戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第六章/五等分のDestiny×紅弾の二重奏(デュエット)③(前)

 

―S.O.N.G.本部・発令所―

 

 

 その頃、ノイズとイレイザーの襲撃から一夜が明けたシンフォギアの世界では、今現在S.O.N.G.がイグニスイレイザーとの戦闘の最中に行方が途絶えた蓮夜とクリスの足取りを追う最中にあった。

 

 

 クリスのギアの反応は勿論、蓮夜のベルトにも組み込んでいる発信源を辿り、残された装者達を捜索に駆り出してどうにか二人の行方を探ろうと試みていたが、幾ら捜索範囲を広げても二人の足取りすら掴めず難航しているのが現状だった。

 

 

 次第に日も傾き始め、交代で捜索に出てもらっていた装者達にもこれ以上は無理をさせられないと帰還を命じ、今日は何の成果も得られぬまま探索を打ち切り解散するしかないのかと思われた矢先、何か話があるらしきエルフナインに突然呼ばれ、装者達と未来は本部の発令所に招集されていた。

 

 

「エルフナインちゃん、何かあったの?」

 

 

「もしかして、クリス先輩達の行方について何か分かったデスか?!」

 

 

 もしや、という一抹の希望と期待から朗らかな笑顔を浮かべる切歌。だが、エルフナインはその問いに無言のまま申し訳なさそうに首を横に振った。

 

 

「いえ、残念ながらお二人の足取りについては未だ何も分かっていません……。ただ、それらしき手掛かりになりそうな発見があったので、皆さんにもお伝えした方が良いかと思って」

 

 

「発見……?」

 

 

「はい。先ずはこちらをご覧下さい」

 

 

 怪訝に聞き返す調に頷くと、エルフナインは発令所の大型モニターに映像を映し出す。其処には本部の格納庫に収納されている蓮夜の愛機である蒼のマシン、クロスレイダーが映し出されていた。

 

 

「あれって……確か、蓮夜さんのバイク?」

 

 

「ええ。先日の戦闘の際、蓮夜さんが現場に急行した際に使用していたもので、現場の事後処理の際にこちらで回収し、格納庫にそのまま待機させておいたんです。ただ、皆さんに見てもらいたいのはこの後の映像で……」

 

 

 エルフナインがそう言うと、大型モニターに映し出される格納庫の映像の続きが再生され始める。

 

 

 最初の数秒は倉庫内の映像に変化はなく無音が続くばかりだったが、そのすぐ後、クロスレイダーに突如変化が起きて機体が蒼く発光し始めていき、直後、クロスレイダーの機体先頭から一筋の蒼いビームのような光が放出され、格納庫の一角に照射されると共に空間が捻れていき、光の靄のようなモノが出現したのである。

 

 

「え、ええッ?!何あれ?!」

 

 

「バ、バイクから何か出たデスよ?!」

 

 

「エルフナイン、あれって……?」

 

 

「今のは皆さんが捜索に出ていた間、格納庫内で起こった出来事をカメラに捉えた映像です。この直後に、格納庫に異常な反応を検知してボクらが駆け付けると、大きな光の回廊が格納庫の一角に形成されているのを発見したんです」

 

 

「光の回廊……回廊って事はもしかして、彼処から何処かに繋がってたりするの?」

 

 

 わざわざ回廊などという呼び方をする事から、もしやあれは何かの出入り口なのでは?と予想してそんな疑問を投げ掛ける未来に対し、エルフナインは小さく肯き返す。

 

 

「格納庫に発生したあの光を発見した後、その正体と原因を探るべくこちらでも解析を進めてみたんです。その結果、あの光の先には此処とは違う別の次元に繋がっているのが分かりました」

 

 

「別の次元って、つまり……」

 

 

「はい。恐らくは別世界……以前にもお話した、並行世界に繋がっているのではないかと予想されます」

 

 

「「「「!」」」」

 

 

 あの光の正体が、並行世界に繋がるゲートである可能性がある。エルフナインの口からそう聞かされ、響達は目を見開いて驚きを顕わにしながらモニターの映像に再び目を向けていく。

 

 

「恐らく蓮夜さんが使っていたあのマシンには、並行世界間を自由に行き来出来る次元転移を可能とするシステムが搭載されているのかもしれません。元々、違う世界の住人である蓮夜さんがどうやってボク達の世界に来る事が出来たのか疑問ではありましたが、きっとこの機能を使う事で今までもイレイザー達を追って戦い、ボク達がいるこの世界にもやって来たんだと思われます」

 

 

「次元転移……そんな機能があのバイクにあったなんて……」

 

 

「で、でも、どうして急にその次元なんちゃらが動き出したデスか?蓮夜さんもいないのに、勝手に動くなんて可笑しいデスよっ」

 

 

 持ち主である蓮夜も不在の中、何故あのマシンが独りでに起動してそんなゲートを突然生み出したのか。勝手に動き出したという事はシステムの暴走か、或いは第三者の介入によるものなのか。何れにせよ只事ではない予感を感じてしまう響達の疑問に、エルフナインは首をフルフルと横に振る。

 

 

「マシンのシステムが突然起動した原因に関しては、残念ながらまだ明確には分かっていません……。ただ、もし仮に蓮夜さん達がいなくなったこのタイミングで動き出したのが無関係でないとするなら、一つだけ、ある仮説に思い至る事が出来ます」

 

 

「仮説……?」

 

 

「はい。何故蓮夜さんのマシンが突然異世界へのゲートなんて開いたのか。それ以前に、何故蓮夜さんとクリスさんの反応を今なお探知する事が出来ないのか……その理由は恐らく、お二人がこの世界に存在しないから……先の戦闘の際、上級イレイザーによって別の世界に跳ばされてしまい、それに伴いマシンが自動追尾で蓮夜さんの居場所を探知したからではないかと予想されます」

 

 

「べ、別の世界デスかっ?!」

 

 

 並行世界。これまでにも弦十郎やエルフナイン、蓮夜の口から度々聞かされた事はあったが、まさか消えた二人の行方がその異世界にあるとは想像すらしていなかった響達も驚きを隠せない中、エルフナインは神妙な表情で話を続けていく。

 

 

「元々イレイザーには、単体でも世界の間を移動する能力を持ち合わせていると、前に蓮夜さんから伺った事があります。恐らくあのイレイザーはその力を利用し、違う世界にお二人を転移させる事で、S.O.N.G.のバックアップやイレイザーと戦えるようになった響さんから引き離すのが目的だったのかもしれません」

 

 

「じゃ、じゃあもしかして、あの回廊の先に繋がってる世界に、蓮夜さんとクリスが……?」

 

 

「はい、現状を鑑みるとその可能性はあるかと」

 

 

「だったら、今すぐにでも助けにいかないと!あの回廊を辿っていけば二人が跳ばされた先の世界にいけるんだよね?!」

 

 

 二人がいなくなってから既に一日が経とうとしている。別世界にいきなり跳ばされてしまったのなら向こうに宛てなどある筈がなし、何よりも先のイグニスイレイザーとの交戦で二人が負傷したらしき報せも受けてる。

 

 

 二人の安否の確認の為にも、居場所が掴めたのなら一刻も早くあの回廊を利用して二人の救出に向かうべきだと提案する響だが……

 

 

「いや、あの回廊の使用を今すぐ許可する事は出来ん」

 

 

「え?」

 

 

 不意に背後から声が響き、一同は思わず振り返る。其処には今まで姿が見られなかった弦十郎が発令所の入り口を抜けて歩いてくる姿があり、弦十郎はそのまま響達の間を抜けてエルフナインの隣に並ぶように足を止めた。

 

 

「師匠……!許可出来ないってどうしてですか!居場所が分かったのなら、早く蓮夜さんとクリスちゃんを……!」

 

 

「焦る気持ちは分かる。だが、あの回廊に関しては未だ謎の部分が多い。君達がギアを纏った状態でも、無事にあの中を抜け切る事が可能なのか……それすら分からない現状、せめて最低限の安全が保証されるまでは、こちらも安易にあの回廊を使用する許可を出す事は出来ん」

 

 

「それは何となく分かるけど……」

 

 

「それに、仮にもし向こうの世界に無事に渡れたとしても、その後こちらの世界に帰って来られるのかも不明なままです。何の準備も知識もないまま皆さんを行かせて、万が一にも二次遭難にでもなればボク達にもどうする事も出来くなってしまう……そういった最悪の事態を避ける為にも、今現在、格納庫にて回廊や蓮夜さんのマシンの解析を調査班にお願いしている所なんです」

 

 

「システムが稼働した為か、蓮夜君のマシンにも次元転移に関するデータが解放され、閲覧出来るようになっているらしい。そのデータの解析を進めれば、あの回廊を自由に解放出来る術や、君達のギアで回廊を渡れるように出来る方法も見付けられるかもしれん。それが分かるまでの間、どうか君達には辛抱して欲しい」

 

 

 二人を助ける為に事を急いた結果、二次被害に遭って失敗したとあってはそれこそ目も当てられなくなる。

 

 

 絶対に失敗が出来ない、尚且つ危険も伴う作戦であるからこそ、万全の状態を心掛けて救出に挑む必要がある。

 

 

 だから今は冷静に事を待てと、落ち着き払った口調で逸る気持ちで前のめりになる響達を宥める弦十郎に対し、響達も弦十郎の言葉が間違いでない事を理解しているのか僅かに逡巡した後に渋々ながらも納得して頷き返す。

 

 

 そしてその後、回廊とクロスレイダーの調査結果は追って報告するとして今日の所は解散となり、響は未来達と共にその場を後にする間際、大型モニターに映る回廊の映像をもう一度見上げていく。

 

 

(蓮夜さん、クリスちゃん……今すぐ助けにいけなくてごめん……でも絶対に迎えに行くから、それまでどうか無事でいて……)

 

 

 違う世界に跳ばされた二人は果たして無事なのか。考えれば考えるほど胸の内の不安と心配が膨らんでいくが、今は弦十郎の言う通り、冷静さを欠く事なく解析班の調査が上手く進んでくれるのを待つしかない。

 

 

 自分にそう言い聞かせるように納得させ、響は二人の無事を内心祈りながら未来達の後を追い発令所を後にしていくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「──んで、あたし等の今の状況はどういう事なんだよ、これ……」

 

 

───蓮夜とクリスが五月達の家に泊まった翌日。

 

 

 昨晩は女性陣が寝室、男性陣がリビングに別れて就寝してどうにか身体を休める事が出来、早速この世界で暗躍するイレイザーの行方を追う為に行動を開始しようとしたのだが、今日は平日で学生である風太郎と五月は学校に登校しなければならないとのこと。

 

 

 流石にイレイザーに狙われている可能性の高い二人を放って動く訳にはいかず、彼等の護衛の為に同行し、二人が学校を終えるまで近くで見張りをする事になったのだが……

 

 

「せっかく此処まで付いて来たんだ。手持ち無沙汰でただ見張りで時間を潰すより、少しでも怪しいと思った所を調べて回った方がよっぽど有効だろう?」

 

 

「だからって、勝手に学校に忍び込むってどうなんだよ。しかもわざわざこんな格好までさせられてっ」

 

 

 そう言ってクリスは今の自分の格好……五月から借りた彼女達の通う学校の女子生徒用の制服を着ている己の姿を指してうんざりするようにボヤき、目の前で体育倉庫内を窓の外から覗く制服姿の青年……こちらも登校前に風太郎に頼み、彼の家に取りにいってもらって貸りた男子用の制服に袖を通した蓮夜をジト目で睨む。

 

 

 現在、蓮夜とクリスは二人の護衛も兼ねて彼等が通う学校内に潜入している所だ。

 

 

 何でも蓮夜曰く「学校に気になる事がある」らしく、どうしても一度調べておきたいとの事で風太郎と五月に無理を言って頼み、彼らから制服を借りて一般生徒に扮し、授業中で誰もいないこの隙に校内を調べ回っているのである(因みに制服を借りる際に学校潜入の件を風太郎達に告げたら渋い顔をされたが、攫われた姉妹の手掛かりを掴む為と言って何とか納得してもらった。

 

 

「この格好をしておいた方が、万が一にも学校関係者に見付かった時に言い訳も出来て都合がいいからな。そっちも制服姿が様になっていて似合うし、これなら怪しまれる事もないだろう」

 

 

「そういう問題でもねえし、別にこんなの似合ってようがなかろうがどうだっていいんだよそんなのっ。……まあ、アイツから借りた制服のサイズが思いの他ピッタリだったのは確かに驚きはしたけど……」

 

 

「サイズ……?」

 

 

 ポツリとそんな呟きを漏らしながら、自分の胸元を指先で摘むクリス。蓮夜もそんな彼女の視線を思わず追うと、白いシャツなのも相まって形がくっきりと分かり、ユサッと僅かに上下に揺れる豊満な胸を視界に捉えて……

 

 

「……?何だよ、いきなり顔逸らしたりなんかして?」

 

 

「……いや、すまない。自分の不用意さを少し恥じてるだけだ。気にしないでくれ」

 

 

「はあ?」

 

 

 突然無駄に勢いよく自分から顔を背ける蓮夜の言葉の意図が分からず、クリスは可笑しな物を見るような目を向けて怪訝な顔を浮かべてしまう。一方で蓮夜は邪念を払うべくわざとらしく咳払いをして一度気を取り直し、いつもの無表情に戻ってクリスに向き直っていく。

 

 

「それより、今は他に校内に怪しい場所がないか調べるのが先だ。他の生徒や教師達が授業で拘束されている今、周りの目を気にせずに調査するには今しかない」

 

 

「んなの何度も言われたくても分かってる。けど、ホントにお前の予想当たってんのか?学校なんかにイレイザーの手掛かりがあるかもしれないなんて……」

 

 

 頭を掻きながら蓮夜が先程まで覗いていた体育倉庫を一瞥し、クリスは半信半疑な眼差しで蓮夜の顔をジーッと睨み付ける。

 

 

 そもそも何故、蓮夜がこの学校を怪しいと踏んでこうして潜入しようと思ったのか。

 

 

 その訳は昨晩にも行った中野姉妹の誘拐事件の情報を整理していた際、蓮夜が街の地図を見ていてある事に気付いたのがきっかけだった。

 

 

「消えた四人がいなくなった時の場所、それらがどれも上杉達が通うこの学校から一定の距離で近い場所だった……。これが偶然なのか、それとも俺のただの深読みに過ぎないのか、一度調べてはっきりさせておいた方がいいと思ってな。俺ならイレイザーの気配の残り香を辿れるし、もし仮に攫われた四人が此処に囚われているのだとすれば、他の人間の目に付かないように改竄の力を使って何処かに隠してるものと思ったんだが……」

 

 

「けど、外回りはここ以外殆ど探し回っただろ?他に探せる場所と言ったら後は校舎の中ぐらいしかねえし、真っ昼間の学校の中に忍び込むってのも……」

 

 

「流石に授業中で見付かったら誤魔化しようもないしな。休み時間にでもなれば、他の生徒に紛れて中を調べる事も……いや、それでも目立つ可能性はあるか……」

 

 

「……何であたしを見ながら言うんだよ」

 

 

 自分だけならまだ目立たずに済むかもしれないが、髪色が目立つクリスが校内を歩き回れば忽ち生徒達の注目を集めて、潜入どころではなくなるかもしれない。不服げに見つめてくるクリスの顔を眺めながらその可能性を考慮し、蓮夜は首を横に振って「なんでもない」と返しながら校舎を見上げていく。

 

 

「取り敢えず、午前中の探索は此処までにしておいた方がいいか。もうすぐ授業も終わる頃だし、校舎内の探索は放課後にでも上杉達に頼んで中に──」

 

 

「──おい、お前ら其処で何やってる?」

 

 

「「?!」」

 

 

 そろそろこの辺りで学校探索を中断して戻ろうかと思った矢先、背後から不意に声を掛けられて慌てて振り返る。其処には校舎の方から黒スーツを着た教職員と思われる男性が歩いて来る姿があり、それを見た二人は咄嗟に背を向けた。

 

 

(この学校の教師か。まずいな、まさかこのタイミングで見付かるとは……)

 

 

(お、おいどうすんだよっ!こんな状況じゃ誤魔化し切るのは無理だろ流石にっ?!)

 

 

(大丈夫だ、任せろ。こんな事態になった時の事もきちんと考えてある。一先ず俺の言う通りに一芝居売ってくれ。まず──)

 

 

「お前達、こんな所で一体何をやってるんだ?今は授業中の筈だぞ?」

 

 

 予想外のアクシデントに慌てふためくクリスに蓮夜が小声で口裏を合わせる中、そんな二人に教師が腰に両手を添えて不審げな眼差しを送りながら疑問を投げ掛ける。すると、クリスは徐に教師の方に顔を向け、

 

 

「い、いや……別にサボってたとかそういう訳じゃないんだ。ただその、コイツが授業中に急に体調崩して、保健室に連れていこうと思ったら途中で吐き気がするって言い出してさ……」

 

 

「吐き気……?」

 

 

「そ、そう!流石に廊下のど真ん中でぶちまけるのは気が引けるってんで、外まで連れ出したんだよ!ほ、ほら、大丈夫かよお前……!」

 

 

「うぷ……ム、ムリだァああっ……持病の癪がァああっ……俺はもうダメなのかもしれな―ドスッ!―ぬごふっ!」

 

 

(演技が迫真過ぎんだろッ!!もうちょい抑えろッ!!)

 

 

(すまん……少し気合いが入り過ぎた……)

 

 

 結構オーバーめに苦しそうな演技をかます蓮夜の腹に教師に見えぬよう、隠れて素早く手刀を打ち込みながら甲斐甲斐しく背中を摩る演技を続けていくクリス。

 

 

 そんな二人の密かなやり取りを前に教師も若干半信半疑な眼差しを向けていたが、やがてやれやれと溜め息を吐き出して首を横に振った。

 

 

「風邪なのかどうか知らないが、体調が悪いならこんな所にいないで早く保健室に連れていけ。今の時期は受験生もラストスパートに掛けてピリピリしている頃だし、誤って彼らに移したりでもすれば一生恨まれ兼ねない。どうしても駄目だと思ったら早退届を出すように、いいな?」

 

 

「あ、ああ。ほら、いくぞっ」

 

 

 どうやら上手くやり過ごせたらしく、呆れた様子の教師に促されてクリスは蓮夜を連れその場を後にしようと歩き出していく。

 

 

 が、クリスに連れられて教師とすれ違った際、蓮夜は何故か急に足を止めてしまった。

 

 

「?おい、どうしたんだよ?」

 

 

「…………。いや、何でもない」

 

 

「っ?」

 

 

 突然立ち止まったかと思えば、何事もなかったように再び歩き出す蓮夜。そんな蓮夜に対してクリスも訝しげに眉を顰める中、二人と別れて校舎に戻ろうとした教師もふと足を止めて振り返り、遠ざかる二人の背をジッと見つめて目を細める。

 

 

(そういえば……あんな生徒、前からうちにいたか……?)

 

 

 男子の方はともかく、あんな目立つ髪色の女子がこの学校にいただろうか。蓮夜に連れ添うクリスを見て教師は暫し考える素振りを見せるも、結局はどうでもよくなったのか「まあいいか……」とすぐに思考を切り、校舎へと再び足を進めていくのであった。

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

 

 放課後になった夕暮れの校舎。校庭のグラウンドから運動部の部員達の威勢の良い掛け声が聞こえてくる中、校内では友達と共に帰る生徒、下校する前に勉強の為に図書館へ寄る生徒、遅れて部室に向かう生徒の姿などが多く見られる。

 

 

 そんな生徒達の雑多な声を耳にしながら、女子トイレから両手をハンカチで拭いながら出てくる女子生徒……五月が何処か疲れた様子で溜め息を吐く姿があった。

 

 

(全くっ、ホントにあの人にはデリカシーという物が欠けてるんですからっ……)

 

 

 心内でそうボヤきながら脳裏に思い返すのは、約数分前に自分の教室で交わした風太郎とのやり取りの記憶。

 

 

 本日の授業も無事に終わったものの、姉達を誘拐したイレイザーと呼ばれる怪人が自分や風太郎を狙っているかもしれない可能性を蓮夜の口から聞かされており、遅くまで校内に残る事は避けるように言われている。

 

 

 なので学校に残っての勉強も暫くは避け、下校時も出来るだけ風太郎とは離れず互いに目を離さないようにして欲しいと頼まれた訳なのだが、下校する前に先にお手洗いを済ませようと教室を出る際、余計な詮索せず察してくれたらいいのに風太郎から「何処へ行くのか」、「用事があるなら付いていく」としつこく言って聞かなかったのだ。

 

 

(結局それで口喧嘩になって時間を無駄にしてしまうし、恥ずかしいのを堪えて正直に言えば「それならそうと早く言えばいいだろ?」だとか、何で私の方が悪いみたいな感じになるんですか、全くっ……!)

 

 

 今思い出してもカチンとくると、教室で見せた風太郎の心底呆れた顔を思い返し、鎮まり掛けてた怒りがフツフツと湧き上がってしまう。

 

 

……まあ、あれでも一応彼も彼なりに自分の事を気に掛けての事というのも分かってはいるし、こんな非常事態なのだから一人にはすまいと気を遣ってくれてるのだろうとは分かってはいるのだが、如何せん彼と話してるとどうしても無駄に意地を張ってしまうと言うか……。

 

 

(はあ……まあ、こんな一大事に些細な事で喧嘩してる場合ではありませんし、きっと雪音さん達も私達の護衛の為に外で待っているだろうから、これ以上遅くならない内に早く教室に戻らないと……)

 

 

 何時までも野暮用に時間を掛けて、あの二人をこんな寒空の下で待たせるのも忍びない。暗くならない内に教室で待っているであろう風太郎と早く合流しようと、制服のポケットにハンカチを締まって教室に戻ろうとした、その時……

 

 

「──ああ、やっと見付けた。中野、少しいいか?」

 

 

「?」

 

 

 教室に戻ろうと足を踏み出した矢先、不意に階段の踊り場の方から誰かに呼び止められた。思わず振り向くと、其処には教材を片手に階段を上がって五月の下に近付いてくる一人の教師……昼間に蓮夜とクリスを見付けた男性教師の姿があり、五月は僅かに目を見開いて驚く。

 

 

「神楽木先生?」

 

 

「まだ帰ってなくて良かったよ。実はお前に大事な話があって、ずっと探していたんだ。今、少し時間いいか?」

 

 

「え、あ……えーっと……」

 

 

 神楽木と呼ばれた教師から突然そんな誘いを受け、 五月は少々困った様子で頬を掻く。

 

 

 今は風太郎を教室に待たせている所だし、何より蓮夜とクリスも護衛の為に外で自分達が出てくるのを待っている筈だ。流石に自分の私用の為に、これ以上彼等を待たせるのは忍びない。

 

 

「その……すみません先生。実は私、今日はちょっと人を待たせているんです。なので大変心苦しいのですが、今日は都合が……」

 

 

「そうなのか?弱ったな……お前の進路についてちょっと話しておきたい事があって、急いで知らせなきゃと思って慌てて飛んできたんだが……」

 

 

「……へ?進路って、それはどういう……?」

 

 

 神楽木の誘いを申し訳なさげに断ろうとするも、神楽木が残念そうに口にした不穏を帯びた言葉を聞いて戸惑い気味に聞き返してしまい、神楽木はそんな五月に何処か言い難そうに答える。

 

 

「実は、お前が希望していた進学先の大学の件でちょっと問題が起きてな。どうしても本人であるお前に知らせなければならない事があるんだ。それでも駄目か?」

 

 

「………………」

 

 

 五月の目を見据え、深刻げにそう語る神楽木の言葉がずっしりと胸に重く伸し掛かる。

 

 

 まさか、大学試験に関して何かただならぬ一大事が起きたのか?もしくは自分が何かヘマをした……?

 

 

 全く心当たりが浮かばない。一体どういう事なのだろうと、胸に襲う不安感から早鐘を打つ心臓を抑えつつ、五月は何処か怯えた様子で思わず風太郎が待つ教室に続く廊下を見た。

 

 

(う、上杉君にも一言連絡を……いえ、まだ何も分かっていない段階で彼にまで余計な不安を与える訳には……)

 

 

 ただでさえ今は気の抜けない状況が続いているというのに、其処に来て自分の進路で問題が起こったなどと聞けば家庭教師である彼にもいらぬ心配と負担を掛けてしまう。

 

 

 風太郎に知らせる前にまずは自分だけで話を聞くべきか。神楽木がいれば一人にはならないし、風太郎の方も教室を出る際には確か生徒が何人かまだ残っていた筈だから、話を聞くだけならそれ程時間も掛からないハズ。

 

 

 僅かに逡巡する素振りを見せて考えた末、五月は神楽木の顔を見上げながら小さく頷き返した。

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

 

 進路先の大学について重大な話があると言われ、五月が神楽木に連れて来られたのは何故か実習練の校舎だった

 

 

 文化部の部室などもある為、校舎内にはチラホラ生徒達の姿も見られるが、神楽木の後を付いていくと段々と人気が少なくなっていき、周囲を見回して違和感を覚えた五月は頭の上に疑問符を浮かべ、口を開いた。

 

 

「あの、先生?一体何処まで行くのですか?というか、何故職員室や生徒指導室でもなく、わざわざ実習棟に……?」

 

 

「ああ、すまん。そっちの方は両方とも他の生徒と先生が先に使っててな。他に空いている教室がこの先の空き部屋しか見付からなかったんだ」

 

 

「はあ……」

 

 

 首を傾げながら一応納得してみせて曖昧な返事を返す五月だが、正直そんな事があるのだろうか?と疑問を抱かずにはいられない。

 

 

 しかしそんな五月の心境など他所に神楽木はどんどん先へ進んでいき、奥の使われていない空き教室の扉を開けて、五月を中へ促す。

 

 

「さ、此処だ。中へどうぞ」

 

 

「あ、は、はい。失礼します……」

 

 

 とは言え、流石に先生相手にその疑問を直接口にするのも憚られる。向こうにもきっとやむを得ない事情があったのだろうと、五月は神楽木に一礼しながら自分をそう納得させて教室の中に足を踏み入れた。

 

 

……のだが、五月が入室した教室の中には面談の為の机どころか、椅子一つすら何処にも置いていなかったのである。

 

 

「あ、れ……?先生、教室の中に机も椅子も……」

 

 

 見当たらない、と言い掛けて神楽木の方に振り返る。が、振り向いた先につい先程まで扉の前にいた筈の神楽木の姿は何処にもなく、忽然と姿を消してしまっていた。

 

 

「え……?せ、先生?何処に──?」

 

 

 さっきまで一緒だった筈の神楽木が突然いなくなり、五月は動揺を露わに教室から顔を出して廊下を見回すが、教室の外を見ても神楽木の姿は何処にも見当たらない。

 

 

 廊下を見渡しながら訝しげに眉を顰め、一先ず彼を探そうと戸惑い気味に教室の外へと踏み出そうとし、

 

 

 

 

 

───教室の中からゆっくりと伸ばされた異形の腕が背後から五月の肩を掴もうと忍び寄り、それを阻むように、何処からともなく現れた蓮夜が横から異形の腕を掴み取ったのである。

 

 

「……意外と早く化けの皮を剥がしてくれたな。手っ取り早くて助かる」

 

 

「なっ……?!」

 

 

「……へ……?く、黒月さん?!」

 

 

 何の前触れもなく突然現れた蓮夜の登場に、教室内に驚きと戸惑いの声が響く。

 

 

 一つは五月の声、もう一つは蓮夜に掴まれる異形の腕の主……右腕がまるでサメの体表のように変質させた神楽木のモノであり、蓮夜に腕を振り払われる神楽木の右腕を見て五月は目を剥き驚愕してしまう。

 

 

「か、神楽木先生、その腕……?!」

 

 

「チィッ……!」

 

 

 五月に異形の腕を見られ、腕を隠しながら忌々しげに顔を歪める神楽木。すると其処へ、クリスと風太郎が一足遅れて駆け付け、教室の中に駆け込んできた。

 

 

「五月!無事か!」

 

 

「ッ!う、上杉君、雪音さん……?皆さんどうして……」

 

 

「お前が全然戻って来ないって、コイツが連絡寄越してきて慌てて飛んできたんだよっ。ってか、一人で勝手に動くなってあれほど言ったろ!」

 

 

「あ、す、すみません……でも、どうして先生が……」

 

 

「簡単な話だ。コイツはお前を狙って此処まで連れてきた……ようするに、消えた四人を攫ったイレイザーの正体はコイツという訳だ」

 

 

「なっ……」

 

 

「先生が……一花達を攫った犯人……?!」

 

 

 目の前の教師が、四人の姉妹を攫った誘拐犯であるイレイザーだった。淡々とした声音で蓮夜が告げた衝撃的な事実に風太郎と五月も驚きを隠せない中、蓮夜は鋭く細めた眼差しで神楽木を見据え言葉を続けていく。

 

 

「気になっていた疑問はもう一つあったんだ。そもそも、今回の犯人であるイレイザーがどうやって此処までスムーズに四人を攫う事が出来たのか……。どんなに規格外の力を持ってるにせよ、改竄の力も無しにたった数日で四人も誘拐出来るだなんて手際が良過ぎる。何らかの方法で彼女達の動向を探り当てていたのではないかと思っていたが……成る程、教師とは納得だ。多方、陰で彼女達の話を盗み聞きでもしていたか、相談とでも称して話を聞くなりしてその日の動向を探っていたんだろう。教師という立場を利用すれば、生徒であるコイツ等も信頼して疑いを持つ筈がないのだしな」

 

 

「ッ……!な、何なんだお前……どうして其処まで……?!」

 

 

 いきなり現れたかと思えば、自分の正体や犯行の方法まで見抜いた蓮夜に戸惑いを抑え切れない神楽木だが、其処で五月と風太郎を守るように佇むクリスの顔を見てハッと息を呑んだ。

 

 

「お前たち、確か昼間の……?学校の生徒じゃなかったのか?!何故俺の正体を知ってる?!」

 

 

「それに関してはたまたまだ。昼間に別れる間際、お前とすれ違う際にイレイザーの気配を感じ取った。人間態の姿じゃイレイザーの気配も薄れて判別が難しくなるが、彼処まで距離が近ければ俺でも分かる……まさか手掛かりを探すどころか犯人本人を見付けられるだなんて、制服を借りてまで潜入した甲斐があったよ」

 

 

「イレイザーの気配を……読めるだってっ……?」

 

 

 どういう事だ、と困惑を露わにする神楽木。しかし蓮夜はそれ以上は答えず、神楽木と対峙しながら右手を差し出していく。

 

 

「コイツらにも正体が知られてしまったんだ。観念して、攫った四人を解放しろ……今ならまだ、後戻りだって出来る筈だ」

 

 

「っ……ふ、ふざけるなっ!急に出てきて偉そうにっ、バレてしまったなら改竄の力でそいつらの記憶を消してしまえばいいだけのこと!俺の邪魔をするなぁああああっ!!」

 

 

 誘拐した中野姉妹を解放し、これ以上の犯行を止めるように呼び掛け説得しようとする蓮夜だが、神楽木は聞く耳を持たず激昴の雄叫びを荒らげながらその身を徐々に変質させていき、全身に背鰭が生え、両肩や胸に巨大なサメの顔が施された禍々しき姿の赤眼の怪人……シャークイレイザーへとその身を変貌させていった。

 

 

「せ、先生?!」

 

 

「マジかよっ……!」

 

 

 人間がイレイザーへと変わる瞬間を直接目の当たりにし、風太郎と五月も我が目を疑ってしまうほど驚愕してしまう中、蓮夜も説得が通じず一瞬何処か悲しげに瞼を伏せるも、すぐに決意を決めた表情に切り替わりながら腰にクロスベルトを巻き付け、左手でカードを取り出していく。

 

 

「そっちがその気なら仕方がない。こちらも力付くで行かせてもらうぞ……変身!」

 

 

『Code x…clear!』

 

 

 バックル上部へと露出したスロットにカードを装填し、掌でスロットを押し戻すと共に電子音声が鳴り響く。直後、蓮夜の姿が蒼と黒のアンダースーツを纏い、周囲に現れた蒼色のアーマーが立て続けに蓮夜に覆われ、最後に灰色の複眼に光が灯って赤く輝かせるクロスへと変身していったのであった。

 

 

『ッ?!な、何だその姿……変身したっ……?!』

 

 

 クロスに変身した蓮夜の姿を見て大きく動揺するシャークイレイザーだが、クロスは構わず無言のまま悠然とした足取りで近付いてくる。

 

 

 それを見てシャークイレイザーも戸惑いを引きずりながらも咄嗟に尾鰭を模した刃が生えた両腕を振るってクロスに襲い掛かるが、クロスは最小限の動きで刃を回避しながら左手だけで相手の腕を捌き、そのままシャークイレイザーの背後に回り込みながらその背中に思いっきり後ろ蹴りを叩き込んで吹っ飛ばしていった。

 

 

『ぐうぅッ?!ぐっ……クッソォッ……グウッ!』

 

 

 予想外の展開の連続に見舞われたせいで未だ動揺を引きずっているせいか、冷静さを欠いて思うように戦えない。

 

 

 ならば此処は一度態勢を立て直すべきかと、シャークイレイザーはクロスに背を向けると共に教室の窓に飛び込んでガラスを突き破り、そのまま学校の外へと逃げ出してしまう。

 

 

『ッ、逃がすか……!俺は奴を追う!二人は任せたぞ!』

 

 

「はあ?!お、おいっ、待てってっ!」

 

 

 呼び止めるクリスの制止も聞かず、クロスはシャークイレイザーが突き破った窓から躊躇なく飛び降りてしまう。

 

 

 それを見て慌てて窓に駆け寄ると、シャークイレイザーを追って既に学校から飛び出すクロスの姿を捉え、クリスは「クソッ……!」と窓の縁を拳で殴りながらすぐさまクロスを追って教室を飛び出していった。

 

 

 

 

 

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