戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~   作:風人Ⅱ

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暁切歌&月読調編(前編)
第七章/離Yy式・解答不能×切り離されたaヵ吊奇のウタ


 

 

「ありがとうございましたぁー」

 

 

 若干やる気の抜けた間延びした店員の声を背に、自動開閉式の入り口を出てスーパーを後にする。

 

 

 しかし外に出た途端、ザァアアアアアアアアアッ!!と絶え間なく雨が降り続く光景が視界に飛び込み、思わず店の前で足を止めた蓮夜は雨が降る曇り空を鬱々とした表情で見上げていく。

 

 

(参った……さっき店の外を見た時には疎らでただの通り雨かと思ったんだが、まさか此処まで本格的に降るとは……)

 

 

 雨独特の湿った香りを胸いっぱいに吸い込み、溜め息と共に深々とそれを吐き出しながら、蓮夜は左手に持ったそれなりに重みのある大きめのバックを一瞥する。

 

 

 此処から家のマンションまでそれなりに距離がある。

 

 

 今日は普段使ってる家のすぐ近くのスーパーがたまたま休業日だった為、仕方なくこうしてそれなりに距離のある店まで遠出する羽目になってしまった訳なのだが、まさか今日に限ってこんな豪雨に見舞われるとは何とも運が悪い。

 

 

 そう思いながらもう一度深々と嘆息すると、蓮夜はもう片方の手に持つ先程店内で購入しておいた安物のビニール傘を徐に開いて差し、自分と同じように傘を差して歩く人、或いは傘を忘れて手荷物を傘替わりにしながら走り去る人々が行き交う通りに出て自宅までの帰路に付いていく。

 

 

(しかし、ここ最近ずっと雨が続くな……この間も……)

 

 

 足を止め、視界の端に映った光の点滅に気を取られ電器店の方にふと視線を向ける。

 

 

 店先のショーウィンドウには展示されているテレビの画面にニュース番組が映し出され、登山した男性が数日前から連絡が付かず行方不明になっているという事件の内容が流れていた。

 

 

 ニュースキャスターの神妙な口調と共に流れる山中でのレスキュー隊員達の捜索状況の映像をじっと見つめながら、蓮夜は数日前に弦十郎から伝えられた"彼"について脳裏に思い返していく。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

数日前、S.O.N.G.管轄の医療機関にて──

 

 

「──違う世界からの漂流者……?」

 

 

 異世界から元の世界に帰還し数日が経過したある日、弦十郎から突然呼び出しを受けた蓮夜はS.O.N.G.が管轄する医療機関に足を運び、其処で彼の口から聞かされた内容に驚き目を剥いていた。

 

 

 そしてそんな彼を伴いながら何処かへ向かって院内の長い廊下を歩く弦十郎も、蓮夜の言葉に頷きながら話を続けていく。

 

 

「数日前、市街地から離れた湾岸部にて奇妙な次元振動の反応を探知してな。調査に向かった所、反応があった浜辺のあちこちに謎の漂流物の残骸が散乱しているのを発見した。その全てを回収した解析班の分析によると、その残骸に使われている材質はこの世界に存在しない硬質によって構成されていたらしい」

 

 

「……この世界には存在しない……つまり俺のベルトと同じように、その漂流物は異世界由来の技術によって作られた物かもしれないと……?」

 

 

「未だ不明な点も多く、そう断定し切るには情報も少ないが、エルフナイン君の見解ではその可能性が今のところ高いだろうとの事だった。……というのも、そう納得せざるを得ないという言い方に置き換えるのが正しいのかもしれんが」

 

 

「……?」

 

 

 神妙な口調でそう語る弦十郎の奇妙な言い回しに蓮夜が怪訝な様子で小首を傾げていると、蓮夜の先頭を歩く弦十郎はある部屋の前で止まって扉の端末にカードキーを通し、認証が下り自動で開かれた扉の奥へ進んでいく。

 

 

 蓮夜もその後を追って着いていくと、二人が進んだ先の奥には部屋半分がガラス板が張られた壁に隔たれた病室が存在し、ガラス板の向こう側のベッドの上には頭や腕などに白い包帯を何重にも巻き付け、口にはベッドの傍に置かれる機械にチューブで繋がれた呼吸器を身に付けて眠る一人の青年が横たわる姿があった。

 

 

「彼は……?」

 

 

「件の漂流物が流れ着いた海岸の傍で倒れていたそうだ。酷い怪我を負っていた所からして、発見した当初は漂流物の落下か何かに巻き込まれただけのただの現地人かと思ったが、幾ら調べを進めても彼の身元が分かる物は何一つ見付けられなかった。それに……後から発見されたコレの存在もあって、もしかしたら彼は例の漂流物と何か関係してるのではないかと思ってな……」

 

 

 そう言いながら弦十郎は自身の胸ポケットから一枚の写真を取り出して蓮夜へと差し出し、それを見た蓮夜もおずおずと彼の手から受け取った写真に視線を落とすと、其処に映し出されているモノに目を見開いて驚愕した。

 

 

「これは……ベルト……?」

 

 

 そう、写真にはエルフナインの研究室らしき場所の機材の上に、幾つもの有線に繋がれてる半壊したベルトらしきモノが映し出されていたのだ。

 

 

 形状や雰囲気こそ大分異なるが、それでも自身のクロスベルトと何処か類似した点が多く見られる写真の中の謎のベルトを見て戸惑う蓮夜の反応を目にし、弦十郎は両腕を組んでため息を漏らす。

 

 

「その様子だと、やはり君にも見覚えのない品物だったか。君に目を通してもらえれば、或いは何か手掛かりを掴めるのではないかと思ったのだが……」

 

 

「……どういう事だ……もしや、彼も俺と同じライダーの力を……?」

 

 

「それはまだ分からない。ただ、このタイミングで異なる世界から君と同じようにベルトを持った人間が現れた以上、君と全く無関係だとは思えなくてな。その確認の為に、こうして君を呼んで彼と引き合わせた訳なんだが……蓮夜君、彼の顔に何か見覚えはないか?」

 

 

「…………」

 

 

 弦十郎に促されるまま、蓮夜はガラス板の向こうで眠る青年の顔をじっと見つめていき、己の失った記憶を取り戻す何かの琴線に障れないか試みていくが、しかし……

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

(──結局あの後、彼に関する記憶を思い出す事は一切なかったな……)

 

 

 思わず吐き出した溜め息は、雨の音に掻き消されて誰の耳に届かず消え去った。

 

 

 透明なビニール傘越しにふと空を見上げると、雨が降り頻る雲掛かった空はまるで蓮夜の今の心境と同調しているかのように見えてきて、より憂鬱な気分に陥ってしまう。

 

 

(彼と対面して何の感情も湧かなかったのは、単純に彼は俺とは関係がなくて思い出せる記憶が最初からないからか……それとも、彼という人間に対して何も感じる事が出来ないほど、記憶を根こそぎ失ってしまったからなのか……)

 

 

 もし仮に原因が後者にあるのだとするなら、自分の記憶喪失は其処まで酷く深刻であるという事なのだろうか。

 

 

 失われた記憶はあのアスカやクレンといった上級イレイザーの罠に嵌められ、一度死に掛けた事がきっかけで全て無くしてしまったらしいが、果たしてその時に失った記憶を取り戻せる機会は今後あるのか?それとも眠っている彼が目覚めて、何か言葉を交わせさえすれば変わる物があるのだろうか?

 

 

 一度不安を覚えては悩み、考え始めると思考がマイナスの方へと段々偏っていっていき、それに釣られるように気分も落ち込んでしまう。

 

 

 ただでさえ今は敵側に新たな神話型のイレイザーが生まれ、奴らの勢力が風太郎達の世界のように別の物語にまで魔の手を伸ばしつつあるというのに、いつまでもこんな悩みを抱えた状態のままではいられない。

 

 

 今日の遠出にはその気分転換も兼ねていたつもりだったのだが、それも運悪く見舞わられた悪天候のせいで水を刺されてしまった。

 

 

(……早く帰るとするか……このまま長居しても、せっかく買った物まで雨で濡れてしまうだけだ)

 

 

 雨の陰鬱な空気のせいか、どうにも鬱々とした気分に釣られて思わず口をついて出そうになる愚痴を飲み込みながら深々と溜め息を漏らし、蓮夜は肩に掛けた買い物バックを掛け直しながら早く家に戻ろうと再び歩き始めた。そんな時……

 

 

 

 

 

「──なーう…………なーう…………」

 

 

 

 

 

「…………?何だ……?」

 

 

 雨の音に混じって、不意に何処からともなく聞こえてきたか細い声に耳を取られ、思わず足を止めて周りを見回す。

 

 

 しかし、周囲を幾ら探しても今の声の主らしき影すらも見当たらず小首を傾げて怪訝な顔を浮かべてしまう中、再び雨音に混じって先程と同様か細い声が聞こえてきた。

 

 

(この声、人のものじゃないな……うん……?)

 

 

 途切れ途切れの声を耳を頼りに視線を向けた先、近くの電柱の影からダンボールの端先が見える。気になってそのダンボールの前まで足を運び、中を覗き込むと、其処には……

 

 

「……猫……?」

 

 

「…………なーう…………なーう…………」

 

 

 雨に打たれ、濡れた毛布の上で小さな黒猫が震える身体を弱々しく丸める姿があった。

 

 

 こんな場所にダンボールに入れられて放置されてるという事は捨て猫だろうか。思わぬ発見をして一瞬戸惑い、こんな時にどうすればいいか分からず周りを見回して誰かを頼るべきか迷うが、道行く人々は誰も彼も雨を逃れて早足に行き交い、とても捨て猫一匹の為にわざわざ足を止めてくれるような様子ではなかった。

 

 

(参ったな……人を頼ろうにも往来する人間も其処まで多くはない……流石にこんな土砂降りの中で見て見ぬふりをする訳にも……)

 

 

 見たところ、ダンボールの中の子猫はかなり弱り切ってる。恐らく長時間ものの間、この雨に打たれていたせいで身体がかなり冷え切ってしまってるのだろう。

 

 

 そんな状態の生き物をこれ以上雨の中に野ざらしにしておく訳にはいかないし、何よりもこうして見付けてしまった以上、こんな小さな生命を平気な顔で見捨てて家に帰るなど出来る筈もない。

 

 

 子猫を雨から守るように傘をダンボールの上に翳したまま暫し考え込む素振りを見せると、やがて何か意を決したのか蓮夜は小さく溜め息を漏らし、傘を肩と首の間に挟みながら徐にダンボールの前で腰を落としていくのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「──どういう事か説明しろやデュレンっ!!」

 

 

──以前に蓮夜とアスカが激突した旧モール街にある、とある廃墟内。

 

 

 その地下施設に当たる薄暗い空間にて、先の蓮夜達との戦闘で深手を負い、体中に痛々しく包帯を巻いたアスカが怒鳴り声を荒らげる姿があり、そんな彼から少し離れた場所にはめんどくさそうに溜め息を漏らすクレン、そしてそんなアスカの激昂に対して微動だにせず、両手をスーツのポケットに突っ込んだまま錆び付いたパイプ椅子に腰掛けるデュレンの姿があった。

 

 

「説明とは何をだ?伝えるべき言伝は、クレンの口から全て聞かされた筈だろう?」

 

 

「あんなんで納得出来る訳ねぇだろうがっ!連中を始末させる為に散々人を馬車馬みたく働かせといてっ、土壇場になって急に方針変えて奴らを殺すなだぁっ?!何処まで人を振り回しゃ気が済むんだてめぇはっ!」

 

 

「まあまあ、落ち着きなってアスカ。あんまり喚くと体の傷に障るよー?「うるせぇっ!お前は口出しすんなっ!」おっとと……」

 

 

 怒りに段々と熱を帯びて熱くなるアスカを横から宥めようとするクレンだが、アスカはそんなクレンも怒号で黙らせると、未だ無機質な表情一つ変えないデュレンが何処かうんざりとした様子で徐に椅子から腰を上げ、淡々とした口調で語り始める。

 

 

「お前がクレンの口から聞かされた通りだ。新種のイレイザーの研究を進めた所、黒月蓮夜と奴から記号の力を分け与えられた装者達に新たに利用価値が出来た。……新たな進化体のイレイザーを効率良く生み出す為にも、連中には敢えてノイズ喰らいの駒共を追い詰めてもらうのが手っ取り早いと分かったからな」

 

 

「……ノイズ喰らいを彼等に追い詰めてもらうか……確か前にもその提案をしたけど、あまりにリスクが大きいから却下するって話にならなかったっけ?一体どういう心境の変化があったんだい?」

 

 

「新たな実証データを得られた結果、それが最も我々の目的への近道になる可能性が出てきたからだ。見ろ」

 

 

 怪訝な表情で聞き返すクレンに対しそう言いながら、デュレンは目の前の宙にデータ状のモニターを無数に出現させていき、今までのクロスと暴走したノイズイーター、そしてつい先日の響とシープイレイザーの戦いを映した映像を流していく。

 

 

「今までのノイズ喰らい共は、黒月蓮夜との戦いで追い詰められた際に昂らせた感情とそれに伴い増大し過ぎた力に呑み込まれて半ば自我を失い、その果てに獣畜生同然となってその殆どが失敗作となってしまった……。しかし、先日立花響達と戦った彼も同様の事態に陥り掛けながらも我を取り戻して自我を保っただけでなく、暴走を乗り越え我々も知らぬ未知の姿へと進化を果たした。この事から、彼等のようなノイズ喰らいの進化には一定の条件があるのでは無いかと俺は睨んでいる」

 

 

「っ……?一定の条件って何の話だよっ?」

 

 

「……まだ分からないか?お前達とて散々その目にしてきただろう?特にアスカ、お前はつい先日に奴らとの戦いでその瞬間を目撃した筈だ」

 

 

「ああっ……?」

 

 

「──逆境に抗う強い意志の力……暴走して尚、己を塗り潰さんとする強大な力と破壊衝動を跳ね除けるだけの心の強さを持つ者だけが、進化へと至る力を手にする事が出来るって事だろ?」

 

 

 訝しげに眉を顰めるアスカに代わってそう答えたのは、いつにも増して神妙な口調で淡々とそう告げたクレンだった。

 

 

 そんなクレンの言葉と変わり様にアスカも面食らって思わず顔を向ける中、デュレンは肯定の意を込めて鼻を軽く鳴らしながら宙に投影した映像の場面を切り替え、シープイレイザーがジャバウォックイレイザーへと変貌した瞬間、そして蓮夜がタイプガングニールとタイプイチイバルの姿へ変身した時の映像を見つめながら言葉を続けていく。

 

 

「掃いて捨てるほどある、数々の物語の中でもありがちで使い古されたパターンだろう?黒月蓮夜や立花響がそうであったように、強大な敵に追い詰められた主人公が、土壇場で覚醒し人智を超越した強大な力を手に入れる王道……しかし、何もそれは正義の味方だけの特権ではない。強い意志と不屈の精神を兼ね備えた者であれば、出来損ないに至るしかなかった暴走を超え、我らとはまた違う進化へ辿れる事も可能な筈だ」

 

 

「……つまり、僕達が散々目にしてきたあのノイズ喰らいの暴走はただの失敗とかじゃなく、次の進化へ進む為に必要な工程。そんな彼らに蓮夜君達を敢えて嗾けて、進化体を更に増やすのが今後の方針って事かい?」

 

 

「不明瞭な点も多く必ずしもそうとは言い切れんが、可能性が見えた以上無視も出来ん。少なくとも進化の見込みもない有象無象に無駄な時間を掛けてやる手間暇が減るかもしれないのはメリットとしても大きいからな。先日の彼のように、決して折れる事のない強い願いや意志を秘めた者達を見定めて成長を促せば、我々が求める新たな同士が集う事もそう遠い未来ではない。だからこそ、黒月蓮夜達にはその手助けをしてもらう為にもまだ生きててもらわねばならない。俺の見立てが正しいか否か今後も実験と調査を進めるつもりではあるが、実際の戦場での経験も俺の仮説を証明する手段になり兼ねないからな」

 

 

 試せる手段は全て試し、その為なら敵である蓮夜達をも利用する。それがまだ奴等を生かしておく理由だと淡々と語るデュレンの真意にクレンは無表情のまま無言だが、アスカはそんなデュレンの方針が気に入らないのか苛立しげに舌打ちを返す。

 

 

「そんな確実性もない実験の為にわざわざ作った駒を浪費するってのかっ。仮にてめぇが言うように素質を兼ね備えたノイズ喰らいを見付けたとしても、黒月蓮夜や記号持ちの装者共に消されちゃ意味ねぇだろうがよ!」

 

 

「その為にお目付け役のお前達がいるんだろう。そんなに不安ならお前が連中のお守りでもしてやればいい……それとも、奴等に敗北して自信を失ったか?このまま奴等が順調に力を付けていけば、自分程度では敵わないと痛感したと?……随分と落ちたものだな、貴様も」

 

 

「っ、んだとっ……!!」

 

 

 煽るように鼻を軽く鳴らして嘲笑するデュレンの言葉に憤り、思わず彼に掴み掛かろうと踏み出すアスカだが、そんなアスカをクレンが制するように横から腕を伸ばして止める。

 

 

「ッ!クレンっ……?!」

 

 

「言葉が過ぎるけど、デュレンの言う事もあながち間違いとは言い切れないよ。イレイザーの力を与えてから長い目で彼らの様子を監視してきたけど、漸く進化体になれたのは此処まででたったの一人……。こんなペースじゃ何時まで経っても同士なんか集まりっこないし、この調子じゃ肥えるだけ肥えて進化体にもなれず腐らせるだけかもしれない。そうなったら本当に、あれだけ苦労してイレイザーを増やしてきた僕らの努力も無駄になっちゃうでしょ?」

 

 

「っ……それは……」

 

 

「なら多少のリスクを背負ってでも、今のマンネリ化した現状を打破する為に蓮夜君達を起爆剤として利用するってのは妙案かもしれない。それに……もしこのまま蓮夜君が以前のように力を取り戻したとしても、その時はデュレンが何とかしてくれるんでしょ?」

 

 

「……愚問だな。記憶を失う前の全盛期の奴でさえ、この俺を仕留める事すら出来なかったんだ。そんな俺が、幾分かの力を取り戻した程度の今の奴に遅れを取る道理が何処にある?」

 

 

「わあー、自信満々!頼もしい限りで安心したよ。君もそう言ってくれるなら、こっちも心置きなく仕事を果たせるってもんさ」

 

 

「…………」

 

 

 「いやー良かった良かった、これで怖い物なしだねー」と、あからさまにわざとらしい飄々とした口調で両手をパタパタさせながら惚けてみせるクレン。

 

 

 そんなクレンをデュレンも何やら意味深に眉を顰めて険しげな眼差しを向ける中、クレンは飄々とした態度のまま手をヒラヒラさせ二人に背中を向け歩き出していく。

 

 

「んじゃ、方針も定まった事だし僕もさっさと自分の持ち場に戻るとするよ。アスカも頑張って今度こそ汚名返上──」

 

 

「待て」

 

 

 素知らぬ顔でこの場を離れ様とするクレンを、急にデュレンが呼び止める。その声に思わず足を止めてクレンが振り返ると、デュレンはクレンとアスカを交互に見やりながら、

 

 

「今回の作戦はクレン、お前が陣頭指揮を取れ。その代わり、アスカには例のアレの守りの為にクレンに変わってロンドンに付いてもらう」

 

 

「……は?」

 

 

「クレンに作戦って……ちょっと待てよ、どういう事だ!奴らの事は俺に一任させんじゃなかったのか?!」

 

 

「貴様はまだ前回の戦いの傷が癒え切っていないだろう。そんな状態で今の黒月蓮夜と装者達を相手にまともに戦える筈もない」

 

 

「馬鹿にすんな!んなのやってみなきゃっ……ぐっ……!」

 

 

 自分を作戦から外そうとするデュレンに反論して思わず身を乗り出そうとするアスカだが、先程から大声を荒らげたりなどしたせいか傷が身体に響き、胸を抑えて苦痛に顔を歪めてしまう。

 

 

 デュレンはそんなアスカを一瞥するだけで心配する素振りも見せず、無言のままクレンの下へ歩み寄っていく。

 

 

「見ての通り、この有り様ではアスカは使い物にならん。奴が万全の状態にまで回復するまでの間、お前が代わりにノイズ喰らいを率いて黒月蓮夜達と戦い、俺の仮説が正しいか検証を行ってこい」

 

 

「……また急な無茶振りをしてくれるなぁ。僕はアスカみたく武闘派じゃないっていうか、戦いはあんま得意な方じゃないんだよ?それに検証ったって、僕が世話してるイレイザー達は全員──」

 

 

「試す価値のある検証であれば、被検体がどんな状態だろうと構わんよ。それとも、今日本に居座るのに何か気掛かりでもあるのか?例えば、そう……ロンドンに残してきた例の『破壊者』に己の計画を好き勝手にかき乱されるのではないか、とかな」

 

 

「……っ!」

 

 

 まるで何でもないような口振りで、耳元で囁くようにそう告げたデュレンの思わぬ発言に、今まで飄々とした顔を崩そうとしなかったクレンの表情が初めて驚愕に染まる。

 

 

 そして次第に険しい目付きに変わっていくクレンの視線に物ともせず、デュレンは無表情のまま淡々とした声音で言葉を続ける。

 

 

「お前にどんな腹積もりがあろうと俺は一向に構わんし、奴を関与させる事で俺の利になるのであれば敢えて咎めもしない……しかし、忘れるな……?貴様が俺の渇望を阻むつもりなら、一切の容赦はせん……今からでも肝に銘じておけよ……」

 

 

「…………。ハッ」

 

 

 瞳を覗き込むように顔を間近にまで近付けるデュレンの目には、普段の冷徹な彼からは想像も付かない明確な殺意が籠っているのが伝わってくる。

 

 

 いずれ気付かれる事になるだろうとは思っていたが、存外鼻が利く物だ。計画の為なら1分の隙すら見逃さない彼の目敏さにある種の尊敬すら覚えて思わず渇いた笑みをこぼしつつ、クレンはデュレンから離れて二人のやり取りを聞き取れず怪訝な顔で立ち尽くすアスカへと歩み寄っていく。

 

 

「クレン?」

 

 

「いやー、参っちゃうよねぇーほんと。あんまりに急過ぎてぶっちゃけ面倒だけど、うちのボスがああ言うんじゃ仕方ない。そういう訳だからアスカ、悪いんだけど僕の代わりにロンドンを見張っててくれるかい?まあついでだし、怪我の静養も兼ねて旅行でもしてくるといいよ。案外いい気分転換になるかもだしさ♪」

 

 

「はあっ?!何言ってんだ!奴らの始末を付けるのは俺の役目だろ!大体、このまま奴等に苦汁を舐めさせられたまま引き下がってなんざ──!」

 

 

「いーからいーから。今は怪我の治療に専念して、後の事は僕に任せときなって。……君が万全でないと、いざって時に君を頼れないだろうからさ……」

 

 

「……何?」

 

 

 顔を逸らし、ボソリと小声で何かを呟いたクレンにアスカが思わず怪訝な口調で聞き返すが、クレンはそれ以上は何も答えず、ただ意味深に微笑を浮かべながらアスカの肩を軽く叩き、そのままアスカの横を通り抜けて歩き出すが、二人に背を向けて歩くその顔は険しげに歪んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

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