戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
―ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ…………―
「────…………ぅ…………っ…………?」
───イグニスイレイザーが下した凄まじき煉獄により、半径数キロ先までの地上が瞬く間に焦土と化した郊外の森は、最早森と呼ぶにはあまりに見晴らしが良過ぎる真っ平らな地形に変わり果ててしまっていた。
草木一本すら残されていない辺り一面には木々だったモノの残骸が黒焦げて散乱しており、無数の炎が大地の上を駆け走り轟々と激しく燃え盛っている。
まるで地獄の一端が顕現されたかのようなそんな凄惨な光景が何処までも広がる中、いつの間にか気を失っていた蓮夜が鼻を突く焦げ付いた匂いに誘われるように重い瞼を開けて徐々に意識を覚醒させていき、気怠げに地に伏せていた上半身を徐に起こしていく。
「ッ…………オレ、は…………何が、どうなってっ…………?」
意識を取り戻したばかりで頭がボンヤリとしたまま、何が起きたのか状況確認の為に辺りを見回していく。
周囲は何処までも火の海に包まれており、黒煙が立ち込めてまともに呼吸をするのも難しい。
そんな光景を前に蓮夜が辺りに充満する黒煙をふと吸い込んでしまい、思わず口を抑えて咳き込む中、その時、視界の端で何かが僅かに蠢くのが見えた。思わずそちらに視線を向けると、其処には蓮夜と同じように全身灰で黒ずみボロボロの姿で倒れる青年達……風太郎と五月、そして一花達の姿があった。
「っ?!ふう、太郎っ……!中野っ!」
倒れる風太郎達の変わり果てた姿を目にし、覚醒したばかりだった蓮夜の意識も驚愕のあまり一瞬でハッキリと目覚め、同時に其処で漸く、彼等も先のイグニスイレイザーの攻撃の巻き添えを喰らってしまった事を思い出した。
一目見た瞬間、彼らを死体と一瞬見間違った蓮夜は慌てて身体を引きずりながら風太郎と五月の下へ近付こうとするが、その瞬間身体に凄まじい激痛が走る。
あまりの激痛に思わず顔を歪めながら自身の身体を見下ろすと、見たところ大した損傷はしてないようだが身体の至る所から流血しており、無理に動こうとすると痛みが走る。
しかし、今は自分の身体を気に掛けてる場合なんかじゃない。痛む身体に鞭を打って引きずりながら二人の下へ近付いた蓮夜は風太郎と五月の肩を掴みながら揺さぶり、必死に何度も呼び掛けていく。
「おい、おい……!二人とも……!しっかりしろっ!頼むから目を開けてくれ……!中野、風太郎っ!」
「…………っ…………ぅっ…………」
「ぅぅっ………」
(っ……!まだ息はある……!)
蓮夜に肩を激しく揺さぶられ、風太郎と五月は顔を歪めて微かに声を漏らし、反応を見せた。
意識こそまだ戻らないが、二人から返ってきたその反応でまだ息があるのを確認した蓮夜は次に二人の身体を診て特別酷い傷がないかを確かめると、今度はすぐ傍に倒れる一花達の安否を確かめる。
彼女達一人一人の口元に耳を近付ければ微かながらだが規則正しい呼吸音が聞こえ、念の為、手首に人差し指と中指を合わせ当てれば脈があるのも感じ取れる。外見も多少の傷はあれど、大した外傷などは何処にも見当たらない。
(っ……良かった……軽い軽傷こそしてるが犠牲者は誰もいない……こんな奇跡、本当にあるものなんだな……)
正直あの炎に飲み込まれる一瞬、あんな規格外な一撃からこの身一つで風太郎達を守り切るのは不可能かもしれないとも思ってしまった。
最悪誰かが死ぬか、もし仮に命を拾えたとしても身体の一部が吹き飛んでいても可笑しくはなかった。何せ、奴に散々痛め付けられてきた自分でさえあの一瞬で死を覚悟した程だ。
なのに誰一人、こうして何も欠ける事なく自分を含めて全員が助かったのは正に奇跡と呼んでも過言はな──
(……全員……?いや、待て……クリス……クリスはどうしたっ……?!)
風太郎達の無事を確認して安心感から一瞬気を抜きそうになるも、其処でクリスの姿がない事に気付いた蓮夜は慌てて周りを見渡し、クリスを探す。
しかし周囲一帯には自分達以外の人影など一切見当たらず、蓮夜は痛みの走る身体を抑えながら立ち上がりクリスを探して走り出した。
(っ、不味いっ……あの時クリスは俺達を庇って、最前線で奴の攻撃を受け止めてたっ……俺達全員が五体満足だったとは言え、アイツもそうだとはっ……!)
自分や風太郎達がこの程度の傷で済んだのも、恐らくクリスがあの時咄嗟にリフレクターを張って身を呈して守ってくれたおかげだ。しかしその代わり、最前線であんな規格外な一撃を直接受け止めたクリスのダメージは到底計り知れない。
もしかしたら最悪……などと、嫌な想像が一瞬過ぎってしまう頭を振って払い退け、逸る気持ちに駆られるまま蓮夜が周囲を忙しくなく見渡しながら必死にクリスを探し、あちこちで燃え盛る炎に遮られるせいで視界もままならない一帯を駆け回る中……
「………………、ぅ………………」
「──?!クリスっ……?!」
たまたま顔を向けた視線の先、黒焦げた大木が幾つも無造作に転がっている木々の間から、僅かに人の手らしき物が見えた。
それに気付いた蓮夜が足を止めて目を凝らすと、木々の間に腕を力無く投げ出して地に伏せる少女……髪や服が灰で黒ずみ、頭から血を流して倒れるクリスの姿を発見し、一目散に彼女の下へと駆け寄りながらクリスの身体を抱き起こしていく。
「クリスっ……!クリスっ!しっかりしろっ、俺の声が聞こえるか……!?クリスっ!!」
「…………、っ…………ぅっ…………っ…………」
必死に声を掛ける蓮夜に何度も肩を揺さぶられ、クリスの瞼が気だるげにゆっくりと開かれていく。そして何度か重い瞬きを繰り返し、周りを確かめるように視線を僅かに左右に向けると、自分の顔を覗き込む蓮夜に気付き、徐に顔を上げながら呆然とした表情を浮かべる。
「っ…………?お、まえ…………なん、で…………?」
「気が付いたか……!動けるか?!何処か酷く痛んだりっ、身体に異常を感じたりはっ……?!」
「?…………ぁ…………」
意識を取り戻したばかりで頭が状況に追い付いていないのか、何処か虚ろな目を浮かべていたクリスの意識が蓮夜の忙しない声で徐々に現実へと引き戻されていき、同時にここに至るまでの記憶も鮮明に思い出していく内に表情が険しくなっていく。
「そうだ…………あた、しは…………っ…………お、おい、アイツらはっ……?全員、無事なのかっ……?」
「ああ、皆無事だ……!お前が咄嗟に俺達を庇ってくれたおかげで……」
「…………そう、か…………ハハッ…………なら、あたしも…………少しは役には立てた、ってワケかっ…………」
「っ……お前っ……」
まともに喋るのも億劫なほど酷い傷を負ってるのか、腕の中でたどたどしい口調でそう言いながら力無くクシャクシャに笑うクリスの顔を見下ろし、蓮夜は悲痛げに眉を顰めてしまう。
彼女の姿は今、右頭部から額に掛けて流れる血が入った右目は赤く染まり、黒焦げて破れた服も所々血が滲み、体中はボロボロで腕や足にも火傷が多く見られる。
恐らくリフレクターを全力で張ったおかげでまだこの程度で済んだのだろうが、もしも一歩間違えていればあの炎にその身を焼かれて本当に死んでいたかもしれない。あの攻撃はそれだけの威力を誇るモノであったと、周囲の惨状が何よりもソレを物語っている。
なのに、こんな痛ましい姿になりながら尚も他人の身を案じて安堵する彼女に対し、蓮夜も内から沸き上がる憤りの感情のままに思わず口を開き掛けるが、同時に今の彼女の姿が以前に似たような無茶をし、死に体同然の身体で無謀な真似をして憤慨した彼女に激しく叱責された時の自分の姿と重ね合わせた途端に何も言えなくなり、口を閉ざして力なく俯いてしまう。
「……情けない……こんな時に……こんな風になって、漸くお前の気持ちを理解出来るようになるなんてな……」
「……ぇ……?」
微かに眉を顰め、自嘲気味に笑いながらそんな呟きを漏らす蓮夜。クリスはその言葉の意図が読めず怪訝な表情を浮かべて思わず聞き返してしまうが、その時……
『───いい加減しぶてぇにも程があんだろ……死に際ぐらいせめて潔く出来ねぇのかよ、お前らは?』
「「……ッ!」」
何処からともなく響き渡る、心底うんざりとしたような男の声。
苛立ちを含んだその声に釣られて二人が声が聞こてきた正面に目を向けると、其処には黒煙の向こうからイグニスイレイザーが悠然とした足取りで姿を現し、更にその足元の地面からはシャークイレイザーが飛び出し、イグニスイレイザーの隣に立ち並んだ。
「っ……!アイツ、らっ……ぐっ!?」
「クリスっ!」
姿を現した二体のイレイザーを目にした途端、クリスは鋭い目付きで蓮夜の腕の中から抜け出ながらペンダントを手に再びギアを纏おうとするも、全身を駆け巡った激痛に苛まれて両膝を着き、身体から滴り落ちた血の点々で地面を赤く染めてしまう。
それを見て蓮夜も血相を変え慌ててクリスに駆け寄り身体を支えるが、イグニスイレイザーはその体たらくを見て鼻を軽く鳴らした。
『いや、案外そうでもねえか……命こそ運良く拾いはしたものの、その女はもう使い物にはならねぇし、テメェ自身は右腕もロクに使えない。加えて後ろのお荷物を抱えながらとなりゃ状況は既に絶望的だ。……今度こそ詰みだって、とっくに理解してんじゃねーのか?』
「ッ……」
「…………」
冷淡にそう告げるイグニスイレイザーに、クリスは今の自分の有り様を指摘されて何も言い返す事が出来ず唇を噛み締め、蓮夜はクリスを労りながらイグニスイレイザー達から顔を逸らしたまま彼ら側からは表情は読めず、一言も喋らない。
その無言を肯定と受け取ったイグニスイレイザーはハッ、とほくそ笑みながら自らの身体から再び無数のダストを次々と生み出していき、自身とシャークイレイザーの周囲に蔓延らせていく。
『反してこっちの手勢に際限はない、文字通りな。圧倒的な戦力のこっちと違って、そっちは状況も最悪、S.O.N.G.の連中もいなくて孤立無援……そら、そんなお前等に此処からどんな逆転が望めるよッ!』
『『『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』』』
「ッ……チィッ!」
『Code x…clear!』
イグニスイレイザーが顎で指し、無数のダストの大群を一斉に蓮夜達へ差し向ける。
それを目にした蓮夜もクリスを地面に横たわらせ、腰に巻かれたクロスベルトのバックルにカードを装填しながらすぐさま全身を駆け走る激痛を振り払うように起き上がって疾走し、瞬時にクロスに変身しながら最初に襲ってきたダストを左拳の裏拳で殴り払い、続けざまに回し蹴り、ハイキック、ローキックなどの蹴り技を多用して次々とダスト達を蹴り飛ばし、自分の背後に倒れるクリス達に近付けまいと必死に奮闘し続けるが……
『ツォラァアアアアッ!!』
『ッ!―ガギィイイイイッ!!―がぁああッ!!ぐうっ……!!』
雪崩込むように迫るダストの数々、背後のクリス達ばかりに気を取られたクロスの死角からシャークイレイザーが奇襲を仕掛けて飛び掛かり、両腕の刃で切り裂かれてしまう。
胸の装甲から火花を散らして怯むクロス。それを好機と踏んでダスト達が一斉に様々な方向からクロスへと襲い掛かるが、それでもクロスは負けじと捨て鉢気味に放った蒼光を纏った後ろ回し蹴りでダスト達を纏めて蹴り払い、他のダスト達を牽制するも、シャークイレイザーはそれに臆する事なく追撃を仕掛けて両腕の刃をがむしゃらに振るい、クロスへと襲い掛かっていく。
『ハッハァッ!さっきに比べて随分動きが鈍いじゃないかッ!お前もそろそろ終わりだなぁッ!!』
『ッ……勝手に終わらせてくれるなっ!』
耳障りな笑い声と共に両腕の刃で立て続けに切り掛かるシャークイレイザーの斬撃を紙一重で回避しながら後退すると、クロスは後ろから爪で不意打ちを仕掛けようとしたダストの奇襲を身を翻して避けながらそのままダストの背後に回り込み、その背中を蹴り飛ばしてシャークイレイザーに思いっきりダストをぶつけ合わせ、二体纏めて転倒させていった。
『うぉおうっ?!こ、のっ……!退けよノロマァッ!!』
『トドメだっ……!』
自分の上に覆い被さるダストの頭や背中をバシバシと殴って一刻も早く起き上がろうとするシャークイレイザー。その隙にクロスはバックルから左腕に掛けてアンダースーツ上に伸びたラインに蒼い光を走らせ、左拳にエネルギーを凝縮させながらシャークイレイザー達に向かって勢いを付けて飛び掛かり、未だもたついて動けない二体を纏めて始末しようと空中で左腕を振りかぶるが、
『───おっと、其処までだ』
『……ッ?!なっ……!』
そんなクロスの眼前に、全身に炎を身に纏ったイグニスイレイザーが一瞬で移動し、立ち塞がってしまったのだ。
驚愕と共に慌てて身を引こうとするクロスだが、イグニスイレイザーはそうはさすまいと素早く左腕を伸ばしてクロスの首を掴んで締め上げ、更に巨大な右手の掌に小さな炎のエネルギー弾を形成し、クロスの胸に押し当て、
『プレゼントだ、受け取れやァッッ!!!!』
『───ッッ!!!!』
ドォオオオオッッッッ!!!!!!!と、凄まじい衝撃音と共にクロスの胸に押し当てられた炎のエネルギー弾が爆発し、超巨大なエネルギー波となってクロスの姿を掻き消す程の勢いで飲み込んでしまったのだった。
そして、徐々に勢いが失われていくエネルギー波の中から全身が焼き焦げた装甲から幾つもの白煙を立ち登らせながらクロスが吹っ飛ばされて地面に叩き付けられ、そのままクリスの下にまで地面を何度も勢いよく転がって倒れ込み、変身も強制解除されて蓮夜の姿へと戻ってしまった。
「お、おいっっ!!!!」
「うっ…………ッ…………」
自分の下にまで吹き飛ばされてきた蓮夜を見て、漸く僅かにだけ身体を動かせるようになったクリスが覚束ない足をもつれさせながら慌てて駆け寄り、蓮夜の身体を抱き起こした瞬間、ギョッとなる。
あの大火力のエネルギー波の直撃を至近距離からまともに受けたせいで全身に新たな火傷を負い、体中に巻かれていた包帯は右腕だけを辛うじて残して全て焼き切れ、剥き出しになった怪我から傷が開き、夥しい量の血が流れ出てしまっている。
……とてもじゃないが、これ以上戦い続けられる状態でないのは一目瞭然だ。一目でそれが理解出来てしまう程の重症を負った蓮夜の姿を見てクリスも悲痛げに顔を歪める中、地上に片膝を着いて着地したイグニスイレイザーは徐に身を起こし、クリスに抱き抱えられる蓮夜の醜態を見て鼻で笑ってみせた。
『無様なもんだ。そんな連中、 とっとと見捨てていりゃそんなザマになる事もなかったろうによ』
「っ……テメェッ……!!」
『おいおい、なに睨み効かせてくれてんだ?……そもそも、そいつがまともに戦えなくなったのは元はテメェのせいだって事、もう忘れちまってんじゃねーだろうな?』
「……ッ!」
蓮夜の今の姿をみっともないと嘲るイグニスイレイザーを鋭い目付きで睨むクリスだが、その言葉に思わず目を剥き、顔を俯かせて自分の腕の中の蓮夜を悲痛げに見下ろしてしまう中、イグニスイレイザーは何も言い返せず言い淀むクリスを見て鼻で笑いながら容赦なく言葉を続けていく。
『あくまで俺の推測だが、あの時のてめぇの向こう見ずな様子からして、お前とそいつの間に何かしらの確執らしきもんがあったんだろうってのは俺もある程度想像は付いてた。そんなお前が今になってソイツと仲良しこよししてるって事は、その確執自体はそっちで解消したんだろうな。……が、それでテメェの失態が完全に消え去った訳でもねえ』
そう言って、イグニスイレイザーは徐に左腕を上げて蓮夜を抱えるクリスを指差す。
『現に今、そいつはロクに戦えもせずお前らなんかを頼らざるを得ない状況に陥り、それも上手くは行かず返り討ちに遭ってこの有様だ……要するにお前っていう余計な足手纏いじゃなく、此処にいたのが記号の力を手にした立花響だったんなら、俺に殺されるにしても、もうちっとマシな結果にはなってただろうってハナシだ』
「ッ……くっ……」
この場にいたのがクリスではなく響だったなら、今よりきっとマシな結果になっていたかもしれない。傍から聞く分にはただの言い掛かりの戯れ言にしか聞こえない引き合いでしかないが、それを誰よりも自分自身で理解してしまっているクリスはそんなイグニスイレイザーの心無き言葉を真に受け止めて何も言い返す事が出来ず、悔しげに瞼を伏せて己の無力感に苛まれてしまうが、その時……
「───取り消せっ……」
「……?!」
『……は?』
そんなイグニスイレイザーに反論したのは、クリスの腕の中に抱かれる蓮夜だった。
静かな声音で、しかし何処か怒りを滲ませたその言葉に傍らのクリスも呆気に取られるだけでなく、イグニスイレイザーも怪訝な反応を返す中、蓮夜は気怠げにクリスの腕の中から立ち上がり、足元をふらつかせながらもイグニスイレイザーをまっすぐ睨み付ける。
「取り消せ、と……そう言ったんだっ……何も知らないお前が、クリスを侮辱するんじゃないっ」
『……ハッ。何を急に言い出すかと思えば、俺は事実しか言ってないつもりだぜ?実際お前はその怪我のせいで俺に一切優勢を取れず、此処まで追い込まれた。そうなった全てのきっかけは、身の程を弁えなかった其処の女がテメェの足を引っ張ったせいだろーがよ?』
それはお前自身も分かってんだろ?と指摘し、イグニスイレイザーは顔を俯かせるクリスに視線を向けて容赦のない言葉を浴びせ掛け続ける。
そして蓮夜は腕を抑えながらそんなクリスを一瞥すると、正面に顔を向け、瞼を伏せる。
「そうだな……この怪我さえなければ、もっと上手くお前達を相手に立ち回る事だって出来ていたかもしれない……それに関しては完全に、こちらの過失ではある……」
「っ……」
こんな怪我さえなければ奴等を相手に遅れを取る事もきっとなかった。当の本人である蓮夜の口から出たその言葉にクリスの表情は更に陰り、イグニスイレイザーも僅かな笑みを漏らす中、蓮夜はゆっくりと瞼を開けた瞳で血に濡れた前髪越しにイグニスイレイザー達を再び睨み付け、
「あの時、俺達は間違えた……クリスは独断で危険な戦場に飛び入って無茶をし、俺はそんな彼女の力を信じ切る事が出来ずに、逆に危険な目に遭わせてしまった……それは確かに、"俺達"の失敗だった」
『……何?』
「……!」
思わぬ言葉に、イグニスイレイザーは怪訝に眉を顰め、クリスは驚きから弾かれたように顔を上げる。そんな両者の視線の板挟みになりながら、蓮夜は尚も力強く言葉を紡いでいく。
「お前も此処まで、幾度となく彼女達と戦って目にしてきた筈だ。記号の力がなくても、クリスはお前達を相手に一歩も退かず渡り合った……その力を早くに、この世界に飛ばされる前の戦いの時点で俺が信じる事が出来たのなら、お前に遅れを取る事も決してなかった筈だ」
『……なんだそりゃ。その言い方だとまるで、何か一つでも違っていたら俺に勝ててたみたいに聞こえるじゃねぇか』
「そう言ってるんだ。あの時、俺とクリスが組んで万全な状態だったなら、お前を相手取ったとしても勝算はあったとな」
『はあ?何を根拠にそんなホラ吹きを──』
「現に彼女はたった一人で、俺達を本気で殺そうとしたお前の一撃を防いでみせたぞ……お前達がフィクションと見下す彼女が、たった一人でだ」
『…………』
小馬鹿にするように笑うイグニスイレイザーに対し、表情を一切変える事なく強気な発言を返す蓮夜。それを聞いてイグニスイレイザーも思わず笑みを消してしまう中、蓮夜はクリスと、彼女の背後の風太郎達に交互に視線を向けていく。
「クリスだけじゃない。中野は自分の家族を守る為に、お前達に恐れて逃げ出す事もなく自分の姉達を守り抜いた……風太郎は己が傷付く事も顧みずに、勝てないと知っていながらそれでも中野達を守る為にお前達に立ち向かった……」
そう、自分やクリスだけじゃない。彼等の協力がなければ囚われの身の一花達を救い出す方法も思い付く事もなく、二人がギリギリまで踏ん張ってくれていなければ自分達が駆け付ける前に全てが手遅れになっていたかもしれない。
クロスやシンフォギアの力もなく、か弱い人の身でありながら大切な人達の為に身を張り、必死に戦った風太郎と五月の顔をジッと見つめると、蓮夜は再びイグニスイレイザーを見据え、鋭い目付きで睨み付ける。
「そしてクリスはそんな彼等を……俺を全力で庇い、その身を呈してこの命を繋いでくれた……誰も犠牲にせず、誰も死なせなかった……!俺一人では決して叶わなかった、此処にいる全員の頑張りがあったからこの結果がある……!今の俺がある!その事実は決して変わりはしないんだ……!」
奴は蓮夜の力を自分よりも下と見下しながらも、蓮夜だけを警戒してイレイザーと戦う術のないクリス達を大した脅威ではないと捨て置いていたが、それは奴の認識不足だ。
もしも本当に蓮夜一人だったのなら、そもそも此処まで辿り着く事も叶わず、気を逸らせて無茶を通した結果、もっと早くに奴の手によって始末されていたかもしれない。
そうならずに済んだのも、他ならぬクリスや風太郎達が間違いを正し、力を貸して支えてくれたおかげなのだ。
こうして命まで救われた今、そんな彼女達を貶し、唾を吐き掛けるような奴の言葉を決して許してはおけなかった。
「記号の力の有無だとか、フィクションだなんて関係ない……!何物にも替え難い、大事な何かを守る為にその身を削って守り抜いた彼女達の強さを侮辱する事だけは、俺が絶対に許さないっ……!!」
「……っ!」
普段は感情の機微が少ない彼からは想像も付かない、誰かを守る為にその身を粉にした風太郎や五月を、クリスの奮闘を侮辱するイグニスイレイザーに対して明確な怒りの感情をぶつける蓮夜。
そんな彼を前に先程まで自身の無力感に苛まれていたクリスも目を点にし呆然とした顔を浮かべるが、次第にその瞳の奥に力強さを取り戻していき、イグニスイレイザーはそんな蓮夜の言葉を受けて苛立たしげに舌打ちを返す。
『ごちゃごちゃと鬱陶しい説教を垂れやがってっ……許さなきゃどうするってんだよ?今更なにほざこうが、結局この戦力差に変わりはねぇ。死に損ないのお前等に、此処からどんな逆転が望める?しかもたった一人、他が使い物にならなくなったお前だけで「一人じゃ、ねぇっ……」……!』
今更何を吠えた所で、己自身も酷く傷付き、しかも足を引っ張る怪我人まで抱える事となった蓮夜一人に何が出来るのかと、ただの強がりにしか聞こえない蓮夜の言葉を虚勢だと吐き捨てようとするイグニスイレイザーの台詞をクリスが声を絞り出して遮り、グググッ……と震える足に力を込めて僅かに身を起こそうとしていた。
「今のコイツの隣には、あたしがいるんだっ……一人でなんか戦わせる訳ねぇだろっ……!幾らお前らが強かろうと、数が違ったって、何十何百と打ちのめされたって、何度だって立ち上がるっ!コイツ等とも交わした取り引きを……約束を守る為にもなぁっ!」
「……クリス」
蓮夜の言葉により失い掛けていた戦意が触発され、イグニスイレイザー達を正面から見据えるクリスの眼差しには迷いも淀みも一切ない。
その姿から並々ならぬ気迫を感じて傍に立つ蓮夜も気圧され僅かに目を剥くも、その言葉の頼もしさと嬉しさから微笑を浮かべ、灰で所々黒ずんだ包帯で巻かれた右手をジッと見つめた後、その手をクリスに向けて差し出した。
「!お前……?」
「風太郎達との取り引きを受けたのは俺も一緒だ……だからやるぞ……他の誰でもない……俺と"お前"の、二人でだ……」
「……はっ、ったりめーだ!」
記号の力の有無だとか、奴等との力量や物量の差なんて関係ない。
今までの借りを奴等に返す為にも、元の世界に帰る為にも。
そしてこの見知らぬ世界で出逢い、絆を共に育んだ風太郎や五月達の為にも、眼前の強敵をこの手で必ず討ち倒す。
胸に誓ったその想いと共に、クリスは何処か挑戦的にも聞こえる蓮夜の言葉に強気な笑みを返しながら、差し出されるその右手を躊躇なく掴み取った。
───その瞬間、クリスが伸ばした手の中に握られていたブランクカードに赤い輝きが灯り、イチイバルを模した赤い弓矢と銃が交差する紋章がカードに浮かび上がったと同時に、二人が繋いだ手と手からまるで波紋のように凄まじい勢いで赤い光が放出されたのであった。
『ッ!!?グ、グウウウゥゥッッ?!!』
『ギ、ガァアアアアアアアアアアッッ?!!』
『?!な、何だ、この光?!』
『ッ……!あ、れは……まさか?!』
突如発生した二人から放たれる赤い光によってダスト達は目を抑えて悶え苦しみ、シャークイレイザーは困惑を、イグニスイレイザーは明らかな動揺を露わに蓮夜とクリスから目を離せずにいる。
そんな中、クリスを引っ張り起こした蓮夜は彼女から渡されたカード……イチイバルの紋章が描かれたカードを僅かな驚きと共にジッと見つめてクリスに目を向けると、クリスは何処か得意気な笑みを返し、それに対し呆気に取られていた蓮夜も何かを悟り目を伏せて微笑しながら力強く頷き返して共にイレイザー達と向き直り、クリスはギアのペンダントを手に、蓮夜はクリスから受け取ったカードをベルトのバックルへと装填した。
『Code Ichaival……』
「Killiter Ichaival tron……」
「……変身!」
『clear!』
クリスの美しい唄声と蓮夜の力強い掛け声が重なり、鳴り響く電子音声と共に二人の姿が赤い光に包まれながら変化していく。
クリスは再びその身にイチイバルのギアを、蓮夜は黒のアンダスーツを纏いながらその上に何処からともなく出現した無数の赤い装甲をその身に次々と装着していき、最後に後頭部から下りてきたパーツが展開されて仮面となり、頭部に纏われると同時にその両手に赤い二丁銃が握られ、変身を完了させた。
白色のラインが所々に走った滑らかなデザインの赤い装甲と交差する二丁銃を彷彿とさせる緑色の複眼、腰部には巨大なX状の赤いリアアーマーを装備したその姿こそ、クリスとの繋がりから得た第二のクロスの新たな形態……イチイバルの能力をその身に顕現させた『仮面ライダークロス・タイプイチイバル』の姿そのものであった。
『ッ?!な、何だよあれっ……?また姿が変わったぞっ?!』
『(ッ……んなバカなっ……此処にきて、二人目が覚醒したってのか……?!)』
「……ぅ……ぐっ……?」
「っ……あ、れ……?わた、し……?」
クロスが手にした新たな未知の形態。これまで自分達が相対してきたそのどれもとは明らかに質の異なる力を肌で直接感じ取ったイグニスイレイザー達の間にどよめきが広がっていく中、二人が変身した際に発生した光に当てられて気絶していた風太郎と五月が目を開け徐々に意識を覚醒させていき、周囲の凄惨な光景や、自分達に背を向けて佇むクロスとクリスを見て驚愕した。
「って、な、何だこの状況っっ!!!?」
「!お前ら、目ぇ覚ましたのか……!」
「ゆ、雪音さん?に、黒月、さん?え……?ええっ?い、一体どうなってるんですかこれぇええっ?!」
つい先程まで山中の森の中にいた筈なのに、周りはいつの間にか焼け野原、目の前にはクリスのギアと同じ姿をしたクロスと、少し気を失っていた間に状況が様変わりし過ぎてて混乱を隠せない様子の風太郎と五月。
そんな先程までの緊迫してた空気を吹き飛ばす程の、二人の愉快な騒々しさにクロスも仮面の下で思わず可笑しそうに微笑すると、その表情を真剣なモノに切り替えながらイグニスイレイザーを見据え、左手の銃の銃口を突き付けて口を開く。
『これで実質二対二、そちらとの戦力差に大きな開きはなくなったぞ……散々こちらを格下だと侮って、殺す機会を逃したツケが回ってきたようだな……』
『ッ……ハッ、何を勝気になってやがんだ?そんなんで互角になったつもりかよっ!』
クロスの新たな形態、そしてそれに伴うクリスの記号の力の覚醒によってイレイザーに対抗する術を手に入れた今、自分達にも勝算が出て来たと確信しているクロスの言葉を鼻で笑い、イグニスイレイザーは怒号と共に自らの身体に爪を立てて無数の塵屑を周囲に撒き散らしていき、新たなダスト達を再び無数に生み出してしまう。
『『『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァーーーーーーーーーアアァァァッッッッッ!!!!!』』』
「っ!まだあんだけの数が出せるのかよっ……!」
『こっちの戦力に際限はねえと言っただろーがよっ……このタイミングでそいつが記号の力に目覚めたのは確かに想定外だったが、まだ許容出来る範囲だ。寧ろ運悪く引いた外れが自分から当たりくじになってくれたんだからなぁ……そのガキを見逃してやる義理は今度こそ完璧になくなったって訳だ……!』
元々今回の作戦は記号の力に目覚めた響を消す手筈も含まれていたが、戦況の流れからその狙いも頓挫してしまい、クロスを始末する事を優先し妥協してクリスを一緒にこの物語へ跳ばす羽目になってしまったが、クリスが二人目として覚醒したのなら話は別だ。
こうして明確な脅威へと変わった今、クリスも纏めて仕留める事が出来れば残る脅威は響一人だけとなる。
そう考えれば最初こそ驚きはしたものの、漸く当初の目的を達成出来るようになれたのだと思えば都合の良い誤算でしかないと考えを改めたイグニスイレイザーは完全に気を取り直し、更に数を増やしたダスト達で自身とシャークイレイザーの周りを埋め尽くしながら不敵な笑みを浮かべていく。
『どっちにしろテメェら全員、此処から生かして帰す気は更々ねぇんだ。纏めて始末しろぉっ!』
『『『オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!』』』
「ま、また来る?!」
イグニスイレイザーの号令と共に、新たに増えた百をとうに超える数のダスト達が不気味な奇声を発しながらクロス達に目掛けて一斉に突っ込んでくる。
その光景を前に風太郎や五月もギョッとしてしまう中、クリスは取り乱す事なく即座に両手の銃でダスト達に狙いを定め、クロスも銃を構えながら新たに手に入れた力を開放しようとした、その時、
───ダストの大群の真横から突如、無数の火花を撒き散らしながら宙を裂いて謎の蒼い光が出現し、その中から1台の蒼いマシン……シンフォギアの世界に置き去りにしてきた筈のクロスのバイクであるクロスレイダーと、そのマシンのハンドルや後部座席に必死にしがみつくギアを纏った状態の響、切歌、調の三人が目を回しながら勢いよく飛び出してきたのだった。
「ひぇえええぁあああああああああああああああっっ!!!?」
「と、止まってぇえええええええええええええええええええっっ!!!?」
―ブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーオオオオォンッッ!!!!―
『ッ?!ゴォアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!?』
『ギャアァアアアアアアアアアアアアアアッッ?!!!』
『なっ……』
「は……はぁああああっっ!!!?」
『アレは、まさか……響達か?!』
虚空に現れた謎の光から突然前触れもなく現れた、クロスのマシンと響達の乱入。
元の世界にいる筈の彼女達の思わぬ参戦に完全に意表を突かれたクリスやイグニスイレイザー達も驚愕を隠せず目を剥く中、クロスレイダーは自動操縦で響達を振り回しながら猛スピードで辺りを駆け回り、ダスト達を次々と跳ね飛ばしていく。
その光景を前にクリスと一緒に呆気に取られていたクロスは漸く我に返り、慌てて複眼を発光させてクロスレイダーに遠隔操作を送ると、ダスト達を引き取ばしていたクロスレイダーが不意に動きを止めたかと思いきやそのまま方向転換してクロスとクリスの下へと移動し、エンジンを停止させて完全に沈黙したと共にマシンに掴まっていた響達も手を離しその場にへたり込んでしまった。
「うぅっ……や、やっと止まってくれたぁっ……」
「っ……まだ目が回る……ぐるぐるっ……」
「あ、アタシも、気持ち悪くて気分が……うっぷっ……」
「お、お前ら……!やっぱお前らかよっ?!何でこんな所にっ?!」
「……ぇ……って、ク、クリスちゃんっ?!それに蓮夜さんもっ?!良かった……!やっぱり二人とも無事だったんですねっ!」
「あ、ああ、けどお前ら何で──って有無も言わずいきなり抱き付くんじゃねぇえええええええっ!!」
乗り手の事を一切顧みないクロスレイダーの猛スピードにやられたのか、グロッキー状態に陥って切歌や調と共に顔面蒼白で地面に座り込んでいた響は慌てて駆け寄ってきたクリスとクロスに気付き、二人の顔を交互に見た途端、先程までの気落ち振りがまるで嘘のように瞬時に立ち直ってクリスにガバッ!と思いっきり抱き着いた。
そんな彼女を引き剥がそうとクリスが全力で響の顔を押して抵抗する中、そんな二人を前にクロスも仮面の下で僅かに苦笑を浮かべつつ、切歌と調と視線を合わせるように徐に腰を落とした。
『しかし、お前達一体どうやってこの世界に……?まさか、この短期間の間に異世界に渡る術を手に入れて、俺達を助けに来てくれたのか?』
「え……あ、えーっと……別にそういう訳ではなかったのデスけどぉ……何と言うか、そのぉ……」
『……?』
二人の目を交互に見つめながらそう問い掛けるクロスに対し、切歌は両手の人差し指をツンツンさせながら一体どう説明したものかと気まずげに視線を逸らすと、そんな彼女の隣で漸くグロッキー状態からまともに会話出来るまでに回復した調がクロスレイダーに目を向けて口を開いた。
「その……実は私達、さっきまであのマシンについて調べる為に本部にいたんです……蓮夜さんが残してくれたあのマシン……あれが突然、蓮夜さん達がいなくなった数日前から違う世界へと繋がるゲートのようなモノを開いて……もしかしたら、それがクリス先輩と蓮夜さんが跳ばされた先の異世界に繋がっているんじゃないかと踏んで、本部の方で調査をずっと続けていたんですけど……でも……」
「そのバイクがさっき突然、運転手も無しに勝手に動き出してゲートに向かって突っ込もうとしたんデスよ!それですぐ近くで待機していたアタシ達がじゃじゃ馬みたく暴れ回るバイクを何とか止めようとしたデスけど、全然言う事を効いてくれなくてデスね……」
「それでも何とか皆で抑え付けようとしたんですけど、バイクはそのまま私達ごとゲートの中に突っ込んでしまって、そうしたらいつの間にかこんな場所に……」
『……そんな事が……?』
調と切歌が語ってくれた突飛な話の内容にクロスも流石にその全てを噛み砕いてすぐに飲み込む事が出来ず、呆然とした様子で響達を此処まで連れてきた自身のマシンを見つめていると、クリスに抱き着いて彼女の手で引き剥がされようとしてる響がビシッ!と人差し指を立てながら口を開いた。
「それで私達、暴れるバイクに振り回されながら思ったんですよ。もしかしたらコレ、蓮夜さんがバイクを呼び出そうとしていて勝手に動き出したんじゃないかって!」
『…………え?』
「それならこのまま、バイクに付いていけばクリス先輩や蓮夜さんの下へ運んでくれるんじゃないかって思ったデス。そうしたら予想通り、ほんとに上手く行ったデスよ!蓮夜さん、実はこうなる事を予見してちゃんと対策残してたんデスね!中々の策士デスよ!」
「出来ればもっと早くに助けに来られれば良かったけど、私達がそれに気付くのに遅くなったばかりに……察しが悪くてごめんなさい」
『………………』
(いや、ぜってぇソレ買い被り過ぎっつーか……多分、コイツもそんなトンデモ機能が付いてたとか予想もしてなかっただろ……)
前に病院で元の世界に戻る方法について話し合っていた際、蓮夜自身の口から「俺は異世界間を渡る手段を持っていないし、仮に持ってたとしても覚えてないから無理だ」とキッパリ断言していたのは記憶新しい。
なので、コレも全てクロスの狙い通りだったのだと完全に信じ込んでしまってる響達に尊敬の念を向けられるクロスにクリスも何とも言えないビミョーな感情を滲ませたジト目を向け、クロスの方も今までただの便利な移動手段程度にしか思っていなかった自分のマシンに備わっていたオーバーテクノロジーに内心ビビり倒しており、盛り上がる響達のハイテンションとは対照にずっと『何それ……知らん……怖っ……』みたいな顔を仮面の下で浮かべて呆然と立ち尽くす中、イグニスイレイザー達の間では突如現れた響達を前にどよめきが広がっていた。
『お、おいっ、どうなってるんだ一体っ!?アイツら、元の物語から増援が来る事はなかったんじゃないのかっ?!』
『っ……(どうなってるはこっちの台詞だっ!奴のマシンにそんな機能があっただとっ?デュレンの野郎っ、そんな大事な情報これっぽっちも話してなかったじゃねえかっ……!!』
クロスが何かしらの方法で異世界を渡る術を有しているのは知ってはいたが、まさかそれが奴のマシン自体に備わっていたなど何一つ聞き及んでいない。
そのせいで完全に分断したかと思われた響達が合流するという最悪の事態に陥り、圧倒的な戦力差によるイニシアチブを覆されてイグニスイレイザーも動揺が隠せない中、クロスレイダーに跳ね飛ばされたダスト達が呻き声を上げながら身を起こしていき、その声を聞いて瞬時に我に返ったクロスは両手の銃を構えてイグニスイレイザー達と向き直っていく。
『とりあえず詳しい説明は後だ……!来てもらって早々で悪いが、手を貸してくれ!』
「えっ、あ、は、はい!それは全然大丈夫なんですけど……」
「ところで、こっちにいるこのおにーさん方は一体何処の何方さんデスか?」
「えっ……」
「あ……わ、私たちは、その……」
と、響達のいきなりの登場に呆気に取られていた風太郎と五月の方に振り返る切歌に不意にそう問われ、風太郎と五月は戸惑いを露わにどう答えるべきか迷って顔を見合わせてしまう。
だが、二人がその質問に答えるよりも先にダスト達が一斉に動き出してクロス達へと襲い掛かり、腕を振りかぶりながら迫る無数のダストを見てクリスも咄嗟に両手のハンドガンを乱射し、ダスト達の頭を次々と撃ち抜きながら叫ぶ。
「そっちの説明も今は後回しだ!ともかくこのイレイザー共はそいつ等を狙ってる!お前らはこの雑魚共を蹴散らしつつ、そいつ等を守ってくれ!大元のイレイザー達はあたし達でやる!」
「え、で、でも二人だけじゃ……!」
『大丈夫だ。今の俺達なら奴等に遅れを取ったりはしない。……俺達に任せてくれ』
「蓮夜さん……」
たった二人でイレイザーに、それも上級を相手に挑むなど無茶無謀が過ぎるとしか思えないが、クロスはそんな響達の不安を拭うように安心感に満ちた声音で頷き、それに対し響も今のクロスの新たな姿、そしてクリスの背を交互に見て思案に浸るように一度瞼を伏せて考え込むと、今の二人の姿から何かを思い返して小さく笑い、クロスの顔を見上げて力強く頷き返した。
「分かりました。こっちは私達で引き受けます!だから二人も、後ろは気にせず思う存分やっちゃって下さい!」
『すまない、風太郎達を頼む……!クリス!』
「ああ……!今まで散々好き放題してくれた借り、此処で纏めて返してやる!」
不明な点も多く、気になる事は多々あれど、こうして響達が駆け付けてくれおかげで風太郎達の安全を気にしながら戦う必要がなくなったのは大きい。
この好機と勢いを逃すまいとして、響達に風太郎達を任せたクロスとクリスは互いに目配りをして頷き合うと同時に一気に駆け出すと、押し寄せるダスト達の間を上手く駆け抜けながらイグニスイレイザーとシャークイレイザーを目指して吶喊していき、イグニスイレイザーも迫り来るクロスとクリスを目にし忌々しげに舌打ちしながら拳を振り上げ、シャークイレイザーと共にクロス達を迎撃していくのであった。