戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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第六章/五等分のDestiny×紅弾の二重奏(デュエット)⑧

 

 

「──ハァ、ハァッ……やれた、のか……?アイツを……?」

 

 

『っ……どうやら、そのようだ……漸くこれ、で…………ッ……』

 

 

 今まで幾度となく立ち塞がった仇敵であるイグニスイレイザーを相手に文字通り全ての力を出し切り、紅の魔人が果てへと消え去った天上より降り注ぐ無数の真紅の粒子を見上げながら未だ激闘の余韻が抜け切れないクリスに何かを言い掛けるクロスだが、そんな彼の身体が不意にフラッとぐら付き、地に両膝を着いてX字型の無数の粒子を全身から立ち上らせながら変身が解除され、蓮夜の姿へと元に戻りながら前のめりに倒れ込んでしまった。

 

 

「?!お、おい?!おまっ、ぁ……っ……!」

 

 

「──?!ク、クリスちゃん?蓮夜さん!」

 

 

「おい、お前らっ!」

 

 

「雪音さんっ、黒月さんっ!」

 

 

 変身が解除されながら倒れてしまった蓮夜を見てクリスも慌てて近寄ろうとするも、彼女もこれまでのダメージが今になって身体に響き、一歩足を踏み出しただけで立ちくらみを覚え、ギアの変身が解けながら蓮夜と同様に倒れ込んでしまう。

 

 

 そんな二人の下へダスト達を全て撃退した響達、風太郎と五月が慌てて駆け寄って二人の身体を抱き抱えていき、心配と不安が入り交じった表情で顔を覗き込んでくる一同に対し、蓮夜は額から流れる血のせいで何も見えない片目を伏せたまま力なく苦笑した。

 

 

「すま、ない……少し無茶を、し過ぎたみたいだ……身体がもう、まともに動かせそうにないっ……」

 

 

「あたしも、だ……くっそぉっ……もう指一本、動かせねぇっ……」

 

 

 戦いの最中は新たな力の覚醒や響達の救援などで勢い付いたおかげで気にはならなかったのだが、全てが終わったと自覚し安心した途端、張り詰めた緊張が抜けた身体が思い出したように限界を迎えて痛みや痺れなどを一度に起こし、最早ロクに動く事もままならない。

 

 

 ただそんな二人の口振りから今すぐ命が危ないといった危険な様子はなく、一瞬緊張を覚えた響達はホッと一安心して思わず張り詰めた肩の力を抜き、風太郎も呆れ交じりの溜め息をこぼした。

 

 

「全くっ、本当に常識外れな奴らだ……そんな状態であんな化け物相手に勝っちまうなんて……」

 

 

「……俺達だけの力で勝てた訳じゃないさ……お前や中野……それに響達がきてくれなかったら、今頃どうなっていたか分からなかった……だから有り難う、本当に……」

 

 

「何だそりゃ……礼を言わなきゃならないのは寧ろこっちの方だろ?アンタ達には返しても返し切れない恩が出来ちまった訳だしな……感謝してるよ、本当に」

 

 

「…………そう、か……そう言ってもらえると、ウン……此処まで頑張った甲斐があったんだなって……そう思える……」

 

 

 何処か穏やかな眼差しを向ける風太郎からの感謝の言葉に一瞬だけ不意を突かれて驚くも、その言葉一つだけで、そう言ってもらえるだけの働きは出来たのだと実感した蓮夜は安堵するように微笑む。

 

 

 そんな二人のやり取りを横目にクリスも思わず微笑を浮かべると、目の前で膝を折り、何故だか涙をぽろぽろ落としながら顔をくしゃくしゃにしている五月の方に視線を向けて訝しげに眉を顰めた。

 

 

「で、お前はお前で何でそんなボロ泣きしてんだよ……」

 

 

「うっ、うぅ……だってっ、何もかも全部終わったんだと思って安心してたら、雪音さん達が急に倒れるからぁっ……一瞬死んじゃうかもって、不安になってっ……!」

 

 

「勝手に殺すなっての……はあ……でもまぁ、これでお前との取り引きはちゃんと果たせたって事になるし……良かったな、ホントに……」

 

 

「ぅ、はいっ……はいぃぃっ……!ぐすっ、ううぅぅっ……!」

 

 

「ワァー……お姉さん、凄い泣き顔になっちゃってるデスよ……」

 

 

「流石クリス先輩、中々の女の子泣かせ……」

 

 

「人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよっ!ってイッタァッ?!叫んだら身体に響くっ、ぐぁあああああっ!」

 

 

「だ、大丈夫クリスちゃん?!え、ここ?この辺が痛むの?!よーしよしよしよ〜し―ドゴォオッ!―はいたぁああっ?!」

 

 

「イテェつってんのにペタペタ気軽に怪我してるとこ障ってんじゃねぇよ馬鹿かお前はぁッ!!」

 

 

「し、しどいぃぃっ!!」

 

 

「…………何か人数が増えてえらく喧しくなったな……いつもあんな調子なのか、アンタのとこは?」

 

 

「……いや、まぁ……どう、なんだろうな……俺もまだまだ付き合いは短い方だから断言は出来ないが、多分そうなんじゃなかろうか……」

 

 

「そうか……アンタも大概苦労しそうだな……」

 

 

「……え?」

 

 

 ギャーギャー!と、不用意に怪我に障れたせいでクリスから容赦のない踵落としを頭の上に貰ってしまい、頭を抑えながら半ベソを掻いて文句を口にする響とそんな彼女を怒鳴るクリス、そんな二人を宥めようとアタフタしている五月、切歌、調を見回して何だか意味深な発言をする風太郎に間の抜けた返事を返す蓮夜だが、風太郎はそれ以上は何も語らず無言のまま蓮夜に肩を貸して立たせ、蓮夜を支えながらクリス達の下に歩み寄っていく。

 

 

「おい、何時までもこんなとこで駄弁ってる場合じゃないだろ。この二人も重症なんだし、助け出した一花達も医者に診せなきゃならないんだ。さっさとこんな山降りるぞ」

 

 

「!そ、そうでした……!早く皆を病院に運ばないと!ええっと、先ずは一花達を……!」

 

 

「?誰か要救護者がいるんですか?だったら私達に任せて下さい、人を運ぶくらいなら手を貸せますから!」

 

 

「当然だろ。勿論お前達にも手伝ってもらう。俺はコイツを運ぶから、五月は雪音を、其処の緑と桃色は一花達を二人ずつ運べ。お前はあっちに転がってるバイクだ。ほら急げ、モタモタしてるとさっきのドンパチを聞き付けて警察とかに来られたら厄介になるぞ!」

 

 

「えぇぇ……」

 

 

「い、いきなり出てきて人使い荒いデスよ、このお兄さん……」

 

 

 急に横から指揮り出したかと思えば、響達を色で識別して指示を飛ばす風太郎の傍若無人な振る舞いに若干引いてしまう響達だが、それはそれとして彼の指示もあながち間違いとも断じる事は出来ず、若干渋々ながらも切歌と調は一花達の下に近付いて二人ずつ肩や脇に抱え、響も横転してるクロスレイダーを起こして山を降りる準備を進めていく。

 

 

 そんな三人の振り回されっぷりに蓮夜も苦笑いを浮かべ、風太郎に支えられながら山を降りようとふらふらと歩き出しそうとし、

 

 

 

 

 

 

 その背後から、ドシャアァアアアアッ!!と、何かが落下した大きな音が響き渡った。

 

 

「「「「?!」」」」

 

 

「な、何だ、今の?!」

 

 

「……まさ、か……」

 

 

 突然の落下音を聞いて一同が驚きと共に振り返ると、彼等の視線の先には何かが落ちた後の舞い上がる土埃が見えた。

 

 

 それを目にしたクリス達が目を剥いて何事かと呆然と立ち尽くす中、蓮夜は何かを察した様子でその顔がみるみる内に青くなっていき、その間にも土埃が少しずつ晴れて何かが姿を現していく。それは……

 

 

 

 

 

 

「───ゼェッ……ゼェッ……ゼェッ……ゼェッッ…………!!!!」

 

 

 

 

 

 

───肩を大きく上下に揺らしながら荒い呼吸を繰り返して片膝を突き、服も肌もズタズタになった全身から流血する金髪の男……蓮夜とクリスの放った超巨大な真紅の砲撃に呑まれ、空へ消え去った筈のアスカだったのである。

 

 

「イレイ、ザーッ……!!」

 

 

「冗談、だろ……あれだけやって、まだ生きてるってのかよっ……!!!?」

 

 

 限界を超えた全ての力を出し切り、やっとの想いで倒せたかに思われたアスカの生存に蓮夜達も驚きを禁じ得ず動揺してしまう中、アスカは気怠げに顔を上げて血走った目を細めた鋭い目付きで蓮夜達を睨み付けていき、額や腕などから夥しい量の血を滴らせながらフラフラと身体を起こしていく。

 

 

「ッ……今のは、マジで死んだかと思ったぜ……久方ぶりだよ……俺が此処まで追い詰められたのはなぁっ……」

 

 

「っ、くっ……!」

 

 

 ダラりと力無くぶら下げた両腕を揺らし、覚束ない足取りでアスカが一歩踏み出す。そんなアスカを前に響達も慌てて我に返りアームドギアをそれぞれ身構え、蓮夜とクリスも風太郎と五月を離れさせながら何時でも再変身が出来るようにベルトとペンダントを手にしていくが、アスカはそんな一同の慌てぶりを見て喉を鳴らして笑う。

 

 

「そう慌てんなよ……こっちはこんなナリで、もうテメェ等と戦うだけの力なんて残されちゃいねぇんだ……この勝負は、お前達の勝ちだ……」

 

 

「「「……え?」」」

 

 

 アスカの口から飛び出たのは、蓮夜達の勝利を認める自らの敗北宣言。そんな思わぬ発言に響達も呆気に取られて思わず構えを緩めながら間の抜けた返事を返してしまうが、蓮夜はその言葉を疑うように目を細め淡々とした口調で問い掛ける。

 

 

「どういう風の吹き回しだ……?あれだけ俺達を消す事に固執していたお前が、こんなにもあっさり敗北を認めるだなんて……」

 

 

「どうもこうもねぇさ……実際のとこ、お前達の力を見誤ったせいで優勢だった筈の俺達の盤は派手にひっくり返されて、一発逆転のサヨナラホームラン負け……お前達の勝ちを認めるのは癪だが、俺の失態って点から見れば、この結果自体は認めるしかねぇだろーって話だ……」

 

 

「…………」

 

 

 そう言って自嘲気味に、乾いた笑みを漏らすアスカの言葉に嘘が含まれてるようには感じられない。しかしだからと言って今すぐその全てを信じ切るべきではないが、一先ず奴にこちらを襲う意思がないのは伝わり、蓮夜は警戒心を僅かに緩めてベルトを持つ手を下げると、それを見たアスカは僅かに口端を吊り上げる。

 

 

「いいのかよ、今の内にトドメ刺さなくて……」

 

 

「……本音を言えば今すぐにでもそうしたい所だ……ただ、俺もクリスもお前を倒す為に持てる力を全て出し切って余力なんて残っていない……それが出来るとすれば、後は……」

 

 

「……っ」

 

 

 隣に立つ響……自分とクリスを除けばこの中で唯一イレイザーを倒せる記号の力を持つ彼女の方に目を見やると、響は拳こそ握り締めて臨戦態勢を取ってはいるが、その表情は複雑げだ。

 

 

 やはり敵とは言えど、深手を負ってもう戦う事も出来ない相手を一方的に痛め付けるなど心優しい彼女に出来る筈もないが、だからといってこのまま奴を野放しにしておく訳にもいかない。

 

 

 そう考えながら蓮夜は僅かに思考するように一度目を伏せると、瞼をゆっくり開き、アスカをまっすぐ見据えながら淡々とした声音で告げる。

 

 

「それにお前は、他のイレイザー達の目論見を知る貴重な情報源でもある。素直に負けを認めるというなら、このまま大人しく投降しろ……そうすれば命までは取らないし、お前の処遇に関しても、俺の方からS.O.N.G.に幾らか融通を効かせられるように口聞きを──」

 

 

 此処で奴を拘束出来れば、自分も忘れてしまってるイレイザー達の最終目的や今後の動きを知る事が出来るかもしれない。

 

 

 何よりもイレイザー達の行動方針に先手を打つ事さえ叶えば、これから先の戦いで生まれるであろうイレイザー達による被害も最小限に抑えられる事も可能な筈だ。

 

 

 ならばこの好機を逃す手はない。此処でアスカを倒してしまうよりも拘束してしまい、響達の世界に連れ帰ってからイレイザー達の目的を一から全て吐かせる。

 

 

 響の手を汚せられない以上、今はそれが最善の手であると踏んだ蓮夜からの誘いに対しアスカは前髪で顔を隠したまま俯き、何故かクツクツと喉を鳴らして笑う。

 

 

「そいつはまた意外なこった……あれだけやらかした俺にそんな寛大な処置を提示してくれるなんざ、随分お優しい事じゃないか──

 

 

 

 

 

──そんな甘っちょろい考えだから、こうやって命取りになるんだよ……」

 

 

―ゴォオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!―

 

 

「──!!?」

 

 

「な、なんだっ!!?」

 

 

 前髪越しに蓮夜達を睨み付けながらアスカがそう呟いた次の瞬間、アスカの全身から突如けたたましい爆音と共に紅の衝撃波が放たれ、半径数十メートルがとてつもない熱気に包まれたのである。

 

 

 思わぬ不意打ちに危うく吹き飛ばされそうになりながらも蓮夜達は何とか踏み止まり、響と調と切歌も咄嗟に前に出ながらアームドギアや両腕を盾に用いて風太郎達を衝撃波から庇う中、蓮夜は片腕で自分の顔を庇いながら全身から衝撃波を放ち続けるアスカを睨み付ける。

 

 

「お前っ、何のつもりだ……?!俺達に負けを認めるんじゃなかったのかっ?!」

 

 

「ああ……この勝負は確かに俺の負けだ……でもだからってテメェや、記号の力に目覚めた立花響と雪音クリス、そしてその可能性を秘めた其処の装者二人をみすみすあの世界に帰す訳にはいかねぇ……何よりこのままテメェ等に生殺与奪の権利を握らせるくらいなら、俺は自分から死を選ぶぜ……テメェ等や其処の連中を巻き添えに、この世界を吹っ飛ばしてなぁッ……!!!!」

 

 

「なっ……」

 

 

「それって、まさか……!」

 

 

「じ、自爆するつもりデスかっ!!?」

 

 

 自らの命と引き換えに、蓮夜達を巻き込んでこの世界を丸ごと吹き飛ばす。追い詰められたあまりとんでもない暴挙に出たアスカに流石の蓮夜も絶句し、調や切歌、風太郎達も驚愕と動揺を露わにする中、同じように驚きを浮かべていた響はいち早く我に返り、すぐさま拳を構えた。

 

 

「そんな事はさせない!!自爆するより先に、貴方を止めさえすれば──!!」

 

 

「ハッ、やめとけよ……今更俺を拘束した所で、俺の意志一つで自爆する事なんざワケねぇんだ……まぁ、仮に俺を殺しさえせば万に一つにでも止められるかもしれねぇが……その拳でまた殺すのか?前のあのイレイザーみたく、この俺を……?なぁ、立花響よぉ?」

 

 

「ぅ……っ……!」

 

 

「貴様っ……!」

 

 

 ニィッと、嘗て蓮夜と響が倒したフロッグイレイザーの件を持ち出して不敵に笑うアスカに対し、響の顔が悲痛げに歪んで拳が覚悟と共に僅かに揺らぐ。

 

 

 そんな彼女の心の傷に触れるような卑劣な真似をするアスカに蓮夜も怒りに満ちた眼差しで睨み付けるが、アスカは構わず蓮夜達を見据えたまま淡々と言葉を続ける。

 

 

「テメェ等からしてみれば俺達も、この戦いも外敵から世界を守る為ってだけの戦いにしか過ぎねぇのかもしれねぇがな……俺らからすれば、テメェ等との戦いはいつだって生存競争だ……俺達が生きられる世界を勝ち取る為に、その未来へ繋げる為なら何を犠牲にしても、どんな汚ぇ手だって使ってやるよ……!!仮にそれが俺自身の命であろうとなぁッ!!」

 

 

「くっ……!」

 

 

 アスカの感情の昂りに呼応するように、紅の衝撃波の勢いが更に増し、アスカを中心に足元から全方位に向けて巨大な亀裂が大地の上を駆け走っていく。

 

 

 その気迫、その圧倒的な光景からアスカが本気で自分諸共、この世界や自分達を巻き込んで自滅するつもりなのだと理解し、蓮夜は腰にクロスベルトを巻き付けながら思考を速く駆け巡らせる。

 

 

(どうするっ、相打ち覚悟で奴の息の根を止めるかっ?いや、此処まで力が膨れ上がってる状態で下手に衝撃を加えればその瞬間に爆発を起こす危険性があるっ……響達が乗ってきた俺のマシンを利用して、奴を次元の向こうへと追いやるのは……?駄目だ、奴の爆発にマシンが巻き込まれれば結局響達を元の世界へ帰す手段がなくなるっ……どうすればいい、他に何か手は──!)

 

 

 思考に思考を重ねている間にも、アスカの身体に凝縮されてゆく膨大なエネルギーが増すにつれて辺り一面に広がる亀裂が蓮夜達にも牙を剥き、地面が破壊されて無数の破片が宙を舞い、風が吹き荒んで嵐と化し、負傷でまともに動けないクリスや風太郎達を必死に守る響達も苦痛で顔が歪み徐々にソレに耐え切れなくなりつつある。

 

 

 その凄惨な惨状を前にし最早迷っている時間はないと、蓮夜は一か八かの賭けに出るべく、クロスに再変身しようと左腰のケースから取り出したカードをバックルに装填し掛けた、その時……

 

 

 

 

 

 

「───おいおい、それは流石に破れかぶれが過ぎるんじゃないかい?」

 

 

 

 

 

 

 何処からともなく響き渡る、軽薄で、飄々とした声。

 

 

 直後、アスカの足元から突然巨大な水の柱が溢れ出し、それはまるで意思を持っているかのように独りでに動いてアスカを包み込み、玉状の水の牢獄と化してアスカを捕らえてしまったのであった。

 

 

「なっ……」

 

 

「な、何だ……?水が勝手に湧いて出て……?!」

 

 

「───っ!!?───っっ!!!?」

 

 

 突如アスカを捕らえるように現れた水の牢獄を目にし、蓮夜達も予想だにしていなかった展開を前に目を白黒させて戸惑いを隠せずにいる。

 

 

 アスカ自身も何が起きたのか分かっていないのか、水の牢獄の中で困惑の表情を露わに何かを叫ぼうとしているが、水の中ではまともに喋れる筈もなく、吐き出す言葉はゴバァッ!と無数の泡となって消え蓮夜達の耳にも届かない。其処へ……

 

 

「……全くさぁ。苦し紛れに自爆とか、そんなダッサイ真似止めときなって。人間生きててナンボのもんって言うし、せっかく拾った命をこんな所で捨ててたらもったいないよー?」

 

 

 先程聞こえた飄々とした声と共に、アスカが捕らえられる水の牢獄の背後から誰かが現れる。

 

 

 歩く度に風で毛先が揺れる青い髪、深い青の革ジャンを着込んだ青年……この五等分の花嫁の物語にアスカを誘うきっかけを与え、響達の世界に残っていた筈のクレンが現れ、アスカを捕らえた水の牢獄の前に移動しながら蓮夜達の前に立ち塞がったのである。

 

 

「あ、貴方は……?」

 

 

「やあやあ。こうして直接会うのは初めましてかな、装者の皆さん?あ、蓮夜君の場合は久しぶりだっけ?と言っても、今の君が僕の事を覚えてる訳がないけど」

 

 

「……久しぶり?」

 

 

 どういう事だ?と、クレンの言葉の意図が読めず響達の頭上に疑問符が浮かび上がるが、そんな中一人、蓮夜だけはクレンを凝視しながらその表情は驚愕に染まり、徐々に明確な敵意を露わにした顔付きへと変わりながらクレンを鋭く睨み付ける。

 

 

「この、気配は……お前、イレイザーかっ……?!」

 

 

「そっ。んー、君も覚えてないようだし、改めて名乗った方がいいかな?僕の名前はクレン。んで、こっちがアスカね。今度はちゃんと覚えててくれてると嬉しいかなぁ……なんて、記憶を失うきっかけを作った僕が言えた義理じゃないかぁ」

 

 

「ッ……」

 

 

 あっはははっ!と人当たりの良さそうな笑顔を浮かべて白々しく戯けてみせるクレンだが、蓮夜の方は先程よりも張り詰めた表情を浮かべて額から冷や汗を流していく。

 

 

 イレイザーの気配を読める蓮夜にしか分からないが、あのクレンからはアスカと同等の力を感じる。つまりそれは、奴もアスカと同じ上級のイレイザーであるのを意味するという事だ。

 

 

 こんな満身創痍でまともに戦う余力すら残されていない状態の中、よりにもよって二人目の上級イレイザーが現れるなど予想出来る筈もなし、分が悪いだなんて話じゃない。

 

 

 もし仮に奴がその気になって再び戦いになどなれば、今のこの有り様では奴に勝てる見込みなんて絶対にある筈がない。最悪、此処にいる全員が奴一人の手によって皆殺しにされるやもしれない。

 

 

 想定外が過ぎる不測の事態、ピンチに相次ぐピンチに直面し蓮夜も内心追い詰められて焦燥に駆られる中、クレンはそんな蓮夜の心境を悟ったかのように苦笑いを浮かべながら両手を前に軽く振る。

 

 

「ああ、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ?こっちはアスカを回収しに来ただけで、別に今すぐ君達をどうこうしようってつもりはないから、安心していいよ」

 

 

「「「……え?」」」

 

 

「なん……だと……?」

 

 

 今の自分に蓮夜達と戦う意思はない。飄々とした口調はそのままに、ハッキリとそう告げたクレンの意外な言葉に響達や蓮夜も目を点にして呆気に取られてしまう中、水の牢獄の中に囚われるアスカが呼吸もままならない様子で喉を抑えながらもがき苦しみ、それに気付いたクレンが「おっと、危ない危ない」と軽い調子で指を軽く鳴らした瞬間、水の牢獄は霧散し、中に囚われていたアスカは解放され水浸しの状態で地面に倒れ、何度も激しく咳き込みながら涙目でクレンを見上げ睨み付けた。

 

 

「ゲホッ、ゲホッゲホォッ!!ゼェッ、ゼェッ……!ク、クレンお前っ、一体何のつもりだ……?!どうして俺の邪魔をしやがるっ?!」

 

 

「どうもこうもないよ。今此処で君を失うのは僕達にとってもかなりの痛手になる。……それに、彼から伝言を預かってね。それを君に伝える為にこうしてわざわざ足を運んだって訳さ」

 

 

「……っ……?伝言、だと……?」

 

 

 クレンが指す彼とは、きっと間違いなくデュレンの事だ。

 

 

 そんな彼から言伝を預かったというクレンの言葉にアスカも思わず怪訝な反応を返すのを横目に、クレンは蓮夜達の方を一瞥しながら一同に聞かれぬよう顔を近付け、その伝言とやらを淡々とした口調で告げていく。

 

 

「『新種のイレイザーの検証を重ねた結果、我々の今後の方針が変わった。黒月蓮夜達はまだこの段階で殺すな』……それが君に伝えるように彼から頼まれた伝言って奴だよ」

 

 

「!!?なっ……ぁ……なん、だってっ……!!?」

 

 

 驚愕のあまり、思わずクレンから身を離したアスカは目を剥いて言葉を失ってしまう。

 

 

 あれだけ自分達が苦労して用意してきた手駒を次々に殺し、更には今正に新たな脅威として覚醒しつつある蓮夜達をわざわざ見逃せなどと、何をどうすればそんなふざけた結論に至れるというのか。

 

 

 激しく困惑するアスカを他所にクレンはといえば何時もの澄ました顔で飄々とした態度を一切崩そうとせず、それが逆に未だ驚くばかりだったアスカの内から怒りの炎を滾らせて正気に返し、ふらつく足取りで身を起こしながらクレンの胸ぐらを乱暴に掴んだ。

 

 

「どういうことだっ、何考えてんだよアイツはっ!!?奴等の排除は俺達の目的を果たす為にも最優先事項だったハズだろうがっ!!?記号持ちがもう二人も覚醒しちまってるんだぞっ!!?此処でやらなきゃ取り返しが付かなくなるってのにっ、なのに、なんでそんな……!!」

 

 

「さあ?僕も其処まで詳しく聞かされてる訳じゃないし、生憎君を納得させられる答えなんて持ち合わせていないよ。そんなに気になるんなら、帰って直接本人に問い質すなりすればいいじゃない?」

 

 

「今此処で納得出来なきゃ意味ねぇつってんだよっ!!奴等を纏めて消すなら今しかねぇっ!!じゃなきゃ、ここまで俺らがやってきた事が全部無駄になるってんだぞっ?!」

 

 

 そうだ。わざわざこんな別の物語にまで蓮夜達を跳ばすなんて手間を増やし、此処まで無様に敗北した上に手駒の一つのイレイザーを失ってまで得た成果が自分達を殺せる存在を生み出しただけなどと割に合わな過ぎる。

 

 

 それでは最初にこの話を持ち掛けたお前の意にもそぐわぬのではないかと、あくまで冷静な態度を変えようとしないクレンを突き飛ばして怒鳴るアスカに対し、クレンはやはり落ち着き払った調子で乱れた服を整えながら軽薄に告げる。

 

 

「僕だって別に彼の意見に全面的に賛同してるって訳じゃないさ。ただ、此処で彼の意に反するのもそれはそれでリスクが高いだろうなーと思ってねぇ。……君だって、本気になった彼を敵に回したいとは思わないだろ……?」

 

 

「……ッ……」

 

 

 最後の一言の声のトーンは低く、流し目で見つめるクレンの瞳は平時の人当たりの良さそうなソレとは違う。

 

 

 まるで氷のように冷ややかで、何処までも冷徹な眼差しに射抜かれたアスカは思わず口を噤んでしまい、クレンはそんなアスカを一瞥して突然口論を始めた自分達のやり取りを見て呆気に取られる蓮夜達の方へ振り返ると共に、先程と同様に飄々とした掴み所のない笑顔で手を軽く振るう。

 

 

「まあそういう訳で、アスカはこのまま連れて帰らせてもらうから今回の勝負、君達の勝ちって事にしてくれて構わないよ。その方が今はお互いの為だと思うし……そっちだっていざやり合うってなったら、そんなザマで僕を相手に此処から勝てる見込みなんて無いでしょ?」

 

 

「っ、くっ……」

 

 

 それで手打ちにしようよと話を持ち掛けるクレンの提案に何か反論を返したい蓮夜だが、実際のところ、その提案を蹴ってクレンと此処で相対する事になれば自分を含めて響達の誰が犠牲になってしまう危険性は拭え去れない。

 

 

  風太郎や五月達を救い出すという目的も果たした以上、今此処で奴と敵対するメリットはそんなにはない。

 

 

 此処まで苦労して倒した相手をみすみす見逃すなど相当癪に障るが、今はこの場にいる全員の生命の保証を優先にし、蓮夜はクレンを睨み付けたまま徐にカードを手にした構えを解き、それを合意と受け取ったクレンは微笑を浮かべながら自らの手を中空に掲げ、掌の上に半透明の本を出現させる。

 

 

「賢明な判断が出来て助かるよ。……ああ、それからもう一つ。アスカを真正面から倒した君達の健闘を称えて、この物語には暫くは手を出さないって保証してあげるよ。流石に此処まで派手に暴れ回った以上、この物語に僕らの存在が勘付かれるのも時間の問題だしね。それまでは束の間の安寧って奴を享受するといいさ」

 

 

「……束の間で終わらせてたまるものか……お前達が何度この世界に魔の手を伸ばそうと、もう誰も犠牲になんてさせない……今の俺はもう一人じゃない、心の底から頼れる仲間達が付いているんだからな……」

 

 

「……お前……」

 

 

「蓮夜さん……」

 

 

 だから決して屈しはしない。何度お前達が立ち塞がろうと、今の自分はもう何もかも一人で背負って戦っていた頃とは違うのだと、クレンとアスカを正面から見据えながら改めて己の決意を突き付ける蓮夜の言葉にクリスと響も一瞬驚きで目を見張るも、すぐにその顔に嬉しさから笑みを浮かべていき、調と切歌もお互いに顔を見合わせて力強く頷きながらクレンとアスカをまっすぐ睨み付ける。

 

 

 そしてクレンもそんな蓮夜達の力強い表情を一人一人見回すと、静かに瞼を伏せて僅かに微笑を浮かべてみせた。

 

 

「いいねぇ。そうでなくっちゃ張り合いがない。僕個人としても大いに期待しているよ……君の場合は特に、ね……」

 

 

「……?」

 

 

 そう語りながら蓮夜を見つめるクレンの意味深な最後の言葉はあまりにも小さく、上手く声を聞き取れず蓮夜の顔が訝しげに歪むが、それを追求するよりも先にクレンはアスカを連れて転移を開始していき、無数の文字状の粒子と化した二人が消え去ったその場にはクレン達が消えた場所を見つめる蓮夜達だけが取り残されたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

──その後、クレンとアスカの撤退を見届けた蓮夜とクリス、そしてイレイザーに数日間攫われていた一花達は装者達や風太郎等の手を借りて街の病院に運ばれ、厄介になる事となった。

 

 

 医者の診察結果では一花達の方は大した外傷もなく、数日程して目覚めればすぐに快晴になれるだろうと診断され一先ず安堵していたのだが、問題は蓮夜やクリスの方だった。

 

 

 元の世界での戦いで負った傷に加えて、この世界でのイグニスイレイザー達との立て続けの戦闘で流石に無茶をし続けてしまい、病院に担ぎ込まれた途端体中から血を流す二人を目にした医者達は揃って血相を変え、院内が騒然と化した際には流石の二人も流されるまま気まずげに治療を受け、数日程の入院を余儀なくされてしまった。

 

 

 因みに二人の治療などが色々落ち着いた後、蓮夜は病室で響から「またこんなボロボロになるまで無茶をして!」とお説教されるハメになってしまい、響のお説教を蓮夜がベッドの上で正座して項垂れながら申し訳なさそうな様子で聞いてる間、そんな蓮夜の隣のベッドでクリスはお見舞いにきた五月が持参したリンゴ等のフルーツを齧りながら二人のやり取りを見てて「無茶するなだのボロボロだの、お前どの立場からソレ言ってんだ……」的な呆れた眼差しを響に向けていたそうな。

 

 

 そして二人が入院で動けない間、響達は蓮夜からの頼みでクロスレイダーの次元転移システムの起動実験を行ってもらい、元の世界でエルフナイン達から教わった起動手順を頼りに試行錯誤を繰り返しながらも何とか再びシステムを起動させ、元の世界でS.O.N.G.が行っていた稼働実験と同様に時空間を移動する次元転移が再び可能となったそうだ。そして、その後……

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

「──本当にもう行ってしまわれるのですね……」

 

 

 イグニスイレイザー達との激闘から数日が経ち、この世界に来てから何度目かを迎えた早朝。

 

 

 蓮夜達がお世話になった病院の前にて、何処か寂しげな声音でそう呟く五月と、そんな彼女の隣には何処となく五月と同じ心境を滲ませた表情を浮かべる風太郎の姿があった。

 

 

 そしてそんな二人に見送られ、未だ身体の各所に白い包帯を巻き付け、頬などにはガーゼを貼り、右腕にはギブスを巻き付けた蓮夜とクリスも風太郎と五月の別れを惜しんでるような反応に目尻を下げて困ったように苦笑いを浮かべていた。

 

 

「ま、元の世界に帰れる手段も思いがけず手に入った事だし、二度もお前に入院代を肩代わりしてもらってこれ以上厄介になるってのも悪いからな。……それに、あたし等の世界にはまだあのイレイザー達の問題が残ってる訳だしよ」

 

 

「俺のマシンを利用した響達が何度かあっちの世界と往復して、向こうの状況を逐一伝えてくれた感じだとイレイザー達にまだ目立った動きはなさそうだが、それでもきっと奴らの事だ。こうしている間にも水面下で何かしら動いていると思う。それに備えて、奴らと戦える俺達も何時でも対応が効くように向こうで待機しておく必要があるからな……此処まで散々世話になった礼さえロクに返せず、申し訳ない気持ちで沢山ではあるんだが……」

 

 

「い、いえそんな……!お二人は約束通り、一花達を見つけ出してくれただけでなく、私達の命まで救って頂いて……寧ろ、此処まで身体を張ってもらったのに大したお礼も出来ず、逆に申し訳ないくらいです……」

 

 

「相変わらず律儀な奴だなぁ……ま、今となっちゃそれもお前の美点の一つだと思うけどよ」

 

 

「俺から言わせれば、ただの生真面目バカとしか言いようがないけどな―ドゴォッ!―ごっふ?!」

 

 

 呆れた様子で笑うクリスの言葉に溜め息交じりにやれやれと余計な一言を返す風太郎の脇腹に、五月の高速肘付きが横から炸裂する。

 

 

 「おおおおおっ……!」と苦悶の声を上げて脇腹を抑えながら悶絶する風太郎を横目に五月も拗ねたような顔を浮かべるも、すぐにまた寂しげな表情を浮かべて蓮夜とクリスの顔を交互に見やる。

 

 

「それにお礼とかを抜きにしても、やっぱり寂しく思います……せっかくお二人とも仲良くなれて、目が覚めた一花達にも紹介したいと思っていましたから、尚更……」

 

 

「その気持ちだけでも受け取っておくさ。それに、別にこれで今生の別れになるって訳でもなそうだしな」

 

 

「……え?」

 

 

「ああ。あのクレンとかいうイレイザーの言葉に嘘偽りがないのなら、奴らはまだ完全にこの世界から手を引いた訳じゃない……だからこちらも別世界を行き来出来る移動手段が手に入った以上、奴らがまたこの世界で暗躍してないか確認する為に、これからも定期的にこの世界へ様子見しに来ようと思ってる」

 

 

「!じゃあ、これからもお二人に会える機会はあるんですね!」

 

 

 ぱあっと、これで今生の別れになるかと思われていた二人と今後も再会出来る可能性があると理解した途端、五月の表情が花開くように明るくなるが、そんな彼女の反応に蓮夜は若干複雑げに苦笑いを返す。

 

 

「とは言え、それも逆に言えばお前達がまた奴らによって危険に巻き込まれる可能性が残っているという事だ……そう考えると、あまり大手を振って喜べる物でもないんだが……」

 

 

「っ……まぁ、確かにこれ以上の厄介事なんぞ俺も御免だな……俺もコイツらの面倒を見るのに手一杯だし、こんなこと、ずっと続けられていちゃこっちもいつまで経ってもロクに勉強が進められん」

 

 

「……そう、だな……せめて奴らを倒し切れてさえいれば、向こうも痛手を負ってこの世界から完全に手を引かせる事も出来たかもしれない。それが出来なかったのは完全に俺達の力不足だ……すまない……」

 

 

 本当なら、彼等にはもうイレイザーの脅威に怯える事のない平穏な暮らしを過ごせるようにしたかった。

 

 

 せめてあの時アスカだけでも倒し切れていればその可能性を掴めたやもしれないのに、それだけが心残りでならず、蓮夜は己の力不足を悔いて風太郎達に申し訳なさそうに頭を下げるが、それに対し風太郎は一瞬面を食らったように戸惑った後、何処かバツが悪そうに頬を指で掻きながら目を逸らしす。

 

 

「別に、アンタ達を責めるつもりなんてねぇさ。……たださっきの口振りから、何か事件でも起きなきゃ俺達とは会えないみたいな言い方がどうにも引っ掛かったってだけだ」

 

 

「……え」

 

 

「上杉君の言う通りですよ。今度はイレイザーや事件とか関係なく、また何時でも遊びに来てください。その時は取り引きとか抜きに、ただの友人として皆さんをお招きしますから!」

 

 

 風太郎が言わんとしてる事を補うように、五月はそう言って両手を合わせながら蓮夜達と次に会える事を気を早く楽しみに微笑む。

 

 

 そんな二人の予想もしていなかった暖かな言葉に蓮夜とクリスも一瞬呆気に取られた顔で互いに目を合わせ、直後に可笑しげに噴き出しながら風太郎達に向けて頷き返すと、病院前に停めてあるクロスレイダーを調と切歌と共に操作し、元の世界に戻る準備を進めていた響が入口の方から蓮夜達に手を振りながら大きな声で呼び掛ける。

 

 

「蓮夜さーん!転移の準備出来ました!こっちは何時でも出発出来ますよー!」

 

 

「ああ、ありがとう。……じゃあ、一先ず此処でお別れだな」

 

 

「あたし等が死ぬ気になって、やっと勝ち取った平穏なんだ。これを機に遅れた分を取り返すだけじゃなくて、今まで以上に勉強にも力入れろよ?もしこれで進学は無理でしたーなんて、後から聞かされた日には流石に目も当てられねぇしな」

 

 

「も、勿論そのつもりです!皆さんが此処まで死力を尽くしてくれた訳ですから、次にお会いする時には雪音さん達が驚く程の成長を遂げてみせます!……多分……」

 

 

「其処はせめて嘘でもいいから言い切れよっ」

 

 

 相変わらず馬鹿真面目な奴だなと、嘘も吐けず両手の人差し指の爪先をツンツンさせながら自信なさげに目線を逸らしてしまう五月に呆れつつも、そんな彼女とのやり取りにも何処か楽しげな様子で苦笑するクリス。

 

 

 そしてそんな彼女を横目に蓮夜も安堵を露わに微笑する中、風太郎が蓮夜に顔を寄せて小声で話し掛けていく。

 

 

「他人事みたいに笑ってる場合じゃないだろ。アンタもこれからは変な誤解されるような振る舞いとか控えろよ?今度また来た時に同じ相談とかされちゃたまったもんじゃないからな」

 

 

「……そうだな。その件でお前達にも見苦しい所を見せたり、相談に乗ってもらったりと何かと迷惑を掛けてしまったし、今後は俺もその辺に気を配るように心掛けようと思う……それを実践出来るかどうかはまた別の話になるんだが……」

 

 

 正直また何かやらかしそうで恐ろしいなぁ……と、今回は風太郎の助言もあり何とかなったが、元の世界に戻ってからまた自分が余計な失言をして周りに変な勘違いをさせてしまうのではなかろうかと今から不安がって苦笑いを浮かべる蓮夜。

 

 

 そんなこの間の戦いでの頼もしさも何処へやら、情けなく弱気な姿を見せる蓮夜の顔を見て風太郎も呆れたように溜め息を吐きつつ、両手を腰に当てて言葉を返す。

 

 

「今からそんなんでどうするんだよ……。あんだけ相談し合って、無理かもしれないと思ってたあの子とも腹を割って話して分かり合う事が出来たんだろ?だったらその調子で行けば何も怖がる事なんざないだろ」

 

 

「それはまぁ、そうなんだが……」

 

 

「……まぁ、そんなに不安だってんなら、今の内にまだ言ってない事とか、アンタが思ってる事とか、全部包み隠さずにあの子達に話しておけばいいんじゃないのか?アンタ、そういうのに恥とか抵抗とか持ってなさそうだし、そうすりゃ誤解とかもされる事なく人間関係がギスギスする事もなくなるだろ?」

 

 

「……包み隠さず……全部、か……」

 

 

 煮え切らない態度の蓮夜にいい加減痺れを切らし、若干投げやりな口調で適当にしか聞こえないアドバイスをする風太郎だが、蓮夜はその助言に何かを感じ入ったのか真剣な表情で俯いて何やら熟考し、やがて何か得心を得たのか釈然とした様子で力強く頷き返した。

 

 

「そうだな。お前の言う通り、余計な軋轢を生んでしまう前にこちらから先に本音を全て打ち明けてしまえばいいだけの話なんだし、やってみようと思う……何度もこうして悩みを聞いてくれてありがとう、風太郎」

 

 

「……本当に見掛けに寄らず素直過ぎる奴だな、アンタ……まぁ、それでもそんなアンタだから、俺も……」

 

 

「……?何か言ったか?」

 

 

「……別に。ただ人が良過ぎるのも考えモノだとボヤいただけだ。多分四葉といい勝負になるだろうぜ、アンタ」

 

 

 そう言って蓮夜から顔を逸しながら、何かを誤魔化すように憎まれ口を返す風太郎。しかし蓮夜は特に気を悪くする訳でもなく「そうか……」とだけ返しながら小さく微笑み、そんな悪態もロクに通用しない蓮夜の反応を横目に風太郎も何処かバツが悪そうに頭を掻く中、先に五月との別れの挨拶を済ませたクリスが少し離れた所から蓮夜に向けて呼び掛けた。

 

 

「おーい、そろそろいくぞー」

 

 

「あぁ、すまない。……じゃあ、二人共。どうか元気で」

 

 

「はい、黒月さんもお元気で。ほら、上杉君も!」

 

 

「…………。今度来る時には家にも寄っていけ。その時は、まぁ……気が向いたら、親父と妹も紹介してやるよ」

 

 

「……分かった。クリス達と一緒に、今から楽しみにしてる」

 

 

 最後までぶっきらぼうに、しかし不器用ながらも次に会えた時の約束を交わしてくれる風太郎に穏やかな笑みで頷き返すと、蓮夜はその後、一言二言言葉を交わした後にそのまま二人と別れ、クリスと共に肩を並べて響達の下へと向かっていく。

 

 

「何か随分と話し込んでたな。何話してたんだよ、最後?」

 

 

「別段大した話をしてた訳じゃないんだ。ただ次に会えて気が向いたら、家族を紹介すると風太郎が言ってくれてな……それだけの信頼を得られたんだと思うと嬉しくて、今は何だか別れが物凄く口惜しく感じる」

 

 

「……まぁ、心配しなくてもどうせまたすぐ近い内に会えるんじゃねえか?この世界には様子見しに来るってさっきも伝えたんだし、今度来る時には手土産でも持って邪魔すりゃいいだろうぜ」

 

 

「…………もしや、落ち込んでる俺の事を励ましてくれてるのか?」

 

 

「べ、別にそんなんじゃねぇよ……!単にお前があまりに辛気臭い顔してっから見てらんなかっただけで、それ以外に他意なんざある訳ないだろっ」

 

 

 首を傾げる蓮夜に素朴な疑問を投げ付けられた途端慌てふためき、そっぽを向きながら必死にそう否定するクリスの耳の先が仄かに赤く染まってるのが見え、それが彼女なりの照れ隠しなのだと今なら分かる。

 

 

 そんなクリスの反応を見て苦笑いを浮かべると、蓮夜は静かに瞼を伏せ、二人でこの世界に飛ばされてからの記憶を思い返していく。

 

 

「けれど、お前にも本当に感謝してる……最初は俺も想定外の事態に巻き込まれて、気持ちばかりが焦って空回りしてしまって……お前の言葉で目が覚めて、自分を見つめ直す事が出来た……お前がいなかったら、今頃きっと俺は奴らに勝つ事も、風太郎達を守り切る事も叶わなかったと思う」

 

 

「…………。そんなの、あたしだって同じだ」

 

 

「…?」

 

 

 ボソッと、感謝の言葉を口にする蓮夜から顔を背けたままクリスが小声でそう呟き、その声を上手く聞き取れなかった蓮夜が怪訝な顔でクリスの後ろ姿をジッと見つめると、クリスは足を止めて俯き加減のまま何やら逡巡する素振りを見せた後、何処となく神妙な口調で口を開いていく。

 

 

「お前に変な対抗心を抱いて、勝手に突っ走った挙句に知らねぇ世界に跳ばされて……もしあたし一人だったら、自分の事だけで手一杯でアイツ等を助ける所じゃなかったと思う……。そうなりゃ、お前とちゃんと向き合うきっかけも、その為の教えをアイツから乞う機会だってなかったかもしれねぇし……それが出来たのも、色んな不安を拭えなくて燻ってたあたしをお前が気遣ってくれたおかげだって、そう思ってる……」

 

 

 だから、まぁ、なんだ……と、クリスはガーゼ越しに頬を人差し指で掻きながら言葉を探すように逡巡すると、一瞬だけ目を伏せ、意を決したように蓮夜の方に目を向けながら照れくさく、不器用に微笑む。

 

 

「……お前が傍にいてくれた事とか、あたしらの世界に来てくれた事とか……今は本当に、心の底から感謝してる……お前と出逢えて良かったし、あの馬鹿やあたし等を助けてくれて……ほんと、あんがとな」

 

 

「──────」

 

 

 昇る朝日が遠くのビルの隙間から差す光を背に、改めて蓮夜に今までの事を含めて感謝の言葉を口にしながら微笑むクリスのその笑顔は、とても美しく、まるで一つの名画でも見ているかのように幻想的で目が離せず、思わず見惚れてしまう。

 

 

 そんな彼女の笑顔に何か高鳴る物を覚え、蓮夜はそっと己の胸を包帯を巻いた左手で抑えて何やら思考すると、やがて何かに納得したように目を伏せて小さく微笑んだ。

 

 

「ちゃんと素直な気持ちを、誤解される事なく、か……なるほど、そうか……」

 

 

「……?な、何だよ、あたしなんか変な事でも言ってっ──」

 

 

「クリス」

 

 

 もしや散々あんな態度取っておいて、今更都合がいい事をとでも思われているのかと戸惑い若干身構えてしまうクリスだが、徐に瞼を開いた蓮夜はそんな彼女の目をまっすぐに見つめ、

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、お前の事が好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 ポカンと、何の一切前触れもなく、アッサリと、自分の目をまっすぐに見据えて淀みなくハッキリとそう告げた蓮夜のその一言に、クリスは思わず呆気に取られて思考停止してしまった。

 

 

 なんだ。コイツ、一体、急に、何言い出した???

 

 

 脈略もなく、いきなり過ぎる急展開を前に困惑と疑問、その他諸々の感情が停止してしまった思考に反して彼女の中で目まぐるしくゴチャゴチャに入り乱れてしまう中、そんなクリスの複雑な心境など露知らず、蓮夜はクリスの目を真剣な眼差しでジッと見つめたまま更に言葉を続けていく。

 

 

「本当ならこんな気持ち、俺に告げる資格なんかないと自覚してる。お前からしてみればきっと迷惑にしかならないし、困るとは思うんだが……それでも、俺の素直な気持ちを伝えたい、お前に知っていて欲しいと思ってしまったんだ。すまない」

 

 

「………………すっ、すまな、い、ってっ……お、おまっ、おおおおまえっ!謝って済む問題かよソレっ!!?い、いきなりにも程があるっつーかっ、脈略が無さすぎて意味が分かんねぇっていうかっ……!!い、いや、というかっ、そもそも好きってなんだ好きってっ!!?あ、あたしがお前に好かれるような要素なんざ何にもないだろっ!!?あんだけお前にキツく当たってきたんだぞっ!!?嫌われたって可笑しくないっつーかっ、寧ろそっちの方が自然だろ普通っ!!?」

 

 

 思考停止から復帰した途端、蓮夜からの突然の告白にやっと理解が追い付いたクリスは首元から顔まで面白いぐらい真っ赤に染まりながら、混乱のあまりまともに口も回らないまま堰を切ったように捲し立ててしまうが、一方の蓮夜はそんな彼女の言葉の意味をまるで理解していないかのように頭上に疑問符を浮かべながら小首を傾げ、

 

 

「いや、俺がお前を嫌いになる要素なんてないだろう?そもそもお前の反感を買ってしまったのは俺の配慮が足らなかったのが原因なのだし……それに、お前のソレも元々は響を想ってからの物だと理解してる。仲間を思いやるお前のそれは美徳の一つであると思うし、欠点なんかと思わない。きっと、俺はお前のそういう部分にも惹かれたんだと思う」

 

 

「そっ、ぁ……っ……そうは、言ったって、だなっ……!急にも程があんだろっ?!大体好きってっ、あたしなんかの何処を見てそんなっ……!」

 

 

「その答えの一つなら、今も言った通りだ。仲間想いで、不器用に優しくて、けれど責任を背負いがちな真面目で危うい部分もあって……烏滸がましいと理解していても、それでも許されるならそんなお前の助けになれる、傍で支えられる存在になりたい……さっきのお前の綺麗な笑顔に見惚れた時、そう在りたいと思う自分がいる事に気付いた」

 

 

「ぅあっ、ぁ……!おまっ……ぅ、ぅうっっ…………!」

 

 

 うあうあっ……と、恥も外聞もなくそんな台詞をツラツラと告げる蓮夜の顔をまともに直視する事もままならず、クリスは赤くなった顔の額から大量の汗を伝らせ、視線も泳ぎまくって完全に挙動不審になってしまっている。

 

 

 そんなクリスの様子から、やはりこんな事を言われても迷惑でしか無かったかと察し、蓮夜は苦笑いを浮かべながら言葉を続けていく。

 

 

「勿論、俺なんかがお前と釣り合いの取れる人間じゃないと重々理解してる。記憶もなく、自分の世話すらままならず、知らず知らずの内にお前に不快な思いをさせてしまうような甲斐性なしだからな、俺は……だからお前が迷惑でなければ、片思い……と、呼んだらいいんだろうか?せめて、お前を好きでい続ける事を許してはもらえないか?」

 

 

「ばっっ───!!!!?」

 

 

 伝える言葉に何の飾りも一切なく、風太郎に教わった通り己の気持ちを誤解しようがない、ありのまままっすぐにそう言い切る蓮夜からの改めての告白。

 

 

 それを前に何も言葉を返せずにしどろもどろになってばかりだったクリスもオーバーリアクション気味に後退りし、その顔はもうこれ以上ないほど真っ赤に染まり切って目に見えて限界だと人目で分かるのだが、当の蓮夜はと言えばそんな事に気付かず不安げな様子でクリスに顔を近付け、

 

 

「すまん、もしやまた言葉が足りていなかったか……?その……俺が言うお前への好きというのは、確かに異性としての好きというモノで間違いはなくてだな……あ、いや、もしかしてお前の内面に惹かれたからと言って外見が劣っているとか、そんな意味合いに聞こえてしまったとかか……?だとしたらそんなつもりはないんだ。寧ろ俺なんかじゃ釣り合いが取れないぐらい容姿も可憐で整っているし、髪色も思わず見蕩れてしまうほど綺麗だと思ってて、実際にこうして会話しているだけでも鼓動が不規則に速くなるぐらい魅力があって、ええと、他にも……」

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

数分後……

 

 

「──あー、いたいた!もう遅いよ二人共ー!何時まで待っても来ないから何かあったんじゃないかって心配に……って、ク、クリスちゃん?どうしたの?なんか顔が凄い赤く……?」

 

 

「何でもねぇよほっとけさっさと帰るぞバカァっっっ!!!!!」

 

 

「え、なんでいきなり罵倒されたの私?!っていうか何をそんな怒って……って、蓮夜さんっ?!ど、どうしたんですかその顔っ?!」

 

 

「……………………いや、ウン、まぁ、何といえばいいんだろうな…………どうやら俺はまた懲りもせず、彼女の不興を買ってしまったらしい…………」

 

 

「???」

 

 

 ズンズンズンッ!と、何時まで経っても戻って来ない二人に痺れを切らして迎えにきた響の真横を何処か怒りやそれ以外の感情やらを滲ませた足取りで素通りし、顔を真っ赤に染め、若干涙目になりながら調と切歌の下へと向かっていくクリスと、そんな彼女の後を何故だか頬に赤い手形の痕を残しながら落ち込んだ様子で着いていく蓮夜を交互に見遣り、状況に理解が追い付かない響は頭上を疑問符で埋め尽くし困惑してしまう。

 

 

 そしてそんな彼女を尻目に蓮夜はジンジンと残る頬の痛みを噛み締めつつ、「また此処へ来た時には風太郎に反省点を指摘してもらおう……」などと、遠い目を浮かべながら胸の内でそんな情けない決心を密かに固めていたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

───その後、クロスレイダーを用いて風太郎達の世界を後にし、無事に元の世界へと戻って来られた蓮夜とクリスはS.O.N.G.の面々に盛大なパーティーと共に迎えられた。

 

 

 そんな想像もしていなかった歓迎に二人も最初こそ戸惑ったものの、再び見る事が出来た弦十郎やエルフナイン、藤尭や友里のオペレーター組などの馴染みある顔にクリスも漸く帰って来られた実感を得たのか緊張が解けたように安心感を覚え、蓮夜もそんなクリスを見て肩の荷が下りたように安堵の笑みを密かに漏らし、その日は二人の無事と帰還を祝って大いに盛り上がる事となった。そして……

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

―symphony・405室―

 

 

「────なん、だ……これは……?」

 

 

 響達の世界に戻って来てから数日が経ったある日の事。

 

 

 風太郎達の世界で姿を見せたクレンと呼ばれる新たなイレイザーの出現やクロスレイダーに内蔵されている次元転移のシステムやそのロジックについてなど、弦十郎やエルフナインを交えて連日詳しく話し合ったり、暫く店に顔を出せなかったクレープ屋の店長に頭を下げて謝罪し今まで以上に仕事を精を出したりなど、イレイザーに関する事件が一段落してそれなりに平穏な日々が続いていた中、クロスレイダーの研究の為に数日ほどS.O.N.G.で寝泊まりし、久々に自宅に帰宅した蓮夜は家のリビングに足を踏み入れた途端、目の前に広がる光景に言葉を失い絶句してしまっていた。

 

 

 何故なら、彼の目の前には身に覚えの無いモノの数々……数日前には簡素なテーブルと薄型テレビしかなかった筈のリビングが、カーペットや大きなソファー、更には女子が好みそうな可愛らしい多数の小物など、何故か自分が買った覚えのない家具で埋め尽くされていたからだ。

 

 

「……部屋を間違えた……?いや、鍵は確かに合っていたし、俺の部屋で間違いは……だとしたら、一体……?」

 

 

「──あ!蓮夜さん、おかえりなさーい!」

 

 

「?!……響?」

 

 

 ちょっと家を空けていた間にまるで別世界のようになってしまっている自分の家のリビングを見回し、混乱と戸惑いのあまり硬直してしまっていた蓮夜の背後から聞き馴染みのある声が不意に聞こえて慌てて振り返れば、其処には空き部屋となっている筈の一室から顔だけ出し、いつもの活発な笑顔と共に帰宅した蓮夜を迎えて手を振る響の姿があった。

 

 

 何ゆえ彼女が此処に?と、鍵を持っていない筈の響が何故か家の中にいて更に困惑を深める蓮夜を他所に、響はパタパタとスリッパの音を鳴らしながら蓮夜の下へ駆け寄っていく。

 

 

「お疲れ様です!確かここ辺りずっと、本部の方で師匠やエルフナインちゃんと一緒にあのバイクを調査してたんですよね?あれから何か進展とかってありました?」

 

 

「……いや、それについてはまだ結果待ちで……というか、何故響が俺の家に……?確か家には鍵を掛けてたハズ……」

 

 

「へ?あれ……?蓮夜さん、師匠から何も聞いてないんですか?」

 

 

「……え……?」

 

 

 小首を傾げる響からそう問われ、蓮夜はますます困惑を深め思わず間の抜けた声で聞き返してしまう。

 

 

 何故其処で弦十郎の名が出てくるのか?理解が追い付かない蓮夜の様子から彼が何も聞かされていないと察したのか、響は「あー……」と若干バツが悪そうな顔で頭を掻くと、苦笑いと共に自分が出てきた空き部屋の前まで移動し、部屋の中を指差しで蓮夜に室内を覗かせる。其処には……

 

 

「───おいコラっ、そっちはあたしのスペースだろっ!もうちょっとそっちに寄せろってっ!」

 

 

「ふふーん、こういうのは早い者勝ちデスよクリス先輩!この陣地は既にアタシの手中に有りデス!」

 

 

「……と、切ちゃんが得意げに勝利宣言して油断している隙に横から将を討ち取る漁夫の利オチなのでした、まる」

 

 

「あぁー!!?そ、それは流石に反則なのデスよ調ー!!?」

 

 

……響が指差した先には、何やら小競り合うクリス、切歌、調の三人の姿があった。

 

 

 だが、蓮夜の目を引いたのは彼女達本人ではない。彼女達が手にしているソレと、その周囲だ。

 

 

 一体何処から持ってきたのか、6帖半の室内にはこれまた見覚えのない洒落たデザインの大きなパイプ二段ベッドが壁側に一つ、プラスチック素材の洋服タンスが隅っこに二つに、付けた覚えのないカーテンには物干しまで掛かっているではないか。

 

 

 そして何より気になるのは、今正に部屋の中心で揉み合ってる三人が川の字に敷かれている三枚の敷布団の上で、それぞれ白いシーツを手にしている事だ。

 

 

……彼女達は何をして、いやそれ以前に、この家の有り様は一体ナニゴト……?

 

 

「ええっと、ですね……師匠から話を通してくれると思って言ってなかったんですけど……実は蓮夜さんが留守の間に、蓮夜さんが使ってない空き部屋を私達が仮部屋として使っちゃおうかなー?……みたいな感じで勝手に話を決めちゃいましてっ」

 

 

「……………………。え、今なんと?」

 

 

 聞き間違いだろうか。今何か彼女がとんでもない発言をしたような気がする。

 

 

 しかしそんな蓮夜の困惑も置いてけぼりに、響もちょっと言い辛そうに話を続けていく。

 

 

「いえほらっ、この前別世界に行ってた間の事をクリスちゃんから話で聞いたんですけど、実は蓮夜さんが家じゃ家事もロクに出来てないって聞いちゃってですねっ?流石にそれ聞いて心配だなーって皆で話してたら、『もし蓮夜さんが使っていない部屋を間借り出来れば、何時でも様子見が出来て安心なのにねー』って、そんな軽い流れから何だか話が段々と進んじゃったというか……それだったら、まだ揃ってない家具とか私達の好みで選んでみたいよねー!とか、皆で盛り上がっちゃって……」

 

 

「ほう、ちゃって……で……?」

 

 

「でー、そのぉー……その話を実際に師匠にしたら、もしかすると自分達の研究や都合に付き合わせているせいで、まともに家具を選ぶ自分の時間すら作れないのかもしれないなって責任を感じちゃったみたいでっ。それなら蓮夜さんが留守の間、私達が代わりに部屋に見合った最低限の家具だけでも取り揃えようかなぁって話をしたら、その為の資金まで用意してくれて……で、実際に家具とかを選んでく内にコーディネートが楽しくなって、流れで何やかんや自分達が使う家具まで買っちゃって……えへっ」

 

 

「いやえへっではないのだが」

 

 

 その何やかんやが一番肝心な内容ではないか、何やかんやに何があったんだと、ちろっと舌を出して可愛いらしく誤魔化そうとする響に流石の蓮夜も虚無な顔を浮かべてしまうが、其処へ切歌と調と布団のスペースで言い争っていたクリスがやって来て呆れ気味に声を掛ける。

 

 

「別に何か其処まで不都合がある訳でもないだろ?大体、お前みたいな不器男(ぶきお)にこんなだだっ広い家なんて持て余すに決まってんだ。それならあたし等がちょいちょい様子見に来た方が少しは管理だって効きやすくなるだろうし、そうなって来ると寮や家を一々行き来すんのも面倒になるから、ちょっとでも楽する為に使わない空き部屋くらい貸してくれたっていいだろ」

 

 

「いや、その……その気遣い自体はとても有り難くはあるんだが、俺なんかの為にお前達が其処までしてくれる必要がそもそもないというか……というか、不器男ってもしや俺の事か……?」

 

 

「他に誰がいんだよ。お前みたいな不器用に不器用を重ねて生きてるような奴、ちょっとでも目ェ離したら何しでかすかとか分かったもんじゃねぇし、洗濯機一つであんなトラブル起こすとこなんて見せられちゃこっちだって安心出来ねぇってのっ」

 

 

「う、ぐ……」

 

 

 先の五月宅での洗濯機事件の一件を持ち出された途端、色々と文句を言いたげな様子だった蓮夜も一瞬で口を結んで消沈してしまい、そんな蓮夜を横目にクリスも腕を組み、目を伏せてため息混じりに言葉を続ける。

 

 

「それにまぁ、お前には色々と世話になって借りがあんのも確かだし、それを返していくって考えりゃ別にあたしだって世話焼きすんのに異論はねーよ。……でないと、あたしが見てないとこでコイツ等と何か間違いとかあるかも分かんねーし……」

 

 

「……?すまん、最後の部分が上手く聞き取れなかったんだが、今なんと……?」

 

 

「っ、なんでもねぇよっ!いいから黙って人の厚意素直に受け取っとけって言ってんだこの不器男っ!」

 

 

「いや流石に年頃の女子を男の家に平気で泊められる程の責任なんて簡単には持てはしないぞ!というかその罵倒みたいな呼び名はもしや今後も固定化されるのかそれは?!」

 

 

 わりと不名誉な呼び名の件も含めて、流石に歳の近い異性をそう簡単に家で寝泊まりさせる訳にはいかないと変な所で真面目な蓮夜はわりと必死に説得を試みるが、それもこれまでの蓮夜自身の生活面での失敗談の数々を持ち出されて悉く反論を封殺されてしまい、結局クリス達に言いくるめられて負かされた挙句、半ば乗っ取られる形で響達に自宅を貸し与える事になってしまったのであった───。

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

 

───同時刻、都市部から少し離れた場所に位置するとある海岸。

 

 

 夕日もすっかり沈んだ夜の海の浜辺にて、S.O.N.G.の調査員達がこの辺り一帯を封鎖し、暗がりの浜辺を海岸沿いの車道に停めてある軽装甲車のルーフライトの光などで浜辺の闇を照らしながら何かの残骸らしきモノを探して回収する姿があちこちに見られ、そんな彼らの指揮を執る弦十郎は調査員の一人と何か深刻げな様子で話し合っていた。

 

 

「──そうか。つまり我々が先程探知した謎の次元震動の反応の正体は、この無数の残骸らしき物であると」

 

 

「はい。砂浜のあちこちに散乱する残骸の多さや形状の類似点からして、かなりの大きさの物体が此処に現れた事は間違いないかと思われます。それもこの残骸の惨状からして、恐らく既に破壊された状態から辛うじて不時着したか……或いは予期せぬ形でこの海岸に流れ着いたか、という可能性が高いかと」

 

 

「予期せぬ形で、か……だとすれば、砂浜で倒れていたというあの青年も今回の一件とまだ何か関係があると考えるのが妥当だろうな。次元震動によって現れた何かの不時着にたまたま巻き込まれただけ、という線もまだ捨て切れないが……」

 

 

「その事なのですが司令、実はもう一つ報告がありまして……」

 

 

「む?まだ何かあるのか?」

 

 

「えぇ。その青年と関連するかはまだ分かりませんが、先程調査員の一人が不時着物を回収している際に、このようなモノを発見しまして……」

 

 

「……!これは……」

 

 

 神妙な面持ちで調査員がおずおずと差し出した物を目にし、弦十郎は驚きから目を見張り、息を拒んだ。

 

 

 調査員が見せるそれは現場保存の際に入れられたビニールに包まれたままだが、その形状、その異質な存在感には見覚えがある。

 

 

 バックルの部分は三本線の爪痕で引き裂かれたかのように破壊され元の形が分からないほど悲惨な状態になってはいるが、それは間違いなく自分達が良く知る青年が用いているのと同じ、マスクドライダーのベルトに酷似していた───。

 

 

 

 

 

第六章/五等分のDestiny×紅弾の二重奏(デュエット) END

 

 

 

 

 




新タイプ解説編



仮面ライダークロス・タイプイチイバル


解説:ガングニールの時と同様、クリスとの繋がりから生み出された『TYPE ICHAIVlL』のカードを用いてクロスが変身する、臨機応変遠距離形態。


 タイプチェンジ時の外見は白色のラインが所々に走った滑らかなデザインの赤い装甲と、交差する二丁銃を彷彿とさせる緑色の複眼が特徴の赤い仮面、腰部には巨大なX状の赤いリアアーマーを装備している。


 オリジナルのクリスと同様に全身のあらゆる部分が銃火器に変える事が出来、胸の内部装甲に二基のガトリング砲、腰部のリアアーマーには量子ミサイルが内蔵され、肩部のアーマーは砲撃形態へと変形させる事も可能など、一部分だけ切り取っても様々なギミックが隠されている。


 また、タイプイチイバル専用の得物である二丁銃もあらゆる形態に変形が可能であり、通常の射撃は勿論、銃口から十字状のビーム刃を展開して近接戦闘への対応、二丁銃を連結させる事でスナイパーライフル、大型ビーム砲、ロングボウなどに変えたりなど、近距離から超長距離まで様々な射程で戦う事が出来る。


 更に背面装甲の一部を分離し、薔薇の花弁のような形状をした遠隔兵装のリフレクタービットを最大六基まで射出可能であり、縦横無尽に宙を飛び回って相手を撹乱しながら死角からの射撃攻撃、更にクリスのリフレクター同様に最大の盾として用いたりなど、ある意味ではタイプイチイバルの要ともなる最大の武器と呼べる。


 タイプガングニールと同様にEXCEED DRIVEも搭載されており、発動時には全身の装甲が部分展開されて内部装甲が真紅色に発光し、全ての火器の威力が最大まで強化される。


 必殺技はそれぞれの兵装時の最大出力射撃に加え、全身全ての火器を一斉発射する『VELVET REVOLVE』と、クリスとのユニゾンにより仮面ライダーゾルダの契約モンスターであるマグナギガのように自分自身が砲台となり、背中のジョイント部分に差し込まれたアームドギアを通してクリスから全てのフォニックゲインを吸収し、最大最強の超巨大な真紅色の砲撃を全砲門から撃ち出す『LASTING‪ x METEOR LITE』




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