませんけど……でも、蓮夜さんが響を助けてくれて、私達の繋がりを取り戻してくれたって事は分かります。だから、蓮夜さんには本当に感謝してるんです。響を救ってくれて、大切な親友との繋がりを取り戻してくれて……本当はこれだけじゃ足りないくらいだと思うけど、迷惑じゃなければ、受け取ってもらえませんか?」

 

 

「…………」

 

 

そう言って未来がそっと差し出すクッキーの入った包みをジッと見つめると、蓮夜は僅かに逡巡する素振りを見せた後、未来の手から包みを受け取って小さく頷いた。

 

 

「すまない……ああいや、この場合はありがとう、だな……正直こういった甘味は貴重だから、個人的に物凄く有り難い」

 

 

「貴重って……あれ?でも、蓮夜さんが働いてるバイト先って確かクレープ屋さんでしたよね?だったら甘い物とか、沢山食べる機会が多そうに思えるけど……」

 

 

「ないとは言い切れないが、其処まで機会が多いという訳でもないんだ……他はどうかは知らないが、うちの場合はあったとしても少ないおこぼれだったり、実験して作ったモノを偶に試食したりぐらいしかない……だからこういう品を貰えるのは正直嬉しい……本当に感謝してる……」

 

 

店先以外でこういった菓子をそうそう食にする機会のない生活を普段送ってるからか、嬉しそうに笑う蓮夜の反応を見てホッと安堵し、響と未来はお互いに顔を見合わせて笑い合った。

 

 

「……それにしても、折角見舞いに来てくれた上にこんな貴重なものまで貰っておいて、全然もてなしも出来ず申し訳ないな……何か、お返しになれるものが荷物に入っていなかったかどうか……」

 

 

「え、あっ……!気にしないで下さい!私達はただお礼をしに来ただけですから、そんな……!」

 

 

「いや、此処までしてもらって何も返さないというのは俺も気持ちが悪い。せめて土産になりそうな……あぁ、そういえばこれがあったな」

 

 

と、蓮夜はベッドの脇に掛けてある私物の荷物の中を漁り、其処から何かを取り出して二人に差し出すようにベッドテーブルの上に置いていく。それは……

 

 

「……え?サバ、缶……?」

 

 

「え、ええっと……こっちはカニ缶に、いわしの缶詰……?」

 

 

そう、蓮夜が二人に差し出したものの正体は、何故か大量の缶詰の品々だったのだ。

 

 

サバやいわし、ツナや焼き鳥系など種類豊富な缶詰の山々を目の当たりにして響と未来が目を白黒させる中、蓮夜は心做しかふんすっ、と得意気に胸を張る。

 

 

「どれでも好きな物を持っていってくれ。其処にあるのは他のと違って、100円以上はする高級なモノばかりだ……。特にそのカニ缶はスーパーのタイムセールで勝ち取った最後の一個で、味は絶品だと野宿先で知り合ったホームレスの先輩もお墨付きの品物。貴重な甘味を貰った以上、今の俺が返せる最大のお返しはそれぐらいしかないが、それでももし良ければ……」

 

 

「……い、いや、ちょ、ちょっと待って下さい!あの……そもそもの話、何故缶詰なんでしょうか?というか、どうしてこんなに缶詰が一杯……?」

 

 

「?何故、と言われても……缶詰は長期保存が効くから長持ちする上、サッと食べれて食事に時間を掛けないだろう?仕事以外の空いた時間は一秒でも多くイレイザーの探索に使いたいから、毎日缶詰が投げ売りされている最寄りのスーパーには大変助けられてるんだ」

 

 

「え……あ、あの、違ってたらごめんなさい……もしかしてですけど、蓮夜さんって食事はいつもこの……?」

 

 

「ああ。これ(缶詰)だけだ」

 

 

お前達も食べるか?などと呑気に言いながら、何処から取り出したのか若干錆び付いた缶切りを取り出す蓮夜。一方で響と未来は蓮夜の衝撃的な食生活を知り揃って唖然としていたが、先にハッと我に返った響がベッドテーブルに身を乗り出し声を荒らげた。

 

 

「だ、駄目ですよそんなのっ!ちゃんと美味しいごはんを食べないとっ……!こんなのばっかり食べてたら身体壊しちゃいますよっ?!」

 

 

「?……いや、しかし、味はしっかり付いているしこれもちゃんと美味いんだぞ……?それにさっき言ったように食事にあまり時間を掛けずに済むし、そういった点も効率的で……」

 

 

「効率とかそういう問題じゃないですよ!食事はもっと美味しく、楽しくでないと!こんな質素に時間を気にして片付けるものじゃないですから!」

 

 

「……?食べる事に楽しみなんて必要あるのか?」

 

 

心底不思議そうに首を傾げる蓮夜。そんな蓮夜の反応に響も一瞬呆気に取られてしまうが、やがてガクリッとベッドテーブルに両手を付いて肩を落とした。

 

 

「うう……最初に出会った頃は都市伝説のヒーローって感じで不思議な人だなーって思ってたのに、知れば知るほどまさか此処まで自分を省みない無頓着な人だったなんて……」

 

 

「いや、無頓着と言われる程では……それに食べる楽しみは分からないが、自分が作ったモノを食べてもらう楽しみならちゃんと分かるぞ……?うちは顧客のニーズや流行りに応えるのが仕事だからな、手応えを感じた時は俺も内心達成感を覚えて……」

 

 

「そういう事じゃないんですっ!怪我の事もそうだけど、もっと自分を大事にして欲しいというか、そういう喜びを自分自身にも向けて労わって欲しいっていう話で……!」

 

 

「今も十分喜んでるぞ。100円以上の缶詰を開けた時とか特に」

 

 

「そぉ〜〜ゆぅ〜〜ことじゃなくてぇ〜〜っ……!!」

 

 

身振り手振りを使って蓮夜に自分の身体をもっと労る事を伝えようとする響だが、いまいちピンッと来てない様子の蓮夜の反応を見てテーブルに突っ伏してしまい、見兼ねた未来が缶詰を一つ手に取って口を開いた。

 

 

「ええっとですね……響が言いたいのは、こういうのばかり食べるのは良くないというか、もっと健康に気を使って欲しいって事なんじゃないかなって。実際缶詰って基本的に塩分が多いらしいから、ちゃんとお野菜とかそういうのも取らないと栄養も偏るし、身体にも悪いですから……」

 

 

「成る程、そういう事か……なら心配はいらない、たまにだが缶詰以外のモノもちゃんと摂取するように心掛けてる」

 

 

「あ、そうなんですね。それなら……」

 

 

「ああ、時々このゼリー飲料で一日の食事を済ませる日もあるから心配ない。野菜味もあるから必要な栄養も取れるし、時間も取らないからより効率的で助かるんだ」

 

 

「もっと酷くなってる?!」

 

 

食べ物どころかちゃんとした固形物ですらなくなったゼリー飲料を取り出して胸を張りながら語る蓮夜。そのあまりにも酷い食への無頓着ぶりに未来も衝撃を受けて驚きを隠せない中、隣で二人の会話を聞いていた響が突然身を起こしながらバンッ!とテーブルを叩いた。

 

 

「やっぱりこのままじゃ良くないです……!蓮夜さん!この入院を機会に荒んだ食生活を改めましょう!私と未来もお手伝いしますから!」

 

 

「……え……?」

 

 

「え、ひ、響?!いきなり何言って……!」

 

 

「だってあまりに酷過ぎるしほっとけないよこんなの!これからは一緒に戦う事になるんだから、仲間の私達が今の内に悪い所を指摘して直させないと!此処でちゃんとさせないと、蓮夜さんがもっとダメダメになっちゃうよ!」

 

 

「……ダメダメ……?」

 

 

ビシィッ!と蓮夜に人差し指を向けながら戸惑う未来に熱弁する響。一方で蓮夜は響から「ダメダメ」と評されて少なからずショックを受けてしまうが、響はそんな反応を他所に蓮夜の方に振り向きながらベッドテーブルに身を乗り出し、グッ!と拳を握り締める。

 

 

「入院中はちゃんとした病院食も出るだろうし、退院後は私達と一緒に美味しいものを食べに行きましょう!偶におかずとか作って差し入れに持っていきますし、ちゃんとした食生活を送っていけば今までの荒んだ生活も自然と改善されていく筈ですから!」

 

 

「……あ、いや、別に其処まで面倒を見てもらう必要は……俺自身特に今の生活を不憫には思っていないし、コレだけでも十分満足して……」

 

 

「ダメです!今後缶詰は一切禁止ですっ」

 

 

「──────」

 

 

(す、すごい……缶詰を禁止って言われただけで、この世の終わりみたいな顔してる……)

 

 

実際今の生活の生命線の殆どと言っても過言ではないからか、缶詰の禁止を言い渡された蓮夜はイワシの缶詰を両手に持ったまま顔面蒼白し絶句している。そんな蓮夜を見て未来は若干不憫さを覚え、響も流石に一切禁止は言い過ぎたと思ったのか、若干口をもごつかせながら言葉を続けていく。

 

 

「え、っと……流石に二度と食べちゃダメって言いませんけど、せめてちゃんとしたごはんを食べられるようになるまで控えましょう?ただでさえ怪我の事もあるし、これ以上身体に負担が掛かるような事になったら本当に心配になっちゃいますから……」

 

 

何も蓮夜が憎くて此処まで言ってる訳じゃない。寧ろその逆で、蓮夜は改竄された世界で一人きりだった自分を支えてくれて、未来や仲間達との大切な繋がりを取り戻してくれた大事な恩人だ。

 

 

故に自分の傷や身体の健康を全く気にしない蓮夜を見てるとどうしても口煩くなってしまうし、その身体で無茶をされると本気で心配になるし居ても立ってもいられなくなるのだ。

 

 

だからどうか自分を労わってあげて欲しいと願う響の心境を少なからず察したのか、蓮夜は両手に握る缶詰をジッと見つめると、やがて薄く溜め息を漏らしながら控え目に頷き返した。

 

 

「そうだな……お前の忠告を聞かなかったせいで今もこんな状態になってしまってる訳だし……分かった。暫くの間、今の食生活は改める……」

 

 

「ほんとですか!」

 

 

「ああ。……だからその代わり、今ある分の缶詰だけはちゃんと食べ切らせて──」

 

 

「ダメです。缶詰は暫く没収です」

 

 

「───────」

 

 

(す、すごい切なそうな顔してるっ……)

 

 

もしかするとただ単純に缶詰が好きなだけではなかろうか、バッサリと切り捨てる響を物悲しげな顔で見上げる蓮夜を見て未来は苦笑いを浮かべながらそんな考えが過ぎる。その後、缶詰を全部没収した響と未来が帰るまでの間、蓮夜は心做しか寂しそうというか、悲しそうな顔をずっと浮かべていたのであった──。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「──蓮夜君の身体に異常が?」

 

 

「はい」

 

 

一方その頃、S.O.N.G.本部内にあるエルフナインの研究室にて、弦十郎とエルフナインがホワイトボードを前に何やら神妙な様子で話し込む姿があり、弦十郎はエルフナインから告げられた蓮夜の身体に関する"異常"というワードに眉間に皺を寄せて怪訝な表情を浮かべていた。

 

 

「それはつまり、蓮夜君の怪我の具合は想像以上に酷いという事か?俺も経過報告などは担当医から一通り聞いてはいるが、其処まで深刻とは一言も……」

 

 

「いえ、異常というのは蓮夜さんの怪我の事を指してる訳ではありません。……寧ろ、そちらの方がまだ事は穏便に済んだかもしれないです」

 

 

「……?どういう事だ?」

 

 

エルフナインの話の意図が汲み取れず、弦十郎の怪訝が深まる。するとエルフナインは手に持っていた茶封筒から数枚のレントゲン写真を取り出し、ホワイトボードに写真を貼り付けていく。

 

 

「これは昨日、本部に運び込まれたばかりに撮影した蓮夜さんのレントゲン写真です。そして右側が、今朝の検査の際に撮ったもの……何か違いが見られませんか?」

 

 

「?…………っ?!罅が入っていた筈の負傷箇所が、幾つか消え掛かっている……?」

 

 

ボードに貼り付けられた蓮夜の二枚のレントゲン写真を比較し、その相違点に気付いた弦十郎の顔が驚きに染まる。

 

 

昨夜撮影した左のレントゲン写真には腕や足の骨、肋骨などに痛ましい無数の罅が入っていたが、今朝撮った写真にはそれらの箇所にあった筈の罅が小さくなっており、中には殆ど治り掛けているモノも見られたのだ。

 

 

「ご覧頂いた通り、通常なら完治するまで数ヶ月は掛かるであろう筈の怪我が、昨日の今日で此処まで回復が進んでいました。外的な治療薬の投与も殆ど無しに、蓮夜さん自身の治癒能力だけで……」

 

 

「そんな馬鹿な……特別な要因も何も無しに、一晩で此処まで回復したと言うのかっ?」

 

 

有り得ない、と弦十郎は戸惑う。人の身で異常な回復力と聞くと、嘗て響がその身に宿していた聖遺物(ガングニール)の力で欠損した左腕を修復していた記憶が過ぎるが、あれはあくまで聖遺物由来の力によるモノ。

 

 

ただの人間の自然治癒のみで、しかも短期間で此処まで傷を治せるなど確かに普通ではない。

 

 

困惑を露わに弦十郎が顎に手を添えて二枚のレントゲン写真をジッと見つめると、エルフナインが脇に抱えていた液晶パッドを手にして画面を操作していく。

 

 

「僕もそう思い、蓮夜さんの身体を改めて詳しく調べ直してみたんです。……そうしたら、蓮夜さんの身体に幾つか不審な点が見られました」

 

 

「不審な点……?」

 

 

問い返す弦十郎に、エルフナインは無言で頷きながら液晶パッドの画面を弦十郎に向ける。其処にはレントゲン写真同様、蓮夜の人体図が映し出されており、全身のあらゆる箇所に赤いマーキングが記されていた。

 

 

「解析を進めてみたところ、蓮夜さんの全身の様々な部分に人の手が加えられてる痕跡が多く見られました……その影響か、視覚や聴覚、筋肉と言った身体機能が並の人間と掛け離れた発達をしており、身体能力が大きく底上げされているようなんです。異常な速さの回復力も、恐らくこれが関係してるんじゃないかと……」

 

 

「人体に、人工的に手を加えられた人間……つまり、彼はサイボーグ、改造人間の類かもしれないと……?」

 

 

「其処まではまだ分かりません……ただ僕が一番疑問を感じてやまないのは、蓮夜さんの脳髄の方なんです……」

 

 

「脳?」

 

 

再度頷き、エルフナインは液晶パッドの画面を切り替えて弦十郎に見せる。其処に映し出されるモノを目にし、弦十郎は驚きで目を見張り絶句してしまう。

 

 

「これはっ……?!」

 

 

「……見ての通りです。これが何かの間違いでなければ、今蓮夜さんが普通にしていられること自体、"まず有り得ないんです"……本来ならもっと以前に死んでいても可笑しくない……」

 

 

「っ……いや、しかし、これはっ……まさか、彼が記憶を失ったのはこの影響で……?」

 

 

「いえ、恐らくその件とコレは関係してないと思います。仮にコレが関係してたとすれば、今頃記憶の喪失だけじゃ済まない……彼の人格や思考、感情の消去……いえ、此処まで酷いと"脳死"していたとしても可笑しくないですから……」

 

 

そう語るエルフナインの表情が暗く沈んでいく。無理もない。これは蓮夜の過去にも関わる重要な痕跡かと思われるが、同時に恐らく、彼の過去にとって最も深い闇の側面だ。

 

 

その記憶を持たない今の蓮夜に果たしてこの事実を伝えるべきか否か、エルフナインが自分だけを此処へ呼んだのは恐らくその相談をする為であろうと瞬時に察した弦十郎は腕を組んで険しい表情を浮かべ、液晶パッドの画面に視線を向けていく。

 

 

(我々と出会う以前から、ライダーシステムなんていうシンフォギアにも匹敵する力を持って戦いに身を投じていた彼だ……その失われた過去にも唯ならぬ何かがあっても可笑しくはないと思っていたが……蓮夜君、君は一体……)

 

 

液晶パッドの画面に映るのは、脳のレントゲン写真。

 

 

其処には脳の大部分が人工的に手を加えられた痕……普通の人間なら先ず生きていられるとは思えない、最早一から作り変えられていると言ってもいい無数の痛ましい"手術痕"が残る蓮夜の脳を見つめ、弦十郎は口元を片手で覆いながら複雑げに眉を顰めてしまうのであった。

 

 

 

 

 


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