戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
「はァああああああああァァッッ!!!!」
そして場所は戻り、ノイズ達が蔓延る戦場ではギアを身に纏った装者達が紡ぐ『歌』が鳴り渡り、徐々に戦闘力を上げてその勢いを増しながらノイズ達を蹴散らしていく姿があった。
本来なら欠片程度の力しか持たない聖遺物の力が戦姫達の歌で高まると共にその威力も増していき、ノイズが密集する地点に空から降下した響が地面に勢いよく拳を叩き付けた瞬間、拳の衝撃が橙色の凄まじいエネルギーの波動と化して拡散し、ノイズ達を飲み込んで木っ端微塵に消し飛ばしていく。
それに続くように、両手のマシンピストルの銃弾を周囲にばら撒くように五月雨撃つクリスの乱射、大鎌を大きく振るい、まるで芝を狩るかのような勢いで広範囲のノイズを纏めて斬り裂く切歌の斬撃、両足のブーツに内蔵された小型の車輪で滑走し、すれ違い様にツインテール部分の装甲に装着された円形の鋸で引き裂く調のヒット&アウェイの戦法が確実にノイズ達の数を減らしつつあった。
……が、直後に減らされた数を補填するかのように何処からともなく新たなノイズ達が出現していき、あっという間に装者達に撃破された数を上回り四人に再度襲い掛かっていく。
「ッ!倒しても倒しても、また次が現れるっ……!」
「ああもうっ、これじゃキリがないデスよッ!」
「いいから、口を動かすより先に手ぇ動かせ!まだまだ増えてきてんぞッ!」
自分達が倒すスピードよりも速くその数を増やし続けるノイズ達に早々に嫌気が差して思わず音を上げてしまう調と切歌に喝を入れつつ、クリスは両手の銃をマシンピストルから大型のガトリングガンに切り替えて周囲のノイズ達を薙ぎ払っていく。
「ハッ!たァああッ!やぁッ!」
一方で、先陣を切る響も軽快な立ち回りで首元のマフラーを靡かせながら次々とノイズ達に拳を叩き込んで撃破していき、霧散するノイズに目もくれず次へ次へと前に突き進んでいく。
が、不意に頭上から巨大な影が現れて辺りを覆い尽くし、空を見上げれば、其処にはビル一つ分程のサイズがあるであろう巨大なノイズが腕を振りかざす姿があり、そのまま周りのノイズ達ごと巻き込むように巨腕が振り下ろされ、凄まじい震動を起こしながら他のノイズ達もろとも押し潰されてしまったかに思われたが……
「──うおォおおおおおおおおおおッッ!!!」
……ノイズの巨腕に風穴が開かれ、其処から右腕のギアの形状をドリルのように変化させた響が腰部ユニットに装備するバーニアで加速して猛スピードで飛び出し、そのまま巨大なノイズの頭を回転するドリルで貫き撃破していったのだった。
そして、ガトリングガンを乱射させながらノイズの群れからある程度の距離を取ったクリスは背部のギアを徐々に変形させながら大型化させていき、背部に形成した固定式射出器に左右それぞれ3基、計6基の固有の形状の大型ミサイルを連装して生成させてゆく。
「いい加減ちょせえっ……!纏めて吹っ飛べェええええええッッ!!」
―MEGA DETH SYMPHONY―
数の減らないノイズ達に痺れを切らしたクリスの雄叫びと共に、6基の大型ミサイルが一斉に発射され空を翔ける。
そして飛翔中に大型ミサイルが分裂し、無数の散弾と化して地上を埋め尽くすノイズ達の頭上へとまるで雨のように広範囲に降り注ぎ、纏めてノイズ達を消滅させていったのだった。しかし……
「ううっ、また出てきたデスよっ……!」
「流石に、数が多過ぎる……」
クリスの広範囲攻撃のおかげで大部分を削り切ったかと思いきや、更に何処からともなく新たなノイズ達が現れて周囲を埋め尽くしていく。
その光景を前に調や切歌、一度下がった響の表情も苦いものに変わっていき、クリスも舌を打つと共にヘッドギアに内蔵された無線から本部へと呼び掛けた。
「オイ、どうなってんだよッ!たださえノイズが出たってだけでも異常なのに、この数は普通じゃねえだろッ!」
『原因はこちらでも現在調査中です!しかしノイズの出現地点の反応は検知出来ていますが、何故かそれらしき発生源が何も……一体どうして……?』
本部の方でもノイズの異常発生の出処を掴めていないのか、オペレーターのあおいの声には戸惑いの色が滲み出ており、装者達の間でも困惑の感情が更に募る中、そんな四人の耳に司令官である弦十郎の声が届く。
『原因の詮索は今は後回しだ!現在民間人の避難誘導と負傷者の救助活動を同時に行っているが、崩落や炎上で建物内に取り残された人々や負傷者の数が想像以上に多い……!苦しい状況だとは思うが、避難救助が完了するまでどうにか持ち堪えてくれ!』
「っ、つってもなぁ……流石にこのままじゃジリ貧だぞっ……」
「せめて、イグナイトが使えていたら……」
自身の掌を見下ろし、調の脳裏を過ぎるのは先のパヴァリア光明結社との戦いの中で失われてしまったシンフォギアの決戦機能の一つ、『イグナイトモジュール』の力。
嘗てエルフナインの手により齎された聖遺物『魔剣ダイスレイフ』の欠片から作られ、今までの激戦の中で幾度となく自分達の助けとなってくれたその力も、先の事件での最終決戦の折に自分達のギアを強化させる為に燃え尽きて消滅してしまった。
あの力が残ってさえいればこのノイズの大群を相手でも……と、改めてイグナイトを失ってしまった痛手を此処にきて痛感する一同に対し、響は未だ闘志の衰えぬ眼差しでノイズ達を見据えて告げる。
「イグナイトがなくたって、戦い様はまだある……!皆、S2CAでいこう!」
「え、S2CAデスか……!」
「バカ!奴らの発生原因も分かってない内から、そんな大技ここで使える訳ねぇだろッ!」
『S2CA』──正式名称は「Superb Song Combination Arts」
それは『絶唱』と呼ばれるシンフォギア装者の最強最大の攻撃であると同時に、使用した人間の肉体にとてつもない負荷を与え、下手をすれば命を落とす事も有り得る諸刃の剣の力を「他者と手を繋ぎ合う」特性を持つ響を中心に据える事によって威力を増幅させるばかりか、 パートナーの身体を蝕むバックファイアを抑制する効果も併せ持つ事が出来る連携攻撃。
その一撃必殺の威力はイグナイトに勝るとも劣らないが、欠点として詠唱によるチャージに時間が必要なこと、何より連携の中心に立たされる響の身への負担が大きい事であり、それを考えてまだこの局面で切るのは早いとクリスが一蹴しようとするも、響は彼女の心配を払うように明るげな笑顔を向ける。
「大丈夫。私だって此処まで訓練を重ねてきてるし、一度くらいなら平気だから。それより今はこの勢いを止めないと、このままだと後ろにいる人達が危ないよ……!」
事実、ノイズ達はその進行の勢いを緩めずに未だ多くの人々が取り残されている被災区域に向かおうとしている。
ここでS2CAを使っても確かに一時凌ぎにしかならないだろうが、その一時で一人でも多くの人が助かるかもしれない。
その為なら自分は大丈夫だと言い切る響の目を見てクリスは言葉に詰まり、僅かに逡巡する素振りを見せた後、「あーっ、ったくコイツはっ!」と頭を振ってガトリングガンを両手に響達の前に踏み出していく。
「だったら速く準備しろ……!それまでの時間があたしが稼いでやる!」
「クリスちゃん……!」
「感動してんなっ!いいからとっととしろっ!後輩共も、そのバカちゃんと見張っとけよっ!無茶をし出したら後ろから頭ぶん殴ってでも止めに入れっ!」
「了解……!」
「響さんのお世話ならお任せデース!」
S2CAを使うには最低でも二人以上の装者が必要となるが、この数を一気に削り切るとなれば三人分の装者でなければその威力を発揮出来ない。
ならば此処は範囲攻撃に長けた自分がそれまでの時間を稼ぐしかないと率先して前に出たクリスがノイズ達の目を引きつける中、響は自身の背後に回って準備に入る調と切歌に目を向けていく。
「S2CA・トライバースト……!切歌ちゃん、調ちゃん、いくよ!」
「任せるデス!」
「私達の絶唱を、響さんに束ねる……!」
力強い響の呼び掛けに頷き、二人が瞳を伏せて響の肩にそれぞれ片手を乗せていくと、響も二人の手の感覚が伝わると共に瞼を閉じ意識を集中させていく。そして……
「「「Gatrandis babel ziggurat edenal……Emustolronzen fine el baral zizzl……」」」
三人の口から、寸分違わぬメロディーで紡がれる詠唱。
何も知らない者が一度耳にすれば誰もが聴き惚れるであろうその美しい旋律とは裏腹に、切歌と調から流れる暴力的なエネルギーの波が響の中へと流れ込んでいく。
響の中でまるで濁流のように行き場のない力が外へ溢れ出ようと暴れ回るのを抑え、バラバラに違う方向へ向かおうとする不協和音の力を一つに繋ぎ、束ね合わせ、嵐が過ぎ去った後の川の流れのように美しい調律へと変えていくと、それは三人の身体から放出される虹色の柱という形となって現出され始めていた。
「「「Gatrandis babel ziggurat edenal……Emustolronzen fine el zizzl……」」」
「クッ……あと、少しッ……!」
S2CA発動までの準備が完了するまで、両手のガトリングガン、腰部からのミサイルを乱射しとにかくノイズ達の目を引きつけていくクリス。
そして、三つの絶唱の力を束ね合わせた響は右腕に力を収束させていき、脚幅を広げて構えを取ると共にクリスに呼び掛けた。
「クリスちゃんッ!」
「ッ!出来たかッ!」
乱射を続けたまま肩越しに聞こえた響の声を耳に、すぐさまその場から下がるクリス。そしてそれと同時に、響は右腕に束ねた虹色の光を渦のように回転させながら右拳を引いていく。
「セット!ハーモニクス──!!」
頭の中で想像するのは、虹色の奔流を正面に放ってノイズ達を飲み込み、そのまま空へと打ち上げるイメージ。
S2CAはその強力な一撃から本来市街地向きの技ではないが、意図的に狙いを逸らせれば街への被害を回避する事が出来るハズ。
そのイメージを元に、雄々しい雄叫びと共に右腕を一気に振り抜き、そして……
──装者達とノイズ達の間で突如地面からドーム状の巨大な爆発が巻き起こり、ノイズ達だけでなく、装者達をも飲み込んでしまったのであった。
「なっ──グッ、うわァああああああああああああああああああッッ!!!?」
「「キャアァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」」
「な、何だっ……?!ぐぁああああああああああああッッ!!!!」
何の前触れもなく巻き起こった爆発を前に、力を放出する寸前だった響達もクリスも咄嗟に反応が出来ず爆発の中に呑まれてしまう。そして身を焼くような激痛と共に受け身も取れず、四人は爆発の中から飛び出し地面に叩き付けられてしまった。
「ぐうっ!……うぅっ……」
「ぁっ、ぐっ……お、お前らっ……無事かっ……?」
「ッ……な、何とか……」
「な……何だったんデスか、今のはっ……?」
突如発生した謎の爆発に困惑を隠せず、爆炎に焼かれたダメージが残る身体を引きずりながらも何とか身を起こし、四人は顔を上げて辺りを見渡していく。
其処には、今の爆発により発生した炎が街のあちこちで燃え盛り、先程まで周囲を埋め尽く程の数が跋扈していたノイズ達の死骸と思われる炭素の塊が辺り一面に転がっており、そして……
『──ァああああ……ハハッ、ハハハハッ!コイツァいい!まさかこんだけの餌が一気に喰らえるだなんて!ツキは俺に回ってきてるようだなぁああッ!』
──炎の向こうで、生き残りのノイズ達を片腕を振るっただけで次々と屠り、霧散するノイズの残滓を口から吸って吸収していく謎の異形の姿があったのだった。
「な……何だ、アイツ……?!」
「ノイズを……食べてるっ……?」
『……ああ……?』
突如現れた異形の姿を目にし、装者達も目を見開き驚愕する中、四人の視線に気付いた異形がゆっくりと装者達の方へと振り返り、背中しか見えなかったその姿を露わにしていく。
白く濁った体色に、何処か蜘蛛を連想させる外見をした禍々しい姿。
そして何より装者達の目を引いたのは、ノイズ達を吸収し終えたと共に不気味な輝きを放つ、その血のように赤い眼だった。
「赤い眼……も、もしかして、アレが例の怪事件の……?!」
「……ノイズ、イーター……!?」
ノイズを喰らう能力、血のように赤い眼と、事件の被害者から聴取した証言と合致するその特徴からあの異形が例の怪事件に出てくる正体不明の怪物……ノイズイーターである事を瞬時に理解する四人だが、一方のノイズイーターはまるで品定めするかのよう響達の顔を順に見回し、軽く鼻を鳴らした。
『なぁんだ、誰かと思えばシンフォギアの連中かぁ……性懲りも無く、また人の餌を横取りしようとしたのかよ』
「……?餌……横取りって……?」
「と、というかアイツ、普通に喋れるデスか?!」
妙な言い回しをするノイズイーターの言葉に調が小首を傾げる隣で、流暢に言葉を発するノイズイーターに驚きを浮かべる切歌だが、そんな反応を他所にノイズ達を一通り喰い終えたノイズイーターは首の骨を鳴らしながら装者達の方へと向き直っていく。
『けど、これはこれでちょうどいいか……?どれだけ喰って力が増しても、ノイズ相手ばかりじゃそれもどの程度のものか測り切れないしなぁ……』
何処か気だるげにそう呟き、ノイズイーターが一歩前へ踏み出した瞬間、
『──せっかくだ……練習台に使わせろよ、お前ら……』
──音もなく一瞬で装者達の間に現れると共に、そのまま目の前にいた切歌に強烈な前蹴りを叩き込み、彼女の身体を弾丸の如く勢いで蹴り飛ばしてしまったのだった。
「うぁあああああああッ?!」
「ッ?!き、切ちゃんッ!!」
「コイツっ、いつの間にっ……?!」
まるで瞬間移動でも使ったかのように、予備動作もなく装者達の懐に潜り込んだノイズイーターを見て動揺するも、反射的に両手のマシンピストルで狙いを定めたクリスがノイズイーターに発砲していく。
だが、ノイズイーターはその場に佇んだまま全身に銃弾を浴びせられてもビクともせず、グルリッと不気味に首を捻らせクリスに目を向けた。
『なんだァ……?次はお前が相手してくれるのかァ?』
「ッ!このっ……!!」
「うォおおおおおおおおおおッ!!!」
不気味な笑みと共に挑発するノイズイーターの背後から、背部のバーニアで加速した響が拳を振りかざして殴り掛かる。
しかし、ノイズイーターはまるで背中に目でも付いているかのように振り向きもせず僅かに上体を逸らして響の拳を避けながら素早い裏拳を響の顔面に打ち込み、更に顔を抑えて怯む響にラリアットを叩き込んで勢いよく振り回すと、そのまま攻勢に出ようとしていた調に目掛けて投げ飛ばし、二人を激突させてしまう。
「ぐぁあうぅっ!!」
「うぁああっ?!」
『ハハハッ!ハハハハァッ!読める、読める!読めるぞォ!お前達の動きが手に取る様に解るッ!これがそうか……!『物語』を超越した力ッ!俺は今、神すらも超える力を手に入れたんだァああああッ!!』
「くっ……!ワケ分かんねぇこと言ってんじゃねぇええッ!!」
―MEGA DETH PARTY―
両腕を広げ、まるで歌うように狂った雄叫びを高らかに上げるノイズイーターの背中に目掛けて左右の腰部アーマーを展開し、内蔵の多連装射出器から追尾式小型ミサイルを一斉に発射するクリス。
そして小型ミサイルはそのままノイズイーターに次々と直撃して爆発を起こしていき、その姿を視認出来なくなる程の黒煙に覆われていくが、直後に黒煙の向こうから腕を伸ばした無傷のノイズイーターが勢いよく飛び出し、そのままクリスの首を掴んで彼女の身体を持ち上げていってしまう。
「ガッ……?!ァッ、ウッ……オ、マエッ……何なんだっ、一体ッ……?!」
『ヒヒヒッ……俺?俺が何かってぇ……?そうだよなぁ、分かるワケがないよなぁッ!お利口さんに物語のルールに沿って生きてるだけのお前らにはさァああッ?!』
「ぅ、くっ……クリス先輩ッ!」
―α色式 百輪廻―
「こんのォおおおおッ!!」
―切・呪リeッTぉ―
ギリギリッ、と首を絞める力が徐々に増していくにつれて呼吸もままならなくなり、顔が青白くなっていくクリスを助け出そうと態勢を立て直した調と切歌の投擲攻撃が同時にノイズイーターに炸裂する。
だがやはり、ノイズイーターは身構える事もせずその身一つで無数の小型の鋸、三枚に分離してブーメランのように飛ばされた大鎌の刃も全て弾き返してしまい、クリスを乱雑に投げ捨てながら何かを掬い上げるように指を動かした瞬間、二人の足元から爆発が発生して調と切歌を纏めて吹っ飛ばしてしまった。
「「キャアァアアアアアアアアアアアッ!!!」」
「っ……し、調ちゃんっ……!切歌ちゃんっ!」
『オイオイ、オイオイどうしたんだよぉ?もっと抗ってみせろやァッ!ただのサンドバッグじゃつまんねえだろォォおおおおおおッ!!』
爆風と共に吹き飛ばされる調と切歌を見て身を起こそうとする響の声を掻き消すように、ノイズイーターが狂気に満ちた雄叫びを上げながら力を溜めた右腕を荒々しく振るった瞬間、雷状のエネルギー波が四人を襲い、立て続けに発生した爆発が装者達を飲み込んでしまったのだった。
「「「「ウァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」」」」
「……へぇ。思ってたより力を付けてるみたいだねぇ」
「みてぇだなぁ……けど、ありゃダメだ。馬鹿みてぇーにノイズを喰い過ぎたのか、狂い出す一歩手間じゃねえか。あれじゃマジで捨て駒ぐらいしか使い道がねーよ」
装者達を一切寄せ付けない戦闘力を見せ付けるノイズイーターに、付近の建物の螺旋階段から静観する青髪の青年が関心を示すも、金髪の男の方はあのノイズイーターを『失敗』と見切りを付けて完全に興味が失せたように再び寝転がってしまう。
◇◆◇
―S.O.N.G.本部―
「──クソッ……!何なんだあの化け物はッ?!」
一方その頃、S.O.N.G.の本部では突如現れたノイズイーターと装者達の戦いをモニターから見守っていたが、とてつもない猛威を振るうノイズイーターの力の前に為す術がない装者達の姿を見て弦十郎も思わずデスクに拳を叩き付けてしまう中、装者達の状態を測るオペレーター組から切羽詰まった声が上がる。
「装者達のバイタル、危険域に突入……!」
「このままでは危険です……!司令ッ!」
「ッ……やむを得ん……!装者達の回収を急がせろッ!救助部隊の突入を──!」
『……ま、待って下さいっ……!』
「?!」
手遅れになってしまう前に装者達を急ぎ回収すべく指示を出そうとした弦十郎だが、それを遮るように止めに入った静止の声に本部の職員達の目がモニターに向けられていく。其処には……
◆◇◆
「──まだ……まだやれます……!此処で、引く訳には行かないっ……!」
全身傷と泥だらけになり、ボロボロになった身体をそれでもふらつきながら起こして立ち上がる響と、そんな彼女の姿に続くようにクリス、調、切歌も力が入らない身体を強引に起こしていく姿があった。
『……へぇえ……?あんだけやられて、まだ立てるだけの力が残ってたかよ?』
『待てお前達っ……!無茶は止すんだッ!その相手は危険過ぎるッ!一度撤退して態勢を立て直すんだッ!』
「っ、聞けません……!私達の後ろには、まだ大勢の人達が残ってるんですっ!此処で私達が退いたら……!」
そうだ。此処で自分達が退けば、今も逃げ遅れた人達や救助を待つ負傷者達にまで危害が及ぶかもしれない。その危険性がある以上、こんな所で身を引く訳にはいかないと再起する装者達の姿を目にし、ノイズイーターは肩を揺らして不気味に笑い、
『そうだ、そうだよ!そうでなくっちゃ面白味がないッ!ほぉらァっ……皆を守る為に気張ってみせろやァああああああッ!!』
人々を守る為に立ち上がるその姿を嘲笑い、地面を踏み付けた衝撃で装者達の周りに爆発が巻き起こる。それに対して響達も一度目の爆発から反応して咄嗟に散開しノイズイーターへの接近を試みようとするが、それも無駄だと言わんばかりに再び腕を振るい放たれた雷状のエネルギー波がクリス、調、切歌を纏めて飲み込み、爆発を発生させて地面に叩き付けてしまう。
「ぐぁあぁぁっ!!」
「うぅっ……!!」
「あうぅっ!!」
『ハッハハハハッ!馬鹿が!考えも無しに突っ込んで俺に勝てるとでも……うん?あと一人は……?』
倒れ込む三人の姿を見回し愉快げに笑うノイズイーターだが、其処にあと一人、響の姿だけがない事に気付いて首を傾げた、その時……
「──どォおおりゃあァァああああああああああああッッ!!!」
『!』
爆発により発生した黒煙に覆われる空の向こうから、煙を切り裂いた響が猛スピードでノイズイーターに目掛けて急降下で迫る。
振りかざすその右腕はギアをドリル状に変形させ、バーニアで最大まで加速した一撃はノイズイーターの反応速度を超え、その胸に強烈な刃を叩き込んだ。が……
『……なんだァ、それは?』
「ッ?!なっ──うぁぐううっ?!」
完全に不意を突き、全力を乗せた確かな一撃。しかし、その胸に打ち込まれたドリルはまるで厚い岩盤に阻まれたように手応えがなく、何事も無かったかのように自分を見下ろすノイズイーターを見て驚愕のあまり声も上げられない響の顔に、ノイズイーターの裏拳が直撃して他の三人の下へと殴り飛ばされてしまった。
「ひ、響さんっ……!」
「うぁ……ぐっ……ぅっ……!」
『ハァアア……つまらねぇ、つまらねぇなぁ……此処まで人を期待させといて、その結果がこれかァ?あぁ?』
心底ガッカリしたと、肩を落として首を振るノイズイーターが煽るようにそう告げるも、響達は悔しげに唇を噛み締めて立ち上がろうとしても力が入らないのかその場に再び倒れ込んでしまい、その姿を見て、ノイズイーターも今度こそ興味を失せたように右手を掲げていく。
『だったら此処までだ……。練習台にもならねぇサンドバッグなんざ、ノイズだけで事足りるからなァ……餌を刈り取るだけのお前らの存在なんて、必要ねぇ……!』
「クッソッ……ぐぅっ……!」
「うぅっ……!」
ノイズイーターが掲げる右手に膨大なエネルギーが蓄積されていき、発光していく。
その様子を目にし響達もどうにか再起を試みようとしてもやはりその場から動く事が叶わず、そして、
『じゃあなァ、シンフォギア……お前達の『物語』も、これで終わりだァッ!!』
「「「「……ッ!!」」」」
凄まじいエネルギーが蓄積され、禍々しい光を身に纏うノイズイーターの右手が響達に向けて振り下ろされる。
最早その一撃を避ける事も、防ぐ余力も残されていない響達は目を閉じて痛みから目を逸らすしかなく、本部で見守る弦十郎達も届かぬ叫び声を上げる事しか出来ない中、狂気に満ちた笑みを深めるノイズイーターの一撃が遂に装者達に襲い掛かろうとした、その時……
───建物が崩落して積み重なった瓦礫の山をジャンプ台代わりに飛び越え、空を駆け抜けるかのように一台の蒼いマシンが何処からともなく現れた。
『ッ?!なんっ──ガハァアアッ?!』
「……え……?」
「な、何事デスかっ……?」
突如乱入してきた蒼いマシンを見てノイズイーターが一瞬動きを止めた瞬間、蒼いマシンはそのままノイズイーターに目掛けて突撃し、響達に向けて振り下ろされようとしていた攻撃を阻止したのである。
響達も突然鳴り響いたエンジン音から思わず目を開け、いきなり現れノイズイーターを跳ね飛ばした蒼いマシンを唖然とした表情で見つめる中、地面に上手く着地した蒼いマシンの搭乗者はバイクを止め、徐に頭に被るヘルメットを取り外していく。
「──見付けたぞ……」
ヘルメットを外し、乱入者が開口一番に口にしたのはそんな無機質な一言だった。
体格からして性別は男か。灰黒い薄汚れたロングコートに、ボロボロの黒のジーンズという見窄らしい格好。
ヘルメットを脱いだ顔は何故かフードを被っているせいで良く見えないが、僅かにチラつく黒髪、そして何よりもノイズイーターをまっすぐ見据えて離さない真紫の瞳の鋭い眼光を一身に受け、ノイズイーターもただならぬ何かを感じたのか僅かに声を震わせた。
『だ……誰だお前……いきなり出てきて、何なんだッ?!』
「…………」
動揺が収まらぬまま乱入者の男に疑問を投げ掛けるも、男は無言を貫く。
しかしゆっくりとコートを翻すと、男の腹部にはバックルの上部からスロット部分が露出された蒼いベルトが巻かれており、ベルトの左腰に備え付けられたケースからカードを一枚取り出した。
「……?あのベルトは……?」
「カード……?おい、そんなモンで何を……!」
あのノイズイーターはただの人間が太刀打ち出来るような相手ではない。
あの男が何者で、何をするつもりかは知らないが、誰であれこのままむざむざ殺されるのを見逃す訳にはいかないとクリスも止めに入るが、男はその声が聞こえているのかいないのか、無言のまま取り出したカードを徐に構え、そして……
「……変身」
『Code x…clear!』
カードをバックル上部のスロットに装填し、掌でバックルに押し戻すと共に電子音声が鳴り響く。
直後、男の全身を青いラインの入った黒のライダースーツが身に纏い、更に男の周りに出現した無数の蒼い装甲が一度に装着されていき、全く別の姿へと変身していったのであった。
「なあっ……?!」
「へ、へへ……変身しちゃったデスよっ?!」
「……仮面の、戦士……?もしかして、アレが都市伝説の……?」
「……仮面、ライダー……?」
黒のラインが走る丸みを帯びた蒼いボディと仮面ライダーファイズに近い青のラインが入ったレッグ、仮面ライダーカブトとアクセルトライアルを足して二で割ったような仮面に赤い複眼を持ち、ボディの様々な箇所にXの意匠が用いられた戦士。
変身した男のその姿を見て驚愕するクリスと切歌の横で、調がその異質な形貌と赤い複眼が輝く仮面から都市伝説や噂話と照らし合わせて推察し、響が呆然とその戦士の名……仮面ライダーの名を口にする中、その様子を螺旋階段から静観する男達の様子も一変していた。
「どうやら、デュレンの予想は的中だったみたいだねぇ……」
「……野郎……ホントに生きてやがったっ……!」
変身した男の姿を見て、今まで顔に貼り付けていた飄々とした笑みを消す青髪の青年の隣で、いつの間にか手すりに身を乗り出した金髪の男が忌々しげに顔を歪めて仮面の戦士となった男を睨み付けていく。
そして、そんな三者三様の視線を浴びる仮面の戦士へと変身した男はジャリッと砂を踏み鳴らすと、僅かに響達の方に顔を向ける。
『……後は任せろ……』
「……え?」
ボソッと、風が吹けば掻き消えてしまいそうなほど小さな声。
あまりの小ささに他の装者達もノイズイーターも聞き取れていないが、唯一その声を拾えた響が反応して思わず聞き返すも、既にノイズイーターに意識を向けた戦士……仮面ライダーは手首を軽くスナップさせ、その右手でノイズイーターを指差す。
『さぁ、顧みろ……お前が歩んできた物語を……』
赤い複眼でノイズイーターを捉え、流暢でない無機質な声音で静かにそう告げると共に仮面ライダーはゆっくりと前へ踏み出し、一歩ずつ徐にノイズイーターへと近付いていくのであった。