戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
メモリア02/亜空間の死闘×竜の仮面ライダー
───次元の境界線。
其処は異なる世界と世界の間を繋ぐ不確かな亜空間とも呼ばれ、ただの人間ではその身を晒すだけでも危険とされる認知外の異次元だ。
その異質さを証明するかのように、辺り一面の空間はまるで飴細工のようにグチャグチャに捻れて虹色の輝きを放ち、次元の向こうには数多の異なる世界の何処かの景色、何処かの一場面が歪ながら垣間見る事が出来る。
そんな異空間の中を、一両の奇抜な外見をした新幹線が駆け抜けていく姿があった。
二両編成の新幹線とティラノザウルスをモチーフに、新幹線の先頭がティラノの頭部を模した形状になっている謎のマシン。
亜空間の中を何事もなく走り続けられるだけでも相当だが、進行先に光輝く線路を独りでに形成しながらその上を走り抜けるという点においても、そのマシンに使われている技術力の高さが桁を外れてるのは一目瞭然だ。しかし……
―バチバチバチッ、バチィッ……ドゴォオオオオオオオンッッ!!―
「ぐうっ!クッソッ、制御が効かねぇ!あの野郎、最初の一撃で駆動系を真っ先に潰しやがったかっ……!」
──その謎の新幹線の車内では、緊急事態を知らせる警報機がけたたましく鳴り響き、車体のあちこちから小規模の爆発が絶え間なく発生して今にも機体そのものが木っ端微塵に吹き飛び兼ねない危機的状況に陥っている。
そんな中、謎の新幹線のコックピットでは一人の黒髪の青年が必死の形相であちこちの機材を操作し、何とかマシンを持たせようと奮闘する姿があった。
しかし、どれだけ応急の操作を繰り返してもモニター画面に映し出される『Warning』の警告表示は一向に消えず、無数の火花を散らしながら爆発まで起こす機材を前に青年も腕で顔を庇い、額から汗を流しながら険しい表情を浮かべる事しか出来ない中、青年の背後の運転席の扉が突然切り刻まれて微塵になり、直後に扉の奥から巨大な黒い斬撃波が飛び出し青年へと襲い掛かった。
「ッ?!やべぇっ?!」
背筋を走った悪寒に釣られるように振り返った青年の目前に黒い斬撃波が迫り、咄嗟に真横に身を引いてギリギリで斬撃波を回避する。
だが、躱された斬撃波はそのままマシンの操縦桿に直撃して爆発を起こしてしまい、青年はそのまま爆風に巻き込まれ、コックピットの入り口から車内へと吹っ飛ばされてしまった。
「グウゥッ!っ……コ、コックピットが……!」
「───こんな状況で余所見をしてる余裕があるのか」
「ッ?!―バキィイイイイッ!!―ぐっ、ぁあああッ?!」
爆発するコックピットを見て焦る青年の真横から、冷淡な声音と共に鋭い蹴りが不意に放たれる。青年は反射的に両腕をクロスさせて何とか蹴りをガードするが、そのあまりの威力を受け止め切れず再び吹っ飛ばされて奥の車両の扉に叩き付けられてしまう。
苦痛で顔を歪めながらどうにか顔を上げると、目の前には黒煙が溢れ出るコックピットへ続く入り口を背に振り上げた足を徐に下ろす、オールバックの黒髪にインテリアの眼鏡を掛けたスーツ姿の男……デュレンの姿があった。
「っ……!オマエ、はっ……確か、デュレン……!」
「ほう。俺の名を覚えていてもらえてたとは光栄な事だ……が、此方としては余計な鼠の侵入を前にうんざりしていてな。生憎貴様を歓迎するつもりは微塵もないのだよ」
僅かにズレた眼鏡を中指で直し、溜め息混じりにそう語るデュレン。一方で青年はそんなデュレンを睨み付けながら壁に手を付いて徐に身を起こし、
「やっぱり、なっ……お前が出張ってきたって事は、この世界に目星を着けたのは当たりだった訳かっ……」
「……一体何の話だ?」
「惚けんじゃねえよ!アイツは、蓮夜はお前を追って色んな世界を跳び回ってた!なのに急に連絡が取れなくなって行方不明になったのも、お前の居場所を突き止めたアイツに何かしたからじゃねえのか?!アイツを何処へやった!」
そう言ってデュレンを指差し、蓮夜の居場所を問い質そうとする青年。だが、デュレンはそれに対し表情一つ変える事なく僅かに目を細めた。
「黒月蓮夜の居場所、か……それを知った所で何になる?どの道そんな物を知った所でお前にはどうする事も出来ん……貴様は此処で、この列車と共に藻屑になるのだからな」
そう告げるデュレンの全身から、身の毛がよだつ程の凄まじい殺気が膨れ上がる。それを直に肌で感じ取った青年は思わず後退りしそうになるも、歯を食いしばってどうにか踏み留まりながら何処からか取り出したドライバーを腰に巻き付け、携帯型のツールを取り出す。
「そうは行くかよ、何がなんでもアイツの居場所を吐いてもらうぜ……!変身ッ!」
『HENSHIN!TYRANNO!』
001と番号を入力した携帯をベルトのバックルに装填し、響き渡る電子音声と共に青年の姿が徐々に異形の戦士へと変わっていく。
仮面ライダーオーズ・プトティラコンボのヘッドをティラノザウルスをモチーフにしたような外見の赤い鎧の戦士……『仮面ライダーティラノ』に変身を完了させると共に、青年は勢いよく地を蹴り上げデュレンへと殴り掛かった。
しかし、デュレンは正面から迫る拳を僅かに顔を逸らして回避し、更に立て続けに繰り出される打撃、足払いを僅かな動きだけで躱しつつティラノの背後に踊るように回り込み、振り向いて拳を振り翳そうとしたティラノの腹に黒色のエネルギーを纏った右腕で掌底を打ち込み、派手に吹っ飛ばしてしまう。
『グゥアァッ?!ぅっ、っ……チ、クショウッ……!』
「無駄だ……。貴様一人の力で、俺に勝てる筈がないだろう」
『ッ……んなの、やってみなきゃ分かんねぇだろォッ!』
完全に自分を格下として見ているデュレンに啖呵を切り、ティラノはベルトの左腰に備え付けられたティラノの頭部を模したスイッチを操作し、その手にティラノザウルスの尻尾を形取った大剣を手にしていく。
そしてすかさず左腰のティラノ型のスイッチに懐から取り出したメダルを装填し、深く腰を落としながら大剣の切っ先をデュレンに向けて突きの構えを取った。
『charge on!start up!』
『こいつでぇッ……どォオオだァァああああああああッッ!!』
電子音声が響いた直後、ティラノは勢いよく大剣を構えた右手をデュレンに向けて突き出す。その瞬間、竜の咆哮と共にティラノザウルスの頭を模した赤いエネルギー弾が剣の切っ先から放たれ、その巨大な口を開いてデュレンの四肢を噛みちぎらんとばかりに迫る。
───が、竜の牙がデュレンに食らいつく寸前、デュレンの身体から不意に黒いモヤのような物が噴き出してティラノザウルス型のエネルギー弾を包み込み、なんとそのままエネルギー弾を飲み込んでしまったのであった。
『ッ?!俺の技が……喰われた……?!』
「──中々の味だ……では、こちらも相応の返礼をさせてもらおう……」
エネルギー弾を飲み込んだ謎の黒いモヤを見てティラノが驚愕する中、デュレンはその身を黒いモヤで包み込んで姿を隠していく。
直後、デュレンを包んだ黒いモヤの向こうから突如巨大なエネルギー弾が放たれ、ソレは黒いティラノザウルスの頭を模した形状に変化しながらティラノへと襲い掛かった。
『なッ?!ぐっ──ヅァアアアアアアアアアアッ?!』
自分と同じ技を返されて動揺し、思わず固まってしまったティラノへとエネルギー弾が炸裂する。
反射的に大剣を前に突き出しガードした事で直撃こそ免れたものの、それでもダメージは殺し切れず爆発と共に吹っ飛ばされて床に思いきり叩き付けられてしまい、苦痛で顔を歪めるティラノに黒いモヤで姿を隠したままのデュレンが音もなく近付いてティラノの頭を右手で掴み取る。
すると次の瞬間、ティラノの頭から金色の光が放出されてその右手へと流れ込んでいき、徐々にティラノの全身から力が抜け始めていく。
『なんっ……?!ぁっ、っ……や、めろぉおおおおっ!!』
まるで全身の細胞が吸い取られていくような気持ちの悪い感覚から逃れるように、ティラノは無我夢中でデュレンに向けて大剣を突き出した。
それに対しデュレンも咄嗟に身を逸らして大剣の切っ先を避けるが、ティラノはその隙にデュレンに回し蹴りを打ち込んで距離を取らせそのまま追撃しようとするも、先程の謎の攻撃のせいか、気持ちの悪い感覚に苛まれて頭を抑えながら片膝を着いてしまう。
『ぅ、ぐっ……!何だ、これっ……俺に何を──!』
「……さてな……しかし、存外拍子抜けじゃないか。あれだけ大口を叩いておきながら、まさかこれで終わりとは言うまいな?」
『っ……そんな訳あるかっ……!こっちにはまだ奥の手……が…………っ……?』
挑発めいたデュレンの発言に対し思わず反論しようと声を荒らげるが、其処でティラノは仮面の下で訝しげな表情を浮かべた。
───奥の手、とは……一体何の事だ?
『なん、だ、これ……?俺は……ぅ、ぁああああっ?!』
つい今しがたの自身の口からついて出た言葉にそんな疑問を覚えた瞬間、突然頭に頭痛が走り、まともに身体を支えていられない程の激痛に苛まれてその場に蹲ってしまう。
そしてそんなティラノの姿を見据え、デュレンは黒いモヤの向こうで自身の手……無数の牙に覆われた悍ましい黒い異形の腕をティラノに見せびらかすように掲げていく。
「今度は上手くいったようだな……奴の時は土壇場で抵抗されたせいで記憶を奪えたかどうか不確かだったが、流石にこの状況なら二度も同じ徹を踏む心配もない……」
『ぐっ、ううっ……!な、にを言ってんだっ……?!記憶って、一体っ……!』
「貴様が知る必要はないさ。仮に知った所で、どうせすぐに忘れ……いや、此処でその命を散らす事になるのだからな」
―ブザァアアアアッ!!―
『ッ!グッ!』
ティラノの疑問に何一つ答える事なく、デュレンはその身に纏う黒いモヤで鋭利な刃を無数に形成していき、一斉に刃の切っ先をティラノに向けながら立て続けに発射していく。
それを目にしたティラノも顔を引き攣らせながら慌てて床を転がって無数の刃を避けるが、回避した刃の一部が度重なる爆発の影響で脆くなっていた車両の壁に直撃し容易く吹き飛ばしてしまった。
壁がなくなった事で、不意に襲った走行中の風の強さに引っ張られてティラノがバランスを崩してしまう中、デュレンはそんなティラノに一瞬で肉薄すると共に左手で頭を再び鷲掴みながら、半壊した壁に無理矢理抑え付けてしまう。
『グッ!は、放せッ!』
「この列車が沈むのも最早時間の問題だろう。此処を逃れた所で貴様が生き永らえる術は持たないと思うが、念には念をだ……後顧の憂いを断つ為にも、残りの記憶も全て喰らわせてもらうぞ」
『な、にっ──ぅ、うぐぁあああああああッ!!』
デュレンに掴まれるティラノの頭から、再び金色の光が放出されてデュレンの手に流れ込んでいく。
デュレンの左手に光が吸い込まれる度に、自分の中の大切な何かが徐々に削り取られていくような不快な感覚に襲われてもがき苦しみ、どうにかデュレンの手を振り払おうとしても信じられない力で押さえ付けられてビクともしない。
このままでは本当に不味い。直感的にそう感じ取った嫌な予感からティラノはデュレンに気付かれぬようにメダルを取り出し、左腰のスイッチに素早く装填していった。
『charge on!start up!』
「!貴様……!」
再度鳴り響く電子音声を耳にし、ティラノが未だ諦めていない事を悟ったデュレンは瞬時に空いたもう片方の右腕に黒色のエネルギーを身に纏い、ティラノが抵抗する前に完全に動きを封じるべく貫手を放った。
しかし、ティラノも負けじとデュレンに掴まれたまま動けない頭を力づくで捻ると、バリィイイッ!とデュレンに掴まれる仮面の大部分が剥がれて自由となり、ギリギリで回避した貫手が壁を貫いたデュレンの脇の下を潜り抜けながらエネルギーを纏った右脚を振り上げ、振り向き様の回し蹴りをデュレンの横っ腹に全力で叩き込んでいった。
「ッ!早瀬──!」
『ウォォオオラァアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアアァァッ!!!!』
懇親の一撃を受けて怯むデュレンを目にし、この隙を逃すまいとティラノが床に転がる大剣の柄を咄嗟に掴んで振りかざし、デュレンに向かって斬り掛かった。
まだ奴が完全に体勢を立て直せていない今の状態なら確実に入る筈の一撃。
此処で完全に奴との決着を付けるべくデュレンの首級に目掛けて振り下ろされた刃は、しかし、最悪なタイミングで真横の壁から発生した爆発の勢いに巻き込まれて手元が狂い、狙いが逸れて空を切ってしまった。
『ぐッ?!まずっ──!』
「──遅い」
慌てて大剣を引いて再攻撃を仕掛けようとするも、既に態勢を整えたデュレンが爆風の向こうから飛び出して瞬時に懐へと踏み込んだ次の瞬間、無数の牙に覆われた異形の腕を振り上げティラノの身体を逆袈裟に斬り裂き、そのまま腰のドライバーをも抉るように引き裂き破壊してしまった。
『しまっ……?!ぐ、うぁああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーああッッ!!!?』
破壊されたベルトを見て一瞬驚愕するティラノだが、直後にその身を襲った凄まじい激痛に意識を塗り潰されて絶叫し、そのまま列車の上から投げ出され変身が強制解除されてしまう。
そしてティラノは青年の姿に戻りながら傷口から大量の血粒を撒き散らし、亜空間の遥か底へと吸い込まれるように堕ちて姿を消してしまったのであった。
「……チッ、また仕損じたか……奴と言い、あの男と言い、揃って何処までも往生際が悪い……」
本当なら今の一撃で確実に仕留める筈だったのだが、奴の思わぬ反撃から気を逸らせて手元が狂ったのに加え、あのドライバーに幾分か威力を殺されて即死に至らせる事が出来なかったようだ。
一人列車の上に残されたデュレンは険しい顔で「これではアスカの奴を笑えんな……」とボヤきながら異形の腕を元の人間態の姿に戻すと、青年が堕ちた亜空間の底を冷たい眼差しで見下ろしていく。
(まあいい……奴と同様、計画の邪魔になりそうな記憶は幾つか奪う事が出来た。仮に無事に此処から生き伸びて奴と合流する事があったとしても、俺の目的が奴らに悟られる事は決してない……)
奴が掴んでいた計画の支障になり兼ねない記憶を喰らい、ベルトも今の一撃で破壊した。
邪魔者を逃したという点では前回の焼き直しではあるが、少なくともこれで黒月蓮夜のようにすぐにまた自分達の脅威として戻ってくる事もない。
(そうとも、何人たりとも邪魔はさせんさ……もうすぐ実を結ぶこの渇望……その先にこそ、俺が求める結末があるのだからな……)
火の手が徐々に広まり、燃え盛る業火にその身を包まれながら尚も走り続ける列車を後目に、デュレンはその身から噴き出した黒いモヤを全身に包み込み、何処かへと転移し姿を消した。
直後、列車全体から無数の閃光が放たれて目映い輝きに包まれていき、次の瞬間、機体の内側から発生した凄まじい爆発に飲み込まれ、主を失った列車は時空の彼方で跡形も残さず完全に消滅してしまったのであった───。