戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
―自然公園―
「───おお。実際にこうして足を運ぶのは初めてだが、中はこんなにも広々としてるモノなんだなぁ……」
マンションの近隣に存在する、休日を楽しむ家族や子ども達、老夫婦等が思い思いに過ごす姿があちらこちらに見られる広々とした草原が見渡せる公園。
先程の突然誘いの後、響と共に此処へやってきた蓮夜は感慨深げで、声音も穏やかな空気が流れる平穏な光景を前に何処か楽しそうに呟きながら背後から付いてきた響の方へと振り返った。
「意外といい場所だろう?以前から入り口前を通り掛かる事は何度かあったが、此処までいい場所だとは思っていなくてな。これなら今度、クリス達も一緒に誘って……」
「……………………」
「……?響、どうした?さっき家を出てから何だか妙に惚けてるような気がするが……」
「……あ、いえ、ダイジョーブデース……なんでもありませんから、ほんとに、うん」
「?……そう、か……?」
アハハー、とあからさまな愛想笑いと共に、若干一部カタコトになりながらも手を軽く振って何でもない素振りを見せる響。
そんな彼女の様子に何処となく違和感を感じ小首を傾げる蓮夜だが、まあ彼女自身が問題ないというならそうなのだろうと一人納得して再び広々とした園内を興味深そうに見渡し出したのを見計らい、響はがっくしと肩を大きく落とした。
(はあっ……デートとかいきなり言い出した時はびっくりしたけど、要するに息抜きに遊ぼうってだけかぁ……変な勘違いして恥ずかしいなぁ、私……)
「……響、響」
「うひゃあいっ?!」
自意識過剰にも程があるなぁと、変な期待をしてしまってた己を恥じて項垂れながら溜め息を吐く響の肩を、蓮夜がちょんちょんと横から人差し指で突き、完全に油断し切ってた所への思わぬ不意打ちに響も驚いて思わずおおげさに飛び退いてしまう。
「どうした……?何だかさっきに比べて妙にテンションが低いような気がするんだが……もしや、勉強疲れが今頃になって祟ってきたか?だとしたら家に戻ってゆっくりしても……」
「ぁ、い、いえ!別にそういう訳じゃなくてですね……って、蓮夜さん、その手に持ってるのって……?」
顔を覗き込む蓮夜がわりとガチ目に心配しているのが伝わり、慌てて両手を振って元気な素振りを見せる響だが、其処で蓮夜が両手に手にする二本のラケット……見るからに安物と分かるバトミントンの存在に気付く。
「これか?実はこの間、たまたま興味を惹かれて入った駄菓子屋の片隅にポツンと置かれてたのを見付けた奴でな。何でもその店、昔は色々な遊具も売ってたりしていたらしいんだが、最近じゃ子供達もゲームやネット動画などに需要を持っていかれてこういった道具で遊ぶ子も年々少なくなってきたらしく、店側もあまりこういうものも取り扱わなくなってきたらしい。……ので、せっかくだから俺が買い取る事にしたんだ。前に此処とは違う公園で、コレで遊んでいる子供達をたまたま目にした事もあったのでな」
「……ええと、それはつまり要約すると……?」
「その子達が楽しんで遊んでる姿を見て、実際にやってみたいと思った、だな。お前と」
「……な、なるほど」
この人は本当に自分より年上なのだろうかと、何時もの無表情のままの筈なのに何処か子供のようにキラキラと目が輝いているように見える蓮夜の分かり辛いはしゃぎっぷりを見て苦笑いを浮かべつつも、此処までワクワクしている蓮夜の誘いを無下するのも忍びないし、実際に自分も蓮夜とのバトミントンをやってみたいという欲求が段々と湧き上がり、蓮夜の手からバトミントンとシャトルを受け取りながら後ろにある程度下がって距離を開いていく。
「……わかりました。じゃあ実際にやってみましょう!でも先に断っておきますけど私、バトミントンはこれが初めてって訳じゃないですよー?もしアレでしたら、手加減してあげましょうか~?」
「ふふ……舐めて掛かってくれるなよ?こう見えても身体能力、動体視力には自信があるんだ。伊達に何度もイレイザーと戦ってきた訳じゃないと証明してみせよう……!」
「凄い自信……だったらこっちも手加減無しで行きますよー!!どぉおりゃああああっ!!」
此処まで言い切られたからには加減などしない。寧ろそれでは失礼に当たると改め、響は蓮夜に目掛けて宙に軽く投げたシャトルをラケットで全力で打ち込んだ。
そして響の放ったシャトルは凄まじいスピードで蓮夜に迫るが、蓮夜は一切動じる事なく、その瞳は確実にシャトルの軌道を捉えていた。
(流石は装者とあって大した力とスピードだが、目で追い切れないほどじゃない……!これなら俺でも打ち返せる!)
絶対の自信と共にラケットのグリップを握る手に自然と力が込められ、横薙ぎにラケットを思い切り振り切る。
そのあまりの全力に突風が巻き起こって草原が激しく揺れ騒ぎ、その光景を前に響も思わず喉を鳴らすほど圧倒されて固唾を飲んでしまう中、蓮夜が全力で振るったラケットはシャトルを捉え
……る事はなく、ガットどころかフレームにカスる事すらなく、シャトルはそのまま蓮夜の横を素通りして背後にポトンと落っこちてしまった。
「…………」
「…………」
「あ、あのぅ、蓮夜、さんっ?」
「待て。言うな。何も言うんじゃない」
あんな自信ありありげに啖呵を切ったにも関わらずこの有様を見せられ、流石の響も気まずげに頬を掻きながらなんと言葉を掛ければいいかと言い淀む彼女の言葉を背に、蓮夜はまるで何事も無かったかのように地面に落ちたシャトルを拾い上げて改めて響と向き直った。
「今のはアレだ、そう、少し手元が狂っただけだとも。此処からが本気の本気だ……全力で行かせてもらうぞ……!」
「は、はい!」
あまりの滑稽さに一瞬目が点になってしまった響だが、蓮夜の鬼気迫る気迫で我に返り慌ててラケットを構え直す。
そして気を取り直した蓮夜の方も「すぅー……」と息を吐き出しながらシャトルを軽く宙に投げ、ラケットを全力で振りかぶり、
「そぉいっ!」
―スカッ!ポトンッ―
「………………」
「………………」
……先程の焼き直しかのように、蓮夜の振りかぶったラケットにシャトルはカスる事すらなく、そのまま真っ直ぐ地に落ちてしまったのであった。
「……あ、あの、蓮夜さん……」
「……待ってくれ。頼む。もう一度やらせてくれ」
非常に気まずげに声を掛けようとする響の台詞を遮るように、蓮夜は手で制してそう言いながら、地に落ちたシャトルを再び拾い上げて再度空に投げた。で……
「ハッ!」
―スカッ!―
「ヌゥンッ!」
―スカッ!―
「ヤァッ!」
―スカッ!―
「トォッ!」
―スカッ!―
「…………………………」
……何だろうコレは。まるでDVDで早戻しした場面を何度も何度も見せ付けられてるかのように、全く同じ動き、全く同じ姿勢で何度となくシャトルをスカる蓮夜の姿に流石の響も呆気に取られてしまう。
んで、最早何度目かも分からないスカッの後、何処か哀愁漂う背中を響に見せながら地面に落ちたシャトルをジッと見下ろし、暫し無言で立ち尽くしていた蓮夜は徐に俯き加減の顔で振り返る。
「…………すまない響……どうやら俺にはハイテク音痴に加えて、バトミントンの才能すらも皆無だったようだ……」
「そ、そそそんな事ないですって!そんなに気を落とさないで下さいよ、大丈夫ですから?!」
フフフッ……とあれだけ威勢よくカッコつけた手前、無様な姿を何度も晒した自分に自嘲気味に笑う蓮夜の落ち込みっぷりが半端なく、ズゥーンッと暗い影を落としながら俯く蓮夜の下に響が慌てて駆け寄りながらフォローに入りつつ、蓮夜の手をナチュラルに手に取っていく。
「そもそも蓮夜さん、シャトルの動き自体はちゃんと目で追えていたし、ラケットを振るう動作にも腰が入ってて動きはちゃんとしてるんですよ。ただ少し力み過ぎてて動きが大振りになってるというか、こうやって……こうすれば……」
「……ほう……ほほう……ううむ……なるほど……」
肩や腕、足等に触れながら改善点を指摘する響の助言に素直に従い、彼女の指南通りに身体を動かす蓮夜。
それから数分後、やはり普段から戦い慣れしているからか身体の捌き方に関しては飲み込みも早く先程よりかは幾分か動きがマシになったと見計らい、響は芝生の上に置いておいた自身のラケットを拾い上げて再び蓮夜から距離を離していく。
「よしっ。それじゃ、今教えた通りにやってみて下さーい!」
「分かった。……ふぅ……」
響に軽く頷き返し、一度目を閉じて精神統一。
一拍間を置いた後、蓮夜はもう何度目か分からないシャトルを再び空に投げ、響に指南された動きからラケットを振るい、今度こそシャトルを見事に捉えてみせた。
「おお……!」
「そーそー!その感じですよ蓮夜さん!」
シャトルをちゃんと打てた自分に自分で驚く蓮夜に笑顔でそう返しつつ、響もラケットで軽々とシャトルを打ち返せば、蓮夜もそれに応酬しシャトルを打ち返す。
そうやって何度もラリーを繰り返す内に、蓮夜の表情も段々と柔らかく、何処か楽しそうな顔付きになり始めていた。
「なるほど、なるほど。これがバトミントンか……凄いぞ響……!俺は今、自分の新たな才能の開花に興奮が冷めやまない!」
「あっはははっ……!ただのバトミントンぐらいでおおげさ過ぎですよー!」
まるで子供のように自身の成長ぶりを喜ぶ蓮夜を見ていると、教えたこちら側も何だか嬉しくなってくる。
そんな感慨深い想いと共にシャトルを打ち返せば、蓮夜は僅かに構えを変えながらグリップを握り直す。
「段々とコツも掴めてきた……!指南の礼代わりに、今度こそ俺の本気を見せるぞ!」
(……!来る!)
蓮夜の身に纏う空気が変わると同時に、両腕に鳥肌が立つ。
その感覚から彼の言葉通り、とてつもない威力の球が来ると察した響はグリップを両手で握り直して蓮夜の反撃に備えると、蓮夜は先程とは段違いのキレのある動きから全力でラケットを振るい、シャトルを打ち返した。
それは凄まじいスピード、大気すら裂く程の速さとなって響の真横を素通りし、
遥か遠方に見える、ドッグランの柵をドゴォォオオッッ!!と凄まじい轟音と共にブチ抜き、そのままドッグラン内の中央の地面に着弾すると同時に小規模の爆発を巻き起こしてしまったのだった。
「あ」
「……あっ」
「うわぁああああああああああああああっっ!!?」
「な、何だ今のっ?!爆撃か何かかっ?!」
「キャインキャインッ!!」
「ああーっ?!い、犬が怯えて柵から逃げ出したぁっ?!」
「ま、待ってミーちゃんっ?!何処へいくのぉーっ?!」
「「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっ!!!!?」」
蓮夜が不用意に放った全力球のせいで、公園内にて爆発テロか何かが発生したのではないかと園内はたちまち大パニック。
それどころか、蓮夜の球がブチ抜いた柵から爆発に驚いた犬達が全て脱走するというトラブルまで立て続けに起きてしまい、二人は手に持つラケットを投げ捨てながら慌てて事態収拾の為に走り出していくのだった。
◆◇◆
──あれから約数時間後。あの後、二人は突然の(シャトル)爆発騒動で混乱に陥った人々のパニックの鎮静化と一斉に逃げ出した大量の犬の捕獲に奔走しまくった。
逃げ出した犬の捕獲自体は当の犯人である蓮夜が終始全力疾走で頑張ってくれたおかげでどうにか全て元の飼い主の下に返す事は出来た(なお捕獲の際、動物に嫌われやすい体質のせいで手や顔等を噛まれまくって歯型だらけになったが)のだが、流石にシャトル爆発の一件に関しては二人の力だけではどうする事も叶わず、民間人の誰かが通報した警察が駆け付けた事から避難する人々に混じって二人も園内を脱出。
その後、S.O.N.G.の方に慌てて連絡して先の騒動の一部始終の説明とその収集を頼み込み、先の一件に関してはあちらがどうにか解決の為に手回ししてくれる事となった(無論無用な騒ぎを起こした件に関しては司令から相当なお叱りを受け、二人揃って通信越しにかなり謝り倒した。
「───すまん……本当にすまなかった……ただの息抜きから、まさかあんな大事件を起こしてしまう事になるとは……」
「あっはははっ……あんまり気にしないで下さい。ただのバトミントンからあんな事になるなんて想像出来る筈もないし、そもそも、蓮夜さんの球をちゃんと打ち返せなかった私にも非がありますから」
S.O.N.G.への連絡が終わり、日も暮れ始め、蓮夜のマンションの近くの繁華街にまでやってきた二人は取り敢えず一息吐く為に街中の適当なベンチに腰掛け、蓮夜がお詫びにと買ってきたジュースを手に談話していた。
先の事件の犯人である蓮夜は先程から先の一件に響を巻き込んでしまった上に司令からのお叱りの巻き添えに遭わせた事を相当気にしており、いつもの無表情ながらもかなり落ち込んだ様子で何度も響に謝罪を繰り返している。
そんな蓮夜に、響は何時もと変わらぬ明るい笑顔で気にしなくていいと言いながらジュースを口にしていき、そんな彼女の横顔をジッと見つめ、蓮夜は僅かに苦笑を浮かべた。
「なんと言うか……お前は本当に変わらないな……」
「……ふえ?」
「いや、何だ……今のお前の笑顔を見ていたら、初めてお前達と戦場で出会った頃の事をふと思い返してな……」
そう言いながら自分の両手の中でまだ封を開けていない缶ジュースを弄び、蓮夜は日が暮れてゆく茜色の空を見上げる。
「不思議だな……あれからそう時間が経ってる訳でもないのに、何だかもう遠い昔のように思えてくる」
「…………」
響達と初めて戦場で出会った時の記憶を思い返し、何処か懐かしむように蓮夜が小さく微笑むと共にそよ風が靡き、蓮夜の髪が微かに揺れる。
その横顔に一瞬響も目を離せず見蕩れてしまうが、すぐにハッと我に返り、頭を軽く振って気を取り直しながら若干おずおずとした口調で口を開いた。
「あ、あのぉ……そういえば蓮夜さん、どうして急にデ……デートしよう、だなんて言い出したんですか?」
「うん?……ああ、それは……」
『デート』、というワードを口にするのも恥ずかしくて照れくさくなりながらも、改めて先程から気にしていたその疑問を口にする響からの問いに、蓮夜も何処か言い辛そうに言葉を濁して一瞬目線を泳がせると、そのまま両手に握る缶ジュースに目線を落としながら口を開いた。
「……さっき家でお前と話してた時、青春を謳歌する!と言っていただろ?その言葉を聞いて、少しだけ思う所があったというか……もしかしたらいい機会かもしれないな、と思ったんだ」
「……?機会って、何の?」
首を傾げる響。そんな彼女の素直な反応に苦笑しつつ、蓮夜はプルタブを上げながら缶を一口飲み、喉を潤してから言葉を続けていく。
「デートを口実に、気持ちを伝える場を設けたかった、と言うべきか……この世界に来て、お前達と出逢ってから、今まで沢山の物をお前達からもらってきた……信頼とか、仲間とか、言葉を交して気持ちを確かめ合うこと……この手と手を繋ぎ合う大切さを……ただ一人でイレイザーと戦う事しか頭になかった俺に、こうして誰かと一緒にいられる喜びを教えてくれたお前達に……最初にそのきっかけを与えてくれたお前に、いつかきちんと礼を言いたいと思っていたんだ」
「え……そ、そんなお礼だなんてっ、私は別に大した事なんて何も──」
「……傍から見れば確かに大袈裟に思うかもしれない……けど、俺にとってはそうじゃないんだ」
「……?」
缶を手にしたままベンチから徐に立ち上がる蓮夜を不思議そうに目で追う響。そんな響と向き直り、蓮夜は目を伏せながら胸に手を当て言葉を続けていく。
「正直、俺の中には未だ負い目は残り続けてる……記憶を失う前の俺が、奴らの進行を最初の内に止められなかったこと……そのせいで本来、人の道を踏み外す事のなかった筈の人々がノイズイーターなんて呼ばれる怪物になり、お前達や関係のない他の人達が危険に晒されるこの現状に対して……こうなったのは俺のせいだから、止められるのは俺しかいないからと……そうやって余分に、傲慢にも一人で何もかも責任を背負って戦い続けようとしていた俺の見え方を変えてくれたのは、他ならないお前達だ」
先の事件、敵の策略で飛ばされた先の異世界でも一人で事態を解決しようと無茶をした自分を責め立てたクリスの言葉を脳裏に思い返す。
今だからこそ過去として冷静に振り返る事が出来るが、多分、あの時の自分は自身では気付けないほど内心焦っていたのではないかと思う。
過去の自分が打倒出来なかったイレイザー達の侵略がこの響達の世界だけでなく、風太郎達の世界、ひいては他の世界にまでその魔の手が延びているんじゃないかと。
実際にその被害に遭っていた風太郎や五月達を前にその事実をまざまざと突き付けられたような気がして、自分の失態の重さを改めて思い知った。
“これ以上、失敗した自分のせいで苦しむ被害者達を出したくはない”
そんな自覚する事すら出来ていなかったエゴに突き動かされるまま危うい戦いを続け、そんな自分が間違っているのだと漸く歯止めを掛ける事が出来たのはあの時のクリスの叱責、そして、誰かと手を繋ぎ合わせて力を合わせる事を思い出させてくれた響の存在だった。
「元々は俺が犯した失敗のせいなのだから、戦うのも、それで傷付くのも、俺一人の方がいい。その方がいいに決まってると考えてた。……どうせ俺にはもう失う物は何もないのだからと、そう思って」
「……蓮夜さん……」
「けど、そんな想いとは裏腹に状況は俺一人の手では収まり切れないほど大きくなって、余計に焦って、自分を省みるという当たり前の事すら出来なくなって……お前達の存在がなければ、俺はとっくの昔に壊れて、もしかしたら此処にはいなかったかもしれない」
自分一人だけが傷付いて、無茶をして、その結果全ての問題が解決に繋がるならそれでいいと思い込んでた。
でも、事態は既にそんな段階をとうの昔に超えていて、奴らの勢力が他の物語にまで及び始めている今、あのまま自己を省みない戦い方を続けていればいずれ身を滅ぼしてたに違いない。
そうなれば、奴らに対抗出来るクロスの力まで共に失われる事になる。其処までの考えに至れなかった己の愚かしさに嫌気が差したし、彼女達がいなければその過ちに気付けず、今もなお愚直にこの身が傷付く事に何の感情も抱く事すらなかったかもしれない。
「自分で自分の感情にすら気付かず、制御もろくに出来ていない……そんな自分をふと省みて、足りない頭で自分なりに考えて……多分、俺は俺の事がそんなに好きじゃないのかもしれない、と思った……。誰かを助けられる力を持っていながらそれを活かせず、自分が招いた失敗を一人で尻拭いも出来ない……そんな自分から生まれた過ちが赦せないから、消し去ってしまいたいから、あんなにも無様を晒してまで失敗を取り返そうとしてるんじゃないかと……だから俺は……純粋に誰かの為とかじゃなくて、そんな独りよがりな理由から戦ってたんじゃないかと、少しだけ──」
「考えるようになった、か。……でも、私はそれだけじゃないって思いますよ?」
「……!」
若干自己嫌悪気味な蓮夜の最後の台詞を盗りながら、ひょいッと軽快にベンチから立ち上がった響が蓮夜の隣に並ぶ。
そんな彼女に驚いて蓮夜が僅かに目を見開く一方、響は何時もと変わらぬ笑顔で蓮夜を見上げながら言葉を続けていく。
「だって蓮夜さん、私が皆から忘れられた時、凄く必死になってくれてたじゃないですか。イレイザーの改竄に……孤独に苛まれて苦しんでいた私を見付けてくれた時も凄く焦ってて……あの時の蓮夜さんの顔、私、今でもハッキリ覚えてます」
「それは……ウン、そうだな……俺が止められなかった災厄のせいで、また誰かが犠牲になるかもしれないと考えて、焦って──」
「私の事を心配して、必死に探して、駆け付けてくれた。……あの時の蓮夜さんの表情を見た時、私はそんな風に感じましたよ」
言葉尻に自己否定に入ろうとしていた蓮夜の台詞を再び肯定の意に塗り替えながら、数歩前へ軽快な足取りで歩く響の声音は変わらない。
優しげで、何処か我が子に子守唄でも唱え聴かせる母を思わせる。
そんな彼女の穏やかな声音に誘われるようにその姿を目で追う蓮夜に、響は徐に顔を向ける。
「自分で自分の感情が分からない。もしかしたら独りよがりな理由から戦ってただけかもしれない。蓮夜さんはそう言うけど……私も蓮夜さんの全部を分かってる訳じゃないけれど……でも、『それだけじゃないって』、そう言い切る事だけは出来ます」
「……それは……何故……?」
「うーん……優しかった、からかなぁ……」
「?」
どういう意味だ?、と端的過ぎる響の言葉に蓮夜の頭の上に疑問符が浮かぶ。
そんな蓮夜の反応を見て自分でも今のは伝わり辛かったと思ったのか、響は頬を掻きながら苦笑いした後、徐に蓮夜に歩み寄り、その手を取って持ち上げ、軽く握り締める。
「……私が孤独の不安と恐怖で押し潰されそうになってた時、蓮夜さん、何も言わずにこうして私の手を取ってカードをくれましたよね。『お守りだ』、って言ってくれて」
「……そう、だったな……それが、何を……?」
「ふふ、自分じゃ気付きませんでした?……あの時の蓮夜さん、こうやってカードを渡しながら私の手、優しく握ってくれてたんですよ」
そう言って蓮夜の手をもう片方の手でそっと包み込み、響は静かに瞼を伏せる。
まるで、あの日の記憶を思い返すかのように。
「あの時の……握ってくれた手の暖かさに、安心感で……今までの日常が、知ってる筈の風景が全部誰かに塗り替えられて、歌や皆を失って不安だった私の心をどれだけ和らげてくれていたか……どんなに救ってくれていたか……蓮夜さん、ちょっとぐらい想像してくれてました?」
「……いや……あの時は俺も気が気でなくて……どうすれば響を少しでも安心させられるかと、必死に考えた結果がアレだった訳で……」
ちょっとだけ困った口調で蓮夜が当時の自身の心境を馬鹿正直に答えると、伏せていた瞼が開いて若干ジト目になる響の口先が拗ねるように僅かに尖る。
「むぅ。無自覚だったなら相当な天然タラシさんかもですねぇ、蓮夜さんって。……だけど、私が『それだけじゃない』ってさっき言い切れたのは、其処なんですよ?」
「……?」
未だ響の言葉の意図が飲み込めないのか、首を傾げる蓮夜の顔は怪訝なままだ。
そんな蓮夜の素っ頓狂な顔に可笑しそうに少し噴き出しつつも、響は薄く息を吐き、蓮夜の手を両手で包んだまま穏やかに微笑み掛かる。
「貴方はそんなつもりじゃなかったかもしれない。貴方には其処までの意図はなかったかもしれない。でも、だからこそ感じ取れて、分かって、信じる事が出来た……あの嘘で塗り潰された孤独な世界の中で、唯一本物だと思う事が出来た……貴方の無意識な優しさが、この手を通じて伝わってきたんです」
「…………」
「だから『それだけじゃない』って、私は言い切れます。……さっき蓮夜さんの言っていた、独りよがりな理由とかが全部そうだったとしても、蓮夜さんにはそれに負けないくらい誰かを想いやれる優しさがある……自分の気持ちもろくに分からないって蓮夜さんが言うなら、それを知ってる私がその辺きちんと保証してあげないとですから」
「……響……」
真面目な語りをしていて途中で気恥しくなったのか、最後の方で少しだけ戯けた感じを見せる響。
一方で、蓮夜はそんな響の言葉を真摯に受け止め、自分の手に重ねてくれる響の手の上に右手を添えるように置くと、その温もりに幾分かの安堵感を覚え、思わず笑みを漏らした。
「そうか……それだけじゃない、か……自分の感情一つ、明確にするのにも他人の力を借りないといけないなんてな……本当にどうしようもないんだな、俺は」
「そうですねー。最近だって、家の家具とか蓮夜さんが分からな〜い、なんて言うから私達が選んで揃えた訳ですし。それに食生活とか、漸く缶詰から脱却出来たかと思えば目を離した隙に一瞬で元に戻っちゃうんですもんっ。おかげで私達も中々気が抜けないというか、元々料理上手って訳じゃない私や未来の苦労も少しは感じ取って欲しいというか……」
「ああ。お前達には本当に頭が上がらない。けれど、そんな俺でも胸を張って言える事が一つだけあってだな……響、」
「はい?」
不満はまだまだありますよ〜と、普段の談笑のノリのまま思わず軽く聞き返す響に、蓮夜はいつもの無表情のまま、だけど僅かながらに微笑を浮かべて
「俺は……お前の事が好きだ」
「………………………………………」
………………………………………………。
「へ?」
一瞬の静寂。しかし、響の中では数十秒程の時が過ぎたような錯覚を覚えた。
それだけに衝撃で、唐突で。
あまりにもアッサリそう告げられたばかりに、その言葉を脳が理解するのに大分時間が掛かった。
「………………」
「………………」
「………………ぇ、えぇっ、と…………あの、蓮夜さん…………?今のって、どう……いうっ…………?」
「……?どうも何も、言葉通りに受け取ってくれていいと思うんだが……」
「こ、言葉通りって……えと、えーっと……あ、あーっ……!もしかして、仲間とか、友人としてとか、そういう広い意味の方のアレですよね?!よく漫画とかにありがちな勘違い系のパターンな奴!」
「……まぁ、確かにそういう意味も込められてはいるな……」
「で、ですよねー!……って、 え……?『も』……?」
「うん。『も』だ。仲間としても、友人としても、"異性"としても、俺はお前の事を好ましく思ってる」
「…………………………………………………………………………………………………………」
え?なんでこの人こんな素面(シラフ)なの?
自分が今とんでもない事を口走ってるという自覚がないのか、蓮夜の表情は先程ちょっと微笑した程度で今はすっかり何時もの真顔のままだ。
え、まさか自分の耳が可笑しくなって彼の言葉を脳が誤変換してるのか?などと、そんな有り得ない馬鹿げた可能性が脳裏を掠めて思わず両耳に手を当てた途端、耳がとんでもない熱を帯びてるのに気付き。
其処で漸く、自分の顔が茜色に染まりつつある空に負けないほど、真っ赤っかになってる事を自覚した。
「──────!!!!??!??!!?!」
自覚した途端、其処でもう駄目だった。
何せ思わぬ相手からの、人生初の、異性からの告白だ。
特に備えてすらいなかったこんな不意打ち、いきなり喰らって心静体松しろという方が無理な話である。
気が動転するあまり視界が回り、ブワァッ!と湧き上がった恥ずかしさから両耳から離した両腕をあたふたと忙しなく動かし、何かを喋ろうとしても動揺が勝って上手く舌が回らない。言葉にならない。
最早湯気すら立ちそうなほど顔を真っ赤にしてパニックになる響とは対照的に、蓮夜はそんな彼女の慌てぶりを見て申し訳なさそうに目尻を下げた。
「悪い……俺なりにちゃんと手順を考えていたつもりなんだが、自分話が過ぎて唐突になってしまったみたいだ……急に驚かせてしまって、すまない……」
「へあっ……!?ぁ、あ、いえっ、あのっ、そそ、そそそそそんな謝られるような事ではないと言いますか何と言いますかっ!!と、というかど、どどどどっ、どうして急にそんなっ、なん、ナンデェッッ!!!!?」
「何故、と言われても……ほら、これは『デート』と言っただろう?俺のせいで大分予定が狂ったが、時間帯的にはデートも既に終盤だ。なら最後には、自分の素直な気持ちを相手に告白するのが決まり事だと……」
「そんな決まり事なんて特に決まってませんよいつの時代の話してるんですかそれェええええっっっっ!!!!!!!!」
この人は一体何処の温室育ちなのかと、聞いてるこっちが余計に恥ずかしくなる程の前時代が過ぎるピュアっピュアっな発言を真顔でかましてくる蓮夜にトマト並に首まで顔が赤く染まった響が全力でツッコム。
そしてそんな彼女のリアクションで蓮夜も自分の方が可笑しいと気付いたのか、背後に落雷が落ちる程の大ショックを受けて数秒ほど固まった後、フラリと僅かに身体を揺らしながら頭を抑えていく。
「そう、だったのか……すまない……何分俺もデート自体はコレが初めてだったと言うか、映画で聞き齧った知識を鵜呑みにし過ぎていたみたいだっ……」
「ううぅっ、確かに映画は何でも教えてくれますけどぉっ……!それも時と場合に寄ると言いますかぁっ……!それは流石に見様見真似で気軽にやっていい事じゃないんですよぉっ……!そ、そもそも何で、私なんか相手にそんな一世一代の告白使っちゃうんですかぁっ!」
「…………?いや、確かに素人知識を晒して恥を上乗りしたと自覚はしてるが、お前に伝えた言葉自体に嘘偽りはないつもりだぞ……?」
「ぇ……い、いやだって、私って普段から武術で身体を鍛えてたりしてるから普通の女の子より筋肉付いてるし、大食らいだし、クリスちゃん達みたいに容姿が特別綺麗ってワケでもないし……正直、女子としての魅力はそれ程ってワケじゃ……」
と、蓮夜に異性として見られていると自覚した途端に他の周りの装者達と比べて女子力の低い自己を気にし、筋肉の筋が見える腕や足を隠すように身動ぎしながら己には魅力がないと卑下する響だが、蓮夜は真顔のまま何も答えない。
ただジッと無言のまま響の姿を改めて見直した後、頭の上に「?」とはてなマークを浮かび上がらせた。
「すまん、お前が何を其処まで気にしてるのかさっぱり分からない……」
「で、ですからぁっ!私には他の皆みたいな女子力なんてなくてですねっ……!」
「その女子力云々が先ず俺には分からないというか……多分、俺が響を好きになったのとソレとは、そんなに関係はないと思うんだ」
「っっ!!?」
少し時間が経って大分気分が落ち着いてきたかと思えば、不意打ち気味に放たれた二度目の『好き』の二言。
更なる追撃に響も再び硬直してしまう中、蓮夜は少しだけ照れくさそうに言葉を続けていく。
「記憶もなく、名前も素性も本物なのかも分からない俺にだけでなく、理不尽な悪意を叩き付けてきた相手にまで手を伸ばす底の抜けた優しさも、誰かの為に振り返らず突き進むその愚直なまでのまっすぐさも……胸の内に秘めた悲しみや後悔も、歌で握り締めた拳を掲げて諦めずに立ち上がるその姿は綺麗だけど、何処か痛々しさもあって……それでも笑顔を絶やさないお前が、俺には眩しく感じたんだ」
「ぁっ……うっ……」
「あと、容姿云々に関しても正直俺としては異を唱えたい。他の装者達とは方向性が違うだけで、お前も普通にしていても可愛い方だ。惚れた弱味の贔屓目が入ってたとしても、俺はそれだけでもお前を好きだと言い切れる自信はある」
「へぇああっっ!!!?」
つらつらつらつらと、いつもの口下手は何処へやら、彼の口は何処まで回るのだろうか。
何だか若干、自分の好きな子を貶められてムキになった男子の如く、堰を切ったように蓮夜にあれやこれやと褒めちぎられて顔から湯気を立たせながら真っ赤になって立ち尽くす響を見て、蓮夜もハッと我に返り頭を掻きながら謝罪した。
「いや、悪い、別にお前を困らせるつもりはなかった……それにこの気持ちを伝えたからと言って、男女の付き合い云々をして欲しいだなんて言うつもりもないんだ……」
「ぁ……はぇっ……?」
此処まで怒涛の情報量を洪水のように浴びせられ続け、既に脳のキャパシティを超えてオーバーヒート気味な響の中へ新たな一石が投じられ、間の抜けた声を返す響に蓮夜は胸に手を当てながら己の言葉の続きを語っていく。
「今まで話した通り、俺は、俺自身の感情すらろくに把握出来ない半端者だし、この口下手な性格が災いしてお前達ともすれ違ったり、言葉が足りなかったせいで衝突してしまう事も度々あった……だから今度からはちゃんと自分の気持ちを、お前達から貰った感情だけでも一つ一つ明確にして、きちんと言葉にして、好意を返していきたい……俺がお前達の事をどう思っているのか、伝えておきたい、知ってて欲しいと、そう思ったんだ」
「……だ、だからデートって……それが今日、私を誘った理由……だったんですか……?」
「この間の異世界転移騒動の際に出会った友人からの受け売りでもあるんだが、俺自身、感情表現が苦手な類の人間だと前の事件で散々に思い知ったからな……。そのせいで半端な気持ちが相手に伝わってしまうくらいなら、いっそ自分から赤裸々に、本心を全部伝えてしまおうと思い、この場を設けた。だからその上で、改めて聞いて欲しい。俺は……」
「ぇ、えっ……あ、あのぉっ!蓮夜さん、まっ──!?」
まずい、これ以上はダメだと、彼が言わんとしてる事を察して自分の中の何か本能に近い部分が危険信号を発しているのが分かる。
しかし残念な事にこの暴走列車、タチの悪い事に一度走り出せばブレーキが効かないのかそもそもブレーキ自体が存在しないのか、慌てて止めに入ろうとする響の台詞を遮るかのように、真剣味を帯びた声音で顔を真っ赤に染める響の瞳をまっすぐに見据え、
「俺はお前が……ああ、いや───俺は、キミの事が好きです……この気持ちだけは、この先何があっても変わりはしないと、どうかそれだけは知っていて欲しい」
「───────────」
恥ずかしげもなく、臆面もなく
真正面から馬鹿正直に、改めて己の気持ちを告白しながら不器用に微笑む夕暮れに照らされた蓮夜の顔を目にし、響は今度こそ完全に思考停止して直立不動で固まってしまったのであった。
その一方で、自分の気持ちを伝え切った蓮夜は何処か晴れやかな顔付きで黄昏に染まりつつある空を見上げ、満足気な表情で頷いていた。
「ウン。胸に抱えてた想いをそのまま伝えるというのも、案外気持ちがいいものなんだな。何だかとてもスッキリした気分だ」
「───────────」
「響ももし、俺に言いたい事などがあれば遠慮なく言ってくれ。日頃の俺への不満でも愚痴でも、何だって構わない。此処まで全部包み隠す事なく吐き出した以上、俺も何だって受け止める覚悟は出来て……」
「───────────」
「…………響?」
妙だ。響は先程から一定の、何かを制するかのように両手を前に突き出したポーズのまま微動だにしない。
そんな彼女の様子が可笑しい事に疑問を抱いた蓮夜が響の身体を少しだけ揺さぶろうと伸ばした右手の指先が彼女の肩に触れた瞬間、響は突然ガクッ!と膝から崩れ落ちるように前のめりに倒れてしまい、思わず反射的に彼女の身体を抱き留めた。
「響……?!なんだ、急にどうし──?!」
「…………きゅうぅー…………」
「気絶してる……だと……?!お、おい、どうしたんだ……?!何故こうなった?!目を覚ませ響っ!響ィッ?!」
立花響、キャパシティの限界を超えて遂にダウン。
これ以上ない、火の玉ど直球の告白を真正面から受けて耳まで顔を赤くした響が目をグルグルさせながら「すきってぇ……こんなふいうちぃ……あんなかおで……ひ、ひきょうなぁっ……」などと微かに譫言ような物を口にしているが、彼女の顔を胸に抱いて受け止める蓮夜にはそんな響の声は届かず、いきなり響が気を失って倒れた原因が分からず、ただただ困惑するばかりで必死に響に呼び掛け続けていたのであった。
◆◇◇
それから約数時間後、蓮夜宅にて……
「……………………」
「だから、この問題はこうやってこの公式を使えば簡単に解けて……」
「……………………」
「こっちの問題もさっき解いた奴と同じ要領で何とかなるだろ。……あーいや、けどよく見たら途中で一捻り加えないと違う答えになっちまうのかコレ。この問題考えた奴も底意地わりぃーなぁっ」
「……………………」
「まぁ、その辺もケアレスミスを欠かさなければ間違える事はないと思うけど、響一人だと流石にキツいかなぁ…………?響?」
「……………………はぇ…………?な、なにぃ……二人とも…………?」
「いや『なにぃ?』じゃねぇーよっ。お前の課題片付ける為に勉強会開いてんのに、何さっきからボーッとしてんだ!」
「ぇ……ぁ、ご、ごめん……そんなつもりなかったんだけど……ちょっと別の考え事してて……」
「──コーヒー持ってきたぞー。進捗の方はどうだ?」
「あ、すみません蓮夜さん」
「はぁええああああっっ!!!!?」
「うぉおおっ?!な、何だよお前急に大声なんか上げてっ?!って、何であたしの背中に隠れんだっ?!」
「ひ、響っ?本当にどうしたのっ?大丈夫っ?」
「だだっ、だだだだ大丈夫っ!!!!何でもないからっ!!!!ホントに何もなかったからへいきへっちゃらだから気にしなくていいからァあああああああっっ!!!!!!」
「…………。おい、お前今度何やらかした?」
「何故一瞬で俺が原因だと特定出来た……?!」
あのデートから帰宅後、用事を済ませて蓮夜宅に訪れた未来とクリスを交えた響の勉強会が予定通り開かれたものの、あんな衝撃的な出来事があった直後に集中なぞ出来る筈もなく、響は二人から勉強を教わりながらもずっと上の空で課題は全く進まなかったらしい。
因みに、そんな響の変調の原因が蓮夜にあると早々に気付いたクリスが何故かやけに恐ろしい顔と威圧感と共に彼から話を聞き出そうと問い詰め、蓮夜の方も馬鹿正直に一から経緯を説明しようとした所、首元から耳の先まで顔を真っ赤に染め上げた響に全力で妨害されて何も聞き出す事が出来なかったとか何とか……。