戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第五章/不協和音×BANGBANG GIRLの憂鬱④

 

―第17区域・南西Cポイント―

 

 

「う、うわぁああああああッ!?」

 

 

「た、助け──ギャアァッ?!」

 

 

S.O.N.G.がノイズ出現の反応を検知した南西の二つのポイントの内の一つ、南西Cポイントでは突如街中に現れた無数のノイズで溢れ返り、偶然その場に居合わせた市民達が容赦なく襲われるという阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

 

 

逃げ惑う人々がノイズに背後から襲われて共に炭素となり、道の至る所に人だったモノの炭素の塊が辺り一面に散乱していく。

 

 

その凄惨な惨状を、アスカと二手に別れてノイズ達の殺戮の一部始終を傍らで見ていたイレイザーの男は瞳を震わせ、何処か青ざめた顔を浮かべていた。

 

 

(これが、俺の役目……覚悟もしてたし、予想もある程度してたハズなのに……いざ目の前にすると、こんなにもっ……)

 

 

自分の目的の為に他の誰かの命を奪い、殺める。イレイザーになると決心したあの瞬間からその覚悟をとうに決め、腹も括ったつもりだった。

 

 

が、いざその瞬間を前にすると想像を遥かに上回る惨劇に目の前の視界が揺らぎ、人間だった物の炭素の塵が目の前を舞い散るだけで腹の奥から何かがせり上がり、口から吐き出しそうになるものを手の甲で抑えて必死に堪える。

 

 

人を初めて殺める感覚とは、こんなにも凄まじい不快感が生じるのか。自分には一生縁のない物だと思っていた様々な感情の波が一気に押し寄せ、いたたまれない罪の意識にすり潰されそうになり、たまらず涙が滲む。

 

 

『──あなたって昔から争い事に向いてないっていうか、優し過ぎるのよ。人を傷付けるような事、口ですら一度も言った事ないでしょ?』

 

 

──何時だったか昔、"彼女"に笑いながらそんな事を言われたのをふと思い出す。

 

 

ああそうだとも。争い事なんて本当は嫌いだし、ない方がいいに決まってる。傷付け合わなくて済む方法があるのならそっちを取りたいと、人の身を捨て去った今だって、心の何処かでそんな想いを捨て切れずにいる自分がいるのも確かだ。

 

 

……でも、ダメだ。それだけでは、想うだけでは守れない物があると知ってしまった今、こんな事で足が竦んでいては望みは果たせない。

 

 

(もう後戻りは出来ないんだ……俺はもう人の道を踏み外した……!此処までやった以上、もうやり遂げるしかないっ!)

 

 

罪の意識から訴え掛ける呵責を振り払うように涙を拭い、男は獣の如く雄叫びを上げてその身を徐々に異形の肉体へと変質させていく。

 

 

そして男は灰色の羊の異形……シープイレイザーと化して自身も動き出し、ノイズ達に混じって逃げ遅れた民間人の一人の男を背後から掴み、強引に建物の壁に押し付けながら拳を振りかざした。

 

 

「ひ、ひぃいいいいいっ!!た、助けてっ──!!」

 

 

『うっ……ッ……ウ、ァアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

泣きながら助けを乞う民間人の男の顔を見て、思わず振りかざした拳を止め躊躇してしまうシープイレイザーだが、此処でやらねば自分の望みは果たされないと自分自身に強く言い聞かせ、悲痛にも聞こえる雄叫びを上げながら今度こそ民間人の男の頭に目掛け拳を振り下ろそうとした、その時……

 

 

 

 

 

「──Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

 

 

 

『……?!』

 

 

捕えた民間人の男の頭が砕かれ、トマトの如く鮮血が辺り一面に撒き散らされようとした寸前、不意に何処からともなく美しい歌が聞こえた。

 

 

それを聞いたシープイレイザーが振り下ろした拳を民間人の男の顔の前でギリギリで止め、歌が聞こえてきた方へと振り返ると、其処にはノイズ達の群れの向こうから橙色、桃色、緑色の光の煌めきが見え、直後にノイズの何体が空へと吹き飛び、切り刻まれて塵となり霧散していく光景が視界に飛び込んできた。

 

 

『な、何だ……?!』

 

 

「──うおぉりゃあああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 

消し飛ばされるノイズ達を見てシープイレイザーが驚倒する中、ノイズ達の群れの向こうから烈々たる雄叫びが響き、反射的に身体をビクつかせてしまう。

 

 

その声を頼りに目をよく凝らして見れば、ノイズ達の群れの向こうに鋭い拳と蹴りを駆使してノイズを打ち負かすマフラー靡かせた栗色の髪の少女と、巨大な鎌を横薙ぎに振るいノイズ達を纏めて始末する金髪の少女、そしてツインテールに纏う装甲から無数の小型の鋸を飛ばしてノイズ達を切り刻んでいく黒髪の少女……S.O.N.G.からの知らせを聞いて急ぎ現場に駆け付けた響、切歌、調の三人の姿を捉えた。

 

 

一人一人が一気呵成の勢いで無数のノイズ達を蹴散らしていく無双ぶり。そんな響達の姿を目の当たりにし、シープイレイザーは作戦開始の前にアスカから説明された自分が戦う相手について思い出していく。

 

 

『歌と共に戦う戦姫……あれがシンフォギアなのか……?あんな、子供が……?!』

 

 

「う、うわっ!ひぃいいいいっ!」

 

 

つまりはあれが今回、自分が戦わなければならない相手。クロスと共に自分達の障害となるその存在については予め聞かされてはいたが、まさかその正体がまだ年端もいかぬ少女達だとまでは知らされていなかったのか、シープイレイザーは響達を見て衝撃を受けたかのように呆然と佇み、壁に押し付けていた民間人の男の胸ぐらから手を離してそのまま逃がしてしまう。

 

 

そんな中、襲い来るノイズ達を次々と蹴散らしていた響がシープイレイザーを発見し、ヘッドギアから本部に通信で呼び掛けた。

 

 

「師匠、赤眼のイレイザー!ノイズイーターを見付けました!やっぱりノイズの発生と関わりがあったみたいです!」

 

 

『やはりか……!響君はそのままノイズイーターとの戦闘に入ってくれ!切歌君と調君は周辺のノイズを掃討しつつ、響君の援護を頼む!』

 

 

「了解!」

 

 

「悔しいデスけど、今のアタシ達じゃイレイザーとは戦えないデスからね……響さん、援護は任せて欲しいデス!」

 

 

「うん、背中はお願い!ハァアアアアッ!」

 

 

本部にいる弦十郎からの指示を受け、響は切歌と調の助力を借りながらシープイレイザーの下に辿り着くまでの経路を塞ぐノイズ達を殴り飛ばし、持ち前の突貫力で先へ先へと突き進んでいく。

 

 

そんな響の進撃を阻止するかのように周りのノイズ達も響の背後や死角から一斉に飛び掛かろうとするも、切歌と調が即座に放った鎌の刃と小型の鋸がそれを阻み、ノイズ達の身体を引き裂き霧散させる。

 

 

そして響も二人を信じて一切振り返る事なくノイズの群れを薙ぎ倒して容易く突破し、未だに響達を見つめて呆然と佇むシープイレイザーと対峙すると、其処でシープイレイザーも漸く我に返り、慌てて両脇を締め拳を身構えた。

 

 

「貴方が今回の騒動を引き起こしたイレイザーさんですよね……?どうしてこんな事をしたのか、貴方の目的と理由を教えて下さい!」

 

 

『う、ううっ……(こ、こんな子供とも戦うのか……?やれるのか、俺に……?!』

 

 

目的を問い質そうとする響の呼び掛けに耳を傾ける余裕がない。先程初めて誰かを手に掛けようとした際も相当な覚悟を決めなければならなかったというのに、今度はこんな女子供とも戦わなければならないなど、ただでさえ争い事に向いてない性格のシープイレイザーからしてみれば戦い辛いにも程がある。しかし……

 

 

『(ッ……でも、それでもやるしかないっ!)う、うわぁあああああああああああああああああッ!!』

 

 

「え、ちょ、ちょっと待っ……?!うわわっ?!」

 

 

例え女子供が相手であろうと、立ち塞がる以上は戦うしかない。今度こそ腹を括ってそう決心したシープイレイザーはがむしゃらに両腕を振るい響へと挑み掛かり、響もいきなり襲ってきたシープイレイザーの攻撃を慌てて回避しながら背後に飛び退くと、再度迫るシープイレイザーに向けて身構え戦闘を開始していくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―第17区域・南西Nポイント―

 

 

『ハアッ……!ハッ!』

 

 

一方その頃、響達が駆け付けたCポイントとは別にノイズが出現したNポイントの公園でも、民間人がいきなり出現したノイズ達に襲われて逃げ惑う混乱状態に陥っている。

 

 

其処へ蒼いマシン……クロスレイダーに乗って駆け付けたクロスに変身する蓮夜が逃げる人々を執拗に追うノイズの大群の進行を一人で食い止め、民間人の避難と救助に奮闘する中、本部から藤尭と友里の通信が届く。

 

 

『本部からクロスへ!敵イレイザーを南西Cポイントにて確認!』

 

 

『現在ガングニール、イガリマ、シュルシャガナが戦闘中です!』

 

 

『ッ!こっちは外れか……!しかし、何故わざわざ別々の場所にノイズを……?「きゃああああッ!!」……?!』

 

 

敵の意図が読めない。戦力を分断させてまで、何故別々のポイントにノイズを展開したのか敵の狙いが分からず困惑するクロスだが、耳を劈くような悲鳴が聞こえて慌てて振り返る。

 

 

すると其処には、カップルと思わしき二人の男女が三体のノイズ達に囲まれて逃げ場を失い追い込まれる姿があり、ノイズの一体が怯える二人に飛び掛かろうとした瞬間、其処へクロスが三体のノイズの背後から蒼光を纏った右脚を振って飛び掛かり、鋭い回し蹴りでノイズ達を纏めて蹴り裂いた。

 

 

「ひいっ!……え?だ、誰……?」

 

 

『誰でもいい……!早く此処から離れるんだ!急げ!』

 

 

「え、あ、は、はいっ!」

 

 

動揺と困惑を露わにしながらも頷き、二人の男女は慌てて公園の出口に向かって走り出していく。クロスはそれを見送る余裕もなく逃げ惑う人々を襲うノイズ達に突っ込んで殴り飛ばし、蹴り砕いて一体ずつ撃破していくが、倒しても倒しても湧いてくるノイズの数を見て思わず舌打ちしてしまう。

 

 

『(響達の下へ駆け付けようにもノイズの数が多い……!逃げ遅れた民間人がまだこれだけ残ってる以上放っておく訳にはいかないが、かと言って彼等を守りながらこの数は……!)』

 

 

『Code slash……Clear!』

 

 

幾ら数が多かろうと所詮烏合の衆でしかないノイズを相手にするだけなら大した問題はないが、如何せん未だ多くの民間人が逃げ遅れているこの状況下ではノイズの殲滅に専念する事が出来ない。

 

 

バックルにカードをセットしタイプスラッシュにその身を変化させ、素早い軌道ですれ違い様にノイズを斬り裂いてそのまま攻勢に出ようとするが、視界の端でまた別の民間人が襲われようとしている姿を捉えてすぐさま救出に向かい、走り出していく。

 

 

『(ッ……俺だけでは手が回らないっ……せめてあと一人、ノイズを引き付けてくれる戦力があれば──!)』

 

 

 

 

 

「Killiter Ichaival tron……」

 

 

 

 

 

『……!この歌は……』

 

 

民間人を守る事に精一杯で内心焦りを浮かべる中、空から不意に聞き覚えのある歌声が響き渡った。

 

 

その歌に釣られるように空を見上げれば、其処には公園の遥か上空に浮遊するS.O.N.G.のヘリコプターから一筋の赤い光が落下して来る光景があり、弾けるように霧散した光の中から赤いギアを身に纏ったクリスが現れたのだ。そして、クリスは空から落下しながら眼下に広がるノイズの大群に向けて両手に構えたクロスボウから無数の光の矢を乱れ打ち、雨の如く降り注ぐ矢がノイズ達をあっという間に一掃していったのであった。

 

 

『赤い銃使い……!イチイバルか!』

 

 

『イチイバル、Nポイントに到着!』

 

 

『クリス君、そちらはまだ民間人の避難誘導が完了していない!蓮夜君と協力し、出来る限りノイズを引き付けてくれ!』

 

 

「分かってる!ウォラァアアッ!」

 

 

言われるまでもないと、クリスは本部からの指示に短く答えながら両手のクロスボウを構え直して光の矢を再び乱射していき、周囲のノイズ達を次々と矢で撃ち抜き撃破していく。

 

 

それを目にした他のノイズ達もクリスを危険対象と認識したのか、民間人の殺戮を中断して一斉にクリスへと標的を変え押し寄せていき、中には身体を紐状のように変質して特攻するノイズもいるが、クリスは冷静に身を翻してノイズの特攻の初撃をかわし、更に続け様に突っ込んできたノイズを回し蹴りだけで蹴り飛ばし粉砕した。

 

 

そして四方から迫るノイズの大群に向けて両手のクロスボウを左右一直線に構えながら引き金を引き、銃撃を放ちながら360度回転して光の矢をばら撒き、射線上のノイズ達を薙ぎ払っていく。

 

 

『やはり凄まじいな……これなら……!』

 

 

まるで赤子の手をひねるかのように次々とノイズを簡単に撃破するその戦いぶりに感心する。ともかくクリスが来てくれた事で状況が好転した。これなら彼女にノイズの相手を任せて逃げ遅れた人々の救助に専念出来ると、クロスも民間人の避難を手助けする為に動き出す。

 

 

そして、ノイズを引き付けるクリスもクロスボウからガトリングガンに切り替えた得物から弾丸を乱れ打ちノイズを素早く撃破していくが、このままでは分が悪いと踏んだか、他のノイズ達は突如紐状に変質しながら一箇所に集まって巨大な塊となり、更に形状を変容させて巨大なノイズへとその身を変貌させていった。

 

 

「ちっ、束になりがった……!だがそんなもんでぇッ!」

 

 

無数のノイズの集合体の巨大ノイズが巨腕を振るいクリスに襲い掛かる。しかしクリスも怯む事なくその場から跳躍し巨腕の一撃を回避すると、巨大ノイズの腕を踏み台にして更に空高く舞い上がり、両手のガトリングガンを瞬時に連結しロングボウの形状に変形させながら、ミサイルを思わせる矢を弓に番わせ、巨大ノイズの頭に狙いを定めていく。

 

 

「コイツで、ぶち抜けぇええッ!!」

 

 

―ARTHEMIS SPIRAL―

 

 

クリスの手から放たれた矢が、まるで流星の如く赤い閃光となって空を駆ける。そして、矢の先端の形状が独りでにロケットの弾頭のように展開、末矧部分が変形してスラスターとなり、火を吹いて猛スピードで加速しながら巨大ノイズの頭を凄まじい貫通力で撃ち貫いていったのだった。

 

 

頭に巨大な風穴を空け、その巨体が塵となり崩れ落ちていく巨大ノイズの撃退、そして周囲に他に残敵がないのを肉眼で確認したクリスは地上に降りて一先ず軽く一息を吐くと、其処へ民間人の救助と避難を終え、通常形態に戻ったクロスがクリスの下へと駆け寄っていく。

 

 

『すまない、助かった。俺一人じゃ現場をフォローし切れなかったし、おかげで民間人に余計な犠牲が出ずに済んだ』

 

 

「…………」

 

 

ノイズを引き付け、民間人の避難に協力してくれたクリスに感謝の言葉を掛けるクロス。だがクリスは険しい顔付きでクロスを一瞥するも、すぐに視線を逸らして何も言わず背中を向けてしまい、そんなクリスの様子からやはり先のシュミレーションでの一件を引きずっているのだろうと察したクロスは気まずげに俯き、何か言葉を掛けようと口を開き掛けるが、その時……

 

 

 

 

「──やっぱノイズ程度じゃ糞の役にも立たねぇか……まあでも、お前らを釣り上げてくれたってだけでも上々かね」

 

 

 

 

『「……ッ?!」』

 

 

不意に背後から溜め息混じりの声が響き、二人は反射的に拳と銃を構えながら咄嗟に振り返る。すると其処には、木の影からゆっくりと金髪の男……アスカが姿を現すのが見え、クロスは仮面の下で驚愕の表情を浮かべた。

 

 

『お前は……?!』

 

 

「よお、暫くぶりだなクロス。まさかホントに生きてたとはな……こうして直接テメェの顔を見ると、改めて自分の間抜けさに腹が立ってくるぜ……」

 

 

「?何だ、知ってる顔なのかよ……?」

 

 

『ッ……前にも話した、響の記憶を改竄した事件の際に俺が会った上級イレイザー……さっきのノイズを操る黒幕の一味の一人だ……!』

 

 

「ッ?!コイツが……?!」

 

 

つまりこの男こそ、自分達の世界に再びノイズの脅威を齎した元凶の一人であるということ。嘗て自分達が死にもの狂いで終わらせた事件を掘り返すような真似をしているのが目の前の男だと聞かされ、クリスは驚きと同時に湧き上がる怒りを露わに両手のクロスボウの銃口をアスカに突き付けるが、アスカはクロスの隣に立つクリスを見て軽く舌打ちした。

 

 

「んだよ、立花響じゃねーのか……チッ、いきなり外れを引くとは幸先の悪いスタートだなぁ、オイ……」

 

 

「なっ……ふざけんなっ!誰が外れだッ!!」

 

 

「吠えるなよ。こちとらテメーなんぞにハナから用はねぇんだ。俺が用事があんのはお前のお友達と……其処にいるいけ好かねぇ仮面の野郎だけだ」

 

 

『ッ……』

 

 

ギロッと向けられた瞳に宿る重苦しい殺気がクロスの全身を突き刺す。無意識に流れる冷や汗が額を伝い、手の汗が滲み出る。ただ睨まれただけで以前の戦い……否、そもそも戦いとすら呼べなかった一方的な蹂躙の記憶を身体が思い出して圧倒されるクロスの反応を他所に、アスカは一歩前へ踏み出てその身から火の粉を撒き散らしていく。

 

 

「本当ならテメェと立花響を一気に釣り上げれれば無駄な手間も減って助かったんだがな……まぁ、どっちみち先に任された仕事がある以上、そっちが無事に片付かない事には結局後回しになんのは変わりねえか」

 

 

『釣る……?まさか、わざわざ別の場所にノイズ達を置いたのはお前の差し金か……!』

 

 

「そういうこった。前回は俺の失態でテメェを逃して、そのせいで駒をまた一人失う事になった訳だからな……前の失敗を取り返す為にも、今度は逃しはしねぇぞっ」

 

 

『……駒、だと……?』

 

 

駒と、そう吐き捨てたアスカの言葉に反応する。

 

 

同時に、以前の事件の今際に己の所業を後悔して逝ったフロッグイレイザーの最期と、その手を掴み損ねて後悔していた響の悲しげな背中が脳裏に蘇り、無意識に唇を噛み締めた。

 

 

『ふざけるのも大概にしろっ……そうやってお前達は、一体何人の人間の人生を弄んできたッ?!貴様がこの世界に何を想おうが勝手だが、其処に生きる人々にも生命があるッ!心があるんだッ!それを駒などと呼んで簡単に掃いて捨てる権利なんてお前達にはないッ!』

 

 

「……ハッ、テメェこそ惚けた事を吐かしてんじゃねーよ。前にも言ったぞ?俺達はあくまで誘いを持ち掛けただけで、手を取るか取らないかを選んだのは結局のところ奴ら自身の意志だ。誘いを断って跳ね除ける事も出来ただろうに、それをやらなかった時点で奴らの責任になるんだよ。イレイザーになった後で奴らが何を想おうが、後悔しようが俺達には何の関係もねぇ……そうなるくらいなら、そもそも半端な覚悟で手を取ったソイツ等が悪ぃのさ」

 

 

「コイツっ……!」

 

 

『人の心の傷や弱味に付け込んでおいて、どの口でっ……!』

 

 

自分達はあくまでも選択肢を与え、彼等の意志を尊重して力を与えただけだといけ図々しく語るアスカに、クロスとクリスも憤りを隠せない。

 

 

しかしアスカはそんな二人の怒りに満ちた眼差しも何処吹く風と涼しげな顔で気にも止めず、全身から紅い炎を立ち上らせてその身を徐々に包み込ませていく。

 

 

「生憎こっちも禅問答なんてやってる時間も余裕もねぇんだ。……今度は初めから容赦無しで行かせてもらう……!」

 

 

そう宣告すると共に、アスカの全身が業火に覆われ激しく燃え盛る。直後、アスカを中心に凄まじい爆発と衝撃波が発生して地面を吹き飛ばした。周辺の照明がその余波だけで大きくへし折れ、公園のオブジェやベンチが炎に包まれ徐々に溶解していってしまう。

 

 

「グゥッ!!な、何だよこのプレッシャーっ?!」

 

 

『そ、測定器が全て限界値を突破!計測が振り切れて、正確な数値を観測出来ません!』

 

 

『何だと?!』

 

 

『(ッ……威圧感が前回の比じゃないっ……!まだ力が上がるのかっ……?!)』

 

 

断続的に熱を帯びた衝撃波を連続で発生させるアスカから、以前に戦った時とは比較にならない圧倒的な威圧感が放たれ、周囲の空気が濃く、紅く染まる。全身を保護しているハズの二人のスーツとギアを突き抜け、肌がジリジリと焼かれるような痛みが走って止まない。

 

 

そうして、一際大きい衝撃波がアスカから放たれたと同時にその身に纏う紅蓮が霧散し、巨大な右腕が特徴的な紅の魔人……イグニスイレイザーが姿を現し、クロスに人差し指を突き付けた。

 

 

『前回のリベンジだ……その命、今度こそ貰うッ!』

 

 

『ッ……イチイバル……お前は離脱して響達と合流しろ……コイツは俺が引き受ける……』

 

 

「ッ!お前、何言ってんだ……?!あんなの一人で戦える相手じゃねえだろっ!」

 

 

こうして相対してる間にも伝わってくる重圧、プレッシャーを肌で感じて分かる。あのイレイザーは今まで戦ってきたノイズイーターとは比にならない敵だ。仮に二人掛かり、いや、例え装者全員を交えたとしても勝てるか分からない相手を一人で受け持つなど、自殺行為にしかならない。 それが分からない筈がないのに、クロスはそれでも徐にクリスの前に出て構わず告げる。

 

 

『奴の狙いは俺だ、奴の言葉からして恐らくお前の命まで狙う気はない……それに奴は響の事も狙ってる……他に何か策を弄してる可能性も考えられる以上、今は響を守る事を優先するんだ……』

 

 

「だけど!」

 

 

『良いから言う通りにするんだ!此処にお前が残っててもどうにもならない!』

 

 

「……ッ……!」

 

 

イグニスイレイザーと対峙しているだけで既に余裕がないのか、一向に引き下がろうとしないクリスに痺れを切らすあまり語気が強くなってしまうクロスの言葉に、クリスはショックを隠せず息を拒んで目を見開いてしまう。

 

 

そんな彼女に顔を向ける余裕もなく、クロスはゆっくりとクリスなら離れながらイグニスイレイザーとの間合いを測るように慎重に動き出していく。

 

 

『(コイツを響達に近付けさせる訳にはいかないっ。装者の身に何かあれば、漸く見付けたイレイザーに対抗する術も失われる……!奴を倒せるかは分からないが、とにかく今は響達がもう一体のイレイザーを倒すまで、どうにか此処で食い止めて時間を稼ぐしかない……!)』

 

 

『本気で一人で俺を相手するつもりか?前に俺に散々痛め付けられたこと、まさかもう忘れたって訳じゃねぇだろ?』

 

 

『……忘れたくても忘れられるものか……こっちはお前に負わされた怪我のせいで私生活でも散々な目に遭ってるんだ……ついでにその借りも返させてもらうぞっ……!』

 

 

『ハッ、軽口を叩ける程度には余裕が出てきたか?なら今度は途中でへばるんじゃねえぞォおおおおおおッ!!』

 

 

背部から勢いよく炎を噴き、凄まじい速さで飛び出すイグニスイレイザーが掌を広げた右腕を伸ばしてクロスに掴み掛かろうとする。

 

 

それを見たクロスはすぐさま腰のバックルから両足に向けて蒼光を走らせて脚力を瞬間的に強化し、片脚の裏で地面を蹴り上げ側面に回り込むようにその場から飛び退くと、かわされたイグニスイレイザーの右腕が地面を叩き付けて粉砕する。

 

 

その隙にクロスは地面に着地すると同時にもう片方の脚で再び地面を蹴り上げ突撃し、イグニスイレイザーの横っ面に目掛けて飛ばした拳がドゴォッ!!と鈍い音を立てて直撃する。が……

 

 

『……前にも言っただろーが。今のテメェじゃ、俺の身体には傷一つ付けられねぇってよォッ!!』

 

 

『チィッ……!』

 

 

前回と同様、やはりイグニスイレイザーは顔面に拳を打ち込まれてもビクともせず、手応えも感じない。ダメージを受けた様子もなく、まるで蝿でも払うかのように鬱陶しげに巨腕を横薙ぎに振るうイグニスイレイザーから咄嗟に離れ距離を取ろうとするクロスだが、イグニスイレイザーはそんなクロスへと瞬時に距離を詰めて肉薄し、紅蓮の炎を纏う左拳を飛ばして殴り掛かる。

 

 

それに対しクロスも顔を歪めながら咄嗟に左拳に蒼光を纏い、クロスカウンターを狙ってタイミングを合わせるように拳を鋭く放つが、イグニスイレイザーの胸に打ち込んだ拳はその強靭な防御力の前に容易く弾かれてしまい、逆に紅蓮の炎を纏うイグニスイレイザーの剛拳が胸のボディにめり込み、そのまま数十メートル先まで弾丸の如く勢いで殴り飛ばされてしまった。

 

 

「あっ……!っ、クッ……ああっ、クッソォッ!」

 

 

吹っ飛ばされるクロスを追うように、イグニスイレイザーも再び目にも止まらぬ速さで駆け出し追撃していく。その様子を離れて見ていたクリスも慌てて二人の後を追おうとするが、先程のクロスの言葉を思い出して一瞬迷ってしまい、僅かな逡巡の末、やはりクロスの窮地を前にこのまま見捨てる事は出来ないと、二人の後を追って急ぎ走り出していったのだった。

 

 

 

 

 


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