戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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雪音クリス編(前編)
第五章/不協和音×BANGBANG GIRLの憂鬱


 

 

「──奴が生きてただってっ?!」

 

 

 薄暗い廃墟ビルの中間フロア跡地。床に無数のガラス片が散乱し、薄汚れたデスクなどが辺り一面に転がる中、先のフロッグイレイザーに関する改竄の件についてデュレンにクレンと共に呼び出されたアスカが彼から聞かされる話の内容に驚愕を隠せず、動揺を露わにする姿があった。

 

 

「事実だ。奴は貴様から逃げ延びた後、合流した立花響に『記号』を与えてイレイザーを共に撃破し、お前達が行った改竄を見事打ち消したそうだ」

 

 

「そんな、まさか……!」

 

 

「ああ、全く本当に最高だ。血気盛んなお前にこの件を任せた結果、俺達に対抗出来る戦力が向こうに一人増えた訳だからな……実に素晴らしい結果だ。おめでとう、アスカ」

 

 

「っ……!てめぇっ、おちょくってんのかよデュレンっ!」

 

 

 パチパチッと、長らく放置された錆び付いたパイプ椅子に足を組んで座ったままやる気のない拍手を送るデュレンのふざけた態度にアスカが苛立ちを覚えて詰め寄るが、デュレンはそれに対して臆する事なく、冷ややかな眼差しをアスカに向けて淡々と口を開く。

 

 

「現状を艦みれば嫌味の一つも言いたくなるというものだ……物語の改竄は俺達にとって有利なフィールドを作れる強力な武器だが、それは同時に我々という癌の存在をこの世界に自ら知らしめる諸刃の剣でもある。そんな切り札を俺達に無断で切った挙句に失敗し、脅威を増やしただけとあっては世話もない。おかげで奴と装者達が合流した今、改竄の力で影から奴らを始末するという手も使えなくなった訳だからな……貴様に僅かでも期待していた己の馬鹿さ加減に呆れて涙が出てくるよ」

 

 

「このっ……!」

 

 

「ハイハイ、二人とも其処までにしとこうよ。デュレンも煽るような事は言わないでさ、ね?」

 

 

 肩を竦めるデュレンの言葉に思わず手が出そうになるアスカを、クレンが横から割って入って二人を引き離す。しかし、クレンは溜め息を一つ漏らしながらアスカを見つめる。

 

 

「でも、言葉は悪いけどデュレンの言ってる事も間違ってないと思うよ。改竄を施して失敗した以上、暫く力は使えなくなる。立て続けに物語の改竄を行えば僕達の存在が見付かって、問答無用で物語から追放され兼ねないからね。そうなったらデュレンはともかく、僕や君、他のイレイザー達は抗う事は出来ない訳だし」

 

 

「っ……わーってんだよそんなのっ……!だから保険を用意して俺が囮になったってのにっ、あの野郎が勝手に立花響を襲って先走ったからっ……!」

 

 

「貴様が選んだ人選で監督も碌に出来なかったのであれば、それは貴様の過失だろうよ。……ともかくほとぼりが冷めるまでの間、物語の改竄は行えない。その間、貴様にはこちらの仕事を手伝ってもらうぞ」

 

 

「……仕事……?」

 

 

 アスカが訝しげにそう聞き返すと、デュレンはスーツの内ポケットから一枚の写真を取り出し、アスカに目掛けて投げ渡した。

 

 

「こいつは……?」

 

 

「つい先日覚醒したばかりのイレイザーだ。覚醒して以降の経過観察を続けた所、他のイレイザー達にはなかった"兆し"がソイツに見られた」

 

 

「兆し……?お前が前から言ってた、ノイズ喰らいのイレイザーが進化する際に出る前兆って奴か? 」

 

 

「今の時点ではまだ断定出来ん。それを含めて確かめる為にも、お前にはソイツのお守りをしてもらう。また空振りの可能性もあるが、もし万が一当たりなら俺達の下に連れ帰って来い……必要なデータを取る前に、また貴様の独断で台無しにされては叶わんからな」

 

 

「ッ……一々嫌味が絶えねぇヤツめっ」

 

 

「先の失態を思えばこの程度で済ませるだけ有情に思って欲しいな……次に動く際にはこちらから指示を出す。それまで勝手に動くなよ」

 

 

「……チッ……」

 

 

 横目で睨み付けながら念押しで釘を刺すデュレンに舌打ちし、アスカは受け取った写真を手に苛立ちを露わにその場を後にしていく。

 

 

「行っちゃったなぁ……ちょっと言い過ぎなんじゃない?独断行動で失敗したって点は確かに悪いと思うけど、他の研究が順調に進んでる今となっては、別に彼と装者達が合流した所で大した障害にはならないでしょう?」

 

 

「だとしても、奴の独断行動は目に余る。同じ轍を踏むのを防ぐ為にも、今の内に釘を刺しておく必要はあるだろう……そんな事より、お前に任せた例の件はどうなっている?」

 

 

「海の向こうの件?そっちは今のところ順調だけど、想定よりも成長の速度が速いかな……今は僕の力で何とかごまかしてるけど、正直いつ蓮夜君に気配を悟られても可笑しくはないと思うよ。まあ一応国外な訳だし、バレてすぐにどうこうって事にはならないだろうけどさ」

 

 

「成る程……ならそちらから気を逸らす陽動も用意せねばならないな……お前にも何れこちらで動いてもらう事になるだろうが、それまでは向こうで奴を隠し続けろ。その後は俺の方で見る」

 

 

「ハハッ、相変わらず人使いが荒いねぇー……でも、彼らの事はホントに放っておいていいのかい?立花響がクロスの記号を得たという事は、恐らく他の装者達も芋ずる式に記号を手に入れていく筈だ。そうなったら遅かれ早かれ、装者全員が僕達に対抗出来るようになってしまう……手を打つなら今の内だと思うけど?」

 

 

 薄汚れたデスクの上にヒョイっと腰を下ろし、蓮夜と彼に手を貸す響達が脅威になる前に排除する事を薦めるクレンだが、デュレンは徐にパイプ椅子から立ち上がってズボンのポケットに両手を突っ込み、感情の読めない無表情のままクレンの方に振り向く。

 

 

「黒月蓮夜はともかく、改竄の力も無しに装者達を手に掛けるのはリスクが大きい。仮に始末自体が上手く言ったとしても、その後の隠蔽工作が叶わねば俺達の存在が明るみに出された挙句、奴の仲間がこの世界の外から駆け付けてくる危険性もある。……今はまだその刻ではない」

 

 

「……ふーん。ま、君がそう言うんならこっちも従うだけだけど」

 

 

「……不服そうだな。何か引っ掛かる事でも?」

 

 

「いいや?僕達のリーダーは君なんだ。その君が止めろと言うなら僕達は止めるし、やれと言われればやるだけだ。……それが僕達全員の目的に辿り着く一番の近道だと信じてるからね」

 

 

「…………」

 

 

 肩を竦めて戯けるように笑いながらそう語るクレンだが、デュレンはやはり表情一つ変えず何も答えない。そしてそのまま無言で踵を返してその場を後にするデュレンの背を見送り、クレンは飄々とした今までの様子からふと真剣味を帯びた表情に変わっていく。

 

 

(今はまだその刻ではない、ねぇ……彼を罠に嵌めて最初に倒した時、記憶を失った彼が生きていると分かった時、立花響が改竄に侵された時……チャンスなら幾らでもあった筈なのに、口では排除すると言いながら一向に動く気配を見せない……本当にそのつもりがあるのか?)

 

 

 今ならまだ自分達側に有利な状況で事を進められるにも関わらず、何時でも対処出来る相手を前に胡座をかいているようにしか思えないデュレンの方針にクレンも懐疑的な思考に浸り、デスクの上に上げた膝の上で頬杖を着いていく。

 

 

(アスカの嗅覚も馬鹿には出来ないかもね……まあでも、今はまだ動く刻じゃないのはこちらにとっても同じだ……その間に、彼の狙いが何処にあるのか探りを入れる必要がある……)

 

 

 恐らく、いや、十中八九デュレンは自分達にまだ何かを隠している。それが何なのかを突き止めなければと密かに画作し、クレンはその身を水と化して地面に散らばり、そのまま地面に浸透し何処かへ姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

「──えーっと、確かこの辺に……あ、あったあった!確かこの歩道橋を渡ってすぐだったハズ!」

 

 

「ほほう?つまり目的地はすぐ其処……!ならば一番乗りはアタシが頂くデスよー!」

 

 

「ああ?!ま、待ってよ切歌ちゃん!」

 

 

「響!それ一つ前の奴!蓮夜さんのマンションはもう一つ先の歩道橋を行った先だから!」

 

 

「へ?あ、そ、そっか。ごめんごめん、ついうっかり……!」

 

 

「切ちゃーん、もう半分以上渡ってるけどそっちじゃないんだって、戻ってきてー」

 

 

「ええ?!」

 

 

───フロッグイレイザーの事件が収束してから約一週間半が経過したある日の休日。

 

 

 先日の戦いの際に皆に忘れられたのがまるで嘘だったかのように元の関係に戻った響、未来、切歌、調の四人は現在先の一件からS.O.N.G.の民間協力者となり、弦十郎の計らいで用意され、つい先日引っ越したばかりのマンションで暮らす蓮夜の家に遊びに向かう道中にあった。

 

 

 多くの車が橋の下を行き交う歩道橋を響の早とちりで渡り掛けたりなどプチトラブルを挟みつつ、少し遅い蓮夜への引っ越し祝いのお土産が入ったビニール袋を皆で手に談笑しながら歩く中、調がふと口を開いて件の蓮夜の事を話し出した。

 

 

「それにしても、蓮夜さんが素直に司令が用意したマンションに引っ越したのはちょっと意外でした。てっきり前に話した時みたいに、周りを巻き込めないからって断るんじゃないかと……」

 

 

「あ、それアタシも思ってたデス。前はなんと言うか、警戒心が強かったというか……誰も頼らない?みたいな感じに見えたから、司令からその話を聞いた時はちょっと驚いたデスよ」

 

 

「ああ、うん。本当は蓮夜さんもそのつもりだったみたい……でも、司令がその辺りの不安要素を自分達が何とかしてくれるって言ってくれたり、後は私と響が説得してって感じで聞き入れてくれたんだよ。このままもし冬とか来たら、野宿生活のままじゃ絶対に凍え死んじゃいますから!って言って」

 

 

「野宿生活って……や、やっぱり今まで宿無しで生活してたんデスねっ」

 

 

 以前にも「身寄りのない蓮夜は普段どんな生活をしているのか?」と皆で話していた際に話題に出た事があったが、まさかほんとに野宿生活をしていたとは思っていなかった切歌が顔を若干引き攣らせていると、未来の隣を歩く響が三人の話に加わっていく。

 

 

「でもこれで何時でもこっちから会いに行けるようになる訳だし、未来と作った献立も持って行きやすくなるから私達も大助かりだよねー。毎回お店の方にまで持っていくのは流石にアレだし……」

 

 

「ほえ?……も、もしかしてお二人、蓮夜さんにごはんを作ってるデスか?!」

 

 

「そういえば、未来さんの持ってる袋に入ってるのってタッパー入りのモノが多いような……」

 

 

「あ、えっと、まだ二人に言ってなかったっけ?実は前に響とお見舞いに行った時……」

 

 

「みんなぁー!早く早く!蓮夜さんち、もうすぐ其処だよー!」

 

 

 驚愕する切歌、じーっと未来の持つビニール袋を見つめる調に以前響と蓮夜のお見舞いに行った時の事を話そうとした矢先、響の大声を耳にして未来は振り返る。

 

 

 其処にはいつの間に先へ進んでいたのか、歩道橋の階段の中腹まで登っている響が未来達に手を振りながら歩道橋を渡った先を指で差す姿があり、その指差す先の方を見ると、四人の目的地である蓮夜の引っ越し先のマンションが目と鼻の先にまで見えていた。

 

 

「おお、思ってたより立派なマンションデスよ?!」

 

 

「外観も綺麗だし……家賃も凄そう」

 

 

 切歌と調が驚嘆の声と共に見上げるマンションの見た目は、白と黒のツートンカラーが映える八階立て。

 

 

 所謂高層マンションと呼べる立派な造りが遠目からも分かる外観をまじまじと眺めながら歩道橋を渡り、反対側の歩道に出てマンションの前まで辿り着いた四人はエントランスホールを通り、そのままエレベーターに乗ってボタンを押し上の階に上がっていく。

 

 

「此処のマンションは警備システムもしっかりしてて、警備会社がS.O.N.G.とも関わりがあるらしいから、何かあればすぐにS.O.N.G.にも異常が知らされるようになってるんだって。だからもしもの時はすぐに避難勧告が出せるし、本部でモニターも出来るからイレイザーの反応もいつでも検知が出来るみたい」

 

 

「そうなんですね……」

 

 

「でも、どうしてお二人そんなに詳しいんデスか?もしかして前に来た事でも……?」

 

 

「うん。蓮夜さんが此処の物件を紹介された時、実は私と響もたまたま一緒にいて一度だけ付いていったの。その時に今の話も聞いてたんだけど、私達はそのあと他の用事があったから、部屋の中まではまだ知らなくて……」

 

 

 そんな話を交わす中、目的の階層に到着した音がエレベーター内に響き渡る。扉が左右に開かれ、一先ず話の続きは降りてからにしようと四人がエレベーターを降りて目の前に視線を向けると、

 

 

 

 

 

「──黒月さんさぁ……頼むからいい加減学習して下さいよぉっ。もうこれで十一回目ですよ、十一回目!」

 

 

「面目ない……決してわざとではないんだが、ついついうっかりしていて……」

 

 

「いやもううっかりとかのレベルで済む話じゃないですよ!うちは玄関の扉がオートロックになってるから、1回閉まったらカードキー無しじゃ締め出し食らうって何回も説明したじゃないですか!」

 

 

「申し訳ない……此処までハイテクな設備はどれも前の生活にはなかったものばかりで、中々慣れず……」

 

 

「それだけならまだいいですよ?事情は軽く伺ってますし……でも、強引に扉開けようとしたらセキュリティーの警報機が鳴るから無茶な真似しないでって注意したでしょう!何でうちに連絡する前に扉こじ開けようとしてんのアナタ?!」

 

 

「いや、ウン……事ある毎に何度も呼び付けてしまい申し訳ないとも思って……もしかしたら完全にロックされていなくて、ちょっと扉を引けば実はイケるのではないかと僅かに期待して……」

 

 

「それで警報機ビービー鳴らしてたら世話ないでしょーがよ?!寧ろどうやったのこれ?!完全にロックされてる扉をこじ開けるとか並の力じゃ無理ですよ!一体どんな馬鹿力してんですかアンタァ?!」

 

 

「どんな、と言われても……こう……普通にドアノブを掴んで、そのまま軽く引っ張ったら扉が開いて……」

 

 

―ガシャアァアアンッ!!―

 

 

「オィイイイイイイイイッ?!なに軽い調子でまた扉こじ開けてくれてんのアンタァああああああああッ?!ほらァああッ!!また警報機鳴り出したじゃないのよどうしてくれんのさァああああああああッ?!」

 

 

 

 

 

「「「「…………………………」」」」

 

 

 

 

 

……其処には四人の目的地である部屋の前にて、何やらマンションの管理人らしき男性からお叱りを受ける額や腕に白い包帯を巻いた男、黒月蓮夜が自分の部屋の扉を強引にブチ開けてセキュリティーの警報機を鳴らしてしまう姿があったのだった。

 

 

 ビービービーッ!と、蓮夜が扉を無理にこじ開けたせいで異常を報せるけたたましい警報機が廊下中に鳴り渡る。その音を聞いて今度は何事かと、迷惑そうな顔の住人達が一斉に部屋から顔を出す。

 

 

 アーッ!!と、目の前で立て続けに起こる事態にいよいよキャパオーバー気味な管理人が頭を抱えて悲鳴を上げる中、この事態の元凶である蓮夜も焦った様子でこじ開けた扉を何度も開け閉めして警報機を止めようと試みるが、一度作動したら簡単には止められないのか音は一向に鳴り止む気配がない。

 

 

 そんなカオスな状況を前に、一度エレベーターから降りた響達は暫し呆然と固まった後、無言のまま後ろ歩きで再びエレベーターに乗り込み、扉を閉じて何も見なかったかのようにスーッと下の階へ一度避難したのであった。

 

 

 

 

 

 


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