戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第五章/不協和音×BANGBANG GIRLの憂鬱②

 

数時間後……

 

 

『──ゼェアアアアッ!!』

 

 

──S.O.N.G.本部のトレーニングルーム。普段は装者達の訓練に使われるこの訓練所内にて、今現在、蓮夜はクロスに変身して投影された市街地を縦横無尽に駆け回り、トレーニングシステムで次々と出現するアルカ・ノイズ達を相手に奮闘していた。

 

 

勢いよく振り抜いた拳で一番動きの鈍いアルカ・ノイズを狙って殴り飛ばし、奥で密集するアルカ・ノイズの群れに目掛けてまるでボーリングのピンが如くぶつけ、纏めて霧散させる。

 

 

塵となって消えていくアルカ・ノイズを見て薄く息を吐くクロスの左右から、今度は続け様に他のアルカ・ノイズ達が挟み撃ちで襲い掛かるが、クロスは即座に右足の先端に蒼い光を走らせてその場で身を捻らせながら軽く跳躍し、瞬間的に脚力が跳ね上がった右足を鋭く振るい、周囲のアルカ・ノイズ達を薙ぎ払った。

 

 

回し蹴りをまともに喰らったアルカ・ノイズは頭と胴体が真っ二つに割かれて消滅し、その余波を受けて吹き飛んだアルカ・ノイズ達もビルの壁に次々と激突すると共に霧散し消え去っていく。

 

 

それらの光景を尻目に、地上に着地して前を向くクロスの目線の先には地面に現れた方陣から更に続々と出現するアルカ・ノイズの増援の姿があり、クロスは間髪入れずに再度両足の先端に光を走らせて脚力を強化すると、地面を吹き飛ばす程の勢いで蹴り上げて飛び出し、アルカ・ノイズが完全に現出する前にすれ違い様に次々と正確に急所を打ち抜き、素早く撃破していった。

 

 

「──アルカ・ノイズの数、更に減少。増援のスピードがまるで追い付かない……なんて殲滅速度なの……」

 

 

「すごい……!本当にアルカ・ノイズともちゃんと戦えてる!」

 

 

「これがクロス……マスクドライダーの力、か……こうして間近で見ると、改めてその凄まじさが分かるな」

 

 

訓練所の隣のモニタールームにて、機器でクロスのデータを収集する友里の報告を耳にその様子を見守る響達や弦十郎も、アルカ・ノイズ達を寄せ付けないクロスの戦闘力に瞠目を禁じ得ずにいる。

 

 

ノイズ、アルカ・ノイズの特性の一つである『位相差障壁』は自分の存在を異なる世界に比率を置く事で、人類側の攻撃を無効化するという厄介極まりない能力だ。

 

 

過去にあったノイズとの交戦記録において、位相差障壁を打ち破れたのはノイズがこちらの世界に対して存在比率を増した瞬間にタイミングを合わせて攻撃し撃退出来た例や、効率を無視した間断のない攻撃を仕掛ける事で駆逐した例など、いずれも有効的とは言えない対処法しか存在しない。

 

 

故に本来であれば、シンフォギア・システムを介した攻撃で異なる世界に跨るノイズの存在を調律し、こちらの世界の物理法則下に引きずり出す事でしか位相差障壁を無効化出来ず、ダメージを与える事も不可能な筈なのだが、その事実に反しクロスはその手でアルカ・ノイズの突進攻撃をものともせず受け止め、逆に他のアルカ・ノイズ達に目掛けて蹴り返し反撃に転じている。

 

 

シュミレーション上とは言え、位相差障壁を破れなければ即座に訓練が終了されるように設定されてるにも関わらずアルカ・ノイズを相手に一方的に立ち回るクロスの性能に一同の目が釘付けになる中、友里と共にデータ収集を行っていたエルフナインが椅子ごと弦十郎の方に振り返った。

 

 

「データ解析、一通り完了しました。前にベルトを調べた際に蓮夜さんから教えて頂き、構築したアルゴリズムのおかげで以前まで解析不能だったクロスのデータも大分調べられるようになりましたね」

 

 

「流石だなエルフナイン君。それで、解析の結果は……」

 

 

「はい、先ずはこれをご覧下さい」

 

 

そう言ってエルフナインは手馴れた手付きで端末機器を操作していく。

 

 

モニター画面が切り替わり、クロスに変身している状態の蓮夜のパーソナルデータが映し出されていき、更に腰部分のベルトをズームアップしていくと、ベルトから蓮夜の全身に掛けてエネルギーらしきモノが流れているのが分かる。

 

 

「これが今の、クロスに変身している蓮夜さんの状態です。腰のベルトから放出される未知のエネルギーが蓮夜さんの全身を巡り、アルカ・ノイズの炭素転換を無効化しているだけでなく、ノイズの位相差障壁をも無力化している……恐らくこれが蓮夜さんも以前に言っていたクロスの能力の一つ、"あらゆる世界の敵や法則に順応する為に必要な能力を代換する機能"かと思われます」

 

 

「能力を代替する機能……要するに蓮夜さんは今、シンフォギアの機能の代わりになる別の力を使って、アルカ・ノイズの位相差障壁を無力化してるって事なのかな……」

 

 

「ま、またとんでもな機能デスね、それ……」

 

 

「ああ。本来シンフォギアの調律でしか打破出来ないノイズの位相差障壁を別の力で代替して突破し、ノイズの撃退を可能とする……それが解析不能のブラックボックスの正体となれば、そんな物を易々と外部の人間に明かせる容易なセキュリティ一になってる筈もないか……」

 

 

何せそんな技術、日々ノイズへの対抗策や聖遺物の研究を進めるこの世界からしてみれば画期的となる。

 

 

シンフォギアは適合した人間にしか扱えないというある種のセーフティーと呼べる物が存在するが、このクロス……仮面ライダーの力が仮に誰にでも扱える物なのだとすれば、その技術が広まれば万人がノイズと戦えるようになれるかもしれない。しかし……

 

 

「このベルトを開発した方のその判断は、確かに間違っていなかったと思います。……仮にこの技術が世界中に広まればノイズへの対抗策になるかもしれませんが、同時に──」

 

 

「新たな火種となり得るかもしれない危険性もある、か……ノイズという人類共通の敵を前にしても人間同士の争いが絶えない現状、こんな強大な力、今の我々人類の手には確かに余るものだな……」

 

 

自分達の世界という括りだけで見ても、聖遺物の研究を巡り各国の間でしのぎを削る今の現状の中、ライダーシステムという新たな投石が投げ込まれれば更なる混迷を招くのは目に見えている。

 

 

ルナアタックの事件後にシンフォギアシステムの存在が世界中に知れ渡った際も、技術を秘匿していた件やシンフォギアの保有を巡って国際規模の問題になり掛けた事や、聖遺物の新エネルギーを巡って人類間の闘争が加速するという結果を生んでしまった事もある。

 

 

故に蓮夜もその危険性を危惧し、S.O.N.G.との協力を取り付ける条件として必要以上のベルトのデータや技術は開示しない事や、S.O.N.G.と仮面ライダーが繋がっている事は表向きには伏せ、黒月蓮夜はあくまで民間の協力者として扱って欲しいと希望された。

 

 

無論それは弦十郎達を信用していないからでなく、自分やクロスの存在が万が一この国の外にまで露見すれば、蓮夜を匿っていたS.O.N.G.が矢面に立たされるのは間違いなく、あくまで人間を守る為の物であるライダーシステムの技術が広まり、人間同士の争いに利用されるリスクを避ける為だ。

 

 

いつ如何なる事態になっても、S.O.N.G.の面々だけは自分の問題に巻き込まないように努めると語り、自分のせいで組織にとって不測の事態になった際には全ての責任を押し付けてくれても構わないと告げた蓮夜の以前の言葉を思い返し、弦十郎は複雑げに眉を顰めて小さく溜め息を漏らした。

 

 

(まだ歳若い若者に自ら蜥蜴の尻尾切りを進んでやらせるなど、あってなるものか……そんな事態にならぬように、せめて大人である俺達が彼の助けになってやらねば)

 

 

この事はまだ響達にも話していない。語れば彼女達が必要以上に気に掛けてしまうやもしれないと思い、弦十郎はアルカ・ノイズと戦うクロスの戦いぶりに釘付けになる響達を横目で一瞥し、トレーニングルームに視線を戻す。

 

 

アルカ・ノイズの数は既に残り僅かまで減っており、クロスは正面から迫るアルカ・ノイズ三体を回し蹴りで纏めて粉砕すると、右腕の先にまで伸びたラインの上に光を走らせて拳に蒼い光を纏い、地面に勢いよく拳を叩き込んで蒼いオーラを孕んだ衝撃波を発生させ、周囲を囲む残りのアルカ・ノイズ達を吹っ飛ばして完全に撃破していった。

 

 

『ふぅッ……一応、これで全部になるのか……?』

 

 

「はい。お疲れ様です、蓮夜さん。おかげさまで対アルカ・ノイズ戦のデータもある程度取れました」

 

 

『そうか、良かった……それで確か、この後も別のシュチュエーションでの戦闘データを取るんだったな……?』

 

 

「あ、はい。次は対人戦でのデータ収集にもご協力をお願い出来たらと。三十分の小休憩を挟んだら、その後データ収集の再開を……」

 

 

『いや、このまま続行してもらって構わない……体力の方もそれほど消耗はしていないし、身体も温まって今の状態が一番調子がいいからな……』

 

 

エルフナインにそう言ってクロスは身体の調子を確かめるように右手を何度か開閉し、このまま次の段階に進む意向を伝えると、エルフナインは弦十郎に成否を求めて視線を向け、少し考えた末に頷いた弦十郎の了承を確かめた。

 

 

「……分かりました。ではこのまま次の段階に移行しますね。次のシュミレーションでは先程話した通り一対一での対人戦となりますので、蓮夜さんにはこちらで選んだ装者と実戦形式での戦闘を行ってもらいたいと思います」

 

 

『そちらの装者と……?それは構わないが、一体誰と──「あたしとだ」……!』

 

 

首を傾げて聞き返そうとした中、それを遮るように横合いから声が聞こえて思わず振り返る。すると其処には、いつの間にか赤いギアを身に纏い、クロスと対峙するように佇んでいるクリスの姿があった。

 

 

「えっ、クリスちゃん?」

 

 

「さっきから姿が見えないと思ったら、いつの間に……」

 

 

「ああ。実は君達が来る前に此処で先に訓練していたようなんだが、蓮夜君のシュミレーションに備えて色々と調整と準備をしていた際、たまたま訓練終わりで居合わせたクリス君にその話をしたら、その相手を自分にやらせてもらえないかと申し出られてな」

 

 

「クリス先輩がデスか?」

 

 

クリスが自ら蓮夜との模擬戦を願い出たと聞かされ、響達は意外そうな眼差しでクリスを見つめていくと、エルフナインは端末機器を弄りながら弦十郎の説明に補足を加えていく。

 

 

「急な話ではありましたが、マスクドライダーと装者の仮想シュミレーションは興味深いと思い、承諾したんです。今後はイレイザーやノイズイーターとの戦闘が激化すると予想されますし、彼等と同等以上の戦闘力を持つクロスとの戦いで得たデータを使ってギアにアップデートすれば、少しでも皆さんのお役に立てるかもしれませんから」

 

 

説明を続けながらエルフナインが端末を操作していくと、クロスとクリスが佇むトレーニングルームの周囲の景色が変化して何処かの寂れた廃都市へと変わっていく。

 

 

その光景を物珍しげに見回すクロスとは対称に、クリスは最早見慣れたものだと周囲に目もくれず腕に纏ったギアの装甲の位置を調整し、クロスはそんなクリスに向けて徐に口を開いた。

 

 

『そういえば、こうして二人だけで顔を合わせるのは何気に初めてだったな……改めて、宜しく頼む』

 

 

「…………」

 

 

『……?』

 

 

軽く会釈をして改めてクリスに挨拶するクロスだが、対するクリスは無言のままクロスを見つめるだけで何も返さず、その眼差しも何処か猜疑的な色を含んでいるように見える。

 

 

そんなクリスの様子にクロスも仮面の下で怪訝な顔を浮かべて小首を傾げる中、訓練スペースを新たなフィールドに切り替えたエルフナインからのアナウンスがルーム内に響き渡った。

 

 

「空間シュミレーターのセッティング、完了しました。間もなく戦闘開始の合図を鳴らしますので、合図開始と共に戦闘を始めて下さい」

 

 

「……先に断っとくぞ。シュミレーションとは言えあたしは最初からマジでいく……そっちも手を抜いたりしたら承知しないからな……」

 

 

『……何?』

 

 

エルフナインのアナウンスが訓練所内に響き渡る中、何処か重々しい口調でそう告げるクリスの言葉にクロスが思わず訝しげに聞き返した瞬間、模擬戦の開始を告げるブザーが鳴り響き、直後にクリスは両手に出現させた大型ガトリングガンの銃口をクロスに狙い定めると共にいきなり発砲し始めた。

 

 

『ッ!いきなりか……!グッ!』

 

 

慌てて真横に飛び退いて銃弾を回避し、受け身を取って即座に身を起こしながら真横に疾走するクロスだが、クリスもそれを逃すまいと大型ガトリングガンを乱射し続けクロスを追撃していく。

 

 

(此処でアイツに勝って証明してやる……!アイツの力なんかなくたって、あたしはお荷物なんかじゃないって事を!)

 

 

『チィ……!』

 

 

背後から迫る銃弾の嵐を一瞥し、クロスはそのまま近くの建物の中へと窓を突き破って飛び込んでいき、建物の壁を盾代わりにしてどうにか銃撃を凌ごうとする。が……

 

 

「それで隠れたつもりかよっ!!」

 

 

―MEGA DETH PARTY―

 

 

『!』

 

 

クリスは大型ガトリングガンを発砲し続けたまま左右の腰部アーマーを展開し、クロスが逃げ込んだ建物に目掛けて多連装射出器から小型ミサイルを一斉発射したのだ。

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴォッ!!と、ミサイルはそのままクロスが逃げ込んだ建物に侵入して立て続けに巻き起こる爆発が全ての窓ガラスを内側から吹き飛ばし、建物は粉塵を巻き上げながら激しく音を立てて崩壊していったのである。

 

 

「ク、クリス先輩、初っ端からいきなり飛ばし過ぎではないデスかっ?」

 

 

「幾ら蓮夜さんも強いって言っても、あれだけの攻撃を受けたら流石に……」

 

 

「いや、そうとも限らん」

 

 

「え?」

 

 

崩れ落ちる建物を見て流石にクロスの身を案じる切歌と調に対し、弦十郎は腕を組んだまま悠然と呟く。

 

 

まるで何かを見越しているかのようなその口振りに未来や響達も頭の上に疑問符を浮かべる中、舞い上がる粉塵の中を一筋の朱い閃光が目にも止まらぬ速さで駆け抜け、クリスの左手のガトリングガンの銃身をすれ違い様に斬り裂いた。

 

 

「何ッ?!くっ……!!」

 

 

銃身を斬られた左手のガトリングガンを見て目を丸くし、クリスは慌てて朱い閃光の残光を目で追いながら残った右手のガトリングガンを乱射し続けるが、朱い閃光は素早いジグザグの軌道で銃弾を回避し続け、朱い閃光……タイプスラッシュに姿を変えたクロスはクリスの目前に肉薄して姿を現すと共に、右手に握るスパークスラッシュを振りかざした。

 

 

『もう片方の得物も貰う……!』

 

 

「ちッ!やらせっかよっ!」

 

 

右手のガトリングガンに狙いを定めてスパークスラッシュを振るうクロスの斬撃を咄嗟のバックステップでギリギリで避け、クリスは左右の腰部アーマーから先程のミサイルとは形状の異なる無数の弾頭ミサイルをクロスに撃ち放った。

 

 

しかしクロスは最小の動きで全ての弾頭ミサイルを回避しながら構わずクリスの得物を切り落とそうとするも、クロスに避けられた弾頭ミサイルはいきなり爆発を起こして煙を撒き散らし、クロスの周りを一瞬の内に覆い尽くしてしまう。

 

 

『(ッ?!何だ……?煙幕……?!)』

 

 

爆発の衝撃で一瞬動きが鈍り、足を止めてしまったその隙にクリスは煙幕の向こうへと後退し姿をくらましてしまう。それを見て慌てて後を追い掛けようとするも、煙の向こうから更に新たな弾頭が投げ込まれて次々と爆発し、煙の量が増して完全にクリスの姿を見失ってしまった。

 

 

『(ッ……!これでは視界が確保出来ない……!どうにか此処を抜け出して──)』

 

 

幸い、この視界の悪さなら向こうも煙に阻まれてこちらの姿を捉えられない筈。ならばこの気に乗じて身を隠し態勢を整えようと、クロスはその場から離脱しようと動き出すが、煙の向こうから赤い線を描いて一発の銃弾がクロスの頭を狙い、飛来してきた。

 

 

『なっ……?!ぐうっ!』

 

 

慌てて首を横に傾け、紙一重で赤い銃弾を回避するクロス。しかし直後に更なる銃弾の数々がクロスの居場所を正確に捉えて次々と襲い掛かり、両手のスパークスラッシュによる薙ぎ払い、バックステップと側転で銃弾を回避しながら偶然背に付いた建物の壁に身を隠した。

 

 

『(ッ……こっちの姿を捉えてる……?暗視スコープの類か……!)』

 

 

「──生憎だったな。こっちからは全部丸見えなんだよ……!」

 

 

シンフォギアの装備ならそれぐらい造作もないだろうと予想するクロスの読み通り、煙幕を利用して姿をくらましたクリスは手短な建物の屋上に移動し、狙撃モードに変形した頭部バイザーの暗視スコープで建物の影に隠れるクロスをサーモグラフィで視認し、スナイパーライフルに切り替えたアームドギアで狙いを定めていた。

 

 

様子を伺うようにクロスが影から僅かに顔を出した瞬間に引き金を引き、放たれた銃弾が鼻先を掠めてクロスが顔を引っ込める。

 

 

しかしクロスもそれでクリスの位置を察したのか、左腰のカードホルダーを開きつつ思考する。

 

 

『(弾道からして上……建物の上層辺りか……方角と位置さえ大体で掴めてしまえば……!)』

 

 

『Code Blaster……Clear!』

 

 

取り出したカードをバックルに装填し、タイプブラスターに姿を変えながら即座に物陰から飛び出す。

 

 

無論表に出てしまえば銃弾の雨を浴びせられてしまうも、タイプブラスターの分厚い装甲の前にはライフル弾程度の威力では傷一つ付かず、銃弾をその身一つで弾きながら右手に出現したウェーブブラスターの銃口を変形させて砲撃形態に切り替えると、銃弾が飛来する煙の向こうの方角にウェーブブラスターを構えていき、引き金を引いた瞬間、巨大な緑色の砲撃がクリスが陣取る建物の屋上に目掛け一直線に放たれた。

 

 

「なんっ……?!クソッ!」

 

 

煙幕をかき消すほどの勢いで迫る砲撃を見てクリスが咄嗟に屋上から飛び退いたと同時に、緑色の砲撃は建物の三分の二を飲み込んで跡形もなく消し飛ばしてしまい、ゾッとなる。

 

 

恐らくギアの耐久力でも耐えられるように加減はされてるだろうが、それでもあんな威力をまともに喰らっていたらどうなっていたか。

 

 

想像しただけで戦慄を覚える自分の情けなさに腹ただしさを覚えつつも空中で態勢を整えて地上に着地し、クリスはクロスボウを両手に握りクロスを見据えるが、砲撃の余波で掻き消された煙幕の向こうに既にクロスの姿はなかった。

 

 

「いない……?!何処に──『Final Code x……Clear!』……ッ?!」

 

 

クロスを探して辺りを見回すクリスの頭上から不意に電子音声が鳴り響く。それを聞きすぐさま上を見上げると、其処にはいつの間にか通常形態に戻ったクロスが上空に跳び上がり、右脚を振るってクリスに目掛けてポインターを放とうとする姿があった。

 

 

『コイツで決めさせてもらうッ……!』

 

 

「ッ!舐めるなぁッ!」

 

 

放たれた蒼いポインターを前に、クリスも即座に装甲を部分展開して黄色い無数の粒子……エネルギーリフレクターを放出して周囲にばら撒き、障壁を展開してポインターを打ち消した。

 

 

だがそれでもクロスは構わず攻撃を続行し、蒼光を纏う右脚を突き出しながらリフレクターを展開するクリスへと急降下して飛び蹴りを叩き込んでいき、二人の間で無数の火花を撒き散らしながら僅かな拮抗の末、お互いに弾かれて勢いよく後方へと吹き飛ばされていった。

 

 

『ッ……!大した対応力だな……今ので勝負を決めようと思っていたんだが……流石は歴戦の装者だ……』

 

 

「ったりまえだっ……!あの程度でやられるくらいなら此処まで生き残っちゃいないんだよ、こっちは……!」

 

 

自身の技を耐え切ったクリスを素直に称賛するクロスに、クリスは軽く鼻を鳴らして憎まれ口を返す。

 

 

その息を呑む一進一退の攻防にモニタールームで見守る響達も固唾を呑む中、二人の一連の戦闘データを収集していたエルフナインが不意に口を開いた。

 

 

「クロスの近接形態、遠距離形態のデータの更新完了です。やっぱり凄まじいスペックですね……以前の映像データだけでは分かりませんでしたが、まさか此処までとは……」

 

 

「ああ、それに尽く対応してみせるクリス君も流石だな……よし、エルフナイン君」

 

 

「分かりました」

 

 

弦十郎が言わんとしてる事を察し、エルフナインはシュミレーションルームとの通信を繋いでいく。

 

 

「蓮夜さん。先日入手したガングニールの力を模したというクロスの新しい姿、使って見せて頂いても構いませんか?」

 

 

『!アレを、今此処でか……?』

 

 

「はい。その力が発芽した当時、僕達はイレイザーの改竄能力に侵されてたせいでその時の様子を目にする事が出来ませんでした。なので、此処でその力と能力を改めて記録させて頂けたらと」

 

 

『それは……いや、しかし……』

 

 

「余所見してる場合かよッ!」

 

 

エルフナインからの突然の要望に戸惑う中、クリスが両手のクロスボウを連射して光の矢がクロスへと襲い掛かる。

 

 

それを見たクロスも咄嗟に反応して光の矢を全て躱しながらバックステップで後退すると、左腰のカードホルダーからタイプガングニールのカードを取り出し一度はバックルに装填しようとするも、何処か踏み切れない様子でカードを持つ手を止めてしまう。

 

 

「……?蓮夜さん……?」

 

 

「どうした……!来ねぇならこっちから煽り立てていくぞォッ!!」

 

 

何故かタイプガングニールのカードを使う事を躊躇するような素振りを見せるクロスに響達も怪訝な反応を浮かべ、クリスは痺れを切らしたようにアーマーを稼働させて巨大な二つの大型弾頭ミサイルと射出機を展開し、クロスに目掛けて大型弾頭ミサイルを同時射出したのである。

 

 

迫り来る二つの大型弾頭ミサイルを前にクロスもカードとミサイルを交互に見ると、僅かな葛藤の末にバックルへとカードを装填するが、直後に大型弾頭ミサイルがクロスに直撃してしまい、巨大な爆発を連続で巻き起こしていった。

 

 

「今のって、完全に直撃……」

 

 

「こ、これは流石にひとたまりもないのでは……?!」

 

 

明らかにノーガードで大型弾頭ミサイルの直撃をまともに喰らったようにしか見えないクロスを見て思わず息を拒み、調と切歌はその安否を気にし不安げな面持ちになる。

 

 

しかし、クリスは何かを待ち構えるかのように燃え盛る炎を睨み据えながら両手のクロスボウを構えていき、直後、炎の中で僅かに何かが蠢くのが見えた。

 

 

そして炎に覆われて影しか見えないシルエットが徐々に露わになり、業火の向こうから身体に纏わせる橙色に光輝くマントを収縮させてマフラーの形状に戻していく、オレンジ色のライダー……ミサイルが直撃する寸前にタイプガングニールに姿を変え、二翼のマフラーを身体に纏ってミサイルの威力を抑えたクロスが現れたのである。

 

 

「ッ!アレが……あのバカのカードの……!」

 

 

「ほ、本当に響のギアにそっくり……」

 

 

「ガングニールのカードを発現したクロスを確認。測定機の反応や出力も、確かにガングニールと酷似してるわ……これが響ちゃんから力を得たっていう姿……?」

 

 

「あれがあのベルトの力なのか……クロス……交差する力、か……」

 

 

炎の中から現れた、初めて目にするタイプガングニールのクロスのその姿から響のガングニールを連想し、各々驚きや関心を示す響以外の面々。

 

 

そして、クロスは二翼のマフラーを熱風で靡かせながら燃え盛る炎を背に足幅を広げて身構え両拳を握り締めていき、そんな未知の形態に姿を変えたクロスと対峙するクリスも僅かに緊張で張り詰めた顔を浮かべながら、両手に握るクロスボウをクロスに突き付けた。

 

 

「漸くその気になったみてーだなぁ……だが、虚仮威しの力じゃあたしには通用しねえぞッ!」

 

 

バババババババァッ!!と、クロスの新たな姿に臆する事なく啖呵を切りながら発した無数の光の矢がクロスに目掛け放たれる。

 

 

が、クロスは襲い来る光の矢を素早く振り抜く拳で次々と殴り落としていき、すかさず両足の脛部のパワージャッキを稼働させ凄まじい瞬発力でクリスの懐へ潜り込んだ。

 

 

(ッ?!なんつー速さっ──!!)

 

 

『ハァアアアァッ!!』

 

 

肉薄すると共にクロスが咆哮を上げて振りかざす拳が迫り、クリスはその瞬発力に驚きつつも咄嗟に身を逸らして拳を躱す。

 

 

だがクロスはすかさず右脚のスラスターに火を灯し、空中で半ば強引に身体を半回転させた勢いでクリスに回し蹴りを放ち、クリスはそれもギリギリで身を屈めて頭の真上をクロスの右脚が薙ぐが、その余波だけでクリスのすぐ背後に建つ廃ビルが綺麗に真っ二つに切り裂かれてしまった。

 

 

(風圧、だけで……ビルを蹴り裂きやがったぁっ……?!デタラメの限界突破にも程があんだろっ?!どんだけやばい力を渡してんだあのバカっ!!)

 

 

たたでさえこちらは近接戦闘に持ち込まれれば不利になると言うのに、こんなデタラメな奴の間合いで戦うなどそれこそバカを見る。

 

 

思わず内心舌打ちし、クリスは即座にその場から飛び退いてクロスから距離を取りつつ部分展開したギアから無数の黄色い粒子を再度散布し、それを逃すまいとクロスが拳を伸ばして追撃を仕掛けるが、クロスの拳が届く寸前、リフレクターの壁が二人の間に構築されて弾き返されてしまう。

 

 

『ッ!さっきのバリアか……!』

 

 

「簡単に通せると思うなよっ……!そして此処は、あたしの距離だァッ!!」

 

 

―QUEEN's INFERNO―

 

 

身体ごと大きく右腕を反るように後方へと弾かれ宙を漂うクロスを捉え、クリスは瞬時に連装型の弓に変形させたアームドギアに光の矢を番わせ、リフレクターを一時的に解除したと同時に一斉に光の矢を撃ち放っていった。

 

 

視界を埋め尽くす程の数の光の矢が、空中で身動きの取れないクロスに一度に迫る。

 

 

誰の目から見ても回避不可の絶体絶命。次に皆が瞬きした瞬間には全ての矢がクロスの身体を撃ち貫くと誰もが思い、クロスが撃ち落とされる姿が一同の脳裏を掠め、それが現実になるかと思われたが、しかし……

 

 

『っ……こういう、時は、確かっ……こうだったかっ……!』

 

 

その逃げ場のない光景を前にクロスは諦めず、背部と両足のバーニアスラスターを吹かせて半ば強引に空中で態勢を立て直す。直後、両足のパワージャッキを用いて何もない空を蹴り上げる事で宙を自由自在に動き回り、飛来する光の矢を次々と回避し出したのであった。

 

 

「何っ……?!」

 

 

「凄い……まるで響さん……というか、響さんの動きを完全にトレースしてる……!」

 

 

「正に完コピって奴デスよ!響さんのカードであんな事も出来るようになるデスか?!」

 

 

「……ううん。多分そうじゃなくて、響の戦ってる姿を観察して覚えたんだと思うよ。前に皆が訓練してる姿を私が見学してた時、検査を終えた蓮夜さんも何度か様子を見に来てたの覚えてるし……もしかしたらその時に、響の戦い方をずっと観察してたのかも」

 

 

「そ、そうだったの?う〜っ……な、何か恥ずかしいなぁそれぇっ……」

 

 

まさか自分が訓練している姿を密かに見られていたとは露知らず、しかも自分の動きを真似て光の矢を回避していくクロスを見て恥ずかしげに顔を両手で包む響。

 

 

だがそんな彼女とは対照的に、クロスと相対するクリスのその心中は決して穏やかではなかった。

 

 

確かにあの動きは響そっくりだ。自分も十を超える数の訓練をあのバカと何度も熟し、その度に自分の技をあの回避パターンで避けられた挙句、其処からの反撃で何度も何度も煮え湯を飲まされた事も少なくない。

 

 

───故に、気に食わない。

 

 

そんな刺々しい感情が胸を刺し、無意識に奥歯を噛み締めるクリスの攻撃の手が更に激しさを増していくが、クロスもギアを上げて高速で空中を跳び回り、光の矢の嵐を避けながら黒のナックルを纏った左腕をクリスに向けて振りかぶった瞬間、黒のナックルがクロスの腕から分離し、クリスに目掛けて投擲されたのである。

 

 

「ハッ、破れかぶれかよッ!そんなもんで……!」

 

 

遠距離で対応出来る技がアレしか持たないのか、苦し紛れにしか見えないクロスの一手に鼻で笑いながら一時的に解除していたリフレクターを再度構築し、黒のナックルを弾こうと試みる。

 

 

そしてリフレクターを解除した後に特大の一撃をお見舞いしてやろうと密かに次の一手の準備を進めていくクリスだが、直後、その顔が驚愕の色に染まってしまう。

 

 

何故なら、クロスが苦し紛れに投げ放ったと思われた黒のナックルが空を舞いながら徐々に変形していき、黒の烈槍……ガングニールの槍へと形状を変えたからである。

 

 

「なっ?!」

 

 

「黒いガングニール……!」

 

 

「あ、あれってもしかして、前にマリアが使ってた奴デスか?!」

 

 

そう、その黒い烈槍の外見は細部は異なるが、以前マリア・カデンツァヴナ・イヴが使用していたガングニールのアームドギアに酷似しており、思わぬ姿に変容した黒のナックルを見てクリスや他の面々も驚きを隠せない中、黒い烈槍はそのままリフレクターの障壁に直撃すると同時に槍に備え付けられたブースターで更に加速し、障壁内へと食い込むように徐々に内側へ侵入しようとしていた。

 

 

「グッ、ぐぅっ……!!この程度、でぇっ……!!」

 

 

僅かに不意を突かれはしたが、それでもまだ取り返せる範疇だ。クリスは黒い烈槍が突き破ろうとする範囲にリフレクターのエネルギーを集中させ、障壁の強度を補強し黒い烈槍を跳ね除けようと試みる。

 

 

しかしその直後、黒い烈槍の先端だけが障壁の内側に僅かに侵入した瞬間、槍の先端が左右に裂けるように展開し、エネルギーを収束していきなり砲撃を撃ち放ったのである。

 

 

「なっ……クッソッ!」

 

 

黒い烈槍の先端に収縮されるエネルギー光の煌めきを目にした瞬間、クリスは慌てて身を屈めながら障壁を解除した。

 

 

リフレクターを維持したままでは回避した砲撃が障壁内で反射して跳ね返るか、或いは爆発が篭って身を焼かれる危険性がある。

 

 

それがクロスの狙いの一つだと瞬時に悟ったクリスは頭の上を掠める砲撃をギリギリで回避するが、そんなクリスの目前に不意に残像が現れたかと思いきや、それは右腕を腰の後ろに引いたクロスとなり眼前にいきなり現れた。

 

 

「ッ!しまっ──!」

 

 

『ゼァアアアアアッ!!』

 

 

まるで瞬間移動でも使ったかのような驚愕の速さ。息を拒み、反射的に身を引いて逃れようとするクリスだが、それよりも速くクロスの拳が放たれる。

 

 

その直撃は避けられないと悟り、咄嗟に両腕を十字に組んで拳を何とか受け止めるも、拳を打ち込まれた衝撃が両腕だけで収まらず、身体までも突き抜けてクリスの背中から凄まじい衝撃波が吹き抜けた。

 

 

「うッ、ァッ……!!(こ、この馬鹿力っ……マジであのバカみてーじゃねえかっ……!!」

 

 

クロスの拳を受け止めた両腕がビリビリと痺れる。しかしクロスは追撃を緩めず右腕のハンマーパーツを起動させ、クリスの腕の上に拳を押し当てたままバンカーを打ち込み、その凄まじい破壊力の衝撃でクリスを思いっきり吹っ飛ばし近くの建物の壁に叩き付けていった。

 

 

「ガアァッ!!ぐっ、っ……ま、だっ──?!」

 

 

『──いや……悪いが此処で詰みだ……』

 

 

痛みに顔を歪めながら尚も立ち上がろうとしたクリスの目の前に、いつの間にかクロスが黒い烈槍を手にして矛先を突き付ける姿があった。

 

 

だがそれでもクリスは構わずクロスに銃を向けようとするも、先程の拳撃とバンカーのダメージを立て続けに受けたせいか、両腕はどちらとも痺れが走って震え、すぐにはまともに動かせそうにない。

 

 

これではロクに銃も構えられない。戦闘続行は不可能だと自覚したクリスが悔しげに唇を噛み締めて俯いたと共に、戦闘終了を告げるブザーが鳴り渡り、シュミレーターも停止して周りの景色も元の訓練所の風景へと戻っていった。

 

 

(ッ……負けた……クッソッ……)

 

 

震える右手を拳を握って無理矢理止め、悔しさを露わに床に叩き付けるクリス。

 

 

そんなクリスを見つめながらクロスも黒い烈槍を左腕のナックルに戻してバックルからカードを抜き取り、蓮夜へと戻りながらクリスにそっと手を差し伸べた。

 

 

「大丈夫か……?立てるか?」

 

 

「…………」

 

 

「……やっぱり無事で済む筈がない、よな……すまない……本当はあの力を使うつもりはなかったんだが、何処か怪我とかは……」

 

 

「……使う気が……なかったっ……?」

 

 

謝罪の言葉を投げ掛けクリスの身を案じる蓮夜だが、その言葉を聞いたクリスはピクッと反応し、差し伸べられる蓮夜の手を払い除けながらいきなり起き上がり、その胸ぐらに掴み掛かった。

 

 

「ッ……!お、おい……!」

 

 

「お前っ……!あたしは最初に手ぇ抜くなって言ったハズだぞっ!始めっからあたしなんかと、まともにやり合う気なんてなかったってのかっ?!」

 

 

「っ……いや、俺はっ……」

 

 

「おい、何事だ!」

 

 

「クリス?どうしたの?!」

 

 

シュミレーションを始める前に全力で戦えと告げたにも関わらず、最初から蓮夜がガングニールのカードを使わずに戦うつもりだったと知り憤るクリスに、二人の会話の内容を知らない響達が駆け付けて慌てて止めに入ろうとする。

 

 

しかしクリスはそんな一同を横目に舌打ちし、蓮夜を突き放してそのまま響達に目もくれず早足でトレーニングルームを後にしてしまう。

 

 

「クリスちゃん……?ね、ねぇ待ってよ!クリスちゃんってばー!」

 

 

「……一体どうしたんだ。何かあったのか?」

 

 

「…………」

 

 

何も言わずに苛立ちを露わにして出ていってしまったクリスと呆然と立ち尽くす蓮夜を交互に見ると、響はクリスを急いで追い掛け、未来達もその後を追い慌ててトレーニングルームから出ていってしまう。

 

 

そんな響達の背中を見送りながら弦十郎が残った蓮夜に原因を問い詰めるが、蓮夜は何も答えず無言のままクリスに振り払われた手を複雑げに見下ろし、力無く拳を握り締めていくのだった。

 

 

 

 

 


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