戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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お久しぶりです皆様、風人です!

更新が遅れてしまい申し訳ございません!

実は昨年から新しい職場に就き、仕事に慣れるまで大変で中々執筆出来る時間が取れず、大分遅れてしまいました(苦笑

今は少しずつですが執筆作業にも余裕が出てきたので、更新のペースを取り戻せるように頑張ります。

大分遅れてしまいましたが、今年もどうぞよろしくお願い致します。




第六章/五等分のDestiny×紅弾の二重奏(デュエット)②

 

 

「──ほう。これがノイズを喰らったイレイザーの進化態の姿か……実に素晴らしい」

 

 

『……う……』

 

 

薄暗い廃工場内。屋根の隙間から僅かな光が射し込む工場の中心には、何やら居心地が悪そうにジャバウォックイレイザーがソワソワと身じろぎながら佇み、そんな彼を囲むように人間態に戻ったアスカとクレン、そして二人から報せを聞いて駆け付け、まるで品定めするかのようにジャバウォックイレイザーの身体を眺めながら彼の周りを歩くデュレンの姿があった。

 

 

「お前のお望み通りの新種だ。これで、前の俺の失態は帳消しって事でいいんだよなぁ?」

 

 

「……そうだな。素直に役目を全うしたのであれば俺から咎める事は何もない。今回は良くやったよ、お前は」

 

 

「そーかよ。そりゃどーも……」

 

 

そう言いながらも、アスカは大して嬉しくもなさそうに手をヒラヒラさせデュレンからの慰労の言葉を適当に流す。一方でデュレンもそんなアスカから興味なさそうに目線を逸らし、ジャバウォックイレイザーの全身に刻まれた紋様をジッと眺めていき、人差し指で彼の腕の紋様を軽くなぞっていく。

 

 

「この紋様……いや、文字か……?解読は今すぐには無理だが、これも俺達の進化の際にはなかった物だ。やはりノイズを──物語の産物を喰らえば、我々とは異なる進化を辿るようだな」

 

 

「ふぅん……つまり、デュレンの見通しは間違ってなかったって事かなぁ?」

 

 

『うう……』

 

 

デュレンと同様、クレンもジャバウォックイレイザーに好奇の眼差しを向けながら顔を近付けるが、当のジャバウォックイレイザーはそんな二人の視線に耐え兼ねて完全に萎縮してしまい、それを察したアスカが後頭部を掻きながら捨て鉢な口調で口を開く。

 

 

「おい、あんましジロジロ見てやるなよ。ソイツもお前らの視線が薄気味悪くて居心地悪いってよ」

 

 

「おっと……ごめんごめん。僕らも初めて見るタイプのイレイザーなものだから、珍しくて遂ね。別に取って食べようだなんてしないから、そんなに怯えなくても大丈夫だよー?」

 

 

『い、いえ、えと……はい……』

 

 

アスカに咎められても尚、クレンはヘラヘラとした笑いを浮かべながら謝罪して距離を離す。それに対しジャバウォックイレイザーも気まずげに肯くと、クレンはデュレンに目を向けて不思議そうに口を開いた。

 

 

「それにしても疑問だよねぇ。彼の進化は何がきっかけになったんだろ?戦いの中で追い込まれてってだけなら、今まで暴走した彼等とそう手順も変わりない筈だし」

 

 

そう、これまでもノイズを喰らったイレイザー達が暴走し歪な進化を辿った事は幾度となくあったが、今の彼のように正しく進化を果たした者は誰一人としていなかった。

 

 

一体彼らと何が違ったのか?その疑問をクレンが口にすると、ジャバウォックイレイザーは人間体の男の姿に戻りながら自身の両手を見下ろしていく。

 

 

「正直、あの時は俺にも何が起きたのか分からなくて……ただ、身体の奥から凄い力が湧き上がった時に、自分の事とか何もかも分からなくなり掛けたんです……それで大切な記憶を消されそうになった瞬間、それを奪われたくなくて全力で抗ったら、いつの間にかあの姿に……」

 

 

「……?ようは、暴走した時の衝動を意志の力だけで抑え込んだって訳かよ?そんなんで進化態になれるってのか?」

 

 

「さあね。僕達が進化した時とはどうにも勝手が違うようだから、判断が難しいし……デュレン、君なら何か分かって──」

 

 

と、男の説明を聞いても釈然とせずデュレンの意見を伺おうとしたクレンだが、彼の顔を見た瞬間、クレンの表情が怪訝な物に変わった。何故なら、

 

 

 

 

「……そういう事か……成る程……ククッ……」

 

 

 

 

……顔を手で覆い、デュレンはクツクツと意味深な笑みを漏らしていたからである。

 

 

(……デュレン……?)

 

 

「……では、後は俺の仕事だな。此処からは彼の身は俺が預かろう」

 

 

「……へ?」

 

 

「あ……?預かるって、んだよ急に?」

 

 

普段の冷淡な彼からは考え付かないようなただならぬその様子を見て訝しげに眉を顰めるクレンを他所に、突然そんな申し出を口にするデュレン。いきなりの事に男とアスカも怪訝な反応を返すが、デュレンは構わず男の顔を見つめて目を細める。

 

 

「漸く苦労して手に入れた新たな進化態、その能力や進化に至る為のメカニズムを解明するには然るべき機材が必要になる。もしもの保険の為、この物語の中で予め用意しておいた研究用の施設に彼を連れていき、一から彼の肉体を調べ上げる。正しい進化の為に必要な条件を究明出来なければ、他のノイズ喰らいのイレイザー共を進化させるのにも余計な時間が掛かるままだからな」

 

 

「それは……まぁ、そうかもしんねーけど……」

 

 

「あ、あの、調べるって、どれくらい掛かるんですかっ?俺には今、他の事に時間をかまけてる余裕なんて……!」

 

 

自分には一刻も早くこの力で助けねばならない人達がいる。故に今は悠長に実験や調査に付き合っている暇はないと断りを入れようとする男だが、デュレンは眼鏡越しに男の目を見つめ返し、

 

 

「確かに今の君なら、大切な人達を救う事は出来るだろう……が、それは飽くまで力を正しく行使出来ればの話だ。進化したばかりで、力の制御もロクに出来てない今の状態で君の大切な人達にその力を用いれば、君の大切な人達の身に何が起こるか……俺にも保証は出来んぞ?」

 

 

「それ、は……」

 

 

淡々とした声音のデュレンにそう言われ、男は思わず言葉を詰まらせてしまう。確かに、先程の戦闘でも自分は力の制御が叶わず街に余計な被害を出してしまった。仮にもし、あんな恐ろしい力を彼女に向けてしまった時には……。

 

 

そんな想像する事すら拒む最悪の事態が頭を過ぎる男に対し、デュレンはそっと彼の肩の上に手を置いていく。

 

 

「そう不安がる必要はない。我々に任せていれば、直ぐにその力をモノに出来るようになる……。君の大切な人達を守る為にも、暫しの間辛抱してくれればいい」

 

 

「…………わかり、ました」

 

 

僅かに逡巡する素振りを見せた後、男は渋々ながらも了承してデュレンに頷き返した。それを見てデュレンも何処か満足気に笑うと、再び無感情に戻った眼差しをアスカとクレンに向けていく。

 

 

「そういうワケだ、彼の身はこちらで預かる。お前達はこのまま黒月蓮夜とS.O.N.Gの動きを監視し続けろ……異論はないな?」

 

 

「……ハッ。異論も何も、どうせこっちが文句言った所で聞き入れる気なんざ更々ねーんだろ?」

 

 

「分かっているなら減らず口を叩くより先に、とっとと次に動け。こちらには時間を無為に労する暇なぞ何一つないのだからな……特に、漸く手に入れた進化態の研究を奴等に邪魔されるなど、以ての外だ」

 

 

「…………」

 

 

ジロリッと、デュレンの眼鏡越しの鋭眼差しがクレンにだけを向ける。その意味深な視線に気付いたクレンも無言のまま僅かに目を細めて見つめ返すと、暫しの後、デュレンは静かに目を伏せてため息混じりに言葉を続ける。

 

 

「この際だ。奴等の足止めが叶うのならこちらも貴様等のやり方に口出しするつもりはない……が、これ以上手駒を無駄に浪費してはくれるなよ?」

 

 

「……そりゃあ勿論。そうなったらまた一から駒探ししなきゃならないのは僕らなんだし、余計な面倒は僕らだって御免だしね」

 

 

だからそうならないように出来るだけ頑張るよと、クレンは何処か適当にも見える動きで片手をヒラヒラさせるが、デュレンもそんなクレンに大して目もくれず視線を逸して男と一言二言会話を交わすと、例の施設とやらに行く前に一つ用事を済ませたいという男の希望を聞き、それが済むまで外で待つと先に廃工場を出ていった。

 

 

(……さっきのあの感じ……こっちが探りを入れ始めてると気付いているのか、それとも……)

 

 

「──おい、おいクレン?何だよんな難しい顔して、どうかしたのか?」

 

 

「ん……いや、何でもないよ。別に気にしなくていいって」

 

 

「や、何にもって「あ、あの……!」……あ?」

 

 

そうは言っても、何処か神妙な面持ちを浮かべるクレンは何時もの飄々として掴み所のない普段の様子と違って見える。それが気になりアスカが追及しようとするも、それを遮る様に背後から声が聞こえて振り返ると、其処にはアスカの下に駆け寄ってくる男の姿があった。

 

 

「お前……?」

 

 

「別れる前に、どうしてもお礼を言っておきたくて……。俺がこの力に目覚められたのも、アンタのおかげだ。本当に、ありがとう」

 

 

「……別に礼を言われる筋合いなんかねえよ。こっちはこっちの都合で手を貸しただけなんだし、大体俺は大した事なんて何も──」

 

 

「そんな事ないよ。アンタの励ましもあったから、俺は大切なものを見失わずに済んだ。失い掛けた自分自身を保つ事が出来たんだ……だから本当に、ありがとう」

 

 

「…………」

 

 

そう言って素直に感謝の言葉を口にし、アスカに穏やかな笑みを向ける男。一方でアスカはそんな彼のお人好しぶりに呆れた眼差しを向け、バツが悪そうに頭を掻きながら軽く舌打ちする。

 

 

「んな事わざわざ言いに来る暇があるのかよ……。まだお前の目的は何一つ叶っちゃいねえんだ。こんな所でグズグズしてねーで、さっさと力を制御しに行って来い。その後は手助けした借りも返してもらうんだからな、忘れんじゃーねえぞ」

 

 

「あ、うん。それは、必ず……それだけ言いたかったんだ。それじゃ、俺はいくよ!」

 

 

本当にありがとうと、アスカとクレンに一礼して男はデュレンが待つ廃工場の外へ走り去っていく。そしてそんな男の背中をジッと見送るアスカに、クレンが横から顔を覗き込んだ。

 

 

「キミも相当捻くれ者だよねー。折角の感謝の言葉ぐらい、素直に受け取ってあげてもバチは当たらないと思うけど?」

 

 

「そんなもんで一々一喜一憂してられる状況じゃねえだろ?別にデュレンの野郎の台詞に同意する訳じゃねえが、奴が言うように俺達にとっての脅威はまだまだ残ってる。……黒月蓮夜と、奴から力を分け与えられた装者共をどうにかしない限り、仮にアイツの改竄が成功したとしても結局はなかった事にされ兼ねねぇんだからな……」

 

 

「だからまだ気を抜くには早い、か……ま、それに関しては確かにって思うよ。現にこんな厄介な状況に陥ったそもそもの原因だって、僕らが彼の死をきちんと確かめなかった驕りからなんだし」

 

 

新たな進化態を見付けられたとは言え、それがまだゴールという訳ではない。寧ろ此処で油断してあの男を倒されでもすれば、折角の苦労が水泡に帰す事となる。

 

 

そうなる前に蓮夜と、奴から『記号』を与えられた装者達を何とかしなければならないとアスカは強い決意を新たにし、クレンもそれに対し同意を示すと共に近くの古い木箱の上に腰掛けていく。

 

 

「それで、そっちの首尾はどうなんだい?僕が提案した策は上手くいったんだろ?」

 

 

「……まあな。予定はちと狂ったが、取り敢えず黒月蓮夜と装者を別世界に跳ばす事は出来た。後は其処で奴らを始末しちまえば……」

 

 

「この世界に異変を察知される事なく、装者の数を減らし、クロスも倒してこれ以上の脅威が増える事もなくなる……。一先ずそれだけの結果を出せれば、デュレンも今以上に口煩くはなくなるよ、きっと」

 

 

「だといいけどよぉ……つか、お前の話だと奴らを跳ばした先の世界にもイレイザーがいるんだったよな?そいつとも連絡を取りたいんだが何処にいる?一応こっちの動きは伝えてあるんだろ?」

 

 

「それはもち……あれ……?」

 

 

人差し指を立ててその心配はないと言い切ろうとしたクレンだが、不意にその表情が凍り付いて固まってしまう。

 

 

「おい、何だよそのリアクション?お前から言ってきた作戦なんだから、向こうにもちゃんと事情説明くらいしてあんだろ?」

 

 

「あー……いやそれが、実は向こうにも説明しようと思ってたんだけど、ちょっとやる事が出来てすっかり忘れてたと言うか、何と言うか……」

 

 

「なんっ、はああっ?!何だそりゃっ……!お前が話を通してなきゃ連絡しようがねぇだろうが!ってかそもそも、あの二人が現れたってこと知らせなきゃ不味いんじゃねえのか?!」

 

 

「うーん、だろうねー。事情知ってなきゃ混乱するだろうし……下手したらそのせいで蓮夜君に倒されちゃう可能性もあるかぁ……アスカ、悪いけど彼を探して自分で事情を説明しておいてくれる?僕はほら、すぐにまたロンドンに戻らなきゃいけないから」

 

 

「っ、ったくっ、相変わらず適当なとこあるなぁお前……!」

 

 

「まあまあ、そうカッカッしないで。上手く行ったら僕から何か奢ってあげるからさ。ホットミルクとかでいい?」

 

 

「ガキじゃねーんだよ!いらねーわ!」

 

 

クソッ!と、何処までも飄々とした態度でからかってくるクレンに毒突きながらアスカが掌を上に右手を中空に掲げると、掌の上に透明な本が出現する。

 

 

そしてパラパラッとページが勢いよく開かれると共に淡い光が放たれてアスカの身体を包み込んでいき、光が止むと、其所にはアスカの姿はなく何処かへと消え去っていった。

 

 

「行っちゃったか……。後の事は彼に任せれば問題ないとして、こっちもこっちでそろそろ仕上げに掛からないとなぁ……」

 

 

アスカの転移を見届けた後、一人残ったクレンはそう呟きながら首筋を軽く摩り、月の光が隙間から差し込む天井を見上げていく。

 

 

(……さっきのあの様子からして、やはりデュレンは僕らにもまだ話していない何かを隠してる……そいつを暴く為にも、やっぱり『彼』にも動いてもらうしかないか……)

 

 

先程デュレンが見せたあの妖しげな笑み。以前から自分が感じていたデュレンへの疑心は晴れる所か、寧ろ深まるばかりで嫌な予感を拭い去れない。

 

 

仮にもし、彼が自分達にとって良からぬ事を画作してるのであればその企みを明るみに出す為、二人にも何も告げず呼び寄せた『彼』に裏で動いてもらう必要がある。

 

 

(蓮夜君とも関わりが深い『彼』の力さえあれば、いざと言う時にはデュレンを止める為の戦力になれる……。まあ残る不安としては、蓮夜君と同じライダーである『彼』が僕らに何処まで力を貸してくれるかって事と──)

 

 

──この世界が彼という存在により、『破壊』されてしまわれぬかという懸念。

 

 

良くも悪くも予測が付かないあの男が、果たして何処まで自分の思惑の通りに動いてくれるか否か。

 

 

下手をすれば自分達にとって新たな脅威にもなり得るが、それもデュレンの企みを暴く為にも多少のリスクは仕方がないと割り切り、クレンは薄い溜め息を吐き出しながら自分が任された持ち場であるロンドンへ戻る為に歩き出していくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

「───着きましたよ。此処が私達の家です」

 

 

ファミレスで風太郎と五月に諸々の事情をある程度説明した後(シンフォギアに関しては連絡が取れないS.O.N.G.への配慮と秘匿の為、クロスのシステムを人間でも扱えるように設計した別系統の装備であるという扱いで通した)、店を出た四人は一先ず姉達が行方不明になった時の状況などについてもう少し詳しく聞きたいという蓮夜の希望の元、五つ子達が共に暮らしているという自宅に向かう事となったのだが……

 

 

「…………なあ。これ、ほんとにお前らの家か……?」

 

 

「?えぇ、そうですけど、何か?」

 

 

「……何だか、想像していたのとは大分違うな……」

 

 

案内された五つ子達の自宅前に立ち、家を見上げる蓮夜とクリスの顔は何処か肩透かしでも喰らったかのように呆気に取られていた。

 

 

何故なら父親が大病院の経営者である筈の五月達の自宅と紹介された家は、何処にでもあるような川辺の近くにポツンと建つ、寂しい二階建てのアパートだったからである。

 

 

「親が病院の経営やってるって聞いたからてっきり、こう、なんだ……もっとでけぇ家を想像してたっつーか……」

 

 

「……医者って職業は、実はそんなに儲からなかったりするのか……?もしやそれを上回る程の多額の借金を背負っているとか、何か並々ならぬ事情があってこんな寂れた生活を……?」

 

 

「そんな侘し過ぎる家庭事情なんてありませんから!どんな想像してるんですか?!」

 

 

失礼な!と、心配そうな目を向けて恐る恐るそんな疑問を投げ掛ける蓮夜の質問をバッサリと否定する五月。するとそんな三人のやり取りを横で聞いていた風太郎が呆れる様に溜め息を吐き、五月の代わりに説明していく。

 

 

「この家はコイツら五つ子が個人的な事情から借りてる仮住まいで、実家は別にある。前に色々あってな、今はこの家で姉妹五人で暮らしてんだよ」

 

 

「む、そうだったのか」

 

 

「ってか、お前はお前でやけにコイツん家の事情に詳しいな……」

 

 

「これでもコイツらの家庭教師だからな。それにまぁ、こうなっちまった元々の原因は俺にもあるし……」

 

 

「「……?」」

 

 

顔を逸らしてポツリと意味深な発言をする風太郎の口振りに蓮夜とクリスは思わず目を見合わせて怪訝な表情を浮かべるが、アパートの前で立ち往生している四人の間を何処からか肌寒い風が吹き抜けた。

 

 

「サッムッ!」

 

 

「とりあえず話の続きは中に上がってからにするか。五月、家の鍵頼む」

 

 

「はあ……というか今更ですけど、何でよりによって私達の家なんですか?集まるなら別に上杉君の家でも……」

 

 

「しょうがないだろ、ウチにはらいはがいるんだ。仮にこの二人の事を誤魔化しで説明出来たとしても、らいはの前でアイツ等が拐われた事とか話す訳にいかねえし……なら消去法で後はお前らの家しかない」

 

 

「それはそうかもしれませんが……」

 

 

風太郎の言い分も確かに一理あるのだが、こうもぶっきらぼうに言われるとそれはそれで幾分かの不服さを覚えてしまう。

 

 

ムッと口を真一文字につむぐそんな五月の横顔を見て、クリスが何かを察したようにバツが悪そうな顔で頭を掻いていく。

 

 

「あー……でもまあ確かに、年頃の女子の家に急に男共が押し掛けるってなったらそりゃ色々困る事もあるわな……何か都合が悪いなら家の中が片付くまで待つか、どっか他の場所に移るとかでもいいんだぞ?」

 

 

「え……あ、い、いえそんな、別に其処まで気を遣って頂かなくても大丈夫ですから。ありがとうございます」

 

 

「そうか?ならいいんだけどよ……」

 

 

「……何か俺の時と大分対応が違わね?」

 

 

「同性にしか分からないデリケートな問題というのもあるんだろう。その辺は理解してやれ。……ところで急かすようで申し訳ないんだが、このまま中に入るのか入らないのか早くに決めてもらえると助かる。さっきからファミレスでドリンクバーを飲み過ぎたせいか、トイレを我慢し過ぎて冷や汗が止まらなくてだな……」

 

 

「何かさっきからガタガタ妙に震えてんなぁって思ったらそんな理由かよっ?!だからあんまガブ飲みし過ぎんなってあれほど言ったろうがっ!!」

 

 

「いやせっかく奢ってもらったのだし、少しでも腹を満たして元を取らねばもったいないだろうと考えるあまり、つい……あ、拙い。最後に飲んだコーラが食道をせり上がって逆流してきた……」

 

 

「ちょっ?!こ、こんな所で吐いたりしないで下さいねっ?!」

 

 

キュルルルルルルッと下腹部の辺りから怪しい音を鳴らし、卑しい貧乏性を発揮したせいで絶賛胃の中が緊急事態な蓮夜の青白い顔を見て最早渋ってる場合ではないと急ぎ家の鍵を開け、五月は玄関の扉を開けて三人を家の中へ招き入れていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

 

「──しっかし、並行世界にシンフォギア、仮面ライダーにイレイザー、ねぇ……正直まだにわかには信じられんというか、眉唾が過ぎてどう受け止めたらいいのか分からんな……」

 

 

──それから約十分後。家に上がり込むと共に即座に厠へ駆け込んだ蓮夜がトイレから出た後、話の続きの前にお茶を用意しようと五月が台所で人数分のお茶を容れていた。

 

 

その様子を横目に、蓮夜とクリスと共に居間のテーブルを挟んで座り、漸く落ち着ける場所で今までの情報を頭の中で幾分か整理した風太郎が頬杖を付きながら溜め息混じりにそんな言を漏らす中、そんな彼の呟きにクリスも肩を竦めた。

 

 

「まぁ、すぐに信じろって言われてもそう簡単じゃないって事はあたし等だって分かってるさ。あたし自身、まだ自分が異世界にいるって実感がなくて半信半疑が抜け切れてねーし……」

 

 

「ただ、行方不明になった姉妹達を探すに当たってはどんなに信じ難くても受け入れてもらう他ない。先の夜の時みたくダスト達がまた襲って来る危険性がある以上、いざという時に危険が及ぶのはお前達自身だからな……。難しいとは思うが、受け入れてくれる努力をしてもらえるとこちらも助かる」

 

 

「いやまぁ、実際にこの目で見ちまった以上、今更常識に遠慮する気はこっちも更々ねえけどさ……」

 

 

自分達の身に危険が降り掛かっているかもしれないという予感は、あの四人が行方不明になった時点で既に感じ取っていた事だ。

 

 

それがまさかパラレルワールドだの別世界のヒーローだのと突飛な話になって現れるとは予想だにしていなかったが、これが現実で、この目で実際に見てしまった以上はどんなに突拍子が無くても飲み込む努力をする他ない。

 

 

それはきちんと理解してる旨を伝える風太郎の前に、台所からお茶を運んできた五月が湯呑みを置き、続けて蓮夜とクリスの前にも湯呑みを起きながら何処か不安げな口調で口を開く。

 

 

「あの……また昨晩のように襲ってくる危険性があるって言ってましたけど、私達って、本当にあの怪物達に狙われてるんですか?だとしたら、どうしてそんな……」

 

 

「それは……あー……なんて説明すりゃいいんだろうなぁ、これ……」

 

 

彼女達に自分達の事を説明する際、イレイザーが行う物語の改竄やその仕組みについてはまだ説明していない。

 

 

ただでさえ並行世界の事や、シンフォギアや仮面ライダーの件についてだけでも情報量が多過ぎる為、二人が困惑するのを避ける為に敢えて説明を省いた訳なのだが、はて、このややこしい話をどう噛み砕いて話すべきか……。

 

 

頭を抱えながら「うー……」と唸り、脳内で何とか話を簡潔に纏めようとクリスが難しげな顔で頭を悩ませる中、蓮夜は少し考える素振りを見せた後に顔を上げていく。

 

 

「平たく言えば、奴らは歴史を改竄しようとする怪物だ。決まってる未来を無理矢理捻じ曲げ、其処に生じる綻びを利用し、その世界を自分達の物にして手に入れる……それが奴らの目的だ」

 

 

「歴史を改竄する、って……」

 

 

「ようはなんだ、タイムパラドックス的なアレって事か?マジでSF染みてきやがったなっ……ってか、結局それでなんで俺達が狙われる羽目になるんだ?俺もコイツも、アイツらもただの学生でしかないんだぞ?」

 

 

「理由なんて、奴らからしてみればあってないような物だ。本来この世界の存在ではないイレイザーがこの世界の住人を襲えば、それは本来有り得ない矛盾となって積み重なり、やがて大きな綻びとなる……。表立って動けば世界から異物として弾き出され兼ねないから、裏でコソコソ人を襲って少しずつ綻びを大きくしようとする。だからお前達で足りなければ、奴らはすぐにでも他の多くの人間を襲い始めるだろうさ」

 

 

「そ、そんな……」

 

 

昨夜襲ってきた怪物はそんなにも恐ろしい存在なのかと、何処かおどろおどろしい口調で語る蓮夜の話を固唾を飲んで聞いていた風太郎と五月は顔を引き攣らせている。

 

 

一方で、隣でその話を聞いていたクリスは「またそれっぽい感じにぼかしやがって……」と、物語だの改竄だのややこしい話を抜きに簡潔に纏めて説明した蓮夜にジトーとした目を向けていたが、此処は話を先へ進める為に敢えて乗っておこうと溜め息を一つ吐き、風太郎と五月の顔を交互に見ていく。

 

 

「そんな訳だ。だからこそ急いで奴らを止める為にお前等からもっと詳しく話を聞きたいとこなんだが、構わないか?」

 

 

「えっと、はい……それは全然構いませんけど、でも……」

 

 

「一花達を攫ったのがそんなヤバい連中だって言うんなら、アイツ等は……一花達はまだ、無事なのか……?」

 

 

「其処は恐らく大丈夫だ。事件が公になる事は、奴らにとっても自分達の存在を明るみに出す事になるから避けたいと思ってる筈だ。だから仮にもし、攫われた彼女達の身に何かあれば、奴らは今頃自分達に繋がる事件の痕跡の一切を消す為にお前達や周囲の人間の記憶を操作し、あたかも誘拐自体が最初からなかったかのように改竄を行う筈……なのに未だにその兆候が見られたいという事はその必要性がないから。つまり、攫われた彼女達はまだ無事だと思っていいと思う」

 

 

「そ、そうなんですね」

 

 

「ってかサラッと言ってるけど、記憶を操作ってなんだよっ。滅茶苦茶にも程があるだろっ……」

 

 

そうなってくると最早なんでもアリじゃねえかと、蓮夜の口から語られるイレイザーの現実離れした危険性を聞かされれば聞かされれる程、自分達が今どれだけヤバい相手に狙われているのか実感させられて頭を抱えてしまう風太郎。

 

 

それは五月も同じなのか、自分の姉達がそれほど危険な連中に攫われているのだと知り不安を帯びた表情で俯いてしまうが、一度瞼を伏せて少し考え込む素振りを見せた後、やがて何かを決心したような力強い面持ちで頷いた。

 

 

「分かりました。一花達を攫った犯人が其処まで危険な相手なら、私達も協力を惜しみません。お話出来る事は、全てお話します」

 

 

「本当か?」

 

 

「えぇ……正直、貴方達の話の殆どを理解出来るとは言い難いですけど、でも、今は一刻も早く姉達を助け出さねばならないとだけは分かりましたから。そうですよね、上杉君?」

 

 

「……まあな……正直お前らの話を聞けば聞くほど突拍子が無さすぎて、尚更俺達だけの力じゃ無理そうだとしか思えんし……。幾ら怪しくても、お前達がいないと身を守る事すら出来なさそうだしな」

 

 

「コイツは一々余計な一言添えなきゃ喋れねえのかよっ」

 

 

「まあそう言ってやるな。一先ずこっちの話を受け入れる努力はしてくれると言ってくれてるのだし、此処から信頼も一緒に少しずつ得ていけばいいさ」

 

 

今はそれで十分だと、蓮夜は風太郎の言い回しにカチンとなるクリスを宥めつつ二人の目を見つめ、攫われた姉妹達が行方不明になった当時の状況についての説明を無言で促す。そしてその視線の意図を汲み取った風太郎と五月もお互いに顔を見合わせた後、神妙な顔付きで蓮夜達を見つめながらポツポツと当時の事を語り出した。

 

 

先ず始めに二人の口から語られたのは、最初に行方不明となった長女、中野一花の失踪の件。

 

 

彼女は女優業をこなしているらしく、行方知れずになった当日も風太郎達が通う学校近くの公園にて撮影に参加していたようだ。しかし、夜間での撮影の休憩中に突如彼女の姿が見えなくなったらしく、現場は大騒ぎ。

 

 

数時間現場のスタッフが公園周辺を大規模に捜索したものの見付かる事はなく、その話を彼女のマネージャーから聞かされたのが風太郎達が事件の事を知った最初の経緯らしい。

 

 

次にいなくなったのが、四女の中野四葉。

 

 

一花が行方不明になった後、特に血眼になって彼女を必死に探していたのは四葉だったらしく、皆が寝静まった深夜になっても凍える寒空の下で一花を捜していたようだ。

 

 

その後も一花がいなくなった夜の公園を捜してた中、昼間に会った彼女が寝不足気味で様子が変だと気付いた風太郎が駆け付け、彼女を説得して半ば強引に家に帰そうとした直後、少し目を離した隙に忽然と姿を消した模様。

 

 

そして最後は、同日に行方が掴めなくなった中野二乃と中野三玖の二人。

 

 

一花、四葉と二人が立て続けていなくなった事から、これがただの失踪事件ではないと感じ取った風太郎達は警察に四葉の失踪の件を伝えた後、念のため普段から外を出歩く際には常に誰かと一緒にいる事を心掛けていたらしい。

 

 

しかし学校が終わったその日の放課後、バイトを掛け持ちしている風太郎が三玖と共に職場先のパン屋に向かう道中、靴紐が解けたという三玖が紐を直すのを待って一瞬だけ背を向けた瞬間に彼女の姿が忽然と消え、その数分後には五月と共にバイト先のケーキ屋に入ろうとした二乃も店の前で突如失踪してたらしく、どちらもいなくなった瞬間を誰も目撃していないとの事。

 

 

「──今までのあらましとしては、大体こんな感じってところだな……」

 

 

「成る程……行方不明になった日付は二人を除きバラバラだが、一先ずの共通項として四人がいなくなったのは比較的日が降り始めてから、という所か」

 

 

「人攫いが目的なら、昼間っから堂々とやるよりそっちの方がある程度人目に付かずやりやすいってのはあるだろうし、分からなくもないな。けど、それだけ分かった所で攫われた四人の居場所まで分かるかっつーと難しいな、コレ……」

 

 

「それでも、情報を突き詰めれば何か見えてくるかもしれない。二人共、すまないがこの街の地形が分かる地図か何かないか?四人がいなくなった場所も照らし合わせて少し調べてみたいんだが……」

 

 

「え、あ、はい。携帯のアプリの地図で良ければ……」

 

 

「助かる。なら後は……」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

その後、事件の情報の整理を始めてから二時間程が経った。五月に見せてもらったスマホのマップを見ながら簡素に書き上げた地図をテーブルの上に広げ、風太郎の証言を元に四人がいなくなった場所を赤い丸で囲んで他にも事件の共通項がないか話しを進めていたが、窓の外の陽が落ち始めて暗くなりつつあるのに気付き、風太郎はスマホで時間を確認して「げっ」と思わず声を上げた。

 

 

「もうこんな時間かよ、随分と話し込んでたみたいだな……」

 

 

「そうだな、今日はこの辺りにしておいた方がいいか……しかしすまないな、急に押し掛けた上に長居までしてしまって」

 

 

「あ、いえ、それは全然大丈夫ですけど……そういえば、お二人って今日何処で寝泊まりするか宛てってあるんですか?」

 

 

「宛ては……まあねーよな……そもそもこっちに知り合いなんざいる訳ねえし、宿を取ろうにも先立つもんが……」

 

 

「俺も無一文だしな……ぶっちゃけてしまえば、イチイバルはともかく俺は現状彼女のヒモみたいな立場だからどうにもならん」

 

 

「いやぶっちゃけ過ぎだろ。こんなにも堂々とヒモ宣言するヤツ初めて見たわ」

 

 

「ってかそれ以前にもうちょっと言葉選べよっ、その言い回しだとあたしまで変な誤解受けんだろうがっ」

 

 

「気にしないでくれ。場を和ませようと思っただけのほんの軽いジョークだ」

 

 

「分かり辛れーんだよっ!冗談言うならせめてそのど真顔は止めろやぁッ!」

 

 

ただでさえ普段から表情どころか眉一つ動かさないせいで感情の機微が分かり辛いというのにややこしい事すんなと、冗談を言いそうにない真顔のままふざける蓮夜にクリスがガーッ!と吠える。

 

 

そんな二人のやり取りを前に五月も思わず苦笑いを浮かべると、僅かに思案した後、両手をピタリと合わせて二人にこう告げる。

 

 

「あの……もしも行く宛てがないようでしたら、暫くの間家に泊まっていきますか?」

 

 

「え」

 

 

「え……いや、それはこっちとしては願ってもない申し出だけど、いいのかよ?」

 

 

「はい、元々五人で住んでいた訳ですから寝具も十分に揃っていますし……それに姉達がいなくなってから一人で夜を過ごすのが不安でしたので、正直誰かがいてくれると私としても安心出来るので……」

 

 

「…………」

 

 

そう言って若干恥ずかしげに苦笑いを浮かべる五月だが、そんな彼女の言葉を誰も笑う事が出来なかった。

 

 

実際の所、自分の家族が行方不明になっている状況下で不安になるなという方が難しいだろう。

 

 

そんな彼女の心境を察してるのか、風太郎も無言のまま意味ありげな眼差しで蓮夜とクリスの目を見つめ、それに気付いた二人も顔を見合わせると、蓮夜がコクリと控えめに頷いた。

 

 

 

「まあ確かに、何度も言うようにイレイザーがまだお前達を狙ってる可能性は高いからな……。そうなってくると、護衛も兼ねて此処で寝泊まりした方が理に叶わってはいるかもしれない」

 

 

「それはそうなんだが……お前は大丈夫なのかよ?あたしはともかく、そうなると男のコイツまで同じ屋根の下でって事になるんだぞ?」

 

 

「その点は大丈夫ですよ。こっちも上杉君が一緒に泊まっていってくれますから」

 

 

「……はあぁッッ!!!?」

 

 

密かな安心感から完全に気を抜いていた所に、思わぬ方向からの奇襲。笑顔でサラッととんでもない発言をかました五月に風太郎の首がグリンッ!と勢いよく振り返るが、そんな彼の反応に五月がジトーとした目を向けていく。

 

 

「なんですかその反応?今日会ったばかりの男の人を家に泊める訳なんですから、貴方にも同伴してもらわないと困るに決まってるじゃないですか」

 

 

「いや勝手に決めてんじゃねえよっ。大体あんな化け物と戦えるこの二人が揃ってるんなら、別に俺なんかいなくても──」

 

 

「あっいや、それは困る。イレイザーが狙ってるのが彼女だけとはまだ確証がないし、仮にそうでなくても、お前は既にダスト達の姿をその目で直接見てる。イレイザーが口封じの為に接触してくる可能性もある以上、家にいては関係ない家族にも危険が及ぶかもしれないから、出来るだけ二人には同じ場所に一箇所に固まっててもらえるとこちらも護衛がしやすくて助かるんだが……」

 

 

「ぅ、ぐっ……」

 

 

自分が此処にいては邪魔にしかならないだろうと、もっともらしい理由を述べて断ろうとした風太郎の言葉を空気を読めない蓮夜の台詞が横から遮ってしまう。

 

 

自分が家に戻っては家族にも危害が及ぶかもしれない。そんな風に言われてはこのまま素知らぬ顔で家に帰るなど出来よう筈がなく、何も言葉を返せずに顔を引き攣らせる風太郎に蓮夜が膝立ちでススッと近づく。

 

 

「まあそれを抜きにしても、流石に俺も会ったばかりの女子の家に世話になるというのは気まず過ぎる訳なので、どうか一緒にいてもらえると助かるな、と……」

 

 

「そっちは完全にアンタの都合じゃねえかっ。そもそもアンタ一人ならともかく、お仲間も一緒に世話になるんなら別に其処まで後ろめたくなる必要もないだろっ」

 

 

「ああいや、俺としては寧ろそっちの方が悩ましいというか……イチイバルとは今は事件の事で普通に話せてはいるが、それ以外だとどう接したらいいのか分からないというか……」

 

 

「?それはどういう……」

 

 

チラッと、何処か気まずげに五月と話してるクリスを横目に見る蓮夜の様子に一瞬頭の上に疑問符を浮かべる風太郎。

 

 

だが、蓮夜とクリスの顔を交互に見ていく内に次第に何かを察したのか、風太郎はめんどくさそうに蓮夜の顔を見て少し悩む素振りを見せ、クリスと話す五月を一瞥すると、やがて大きく溜め息を吐きながら頭を掻いていく。

 

 

「しょうがねえな……まぁ、アンタには昨晩助けてもらった恩もあるし、これで貸しはチャラって事にしてくれよ……」

 

 

「おお。案外寛容な所もあるんだな」

 

 

「案外は余計だ。……それと言っとくが、俺が此処に残ったとしても別にアンタ達の仲を取り持つとかそういう手助けが出来る訳じゃないから、その辺はあまり期待しないでくれよ」

 

 

「……何故あわよくばと頭の片隅に思っていただけの事まで言い当てられるんだ。エスパーか?」

 

 

「そんなもんなくても、ちょっと見て考えればそうなのかもなって粗方の予想は付く。……まあ、単純に前に似たような経験があったから察しが付いたってのもあるけどな……」

 

 

「?」

 

 

何だかうんざりするように、だが何処か懐かしでいるようにも聞こえる声音でそう呟く風太郎の言葉に蓮夜が訝しげに小首を傾げるが、風太郎はそれ以上は何も語らず黙って自分の空のコップを手に取り、台所へと向かっていってしまう。

 

 

一方で残された蓮夜はそんな彼の背中を怪訝な眼差しで見送ると、五月と共に襖を開けた押し入れの前で誰がどの布団を使うかで話し合うクリスの方に振り返り、物憂げな顔を浮かべ小さく溜め息を漏らしてしまうのであった。

 

 

 

 

 


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