戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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番外編③
メモリア03/急なお誘い×キミに伝えたい気持ち(前)


 

―symphony・405号室―

 

 

「──うぁああ〜……もぉやだぁああ〜……つぅ〜かぁ〜れぇ〜たぁああ〜っ……」

 

 

 S.O.N.G.の協力者となって以降、黒月蓮夜が住居とする高層マンション八階立て『symphony』の一室である405号室。

 

 

 響達の協力もあってそれなりに家具も出揃ってきたリビングにて、もう日課と呼ぶべきか、最早自分の家の一つみたく思っているのではないかと言うレベルの頻度で、この家に何度も足を運んでいる立花響は休日の真昼間からリビングのテーブルの上に勉強道具一式を広げて熱心に問題集と格闘していたようだが、その集中力も遂に切れたのか、大層くたびれた大声と共にテーブルの上に上半身を預けてダラーんと倒れ込んでしまう。

 

 

 そんな彼女の下に、勉学に励む彼女の為にお茶でも用意しようとキッチンで作業していた蓮夜が白湯気立つコーヒーカップを乗せたトレイを両手に現れ、響の顔の横にコーヒーカップを乗せながら今の彼女の有様を見て思わず苦笑してしまう。

 

 

「大変そうだな……いや、任務と並行しての勉学となれば、実際大変でない訳がないか」

 

 

「う〜っ……そうなんですよぉっ……とても、凄く、もうハチャメチャに大変なんですっ……まぁ、私の場合はいっつもこんな感じなんですけど……あ、コーヒーありがとうございます……」

 

 

「粗茶ですが、どうぞ」

 

 

「あはは……コーヒーに粗茶って普通使いますっ?」

 

 

 多分蓮夜なりの場を和ます冗談のつもりなのか、何処か戯けているようにも聞こえる台詞と共にカップを手の平で指して促す蓮夜に思わず噴き出しつつ、「いただきまーす」の一言と共に白湯気立つカップを両手に、口へ一口。

 

 

 その瞬間、口の中にほんのりと甘いミルクと砂糖を含んだコーヒーの味わいが広がってゆき、先程までの勉強疲れが少しだけ和らぐ気持ちになる。

 

 

「はぁ〜……すっごく落ち着くぅっ……」

 

 

「少しでも気分を和らげられたのなら幸いだ。……しかし、本当に多いんだな、学校から出たお前への課題とやらは……」

 

 

 蓮夜が容れてくれたコーヒーの味を噛み締めるように喜悦の声を漏らす響の反応を見て苦笑しつつ、蓮夜が響から彼女のすぐ傍の床に置かれた幾つも積み重なる課題の問題集やノート等に目線を向けると、響もそれを見て後頭部を掻きながら恥ずかしげに笑う。

 

 

「あっははっ……まぁ確かに勉強は大変ではあるし、正直問題集とにらめっこするのもいい加減嫌気が差して来ましたけど……でもこうなってるのも結局は私自身のせいだし、任務や人助けを言い訳にこっちを疎かにするのは違うと思いますから、途中で投げ出したりはしません。何より私もシンフォギア装者である前に花の女子高生ですから!青春を謳歌する為にも、課題は全部こなしてみせます!」

 

 

「…………とても立派な事を言っているし、俺も出来れば手放しで褒めたい心境なんだが……さっきチラッと見せてもらった時から、答案用紙の欄が埋まってる気がしないのは俺の気の所為だろうか……?」

 

 

「う"っ……」

 

 

 両腕でガッツポーズを取って「大丈夫!」と笑顔で答える響だが、ものすごくビミョーな顔で空欄が多く目立つテーブルの上の答案用紙を見つめる蓮夜の一言に、グサッと見えない何かが胸に突き刺さる。

 

 

 そのままぐったりとテーブルの上に突っ伏し、とても声にもならない呻き声を上げてしまう響の背中に、蓮夜もどう言葉を掛けようかと困ったように目尻を下げて肩を竦めてしまう。

 

 

「その、なんだ……どうしても一人じゃキツいと言うなら、未来やクリス達を頼ったらどうだ?自分に出された課題とは言えど他人を頼るのも悪い事では無し、その方が……」

 

 

「あ、その点は大丈夫です。未来やクリスちゃんも先約があるから遅れるって言ってたけど、夕方くらいにそれが終わったら蓮夜さんの家に来てくれるってさっきメールくれましたし、解るところだけは埋めて後は二人に教えてもらう予定ですから!」

 

 

「……あ、そうか、なるほど……何かもう、ナチュラルに俺の家は皆の溜まり場になってるんだな……」

 

 

 というか気の所為だろうか、つい先日まで寂しいまでにガランとしていたハズの自分の家に、日に日に増えてゆく家具と共に彼女達の私物も段々と増え始めているような気がする。視界の端にうっすら見える大きなイルカのぬいぐるみとか全然見覚えがない。今気付いた。怖い。

 

 

 そんな風に思いながらリビングの隅に置かれてるわりとデカめのぬいぐるみと顔を引き攣らせながらにらめっこする蓮夜の複雑な心境も露知らず、響はうーん!と軽く柔軟体操でもするように両手を組んだ腕を頭上に伸ばしてゴリゴリと音が鳴る背中を解す中、其処でふと何か思い至ったように「あっ」と呟きながら蓮夜の顔を見た。

 

 

「そういえば、蓮夜さんは学校とか前に通って……って、そっか……蓮夜さんは記憶喪失だから、その辺の事も覚えてないんですよね……」

 

 

「……うん?ああ……そう、だな。こんな俺にも学生の頃があったのかは、正直自分でも想像が出来ない。というか、現に今響の課題の問題集を見せてもらっても思い出せる記憶が何一つないのだから、学校には行けなかったのか、或いはそんな問題すら分からないほど不出来な不良生徒だったのかも分からないな」

 

 

「不良の蓮夜さん、かぁ……今の蓮夜さんを見てても何か想像出来ませんね……でも、もし学校に通えてなかったのならもったいないですよ、若い内にちゃんと青春を楽しんでおかないと!あ、何なら今からでもウチの学校に転校とかして来ちゃいます?」

 

 

「それもそれで悪くはないかもしれないが、生憎不器用に足が生えて歩いているような俺には、お前達みたいに器用に学業を両立させる自信はないよ……そもそも、リディアンは女子校なのだから、男の俺は入れないんじゃなかったか?」

 

 

「えへへ、言ってみただけでーすっ」

 

 

 顔を横にテーブルに突っ伏しながら、楽しそうに笑う響。そんな彼女の笑顔に蓮夜も釣られて困ったように微笑んでしまうが、その時、響との今のやり取りをきっかけに一つある思い付きが浮かんだ。

 

 

「しかし……青春、か……響、未来達が家に来るのは、確か夕方頃と言っていたよな……?」

 

 

「?えと、はい。今は1時半で、二人が来るのは5時過ぎになるって言ってたから……」

 

 

「大体あと4時半くらい、か……なら、響」

 

 

「はい?」

 

 

 クルクルと、リビングの時計を見上げながら手持ち無沙汰で何となく手にしてたシャーペンを器用に手の中で回しながら、響は蓮夜の方に振り向く。そんな彼女に、蓮夜は人差し指を立てながら少しだけぎこちなく微笑み、

 

 

 

 

 

 

「その時間まででいい。もし響が良ければでいいんだが……俺と、デートという奴をしてはくれないか?」

 

 

「…………………………へ?」

 

 

 

 

 

 

 サラっと、わりと急でとんでもないそんな誘いを口にした蓮夜のその不意の一言に、一瞬理解が遅れた響の手から、ポロリとペンが音を立てて床へ落ちしまうのであった。

 

 

 

 

 


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