戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第一章/戦姫達の物語×忘却の仮面ライダー②

 

 

 

──街の上空に次元の穴が開かれる、少し前……

 

 

 

―お好み焼き屋『ふらわー』―

 

 

「──それじゃ皆は、今度はその都市伝説と事件を追う事になったってこと?」

 

 

 S.O.N.G.の本部を後にした響達は、それぞれの家への帰路に付く道中で空腹気味な腹に何か入れてから帰ろうという話になり、彼女達の学校からさほど離れていない商店街の一角に建つ馴染みのある店、お好み焼き屋『ふらわー』に訪れていた。

 

 

 注文したお好み焼きの芳ばしい匂いが鉄板の上から店中に漂う中、響達にそう疑問を投げ掛けたのは、響から連絡を受けて彼女たち四人と同じ席に同伴する黒髪ショートに後頭部に大きな白いリボンを結んだ少女……響の小学校時代からの幼馴染でS.O.N.G.の民間協力者でもある"小日向 未来"であり、彼女からの質問に対しクリスはテーブルの上に頬杖を着いたまま、もう片方の手で割り箸を器用に回しつつ不満げに口を尖らせていた。

 

 

「正直、あたしとしてはただの悪戯程度であって欲しいって感じだけどな……。ただでさえ今でもアルカ・ノイズだの錬金術師だのでてんてこ舞いだってのに、これ以上厄介事に増えられてたまるかよっ」

 

 

「……私もそう思いたいけど、実際に被害が出てる以上、司令の言う通り放置は出来ないと思います……あとクリス先輩、食事してる最中のテーブルの上で頬杖付くのはお行儀悪いです」

 

 

「うっ……う、うるせーな……わーってるよっ……」

 

 

 自分の意見にそうであって欲しいと調に同意されつつ、同時に行儀の悪さを注意されてバツが悪そうに顔を逸らしながらも言われた通り頬杖を止め、飲み物を口に含んでいくクリス。

 

 

 そんな彼女の乱暴な口調とは裏腹に素直な所に思わず苦笑いしつつ、響は箸で自分の皿のお好み焼きを切り分けながら未来に質問を投げ掛けた。

 

 

「それで私達も、少しでもその都市伝説や事件の情報を集めようと思ってるところなんだけど、未来は何か聞いた事ない?弓美から他にも噂話を聞かされたりとか」

 

 

「うーん……私も響と同じ話を聞かされたぐらいで、そういうのはあまり聞いた事がないかなぁ……」

 

 

「……そっかぁ……やっぱりそう簡単には行かないよねぇ……」

 

 

 何せS.O.N.G.の優秀な諜報員ですらその足取りを未だ一切掴めていないのだから、普段は普通の学生でしかない自分達の手で簡単に見つけられるならそもそもこんな苦労はしていないだろう。

 

 

 ならば一体どうしたものかと、頭を悩ませる響が難しい表情のまま椅子に背もたれ店の天井を仰ぐ中、よほど空腹だったのか、お好み焼きを一心不乱に口に詰め込んでいた切歌が突然ハイテンションに口を開いた。

 

 

「だったら此処はやっぱり、さっきアタシが提案した作戦を実行するしか手はないデスよ!」

 

 

「って、まだ言ってんのかよっ。それはさっき却下だって言ったろっ!」

 

 

「?切歌ちゃんの作戦って……?」

 

 

 割り箸を手に挙手する切歌と間髪入れずにそれを一蹴するクリスのやり取りを聞き、先程合流したばかりの未来は何の話?と頭上に疑問符を浮かべる中、お茶を啜って一息吐いていた調が少し困った顔で代わりに説明し始める。

 

 

「此処へ来る前の道すがら、皆で例の事件の謎の怪物とその怪物を倒すヒーロー……マスクドライダーをどうやって探そうかって話し合ってた時に、切ちゃんが作戦を一つ思い付いたんです。その作戦と言うのが……」

 

 

「ズバリ!『怪物に襲われるフリをして、影のヒーローをおびき寄せる作戦』デス!」

 

 

「……そ、そのまんまだね」

 

 

「さっきあたしもそう言った……」

 

 

 中身がそのまま名前に出てしまってる作戦を自信満々に口にする切歌に未来も苦笑いを返すしかなく、彼女の隣に座るクリスも疲れた溜め息と共にお茶を啜りまともに相手にしようとしないが、切歌の方も退こうとせず、眉を八の字にして食い下がる。

 

 

「で、でもでも、怪物も仮面ライダーも何処にいるのか分からないならそれぐらいしか向こうから来てもらう手はありませんし、直接会って話せるならわざわざ話が通じるか分からない怪物より、人助けをしてて話が通じやすそうな仮面ライダーの方に来てもらうのが一番だと思うデスよっ」

 

 

「それはまあ……一理あるとは思うけど……」

 

 

 実際の所、怪物を発見して仮に捕えられたとしても話が通じない獣だったなら、怪物の身体の構造が判明する以外にその目的や出自などの得られる情報は限られてくるやもしれない。

 

 

 ならば比較的話が通じそうで、且つ怪物の正体を知っていそうな仮面ライダーにこちらから会うとすれば怪物騒ぎを意図的に起こし、向こうから来てもらうのが安全面も考えて角が立たない方法だろうかと調が少し納得し掛ける中、その反応から手応えを感じ取った切歌が更に畳み掛ける。

 

 

「だからアタシ達で怪物に襲われるフリをして、仮面ライダーがノコノコやってきた所を皆で一斉にふん捕まえてやるんデスよ! 獅子は兎を食べるにも全力投球デース!」

 

 

「切ちゃん、それを言うなら獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くすだよ。兎は食べちゃダメ」

 

 

「だからそんな陳腐な作戦が上手くいく訳ないだろってっ。そこまでやって肝心のマスクドライダーが来なかったら、あたし等が馬鹿をみるだけじゃねぇか。大体、フリって事は偽物の怪物も用意する訳だろ?誰がやるんだよそんなの」

 

 

「勿論、其処はやっぱりリアリティーが大事デスからね。この役にはやはり普段からプリプリ怒りやすい、迫力ある演技が出来そうなクリス先輩にしか……」

 

 

「何で其処であたしなんだよッ?!ふざけんなぁッ!!」

 

 

 誰がやるかそんなもんッ!!と偽物の怪物の配役についてテーブルから立ち上がったクリスと切歌が口論を始める中、そんな二人を宥めようと間に座る未来がオロオロしてしまうも、其処で響が先程から天井を仰いだまま何やら考え込んでいるのに気付き、首を傾げた。

 

 

「響?どうかした?」

 

 

「……へ?あ、ううん。別に大した事じゃないんだけど……仮面ライダーの正体って、どんな人なのかなぁって考えちゃって」

 

 

「……仮面ライダーの?」

 

 

「うん。だってほら、怪物を倒すだけなら襲われる人を助けたりする必要もないし、今までの事件で死傷者が誰一人出ていないって事は、それだけ仮面ライダーが一人で頑張ってたって事でしょ?ならきっと悪い人じゃなさそうだし、もし話し合えれば、怪物と戦う為に協力し合う事も出来るんじゃないかなって……」

 

 

 もしもそうなれたならと、噂の仮面ライダーの姿を想像しそんな先の未来に思いを馳せる響。その横顔を見て相変わらずだなぁと微笑み、未来は瞼を伏せながら弾むような声音で応える。

 

 

「だったらそれを叶える為にも、先ずは仮面ライダーさんに会う所から始めないとね?」

 

 

「うーん……問題は其処なんだよねぇ……こうなったらいっそのこと、切歌ちゃんの作戦に本気で乗っかっちゃうっていう手も……」

 

 

「はああッ?!冗談じゃねえぞふざけんなッ!誰がなんて言おうとあたしはぜってぇーやらねぇからなッ?!そんな役も作戦もッ!」

 

 

「どうしてクリス先輩は其処まで嫌がるんデスかッ!ちょっと覆面被って、それっぽく振る舞ってアタシ達を襲ってくれればいいだけの簡単なお仕事デスよッ?!」

 

 

「その覆面を被るのが嫌なんだってさっきから何度も言ってんだろが馬鹿ーッ!!」

 

 

「二人とも、そろそろその辺にしないと。お店にも迷惑が……」

 

 

 未だに言い合いを続けようとする二人にいい加減調も店の迷惑を考えて止めに入ろうとし、それを見た響と未来も互いに顔を見合わせ苦笑いを浮かべながら調の加勢に加わり仲裁に入っていく。

 

 

 これが彼女達の日常。数多くの過酷な戦いを乗り越える為の支えとなる守りたいモノ。

 

 

 そんな何時もの風景が此処にある事、束の間の幸せに喜びを噛み締め、こうして今日も一日が終わるのだろうと漠然と誰もが信じて疑わずにいた中、

 

 

 

 

──その平穏を打ち壊すかのように、ノイズの出現を報せる避難警報のサイレンが前触れもなく街中に鳴り響いた。

 

 

「……ッ!コイツは……!」

 

 

「避難警報……!」

 

 

 突然のサイレンに響達の間に緊張が走る中、彼女達が携帯する通信機にも緊急通信が入った。すぐさま通信をONにし応答すると、先程本部で別れたばかりの弦十郎の張り詰めた声が通話口から響く。

 

 

『緊急事態だッ!皆、すぐに本部に戻ってくれッ!』

 

 

「師匠!一体何が……!」

 

 

「アルカ・ノイズか?!それともまさか、例の怪物が……!」

 

 

『いや、そのどちらでもない。しかしまさか……いや、そんな事が……』

 

 

「「「「……?」」」」

 

 

 何やら弦十郎の様子が可笑しい。その声には何処か動揺が滲み出ており、響達も怪訝な表情で首を傾げる中、直後に弦十郎の口から信じ難い一言が飛び出た。

 

 

『ノイズだ……アルカ・ノイズではない、ノイズが再び街に現れたッ!』

 

 

「「「「……なっ……」」」」

 

 

……それは本来、この世界で起こり得ない筈の事象の一つ。

 

 

 そして同時に、それはこの世界の本来の流れが崩壊するカウントダウンの始まりを意味していた───。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「ひっ、ひ……うわぁああああああああッ?!!」

 

 

「た、助けっ……ぎゃあァああああああああああッ?!!」

 

 

──大勢の人々が行き交っていた繁華街の中心区。其処は今、阿鼻叫喚の地獄と化して絶え間ない悲鳴が響き渡っていた。

 

 

 逃げ惑う人々を執拗に追い、僅かでも触れた人間を自ら諸共炭素の塊と化し消滅する殺戮だけが目的の傀儡達。

 

 

──それがノイズ。この物語の中では永久に閉ざされていたハズの宝物庫の奥から再び姿を現した、人間を殺す為だけに存在する災厄そのものだった。

 

 

「──あーらら、惨いことしちゃって。相変わらず目的の為なら容赦しないよねー、デュレンはさ」

 

 

 無抵抗の人々が何も出来ずに一方的に殺戮されていく。そんな残忍で無慈悲な光景をとあるビルの螺旋階段から静観しながら他人事のように呟くのは、ノイズを呼び出した張本人であるデュレンの仲間である青髪の青年だが、その表情には先程同様飄々とした笑みが張り付いている。

 

 

 そんな彼の後ろで階段に腰を下ろす金髪の男も目の前の惨状に特に興味を移そうとはせず、膝の上に頬杖を立てて青年の口ぶりに鼻を鳴らして笑った。

 

 

「心にもない事を良く言うぜ。お前にとっちゃこれもどうでもいい細事、だろうよ?」

 

 

「まーねー。人が死ぬとこなんて飽きるほど見てきたし、今更心を揺らすほどの特別な何かなんて感じないさ。君だってそうだろ?」

 

 

「そりゃな。けど、俺としてはもうちょい控え目な作戦にしてもらいたかったぜ……こんな派手めに動いて、本当に大丈夫なんだろうな……?」

 

 

「ハッハハッ、君ってば本当に慎重派だよねぇー。見た目はそんなヤンキーっぽい外見なのにさぁ?」

 

 

「うるせぇなぁッ!俺はただ失敗すんのが嫌いってだけ──あ?」

 

 

 ケラケラと笑う青髪の青年にムッとして怒鳴る金髪の男だが、その時、何処からともなくヘリのローター音が聞こえてきた。

 

 

 その音に釣られ二人が空に目を向けると、其処にはS.O.N.G.の潜水艦がある方角から飛来して現場上空に浮遊する機体……S.O.N.G.のヘリの姿があり、開かれたヘリのドアからS.O.N.G.の制服を身に付けた四人の少女達……S.O.N.G.と合流した響達が顔を覗かせ、ヘリの真下で人々を襲うノイズの姿を捉え目を見開いていた。

 

 

「ノイズ……!」

 

 

「マジかよ……!何でアイツ等がまた湧いて出て来てんだっ?!」

 

 

 先の通信で弦十郎からある程度の状況を聞かされたとは言え、やはり実際に自分の目で直接見るのとでは衝撃の度合いが違うのか、四人は二度と現れる筈のないノイズの出現を前に明らかな動揺を露わにしてしまう。

 

 

「い、一体どうなってるデスか……!もしかして、バビロニアの宝物庫がまた開いたって事デスかッ?!」

 

 

「でも、宝物庫を開くのに必要なソロモンの杖は、確かに宝物庫の中へ消えたハズ……」

 

 

 『ソロモンの杖』、それはバビロニアの宝物庫を開く鍵であり、ノイズを任意に発生させる事が出来る能力を持つ聖遺物でもあった。

 

 

 しかしその鍵も嘗てのフロンティア事変の終盤で消滅した筈であり、それは同時にバビロニアの宝物庫から生まれるノイズの発生も二度と起きない事を意味していた筈だった。

 

 

 だが、ならばこのノイズ達は何処から現れたのか?

 

 

 考えても分からない疑問が装者達の胸の内を占めて沈黙が広まる中、それを最初に破ったのは、片手にまるで宝石のように輝く赤いペンダントを手にした響だった。

 

 

「何が起きてるのか分からなくても、今私達がやるべき事は変わらないよ……!行こう!みんなを助けないと!」

 

 

「……だな。考えたって分からないなら今は後回しだ。先ずは奴らを残らずぶっ潰す……!原因を探るのはその後だ!」

 

 

 何処までもまっすぐな響の力強い言葉に触発され、幾許かの落ち着きを取り戻したクリスも彼女と同様の赤いペンダントを首元から外して握り締めると、同じく冷静さを取り戻した切歌と調もそれぞれペンダントを手に力強い眼差しで頷き返し、四人は一斉にヘリのドアから飛び降りた。そして……

 

 

 

 

 

「──Balwisyall Nescell gungnir tron…・

 

 

Killiter Ichaival tron……

 

 

Zeios igalima raizen tron……

 

 

Various shul shagana tron……

 

 

 

 

 

 空を舞う少女達の口から、それぞれ異なる詠と詞が美しい声音で紡がれる。

 

 

 次の瞬間、彼女達の身体が橙色、赤色、緑色、桃色の眩い光に包まれ、まるで流星のように凄まじいスピードでノイズ達が入り乱れる地上へ急降下し、爆発じみた衝撃波で粉塵が舞い上がる程の地響きを轟かせながら戦場へと降り立った。

 

 

 そして、突如空から落ちてきた星々を見て人々を襲っていたノイズ達も一斉に足を止めて振り返ると、視界を阻む粉塵がヘリの突風に煽られて掻き消され、まるでベールを剥がされるように少女達の姿が露わになっていく。

 

 

 風に揺れる白いマフラーを靡かせ、白と橙色のナックルを両腕に纏い力強く拳を握る響。

 

 

 赤いヘッドギアに覆われた銀色に煌めく髪を揺らし、無言のまま両手に握るマシンピストルの照準をノイズ達に狙い定めるクリス。

 

 

 互いに肩を並べ、その身に纏う装甲と同じ色合いをした身の丈を軽く越える黒と緑の大鎌を手にする切歌と、ツインテールの部分に纏われる白とピンクの装甲の基部から分離したヨーヨー型の鋸を構える調。

 

 

 それぞれがそれぞれの色を現すアンダースーツと装甲を纏い、文字通り『戦姫』へとその身を変えた四人のヘッドギアに、本部からの通信が届く。

 

 

『装者達の到着を確認!しかし、周辺にはまだ民間人の多くが取り残されています!』

 

 

『逃げ遅れた人々の避難誘導はこちらで行う!お前達は出来るだけ其処からノイズ達を遠ざけてくれ!頼んだぞ!』

 

 

「「「「了解ッ!」」」」

 

 

 最優先事項は民間人の避難完了までノイズを一匹たりとも此処より先へ通さないこと。

 

 

 弦十郎からの指示に力強く応えると共に、一歩前へ踏み出した勢いから地を蹴り上げて飛び出し、右拳を振りかざして先陣を切る響を筆頭に他の三人も後に続いていき、シンフォギアを身に纏った装者達とノイズ達の戦いが再び火蓋を切って落とされたのであった。

 

 

「あらら、先に装者達の方が釣れちゃったみたいだねー。どうしよっか?」

 

 

「どうもしねぇよ……どーせ元々どっちかが釣れるまでの無限湧きだったろうし、わざわざ俺らが手を貸すまでもねぇさね」

 

 

 ほっとけほっとけと、金髪の男はそう言って駆け付けた装者達とノイズの戦いに目もくれず、後頭部に両手を回し階段の上に寝っ転がる。

 

 

 そんな男の姿を見て青髪の青年も先程と変わらない微笑を浮かべると、けたたましい戦闘音が響き渡る戦場の方に目を向けていく。

 

 

「まあ確かに、こんだけ大騒ぎしてくれれば向こうから来てくれるのは間違いないだろうしねぇ……餌が欲しい駒はともかく、果たして『彼』は来てくれるのかなぁ?」

 

 

 笑いながら装者達とノイズの戦いを見守りつつも、青髪の青年は着実にこの場所へと近づいてくる"禍々しい気配"を感じ取って更に口元の笑みを深めていき、これから起こるかもしれない『未知』に対して密かに胸を踊らせていくのであった。

 

 

 

 

 


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