戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第六章/五等分のDestiny×紅弾の二重奏(デュエット)⑦(後)

 

 

 

「ゥオラァアアアアアッ!!」

 

 

『ぐぅううっ?!こ、のォおおおおおおッ!!』

 

 

 響達が風太郎と協力してダストクラスターを撃破したのと同じ頃、クロスと共にイレイザー達に挑むクリスはそれぞれ二手に別れてシャークイレイザーを相手に一騎打ちに持ち込み、互いに一歩も引かぬ互角の戦いを繰り広げていた。

 

 

 クリスは一定の距離を保ちながらシャークイレイザーと互いを正面に、横走りに併走しながら相手の両腕の刃から放つ斬撃波を右手に握るリボルバーで次々に正確に撃ち落とす共に、即座に左手に握るもう一丁のリボルバーでシャークイレイザーの両腕を素早く狙い撃ち、次の攻撃を阻止し続けていた。

 

 

『ガッ?!ぐっ、クソォオオッ!―ズガガガガガガガガガガァンッ!!―うぁああああああッ?!』

 

 

 イレイザーに対抗出来る記号の力にした今、クリスが放つ弾の一つ一つがシャークイレイザーの身体に撃ち込まれる度に相応のダメージとなって傷を負わせていく。

 

 

 撃たれた片腕を抑えて痛みに怯んだシャークイレイザーの一瞬の隙を見逃さず、すかさず両手のアームドギアによるクリスの連続射撃がシャークイレイザーの全身に容赦なく浴びせられていき、シャークイレイザーはそのまま無数の火花を撒き散らしながら盛大に吹っ飛ばされ、何とか受け身を取りふらつきながら身を起こすその表情には困惑を隠す事が出来ずにいた。

 

 

『ぐっ、ギッ……ど、どういう事なんだっ……?!何故俺が押されるんだっ……?!力に目覚めたばかりのあんな、あんなガキなんかにィッ!!』

 

 

「……当然だろ。今のあたしには記号の力だけじゃねえ。あたしにはダチが、アイツが──心から信頼出来る仲間が付いてる!そんなあたしがお前に、教師でありながら自分達の未来の為に頑張るアイツ等の努力を嘲笑うような、テメェなんかに負ける道理はねぇんだよ!」

 

 

『ッ!小娘風情がっ、一丁前の口をほざくなァァあああああああああああああああっっ!!!!』

 

 

 アームドギアの銃口を突き付け、力強く、五月達への侮辱を口にしたシャークイレイザーに対する怒りを秘めたまっすぐな眼差しを向けてそう断言するクリスだが、そんな彼女の言葉を甘っちょろい妄言と吐き捨て、シャークイレイザーは両腕の刃を乱雑に振るって無数の斬撃波をクリスに飛ばしまくる。

 

 

 それを目にしたクリスも足幅を広げ、腰を僅かに落としながら何か動きを取ろうとしたものの、それよりも速く無数の斬撃波が立て続けにクリスへと直撃してしまい、凄まじい轟音と共に巨大な爆発が巻き起こり炎の中にその姿を消してしまった。

 

 

『ふ……フフ……ハッハハハハハハッ!ざまぁみろぉ!何がダチだ、仲間だ!偉そうに宣っておきながら、そんなモノが一体何の役に立つって───!』

 

 

 

 

 

 

───鼻をくすぐるGunpowder & Smoke

 

 

ジャララ飛び交うEmpty gun cartridges

 

 

 

 

 

 

『──ッ?!』

 

 

 黒煙が立ち上る空を仰ぎ、炎の中に消え去ったクリスを無様だと蔑んで声高らかに笑うシャークイレイザーの声を掻き消すかのように、何処からともなく美しい歌声が鳴り響く。

 

 

 その声に驚き、慌てて目の前に視線を戻したシャークイレイザーの目に、炎の奥で蠢く影……両腕を十時に組んで仁王立ち、リフレクターを前方に展開して無傷の姿で佇むクリスが片腕を振るって炎を払い除け、不敵な笑みと共に力強く歌を口吟む姿が映った。

 

 

『な……ッ!き、貴様ァッ!』

 

 

紅いヒールに見惚れて!う・っ・か・り・風穴欲しいヤツはァァァァ、挙手をしなァああっ!!

 

 

 確かに自身の技が直撃した手応えがあった筈なのに、まるで傷一つ付いていないクリスを見て動揺しながらも慌てて両腕の刃を構えようとするシャークイレイザーよりも速く、クリスが素早くマシンピストルに切り替えた両手の銃を連射して反撃する。

 

 

 それを見たシャークイレイザーは攻撃を中断して咄嗟に地面の中に沈み弾丸を回避すると、そのまま地面の中を高速で移動してクリスの背後から地上へと跳び出し突撃を仕掛けるが、クリスは直感のまま紙一重で不意の攻撃を身を翻して避けながら咄嗟に至近距離からの射撃で反撃を行う。

 

 

 だが、シャークイレイザーも宙で軽かに身を捻って矢を上手く避けながら再び地面の中へと逃げ込み、続けざまにまた別方向の地面から飛び出しクリスに再度突撃を繰り返していく。

 

 

血を流したって、傷になったってぇ!時と云う名の風と、仲間と云う絆の場所がぁああ!!(また地面の中からの不意打ち戦法かっ……!そっちがそうくるならァ!」

 

 

―バババババババババァッ!!―

 

 

『(……?!何だ……?何を始めやがった?)』

 

 

 シャークイレイザーの地中からの奇襲攻撃に対し、クリスは何を考え付いたのかいきなり辺り一面の地面に向かって手当り次第にクロスボウを乱射し始めたのだ。

 

 

 その気配を地中から感知したシャークイレイザーも訝しげな反応を見せるが、クリスが放つ矢が全く見当違いな場所にも撃ち込まれている事に気付き、歪にほくそ笑んだ。

 

 

『(馬鹿が、適当に撃ってれば俺が出てきた瞬間にまぐれ当たりが狙えるとでも思ったのか?生憎とこっちはお前の居場所が丸わかりなんだよ!)』

 

 

 シャークイレイザーはその名の通り鮫の能力も有し、聴覚が異常なまでに進化している。

 

 

 地面の中を潜っていながらも相手の居場所を探り当てて攻撃する事が出来るのも、標的が立てる足音、僅かな砂利を踏む音すら聞き逃さない感覚器官の正確さが為だ。

 

 

 故に幾ら無差別に攻撃されたとしても、矢が地面に着弾する音を聞き分けてその場所を回避し、クリスが僅かにでも身動きすれば砂を踏み締める音だけで何処にいるのかも手に取るように分かる。

 

 

 向こうが地中深くにまで攻撃出来る技でも持っていない限り、こちらが無敵なのに変わりはないと確信して矢が着弾する地面を避けながら地中の中を悠々と泳ぎ、聴覚を澄ましてクリスの居場所を探り当てようとするシャークイレイザーだが……

 

 

―バババババババババババババババババァッッ………………―

 

 

『(……?なんだ……急に、銃音が止んだ……?)』

 

 

 不意に、大地を大きく揺らしていた筈の振動が、絶え間なく降り注ぐ矢が着弾する炸裂音が突然鳴り止んだのだ。

 

 

 それ所か、先程まで地面越しに遠くから聞こえていた筈のクリスの歌までパタリと途絶え、訝しげに小首を傾げたシャークイレイザーが僅かに地面から顔を出して周囲の状況を伺うと、辺り一帯はクリスの矢によって舞い上がった土埃に包まれていつの間にか視界不良になっており、クリスの姿も土埃に紛れて何処かへと消え去っていた。

 

 

『や、奴がいない……?それに何だ、この煙?!奴は一体何処に──?!』

 

 

 

 

 

───泣いてなんかいねぇ、まだ終わっちゃいねぇ

 

……あったけぇ

 

 

 

 

 

『──!!?』

 

 

 状況がまるで理解出来ず困惑するシャークイレイザーの頭上から、不意に歌声が降り注ぐ。

 

 

 驚愕と共に思わず空を仰ぐと、空も土埃に覆われて視界が悪いが、シャークイレイザーの超人的な視力を備えた瞳は空を遮る土埃を超え、確かにその向こう側を捉えた。

 

 

 

 

 

───遥か上空の星空を背に、背部に形成した超大型の二基のミサイルのブースターで上空を浮遊し、更に左右の腰部アーマーの多連装射出器を展開して地上に向けて照準を狙い定めるクリスの姿を。

 

 

『な、ん──!!?』

 

 

繋ァああいいぃぃだぁ!!手を引っ張るくらいにゃなったァああ!!まっすぐ、選ぼう!Futurismッ!!

 

 

―MEGA DETH INFINITE―

 

 

 絶句するシャークイレイザーを他所に、サビパートに突入した歌と共に力強く叫ぶクリスの全身からミサイルが群となって一斉に放たれる。

 

 

 まるで豪雨の如く空から降り注ぐミサイルの雨。そのあまりの光景に呆然としていたシャークイレイザーも我に返り慌てて地面の中へ逃げ込むように浸水するが、立て続けに地上へ着弾するミサイル群が起こす大爆発は地表どころか地中深くにまで及んで大地を軽く吹っ飛ばし、舞い上がる土砂や爆炎と共にシャークイレイザーを空へと投げ出していった。

 

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!?(い、いつの間にあんな……っ!!?まさか、さっきのは大技を放つタメの為に、俺を地中に封じ込める為に敢えて──!!?』

 

 

重ね合った歴史が、ミ・チ・シ・ル・ベ・にィ!!(Fire!)

 

 

 打つ手がなく、ただ手当り次第に撃っていただけに思えた先程の攻撃も、自分が地面の中から出て来られないように身動きを封じるだけでなく、攻撃が止んだ瞬間に出てきた時の為の目眩しとして煙幕を張っておき、更に姿をくらましている隙に地中に深く潜り込んだ自分を強引に外へと引きずり出す為の大技を準備しておく。

 

 

 巨大な爆発で吹っ飛び、宙を舞う中でそれがクリスの目論見だったのだと漸く悟ったシャークイレイザーの下へと、クリスが唯一残った超大型ミサイルの上に騎乗しながら歌と共に最大加速で上空を突っ切りながら迫ってゆく。

 

 

最大出力ッ!(Fire!)照準クリアぁッ!!(Fire!)

 

 

『ク、クッソォオオッ!!そんなものでぇえええええええっっ!!!!』

 

 

 猛スピードで頭上から飛来する超大型ミサイルを見て恐怖で顔を引き攣らせながらも、このまま黙ってやられる訳にはいかないと足掻き、シャークイレイザーは空中で強引に身を捻って態勢を変えながら両腕の刃をやぶれかぶれに何度も振るい、斬撃波を飛ばしまくる。

 

 

 その内の一つが超大型ミサイルに直撃して弾頭の上に騎乗するクリスごと呑み込んで爆発させるが、歌は止まない、途切れない。

 

 

 超大型ミサイルの爆発により発生した凄まじい衝撃波を逆に利用する事で、爆炎の中から勢いよく飛び出したクリスはそのままシャークイレイザーの下へと激突する勢いで一気に急降下していき、空中で強引に態勢を変えて突き出した両足でシャークイレイザーの身体を思いっきり踏み付けて着地すると共に、両手に握るリボルバー型のアームドギアの銃口を突き付け、がむしゃらに弾丸を乱射してその身体を何度も何度も撃ち貫いてゆく。

 

 

『がふぅうううううっっ!!?ぐっ……き、貴さ──ぐぁあうぅっ?!!』

 

 

解放ォ、ぶっ飛べぇええええっっ……!!

 

 

 無数の銃弾が全身を貫く激痛に身悶えるシャークイレイザーを踏み台に思いっきり蹴り上げ、クリスは上空へとムーンサルトしながら両手のリボルバーを変形、連結させ、スナイパーライフルに切り替えると共に狙撃モードに展開した頭部バイザー越しに、地上に向かって落下していく全身蜂の巣だらけのシャークイレイザーを捉えながらライフルを構える。

 

 

 狙いはシャークイレイザーの胴体、そのど真ん中だ。

 

 

全部乗せをォオオオオ──!!

 

 

『ひっ……!!?ま、待てっっ!!?お、俺はまだ、こんなところでっっ──!!!?』

 

 

──喰らいやがれェええええええええええええええええええええええっっ!!!!

 

 

―RED HOT BLAZE―

 

 

『ウ、ァ──チ、チクショオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオオォォッッッ!!!!?』

 

 

 放たれた銃弾は赤い線を真っ直ぐに描き、まるで夜空を駆ける流れ星のようにシャークイレイザーの胸を貫通し、虚空へと消え去っていく。

 

 

 直後、シャークイレイザーの身体が内側から爆発を起こし、悲痛な断末魔の雄叫びを上げて跡形も残さず完全に消滅していったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

『──ハァッ!ぜぇええいッ!』

 

 

『グッ!オォラァッ!!』

 

 

 クリスとシャークイレイザーの戦いに決着が付いたその頃、時を同じくしてタイプイチイバルに姿を変えたクロスはその力を駆使してイグニスイレイザーを相手に引けを取らず、二人の戦いは無数の爆発が入り乱れる激戦と化しつつあった。

 

 

 クロスはイグニスイレイザーが左腕から連続で放つ火炎弾を両手の赤い二丁銃の光弾で次々と正確に撃ち落としながら接近すると共に、瞬時に十文字状の光刃を赤い銃の銃口に展開した近接モードへと切り替えながらイグニスイレイザーに斬り掛かる。

 

 

 それに対してイグニスイレイザーも巨大な右腕を盾に光刃を受け流しながらそのまま巨腕で横殴りにクロスを殴り払おうとするも、クロスは同時に火を灯した腰部のX状のリアアーマーと脚部のスラスターを利用して後方へとバク宙で回避しながら再度銃撃モードに切り替えた両手の銃で空中から射撃し、イグニスイレイザーの動きを牽制して追撃を阻止していく。

 

 

『チィッ!(野郎っ、さっきまでとは力も動きのキレもまるで違うっ……!?』

 

 

『はぁああああっ!!』

 

 

 並大抵の攻撃では傷一つ付かない筈のイグニスイレイザーの肉体がクロスの放つ一撃一撃によって削られ、確かなダメージを与えていく。今までもタイプガングニールとの戦闘等で傷を負わされる事は度々あったが、此処まで明確に傷を負わされる事など一度たりともなかった筈だ。

 

 

『(これが奴の、クロスの力……!たった二人の装者との繋がりを得ただけで、もう此処まで力を取り戻したってのか?!)』

 

 

 新たな繋がりを得ただけでこれだけの力を引き出し、先程までの力の差を一瞬にして詰めてみせたクロスの真の力にイグニスイレイザーも内心驚きを禁じ得ない中、クロスはそんなイグニスイレイザーの驚きも他所に肩部のアーマーを展開して砲撃形態に変形すると、砲口に収束した膨大な量のエネルギーを一気に解放し、イグニスイレイザーに目掛けて巨大な赤い砲撃を放った。

 

 

 それを目にしたイグニスイレイザーは忌々しげに舌打ちしながら左手に溜めた炎で前方に障壁を形成し、クロスの砲撃を受け止めつつ右手に螺旋状の炎を収束させて火炎弾を生み出していく。

 

 

『(やっぱり奴は危険だ……!立花響だけじゃねぇ、あの小娘……雪音クリスとの繋がりを手に入れただけで此処まで力が底上げされるなら、このまま奴を放置し続ければ……!)』

 

 

 奴が他の装者達とも繋がりを結べば、それだけ奴は力を増して嘗てのように自分達の脅威として再び立ち塞がる事となる。

 

 

 それだけは絶対に避けなければならないと、此処でクロス達を倒す決意を強く新たにしたイグニスイレイザーは炎の障壁と入れ替わりに火炎弾を手にする右腕を突き出し、高火力の火炎放射を撃ち出してクロスの砲撃と真っ向からぶつかり合い相殺させたと同時に、巻き上がる爆発の中を躊躇なく突っ切りながら炎を纏う右腕を振りかざしてクロスへと一瞬で肉薄した。

 

 

『テメェだけは此処で絶対に仕留めるッ!!その命、今度こそ貰うぞォッ!!』

 

 

『ッ……リフレクタービット!』

 

 

 眼前に迫る炎の拳を前に力強くそう叫んだ瞬間、クロスの背面装甲の一部が分離して自律的に動き出し、宙に浮きながらまるで薔薇の花弁のような形状の六基の兵装へと変形していく。

 

 

 そして六基の兵装はそのまま高速で宙を飛び回り、クロスの前面に移動しながら六角形を形作るかのように陣形を組むと、六基の兵装の間で金色の光を発生させてまるでクリスのリフレクターのように障壁を展開し、イグニスイレイザーの炎の拳を真っ向から受け止めてみせた。

 

 

『何っ?!』

 

 

『まだだ!』

 

 

 自分の拳を受け止めた思わぬ防御手段にイグニスイレイザーが驚愕する中、クロスはその隙に両手の銃を素早く変形させて大型ガトリングガンに切り替え、更に胸部の開閉式装甲カバーが開かれて胸の奥に内蔵された二基のガトリング砲が露わとなり、リフレクタービットの障壁を解除すると同時に両腕と胸部のビームガトリングによる一斉射撃を至近距離から浴びせ、イグニスイレイザーを盛大に吹き飛ばしていった。

 

 

『ぐうぅううっ!!?クソッ!まだあんな隠し玉を……!!?』

 

 

 足で地面を削りながら何とか持ち堪えるも、至近距離からの攻撃をまともに受けてしまい、白煙が立ち上る胸を抑えながら苦痛に顔を歪めるイグニスイレイザーへのクロスの追撃の手は緩まない。

 

 

 自律的に起動する薔薇型の形状をした六基の赤い遠隔兵装……リフレクタービットは縦横無尽に空を駆け巡りながらイグニスイレイザーの周囲を飛び回って四方からのビーム攻撃を絶え間なく浴びせていき、其処に加えて遠距離からクロスが両手に構えたガトリングガンによる弾幕をイグニスイレイザーがビットの射撃を避けた先を読んで直撃させたりと、一切の隙のない波状攻撃を展開する事で着実にイグニスイレイザーにダメージを与え続けていく。だが……

 

 

―……ズキィイッ!―

 

 

『……ッ?!腕、がっ……グッ!』

 

 

 引き金を引く動作、銃の反動に刺激されてガトリングガンを手にしていたクロスの右腕に突然凄まじい激痛が走り、思わず右手の銃を地面に落としガシャアアアアンッ!!と耳を劈く金属音が響き渡る。

 

 

 そんなクロスの姿を目にしたイグニスイレイザーは一瞬何事かと目を見張るも、瞬時に何かを確信したかのような不敵な笑みを浮かべ、リフレクタービットのオールレンジ攻撃を上手く避けながらクロスの右側面へと素早く回り込んで巨腕で殴り掛かるが、それに気付いたクロスも右腕を抑えたまま慌ててリフレクタービットを全機呼び戻して再び障壁を形成し、紙一重でイグニスイレイザーの拳を防御するも、その仮面の下では苦悶の表情を浮かべていた。

 

 

『ハッ……!どうやら右腕の怪我まではカバーし切れてねぇみてーだなぁ!幾ら新しい力を手に入れても、そのザマじゃ十全に使いこなせる筈がねぇかァ!』

 

 

『くっ……!』

 

 

 新たな形態、クロスの成長の伸び代は確かに驚異的ではあるが、奴にはまだこれまでの戦いで自分が与えて蓄積されてきたダメージが残ってる。

 

 

 付け入る隙さえ残っていればまだこちらが優位に返り咲く事は出来る。そう考えながら右腕を抑えるクロスが展開する障壁へと更に拳を食い込ませながら左手に再び炎を収束させていき、至近距離からの火炎放射で障壁ごとクロスを吹き飛ばそうとした、その時……

 

 

 

 

「──だからあたしがいるんだよ」

 

 

『……ッ?!―ズガガガガガガガガガガァアッ!!―ぐぉおっ!』

 

 

 

 

 イグニスイレイザーの左手が突き出される寸前、側面から突如無数の弾丸が飛来しイグニスイレイザーの横顔に立て続けに撃ち込まれたのである。

 

 

 不意の一撃に対してイグニスイレイザーも攻撃を中断せざるを得ず、態勢を崩しそうになりながらどうにか立て直してバックステップでクロスから距離を離し今の弾丸が放たれてきた方に目を向けると、其処には、銃口から白煙が立ち上るガトリングガンを両手に構えるクリスの姿があった。

 

 

『ッ!テメェ、何で此処に……?!奴はどうした?!』

 

 

「あのサメ野郎の事か?アイツならとっくに片付けたぜ。後に残ってるのはお前と、アイツ等が食い止めてるあの気持ちわりー雑魚共だけだ!」

 

 

『なっ……クッ……あの野郎っ、フィクションなんかに遅れを取りやがってっ……!』

 

 

 これでは仮にクロス達を倒せたとしても、この物語を一度のみの大規模な改竄で手中に収めるというもう一つの重要な目的が果たせなくなってしまった。

 

 

 計画を台無しにされた上に、記号の力に覚醒したばかりのクリスにアッサリ倒されたシャークイレイザーの不甲斐なさにも思わず舌打ちしてしまうイグニスイレイザーに対し、クロスは僅かに痛みが緩和した右手で地面に落ちた銃を拾い上げながら徐に口を開く。

 

 

『これで形勢は一気に逆転したという事だ。仮にまたダスト達を生み出したとしても、それも響達がすぐに対処してくれる。……お前に勝ち筋は既にないぞ』

 

 

『ッ……勝手に勝った気になるなと言っただろうが……テメェ等を纏めて始末するぐらい、俺一人でも十分事足りるんだよォッ!!』

 

 

 そう言って激昂の雄叫びと共に、イグニスイレイザーの身体の内側からまるで爆発するように炎のオーラが放出されてその身に纏い、更に炎のオーラから全方位に向けて無数の炎弾を乱雑に放っていく。

 

 

 それを見た二人も咄嗟に左右に散開し、飛来する炎弾を軽快な動きで回避しながらクリスはリボルバーを、クロスは左手の銃を主に光弾を放ちながら遠隔操作のリフレクタービットによる一斉射撃をイグニスイレイザーに向けて同時に放つが、二人の攻撃がイグニスイレイザーの身体に直撃した瞬間、クリスの銃撃だけでなく何故か先程まで通じてた筈のクロスの攻撃まで容易く弾かれてしまった。

 

 

「なっ……こっちの弾を弾きやがった?!」

 

 

『ッ……!あのオーラの熱で肉体の強度を更に高めたのか……!』

 

 

『まだまだこんなモンじゃねえぞっ!昔のテメェに負わされた傷のせいで全力には程遠いが、テメェ等をぶっ潰すだけなら今出せる力の全部で十分だっ!』

 

 

 シャークイレイザーも倒された事で最早取り繕う余裕も捨て去ったのか、イグニスイレイザーの繰り出す攻撃は今まで戦ってきた中でも目にした事がないほどその激しさを増していく。

 

 

 反撃の機会を伺って回避に専念していた二人もあまりの攻撃の密度に次第に避け切る事が叶わなくなっていき、炎弾が直撃する寸前にクリスは咄嗟にリフレクターを、それを補う形でクロスが更にリフレクタービットを重ね合わせて炎弾の嵐をどうにか凌ごうとするが、一発一発が地面を大きく抉る程の破壊力を持つ炎弾の威力を前に障壁を張っている筈の二人の足も徐々に後退り、押されつつあった。

 

 

『クッ……まだ此処まで引き出せるだけの力が残ってるのか……!』

 

 

「このままじゃ流石に持たねぇぞっ……!一体どうすりゃっ──」

 

 

 このまま障壁を展開して凌ぎ続けるのにも限度がある。何れ突破されてしまう前にどうにかして反撃の手段に出るしかないが、この炎弾の嵐を何とか出来たとしても、イグニスイレイザー自身の跳ね上がったあの防御力を破れなければダメージを与える事もままならない。

 

 

 どうすればいい?今ある手で何が出来る?

 

 

 リフレクターを維持し続けたまま必死に思考を駆け巡らせる中、その時クリスの脳裏にふと、この世界に飛ばされる前にS.O.N.G.の訓練所でクロスと繰り広げた模擬戦の時の記憶が一瞬だけ過ぎり、其処からある考えを思い付いたクリスは自身のリフレクターを補強するリフレクタービットを一瞥し、クロスに顔を向けて叫んだ。

 

 

「おい!お前の操ってるコレ、何かあたしのリフレクターと似ちゃいるが、イチイバルの姿してるんならコイツ等もリフレクターと同じ性能してると思っていいんだよな?!」

 

 

『っ?いや、確かに、この姿は元々お前の力を元にしている物だからそうだとは思うが……それが一体……?』

 

 

「なら耳貸せ……!あの野郎に一泡吹かせる策、一つだけ思い付いた!」

 

 

 そう言ってクリスは自身が思い付いたという策を簡潔に纏めて説明していくと、その内容を聞く内にクロスは仮面の下で目を見張り、すぐに険しい顔付きで首を横に振った。

 

 

『無茶だ!そんな真似をすればどうなるか……!お前自身も此処までの戦いで傷付いているのにっ……!』

 

 

「心配すんなっ、こっちは前に月を穿つような一撃喰らった事だってあるっ。そう簡単に死にはしねぇし、そういうお前だって人のこと気に掛けられる身体してねぇだろっ?このままじゃどっちにしろ、こっちが先に倒れるのに変わりはねぇんだっ……!」

 

 

『それはっ……』

 

 

「……これでも一応、お前となら出来るって信じて決めたんだ……だからお前も、あたしを信じてくれよ」

 

 

『…………』

 

 

 正面を見据え、迷いも淀みもない決意に満ちた表情を見せるクリスの顔付きから彼女自身の覚悟の、自分に向けられる信頼の強さが伝わったのか、クロスは僅かに顔を俯かせて考える素振りを見せた後、再び前を見つめて足を一歩踏み出した。

 

 

『その信頼に応えられるかは俺の中でも正直半々だが、お前がそう言ってくれるなら俺も全力で応える。……頼らせてもらうぞ、クリス』

 

 

「……へっ。そっちこそ、肝心なとこでヘマしてくれるなよな!」

 

 

 ニヤリと、額から汗を伝らせながらも口元に不敵な笑みを浮かべたクリスがそう叫んだと同時に二人は障壁を解き、飛来する炎弾の嵐を避けるようにクリスは右へ、クロスは左へと散開しながら走り出していく。

 

 

『まだ来るかよっ……!性懲りもなく何処までもっ!』

 

 

「ったりめーだ!あたし等の諦めの悪さ、舐めんじゃねぇぞ!」

 

 

『お前が幾ら力を引き伸ばしても、何度でも食らい付く……!お前との因縁もいい加減に精算させてもらうぞ!』

 

 

『はっ、それに関しちゃ心の底から同意して叶えてやるよっ……!俺がこの手でテメェ等を始末する事でなぁ!』

 

 

 あの二人が次に何をしでかすつもりなのかは知らないが、このまま黙って見過ごすつもりもない。

 

 

 二人が次の一手に出る前に仕留めるべく、イグニスイレイザーは右手の掌の上に炎弾を形成し、続け様に膨大な量のエネルギーを注ぎ込んで先程の大破壊の一撃をもう一度放とうとする。

 

 

 それを横目にクロスは大きく目の前へ跳んで迫り来る炎弾を回避しながら着地の瞬間に受け身を取り、即座に態勢を立て直すと共に両手の二丁銃をイグニスイレイザーに突き付けながら二つの銃口を突き合わせてエネルギーを収束、クリスもアームドギアをスナイパーライフルに切り替えながらイグニスイレイザーへと狙いを定めた。

 

 

「同じ手は使わせねえっ!!」

 

 

『ハアァアアアアッ!!』

 

 

 ほぼ同時に引き金が引かれた二人の銃から、二つの紅の弾丸が挟み撃ちで放たれる。

 

 

 撃った反動だけで身体が僅かに後退する程の威力が込められた二つの弾丸が紅の軌跡を宙に描きながら向かう先は、イグニスイレイザーが掌の上に形成してエネルギーを溜めてゆく炎弾、その一点のみ。

 

 

『馬鹿が……!同じ手を喰らわねぇのはこっちも同じだ!』

 

 

 だがそんな二人の狙いにイグニスイレイザーも気付かない筈がなく、僅かに身体を反らした最小限の動きだけで二人の弾を回避してしまい、構わず炎弾に更にエネルギーを注ぎ込もうとする。

 

 

 しかし直後、躱された二人の銃弾の前に宙を舞うリフレクタービットが素早く回り込んで花開くように赤い装甲を展開すると、ビットの内側に隠された金色に輝く装甲が露わになっていき、避けれた銃弾がその金色に輝く装甲部分に触れた瞬間、銃弾は勢いよく跳ね返って跳弾と化し、そのまま他のビットへと弾が繋げられて複雑な弾道を描きながらクリスの狙撃弾がイグニスイレイザーの炎弾を、クロスのチャージショットがイグニスイレイザーの背中へと直撃し怯ませていったのだった。

 

 

『グゥウッ!!?なっ……なんだとっ!!?』

 

 

『今だクリスッ!畳み掛けろッ!』

 

 

「ツォラァアアアアアアッ!!」

 

 

 ズギャギャギャギャギャギャァンッ!!と、イグニスイレイザーが思わぬ不意打ちを喰らい動揺している隙に、クロスがすかさず両手の銃から立て続けに光弾を、クリスはリボルバーに切り替えたアームドギアを連射してイグニスイレイザーに再度攻撃を仕掛ける。

 

 

 そして左右から迫る弾丸を前にイグニスイレイザーも動揺が収まらぬまま咄嗟に巨大な右腕を盾にクロスの銃撃を凌ぎ、クリスの弾丸を左腕を振るって全て払い除けようとするが、弾かれた弾丸の先へ先程と同様にリフレクタービットが先回りし、角度を調節しながら銃弾を跳ね返す事で弾道を読ませない死角からの攻撃を次々に浴びせていく。

 

 

 更に攻撃用のビットも用い、イグニスイレイザーの周囲を跳弾とビームの嵐で囲む事で自ずと動きを制限させていき、自由に身動きが取れなくなったイグニスイレイザーはあらゆる方向から襲い来る弾丸やビームのオールレンジ攻撃に徐々に追い詰められ、次第に焦燥感に駆られて苛立ちを募らせつつあった。

 

 

『グゥッ?!んのっ、鬱陶しいカトンボがァッ……!俺に纏わり付くんじゃねぇえええええええッッ!!』

 

 

 素早く飛び交うビットを振り切る事も出来ず、遂に痺れを切らしたイグニスイレイザーが体内に膨大な熱量のエネルギーを凝縮させてその身体を赤く発光させていく。そして体内のエネルギーを一気に体外へ放出し、巨大な大爆発を巻き起こす事でしつこく纏わり付くリフレクタービットごとクロス達を飲み込んで焼き尽くそうとした、その時……

 

 

「──今だっ!やれぇっ!」

 

 

『ッ!リフレクトッ!』

 

 

 イグニスイレイザーに銃撃を続けながらクリスが力強く叫んだ瞬間、クロスは両手の銃を勢いよくかち合わせて金属音を鳴らす。

 

 

 次の瞬間、その動作を合図にイグニスイレイザーの周囲を飛び交っていたビット達の間を繋ぐように金色の光が広がっていき、やがてドーム状の光の障壁を展開してイグニスイレイザーを閉じ込めたのであった。

 

 

『なっ……?!し、しまっ……ぐっ、ァあああああああああああああああああああああああああっっ!!!!?』

 

 

 ドーム状の障壁の中に閉じ込められた瞬間、二人の目論見に気付いたイグニスイレイザーは慌ててエネルギーの放出を止めようとするも既に間に合わず、放たれた大爆発は障壁内で反射され、そのまま内側に閉じ込められたイグニスイレイザーに跳ね返ってその身を焼き尽くしていったのだった。

 

 

 自らの炎をまんまと浴びせられたイグニスイレイザーは障壁内で絶叫し、次第に限界まで高まった熱により遂に強度が耐え切れなくなった障壁がまるでガラス細工のように粉々に霧散した瞬間、障壁内に封じ込められていた爆発が一気に周囲一帯に拡がって土埃を巻き上げていく。

 

 

 そうして徐々に衝撃の余波が弱まり始めていく中、壊れた障壁の中からガクリッと、重度の火傷を負ったイグニスイレイザーが全身から無数の火花を撒き散らしながら姿を現し、力なくその場に片膝を突いた。

 

 

『ガァッ……ぐっ……!(まさか、こんなっ……!自滅だなんて間抜けな手に、この俺が引っ掛かるなんてっ……!)』

 

 

『──イレイザァーッ!!』

 

 

『Final Code x……clear!』

 

 

『……!?』

 

 

 してやられたと、こんな安易な策を見抜けた己の不甲斐なさを恥じてふらつきながらも身を起こそうとしたイグニスイレイザーの正面から、雄々しい雄叫びと共に電子音声が響く。

 

 

 それを聞き咄嗟に顔を上げて正面を見ると、其処には複眼や部分展開された全身の装甲の隙間から赤色の光を放出する『EXCEED DRIVE』形態となり、更にその両腕には銃を変形、巨大化、連結させた真紅の大型ビーム砲を手にし、砲口に粒子状のエネルギーを満たしながら佇むクロスの姿があった。

 

 

『ッ、テメェッ……!』

 

 

『これで決まりだ……!はァァああああああッッ!!』

 

 

 イグニスイレイザーが身を起こすよりも早く引き金を引き、クロスの大型ビーム砲の砲口から巨大な真紅の砲撃が放たれる。

 

 

 射線上の地面を吹き飛ばしながら猛スピードで迫る砲撃を前にイグニスイレイザーも思わず舌打ちし、すぐさま巨大な右手から炎を放出して迎撃しクロスの砲撃とぶつけ、真紅の砲撃と紅の炎は僅かな拮抗の末に一瞬の閃光の後、新たな爆発を巻き起こしてしまう。

 

 

『ぐうぅっ!!』

 

 

『チィッ!(相打ちっ……!いやまだだ!この隙に奴を──!』

 

 

 吹き荒れる爆風に見舞われてお互いに怯んでしまうクロスとイグニスイレイザーだが、この隙を利用すれば奴に一矢報いる事が叶うと踏み、イグニスイレイザーはこの視界を覆う黒煙を使ってクロスとの距離を詰めるべく左手から炎を噴き出し、地を踏み締めて一気に飛び出そうとした、その時だった。

 

 

 

 

 

 

──いつの間にか自分の真下に潜り込み、両手の大型ガトリングガンの銃口や腰のアーマーの射出器のミサイルをゼロに近い距離にまで近付け、そして黒煙に隠されて今まで見えなかった背部の超大型弾道ミサイルまでも突き付けるクリスの姿を漸く捉える事が出来たのは。

 

 

『──なっ……』

 

 

「鉛弾のバーゲンセールだ……!全部持ってけェェええええええええええええええええええええええええっっ!!!!」

 

 

 予想だにしていなかった光景を前に思わず身体が硬直するイグニスイレイザーに目掛けて、腹の底からの雄叫びと共にトリガーを引いたクリスの全身のあらゆる火器が一斉に火を噴いてゆく。

 

 

 直後、耳の鼓膜を突き破り兼ねない程の銃声と轟音、巨大な爆発が絶え間なく巻き起こり、至近距離からの超火力による一斉射撃をイグニスイレイザーに浴びせ掛けたクリスは勢いよく黒煙の中から吹っ飛ばされて地面に激突しそうになるも、そんなクリスの下にクロスが急いで先回りし、地面に叩き付けられる寸前の所で両腕を伸ばしてクリスの身体を抱き留めたのであった。

 

 

『グッ!っ……クリスっ、おい……!大丈夫かっ?!』

 

 

「……ぃっ……っ……へ、ったりめーだ……言ったろっ……?あんなんで死ぬほど、あたしの身体はヤワじゃねぇってっ……」

 

 

『ッ……お前という奴はっ……』

 

 

 憎まれ口を叩く口調はいつも通りの調子に思えるが、その声は痛みに悶えて心做しか震えているように聞こえ、何よりもその証拠を物語るかのようにクリスの全身のギアには所々亀裂が走り、今も不敵な笑みを返した拍子に頭のギアの欠片がヒビ割れ、パラパラッと地面に落ちていくのが見えた。

 

 

 ゼロ距離射撃により避ける事は出来ないダメージを寸前の所でリフレクターを展開し、最小限に抑える事は事前に伝えられてはいたが、それでも軽減し切れない負傷を負って傷付いたクリスの身体をクロスも痛々しげに眉を顰めながら見つめ、険しげな表情で一度目を伏せると、顔を上げて舞い上がる黒煙の向こう……此処までの度重なるダメージや今のクリスのゼロ距離射撃をその身に受けて全身に罅が入り、片膝を突いてダウンするイグニスイレイザーの姿を捉えた。

 

 

『ァッ……ぐっ、うぅっ……!?な、何故、だっ……何で俺がっ……フィクションなんかに、此処まで遅れをっ……?!』

 

 

『……お互いに見誤っていた、という事だろ……お前達も、俺も……コイツ等の持つ、本当の強さを』

 

 

『……な、にっ……?』

 

 

 あれだけフィクションと呼んで蔑み、見下していた筈のクリスに此処までの深手を負わされた事実に動揺と困惑を隠せないイグニスイレイザーに、クロスが淡々とそう告げる。

 

 

 何処か自嘲を含んでいるようにも聞こえるその声に釣られてイグニスイレイザーが徐に顔を上げると、クロスは傷だらけの身体のクリスを横から支えながら立たせ、イグニスイレイザーをまっすぐ見据えながら彼女から離れるように一歩前へと踏み出し、真剣な口調で言葉を続けていく。

 

 

『誰かを助けたい、守りたい、信頼に応えたい……そんな様々な想いを重ね合わせ、強い覚悟としてきたからこそ、コイツ等はあらゆる苦難や世界の危機にも幾度となく打ち勝ってきたんだ。その想いの強さが生む力を測り損ねた誤算がお前の敗因であり、俺の勝因になった……これはただ、その違いに過ぎないというだけの話だ』

 

 

『グッ……ッ……!』

 

 

 当たり前のように、淀みのない口調でそう告げるクロスに対し思わず口をついて否定しそうになるも、イグニスイレイザーは悔しげに言葉を呑み込んでクロスを睨み付ける。

 

 

 癪に障るが、確かに奴の言う通り、自分が最初からクリスや風太郎達に対する認識を改めてさえいれば、此処まで追い込まれた上に貴重な手駒の一つを失う事だってなかった筈なのだ。

 

 

 確固たる事実が目の前にある以上、認める他ない。こうなったのは全て、クロス以外をただの有象無象と侮ったが故の慢心。

 

 

 自ら慎重派と謳っておきながら、奴らに対する警戒心が足りていなかった己自身への苛立ちを今更になって覚えるイグニスイレイザーを見据え、クロスはベルトのバックルから立ち上げたスロットを再度バックルへ押し込み、電子音声を鳴らす。

 

 

『Final Code x……clear!』

 

 

『その軌跡を、クリスや皆が繋いできた想いを、今度は俺が繋ぐ……!お前を倒す事で、この物語に平穏を取り戻す事でだ!』

 

 

『っ……いや、まだだ……まだ俺は倒れる訳にはいかねぇっ……!お前なんかに、やられる訳にはいかねぇんだよォおおおおっっ!!!!』

 

 

 ゴウゥッッッッ!!!!!!と、絶叫にも似た雄叫びと共に身を起こすイグニスイレイザーの全身から勢いよく業火が溢れ出し、直後、イグニスイレイザーを中心にとてつもない大爆発と衝撃波が発生し地面を吹き飛ばした。

 

 

 その余波は遠く離れた場所に立つクロスとクリスの下にまで届き、イグニスイレイザーを中心に周囲の温度が高まり、大気はまるで怯えるように振動して紅く染まっていき、スーツやギアに保護されている筈の二人の肌がジリジリと焼かれて痛みが止まらない。

 

 

 天を仰ぎ見て咆哮するその様は、何処か絶体絶命に追いやられた生き物が全てを投げ打って断末魔を上げる姿のようにも見える。それだけ、奴も後がないという事なのだろう。

 

 

 ならば尚の事、此処でこの好機を、クリス達が繋いでくれた希望を無為にする訳にはいかない。

 

 

 全てを押し潰さんとばかりに降り掛かるプレッシャーを払い除けるように心の中で強くそう決心し、クロスは再度EXCEED DRIVEへと姿を変えながら両手の銃を巨大なビームカノン砲、両肩のアーマーを砲撃形態に変形させ、更に胸部と両脚部の開閉式装甲カバーを開いて無数の砲門を展開し、額部分のガンカメラを複眼の前へと下ろした瞬間、背中の装甲が一部展開して銃口型の二つのジョイント部分が露わになる。

 

 

『クリス!』

 

 

「……!ハッ、そーゆー事かっ……!」

 

 

 クロスからの呼び掛けと、彼の背中に現れた銃口型のジョイント部分を交互に見て瞬時に何かを理解したように笑い、クリスは両手にリボルバー型のアームドギアを握り締めてクロスの背中のジョイント部分に躊躇なくアームドギアの銃口を接続する。

 

 

 それと同時に、クリスのギアのフォニックゲインがクロスへと流れ込み、クロスの全身の砲門に真紅色の無数の粒子が収束してエネルギーがチャージされていき、その光景を目にしたイグニスイレイザーも巨大な右腕を高らかに頭上に掲げながら波のようにうねる炎を掌に集め、そして……

 

 

 

 

Ignis aurum probat; miseria fortes viros

 

炎は黄金を証明し、苦難は勇者を証明する

 

 

Vivere est militare!

 

生きる事は、戦う事だ!

 

 

 

 

『───そうだ……だから俺は負けねぇ、倒れねぇっ……!消えるのは、テメェらの方だァァああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーあああァァッッッ!!!!』

 

 

 たった二節の詠唱を口にし、うねる炎を固く握り締めるように閉じた右拳で宙を殴るように全力で突き出す。

 

 

 次の瞬間、イグニスイレイザーの拳から今までの比にならない程の巨大な炎が放たれて閃光と化し、射線上の大地を爆音と共に吹っ飛ばすだけでなく、閃光が呑み込む全てを塵とも遺さず滅却しながら凄まじいスピードで二人へと迫っていく。

 

 

 その一撃は正しく絶対。敵対する者を、必ず破滅の淵へと叩き落とす煉獄の焔。

 

 

 並の人間であれば何かも諦念して膝から崩れ落ちる他ないその一撃を前に、しかし二人は一歩も退かず、その絶対の一撃の向こうに立つ己の敵から決して目を逸らさない。

 

 

『照準固定……充填……完了……!クリスっ!!』

 

 

「ああ……!こいつでぇっ──吹っ飛びやがれェェええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえええぇぇッッッッ!!!!!!」

 

 

 クロスが両脚部からアンカーを射出して地面に固定したと同時に、クリスがジョイント部分に接続したアームドギアの引き金を引いた瞬間、クロスの全身の砲門から無数の閃光が放出されて前方の一点で収束し、とてつもない爆発音と共に超巨大な真紅色の砲撃と化して撃ち出され、イグニスイレイザーの炎の閃光と真っ向からぶつかり合い、拮抗していったのであった。

 

 

『ッ!?ば、かな……受け止めやがっただとっ!!?』

 

 

『「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!!!」』

 

 

 その一撃の前には何者も追随を許さず、ただ為す術もなく塵芥と化して消え去るしかない絶死の焔を正面から受け止めてみせた二人の力にイグニスイレイザーが目を剥いて驚愕する中、クロスとクリスは決死の咆哮と共に真紅の砲撃の出力を更に底上げして威力を高め、ゴォオオッッ!!!!と鼓膜を震わせる程の爆音と共に勢いを増した二人の砲撃が炎の閃光を徐々に押し返し始めていく。

 

 

『ぐ、うっ、ァあああああああああああああッッ!!!!(あ、有り得ねぇっ……?!奴らはもう限界だったハズっ……!!余力なんて残されてなかった筈なのにっ、何故だっ……どっからこんな力がっ?!』

 

 

 有り得ないと、何度目か分からない言葉を心の内で繰り返すイグニスイレイザーの両脚が二人の砲撃の勢いに押されて地面にめり込み、少しずつ沈んでいく。

 

 

 実力も、戦力差も、何もかも圧倒的にこちらが上だった筈だ。

 

 

 これまで負った深手で、まともに戦う事もままならない身体をしてる筈なのだ。

 

 

 なのに、何故、どうして──!

 

 

『なん、なんだっ……何だってんだよっ、お前等はァああああッッ!!!!!!』

 

 

『「はぁああああああああああああああああァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーああああァぁぁッッッッ!!!!!!!!ハァアアアアァァッッッッ!!!!!!!」』

 

 

 自分の予想を遥かに超え、有り得ざる力を引き出す二人を前に絶叫するイグニスイレイザーに目掛けて、クロスとクリスの最後のダメ押しが炸裂する。

 

 

 あらゆる出力の全てを限界を超えて更に引き出し、砲門の先端があまりの熱に融解し始めるのも省みず、爆発的に威力を増した真紅の砲撃がイグニスイレイザーの炎の閃光を徐々に押し返した末、絶対に思われた焔の一撃を真っ向から完全に打ち破り、そのままイグニスイレイザーを飲み込んでいったのだった。

 

 

―LASTING‪ x METEOR LITE―

 

 

『ガァッッッ──?!!!!!!ァ───こん、なっ───まさ、か────!!!!!!?』

 

 

『……これで……エンドマークだ……』

 

 

『ッッッッ───!!!!!!クソッ……タァレがァァああああああああああああああああああああああああああァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあああァぁぁッッッッ!!!!!!!!!』

 

 

 耐え難き屈辱と無念のあまり咆哮するイグニスイレイザーの雄叫びを掻き消し、紅の魔人を飲み込んだ真紅の砲撃は大地を削りながら軌道を変えて、空へと昇っていく。

 

 

 天に誘われるように空を駆け登るその様は、まるで一筋の流星のように見える。

 

 

 やがて、夜空の向こうへ突き抜けた真紅の砲撃は少しずつ線を細くして消えていき、僅かな間隔の後、流星が消えた空から無数の真紅の粒子が雪のように降り注ぎ、茫然と空を見上げるクロスとクリスの傷付いた身体の痛みを和らげるかのように、辛くも勝利を手にした二人を優しく包み込んでいくのであった。

 

 

 

 

 


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