戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
『ガァアアアアアァッ!!』
「グッ……?!づぁああああッ!!」
「う、上杉君っ!!」
クロスとイグニスイレイザーが激闘を繰り広げるその一方、敵の策に掛かり、拓けた森の中で百を軽く超える数のダストの大群に囲まれた風太郎は木の棒を捨て鉢に振り回し、五月達に近付けまいと奮闘していた。
だが、幾ら知能も低く、動きも鈍いとは言えど相手は常軌を逸した化け物。
ただの生身の人間では敵う筈のないダストに棒切れ程度が通ずる筈もなく、上段から全力で振るわれた木の棒を肩に打ち込まれても動ずる様子もなく即座に乱雑に振るわれたダストの張り手で頭部を殴られ、風太郎の身体が簡単に横薙ぎに吹っ飛ばされてしまっていた。
その腕力は凄まじく、あまりの衝撃と威力に木の棒を手放してしまいながら痛々しい音と共に勢いよく地面を転がって吹っ飛ばされる風太郎の姿を見て、五月の悲痛な叫びが響き渡る。
『コォアアアアアアッ……』
「ひっ……ぁ、あっ……!」
その声に誘われるように、他のダスト達がまるでゾンビのように鈍重な動きでワラワラと五月に迫り来る。
そんな恐ろしい光景を前に腰が抜けて立ち上がれない五月も、恐怖に染まった表情で目尻に涙を浮かべながら地面に両手を付いたまま後退りして今にも逃げ出したい衝動に駆られるが、後退りした左手の指先に触れた柔らかな感触……背後の大木に背を預けて気を失っている二乃の手と、彼女と同様に気絶する姉達の顔を見て、キュッと唇を強く結んだ。
(そう、だ……こ、こんな所で諦められないっ……せめて、皆だけでも……!!)
漸く救い出せた四人をこんな所で見捨てる訳にはいかない。逃げ出したい衝動を、恐怖を必死に押し殺しながら五月は彼女達を守るようにダスト達の前に出て震える両腕を広げ、そんな彼女に目掛けてダストの一体が徐に醜い右腕を振りかざして……
「──さ、せるかァァああああっっ!!!!」
『……ガウッ?!』
「……?!う、上杉君っ……?!」
その凶爪が五月に振り下ろされ掛けた寸前、ダストに殴り飛ばされた筈の風太郎が横から全力疾走からの体当たりを食らわせ、ダストを転倒させたのである。
その絶叫にも似た雄叫びを聞き五月が思わず目の前に視線を戻せば、先程と同様風太郎が五月達を庇うようにダスト達と対峙して背中を向けていたが、僅かに見える彼の横顔の額からツーッ……と、夥しい量の赤い液体が滴り落ちているのが見えた。
「う、上杉君……そ、それ……!頭、血が……?!」
「ッ……いい、からっ……今は自分の事と、そいつ等を守る事だけ考えてろっ……!!」
青ざめた顔で声を震わせる五月に一喝する風太郎の声に、彼女を、自己を気に掛ける余裕など一切ない。
意識が朦朧とする。視界がボヤける。頭が麻痺でもしてるかのようにジンジンして痛みが止まない。いっそこのまま気を失ってしまえばこれ以上の苦痛を味わう事はないのだろうが、それだけは絶対に出来ない。
此処で自分が倒れれば五月達の身が危険に晒される。彼女達を守れるのは今は自分しかいないのだ。
先程ダストに殴られた頭から流る血を乱暴に拭い、気を抜けば激痛でふらつきそうになる両足をどうにか踏ん張らせる風太郎に向けてダスト達が一斉に襲い掛かった。
「ダメっ……!!逃げて上杉君っっ!!!」
「っ……!!」
その光景を前に五月が堪らず悲痛な叫びを上げるが、風太郎は一歩も引かず固く握り締めた拳を振りかぶり、こうなれば駄目元の精神でダスト達に殴り掛かろうとしたその時、突如ダスト達の頭上から無数の光の矢が豪雨の如く降り注いで異形達の頭を次々と撃ち貫いた。
「っ……?!なん、だっ……?」
───全身凶器でミサイルサーファーのターンだ!
残弾がゼロになるまでバレットのKissを!
「!……うた……?」
「……ッ!アレは……!」
魑魅魍魎に迫られ、絶望の中で突如響き渡ったロック調の過激な少女の歌。
その歌に釣られて空を見上げ、驚きの声を上げる五月の視線を追い風太郎も上を見上げると、其処には縦横無尽に空を器用に駆け回る巨大なミサイルの上に乗りながら、空からクロスボウを乱射しながら歌を紡ぐクリスの姿があった。
「昇天率100パーのヒットガール!
ハート撃ち抜かれたいチェリーはWhere is?
Bang☆Bang☆yeah!」
『グァアウウッ!』
『ゴァアッ!』
「ッ……マジかよ……ミサイルに乗りながら歌うたって銃を撃ちまくるとか、さっきのショックで俺の頭が可笑しなもん見せてんのかっ……ぐっ……!」
「……っ!う、上杉君っ、今はとにかくこっちにっ!」
まるでサーフボードにでも乗っているかのように大型ミサイルを器用に乗り回し、光の矢で密度の濃い弾幕を乱射しまくるクリスの射撃がダスト達の全身に突き刺さり怯ませる。
そんなぶっ飛んだ光景を前に風太郎も一瞬幻覚か何かでも見ているのかと苦笑いしてごちりながらも、彼女が駆け付けてくれた安堵感と共に襲った激痛から血の流れる頭を抑えてその場に膝を着いてしまい、そんな彼の下にクリスの予想外な登場で唖然としていた五月も慌てて駆け寄りながら肩を貸し、クリスの攻撃に巻き込まれないように他の姉妹達と共に木の影に隠れていく。
そしてその姿を横目で確認したクリスもギアから流れる伴奏に合わせて歌声も力強いモノへと徐々に変わっていき、光の矢を連射し続けたまま腰部のアーマーから無数の弾頭を立て続けに放って地上へと打ち込み、凄まじい爆発の衝撃波でダスト達を纏めて吹っ飛ばした。
『ゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!?』
「どうやら理不尽がまかり通る世の中だ!
敵ーやっこーさんにも都合があるってんだァろう?
だけど得物をそっちも抜くってんなら、容赦しねぇええっ!(前にアイツが言ってた通り、イレイザーにノックバックが通るならコイツ等にも通じるッ!だったらこのまま爆撃怒涛で足止めだァッ!!」
ミサイルを足に森道をショートカットしたのが幸いしたのか、先程風太郎達を追い掛けたシャークイレイザーは見たところ未だに追い付いていない。
ならば既に攻略法を把握してるダストだけが相手なら自分一人でどうとでもなる。このまま風太郎達が遠くまで逃げれる時間を稼げれば或いはと、弾幕の手を緩めずダストを一匹たりとも逃すまいとして唇から紡がれる歌にも自ずと力が増していくクリスだが、しかし……
何もない筈の地面の中から突如水色の巨大な斬撃波が打ち上がり、クリスが騎乗するミサイルを真下から真っ二つに斬り裂いてしまった。
「バキュンと放った銃弾ータマー、がァああああああッッ!!??(真下からの攻撃ッ?!けど今のはダストのじゃねぇ……!まさか……!」
ミサイルが爆発する寸前でギリギリ飛び降りたクリスに、背後から凄まじい爆風が襲う。
それでもどうにか地上に上手く着地した瞬間、クリスの背後の地面から飛び出したシャークイレイザーが右腕の刃を振るって不意打ちを仕掛け、それに対しクリスも咄嗟に反応して振り向き様に両手のクロスボウを防御に用いて刃を受け止め、火花を撒き散らした。
「イレイザーッ……!!」
『邪魔をしてくれるな装者ッ!!』
「グッ……邪魔なのはテメーの方だァッ!!」
受け止めた相手の刃を両手のクロスボウで受け流しながら立ち位置を入れ替え、至近距離からクロスボウを放つクリス。
しかし、シャークイレイザーも瞬時に上体を大きく後ろに反らして矢を回避し、そのまま地面へ水のように頭から潜り込んで再び姿をくらましたかと思いきや、地面の中から再度クリスに目掛けて水色の斬撃波を乱発し、それを見たクリスも慌ててバックステップで斬撃波を回避しながら思わず舌打ちしてしまう。
(クッソッ……!!地面に潜られたらあたしも流石に応戦しようがねぇッ!!)
『コォアアアアアアッ!!―ザシュウゥッ!!―ギャッ?!』
奴に地面の中に潜られたままでは、襲い来る斬撃波が一体いつ、何処から飛び出してくるのか予想のしようがない。
四方の地面から次々と間断なく飛び出してくる無数の斬撃波を半ば直感頼りに避け続け、直撃しそうになれば考えもなく襲い掛かってきたダストを盾替わりにして凌ぐが、このまま後手に回り続けていてはこちらも体力を削られて何時やられてしまうか分からない。
ならばいっそ一発どデカい火力でこの辺一帯の地面ごと纏めて吹き飛ばし、奴を強引にでも引きずり出すしかないかと一瞬考えるが、それだけの大技を使おうともなればそれ相応のタメがいる。
ならばその為に、その隙を作るにはどうすればいい?と、回避とダストを用いた防御を繰り返しながら思考に思考を重ねるクリスがこの状況の打開策を必死に模索する中、その時……
―……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァアアアアッッッッ!!!!!!―
「──ッ?!なっ……?!」
「きゃああああああッ!!」
「こ、今度はなんだッ……?!」
無数のダスト達が蔓延る戦場の中心に、突如何処からともなく何かが凄まじいスピードで落下して大爆発を巻き起こしたのだ。
その衝撃波はクリスやダスト達だけでなく、一花達を連れこの場を離れようとしていた風太郎や五月にまで襲い掛かり、忽ちに煙と粉塵が舞い上がって辺り一面が土埃に覆われてしまう。
やがて数秒で衝撃波も収まり、一同が慌てて今の爆発を起こした何かが落ちた落下地点に目を向けると、其処には……
『────ぐっ…………ぅっ…………ッッ…………!!!!』
バチチチィッ!と、舞い上がる煙の向こうで辛そうに起こそうとする全身の装甲の隙間から、明らかに危険だと一目で分かる火花を無数に撒き散らす戦士……身体中が傷と泥で薄汚れ、漆黒の左腕が内部の機械部分が剥き出しになる程ボロボロに変わり果てたクロスの痛ましい姿があったのだった。
「く、黒月さんッ?!」
「アイツッ……?!」
「お、おいっ!お前っ……!―ズバァアアッ!!―くっ?!」
悲惨な姿になって何処からともなく現れたクロスを見て、五月と風太郎が驚愕と共に息を拒んで絶句する。
そんな二人と同様に顔色を変えたクリスが慌ててクロスの下に向かおうとするも、そんな彼女を阻むように地面から再びシャークイレイザーの斬撃波が飛び出す。
そして、どうにか上体だけ起こしたものの肩で苦しげに呼吸を繰り返すクロスの近くに今度は空から人型サイズの球状の火の玉が落下し、中から豪快に巨大な右腕を振るって炎を払い除けたイグニスイレイザーが堂々と姿を現した。
『──なるほどなぁ。その強化形態の活動限界時間は五分ってとこか?ソイツを過ぎて酷使し続ければ、それだけデカい反動が返ってきてボロボロになるって訳か……今のテメェみてーによ』
『……ぜぇッ……ぜぇッ……ぜぇッ……ぜぇッ……!』
飄々とした口調で左手で指差すイグニスイレイザーに向けて、傷付いた身体……EXCEED DRIVEの稼動限界を超えてなお、戦闘を続けた反動によって足がふらつきながらもどうにか立ち上がったクロスがボロボロの左腕で拳を握って構えるが、イグニスイレイザーはそんなクロスの姿に鼻を鳴らし笑い混じりに言葉を投げ放つ。
『呆れたもんだ。そんなナリになってまでまだ戦おうってのか?勝ち筋なんざ、とうの昔に詰んでるってのによ』
『ッ……これで勝ったつもりでいるなら、相当おめでたい頭をしているようだ……こうしてまだ息をしている以上、俺がお前達に負けを認める事は決してない……!』
『ハッ、おめでたいのはお互い様だろ?……右腕もロクに使えねぇそんな状態で、俺とどうやって渡り合うつもりだったんだ、お前?』
『……ッ!』
イグニスイレイザーに負傷した右腕を指摘され、クロスが仮面の下で目を見開いて僅かに息を拒む。
その仕草を見逃さず、イグニスイレイザーは悠然とした足取りでクロスへと近付きながら言葉を続ける。
『そんだけ右腕を庇う戦い方を続けていりゃどんな馬鹿でも気付くだろうよ。そもそも、今のテメェにその傷を短期間で治せる手段がある筈もねぇ……今まで気付かないフリしながらわざわざお前の無駄な努力に付き合ってやったんだ、少しぐらいこっちの厚意に感謝してくれてもいいだろ?』
『……ああ、そうだな……おかげでお前の悪趣味さを改めて認識したよ……礼代わりに反吐でも吐いてお前のその面に浴びせ掛けてやりたい気分だっ……』
自分が右腕を使えないのを早くに知っていながら、その弱点を突く事すらしなかったのはその必要もなかった。──要するにそんな真似をしなくてもこちらを組み伏せるのは容易いと、向こうは考えていたという訳だ。
何処までもこちらを格下としか見ていないイグニスイレイザーの傲慢さに内心憤り憎まれ口が止まらないクロスだが、イグニスイレイザーはそんなクロスの悔しげな反応にこれ見よがしにとほくそ笑んで見せながら、拳を握った右手に炎を纏う。
『今までテメェから受けてきた仕打ちを考えればこれでもまだ足りねえぐらいさ。だから今度は、動けなくなったテメェの目の前で俺らが拝ませてやるよ……お前が守れなかったモノの最期を、その目でなァッ!!』
『ッ!!』
横薙ぎに勢いよく振るわれたイグニスイレイザーの右手から、野球ボール程のサイズの小型の炎弾がマシンガンの如くの弾幕でクロスに一斉に放たれた。
それを目にしたクロスも咄嗟に背部から生やした二翼のマフラーを翻して全ての炎弾を包み込むと、そのまま周囲のダスト達に目掛けて炎弾をバラ蒔くようにマフラーを薙ぎ払い、無数の炎弾でダスト達を纏めて爆散させていく。
『『『『ゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!!!?』』』』
『今だクリスッ!風太郎達をッ!』
「ッ……!!あ、ああっ!」
イグニスイレイザーの強力な技を逆に利用し、今のでダスト達の多数を纏めて始末した上に、舞い上がる黒煙により敵の視界も同時に奪った。
この隙に乗じて風太郎達を逃せと、少ない言葉で声を張り上げるクロスの意図を察したクリスはすぐさま踵を返して走り出し、風太郎達に下へ急ぐが……
『甘ぇんだよ……取り押さえろッ!!』
―ザパァアアアアッ!!―
『ウルァアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』
「っっ!!?―ガギィイイイイッ!!―ぐぁああうぅっ!!」
『?!』
「ゆ、雪音さんッ!!」
そんなクリスの死角となる地面からシャークイレイザーがいきなり飛び出し、両腕の刃を振りかざしてクリスに襲い掛かったのだ。
不意を突かれたその一撃を前にクリスも反射的に両腕を十字に組んで防御態勢を取り、攻撃を受け止めようとするも咄嗟の事で踏ん張る事が出来ずに派手に吹っ飛ばされてしまい、シャークイレイザーはそのまま地面に倒れたクリスの上に馬乗りになりながらその首級に目掛けてすかさず両腕の刃を再度振りかざす。
それを目にしたクリスも両手のクロスボウでシャークイレイザーの刃を紙一重で受け止めるが、刃はクリスの首筋ギリギリにまで迫り、彼女の首に徐々に刃が食い込んで赤い一雫が流れ落ちていく。
『いい加減にしつこいんだよお前等ァ……!!とっとと消えろォオオオオオオオオッ!!!!』
「ぐっ……ぐうううううっっ……!!!」
『クリスゥッ!!!』
少しずつシャークイレイザーに力負けし、刃が首にめり込んで苦悶に顔を歪めるクリスの下へクロスが必死の形相で助けに向かう。が、そんなクロスの前にイグニスイレイザーが巨大な右腕全体に炎を纏いながら立ち塞がった。
『言ったろーが、今度はテメェが大事なモン奪われるのを見る側だってよォッッ!!!!』
『っっ!!!!』
劫火を纏った巨腕を全力で振り抜くイグニスイレイザーの拳が目前から迫る。しかしクロスはそれを前にしても足を緩める所か逆に加速して真正面からイグニスイレイザーへ吶喊し、炎を纏った拳が顔に直撃する寸前、
今までクロスが身に纏っていた全身のガングニールのアーマーが右腕部分のアーマーだけを残して勢いよく弾け飛び、それにより発生した衝撃波に拳が押し負けたイグニスイレイザーの右腕が大きく後ろに反らされた。
『なっ……(アーマーを、パージした勢いで不意をっ──!!!?』
『Final Code x……clear!』
『あァァああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーッッ!!!!』
『ぐっ、テメェッ……!!―ドゴォオオオオオオオオオオッッ!!!!―ごぉああああっっ!!!?』
虚を衝いたクロスの奇策により完全に無防備になったイグニスイレイザーの顎に目掛けて、素早くカードをバックルに装填しながら唯一残ったアーマー部分の純白の右腕に全力を込めた右フックが炸裂し、イグニスイレイザーの身体が勢いよく横殴りに吹き飛ばされた。
瞬間、右腕に意識を手放しそうになるくらいの激痛が襲い来るが、クロスは歯を噛み砕きそうになるほど強く食い縛ってその痛みに耐えながら殴り飛ばしたイグニスイレイザーに目もくれず、再び左腰のケースから取り出したカードを乱雑にバックルへと押し込みながら地を蹴って走り出す。
『Code slash…clear!』
『ハァアアアアアアアアアッッ!!!!』
『……ッ?!―ドグォオオオオッ!!―ガァアアッ!!!?』
「?!」
響き渡る電子音声と共にタイプスラッシュへとアーマーを切り変え、直後、朱い軌跡を宙に描きながら凄まじい速さで疾走したクロスのサイドキックがシャークイレイザーの顔面に全力で突き刺さった。
そのまままるでボールのように勢いよくまで吹き飛んだシャークイレイザーは横滑りに地面に叩き付けられて土埃を巻き上げていき、それを見届けたクロスは薄く息を吐き出した後、其処でガクリッと糸が切れた人形のようにその場に膝を着きながら右腕を抑えて蹲ってしまい、そんなクロスを見てクリスが慌てて傍へ駆け寄る。
「お、おいっ!お前、腕が……?!」
『ッ……俺、のことはいいっ……!それより、風太郎達を早く此処から──!』
『シャアァアアアアッ!!』
『ガァアアアアッ!!』
悲痛な面持ちで自分を心配するように顔を覗き込むクリスに、今はとにかく風太郎達を早くこの場から離れさせるように促すクロスだが、そんな二人に生き残った他のダスト達が奇声を発しながら一斉に襲い掛かった。
『チィッ……!』と、思わず忌々しげに舌打ちしながらクロスは瞬時に左手に出現させたスパークスラッシュの一振りを振りかざしながら痛みの止まない身体に鞭を打って立ち上がり、背後から飛び掛かってきた四体のダストを纏めて切り裂くが、今度は斜め右からダスト達が一斉に襲い掛かる。
刃を振り抜いた体勢から対応が遅れてしまうが、その隙をカバーするようにクリスがすぐさまクロスボウを乱れ撃ちダスト達の頭を撃ち抜いて怯ませ、立て続けに腰部のアーマーから無数の弾頭を乱射して遠方から迫るダスト達を纏めて吹っ飛ばして遠ざけ、その隙にクロスが次々と襲い来るダスト達の首を素早く一閃して纏めて跳ね飛ばしていく。
……しかし、そんな二人が必死に奮闘する中、クロスに殴り飛ばされたイグニスイレイザーが土煙の中で僅かに身をふらつかせながら徐に起き上がり、掌を上に、右手の上に小型の炎の塊を生み出していく。
『……やってくれるじゃねぇかよ……ああ、わかったよ……そんなに死に急ぎてぇってんなら、加減はもう一切なしだァっっ……!!!!』
ゴウゥウウウウッッ!!!!!と、憤りに満ちたイグニスイレイザーの感情に呼応するかのように小型の炎の塊が一瞬の内に大きく膨れ上がる。
大きく、大きく、まだ大きく。
炎の塊が巨大になるに連れて、イグニスイレイザーを中心に全方位にまるで洪水の如く勢いで劫火が地面を駆け走り、周囲の木々に炎が燃え移る程の凄まじい熱が戦場を呑み込み、支配してしまう。
「あ、熱っ……!!?」
「こ、今度は何だってんだっ!!?」
「あれ、はっ……?!おいっ!!!」
『……ッ!!』
無数のダスト達を相手にどうにか奮闘し持ち堪えていたクロスとクリスも、その見覚えのある風船のように未だ膨らみ巨大化し続けていくイグニスイレイザーの生み出す火炎弾を目にし、瞬時に直感する。
──アレは駄目だ。撃たれれば自分達は勿論の事、背後にいる風太郎達も決して助からない。
この世界に跳ばされる前に奴と戦った時にも感じた圧倒的な力のプレッシャーと殺気を前に、無意識にそう悟って額から一筋の冷や汗を流すクリスに切羽詰まった声で呼び掛けられたクロスも慌てて風太郎達とイグニスイレイザーを交互に見遣る中、限界にまで膨れ上がった巨大な炎の塊……直径にして約30メートル程はあるであろう火炎弾を頭上に掲げ、イグニスイレイザーが全力で吼える。
『今度は対策もソイツを考える時間も与えやしねぇぞっ……!!この物語の主役とヒロイン共諸共──消えてなくなりやがれェェええええええええええええええええッッ!!!!』
極大の殺意の込めれた咆哮と共に思い切り振り被ったイグニスイレイザーの右手から、巨大な火炎弾が大気を大きく振動させながらクロス達に目掛けて容赦なく放たれる。
動き出した球体の下半分が大地に触れただけで、それだけで地面が木っ端微塵に吹き飛んで跡形も残さず塵となって消滅していく。
前回の比ではない、目に見える地上の全てを、生き残った他のダスト達すらも完全に、無慈悲に焼却させながら暴風の如く迫る絶対の一撃を前にクロスも最早打開策を考える暇もなく、仮面の下で険しげに顔を歪めながらタイプスラッシュの素早い脚力で風太郎達の前へ瞬時に移動しながらバックルに再度カードを装填した。
『Code Blaster…clear!』
「ッ?!く、黒月さんっ?!」
「アンタ、何を──!!?」
今の自分には風太郎達を守りながらアレを凌ぎ切る術はない。
ならば後は、この身を盾に彼らを守るしか手はないと、クロスの形態の中でも防御力に長けたタイプブラスターにタイプチェンジしながら風太郎達を守るように両腕を広げ、迫り来る一撃を背中で受け止めるべく歯を食いしばるクロスだが、しかし……
──そんなクロス達の前に瞬時に飛び出したクリスが両腕を十字に組みながらスカート状リアアーマー内部に格納された多数のエネルギーリフレクタービットを射出・展開。目前に張った障壁でイグニスイレイザーの巨大な火炎弾を真っ向から受け止めた。
『ッ?!クリスっっ!!?』
「雪音さんっっ!!!!」
「ぐ、ぅううううううううううううううううっっ……!!!!!これっ以上っ──や、らせっかよォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーおおおォォッッッッ!!!!!!!」
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオオッッ!!!!!と、クリスが受け止めるリフレクターにより軌道を逸らされて無数の炎の閃光が霧散しまるで爆撃のように森中に降り注いで立て続けに爆発を巻き起こしていくが、それでも巨大な火炎弾は威力が弱まる所か更に勢いを増してリフレクターすらも徐々に焼却させていき、火炎弾の勢いに徐々に圧されてクリスの足が地面を削りながら少しずつ後退してゆくが、それでも必死に耐え凌ごうとするクリスの両腕のイチイバルの装甲までもがあまりの熱に耐え切れずに融解し始めていく。
そんな中、イグニスイレイザーは一瞬で空に瞬間移動して巨大な火炎弾を凌ぐクリスの足掻きを冷徹に見下ろし、その手に更に赤色の小型のエネルギー弾を形成しながら言葉を紡ぐ。
Ignis nōn extinguitur igne.
火は火によって消えない
Aequat omnes cinis.
灰は全ての人々を同じにする
『──今度こそ終わりだ……全員仲良く灰塵と消えろォォおおおおおおッッ!!!!!』
『「ッッ!!!!!」』
僅か二節の詠唱を口にすると共に、イグニスイレイザーの左手の中に形成された小型のエネルギー弾に極大の赤色のエネルギーが螺旋を描きながら収束して力を増していき、クリスが受け止める巨大な火炎弾に目掛けて全力で投げ放つと、エネルギー弾はそのまま巨大な火炎弾の中へ吸い込まれるように取り込まれる。
瞬間、巨大な火炎弾が内部から無数の閃光が放たれてまともに直視すら出来ない程の眩い白い光が周囲一帯に広がっていき、その光景を目にしたクリスは驚愕で目を剥きながらもギアの出力全てをリフレクターへと急いで回し、クロスもすぐさま風太郎と五月を抱えながら一花達の上に覆い被さった瞬間……
巨大な火炎弾が耳の鼓膜を突き破る程のとてつもない爆音と共に破裂し、半径数キロの郊外の森がドーム状の大爆発に呑み込まれてしまったのだった──。