戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第六章/五等分のDestiny×紅弾の二重奏(デュエット)①

 

それから約三十分後……

 

 

「──五月っ!」

 

 

「上杉君、こっちです!」

 

 

赤髪の少女と共に彼女の父が経営する病院を後にし、蓮夜とクリスが彼女に連れられて市内の雑踏の中を進んでいると、人混みの向こうから血相を変えて一人の人物……昨晩、赤髪の少女と共にダスト達に襲われていた目付きの悪い少年が息を切らしながら駆け寄ってきた。病院を出た際に彼女は携帯で何処かに電話していたようだが、どうやらその相手は彼だったらしい。

 

 

余程急いで駆け付けたのか、少年は息も絶え絶えに赤髪の少女の前で両膝に手を付きながら荒れた呼吸を整えようとするも、何度もゲホゲホッと苦しそうに咳き込んでいる。

 

 

「そ、そんなに急がなくても良かったのに。ただでさえ体力がないんですから……」

 

 

そんな彼の様子を見て流石に心配を覚えたのか、赤髪の少女が手を伸ばして少年に近付こうとする。が、少年はその手を勢いよく掴み、顔を上げながらいきなり少女へと詰め寄った。

 

 

「ちょ、近っ……!」

 

 

「お前っ……!あれだけ危険だから一人でコイツらを探しに行くのは止めろって釘を刺しただろうが!なのに忠告も聞かずにマジで一人で探しに行きやがってっ、その耳は飾りか!」

 

 

「で、ですからそれは大丈夫だと言ったじゃないですか!彼等は私達を救ってくれたんですから少なくとも悪い人達じゃないでしょうし、何か手掛かりを知っている可能性があるから、いなくなられる前に早く見付け出した方がいいと思って!」

 

 

「だからって一言相談も無しに一人で行く奴があるか!昨日の今日であんな危険な目に遭ったばっかりだってのに、危機感無さ過ぎにも程があるだろ!普段は馬鹿が付くほど真面目なクセになんだって今回に限って抜けてるんだこの馬鹿!」

 

 

「なあーっ?!」

 

 

大層ご立腹な様子の少年の物言いに赤髪の少女もカチンとなる。その後、二人はそのまま売り言葉に買い言葉で声を大に口喧嘩を始めてしまい、そんないい歳して公共の場で言い争いを始める二人を前にクリスはヒクッと顔を引き攣らせていく。

 

 

「おい、目的地も何も言わず付いてこいって言っておきながら何で人をほっぽいて喧嘩始めてんだアイツらっ……」

 

 

「これが世に言う痴話喧嘩という奴か。……前にドラマで見た奴ほど壮絶という訳ではないんだな、実際は」

 

 

「いやお前もお前で興味深げに静観してんじゃねーよ」

 

 

口論する二人を物珍しそうに見てズレた発言をする蓮夜にクリスが冷静にツッコミを返すが、それから暫く待っても二人の口論は止まる所か徐々にヒートアップして更に加熱化していく様子だ。このままでは日が暮れるまで続くかもしれないと、二人の言い争いの様子を蓮夜と共に傍観していたクリスは額を抑えて深々と溜め息を吐き、声に苛立ちを含ませて二人に向けて口を開いた。

 

 

「おい、いい加減その辺にしとけよ。お前達はともかく、あたし等まで周りの見世物になるのはゴメンだぞっ」

 

 

「!……アンタ達が、昨日の……」

 

 

「元気そうだな。昨日はパッと見でしか分からなかったが、その様子だと大した怪我もなさそうで安心した」

 

 

「ヨッ」と、そう言いながら左手を軽く上げて蓮夜は少年に呑気に挨拶する。しかし、少年の方はそんな蓮夜とクリスの顔を交互に見て訝しみ、赤髪の少女の手を取って二人に背を向けながらヒソヒソと小声で話し始めた。

 

 

(おい、ホントにアイツ等を頼って大丈夫なのかよ……!)

 

 

(ですからそれに関しても何度も話したじゃないですかっ。現状有力な手掛かりを持っていそうなのは彼等しかいないんですから、もうあの二人を頼る以外に一花達を見付け出す方法はないんです……!)

 

 

(だからって碌に正体も確かめもせずに信用するのは早すぎだろ……!あんな訳の分かんねえ格好やら力を使うような奴らが普通な訳がないし、怪しいにも程がある!もし下手してお前の身にまで何かあったら──!)

 

 

「今度は内緒話かよ、何なんださっきからっ」

 

 

「まあそうイライラするな。短気は損気とも言うだろう。ほら、昨日うちに遊びに来たイガリマから貰ったガムでも食べて落ち着け。まだ俺も手を付けていないから、一緒に食べよう」

 

 

「……まぁ、くれるってんなら貰ってやってもいいけどよ……」

 

 

両腕を組んだままトントントンと二の腕の上を人差し指で叩くクリスの苛立ちを察し、気を遣って懐から取り出した袋に入ったチューインガムを差し出す蓮夜の厚意に一瞬戸惑いながらも、クリスは徐に手を伸ばしてガムを一枚摘む。

 

 

──が、次の瞬間パチィンッ!と音を立てて、袋の中に仕込まれていたバネにクリスの親指が挟まれてしまった。

 

 

思いっきし、しかもよりにもよって爪の真ん中辺りに食い込むように、だ。

 

 

「………………」

 

 

「………………」

 

 

「おい」

 

 

「待て。違う。誤解だ。こんな仕掛け俺も知らない。……おい、おい待て。何故俺の手を握る?何故無言のまま力を込めるんだ?待ってくれ、何だこの既視感……?!ついこの間も同じ目に遭ったぞ何なんだこのデジャブっ!」

 

 

「──分かりました。ではその方針で行きましょう。それなら貴方も納得してくれるんですよね?」

 

 

「何でそんな仕方なさそうな感じで俺が悪いみたいな空気になってんだよっ。……まぁ、一先ずの妥協点としてはそれで妥当だろ。もしあの二人が信用出来ず危険だって確信した時は──」

 

 

「分かっています。その時はすぐに警察に駆け込むなり、貴方にも連絡するなりしますよ」

 

 

「なら一先ずはいい。よし──悪いな待たせて、ちょっとこっちでゴタついて…………何やってんだ?」

 

 

漸く口論が落ち着いて話し合いにも決着が付き、踵を返して少年と少女が振り返った先には、周囲から好奇の眼差しを集め、「うぉあ”あ”あ”あ”あ”っ……!!」と悲痛な悲鳴を上げながらクリスにこれでもかと強く左手を握り締められて(しかも逃げられぬようにもう片方の手で手首を掴まれて)ねじ伏せられる蓮夜の姿があり、一体何事かと二人も困惑し目を点にしてしまうのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー。何名様でしょうか?」

 

 

「四人で」

 

 

「かしこまりました。お席の方へどうぞー」

 

 

数分後。一先ず通りに面したファミレスに入った四人は朗らかな笑顔で歩み寄ってきた女性店員に口頭で人数を伝え、店の奥に通してもらう。店内は休日とあって子連れの客が多く賑わっており、適当な席に着いた四人は奥の席からクリスと蓮夜、少女と少年と対面になるように座っていく。

 

 

「先ずはお互いに自己紹介といきましょうか。私は中野五月と申します。それでこちらの彼は……」

 

 

「……上杉風太郎だ。五月とはクラスメイトで、コイツとコイツの姉貴達の家庭教師をやってる」

 

 

初めに名を名乗った赤髪の少女……"中野 五月"に視線で促され、目付きの悪い少年……"上杉 風太郎"も無愛想そうな口調で自己紹介をする。

 

 

その不遜な、というか、何処か棘があるようにも聞こえる口振りにクリスも内心引っ掛かるモノを覚えて不服そうに片眉を上げる中、蓮夜は頭の上に疑問符を浮かべて小首を傾げた。

 

 

「クラスメイトで家庭教師、なのか?あんなに彼女の事を気に掛けて心配もしていたし、てっきり恋人同士か何かなのかと……」

 

 

「ぶっ!」

 

 

「だ、誰と誰が恋人ですかっ!?変な思い違いは止めて下さいっ!!」

 

 

「お、おお、すまない……まさか其処まで怒るとは思わなかった……」

 

 

「いやアレ、怒ってるっつーか、なんつーか……」

 

 

率直な疑問を投げ掛ける蓮夜の言葉に狼狽し、テーブルに身を乗り出してまで風太郎との「恋人」という関係を強く否定する五月だが、僅かに朱が差すその顔が何処となく満更でもなさそうに見えるのは果たして気の所為か否か。

 

 

……まあ本人も自覚しているか怪しいし、わざわざ興味のない話を追及する必要もないだろうと、隣で何やら「また余計な事を言って怒らせてしまったか……」と呟きながら心做しかシュンッとなる蓮夜を他所に、クリスはテーブルに頬杖を突いたまま何処か面倒そうに口を開く。

 

 

「あたしは雪音クリス。んで、こっちの腕に怪我してるのが……」

 

 

「……黒月蓮夜だ。宜しく頼む」

 

 

「ああ。……ところでアンタ、その怪我ってどうしたんだ?まさか、昨日俺達を助けた時に……?」

 

 

「?ああいや、これは……」

 

 

「…………」

 

 

ちらりと横目でクリスの顔を伺うと、彼女はバツが悪そうな表情で口を閉ざしている。それを見て少し思考した後、蓮夜は風太郎の目を見つめ返してフルフルと首を横に振った。

 

 

「実はお前達と出会う前、俺が彼女と合流しようと焦ったあまり、道中でドジを踏んで怪我してしまってな。その時に骨をやってしまったんだ。だから誰のせいでもないから、気にしなくてもいい」

 

 

「……っ」

 

 

「なんだそういう事だったのかよ。だったらまあ別にいいんだが……」

 

 

「ああ、気に掛けてくれて有難う。正体も分からない人間を心配してくれるだなんて、案外優しいんだな」

 

 

「っ、案外ってのは余計だろ。そもそもそんなんじゃねーし……」

 

 

恥ずかしげもなく感謝の言葉を掛ける蓮夜からふい、と顔を背けながら憎まれ口を返す風太郎。

 

 

そんな風太郎の反応に蓮夜も首を傾げ、もしや何か彼の気に障る言い方をしてしまったのだろうかと不安が過ぎって隣に座るクリスに思わず目を向けるも、クリスもそんな蓮夜とは顔を合わせまいとそっぽを向いてしまう。

 

 

……まさか、目もまともに見られないほど酷かったというのか。そんな不安がより増して全然目を合わせようともしない風太郎とクリスを交互に見てどうするべきかと蓮夜が困り果ててしまう中、五月が三人の注目を集めるようにわざとらしく大きめに咳払いをした。

 

 

「ん、んんっ!……とりとめのない話もその辺でいいでしょう。それで早速ですけど、貴方達の事や、昨晩私達を襲った怪物について詳しく話を──」

 

 

「ああ……いや、すまない。話をする前に一つ良いだろうか」

 

 

互いに自己紹介も終え、いい加減本題に移ろうとした五月の話を蓮夜が胸の前で軽く挙手をしながら遮り、五月は訝しげに眉を寄せた。

 

 

「何でしょうか?一応断っておきますけど、既に私達は取り引きをした後なんです。今更話すのはナシというのは──」

 

 

「?取り引きって、何の話だ?」

 

 

「え、あ、それは、えーっと……」

 

 

「いや、そんな大した話ではないんだ。単に俺の腎臓を売るか話を聞かせるかどうかの二択を、其処の彼女に迫られたというだけで」

 

 

「腎っ……お前、どんなヤバい取り引きでこの二人を丸め込んだんだよ……」

 

 

「ご、誤解です!決して疚しい事はしていません!貴方も人聞きの悪い事を言わないで下さい!」

 

 

「……フォローしたつもりが怒られてしまった……」

 

 

「寧ろ今ので助け舟出してたつもりだってのに驚きだわ」

 

 

てっきり先の取り引きの時の意趣返しの告げ口かと思ったが、どうやら本人としては全くの善意100%だったらしい。とは言え今の言い方では相手にその旨が伝わる筈もなく、クリスは五月に叱られて更に凹む蓮夜に呆れた眼差しを向け、風太郎もドン引きしつつも取り引きの内容が気になり隣に座る五月を懐疑的に見つめるも、すぐに気を取り直して蓮夜に視線を戻していく。

 

 

「それで、さっきアンタが言い掛けてたのって何だったんだよ?」

 

 

「ああ、いや……話の前に、何故お前達が其処まで俺達の事や、あの怪人の正体にこだわるのか理由を聞いておきたかったんだ……。説明するにしても、正直こちらの話も複雑で一からとなると長くなる。せめてそちらの知りたい事を教えてもらうと、俺達も話の内容を纏められて助かるんだが」

 

 

彼らがただの興味本位から、自分達の事を知りたがってる訳ではないというのは先程の病院での五月の剣幕から何となく伝わったが、その時に彼女が口にしていた言葉の真意も気になる。

 

 

最もらしい話の流れからそれとなく向こうの事情を探ろうとする蓮夜の真意を察し、クリスも無言のまま視線だけで同意の意を示すように風太郎達の顔をジッと見つめると、風太郎と五月は一度顔を見合わせた後、仕方がないと五月が小さく吐息を漏らして蓮夜達に視線を戻し、口を開いた。

 

 

「実は私達、数日前からある人達をずっと探し回ってるんです。それが先程彼も話していた、私の姉達で……」

 

 

「探してるって、行方が分からないって事か?人探しとかだったら別に警察にでも頼めばいいだろ?」

 

 

「警察にももう相談して捜索届けも出したし、今もアイツらの事を探してもらってる。……ただそれでも手掛かりは全然掴めてねぇみたいだし、俺達もここ数日間、色んな奴に聞き込みしてアイツ等を最後に見掛けたっていう場所を虱潰しに探し回ってたんだ。それで昨日の夜も、その場所を探し回ってたらいきなりあの化け物達に襲われて……」

 

 

「成る程。其処へイチイバルと俺が駆け付けた、という事か」

 

 

ダスト達に襲われていた二人が何故あの時間あんな場所にいたのか、疑問が一つ解けて納得する蓮夜。そんな彼とクリスの前に、五月が懐から数枚の写真を取り出していく。

 

 

「行方不明になっているのは私の四人の姉達で、此処に写っているのがその彼女達……長女の中野一花、次女の二乃、三女の三玖、四女の四葉です」

 

 

言いながら、五月はテーブルの上に四枚と写真を横並びに並べていく。蓮夜とクリスもその写真をよく見ようと僅かに身を乗り出していくが……

 

 

「……なあこれ、全員顔一緒じゃね?」

 

 

「……どれが誰だかさっぱり分からない……」

 

 

写真を見た蓮夜とクリスの顔が揃って無表情になる。何故なら五月に見せてもらった写真に映る少女達は服装や髪型などの差異は異なるが、どれも同じ顔で誰が誰なのか全く分からないのだ。

 

 

「ま、コイツら五つ子だから顔も当然一緒だからな。学校の連中でもよく間違うくらいだから分からないのは無理もない。……俺も最初の頃は相当苦労したもんだ……」

 

 

「何か急に哀愁漂う目で語り出したぞ、何だアイツ……」

 

 

「いえまぁ、一応彼も姉妹達の事で色々とあった身なので……というか今でもそうなんですけど」

 

 

「?」

 

 

「人知れぬ苦労が、という奴か。色々と大変だったんだな……因みにだが、もしやこの物静かな雰囲気の彼女が長女か?」

 

 

「いえそれは三玖です。一花はもっと髪の毛先が短いのが特徴ですよ」

 

 

「成る程。勉強になる」

 

 

「いや4分の3がそれじゃねーかよどうやって見分けろってんだそれで」

 

 

全然助言になっていない助言に馬鹿正直に頷く蓮夜を他所に、4人の内3人目もショートヘアーの行方不明の姉妹達の写真を見てクリスが真顔でツッコむ。そんな二人のやり取りに五月も苦笑を浮かべながら姉達の写真を見下ろし、説明を続けていく。

 

 

「最初は長女の一花が仕事先で突然いなくなったと連絡が届いて、皆で彼女を探していたんです。でも彼女の行方を追う内に今度は四葉が、その次に三玖、二乃と……皆、まるで神隠しにあったみたいに前触れもなく消えてしまったんです……」

 

 

「消えたって……誰もいなくなった所を見てないのか?」

 

 

「……ああ。四葉が消えた後、念のため三玖と二乃には俺や五月が傍にいて一緒だった。なのに三玖も……」

 

 

「二乃も私と一緒に学校から帰る途中、ずっと隣にいた筈なのにカバンを残して消えていたんです。人が近付く気配なんてしなかったのに、いつの間にか……」

 

 

「……その後、家に身代金の要求とかの電話は?」

 

 

「全くありません……ですから姉達の無事を確かめる術もなく、もうどうしたらいいか分からなくて……」

 

 

(……金目当ての誘拐が目的なら、向こうから何かしらの連絡がないのは確かに可笑しいか……ともすると……)

 

 

顔を俯かせ、両手でスカートを握り締めながら辛そうに呻く五月から話を聞いた蓮夜も事件の不可解さに顎に手を添えながら考え込む素振りを見せる中、風太郎は蓮夜とクリスをまっすぐ見据えて口を開いた。

 

 

「正直、俺はまだアンタらの事を其処まで信用出来てない……それでも、もしアイツ等がいなくなった事とあの化け物が何か関係しているなら、教えて欲しい……頼む」

 

 

「上杉君……私からも、どうかお願いします……!」

 

 

「いや、そうは言われたってなぁ……」

 

 

正直、あのダスト達と彼女の姉達がいなくなった事が関係しているのかなんて自分達にだって分からない。確かな事も分からないのに揃って頭を下げる二人にこちらの事情を話した所で、果たしてそれが彼らの望む手掛かりになるかどうか……。

 

 

一体どうしたものかとクリスは頭を悩ませてチラリと隣に座る蓮夜に視線を向けると、蓮夜は思考に浸ったまま瞳を伏せ、瞼を開けて二人の顔をジッと見つめていく。

 

 

「……分かった。俺達が知っている範囲で良ければ話そう」

 

 

「っ!本当か!」

 

 

(お、おい……!マジで話すつもりなのかよ?!)

 

 

蓮夜の腕を引っ張り、二人に背を向けてクリスが慌てて耳打ちする。しかし蓮夜は真顔のまま静かに頷き、

 

 

(どの道取り引きを交わした以上、こちらもある程度事情を話すしかないだろう。……それに恐らく、彼女の姉達が巻き込まれたのはただの失踪事件じゃないかもしれない)

 

 

(……どういう事だ?)

 

 

小首を傾げて聞き返すクリス。蓮夜は怪訝な表情でこちらの様子を伺う風太郎と五月を一瞥し、

 

 

(あの炎使いのイレイザーはこの世界に繋がる移動手段を持っていて、しかもこの世界には既に上級の分身体であるダスト達が蔓延って、彼らを狙っていた……つまり此処はお前達の世界と同様、既に奴らの標的の一つとして狙われている可能性が高い。だとすれば、彼女の姉達の失踪の件も……)

 

 

(……まさか、イレイザーがこの世界を改竄する為にやったってのか?ただの学生を狙って?)

 

 

正直、誘拐された彼女達がシンフォギア装者のような特殊な人間とは思えない。何処にでもいるような普通の学生にしか見えない彼女達を何故イレイザーが狙うのか理解が及ばないと狐疑深い目付きになるクリスに対し、蓮夜はその疑問に答えるのも兼ねて話を続けていく。

 

 

(奴らが改竄の為に狙うのは、必ずしも特別な力を持った人間ばかりという訳じゃない……そうだな……)

 

 

キョロキョロと、蓮夜は何かを探すように店内を見回し、遠く離れた席でヘッドホンをしながら読書をする女性客に目を付けて、彼女が読む本を指差す。

 

 

(例えば、彼女が読んでいる本が恋愛小説だとしよう……あの本の結末が仮に主人公とヒロインが結ばれる事なら、奴らは改竄の為にその結末を変えようとする筈だ。その場合、奴らはどういう風に動くと思う?)

 

 

(どうって……あー……主人公とヒロインの二人が結ばれないように引っ掻きますとか、引き離す……とかか?)

 

 

不意の質問に戸惑いながらもそう答えると、クリスは其処で「ハッ」となる。その反応に蓮夜も無言で頷き返し、肩越しにチラッと風太郎と五月に目を見やる。

 

 

(まさかっ、アイツらがそうだってのか?!)

 

 

(例えばの話だ。俺にも確信はない。ただ、奴らが普通の学生を意味もなく誘拐するとも思えない……攫われた彼女達に何かしらの共通点があるのだとしたら、つまりはそういう事なんじゃないかと俺は思うんだが……)

 

 

(いやだからって、お前それってつまり……)

 

 

「……?」

 

 

二人して振り向き、風太郎の顔をジーッと見つめていく。穴が空きそうなほど二人から凝視されて風太郎も困惑を隠せない中、暫し風太郎の顔を観察していたクリスはやがて顔を背けながら溜め息を吐き、

 

 

「四人も攫われたって事は、全員が「そう」かもしれないって事だろ……?姉妹揃って男の趣味悪くねーか?」

 

 

「おい下手な事を言うもんじゃないぞ。人は見掛けに寄らないと言う。きっと彼女達にしか分からない魅力というのがあるんだ……多分」

 

 

「……何の話か分かんねーが、何となく喧嘩売られてるってのは分かるぞ、オイッ」

 

 

「何故でしょう……何だか私まで不本意な纏め方をされているような気が……」

 

 

人の顔を見てわりとド失礼な発言を口走るクリスと蓮夜に風太郎は額に青筋を浮かべ、五月も激しく反論したい思い違いをされているような気がしてモヤモヤした心境になる。そして蓮夜は今のやり取りを二人に聞かれていたと気付き、若干焦った様子でクリスと風太郎達を交互に見て二人に軽く会釈すると、再びクリスと小声で会話を続けていく。

 

 

(ともかく、ダスト達に襲われた彼らがイレイザーの標的になっている可能性は十分にある。もしあの二人の身にまで危害が及んでこの世界が改竄されでもしたら、俺達もこの世界からの脱出が困難になるかもしれない……だから、)

 

 

(……アイツらに事情を話して、そんで攫われた失踪者達も助け出す……そう言いたいのか?)

 

 

(……出来ればそうしてやりたい、と思ってる……無論、その分元の世界に帰るには大分遠回りする事になると思うが……)

 

 

(…………)

 

 

何処か言い難そうに若干顔を俯かせながらそう告げる蓮夜をジーッと睨み、クリスは腕を組んだまま何も言わない。だが暫しその顔を凝視した後、クリスは仕方なさそうに小さく溜め息を吐いた。

 

 

(ま、此処まで向こうの筋合を聞いておきながら無視するってのも後味は悪いわな……いいぜ、あたしも乗る)

 

 

(……いいのか?)

 

 

(いいも何も、アイツの取り引きに乗ったのはあたしだ。それをこっちから切るって訳にはいかないだろ。……それにあのイレイザーの狙いがあたし等なら、少なくとも此処にいる間は元の世界にいる後輩共に危害が及ぶって事もない。なら焦って帰る必要もねーだろ)

 

 

(…………)

 

 

(?何だよ、人の顔ジロジロ見て)

 

 

(……いや。お前は本当に仲間想いなんだな、と……その一面が見られて、少し嬉しく思ってる……)

 

 

(は、はあっ?!何だ急に?!あたしは別に、そんなっ……!)

 

 

「……おい、まだ話は終わらないのか」

 

 

「ん……ああ、すまない待たせてしまって。そう、だな……先ずは俺達の事から話そう。俺と彼女は──」

 

 

(ッ……何なんだコイツ、ほんとにっ)

 

 

本当に調子を狂わされると、こっちの気も知らずにマイペースに二人に自分達の事を説明し始めていく蓮夜をジト目で睨むクリス。その後、蓮夜の口から語られる突飛な内容に風太郎も五月も呆気に取られる様を横で見ていてクリスは溜め息を吐き、蓮夜の説明を補足する為に三人の会話に加わっていくのであった。

 

 

 

 

 


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