戦姫絶唱シンフォギア×MASKED RIDER 『χ』 ~忘却のクロスオーバー~ 作:風人Ⅱ
それから約数十分後……
「──本当にすまない……来て早々驚かせて介護してもらった上に、部屋の掃除まで手伝わせてしまって……」
「いえ。確かにビックリはしましたけど、特に大した事件があった訳じゃなくて安心しましたから」
「というか、事情を聞いて別の意味でビックリしたデスよ……何でこんな子猫一匹に振り回されただけで此処までの惨状になるデスか……」
「な〜う」
そう言って呆れ気味な口調の切歌が腕の中に抱くのは、可愛らしい鳴き声を上げる一匹の黒毛の子猫。
そんな子猫にソファーに腰掛けたまま酷く疲れ切った眼差しを向けつつ、調の手を借りて頭に何重にも白い包帯を巻いてもらいながら蓮夜は深々と溜め息を吐くと、先程まで調と切歌が掃除を手伝ってくれたおかげである程度綺麗になったリビングを見回していく。
「本当なら俺もああなる前に止められてたら良かったんだが……ただ元からの体質と言うべきなのか、どうにも俺は動物に嫌われやすいようでな……単に餌を上げようとしただけでこんなにも暴れ回られるとは……」
はああっ……と、もう一度疲れ切った溜め息を漏らしながら大きく項垂れてしまう蓮夜の姿を見て、切歌と調も何とも言えずただただ微妙な苦笑いを返すしかなかった。
そもそも、何故リビングが彼処まで荒らされまくっていた上に蓮夜があんな血溜まりの中で倒れていたのか。
その経緯を今さっき蓮夜の口から聞かせてもらったのだが、元々この子猫はつい先日に雨の中で打ち捨てられていたところを蓮夜がたまたま発見し、そのまま見捨てる事が出来ずに取り敢えず家で保護する為、ダンボールごと抱えて連れ帰ってきたらしい。
その後は管理人とも要相談し、取り敢えず里親が見つかるまでの間此処に置かせてもらえないかと頼み込み、どうにか了承を得た後は一先ず弱り切っていた子猫の介護に務め、根気強く世話をし続けた甲斐もあって子猫は元気に駆け回れるまでに回復する事が出来た。
……其処まではまだ良かったのだが、問題はその後だった。
元気に走り回れるほど体力を取り戻した途端、子猫は蓮夜の言う事を一切聞かず家中を駆けずり回っては暴れ散らかし、家具は壊すわ、カーテンを引き裂くわ、部屋は汚すわと散々な事態に陥ってしまったのだ。
それをどうにか止めようと餌で釣ったりなど、様々な方法を試して何とか大人しくさせようと試みたものの、子猫は命の恩人への感謝も何処へやら、蓮夜が近寄ろうとするだけでも全身の毛を総立ちさせながら威嚇しまくり、より酷く暴れ回って家の中が更に大変な事になってしまい、遂には手が付けられなくなって調にSOSの電話を掛けて泣き付いたというのが先程彼女に急に連絡を寄越した経緯だったらしい。
「其処まではまだ分からなくもないですけど、でも、其処からどうしてあんな殺人現場みたいな事に……」
「ホントデスよ!最初見た時は本当に事件が起きたかと、もうビックリし過ぎて心臓が止まるかと思ったデス!」
「いや、まあ……それも元々はその猫が原因と言うか……」
まだ二人には話していない、あの血溜まりの中で倒れていたのは一体何があってそうなったのか。問い詰める二人の視線から思わず目を逸らしつつ、蓮夜は渋々とその時の状況を説明し始める。その話を簡潔に纏めると……
調に連絡してる最中、子猫が再び家中を駆けずり回ってリビングを荒らしまくり、何とか大人しくさせようと必死に捕まえようとする。
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長い激闘の末に漸く戸棚の前にまで追い込むが、子猫が諦め悪く真横へ逃げようとした際、誤って戸棚にぶつかって戸棚の上に置かれていたアンティークのツボが落ちてしまい、危うく子猫の上に直撃しそうになる。
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それを見て慌ててヘッドスライディングで子猫の下へ飛び込みながら力加減を考えず、全力で下からツボをハタいて天井にぶつかるほどの勢いで打ち上げるが、いきなり飛び掛かってきた蓮夜に驚いた子猫が跳び上がって蓮夜の頭を踏み台にそのまま何処かへ逃げ出す。
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そのせいで地べたに押し込まれて起き上がるのに遅れた蓮夜の頭の上に、蓮夜の馬鹿力で天井にぶつかり勢いよく跳ね返った頑丈なツボが見事に彼の頭にクリティカルヒットし、あまりの威力にツボも木っ端微塵。
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その後は気を失い、切歌と調が駆け付けた頃には先程二人が目にした殺人現場のような悲惨な状態になってたらしく、目を覚ましてから漸く其処で自分がそんな状態になっていて怪我を負ってた事にも初めて気が付いたらしい。
「──とまぁ、お前達が来るまでの間にそんなこんながあった訳で……」
「どんな奇跡的なハプニングデスかそれ……下手なコント職人でも狙ってやれるもんじゃないデスよ……」
「流血沙汰にもなってるし、あんまり笑えるアクシデントでもないね……」
ともかく大体の事情は把握した。ようするに今回の騒動は単なる蓮夜のドジと、この悪戯猫の馬鹿げたドタバタ騒ぎが原因だったのかと納得し、呆れ気味に揃って溜め息を吐く切歌と調を交互に見ながら蓮夜も申し訳なさそうに項垂れた。
「なんというか……無駄に騒ぎを起こしてしまって悪かったな……二人にも迷惑を掛けてしまって……」
「いえ、そんなに気にしないで下さい。心配はしたけど蓮夜さんも無事だったし、別に悪気があった訳じゃないのもちゃんと分かってますから」
「デスねぇ。それに、こーんな可愛いペットに触れ合えるだけで掃除の疲れなんか軽く吹っ飛んじゃうデス!せっかくデスから、このままこの子を家で買っちゃっても良いのではないデスか?」
「いや、それは……」
「切ちゃん……この家の有り様を考えたら、蓮夜さんにその子のお世話を任せるのはあまりに酷だと思う……」
「え……あー……」
何とも言い辛そうな調のその言葉で、未だ子猫が派手に暴れ回った痕跡があちこちに残るリビングや、顔や手などに引っ掻き傷が残る蓮夜の痛々しい姿を見て自分がどれだけ無茶な事を言っているのか自覚したのか、切歌はあからさまに目を泳がせながら口を詰むんでしまう。
そんな二人の反応に複雑げに笑いつつ、蓮夜はソファーから徐に腰を上げてリビングのテーブルの上に散らばる無数のチラシ……子猫の貰い手を募集する張り紙の一枚を手に取っていく。
「これだけ嫌われているようだし、出来ればもっとマシな飼い主を早くに見付けてストレスのない環境で良い暮らしをさせてやりたい所なんだが、まだ募集をし始めたばかりで未だに連絡の一つもなくてな……一体どうしたものかと、そっちの方でも頭を悩やませてたところだ……」
「ううむ……それは確かに中々にむつかしい問題なのデス……あ、それなら同じマンションの住人の誰かに頼んでみるってのはどうデスか?!片っ端からインターフォンを押しまくって、かわいい子猫の押し売り営業デス!」
「切ちゃん、それ普通に迷惑行為だから……」
「そもそも、うちのマンションはペットを飼うのは厳密には禁止されているんだ。さっきも話した通り、管理人にもソイツを置かせてもらうのに結構な無理を言って、次の里親が見つかる間までならとかなり譲歩してもらったしな……」
「あうっ、そうでしたかぁ……だとしたら、ウーン……ウーーンっ……参ったデス、中々妙案が思い付かないデスよ……」
「こればっかりは流石に、私達の力だけじゃどうにもないだろうしね……出来る事があるとすれば、蓮夜さんを手伝って地道にチラシを貼って回るか、もしくは人に配って回るかしか思い付かないし……」
「既に何枚かの募集のチラシを近隣にも許可を得て貼らせてもらってはいるんだが、それも人の目にどれだけ留まってくれるかだな……運良く猫を飼いたいと思ってる都合のいい人間が現れてくれるか否か、後は天運次第って所か……」
「天運……」
こしょこしょこしょと、切歌の手から離れて床に腹を見せて寝っ転がる子猫の腹を無表情でくすぐっていた調が、不意に何かを思い付いたように子猫を腕の中に抱きながら立ち上がり、二人の方に振り返る。
「だったら、今からお参りにでも行きませんか?この子の新しい飼い主さんが、早く見付けられますようにって願掛けに」
「?お参り……?」
「ちょうど私達が知ってる神社があるんです。それに確か、彼処には案内掲示板も近くにあった筈だから、そこの宮司さんにお願いすれば張り紙を貼らせてもらえるかもしれないです。参拝に足を運ぶお客さんも沢山いるだろうから、人の目にも留まりやすいかもしれないし」
「アタシ達の知ってる神社って……ああ、もしかして!」
「うん──"調神社"。前に私達がお世話になった、あの神社だよ」